§357 我慢
昨日の夜は酒に風呂にとちょっとはっちゃけ過ぎてしまった。
そこは大いに反省だ。
潰れた後に部屋に運んでくれたのはナズだったらしいので、
大いに感謝をしておいた。
そういえば以前も酒場で酔い潰れて運ばれた事があったが、
その時運んでくれたのはアナだったかな。
今日もいつものように2人とキスをしてイルマの耳に悪戯をしてから、
裏庭に設置されている水槽へ水を溜めた。
続いて風呂場へ向かい、飲料用の水を用意する。
大きく欠伸をしながら背伸びをすると、
エミーが朝食に使うために盥の一つを持って行った。
続いてクルアチもやってきて順番に運んで行く。
最後にナズがやってきて、同じように持って行った。
いつもそうだったのかな?
水の入った盥はもう2つ分あるが、
そのまま待っているとエミーとクルアチが2順目を持ちに来た。
特に細かく命令をした訳では無いが、いつの間にかそうなっていたようだ。
そのように決めたのはナズだろうか。
エミーが自発的に何かを決めるとは思えない。
これまで自分が綿密に計画を立てて来たのは野外活動に限られていた。
そのため家の中の事に関しては無知と言うか、意識の外にあった。
よくよく考えてみれば、献立や日用品の買い物、
いつの間にか補充されている消耗品について、
アレコレ気にした事がなかったのだ。
そうならないように、ナズが気を回していてくれたのだろう。
ずっと縁の下で支えてくれていたナズに感謝の念を送った。
いや、念じるだけでは駄目だな。
感謝は言葉で態度で愛情で。
ぐるぐると肩を回しながら台所に向かう最中に、
お使いを頼まれたヴィーと擦れ違った。
「ご主人サマッ行ってきまーすっ!」
パニに送って貰えば良いのに、ヴィーもまた律義な奴だった。
いや、体を動かす事が元々好きなのか?
自分も朝の運動がてらジョギングでもした方が良いのだろうか?
特に用事が無い日はちゃんと日課の散歩はするように心掛けているが、
この所用事だらけで中々そういった時間が取れていなかった。
あ、いや、休まる時は大いにぐうたらしていたような気もする。
もう少し筋トレっぽい事をしなければいつまでたっても解決しそうにない。
勿論近接ダメージ云々の事である。
***
朝食時に全体ミーティングを行う。
格好付けて言ったが、実態は一方通行の業務連絡だ。
午前中はハンダールと共に迷宮へ、午後には彼を売却する旨を伝える。
クルアチに取ってみれば、
この男は村を壊滅させた盗賊団の一味だった訳だし、
名残惜しいとも何とも思わないだろう。
その他のメンバーにしてみたって、
高々10日で情が湧くかと言えばそんな事は無い。
皆淡々と話を聞いて終わるだけであった。
自分としても、これでようやく伸び伸びできると安堵の気持ちで一杯だ。
彼の扱いが意外と重荷になっていた訳で。
これも収入のためであると割り切った。
多分みんなそう思っているからこそ、黙って協力してくれていたのだ。
じゃあ全員に向けて報労を出さないとだな。
久しぶりに午後は休暇と言う事でどうだろうか。
この所イベント事が多すぎてそれどころでは無かったはずだ。
エミーやイルマの件、イシャルメダの件、クルアチの件。
どれもが一段落着いた訳だし、地図も納品予定日に少し余裕がありそうだ。
朝食の最中に伝えたので皆食べる方に集中しており、
休日や小遣いに付いての反応は薄かった。
若干の寂しさを感じざるを得ない。
もっとヴィー辺りが何を食べようかと騒いだりするのを期待したんだが。
***
先に食事を取り終わった自分は自室に戻った。
続いてナズとアナもやって来る。
「あれ?アナはともかくナズまでどうした?片付けは?」
いつもならばナズも片付けを手伝っている。
ナズにしてみれば主人であるのでエミーに任せれば良いのだし、
ここに居てはいけない理由なんて無いのだが、
いつもしている事をせずに戻って来たのが珍しかったのだ。
「はい、今日は2人にお任せして置きました。
その方がお話も弾むかと思って」
お話?
