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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第回章 展望
373/394

§360 争奪

「ご主人様の装備を私にお貸し頂けませんか」


そう言ってイルマは自分の前に仁王立ちした。

確かに魔法職用のスキルを付けたので、

槍よりは小回りが利いて戦い易くはあるだろう。


いや、その前にイルマなんて出せる訳が無い。

相手は騎士には成れなかったとはいえ、それなりに訓練を積んだ戦士だぞ?


「弓なんて撃った事無いだろう?どうするんだ・・・」

「持つだけで、魔法が強くなるのだと仰っておられました」


「え、あ、ああ。そうだな。あれ?イルマに言ったっけ?」

「ええと、アナさんからお聞きしております」


アナめえ・・・。


チラっと見詰めたがコクっと返された。

私が説明しておきました、ドヤッ。

いや、良いのだけれどさ。


「あーもう、何でも共有されているのだな」

「恐縮です」


イルマの決意は固そうだ。


せめてできる事と言えばなるべく怪我をしないように、

怪我をした際になるべく軽傷で済むように、

補助スキルで助けてやる事だけだ。


イルマに心眼の聖天弓とミスリルチェインを手渡し、

アナの持つ駿馬の竜革靴を履かせ、

そして手には5本の矢を握らせた。

イルマはクルアチがやっていたように、矢を口で咥える。


いや、無理がある。

クルアチは元々狩猟者だった。

イルマは弓など使った事が無かろう?

命中2倍を付けてはいるが、ド素人は頑張っても横に飛ぶんだぞ?


悲しい実体験である。


あ、口では無理だと気付いたようで脇に抱え直したようだ。


「アイザック様、さあっ!

 ご主人様とお戦いになられたかったら、

 この私をくだしてからにして下さい!」


イルマが威勢よく吠えた。

やっぱり槍に変えさせた方が・・・もう今更なのか。

イルマなりに何か考えがあったのだと、そう信じたい。


「正気か!?イルマっ!私はお前を傷つけたくはない。

 殺してしまいたくは無いんだ!こっちに来てくれ!イルマッ!」

「ご主人様を殺せば私も死ぬのですから、同じ事ですっ!」


先程自分が言った嘘を、イルマも再利用した。


自分が死んでもイルマは死なない。

彼女もそれを知っていたはずだが、先程は黙って聞いていた。

まさかイルマ自身もその口上を利用するとは御見それした。


イルマは・・・頑張っている。

いつもの調子のイルマであればもう少し遠慮がちと言うか、

これほど肝が据わっていなかっただろう。


何かが彼女を変えたのだ。

ついこの前の事か?

相手がアイザックだから?

イルマは確実に成長した。

  

「あー、ではもう始めて良いか?お互い距離も取っている事だし始めろ」

「そ、そうだな、降参の合図は自分が下しても良いだろうか?」


「構わんぞ。自動的にお前の負けになるので、

 相手がお前の所有物から何かを望んだ場合、反論はできないからな」


負けでも相手はナズの命や自分の命よりもイルマの方が大事そうだ。


やっぱ初体験の相手補正、この世界にもあるのかと疑ってしまう。

所詮男は男なのだ。

初めて優しくされた相手に、ずっと詰まらない恋心を抱いてしまうのだ。


それが悪い事だとは思わない。

ただその判断を誤ると、足元を掬われると言うだけだ。


勇ましく構えるイルマを相手に、

剣を構えながらジリジリとアイザックが詰め寄る。

決闘はいつの間にか始まっていた。


せめてパーティボーナスを盛りに盛らせて援護しよう。

メッキも併せて掛けてやれば、ダメージは減らせるかもしれない。


手当は・・・無しだな。

みるみる回復させたら直ぐばれる。

状態異常耐性ダウンは大丈夫だろう。

まぐれで当たって運良く毒が発動したら、それだけで勝ちだ。


攻撃力のナズ、移動力のアナが既にパーティには加わっている。

パーティボーナスでサポートするために、

自分のジョブは英雄、勇者、戦士、剣士、道化師を取った。


そしてイルマは魔法使いであるので、

道化師の効果スロットには知力上昇を2つ入れる。

スキルはメッキと状態異常耐性ダウンをセットし、早速使用した。


もう5歩の所でアイザックが深く踏み込んだ。

来るぞ!?


