表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/22

14 君が夢を捨てなければ

 降りしきり雨。

 流れる血潮。

 町はずれにある廃工場。


 幼い近藤は倒れて動かなくなったジャイアントソルジャーの身体をさする。


「大丈夫⁉ 死なないで!」


 必死に呼びかけるが、ジャイアントソルジャーはまともに返事もできない。


「ぐわああああああ!」


 遅れて駆け付けた仲間たちの手によって、怪人たちが倒されていく。

 ジャイアントソルジャーは一人で複数の敵を相手に戦い、近藤を守ったのだ。


 彼が戦っている間、近藤は祈り続けた。

 奇跡よ起これと。


 無論、何処にいるかも分からぬ神がそう簡単に願いを聞き入れるはずもなく、ジャイアントソルジャーは力尽きてしまう。


「四郎君……どうか……俺の手を握ってくれないか」

「……うん」


 言われたとおりにジャイアントソルジャーの両手を握りしめる近藤。


「君は確か……ヒーローになりたいって……言っていたね」

「うん……僕もジャイアントみたいに立派なヒーローになれるかな」

「ああ……なれるさ……きっと。君が夢を捨てなければ……」


 それが最後の言葉だったと思う。


 近藤に看取られながら、ジャイアントソルジャーは命を落とした。

 民衆が一人の英雄を失った瞬間だった。


 奇跡など起こるはずもないのだ。






「なぁ……まだやるつもりなのかよ?」


 呆れ気味にグラットニーが言う。


 近藤はハンドレッドクラッシュをすでに何回も発動している。

 その全てをグラットニーは受け止めたが、まったく倒れる気配がない。


「もっ……もう一回……もう一回だ……」


 必殺技を発動するたびに反撃をくらい、ボロボロになった近藤。

 いくら回復能力があるとはいえ、こう何度も致命的な一撃を食らったらタダでは済まない。


「もう止めとけ、お前は負けたんだよ」

「おっ……俺は……負けてない。まだ……」


 よろよろと立ち上がる近藤。

 ぽつぽつと雨が降り始めた。


「あの時……ジャイアントソルジャーはあきらめなかった。

 俺を……俺を守ろうと必死になって……。

 仲間が駆けつけるまで……ずっと戦い続けて……」

「昔話はよしてくれ。

 年寄りの昔話ほど退屈なものはない」

「だから……俺も……俺もぉ!」

「うぜぇんだよぉ!」


 グラットニーの右ストレートがさく裂する。

 リングロープまで吹っ飛ばされた近藤だが、何とか両足を踏ん張ってこらえた。


「俺は……俺はまだ……負けてない。

 まだ……まだ諦めてない!」

「だったらなんだってんだ。

 今から俺に逆転できるってのか?

 無理だろ、絶対に」

「無理じゃない! 俺はやれる!」


 震える腕でファイティングポーズを構える。


 怖くて震えているんじゃない。

 心が勇み立って震えているんだ。


 思えば最初に怪人と戦った時も、こんな風にボロボロになっていた。

 絶対にあきらめないと何度も立ち上がって戦いを挑んで初白星を挙げたんだっけ。

 それから一度も負けることなく、どんな敵にもしつこく食らいついて……勝利した。


 だから……。


「俺は……俺は負けちゃいけないんだよ!

 俺に期待してくれる人達のために……

 絶対無敗の俺の二つ名に希望を見出した人たちのために。

 俺は……絶対に負けちゃいけないんだっ!」


 そう言いながらも、グラットニーに勝てない事実を近藤は心の中で認めている。

 何があっても逆転は不可能だろう。


 それでも抗い続けなければならない。

 無様に降伏なんてしてはダメだ。


 あの日のジャイアントソルジャーのように、俺の勝利を信じている人のために戦うのだ。

 たとえそれが、たった一人の子供だけだったとしても。


「グレイトアッシュ! 負けるなー!」

「がんばれ! アッシュ!」

「あきらめないで!」


 観客席から声援が聞こえる。


 一人や二人じゃない。

 ここに集まった人たちの中に俺を応援してくれる人がいる。


 近藤はこみあげる嗚咽をかみ殺しながら、目の前の敵を睨みつける。

 グラットニーは呑気に会場を見渡していた。


「聞こえるか……この声がよ」


 グラットニーが声のトーンを落として言う。


「逃げ続けていたら、この声も聞こえなかったはずだぜ。

 この声は間違いなく今のアンタに向けられたものだ。

 絶対無敗のグレイトアッシュではなく、

 しつこく抗い続けるアンタの勝利を誰もが願ってるんだよ」

「お前……何を……」

「さぁ、最後の力を振り絞って必殺技を使ってみろよ。

 もしかしたら奇跡が起こるかもしれないぞ」

「…………」


 近藤は拳を握りしめる。


 最後の最後で、もしかしたら……奇跡が起こるかもしれない。

 そう信じて最後まで戦い続けるのだ。


 たとえそれが……無様な結果に終わったとしても。


 奴を倒せ。

 絶対にあきらめるな。


 最後の最後まで……絶対に。



「ハンドレッドクラッシュ!」



 近藤の声が開場にこだまする。

 燃え盛る拳がグラットニーの胸をとらえる。


 ……が。


「ここまで……だな」


 グラットニーの胸から黒煙が上がる。

 しかし、奴は平然と立っていた。


「だが、あきらめるにはまだ早い。

 これからもヒーローとして戦い続けろ。

 それがお前の使命なんだろ。

 とりあえず今は、眠っとけ」


 次の瞬間、強い衝撃を受けて近藤の意識が途絶えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