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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第二章 下積
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§005 異世界

心地良い風が肌に当たる。

と言うよりも少し汗ばむ位に暑い。


目が覚めると、小高い丘の上に1本だけある木の袂で横になっていた。

崖と言う程も無い斜面の先には小さな村が見渡せる。

家の数が10・・・5位か、40人程度が暮らす農村のようだ。

家以外は畑で、近くに森は無い。


こんな所でスタートなのか。

ちょっと無防備過ぎやしないか?


兎に角、襲われるような場所で無くて助かった。

転移直後に追い剥ぎにあって何もかも失う・・・。

出落ちにならなくて本当に良かった。


ただでさえ少し暑めの気温に、嫌な汗が出た。

南寄りの地方なのだろうか、日は高く、影は真っ直ぐだ。

ここは自宅近くの丘では無い事が明白なので、

転移は成功したのだと言う確証を持った。



  ──異世界に来たのだ!



心が躍った。

今にもあの村に向かって叫びながら駆け出したい。


何をしよう。

何ができるんだろう。

どういう自分になろう。


金、女、名声、知識や力を使えば何にでも成れる。

今までの決して華やかとは言えなかった人生を、

ここで大逆転させるのだ。


ミチオ君のように奴隷をはべらせて、

左に団扇の生活を妄想して顔がニヤけた。


持ち物は・・・全部あるようだ。

リュックの中も調べたが、全て揃っている。


勝った!


もしかしたら服以外は何も持ち込めない可能性を考えたが、

装着している時点で帯同品なのだろう。


ワープやフィールドウォークと同じ原理なのだと思う。

アイテムボックスは帯同品としてのカウントをせず、

帯同品ならば重量か大きさの制限があるかもしれない。

自宅からワープでやって来たと思えば、全てに納得できる。


持って来た物は、全てこの世界では珍しい物ばかりなのだ。

もう、これだけで十分最終ウエポンを入手している状態と言って良い。

浮かれた足取りで村に入る。


農作業をしている村人何人かに目が合ったが、

チラリと顔を向けた位でさほど気にされなかった。

冒険者や商人が立ち寄るのは普通なのだろうか、

少なくとも、彼らに取っておかしな奴と言う認識はされてないようだ。


安心した。

ジャージに裸足で大剣を担いでいたりしたら、†

村の用心棒でも呼ばれたかもしれない。


村の中心部には井戸があり、

女たちが収穫された野菜を洗って荷台に並べていた。

大根のような長細い根菜に、芋のような丸い根菜。


しかし食欲はそそられない。

どちらも赤黒いのだ。


サツマイモならば赤いのも理解できるが大根が赤紫だ。

赤みが掛かったナス色の大根は違和感でしか無い。

味だって違うかもしれない。

こちらではこれが普通なのだろう。

そこはやはり、THE・異世界なのだ。


仕事中の村人に声を掛ける。


「すみませんが、ここは何と言う村なのでしょう?」

「xxxxxxxx」

「xxxxxxxxxx?」

「xxxxxx」


しまった、全然解らない。


首を傾げながら身振りで解らないとジェスチャーをし、

腕を交差させてバッテンを作る。

女が村の中央にある家へ駆けて行った。

あの家だけ2階建てだ。


あれが村の権力者の家なのだろうか?


他の女たちはニコニコしながら両手で押すようなジェスチャーをして、

それぞれの作業に戻って行った。

2階建ての家からは、再びさっきの女が出て来た後に続いて、

作業着では無く町人のような格好の男が出て来た。


鑑定を取って来たはずだ。

早速鑑定してみる。


 ・ロイ  人間  男  42歳  村長  Lv8


鑑定しよう・・・、と思っただけで勝手に発動したようだ。

これが詠唱省略か。

16ビット時代を思わせる黒く安っぽいウインドウが、男の前を覆う。


あの男が村長か。


村長と言えば老人と言う定番と期待を軽く裏切って来たが

代替わりでもしたか、先代が亡くなったばかりなのか、

そこら辺の事情は良く判らない。


「どうも、この村を纏めさせて貰ってるロイと言います。何用でしょうか」


男はそう言いながら近寄って来た。


「初めまして、自分はユウキと申します。

 商人の見習い中でして、あちこち歩いて回るように言われました。

 いろいろな場所を見聞中なのですが、

 この辺りに売り買いができるような街はありませんでしょうか?」


嘘を言ってもしょうがない。

知ったかぶりをしてバレた場合は盗賊認定される恐れもある。

ハッキリと新参者だと言う事をアピールして置くしか無い。


「それなら、あちらの方に半日程行けばアムルと言う町がございます」


「そうですか、ありがとうございます」

「どのような物を商うのですかな?

