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10 昔はよかった

 控室で着替えを済ませる。


 ここへ来るまでグラットニーとはほとんどなにも話さなかった。

 特に何か話すようなことも思い浮かばなかったが……本音を言うと、怖かった。


 強がれば馬鹿にされ、弱気になれば見下される。

 今の自分には何を言っても説得力がない。


 近藤は自分の立場をよく理解している。


 今から行われるのはヒーローたちの戦いではない。

 一方的に蹂躙される公開処刑だ。

 誰も近藤の勝利など望んでいない。


 暴食グラットニーによる、盛大な老害ヒーローの処刑。

 その惨状を観客たちは心待ちにしているのだ。


 握手を求めて来た若者たちは、近藤のことなど視野に入っていなかった。

 彼らが見ているのはカメラに映る自分自身。

 そしてグラットニーをはじめとする現役で活躍するヒーローたち。

 グレイトアッシュのことなど、どうでもいいのだ。


 人は常に新しい物を求める。


 古い物には興味を示さない。

 最新の流行にあこがれて、昔を思いしのぶのは年寄りばかり。


 いつからか、昔はよかったなどと心の中で呟いている自分がいた。

 それがいつなのか明確には覚えていない。

 だが……間違いなく近藤は今、悪の組織が存在していたあの頃を懐かしんでいる。

 ヒーローにとっての黄金時代を……。






 控室を出て特設ステージへと向かう。


 市民球場のど真ん中に設営されたリングの上に立つグラットニー。

 観客席には人が満員。

 報道陣の姿も見える。


 物々しい雰囲気の中、セコンドもつけずに一人リングへと向かう近藤。


 体が震える。

 足がすくむ。

 歩いているだけでもやっとだ。


 近藤がやっとの思いでリングに昇ると、わっと歓声が沸き起こった。

 はす向かいに立つグラットニーがにやりと笑う。


「ようやくお出ましだな、グレイトアッシュ。

 まずは逃げなかったことを褒めてやろう。

 負け犬にすらなれない奴に、

 ヒーローを名乗る資格はないからな」

「…………」


 グラットニーの言う通り、近藤は負け犬にすらなれないところだった。

 ここ数日のところ、彼はひたすら逃げることばかりを考え、何とか対戦を避けられないものかと頭を悩ませていた。


 だが……もう逃げないと決めた。

 成り行きではあるが戦うと決意したのだ。


 絶対無敗のヒーロー。

 今日、この試合に決着がついた瞬間に、その名は死ぬのだ。



『かんっ!』



 戦いのゴングが鳴る。


 ファイティングポーズを構える両手に力を込めた。

 足はまだ震えている。

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