アイザックは大剣を見せ付けるように態々大きく振り被り、

剣のフラー部分で緩く攻撃を仕掛けて来た。


西洋剣はみねに当たる部分が無いので、

傷付ける事無くダメージを与え気絶などを狙う場合は、

フラーで攻撃をするしかない。


大振りで無駄な動きはイルマを脅すためだろう。

フラーで攻撃するというのも十分な舐めプだ。

こちらからではイルマの表情が見えないが、

覚悟が決まった彼女に対し果たしてどれ程効果があるのやら。


オーバーホエルミングしてアイザックの動向を精査する。


イルマは打撃を嫌って後ろに飛び退くと、

途中まで詠唱していたファイヤーボールを至近距離から顔面に叩き込み、

怯んだアイザックに対し間合いを詰めて弓をゼロ距離で撃ち込んだ。

接射とか言う奴だ。


流石にこれは外しようが無い、考えたな。


2本が腹に、腕にと刺さり、

アイザックはそれを嫌って剣を大振りに振った。

顔面直撃でまだ視界が戻っていないのか、剣の動きは乱暴であった。


イルマの身に着けたミスリルジャケットからはカチャリと音が鳴り、

ある程度のダメージをイルマは受けたのだろう。

彼女の腕辺りに大剣の一撃がしっかりと決まったはずだが、

直後の動きを見る限りでは大して痛がっているように感じられなかった。


我慢をしているのか、気にならない位なのか、

それとも極限状態で痛みなど感じていないのか。

2発目を入れようと、アイザックがその大剣を切り返す。


その間にイルマは横から脇腹へ1撃を放ち、

次の剣の一撃に対処するため少し身を引いた。

アイザックの2連撃目はイルマの脇腹から胸の辺りをかすって行き、

2つの武具が擦れ合ってジャキジャキと独特の金属音を響かせる。


直後にイルマは大剣を振り切ったアイザックの肩へ1撃を入れた。

アイザックは長期間鍛錬をしていた戦士である訳で、

流石に大振りとはならない。


当てた直後に絞った剣体は切り抜いたその位置で留まっていたが、

剣を握る片方の手を柄から離してしまったようだ。


そして顔面に受けていたであろう魔法の痛みを堪えるため、顔を拭った。

油断だ。


アイザック的には「かなりの手応え」があったのだろう。

しかしながら、やはりイルマは痛みなど気にしているように見られない。

次に来るであろう打撃を嫌ってイルマは3歩の距離を取った。


アイザックが視界を取り戻した時には2発目の魔法が飛んだ。

大剣を握る両手はそのままに、再び顔を覆う。


それにしたって2度も顔面とは、イルマも容赦が無い。

アイザックの利き腕であろう方の肩に向かって、

再びイルマは距離を詰めゼロ距離で弓を引いた。


矢を浴びせられたアイザックは膝を折って、片手は地に付いた。

イルマはその間にも背面に回り込み、

持っていた最後の矢を弓へ宛がうと即座に発射する。


そのままアイザックは前のめりに倒れ込んだ。


「お前の奴隷はお前が思っている以上によく戦ったようだぞ」


「そ、そのようですね・・・。自分でもびっくりです」

めだ!この試合、挑戦者の負けである!」


アイザックの背に刺さった矢を回収し、

もう一度背に向かって構え直したイルマを騎士が止めた。


それにしたってあっさり倒れ過ぎである。

毒が発動したのか?