 農具や香辛料であればこの村でも必要です」


頭の回る村長のようだ。

近くの町で買い付けられるような物は、

日用品だったり良くある量産品だ。


初めて訪れて来たような行商人からは、

大抵は珍しく便利な品を手に入れられる。

しかしこの村では需要が無い、と言うか購買力が無さそうだ。


ここでは手に入らないモノで、住民が必要な物は、

珍しい道具や農産物以外の食品と言う事か。


だが残念な事に、売ろうと思って持って来たのは酒と石鹸と宝石だ。

値段が値段だけにおいそれと見せびらかせない。


「済みません、生憎どちらも扱いは無くですね、石鹸でしたら・・・」

「そうですか。石鹸は貴重な物ですので、この村で買える者はいませんな」


「そうですか」

「そういう品だったら、アムルに行けば町長なら買うかもしれませんな」


やはり石鹸は大衆品では無いようだ。


それもそうか、使うには大量の水が必要だ。

この世界には水道が無い。

扱うには水汲み奴隷が必要だろう、つまり実力者だ。


「そうですか、ありがとうございました」

「ところでお前さんは人間だろう?」


「そうですが?」

「サリニク語が話せないなんて、どこの辺境出身なのだね」


人間族の共通言語はサリニク語らしい。

そういえばキャラクター設定の際にサリ・・・何とかは選ばなかった。

サム・・・何とかは選んだが、言語的相関は無いようだ。

さっぱり解らなかった。


バーナ語なら解かるぞ、獣人の基本言語だ。

突っ込まれても安心だ。


「ええ、実家は獣人が多かった街でして、バーナ語ならば話せるのですが」

「なるほど?確かにどうせ覚えるなら最初はブラヒム語になりますか」


「そうです。いやー、ちゃんとサリニク語を勉強して置けば良かった」

「殆どの庶民はブラヒム語を話せませんからな。

 人間族が多く暮らすこの国で行商をして行くならば、

 多少なりとも話せないと厳しいでしょう」


「はい、まあその、使いに出された訳が良く解りました。

 外を良く見て勉強しろと言う事ですかね」


村長は頑張れよと言って家に戻り、

横で聞いていた村人の女も会釈して自分の作業に戻って行った。

他の作業中の女たちにも会釈をして村を出る。


アムルまでは半日だと言う。


人間の足は4km/h位だ。

6時間で24km、大体30km位の位置に町があると言う事か。


日本では30km程度であれば電車や車で4、50分もあれば行ける。

地下鉄ならば路線にも依るが、始発から終点位の距離だ。

東京─横浜間は大体30kmだと言う話を聞いた事がある。


東京─横浜・・・結構あるな。

現実に直面してゲンナリして来た。

歩きながら今後の事を考察する。


まずは強くならなければならない。

Lvを上げ、ジョブを揃える。

英雄、魔法使い、僧侶は必須だ。


英雄を取るためには最初の戦いで盗賊を倒さなければならない。


つまり、これから盗賊を倒すまで戦ってはならないのだ。

これは地味に厳しい。

最悪Lv50位の盗賊を相手にしなければならないかもしれない。

こちらはLv1で、だ。


できるのだろうか?