OHANASHIでは無いよな。†
そっちは恐怖体験である。
どういう事かなとアナに尋ねようと目を向けた所で、直ぐに補足が入る。
「私達は主人の立場を頂きました。
奴隷同士でなければ立場上言いたい事も言えないかと思い、
私達も席を外させて頂きました」
「あ、ああ、なるほど、そういう。と言う事は、
今まで自分がいない時は皆と何か話し合ったりしていたのか?」
「そうですね?特にお休みを頂いた時などには」
「奴隷にはまず休日と言う物がありません。
ジャーブまではともかく、エミーやパニ、イルマなどは、
何をして良いのか全く解らない様子でしたので、
その際には補足をさせて頂きました」
ああ、そう。
言われてみれば確かに。
あの時は先輩奴隷の見本があればそのうち皆慣れるだろうと思って、
説明や細かな命令をおざなりにしたのだった。
そういうのは宜しく無いと後になって改めたので、
今はちゃんと説明すべき所では補足を入れるようにしているが・・・。
そうか。
主人の前では気軽に相談し合えないか。
それもそうだな。
そうっと居間に向かうと、扉の向こうではヴィーがあれもこれもと騒ぎ、
パニが反対してジャーブが宥め、イルマはエミーに可否を尋ねていた。
自分がいない場ではいつもこんな事になっていたのか。
序列が機能しない我が家の事情もあるだろう。
イルマもクルアチも、先輩奴隷に相談をするような事は無いと言っていた。
ジャーブは最初の主人が自分であったし、
気が付いた事は漏らさず言えと命令した手前、
身内に対して意見し合う事には遠慮が無かった。
ヴィーやラティは奴隷としての基礎を学んでいないので、
多少行動が目に付くのは仕方無い所もあるとは思う。
だがエミー、イルマ、クルアチは厳しく躾けられた屋敷の奴隷。
恐らくはパニだってそうだろう。
主人の前では言い辛い事もある、そういう事だ。
自室に戻り暫く待っていると、
迷宮へ行く準備ができたのだとクルアチが報告にやって来た。
ナズもアナも印刷作業を続けるために作業部屋へと向かった。
2人はいつだって優しさに溢れていたのであった。
自分もクルアチと共に居間に向かう。
既にジャーブとヴィーは装備を身に着けて待っていた。
自分も装備を身に着ける傍らハンダールにも装備を貸し与え、
装着が整うまで待ってやった。
今回貸与するのはミスリルジャケットと白銀の槍だ。
昨日まで貸していた白銀の剣とチェインメイルは売却してしまった。
今回の貸出品は空きスロットがあるため、
そのまま売らずに何かスキルを付けて売却した方が良いと考えている。
ハンダールはミスリルジャケットに付いては何の反応も無かったが、
白銀の槍に付いては持ち辛そうにしていた。
多分上手く扱えないとか、そういう事なのだろう。
護身のために持たせているだけなので、
窮地に陥った際、適当に振るだけで牽制位はできるはずだ。
別にそれを持って戦えとか、そういう事は望んでいない。
今回も6人のパーティで向かいたいのだが、
既にイシャルメダは出て行ってしまった後のため、今日はイルマを呼ぶ。
空いた枠があれば経験値が勿体無いので。
同行するパーティメンバーが1人増えれば1人分の手数が増える訳だが、
今日向かう55層でイルマの魔法がどの程度貢献できるかは不明である。
現在のイルマはLv36、はっきり言って全然心許無い。
MPも多分枯渇するだろうから、当てにはしないで置く。
「ハンダール。お前がパーティを編成し、ここにいる全員を加えてみろ」
