§058 裁縫
2人へ遺留装備品の分配が終わった。
それにしても、ナズに渡した鉄製の装備は自分にも厳しい。
Lvが上がると着けやすくなるのだろうか?
種族に重量ボーナスがある位なのだから、
装備Lv、或いは適正職と言うのもあるような気がする。
単純に自分の筋力不足と言うのは棚に上げた。
残った装備を自分で着てみる。
銅の兜と小手はまあまあ軽いので付けられると思うが、
これではあまり強化にならないと思う。
結局色々試してチェインメイルだけにした。
自分とアナの、未強化部位をメモしておく。
自分 → 頭、足、手 アナ → 頭、体、手
「じゃあすまんが、防具屋で売ってくる。すぐ戻る」
「いってらっしゃいませ」
***
先ほど売却でお世話になったばかりの探索者ギルドの壁に出る。
ここは防具屋の目の前にあるし、往来も激しいので溶け込み易い。
あの客また戻って来たよ、とか思われそうも無くて安心だ。
気にしすぎだろうか?
外に出ると、もう辺りは日が落ちかけて紅く染まっていた。
急がないと店が閉まってしまう。
「ごめん下さい」
「はい、どうなさいました?」
「迷宮でいくつか装備を見付けたので売却をしようと思って」
「アラアラ、そうなのね。ちなみにどのあたりで?」
出所を聞いてくるあたり、しっかりしていると言うか。
行方不明者の情報も聞いているだろうから、
この人を介して情報が集約されているのかもしれない。
──xxさんが亡くなったって噂、本当だったみたいよ、
あの人達が装備してた品っぽい物をこの前売りに来てねえ・・・。
噂の発信源は、大体商店のおばちゃんなのだ。
「9層の魔物部屋に落ちててね」
「あらまあ、あなた大丈夫だった?」
「おかげでがっつりダメージを食らったので、
ついでに新しいのに換えようかと」
「そうなのね、ゆっくり見てってちょうだい。
あっ武器があるんだね、ちょいとまっておくれよ」
防具屋のおばちゃんは奥に引っ込んで、老婆を連れてきた。
多分この人が、この店の真のオーナーで武器商人なのだろう。
いくつかは自分の手元に置いたし、特徴的なプレートメイルは倉庫だ。
全部売る訳では無いし、流石に誰とまでは辿り着けないか。
自分の払い下げ品も混ざっているし。
さっきから気にし過ぎだ。
防具屋のおばちゃんが鑑定している間に、
用意しておいたメモを頼りに、未強化の装備を更新する。
自分頭 → ・竜革の帽子(空き 空き)
自分足 → ・竜革のブーツ(空き)
自分手 → ・竜革の手袋(空き 空き)
アナ頭 → ・竜革のカチューシャ(空き 空き 空き)
アナ体 → ・竜革のジャケット(空き)
アナ手 → ・竜革のミトン(空き 空き)
なかなかスロット3つ付きは厳しい。
竜革ともなると、在庫数も限られているのでこれで一杯一杯だ。
トラッサの防具屋にも行って最善を選ぶべきだろうが、
そこまで空きスロットに固執している訳でもない。
今の段階で、そう沢山のスキルを合成していける余裕はなさそうだから。
せいぜい1個か2個あればいいはずだ。
「お待たせ、吟味はすんだかい?どれも一緒だとは思うんだけどね。
たまにいるんだよ、こっちの方がいいとか悪いとか、
あたしに言わせりゃどの鍛冶師が作っても、どこで拾っても、
壊れるときゃ壊れるし上手く行く時は行くもんだよ」
まあ、そうなのは知ってる。
「そ、そうなのか、しかし思い入れが違うかな」
「思い入れ?」
「ほら、こう・・・武具の方からさ、語り掛けて来るんだよ。
一緒に冒険したいよ、連れてってくれって」
某テーマパークのぬいぐるみを選ぶコツらしい。
目が合った瞬間にトキメク子がいると。
その子は他のぬいぐるみとは違う特別で、買うとか持って帰るんじゃない。
「お迎え」するんだそうだ。
合コンの定番ネタだ。
「へえ、そんな事いう人は初めてだよ。語り掛けて来たかい?」
「ま、まあな、この子たちをお迎えして行こうと思う」
「変な事言うねえ、でもあたしは悪い気はしないね、その考え」
女の店員は合計数を確認して値段を言ってきた。
「買取が35点で36100ナール、お買い上げが6点59600ナール。
面白い話を聞かせて貰ったんだ、どっちもサービスしとくよ。
45565ナールと41720ナールで、差し引き3845ナールだ」
差し引きで考えると、逆に儲かってしまった。