アナに聞いてみたが、毒では無いと答えられた。

では一体何故だ。


「・・・しょう・・・ちくしょう・・・うううっ」


アイザックの噛み殺したような欷泣ききゅうの声が聞こえて来た。

奴はかつて愛した奴隷に対戦を阻まれ、負け、決別されたのだ。

男の尊厳が、プライドが、全てへし折られてズタズタに成ったのだろう。


重ねて言うが自分は降り掛かった粉を払うためにやって来ただけで、

そこまで貶めるつもりは無かった。

精々上手い事立ち回って決闘を回避できないかと考えていたのに。


だから手ぶらで来たのに。

本当にどうしてこうなった。

人生思い通りには行かないものだ。


「ご主人様・・・」


「い、イルマ。凄いぞ、見直した。

 ここまでやれるとは正直思っていなかった。

 そして自分を守ろうとしてくれたその心意気は大いに評価したい。

 何か褒美を与えてあげたいが、生憎何も思い浮かばないんだ。

 イルマが欲しい物、して欲しい事、何でも自由に言ってくれ」

「それでは、ずっとご主人様にお仕えさせて下さい。私はそれで十分です」


「イルマ、残念だが以前そのように自分に言った奴隷がいたのだ。2人も」


イルマがナズとアナを見ると、2人はニコニコと頷いた。


「私たちはもっと前に、3人ずっと一緒と決めましたよ?」

「既に叶っている事はお願いに成りません。

 イルマは他のお願いを考えなさい」


「あーで、お主。どうする?この者の装備品などは」


「ええと、そうですね、では剣でも頂いて置きましょうか。

 武器を持たせたままですと、白昼堂々襲われても敵わないので」


アイザックは倒れ込んだまま動かなかったが、男泣きは続けるようだ。

邪魔だろう?

それ程ダメージを受けていないのであれば立てるだろう?立てよ・・・。


イルマから装備の返却が行われ、

そういえばこれはMP吸収が付いているのだと思い出した。

そうか、アイザックはMP枯渇・・・絶望状態か。


弱そうなイルマに負けた事や、かつての世話係に袖にされた事、

自分への挑戦権を失い尊厳がへし折られた事に加えて、MP枯渇か。

それではさぞかし絶望の中だろう。

冥福を祈ろう、死んではいないが。


騎士からアイザックの持っていた剣が手渡された。

鋼鉄の剣、空き無し。

・・・ゴミだ。

今更ながらにアイザックを鑑定してやった。


 ・アイザック    人間   男 29歳 戦士  Lv12


Lvが・・・低い。

転職まで当分先では無かろうか?


何故こんなLvで騎士団に入ろうと思ったのか。

何故騎士団の所属であったのに成長していなかったのか。

イルマの話ぶりでは、アイザックは騎士団で生活を始めて、

もう何年か経っていると言う話だった。


1年2層だっけ?

まだ後9年は頑張らなければ騎士には成れなかったのだろう。

それにしたって、騎士と共に迷宮で切磋琢磨していればある程度・・・、


しないわ。


この国の騎士は迷宮を狩る目的が存在しない。

迷宮で積極的に魔物を倒したりはしないのだ。

物資の補充位はするだろうが、それは一般探索者止まりと言う事になる。


加えて、正式な騎士団員でもなかったはずだ。

確か・・・従騎士とかいったかな?

要するに雑用だ。

前線に立って魔物を倒す職務は与えられないのだと思う。


戦いの際に前線を維持するメインは騎士だろう。

以前見させて貰った騎士たちの団体行動は、

メインパーティ以外に補助役の僧侶だけを集めた、

別部隊のパーティが援護していた。


そこに入っていたとなれば、当然経験など積めるはずが無い。

補助パーティの僧侶はある程度育っていれば、

それ以上は強くなる必要が全く無い。

依って従騎士パーティだけで経験を積むような事は無いのだ。


このままずっと所属していても、アイザックは騎士には成れなかった。

多分。


セリーはドープ薬を使用すれば上級職へ転職できるのだと言っていた。

ボルドレックであればドープ薬位は簡単に入手できたと思うのだが、

何故そうしなかったのだろう。

自爆玉の方は熱心に集めていたのに。


或いはアイザックが飲むのを拒否したのだろうか?

飲んでも強さは変わらないのだとセリーは言っていた。

飲んで騎士に成って弱ければ恥ずかしい、そういう可能性もある。


或いはそれなりに鍛錬をしていたとしても、

入隊した時期からしてこの位が妥当だったのか。


いずれにせよ本人に確認したって答えてくれないだろうし、

真相は闇・・・いやどうでも良い。


「ほれ、奴の剣だ。しかしその奴隷は弓も扱うのか?珍しいな。

 弓自体も珍しい。安物ではなくって本格的で、高そうだなぁ」


「いえ、ウチには元狩猟者だった奴隷が居ましてですね」

「そうか。いやなに、初めて見る物だからびっくりしたが、

 あんなに接近して使う物ならば剣とそう変わらんな」


いや、イルマの使い方は本来の用途では無いだろう。

自分だってあんな接近して使う位なら別の手段を考える。

初めて見たからと言って、どう考えても近接武器と言う考えには。


・・・ハッ、脳筋か!


