2 世代交代
「まぁまぁですね」
対戦後の所感を尋ねられた近藤は無難に答える。
リングから降りた彼はヒーローの装束をまとっている。
白い色を基調としたプロテクターとスーツ。
そして口元だけを隠した仮面。
首には黄色いスカーフ。
ちょっと古いデザインだが本人は気に入っている。
このスーツに特別な力などなく、近藤は授かった超人的な力のみで戦っている。
たいていのヒーローはスーツの力に頼らないが、たまにスーツの力ありきで戦いに参加する者もいる。
今回の対戦相手である新人がそうだった。
新人は超人的な力を持たない一般人。
プロの格闘家ではあったが、超人的な力を身に着けたヒーローとはわけが違う。
スーツの機能は所詮科学の力に頼ったものでしかない。
行動パターンの把握が容易だし、何より超人の力に腕力で勝てないのだ。
ヒーローたちはある日突然、力に目覚める。
近藤の場合もそうだった。
ヒーローを目指してトレーニングを積んでいた彼は、何の前触れもなくこの力を手に入れた。
超人的な力を得た彼は自前のスーツを着て怪人たちに戦いを挑み、連戦勝利を収める。
彼は自分が特別な存在になったと思っていたし、実際にその通りだった。
怪人たちとの戦いに敗北したことは一度もない。
どんな時も恐れずに果敢に戦いを挑んだ。
しかし……ヒーローとの戦いは別。
彼らは自分とは違った超人的な力を持つ存在なので、必ず勝てるとは限らない。
特殊なスーツの力を借りて戦う者もいるが、バトキンに参加する者の中には養殖(スーツの力で戦う人たちのこと)でない者もいる。
悪の組織が滅んだ後も、超人的な力に目覚めた者たちがいるのだ。
人々は彼らを新世代と呼んだ。
悪の組織が滅んだ後に誕生した超人的な力を持つヒーローのことだ。
彼らは現役世代の戦いを知らない。
故に無謀で、かつ遠慮がない。
バトキンのリングに立った彼らは、時折ヒールのようにふるまい、かつての英雄たちを駆逐していく。
共に戦った仲間たちが何人も新世代の餌食となっている。
近藤もそんな新世代の存在を恐れている。
彼らとの戦いは極力避け、新人潰しに躍起になっていた。
「ありがとうございました!」
薄いピンクの口紅を塗った女性インタビュアーが一礼して近藤の元を去ると同時に、彼を撮っていたカメラはすぐに別の方向へと向けられる。
その先には今注目のヒーローであるグラットニーがいた。
暴食の二つ名を持つグラットニーは、ヒーローらしくない風体の男。
紫色のスーツにとげのついた肩パッド。
そして金髪のモヒカンという、いかにも悪役のような見た目。
まるでかつて戦った怪人たちのよう。
「ひゃはははは! 今日の生贄は誰だぁ!」
耳障りな高笑いをするグラットニー。
彼の存在を疎ましく思う近藤。
できるだけ関わりたくない相手である。
足早に会場を後にする近藤。
その背後からは観客の下劣な声援が聞こえる。
対戦相手を徹底的に打ちのめすグラットニーに狂乱しているのだ。
耳を塞ぎたくなるような気持で帰路についた。




