6 ジャイアントソルジャー
近藤がまだ幼かったころ、大好きだったヒーローがいる。
ジャイアントソルジャーと呼ばれたそのヒーローは、迷彩柄のプロテクターを身に着けた勇敢な戦士。
頭をすっぽりと覆うヘルメットから瞳だけを覗かせて、拳銃や日本刀を武器に怪人たちと戦う。
まるで忍者のような身のこなし。
疾風のように戦いの場に現れて、電光石火の勢いで敵を打ち倒し、何も言わずに去っていく。
その姿にあこがれを抱いた近藤は、当時まだ10歳にも満たなかった。
ジャイアントソルジャーが大好きで、大好きで。
グッズを買って欲しいとよく親にねだったものだ。
悪の組織が世界中にはびこっていたその時代を、今の人たちは暗黒時代と呼んだりする。
だが、近藤にとってはヒーロー黄金期。
数々の英雄たちが活躍する夢のような時代。
ジャイアントソルジャーはその中でも特別だった。
悪の組織は銀行強盗や誘拐、詐欺に恐喝などで金を稼いでいる。
中にはグッズ販売などをして地道に資金調達していた組織もあったが、やはり悪の組織らしく悪事を働く者たちが多い。
マントイーターは特に凶悪であることで知られ、数多くの犠牲を出していた。
ヒーローも政府と協力しながらその組織の撲滅に力を注いでいたのだが……。
近藤はマントイーターによって誘拐されてしまった。
それを救い出したのが、ほかならぬジャイアントソルジャーだったのだ。
「…………」
実家に帰った近藤は、物置になっていた自分の部屋で寝転んで天井を見上げる。
高齢になった母は何も聞かずに迎え入れてくれた。
父の遺影に手を合わせたあと、何をするでもなく無駄に時間を潰している。
近藤の部屋に飾ってあったジャイアントソルジャーのフィギュアは今でも棚に飾ったまま。
しかし、それ以外の私物はほぼ全て処分している。
置いてあったものを部屋から出すと、何もない空虚な埃臭いだけの空間になる。
ここは俺の居場所ではない。
そう思いながらも、どこかへ出かける気にはなれなかった。
地元の友人に会おうと声をかける気にもならない。
「はぁ……」
ため息をつきながらスマホの画面を眺める。
すると、とんでもない記事が目に飛び込んできた。
『グラットニー グレイトアッシュに宣戦布告。
次の標的は絶対無敗。
負け犬にもなれずに逃亡したお前を、
俺は絶対に逃がさない』
いったいどういうことだと目を凝らして記事を読んでいると、母の呼び声が聞こえてきた。
「四郎、お客さんだよ」
嫌な予感がした。
慌てて玄関へと向かう。
そこには……。
「よぉ……探したぜ、絶対無敗さま」
グラットニーが玄関の扉の前に立っていたのだ。