そもそも実戦経験なんて無い。

ミチオ君のように乱戦時の不意打ちから仕掛けて行けるならばともかく、

そんなに上手い事は行かないだろう。


1対1も有り得無い。

賊は族なのだ。

狩られる立場である彼らは当然徒党を組む。

どうにかして出し抜かなければならない。


当面の生活資金も大事だ。

持って来た物を早く換金したい。

しかしこれも焦っては駄目だ。


アイテムボックスが無い状態で大金を持つ事は、

鴨が葱を背負ってる状態なのだ。

アイテムボックスに入れてしまえば殺しても奪えない。

商人には無い。


護衛も付けない行商は、金も持ち物も見せびらかして歩く絶好の鴨だ。


そうなると、換金先が情報を売るかもしれない。

なにせ金と貴重品を持った世間知らず、それも1人だ。

いかようにもめられる。


気分が悪くなり、焦燥感で汗が出て来る。


琥珀のネックレスはまだ手に余り過ぎる。

襲われた時に荷物全てを差し出せば命だけは助けて貰えるかもしれないが、

これだけは失う訳に行かない、自分の持って来た最後の砦なのだ。

盗賊に奪われて失うには勿体無さ過ぎる。


宝石だけでも別にして置こうと、

街道付近にある目立った岩の傍へ穴を掘って埋めた。

見付かっては困るので更にひと手間、大きめの岩を重石に乗せた。

どうせワープでいつでも戻って来られる。


さて、戦わずにジョブを集めるにはどうしたら良いだろうか。


別のジョブを得てしまっても、

Lvさえ上げなければ英雄を取得できる事はミチオ君が示した通りだ。

彼は盗賊を取得後に英雄のジョブを取得できていた。


判っている事と言えば、村長・盗賊・農夫・探索者は、

条件解放に敵を倒したりLvを上げたりする必要が無い。

その他のジョブは村人Lv5が必須である。


農夫は植える種も畑も農具も必要だが、勿論持っていない。

村長は誰かに任命して貰わないと成れないし、成れた所で意味が無い。

盗賊は・・・まあちょっと後にしよう。


Lvを上げられない今の状態では、やはりどれも無理だ。

残るは探索者・・・と言いたい所だが、これも迷宮が無いと話にならない。


あれこれ考えているうちに、遠くの方に町が見えて来た。

あれがアムルだろう。

だが期待していたような町では無い。


小さいのだ。



   ***



さっき村長と出会った村の5~6倍位かそこらの民家はあるが、

町としてはあまり発展していないのかもしれない。

町の中央にある井戸を中心としてちょっとした広場があった。

整備されている感じでは無さそうだが、寂れている訳でも無さそうだ。


カウンターを出している家もあるようだ。

見た所そのような民家はここだけらしいので、

何か売買する業務は全てこの店が行ってるのだろう。

余り沢山の品物を揃えられるとは思えないので、

町の人はどうしているのだろうか。

数日置きに市が立つのかもしれない。


いや・・・でもなぁ。

この規模の街で市が立っても。


「あー、ごめん下さい。店の方はいらっしゃいますか」


少しの間があって男が出て来た。


「何でしょう?」

「旅の者ですが、これを売りたいのです」


石鹸を1つ手に取って見せた。

この町の有力者に売れればそれで良いので、

見せるのも1つで良いだろう。


「これは・・?」

「見ての通り石鹸です。

 遠方の異国の物で、香料が練り込まれて色合いも鮮やかです」


100均で買った透明で中にポプリが封じられている石鹸を見せた。


包装紙などはこちらへ持ち込む前に捨ててある。

同じく100均で買った安物の木箱に入れて置いた。

高級感を演出するために、目の前でパカッと開けて見せる。


ドヤッ!


「うーん。・・・そうですね、これなら銀貨5枚でどうでしょうか」


銀貨1枚100ナールだ。

500ナール、そんな馬鹿な。石鹸は貴重品では無かったのか。

足元を見られてたまるか。


「ちょっと待って下さい、流石にそんな値段では無いでしょう。

 買い付けに銀貨30枚も払ったのですよ」


一気に値段を吊り上げる。


生活用品は安くても、武器や防具は高いのだ。

家を借りるには4万ナールも掛かると言う。

最低でも、数日旅館に泊まれる位の値段で売りたい。


銀貨30枚ならば、ミチオ君がフルオーダーで作らせた服と同額だ。

その位には価値があるだろう、この世界では。


「とは申されましても、この町でこれを買いたい者がいるかどうか」


「町のお偉い方に売ればどうでしょう。

 良い値段で買い取って頂けるかと思います。

 私のような流れ者では、突然で商売の話はさせて貰えないでしょうから」

「うーん・・・」


店主はあれこれ模索して、首を傾げてからこう言った。


「恐らく売れても1つ、銀貨60枚が一杯一杯です」


やはり商人だ、値段もお互い損しないギリギリを攻めるのが上手い。

本当に銀貨30枚で仕入れているのなら、

倍の銀貨60枚で売る事は、赤字回避のギリギリラインだろう。


「仕方ありません、では60枚で結構です」


今日の宿代を捻出する必要もあるし、

どうせそれは元々100円だったのだ。

残り4つは良い値が付く所で売却するとして、

値段交渉の30%アップスキルを付けた。


「ところで、これはどの位お持ちなのでしょう?」

「幾つかありますが、ここでは売れても1つなのでしょう?」


「では、初めてこの町にいらしたようですし、

 珍しい物を見せて頂きました、銀貨65枚で買わせて頂きましょう」


あれ?3割アップしていないぞ?