「でっ、では自分はこれにて」

「うん?ああ、もう用は無かったな。気を付けて帰られよ」


決闘の受諾の際に対応をした、

冷血そうなエルフの隊長がどこかで見ているのかと思ったが、

結局一度も顔を合わせないまま終わった。


多分、アイザックと顔を合わせたく無いんだと思う。

あの騎士団長は最初から自分が勝つと知っているような素振りであったし。

であるならば、もうアイザックとは関わりたく無いと言う事なのだ。


騎士団を後にし、振り返って旧ボルドレック邸を見上げる。


「イルマ、あの屋敷にはもう誰も住んでいないらしい。

 この町は少し静かになるかもな」

「そう・・・ですか。

 私と妹、そしてこの町をお救い下さってありがとうございました」


「別にこの町の事はどうだって良い。

 ナズとエミーとイルマ、3人が幸せであればそれで」

「あり・・・がと(ふぐっ)・・・ござっ(ぐすっ)」


またイルマが口を押えて泣き出した。

芯は少し強くなったような気がしたが、涙脆さは変わっていないな。

それにアイザックとの委細巨細いざこざを解決したのはイルマ自身だ。

何を今更。


騎士団を出て大階段を下る。

少なくとも冒険者ギルドがある中段まで降りなければ、

ここから自由にワープして帰るのはご法度だ。


左右からナズとアナはしがみ付くもんだから、

フラフラしながら降りて行った。


階段これがあるから嫌なんだよなあ、この街は。

ボルドレックの脅威が無くなろうが何だろうが、

積極的にこの街で何か活動をしたくは無い。

カモーツの売り込みは、やっぱりルイジーナからにしよう。


屋敷は競売に掛けられているらしいが、

欲しいとは微塵も思わなかった。

物価も高そうだし何かと不便過ぎる。


自分は・・・ごちゃごちゃの町で、

大工や酒場の荒くれ者と一緒にワイワイやる方が好きだ。

気の良さそうな酒場の女将さんに若干足元を見られながら、

緩く商売をする方が楽しいのだ。


下の階層にあった武器屋でさっき貰った鋼鉄の剣を売り捌き、

ユーアロナの町を後にした。


さあて、今日の納品物はどうなったのだろう。


ユーアロナ中層にある冒険者ギルドから自宅に向けてフィールドウォークする。

一瞬ゲートが開かなくて焦ったが、

そういえば麦穂の壁掛けは外したのだった。

今移動可能な場所は「夕日と山」の壁掛けか、「波と船」の壁掛けである。


納屋に繋いで4人が出入りするのは危険なので、

当然2階に設置した「夕日と山」に向けてゲートを開いた。


──ヴォンッ。


よしよし。


自分に続いて3人が戻る。

ここを移動先に指定した場合目の前が自室になる訳だが、

台所の様子が気になったので部屋には戻らず台所に移動した。


ナズも手伝う気満々で、腕まくりをしながら部屋に入ったが・・・。


「・・・おかえりなさいませ。ご主人様」


「あれ?エミー1人か?他のみんなは?」

「お部屋で・・・休んでいると思います」


そうなの?

ヴィー辺りが生地を練るのに四苦八苦しているかと思ったが、

そんな事は無かったようだ。


部屋の隅に2つのバスケットが置かれ、

焼いた生地が乾燥してしまわないように布が被せられていた。

1つはクレープ、1つはラーメンだろう。

その横に置いてある水差しはスープとカモーツだ。


イルマがアイザックと戦っている間に全てが終わっていた。

手際よく分担したらこんなものなのか。


「早かったな、じゃあエミーも休んで良いぞ?

 薬の調子はどうだ?熱や怠さ、痛みがあれば休んでくれて良いからな?」

「大丈夫・・・です。お姉ちゃん・・・は、大丈夫でしょうか」


「え、あっ、私は大丈夫よ、エマレットもありがとう」

「私はやる事が無くなっちゃいましたね・・・」


「そういえば旦那様に料理の本を見せて貰うのでしたよね?