自分が手にした装備品は結構な物であるにも拘らず、
売却額のほうが上回ってお金が返って来るのは素直に嬉しい。
竜革装備は結構な金額なのだろうと言う予想はしていたが、
それ以上に売却品が良い物だったと言う事か。
鉄製の武器や、銅製の防具が数点あった。
きっと金属製品からは値段が跳ね上がるに違いない。
次に装備を更新する際は大出費を覚悟せねばなるまい。
「ところで女将さん、この剣はいくらになる?」
アナに持たせていた惰眠のカトラスを取り出した。
「ふーん、カトラスだね?」
「スキルを付けてある」
「へえそうかい、ちょっと見せとくれよ、・・・おかあさーん?」
奥に引っ込んだ老婆が怠そうな顔でやって来た。
「何だね、まだあるのかね、一度に見せとくれよ。
これかい?・・・うーん、武器に宿りし魂よ、その力を解き放て、
武器鑑定!」
老婆が呪文を唱える。
恐らく老婆には鑑定結果が見えている事だろうが、
こちらには何も変化が見えない。
他人にも見えるように表示ができるのであれば、
誰もが安心して取引ができるのだろうに。
しかし、そう上手い事行かないのがこの世界のルールだ。
「ほう、これはあんたの言うようにスキルが付いてるね。
・・・しかも睡眠添加かい、こりゃ欲しがる奴は多いだろうねえ」
「いくら位の物なのだ?」
「うーん、15万・・・18万ナールで売っていてもおかしくは無いが、
買取となるとせいぜい3万5千ナールだね。
おまえさんがどこで手に入れたか知らんが、いい値で売りたいんなら
ウチじゃなくて競売所の仲買人に渡した方がええと思うね」
「18・・・凄いのだな、スキル付きの装備品は」
「元がそう出回る物でも無いでな」
そういうと老婆は奥に戻っていった。
まあ、ここで売っても損すると判っているのなら、
オークションを扱う商人に任せてもいいか。
この世界に来て初めて、自分の力で財を作れた満足感に拳を握った。
いや、作ったのはナズだ。後でナズとハイタッチして赦して貰おう。
ハイタッチ、この世界にあるのか?
無ければパ・・・いや今のは悪かった。無かった事に。
それじゃあと詫びを入れて、防具屋を後にした。
後は家に帰ればナズの手料理が待っている。
新婚夫婦のノリだな。
実際には一所帯なのだが。
女の子が食事を作って家で待っていると言う
憧れのシチュエーションに心躍る。
現代日本でそんな事言おう物なら、たちまち総スカンだ。
憧れる位は許して欲しい。
ここは異世界だし、そもそも彼女は使用人だ。
***
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、ご主人様。お食事の用意ができております」
台所に出たので、テーブルに4人分の食事が並べられているのが見える。
「そうか、お疲れ様。アナとジャーブは?」
「先ほど一度こちらに来られたのですが、お部屋にいるのでは」
部屋、と言うかそういえばジャーブの部屋と言うのを考えていなかった。
タンスと2台のベッドはキッチン手前の部屋で
風呂用にする予定の部屋ともう1つ空き部屋があるが、
そちらには何も置いていない。
「しまった、ジャーブのベッドとタンスを用意していないな」
「ええっ?それではどうしましょう」
「今からでは家具屋も閉まっているだろうし、今日は床で我慢して貰おう」
「それでしたら私が」
「ナズが床で寝て、自分がジャーブと寝るのは嫌だなあ」
「そ、そうですよね、ごめんなさい・・・ジャーブさん」
「いや、忘れてたのは自分だからナズが謝る事は」
──ガチャッ。
「お疲れ様です、ご主人様」
アナが帰ってきた。
洗濯を終えたのだろう。
「アナもご苦労様、かなりの出血だったし洗濯は大変だったろう?」
「いいえ、この位は問題ありません。それより、ご主人様のシャツですが」
そういえばミノに突っ込まれて、腹に2つの穴が開いたシャツを捨てた。
「まあ破れた物は仕方無いんじゃないか」
「いえ、その事なのですが」
なにせこういう世界だ、ちょっとの解れ位は修理して
長く使うのは当然でも、肝心の針や糸も結構しそうだ。
それらを買うより、中古の服の方が安いまであると思う。
「で、ジャーブは?」
「あ、はい。もうすぐ来られるかと思い──」
「お待たせしました、ユウキ様、お帰りなさいませ」