「xxxxxxxxxxxxxxxxx、ハンダール」
「xxxxxxxxxx。
友にアトマxxxヴィアレxxxx・・・の、パーティ編成」
「xxxxxx。信頼xxxx答えるxxxxx答えしxxxxx」
イルマに訳され命令を伝えられたハンダールは、
呪文っぽい物を唱えようとした事は理解できた。
しかし自分が理解できていなかったので、これではたぶん失敗だ。
イルマに修正と言うか、間違った個所を直されていた。
「友に答えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティ編成!」
──パーティ加入申請が来ています。
このパーティに加入しますか? はい いいえ
おっ、できたようだな。
そして最初のメンバーに指定したのは自分か。
ちゃんと解ってるじゃないか。
ハンダールはブラヒム語の基礎すら習っておらず、
昨日簡単に教えただけに過ぎないのだから仕方があるまい。
まだまだ呪文自体もしっかり覚えていないらしく、
発音も辿々(たどたど)しかった。
その後もイルマの助力があって、
何とか全員をパーティに加えさせる事ができた。
それでは次の段階である。
「次はフィールドウォークの呪文を唱え、
迷宮の横にあった樹木を想像してゲートを作って見ろ。
場所はしっかり覚えていなくっても何となくで大丈夫だ」
「ええっと、xxxxxxxxxxフィールドウォーク。
xxxxxxxxxxxxxトラッサエルヴィエンナ。
xxxxxxxxxxxxxxxx」
「xxxxx。回顧にラスアタンxxxxxヴィドマクxxxx──」
「巡るxxxxxx、行路xxxxxxxxx、フィールドウォーク」
「回顧に巡る行程を、共に目指さん行路の先を、フィールドウォーク!」
──ヴォンッ!
ゲートが出たのでくぐる。
行き先が不安だが、そもそもハンダールは沢山の地理を覚えていない。
変な場所に繋がれたとしてもそこは移動魔法で行ける範囲内である訳で、
それならばどこだって帰って来れるはずだ。
信じて踏み出してみたが、
そこはいつも自分がトラッサの迷宮に向かう際に使用する大木ではなく、
少し離れた場所にあった樹木であった。
まあ別にこちらでも要件は満たすので大丈夫だ。
彼の印象に残っていたのはこちらの木だった、と言う事なのだろう。
考えてみればフィールドウォークで出た瞬間に見える光景としては、
行き先に指定をした真後ろにある構造物は当然視界に入る訳が無い。
運用上困る訳では無いので特に指摘はしなかったが、
こういうのは実際に使用していくうちに気付くのだろう。
ダンジョンウォークをクルアチにお願いし、
今日もまたボス部屋と中間部屋の往復を行った。
アナがいないしハンダールもいるため、
ボスtoボスは事実上不可能なのである。
できると解っている事象に制約があって封じられるのは非常に歯痒い。
いつぞやの縛りプレイだな。
赤の他人を育成すると言う事は非常に面倒臭いのだと知ったので、
今後は頼まれてもやらないと心に決めたのだった。
***
やや遅くなっての出発であったが、
順調にアイテムボックス1枠分のコウモリの目が集まった。
昼食の用意ができており皆が待っているのであれば、
アナがパニに頼んで迎えを寄越していただろう。
と言う事はまだ時間があるのだ。
ハンダールのステータスを確認した所冒険者はLv19となっており、
育成はもう十分であろうと言う事は窺えた。
Lv19もLv20も大して変わらなく無いだろうか?
