13 鉄壁
何が起こったのか分からなかった。
気づいたらリングに這いつくばっていた。
「おいおい、たった一撃でそれかよ」
先ほど必殺技をお見舞いしたはずなのに、グラットニーはぴんぴんしている。
「忘れたか?
どんな攻撃でも防げる『鉄壁』
それが俺の能力だ」
誇らしげに語るグラットニー。
確かに奴は防御力が高いことで有名。
だが……ハンドレッドクラッシュが効かないとは……奴の防御力は想定以上だ。
「立てよ、負け犬。待ってやるから」
小ばかにしたように笑うグラットニーを前に、やっとの思いで立ち上がる近藤だが、今の一撃でかなりのダメージを負った。
「おらよっ!」
強烈な前蹴りをくらい、再び吹っ飛ばされる。
無様にリングを転がる近藤。
それから何度も立ち上がっては殴り飛ばされ、蹴り飛ばされを繰り返し、ボロボロの状態に。
体力の回復も追いつかない。
俺……何でこんなことしてるんだろう?
今の自分の状態に疑問を覚える。
どうして逃げ出さなかったのか?
勝てると思ったのか?
万が一にも奇跡が起こるとでも?
そんなことありえないと、最初から分かっていたはずなのに。
「どうした……もう終わりか?」
近藤の傍まで歩み寄ってきたグラットニーが言う。
とどめを刺すつもりはないのか。
もう……終わりにしてくれ。
「まじかぁ……弱すぎるだろ」
「あれ、もう終わりッスか?」
「うわぁ、つまんね」
観客席からあざ笑うような声が聞こえる。
きっと幻聴ではないはずだ。
無様に逃げ回って絶対無敗の二つ名を守り続けた哀れなヒーローに、誰もが失望を隠せない。
「負けるなあああああ! 頑張れえええええええ!」
幼い男の子の声が聞こえる。
あの声は……タイチ君の声だ。
試合を見に来てくれたのか。
声の主であるタイチ君を探すが……何処にいるのか分からない。
ようやく身体を起こしてリングロープにもたれかかると、観客の視線が自分へと向けられていることに気づく。
近藤が戦い続けると思っているのか、席を立つ者は一人もいない。
まだ……まだ終わっていない。
ここで終わりにしたら、本当にただの負け犬になってしまう。
だから……。
「もっ……もう一度……俺の必殺技を食らわせてやる」
「いいぜ、来いよ」
近藤が宣言すると、グラットニーは自分の方へ来るように示す仕草を両手でする。
あともう一発食らわせたら……もしかしたら……。
「ハンドレッドクラッシュ!」
ありったけの力を振り絞って発動した必殺技。
この技がグラットニーの装甲を貫けないことを近藤は知っている。
奇跡なんて起こらないことも、起死回生の一発なんてありえないことも、知っているのだ。
あの時もそうだったのだから。