「遅かったな、何をしていたんだ」
「はい、ユウキ様の破れた服を捨てると聞いたので、
アナンタ殿に自分なら修繕できると進言しました。
雑貨屋で針と糸を買ってきて、今修繕が終わったとこです」
そう言ってシャツを見せる。
「おお」
乱暴に継ぎ目が見えるが、これなら普通に着れそうだ。
買って来なくても良かったかもしれない。
「凄いな、そんな技能を持っていたのか」
「以前は貧乏戦士だったのでこの位は」
なるほど、生活全般の雑用ができるのは嬉しい。
自分もその位はできると思うが、義務教育の家庭科で習った位だ。
それでも十分通用しそうなのが凄い。文部省バンザイ。
「ところで、その針と糸はどうした?」
「アナンタ殿に払って頂きました。正確にはナジャリ殿からですが」
「はい、以前頂いた私の小遣いから出させて頂きました」
「そうか、その分は補填してやるからな、幾らだった?」
「いえ、これは私がしたくて出させて頂きましたので」
公私混同は避けないと、良かれと思って無駄な物を買われても困る。
折角の小遣いなのだから、本当に欲しいと思った物を買って欲しい。
「アナ、気持ちは嬉しいが、生活と娯楽は分けろ」
「か、かしこまりました、150ナールです」
やはりちょっとするな。
中古の服と一緒、そんなものか。
「糸と針だけで150ナールか、結構するな」
「いえ、俺が買ったのは裁縫道具一式ですので、
他の物がもっと大きく破れても直せます、ご安心下さい」
「あ、そうなの?」
じゃあ、これから服がほつれた時はジャーブに任せよう。
ミチオ君のように、麗し処にじゃんじゃんドレスを与える日は遠そうだし。
ナズに銀貨2枚を渡し、釣銭の銅貨50枚を受け取った。
「では食べよう、いただきます」
「「いただきます」」「あっ・・・はい」
前から気になっていたヤギの肉。
かぶりついたら肉汁があふれ、スパイスが効いていた。
ん?このスパイス買って来たのか?ナズには渡してなかった。
・・・無駄な出費をさせて申し訳無い。後で渡そう。
「この肉は旨いな」
「ありがとうございます、昔やっていたように味付けしてみました」
「とても柔らかいですね、こんなに美味しい肉料理は初めて食べます」
「何の肉なんですか?俺も初めてです」
「パーンだ、2日前、いや3日前だったか?に倒した」
「ユウキ様だったら余裕で倒せそうですね」
「食べた事は無いか?」
「俺たちのような日銭で稼ぐ者は中々食べられません。
手に入ったとしても肉を焼く手段もないですし、売った方がマシです」
たしかに、厨房が使えないと宿で暮らすものには難しいのかな?
「厨房に出して焼いてくれとお願いするのは?」
「食堂ならやってくれると思いますけど、
肉を出してさらに金まで取られる位なら、
普通に売って、安い肉料理を食べた方が得ですね」
「そうだな、食材を出して金取られるのは納得できないな」
「そもそもパーンは5、6人のパーティでないと危なくって」
「まあ確かに」
家を借りられるフルメンバーの探索者は稀なのだな。
それだけ贅沢と言える。
ジャーブが自分を金持ちだと誤認したのも頷ける。
「ナズは?」
「私は余った食材で食べた事はあります」
「調理法を知ってるんだから当然か。じゃあウサギの肉は?」
「それは高級品ですので、庶民でも中々口にできません。
宴会をしたいと言われて持ち込まれた物を、
母が料理した事があった気がします」
「俺は小さかった頃に一度だけ食べた事があるのですが、
どんな味だったかすら覚えていません」
誕生日や休日の豪華料理の逸品か、話の通りだ。
ヤギの肉と兎の肉は両方ともボスのドロップ品なので、
ボスの強さ的に言えば買取金額にあまり差は無い気がするが、
肉の可食部分で大きく差がある。
一切れ100ナールと、4人が腹いっぱい食べれて100ナールでは、
身入りの少ない兎の肉は高級品と言う事になるだろう。
売った事も買った事も無いのでいくらか知らないが。
じゃあそれより高価なザブトンやトロなんかは、
極稀に流通する滅多にお目に掛かれない食材って事だ。
ルティナだって、献上品で食べた事がある程度だった。
食道楽君達、いい物食べてるなー。
「明日はボスも何回か倒してみようと思うから、すぐに食べれるぞ」
「「えっ?」」
何か間違ってる?この迷宮のラピッドラビットは肉を落とさないとか?
