4 故郷へ
単車に乗って故郷へと凱旋する近藤。
しかし、彼を迎え入れるものは一人もいない。
かつての絶対無敗の名はすっかりかすんでしまった。
今の彼の二つ名は雑魚狩り専門。
世間をにぎわせたのも昔の話。
高速を降りて最寄りのコンビニに寄った近藤は、すっかり様変わりした故郷に目を白黒させる。
インターチェンジが新しく開設されたことで、物流の拠点となった故郷には次々と工場や倉庫が建設され、見違えるように発展していた。
見渡す限り田園風景が続いていた国道沿いには、たくさんの商業施設が立ち並ぶ。背の高いマンションも見える。車の数も段違いに多い。
よく利用していた個人経営の商店は軒並み閉店しており、大手のフランチャイズ店に置き換わっている。
なじみの店で生き残っているのはほんの数店。
近藤は昔馴染みのソバ屋に単車を停めて、恐る恐る入店する。
照明が灯されていない薄暗い店内には年老いた夫婦が一組だけ。
まるで葬式会場のように静まり返っている。
断りもなく席に着きメニューを見ていると、後から幼い男の子を連れた女性が入店してきた。
「おじいちゃん! おばあちゃん!」
先に入店していた夫婦の元へ駆け寄っていく男の子。
どうやら他の街から祖父母に会いに来たようだ。
「久しぶりだねぇ」
「大きくなったねぇ」
笑顔で男の子を迎え入れる老夫婦。
後から来た女性は二人の所へ来て、ぺこぺこと頭を下げる。
どうやら義理の両親らしい。
老夫婦は女性に早く座ってとねぎらいの声をかけ、店の奥へお茶を取りに行く。
ここでようやく店主が顔を出した。
「……あっ」
俺を見て固まる店主。
どうやら誰なのか分かったらしい。
「もしかして……近藤さんちの?」
「はい、ご無沙汰しております」
「そっか……帰ってきたのかぁ……」
近藤の帰郷を喜ぶでもなく、微妙な反応。
これが今の自分に対する評価なのだと、まざまざと現実を突きつけられる。
「誰なのぉ?」
男の子は怪訝そうな顔をして近藤を見上げる。
「おっ……おじさんはね……ヒーローなんだ」
「本当なのぉ?」
「ああ、本当さ」
「嘘だぁ」
男の子の無邪気な言葉に胸が痛む。
だが……しかたあるまい。
近藤はここ最近、まともに戦っていない。
戦う相手は雑魚ばかり。
メディアへの露出も年々減少。
素顔の彼を知る者は限られている。
このまま忘れ去られるのも時間の問題。
幼い男の子が彼の名を知るはずもない。
「まぁ……ゆっくりしていってくれよ」
恰幅のよい禿げ頭の店主はお茶と湯飲みを乗せたお盆を老夫婦の座るテーブルに置こうとする。
と、その時、不意に男の子がお盆に手を伸ばした。
「僕がやる!」
「あっ、待って!」
店主が止める間もなく、男の子はお盆に手を伸ばした。
不意に力が加わったことでバランスを崩す店主。
お茶を大量に入れた急須が転がり落ちて行く。
「危ない!」
近藤はとっさに男の子をかばった。