 エミーもりますし、皆で献立を決めるのは如何でしょうか」

「ああっ、それは良い考えですね!

 エミーちゃん、エミーちゃん。

 ご主人様がお出になった国の、

 珍しいお料理を一緒に教えて頂きましょう?」

「はい・・・宜しくお願い致します」


えー・・・何だかエミーにも見せる流れになってしまったぞ。


別に皆自分の元から手放すつもりは無いのだから、もう今更か。

イシャルメダにだけは見られないように注意しなければ。


「ええと、エミーとイルマまでは見せても良いだろう。

 だが、イシャルメダに本自体を見せたりはするなよ?」

「あっ、そうですね?気を付けます」

「わっ、私もですか?

 私がその・・・何かを見せて頂いても宜しかったのでしょうか」


「そういえばあの方は自由人に戻すと仰られておりましたが、

 語学の勉強が終われば解放をされるのでしょうか?」


「いや、そのまま解放しても彼女1人で生活するのは難しいだろう。

 酒場に勤め始めて暫くすれば、誰かが言い寄って来るはずだ。

 適当な男に求婚されたらそこで解放する」

「求・・・」

    「・・・婚」

        「おめでとうございます?」

                   「・・・ございました」


「いや、流石にまだまだだろう?」

 正式に雇われた訳では無いからな。そこはほら。ナズ、頼むぞ」

「あっ、ええっとリアナさんの出される料理や味付けですね?」

「その点に付きましては、私も協力をさせて頂いております。

 ナズさんが仕込みや材料の量を記した物を、

 バーナ語で書き出した手順書を彼女に持たせました」


「ええ!?いつの間に?ナズも凄いがアナも偉いな。

 どっちが言い出したんだ?」

「私がイシャルメダさんのためにメモを書いていたのですが、」

「ブラヒム語では読めるまで時間が掛かるだろうと思いまして、

 私が翻訳を手伝わせて頂きました」


「そうだったのか。

 じゃあ折角だしブラヒム語で書いた物はエミーにやってくれ」

「既に・・・頂いております」


もう何だか自分の出る幕が無い感じ。

こと調理に関してはナズの段取りの良さは計り知れない。

4人纏めてぎゅっと抱擁して適当に撫で回して解放した。


ナズは裁量権を得た訳で、これからはナズ無双が始まるかもしれない。

アナもそうだ。

今でこそ自分を立てるために控えめにはしてくれているようだが、

そのうち「こんな事もあろうかと思いまして」などと言い出しかねない。


いつか言ってみたい台詞リストの筆頭候補だが、実際言われると悔しい。


それではと作業場の方に向けて足を運ぶと、

こちらではラティとクルアチがベッドに座って談笑していた。


「ただいま、2人ともそんなに仲が良かったっけ?」

「お帰りなさいませご主人様。お疲れさまでございました」

「おっ、おっ、お帰りなさいませっ。

 え、えっと、ど、どっどうなったんでしょう?」


「決闘か? アイザックがイルマに戻って来いと求愛を掛けていたが、

 それをイルマが拒否して、有耶無耶のまま決闘が始まっていた。

 そのままイルマが魔法と弓でたたきのめして一瞬で終わった」

「ええ!?イ、イルマ様がですか?」

「はぇぇ・・・イルマさん、お強いのですねえ」


「もうこれでボルドレックの関係者がやって来る事は無いかな?

 正直、もうこれで終わりにして欲しくはあるが」

「お聞きしている限りでは、他にご子息などはられないかと」


「そうか。それでラティ、地図の方はどうなったかな?」

「はっ、はいっ、おっ、終わらせましたっ!

 す、全て100部、あちらになりますっ」


ラティが指さした方に、膝位までの高さの冊子が3つ寄せられていた。

早くね?

これも皆で手際よくやればこんな物なの?


「やけに早いな?

 昨日22層からの分を閉じるとかそんな具合だったと思ったのだが」

「あ、あの、て、徹夜で・・・その・・・作業を、し、してましたので」


「ええ!?徹夜っ?体調は良いのか?そんなんじゃあ眠いだろう?」

「は、はい、で、ですので、さ、先程まで寝てましたっ」


ああそう・・・。


今日は自分が決闘で家を空けると知っていたから、

そこで寝ようと考えて夜中に作業をしたのであれば天晴あっぱれだ。

ラティも意外と考えよったな。


「そ、そうか。いや、無理なくやってくれればそれで良いからな?