Lv20の大台に乗って何かしらボーナスが付くとかだったら知らないが、
細かくステータスの上昇量を検証した訳でも無いし、
そんな情報は当然持っていない。
だから、これで良いのだ。
クルアチのダンジョンウォークで外に出てから、
ハンダールに家の壁掛けを覚えているかを聞いた。
覚えていたそうなのでゲートを家に繋ぎ、全員を帰らせる。
自分も家に戻って、廊下の壁掛けは回収して畳んだ。
今後これは家の中では広げてはいけない。
何なら処分してしまっても良いかもしれない。
そもそも大工やら何やらと来客が有って、
人の目に付く廊下に置くべき物では無かったのだ。
かと言ってこの辺りに何かしら移動用の壁掛けが無ければ、
何かお使いを頼んだ際にパニが困るだろうし・・・。
そうだな、2階の廊下が良いだろう。
迷宮へ行く際の出発地点は今後ここからと言う事で。
新しくなった家は木材で作ったため、
鴨居があって引っ掛ける道具も持っている。
納屋の横には壁掛けフックを付けて貰っていたが、
今後はランタンでも置いて再利用させて頂こう。
そしてキッチンに顔を見せた所、
まだまだナズとエミーは支度を始めたばかりのようであった。
ナズの体内時計は十分信頼できる位に正確である。
自分としては戦闘時間に差異は無いように感じていたのだが、
遅く家を出たにも拘らずいつもより早く帰って来たと言う事ならば、
イルマの魔法は戦闘をそれなりに短縮する効果があったのだと言える。
検証を行う手立てが無いのが残念でならない。
MPも途切れる事は無く、
詠唱が終わった後にイルマは槍を振って戦っていた。
ヴィーがガチ受けするもんだから、タイミングよく横槍しただけである。
「まだ昼食まで時間はありそうかな?」
「はい?あ、ご主人様お帰りなさいませ。
ええと今お支度を始めたばかりですので、
ご用意ができるまでは40分前後掛かります」
「お急ぎで・・・ございますか?」
「いや、急いでは無いんだ。どのくらい時間の余裕があるかと思ってな」
「そうですか、いつもお食事を取る時間にはまだありますので、
お部屋でお休みなさっていて下さい」
「できましたら・・・お呼び致します」
「解った、じゃあその間にハンダールを商館へ連れて行ってくる。
食事は1人減らして、以前の人数分で良いからな」
「あっはい、かしこまりました」「行って・・・らっしゃいませ」
エミーは鍋を手で掻き混ぜながら、こちらに顔を向けて返事をした。
見た所2つの鍋が出ているので、多分米を研いでいるのだと思われる。
昨晩に続き今日の昼も米飯食か。
今日のメニューがどうなるかは判らないが、期待はしようじゃないか。
流石に2日連続で焼き魚と言う事はあるまいて。
ハンダールとイルマを連れ、ホドワの商館に赴いた。
途中でパン屋に寄り、フワフワパン1つを買ってハンダールに食べさせる。
それがハンダールに与えた最後の食事であった。
***
ハンダールが食べ終わるのを待って、ホドワの商館のノッカーを叩く。
昼前にも関わらず相変わらず素早い応対で、ジャーハンが現れた。
「ユウキ様ですね、本日はどのようなご用件でしょうか」
「ああ。以前にもお願いした、うちで働いていた奴隷の売却の件だ」
「そうですか、それでは奥までどうぞ」
何時ものように応接室へと案内される。
給仕は自分の分だけのハーブティーを用意した。
また初めて見る女性である。
ナズとアナが妻でなければ今直ぐ買って帰りたい位の美少女だ。
い、いや、待て、待て。
この女性が奴隷であって商品であるとは一言も聞いていない。
きっとこの商館の大事な看板メイドなのだ。
多分そうだ。きっとそうだ。絶対そうだ。
ごくっと喉を鳴らして彼女の退出を見送る。
「おや・・・お気に召されましたでしょうかな?」
す、鋭いっ。
こちらが上客だと知っての狼藉か。
この店の者は解っている。
全てを見据えている。
商売とは何であるか心得ている。
悔しいが、あちらの手玉に取られてしまっているのだった。
「い、いや、まあ、か、可愛い女性ではあるが・・・。
今日はそうではなくってだな!」
「ええ、冒険者の奴隷でございましたね。
ええと、男だとお聞きしておりましたのですが、
こちらの者で宜しかったでしょうか?」
「ああ、そうだ。人間語が解らない自分からは命令が通じなくって、
いつもこのように解る者に通訳をお願いしている」
「直接の命令も無く長い間仕えて来たのですか、それもまた凄い事で。
お預かりしておりました他の女奴隷のように、
言葉を当商館で学ばせても宜しかったのですよ?」
