§353 白状
昼食を前にアレクスムへ向かい、
ジャミルからは依頼品のモンスターカードと、
以前に頼んだ武器防具の競売結果を受け取った。
勿論そのまま帰らず、
ついでに武具屋に立ち寄って空きスロット装備品を探す。
欲しいと思えるランクの装備品で、
尚且つ空きスロットがある物と言うのは中々少なく、
奥の方から持って来て貰った装備品も微妙であった。
やはりここからは作って行くしかない。
アレクスムの探索者ギルドに立ち寄り、
白銀とブランチを注文した。
現在の在庫は白銀が120個あるそうだ。
そう沢山ストックしているのでは無いらしい。
あまり産出され難いボスのレアドロップなのか、
そもそも人気がないボスなのか、
或いはアレクスム近辺の迷宮からは産出しないのか。
ともかく有れば有るだけ買いたい所だ。
この国ではオリハルコン素材を購入するのは一般人では難しいので、
現状で足が付く事無く揃えられる最強装備は白銀か聖銀製と言う事になる。
聖銀は・・・もう良いよ、ホラ。
無茶苦茶高かったし。
魔法を使うのは自分とイルマだけだしね。
防具ならば魔法防御が乗ったりするのだろうけれど、
白銀で揃えてモンスターカードで盛った方が財布に優しいだろう。
聖銀+鯉+4属性の耐性カードが必要な程大深部層には行く予定が無い。
それこそ、クーラタルの最上層クラスなのだろう?
そんな装備が必要な場所といえば思い当たるのはその位でしかない。
初代ガイウス皇帝、やっぱり凄いな。
オーバーホエルミングと自前の剣術だけでそこまで向かい、
そこで力尽きる事なく生還を果たしたので国を興せたのだ。
志半ばで倒れたのであれば、帝国は存在しなかった事になる。
それはさて置き、在庫の120個全部を注文した。
多分掲示板で募集したところでそう沢山は手に入らないようなので、
10日以上掛かってしまえば流れてしまう。
そもそも流れるだろうと皆知っているから、
そんな依頼には誰も手を出さないのだと思う。
時間も金も無駄にはしたくない。
買取カウンターで正価 (と言っても3割引き)で買うしかあるまい。
それから確かブランチは大量に必要だったはずだ。
250本をお願いした。
こちらは潤沢にあるようだが、買う者も多そうだ。
ブランチは普通に高火力が必要な燃料として使うらしく、
一般的な炭より高火力かつ3倍以上の時間持つのだとか。
無論、その分炭単体を買うよりは高く付く。
やっぱり迷宮産のアイテムは凄いな。
この世界がローテクで推移する理由たり得る訳だ。
迷宮は人を惑わし、人を誘い、そして人を食う。
それだけで無く、文化の促進をも阻害しているようだ。
人々は迷宮によって翻弄されて生きている、
それがこの世界の実態なのだろう。
自分は惑わないようにしなければ。
その足でトラッサの買取カウンターへ向かい、
更に157個の白銀を購入する。
ここで売っているとなると、外国から持ち込んで売っていた線は消える。
自分がまだ行った事の無い31層から55層までの魔物のうち、
どれかが落とすと言う事で間違い無いだろう。
あ、いや、55層は無いな。
ここ3日、目利きを就けて戦っているのに全く落ちなかった。
そしてホドワの買取カウンターでは白銀材料は売っていなかった。
要するにホドワでは該当する魔物が許可階層までに出ないのだ。
ホドワは50層までしか解放されていないらしい。
と言う事は45層以降50層までの間で、
白銀をドロップする魔物がいないのだ。
このうち植物系のネペンテス、アニマルトラップ、
そしてラフシュラブのボスはまず有り得ないだろう。
それから水生系であるオイスターシェルのボスはスカラップシェルで、
アイテムはスカラップエキスであると言う事が判っている。
マダムバタフライ、キラービーなどの昆虫類も金属とは無縁だ。
ブラックダイヤツナ、ピックホッグは食材を落とすので、
恐らくボスも高級食材だと思う。
これらの各ボスは、金属材料を出しそうも無い。
それからパットバットのボスであるバッドバットも、
ドロップ品に金属材料が無い事が確定している。