 まだ収める日には余裕もあったと思うが」

「あ、あの、わ、私も、み、皆さんと同じように、

 が、頑張ってごしゅ、ご主人様のお役に立ちたいと、おも、思いまして」


「そうか、ラティ。来い」


怖ど怖どしながらラティがやって来た。

別に叱る訳じゃないんだからもっと堂々と歩け。


「頑張ったじゃないか。気持ちだけで十分だぞ。

 作業はみんなの仕事なのだから、次からはラティ1人で背負う事は無い。

 それからラティは、もっと自信を持って話せるようになると良いな」


ぎゅっとキツめに抱き締めて、優しく何度も撫でてやった。

ラティの肩が震えているが、別に泣き出す感じではなさそうだ。


手の置き場に困っているのだろうか?


まあそうだな。

自分が抱き締めたからと言って、

主人に抱き着く訳には行かないだろう。


「こういう場合は腰に手を回して良いぞ。

 ついでに少し男慣れしようか。

 ラティにもいつかちゃんと相手を見付けてやろうと思っている。


 それからお前は本が好きなのだろう?

 どこで売っているのか知らないんだが、

 機会があれば買ってやりたいとも思っている。


 貸本をする者がいる場所や、売っている場所、

 本を借りれそうな場所を知っているなら、

 休みの日にパニに頼んで出掛けても良いからな?


 これで好きな本を買ったり借りたりしてみろ」


ゆっくり目に説明したのでちゃんと解ったはずだ。

抱擁を解いてラティに金貨5枚を渡してやった。


ラティの稼いだ金額からすれば大した給金では無いが、

それでも大金の小遣いを前に、ラティは挙動不審になっていた。


ついでに33層以後の迷宮の情報を集めて来るようにお願いをする。


ラティは20層程度の探索者だったので、

その先である33層以後、つまり深層の情報を持っていないのだと思う。

探索者ギルドに行き情報を仕入れ、

ドロップアイテムやボスの特徴などを仕入れて来て欲しいと伝えた。


慌てて出掛けようと支度を始めたラティを食事後だと言って止めさせ、

クルアチもそろそろ支度をさせて頂きますと言って部屋を出て行った。

∽今日のステータス(2022/08/14)


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳 探索者 Lv71

  設定:探索者(71)魔道士(49)勇者(39)

     道化師:下雷魔法・荒野移動/知力中・知力大(45)

     僧侶(44)目利き(43)薬草採取士(44)


 ・ナジャリ     ドワーフ ♀ 16歳 隻眼  Lv30

 ・アナンタ     猫人族  ♀ 20歳 忍   Lv35

 ・イルマ      狼人族  ♀ 21歳 魔法使いLv39


   ↓


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳 探索者 Lv71

  設定:探索者(71)魔道士(49)勇者(39)

     道化師:下雷魔法・荒野移動/MP中・MP大(45)

     英雄(54)戦士(38)剣士(40)


 ・ナジャリ     ドワーフ ♀ 16歳 隻眼  Lv30

 ・アナンタ     猫人族  ♀ 20歳 忍   Lv35

 ・イルマ      狼人族  ♀ 21歳 魔法使いLv39



 ・繰越金額 (白金貨30枚)

     金貨 51枚 銀貨178枚 銅貨237枚


  装備品売却            (5500й)

   鋼鉄の剣 × 1         5500


  ラティ特別報酬            金貨5枚


     金貨- 5枚 銀貨+55枚

  ------------------------

  計  金貨 46枚 銀貨233枚 銅貨237枚



 ・異世界106日目(9時半頃)

   ナズ・アナ100日目、ジャ94日目、ヴィ87日目、エミ80日目

   パニ73日目、ラテ52日目、イル・クル49日目、イシャ23日目

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本文) >自分のジョブは英雄、勇者、戦士、剣士、道化師を取った。 探索者はアイテムボックスから弓やらを出す必要から常用として、魔道士も加えて7thジョブ体制ですな ただ、原典では決闘を挑めるのは自…
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