「いやまあ、頼むにはそれなりの理由があったのだ。
竜人族の娘は元々孤児だったので生活からしてできなかった。
兎人族の女は盗賊に捕まって売られたらしく、
可愛そうなので解放をしてやろうと思ってお膳立てをしてやったのだ。
今回通わせている女は、酒場に給仕として売り込んでいる最中でな?」
「えぇーっと・・・なるほどなるほど。色々と事情があった訳ですな」
「で、今回のこの男の事なのだが、
以前ここで買ったパニと言う竜人族の男がいただろう?」
「えぇーと、あぁはいはい。
男娼としてお売りさせて頂きました、可愛らしい感じの」
「あれがこの度冒険者となり、うちの竜人族の娘と番になった」
「おお、なるほどなるほど。それで2人目が不要になったと。
確かに、そういう事でしたら納得でございます。
いえね。ここだけの話でございますが、
どうして冒険者と言う貴重な人材をそうも簡単に手放すのかと、
館主も不思議がっておりました。
扱いに難がある者では多少売値に影響がありますので」
「そういえばアクバル殿は?」
「本日は奴隷の買い付けに向かっております。
ある程度奴隷を流動させてやらねば、
贔屓にされるお客様に自信を持ってお勧めする事ができませんのでね」
やっぱり。
じゃあさっきの女性も、自分が上客だと知った上で見せて来た訳だ。
商品・・・と言ってしまって良いのだろうか、
ローテーションした上で新商品を客に見せ付けて購買を煽る。
何とも商売上手である。
「ちなみに先程の娘はいくら位なのだ?」
「おおっ!シャルマンダをお気に召されましたでしょうか?」
「い、いや、なに、ああいう客に勧めて来るような奴隷の、
一般的な相場はどの位なのか聞いておきたい」
「あの娘は美形ですし生娘で器量も良く、
身の回りの世話を中心に家事を良く働けるように教育された、
当店でも自信を持ってお出しできる奴隷になります。
一見のお客様でしたら80万ナールと吹っ掛けてしまう所ですが、
いつもお世話になっておりますユウキ様でしたら、
頑張らせて頂きまして60万ナールでと言う所でしょう。
冒険者の奴隷を20万ナールで下取り致しまして、
差額の40万ナール。如何でしょうか?」
くっ、やっぱり足元を見に来た。
下取り価格も多分色を付けられた。
くぅぅぅっ。
悩む。
葛藤だ。
オーバードライブとオーバーホエルミングした。
長考して揺らいでいるような真似は見せる訳に行かない。
ほぼ時間停止した自分だけの空間でじっくりと考える。
今、彼女を買って帰ったら多分自分はハッピーだ。
世話を仕込まれた超絶好みの美少女との事だ。
多分ここまでドンピシャな娘は滅多に出会う事が無いだろう。
ちょーれつお世話係メイドさんだ。†
だがナズとアナにしてみれば堪ったものでは無い。
イルマだって心穏やかでは無いはずだ。
あれだけ安心しろと言って念を押した手前もある。
快楽と罪の重さを天秤に掛けて、・・・自分は安泰の道を取った。
誰もが傷付かない無難な道。
恐らくミチオ君なら有無を言わず買っていた。
ロクサーヌは戦闘メンバー以外の女性を拒んでいたが、
頭の回るミチオ君の事だ。
第2パーティを編成したいとか何とか言って、
或いは将来領主になったらもっと配下が必要だとか言って。
上手い事ロクサーヌの追及を躱した事だろう。
変に恋愛感情を出さず淡々と奉仕を享受していた方が、
こういった時に有利に働くのだ。
自分は情に生きて情に流され、我儘を叶えるために2人を嫁にした。
最低でもその責任は取らねば。
「ユウキ様?」
時間が戻ったようだ。
結論は出た、彼女は買わない。
・・・多分。
「い、いや、相場が気になっただけでな。
予定通りこの男を売って今日は帰らせて貰う。
今後商売をするに当たり人手を増やそうとは考えているので、
その時はまた改めてお願いしたい」
こう返答して置けば角は立たないだろう。
興味がある素振りをして置きながら、
値段を聞き尻込みしたとは思われたくない。
「左様でございますか、残念です。
それでは予定通りその男の売却は16万ナールで宜しかったでしょうか」
「どの位遠くに飛ばせるかどうかはちょっと解らんのだ。
ここからトラッサの迷宮へ6人で往復できる位には育っているんだが」
「おお、それならば十分でございます。
流石ユウキ様でございますね。それではお手を・・・」
自分が腕を差し出し、ハンダールもイルマに説明を受けて真似る。
ジャーハンはインテリジェンスカードの呪文を唱え、
自分とハンダールのインテリジェンスカードを操作すると、
目の前にウインドウが出現した。