・・・そうか1つだけの取引では発動しないのだったか。

つまり、価格交渉無しで増額して来た。

500ナールだけだが。


いや、その値段でも元が取れるのだろう。

くそっ、してやられた。


「この町には宿はありますか?」

「それでしたら町の入り口にある家の前に鉢が置いてある所がそうです。

 看板など出ていないので分かりにくいかもしれませんが、

 そのまま入って頂いて大丈夫ですよ」


宿、と言うより民宿なのか。

冒険者や旅人に食事を提供するような店は無いと言う事だ。

それもそうか、この町には迷宮が無い。


住民は慎ましく暮らすだけなのだ。

恐らく町周辺にある畑が彼らの生活の場、

つまり農業中心の町だからこれ以上の発展は無いと言う訳だ。

納得した。


宿、と言われた家の戸を叩く。

中から人の良さそうな太めの女将が出て来た。


「おや、初めて見る顔だ。旅人かい?珍しいねえ」

「どうも、行商見習のユウキと言います。

 雑貨屋の店主から、ここが宿と聞いたのですが」


「ああ、そうだよ。一応客を泊められる部屋はあるが、

 食事はうちの食事になっちまうけど、それでも良いかね」


滅多に客の来ないような民宿なのだ。

出される食事はこの家庭の余り物って事だろう。

しかし食べれるだけでも有難い。


「大丈夫です、お世話になります」


「それじゃあ1泊銀貨1枚、食事がいるなら銅貨20枚。

 明日のお弁当を用意できるけど、そっちは銅貨10枚だよ。

 お湯は銅貨10枚だけど食事を付けるならお代を取らないよ」


「では全部お願いします」


金を支払おうとしたが、そもそも銀貨でしか取引しなかった。

銀貨1枚100ナール、残り30ナール分の銅貨30枚は持っていない。


「銀貨しか持っていないのですが、お釣りはありますか?」

「ええっと、・・・ちょっと待っておくれよ。おまえさーん・・・」


この女将は計算ができないようだ。


商人のスキルであるカルク以外で計算をするような必要が無いし、

計算方法を教えて貰えるような学校も無い。

奥から旦那と思しき声がした。


「銀貨1枚と銅貨100枚を先に両替してやれ」


女将さんが戻って来た。

銀貨と銅貨100枚を交換した後、銀貨1枚と銅貨30枚を支払った。

義務教育のありがたみを理解した。


夕食に呼ばれ、その間にこの宿の家族と話しをして情報を集めた。


大きな町であるトラッサに行くには、元来た村の方に3日の距離らしい。

単独の商人ならば、普通は冒険者と一緒に来るのが当たり前だそうだ。

徒歩で来たと言ったら驚かれてしまった。


街道には魔物も出るので馬車を使うか、

最低でも護衛を付けた方が良いと言われたが、

人を雇う金も無いしそもそも馬なんて売っていないだろう。


馬車は借りれるのかと聞いたら、

10日に1回、トラッサから荷を運ぶ馬車が来るとの事だった。

昨日に来たばかりだと言うので、つまり後9日は来ないと言う事になる。


ここでそんなに足止めされたくは無いし、宿泊費だって無駄にしたく無い。

あの石鹸は足元を見られて買われたのだから、

路銀が尽きたら本当にまずい。

次は売れないようだし。


馬車が来るまでなんて待てないし護衛を雇う程の金も無いので、

隣り町までは歩きで向かう以外に無さそうだ。

∽今日のステータス(2021/07/21)


 ・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 村人 Lv1


  装備 無し


 ・BP99(余り30pt)

   鑑定          1pt   詠唱省略        3pt

   キャラクター再設定   1pt   ワープ         1pt

   値段交渉 3割引   63pt



 ・新規出納

     金貨  0枚 銀貨  0枚 銅貨  0枚


  石鹸売却             (6500й)


  アムル宿              (130й)


            銀貨+63枚 銅貨+70枚

  ------------------------

  計  金貨  0枚 銀貨 63枚 銅貨 70枚



 ・異世界1日目

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