「いや、だから倒せば肉が出るだろう?」
「お売りにならないのですか?」
そっちか。
「美味しいらしいからな、食べたいだろう?
何だっけ、しぇーまやき?にして欲しい」
「シェーマですね、かしこまりました。明日用意致します」
ロクサーヌが提案した食べ方だ。
記念すべき、この世界の料理の1品目。とても興味がある。
「ああ、それから、ナズはこれをアイテムボックスに入れてくれ」
アイテムボックスから食材っぽいものを纏めて出す。
ラムとヤギの肉をナズに渡した。
コボルトソルトとコボルトスクロース、コーラルゼラチンは、
日持ちしそうなので使っていない皿の上に置いた。
「調味料を収納する箱なんかも合わせて買っておいてくれ。
後は、ミルも必要だな?」
「かしこまりました」
「ジャーブ、オリーブは何層に出るのだっけ?」
「ナイーブオリーブでしたら、俺が行っていた階の1つ手前の11層です」
「そうか、明日行ってみよう、食材を集めないとな」
「ご主人様、大丈夫でしょうか、私はまだ8層に入ったばかりです」
既成概念的にはそうなんだろう。
だがアナ、お前はLv30で上級職に転職してるベテランなのだ。
ジャーブより強いぞとか言っても、信じて貰えないかもしれないが。
「ジャーブがいれば安心だろ」
「そ、そうなのですが」
「無理そうならすぐに帰る、オイルは4,5個もあれば十分だろ?」
「お店で売っているひと瓶当たりがこの位です。
魔物から出るオリーブオイルがどの位の量なのかは存じませんが、
そう沢山は必要ないのではないでしょうか」
ナズが料理の知識が豊富なのは助かる。
・・・あれ?何でナズは料理人のジョブ持ってないんだ?
探索者のLvが足りない?
料理人のアイテムボックスは30×30だった気がするから、
探索者?戦士だったっけ?Lv30が必要なのだろう。
そうか、それなら足りてない。
環境が整ったのだから、自分も料理人と錬金術師を取得するべきだろう。
明日は家の工事の業者が来る。
探索は早めに切り上げて、自分の事や家の事をしよう。
ジャーブ用にベッドとタンスも買わなければ。
明日もやる事は一杯だ。
∽今日のステータス(2021/08/14)
・繰越金額
金貨 3枚 銀貨 51枚 銅貨102枚
装備品売却 (34960→45448й)
メイス 2000
鉄の槍 1000
レイピア 2200
ロッド 2000
鉄の剣 ×4 4000
銅の兜 1000
硬革の鎧 ×4 4500
ローブ 100
銅の小手 1000
皮のカチューシャ ×2 50
革のジャケット ×2 4000
革のブーツ ×3 5250
皮のブーツ ×4 160
皮のサンダル 20
革の帽子 ×3 1950 (交換品)
皮の鎧 200 (交換品)
硬革のジャケット 2000 (交換品)
皮のグローブ 30 (交換品)
革のブーツ ×2 3500 (交換品)
装備品購入 (59600→41720й)
竜革のカチューシャ 8000
竜革の帽子 10000
竜革のジャケット 14000
竜革のミトン 8000
竜革の手袋 9600
竜革のブーツ 10000
裁縫道具 (150й)
銀貨+36枚 銅貨-22枚
------------------------
計 金貨 3枚 銀貨 87枚 銅貨 80枚
・装備更新
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv35
竜革の帽子(++)チェインメイル(-)竜革の手袋(++)
竜革のブーツ(+)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv31
鋼鉄の槍(++)
鉄の兜(-)チェインメイル(++)鉄の籠手(-)鉄のグリーブ(-)
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 暗殺者 Lv13
硬直のエストック(石化添加 +)鉄の盾(+)
竜革のカチューシャ(+++)竜革のジャケット(+)
竜革のミトン(++)柳の皮靴(回避上昇)
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 戦士 Lv22
バスタードソード(++)
竜革の帽子(++)竜革の鎧(+++)竜革の手袋(++)
竜革のブーツ(++)
・異世界13日目(日没前)
ナズ・アナ8日目、ジャーブ2日目




