21 やりすぎな二人
「まーた滅茶苦茶にしちゃってぇ!
どうすんすかこれ! どうすんすか!」
覗き魔が怒りながら燃え盛る倉庫を指さす。
先ほど消防隊が消火を始め、辺りはものものしい雰囲気に包まれている。
敵のヒーローを確保する部隊も到着した。
「どうもこうも、これから先は役人の仕事だろ。
俺たちの領分じゃねぇんだよ」
「グラットニーの言う通りだな。
さっさと撤収しようぜ、撤収~」
「あっ……あんたたち……」
呆れすぎて言葉も出ないのか、わなわなと肩を震わせる覗き魔。
ちなみに彼のヒーローネームは『タートル・トム』と言う。
「あんたたちみたいなのが、やりたい放題やるから……。
俺たちの評判までどんどん下がって……。
二課は恥さらしの落ちこぼれ集団だなんて言われるんだぁ!」
覗き魔の言葉に、うんうんと頷く他の仲間たち。
一課はエリートで構成される集団。
政府要人の警護や重要任務を任されている。
対して二課はエリート入りできなかったヒーローたちで作られる、落ちこぼれ集団。
近藤とグラットニーもそこへ配属された。
「おいおい……言ってくれるじゃねぇか」
「まて、グラットニー」
「でもよぉ……」
「いいから、黙って聞いとけ」
前に出ようとしたグラットニーを手で押さえて、近藤は真剣な顔つきで言う。
「確かにお前たちの言い分も分かる。
だが……俺が二課へ配属されるまで、お前らはどうしてた?
一課に良いように顎で使われて、へこへこ頭を下げてただろ」
「それは……俺たちの実力が……」
「分かってんなら努力しろよ。
少なくとも、いっぱしに敵と戦えるようになれば、
一課の連中にでかい顔をされなくて済むんだ。
毎日のトレーニングは欠かさずにやってるのか?」
「いっ……いや……」
バツが悪そうに眼を背ける一同。
何も反論できないでいる。
「またですかぁ……こんな風に派手にやられると困るのですがね」
騒ぎを聞きつけてやってきたのか、組織のナンバーツーである三柳が現れた。
常にビジネススーツで現れる前髪が以上に長いニヒルな男。
「近藤さぁん……そろそろ大人しくしてくれませんかね。
あなた方のおかげで秘密裏に結成した組織が、
いまや公のものとなってしまった。
本当に困るのですが……」
「悪人を裁くのに自分たちの存在を秘密にする必要なんてないだろ」
「そうはおっしゃりますがね。
世間での評判もありますし、控えて頂かないとこまるのですよ」
「世間での評判ねぇ……」
近藤はやれやれとかぶりを振ったあと三柳を睨みつける。
「評判が落ちなければ、何人死んでもいいと?」
「それは……」
近藤が配属される前、二課のヒーローは作戦を実行に移すたびに死者を出していた。
一課が作戦を遂行する際に囮として使われたり、無謀な作戦に肉壁として投入されたりと、散々な扱いであった。
それを止めるために、あえて派手な戦い方をして世間に組織の存在を無理やり認知させた。
近藤が来てから二課の死亡者はゼロである。
「文句があるなら長官に言ってくれ。
俺たちはこの後、仕事があるから失礼する」
「ふんっ……これ以上、立場が悪くならないよう、
せいぜい気を付けて下さいね!」
憎まれ口をたたく三柳を無視して、二人は乗って来た軽トラに乗り込む。
炎上する倉庫が真っ暗な闇をどこまでも照らしていた。