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18 父と子

 ジャイアントソルジャーはグラットニーの父親。

 彼は間違いなく、ハッキリとそう言った。


「まっ……マジなのか?」

「ああ、本当だ。

 親父が死んじまった時は、俺はまだおふくろの腹の中にいた。

 物心ついたころからずっと親父の話を聞かされてな」

「おふくろさんから?」


 グラットニーは小さく頷く。


「俺は親父のような立派なヒーローになれと、

 いろんな奴から言われて育てられた。

 その期待に応えようとトレーニングを積んだが、

 なかなか力に目覚めなかった。

 『祝福』を受けた時はホッとしたよ」


 世間では超人的な力を授かることを『祝福』と呼んだりする。


「ヒーローになってからも大変だった。

 勝たなくちゃ、勝たなくちゃ。

 負けたらダメだ、逃げたらダメだ。

 ずっと自分で自分を責め続けたよ」


 偉大な父親を持つと子供は苦労すると言うが、まさにそれを証明する存在が近藤の目の前にいる。


 ジャイアントソルジャーは国民的な英雄だった。

 そんな彼を父親に持つグラットニーは、さぞかし辛い思いをしたことだろう。

 世間からは負けなしのヒールとして恐れられる彼も、人には話せないような悩みを抱えていたわけだ。


 少しだけ親近感がわく。


「親父に助けられて立派なヒーローになったアンタを、

 俺は心の底からリスペクトしてた。

 だから……落ちぶれて行くアンタの姿を見たくなかった」


 発破をかけるための挑戦でもあったわけか。

 なるほどと、近藤は心のなかで頷く。


「俺がジャイアントソルジャーに助けられたって話はどこから?」

「これだよ」


 グラットニーは昔の雑誌を差し出す。


 すっかり日焼けして色あせており、冊子も擦り切れてボロボロ。

 かろうじて雑誌名と表紙に写ったヒーローの姿だけが判別できる。


 写っているのは紛れもなく近藤自身。


「これにアンタのインタビュー記事が載ってる。

 そこで親父との関係について語ってるぜ」

「……本当か?」


 近藤はすっかり忘れていた。

 取材なんて何度も受けたし、いつどこでどの出版社からなんて覚えていない。


 パラパラとページをめくると、若かりし頃の自分の写真とインタビュー記事が掲載されていた。そこには確かに、ジャイアントソルジャーについての思い出を語った近藤の言葉が記されている。


「間違いないな……俺の記事だ。

 こんな取材、受けてたんだなぁ」

「覚えてないのか?」

「取材なんて星の数ほど受けたもんでな」

「そうか……人気者は大変だな」


 彼が近藤に固執していたのは父親が命と引き換えに救った子供だったから。

 意外に思うと同時に、因縁めいたものを感じる。


 雑誌をグラットニーへと返すと、彼は食い気味に尋ねてきた。


「それで……返事は?」


 少し考えさせてくれ――と言いたいところだが、そうもいかない。


 せっかく巡って来たチャンスなのだ。

 この機会を絶対に逃したくない。


「もちろん引き受けるさ。

 よろしくな、相棒」


 そう言って近藤が右手を差し出すと、グラットニーはその手を見つめたまま動かなくなる。


「なんだ……どうした?」

「いや……その……俺……ずっとアンタにあこがれてて……。

 こんな風に一緒に戦えるなんて……その……嬉しくて……」


 ぽろぽろと涙をこぼすグラットニー。

 大して年も変わらないその青年を、近藤はどういうわけか可愛く思ってしまった。


 息子が大人になっても、こんな風に可愛く思えるのだろうか?


「よっ……よろしくお願いします!」

「ああ……こちらこそ」


 二人の男が握手を交わす。

 近藤は彼の手に、かつてのジャイアントソルジャーと同じ頼もしさを感じた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] グラットニーーーーーーーーー! いいやつ………っ!(←単純) 不良かと思ったけど、根はまっすぐでイイヤツキャラに弱いので、たらこ様の手の上でゴロンゴロンに転がされております♡
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