17 卑怯な男
近藤は「勝てばよかろうなのだ」の精神で卑怯な戦術を使いまくった。
爆弾を満載したトラックを敵の本拠地に突っ込んで爆破したり、敵をトラップだらけの場所におびき寄せて罠にはめたりと、正攻法とはとても呼べない戦術で怪人たちを撃破。
凶悪なことで知られるマントイーターに対しては徹底的に卑怯な戦法で戦いを挑んだ。
まず近藤はアジトに数日間にわたって潜伏して幹部たちを暗殺。
組織力を大幅に低下させてから戦闘員の食事に超強力下剤を混入したり、送電設備を破壊したり、便所を詰まらせたりと、やりたい放題。
最後は超強力な異臭ガスを散布して、逃げ出す敵を一人ずつ倒して殲滅する。
世間ではあたかも彼が真正面から戦ってマントイーターを壊滅させたかのように言われているが、実のところ全くそんなことはない。
その裏では誰もがドン引きするような外道戦術を用いていたのである。
「そうか……大変だったな」
そんな事実を一言も話さずに、グラットニーの話に相槌を打つ近藤。
余計なことを話さないのもヒーローの鉄則である。
「ああ……思い出したくもない。
寄ってたかって俺をリンチする怪人どもの笑い声が、
今でも夢の中で聞こえるんだ」
……トラウマになっているのか。
かわいそうに。
近藤は隣に座る男を哀れに思う。
「正直言って……また実戦に出るのが怖い。
リングの上で粋がっていられても、
現場では同じようにはいかないからな……」
「それで、俺の力が借りたいと?」
「ああ、絶対無敗とうわたわれたアンタなら、
俺に実戦での戦い方を教えてくれると思ってな……」
「だったら最初からそう言えばよかったじゃないか」
「はんっ!」
近藤の言葉に鼻を鳴らすグラットニー。
「どうせ断っただろうが。
それに、雑魚ばっかり相手にしていたアンタが、
今もまだ実戦で戦えるか分からないしな」
「それで……俺を試したのか?」
「そうだ」
つまりあの戦いはテストでもあったのだ。
近藤が実戦で使い物になるかどうかの。
「あんたはどんなにボロボロになっても、
何度も立ち上がって俺に戦いを挑んできた。
あれこそがヒーローの姿なんだって、
心の底から思い知らされたぜ」
「随分と買ってくれてるんだな、俺のことを」
「あの試合を見たら誰だってそう思うぜ。
見ろよ……これを」
そう言ってスマホの画面を近藤へと向けるグラットニー。
SNSに書き込まれた近藤の戦いぶりを賞賛する言葉。
数えきれないくらい大勢の人が彼の健闘を称えている。
「もう誰もアンタを雑魚狩り専門だなんて呼ばないはずだぜ」
グラットニーは嬉しそうに画面を見つめながら言う。
「そうか……これからは期待に応えないといけないな」
「え? じゃぁ……」
「待ってくれ。話はまだ終わってない。
最初に俺と戦った理由は二つあるって言ったよな?
一つは勧誘の為として、そのもう一つの理由を聞かせてくれ」
「ああ……分かった」
グラットニーは決意のこもった表情で近藤を見つめる。
「ジャイアントソルジャーは俺の父親だ」
「……え?」




