11 違和感
意外にも、緒戦は近藤が有利に戦いを進めた。
グラットニーは大ぶりの攻撃を繰り返すばかり。
冷静に動きを読めば簡単にかわせる。
反撃でボディに拳を食い込ませると、相手は苦しそうに口元をゆがませた。
なんだ……この体たらく。
いつのもグラットニーらしくない。
奴は敵に突っ込んで力で圧倒する戦闘スタイルを主としている。
試合が始まると同時にできるだけ距離をつめて、相手に組み付くのだ。
その間、何度相手が攻撃しようと全てひるむことなく受け止め、じわじわと追い詰めていく。
組み付いたら最後、押し倒して絞め技で落としたり、マウントをとってボコボコにしたりと、勝負がつくまで相手を逃がさない。
しまいには気絶した対戦相手をリング外へ放り投げたりするなど、過激なパフォーマンスで観客を沸かせる。
まさにヒールそのものと言った戦闘スタイルだが、これがなかなかに強い。
どんなに屈強なヒーローであっても奴の力の前には歯が立たないのだ。
『暴食』の二つ名は伊達ではない。
突進を警戒した近藤は、相手が行動するまで動かないことにした。
しかし、グラットニーは突撃してくることなく、普通にパンチやキックを繰り出してくるばかり。
得意の組み付き攻撃を仕掛けてくる気配はない。
近藤の俊敏さに追いつけていないというのもあるが、どうも違和感がぬぐえない。
奴は手加減をしているのだろうか?
そんな疑念が頭をもたげた時、ついにグラットニーが攻勢に転じる。
「行くぞおおおおおおおおおおお!」
リング脇まで距離を開けたグラットニーは、リングロープの反動を利用して加速。
一気に近藤の所まで距離をつめてラリアットを仕掛けてくる。
落ち着いて対処すれば問題ないはずだ。
近藤は勢いよく飛び上がると、グラットニーの頭部に手をついてハンドスプリングの要領で宙を舞う。
難なく攻撃をかわしたことで観客席からは歓声が沸いた。
「へっ、ちょこまかとすばしっこい」
そう言ってつばを吐くグラットニーだが、どうも変だ。
奴はこうなることを予想できたはずだ。
あんな分かりやすい予備動作をとれば、こちらに対応する余裕を与えてしまう。
本来であれば、がつがつと相手を責め立てて、攻撃を避ける隙すら与えないはずなのに。
いつもの彼らしくない。
「そんな攻撃、簡単にかわせる。
俺が普段、どんなふうに戦ってるか知ってるはずだろ?」
「ふん……」
近藤の問いに、グラットニーは答えない。
奴が何をたくらんでいるのか分からないが、攻める気がないのであれば、こちらにも考えがある。
必殺技をお見舞いしてやるのだ。