──ハンダールとの奴隷契約を解除するように要請が来ています。
奴隷契約を解除しますか? はい いいえ
2回の確認メッセージの後、ハンダールは自分の配下から消えた。
ナズを一時手放した時と作法は同じであったが、
感じた心境はまた別物であった。
憑き物が落ちたような楽な気持ちと共に、寂しさに近い感情が自分を覆う。
彼とはこれで最後か。
他の者に説明した時は無味乾燥そのものであったが、
自分にしてみれば大事に育てた大事な奴隷だった。
それなりに愛着が出始めていたのかと今更になって気付く。
これ以上ハンダールの育成に手間取っていたら、
彼もまた自分の家の一員になっていたのかもしれない。
もしかしたら農場で働かせていたのかもしれない。
・・・うーん、流石にそれは無いか。
冒険者を取らせた意味が無いからな。
迷宮では戦えないし、農作業に就かせても勿体無い。
荷役労働をする先に知り合いはいない。
やっぱり不要だな。
そう思うと、先程まで寂しがっていた気持ちに折り合いが付いた。
「それではハンダール、良い主人に買って貰えるように祈って置く。
達者で暮らせよ」
「xxxxxxxxxxxハンダール、xxxxxxxxxx。
xxxxxxxx?」
「xxxxxxxx。xxxxxxxユウキxxx」
「お世話になりました、ユウキ様、だそうです」
「ほうほう、中々よく躾けられていますな。
これで言葉が通じていなかったと言うのが信じられませんなあ」
い、いやあ、コイツが元々根の良い奴だっただけだろう。
そもそも性悪であったならば騎士団に突き出していた。
そう考えればまあ当然の結果なのか?
その後、16万ナールを持ってきたのは先ほどの可愛い美少女であった。
だからっ!
折角先程決心した心がグラングランに揺らぐ。
少なくとも心拍数は上がっている。
持って来たトレイから金を受け取って、
応接室から退出した際にもう一度だけチラっと給仕の女性を見た。
目が合うと彼女はニコっと微笑み、ジャーハンはニヤッっと笑った。
ちっくしょおおおお!
∽今日のステータス(2022/08/11)
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv71
設定:探索者(71)魔道士(48)勇者(38)
道化師:下雷魔法・荒野移動/知力中・知力大(45)
僧侶(43)目利き(42)薬草採取士(43)
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 聖騎士 Lv30
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜王 Lv27
・イルマ 狼人族 ♀ 21歳 魔法使いLv36
・クルアチ 兎人族 ♀ 18歳 探索者 Lv31
・ハンダール 人間族 男 23歳 冒険者 Lv14
↓
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv71
設定:探索者(71)魔道士(49)勇者(39)
道化師:下雷魔法・荒野移動/知力中・知力大(45)
僧侶(44)目利き(43)薬草採取士(44)
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 聖騎士 Lv30
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜王 Lv28
・イルマ 狼人族 ♀ 21歳 魔法使いLv39
・クルアチ 兎人族 ♀ 18歳 探索者 Lv35
・ハンダール 人間族 男 23歳 冒険者 Lv19
・繰越金額 (白金貨30枚)
金貨 35枚 銀貨178枚 銅貨247枚
パン屋 (10)
ちょっといいパン × 1 10
ハンダール売却 (16万й)
金貨+16枚 銅貨-10枚
------------------------
計 金貨 51枚 銀貨178枚 銅貨237枚
・収得品
赤身 × 3 削り掛け × 8
鉄 × 9 鋼鉄 × 2
ロース × 31 コウモリの牙 × 55
コウモリの目 × 74
・異世界105日目(朝)
ナズ・アナ99日目、ジャ93日目、ヴィ86日目、エミ79日目
パニ72日目、ラテ51日目、イル・クル48日目、イシャ22日目
・トラッサの迷宮
51 ブラックダイヤツナ / ※
52 ラフシュラブ / ※
53 ロールトロール / ※
54 ピックホッグ / ※
55 パットバット / ※バッドバット