消去法でボトルマーメイドのボス、
或いはロールトロールのボス。
何れかがホドワに於いて50層より前に出ない訳だ。
ラティに聞けば教えてくれそうだが、
トラッサの迷宮では切り良く55層までと言う事もあって、
両方とも戦う事はできる。
ロートルトロールが20層で、ケトルマーメイドが17だったのだから、
ロールトロールなら53層、ボトルマーメイドならば50層である。
行けなくも無いだろうし、できる事なら買わずに集めたい所である。
しかし今の所、金には余裕が有るので取りに行くより買った方が早い。
その装備で地図を作って売れば、直ぐに回収できるのだから。
そう、これは投資なのだ。
***
家に帰り、まずは食事である。
結構な時間皆を待たせた気がするが、
今日はどういう訳かヴィーは大人しかった。
食事が開始されると何時ものようにラティとクルアチと3人で、
熾烈な争いを始めるのは変わらないが。
もうちょっとおかずの数を増やしてやった方が良いのか、
各自の皿に規定量収めた方が良いのか。
何だかんだこの光景自体を楽しみにしている所もあって、
不満が無いなら別にこのままでも良いのだろう。
ラティの待遇の改善に付いては既にアナの所管なので、
もう自分が口を挟む事では無い。
食事が終わると印刷組は仕事場へと向かって行った。
大層な言い方であるが、隣の部屋に行くだけである。
自分たち第1パーティは午後も迷宮であるが、
ナズたち第2パーティは印刷をお願いしておいた。
と言っても、実際に印刷をするのはアナとパニとラティだけである。
アナは不器用なので、結局の所作業をするのはパニとラティである。
アナは乾かしたり水を替えたりだ。
主人なのに雑用をさせてしまって申し訳無いが、
彼女が率先してやると言うのだし、
アナに任せられるのはその位なので仕方無い部分もある。
ナズとエミーは本日納品する酒場用の食材の準備だ。
エミーはクレープ生地を焼き、ナズは麺の生地を捏ねる。
こればっかりは種族補正が掛かっている者が有利であるし、
パニでは料理の心得が無いので段取りができない。
結局ナズが見届けるのであれば、もうナズがやった方が早いのだ。
申し訳なくも思いながら、後をお任せした。
ハンダールの件が片付いたら手伝いますので許して下さい。
*
*
*
昨日も一昨日も、もうずっとやっているボス相手なのだから、
もう魔物のパターンも予想ができ皆の動きにも余裕があるように見える。
飽きたといえば飽きたのだが、他に行けそうなボスも無い。
白銀を落とすボスを周回しようと思った所で、
回し難いような人が多い階層であれば却って効率が悪いのだ。
狙ったアイテムを集めるのはもっと時間がある時で良い。
残念ながら今は実りの少ないここを回すしかない。
もっと言えば、ハンダールの強化こそが最大の報酬なのだから。
ひとつ前の階層は混雑が予想されるし、
もっと落とすとなると今度は経験値の旨味が無くなって来る。
並の探索者は同じ階層を半年も行くのだっけ?
みんな強靭な心の持ち主だよ。
・・・そうでも無いか、皆必死なのだった。
ぶつぶつと考え事をしながら魔法を唱える。
結局の所、自分は後衛であるので何だかんだ言って余裕があるのだ。
飽きるのも当然である。
結局の所どの階層に行こうが自分は後衛で、
前衛が安定したら飽きが来てしまう訳だ。
前線でガチ目な戦闘を繰り広げている2人、
いや3人には申し訳なく思いながら淡々と魔法を重ねた。
それにしても、何故クルアチは突撃して行くのだろうか。
弓は後衛では?
現在クルアチは鉄の弓を持って敵陣に切り込んで行き、
矢が無くなると拾えるものは拾い、
それでも尽きると戻って来て追加を要求する。
そして再び突貫しに行くのだ。
何故っ!?
彼女には後衛といった概念自体が無いのか、
先輩が前線で戦っているから申し訳無いと思うのか、
英雄のジョブに戻した際には聞いて置こう。
それより、ダメージや威力は距離依存だったりするのだろうか?
そんなクルアチの探索者Lvは28と成っていた。
基本ジョブだしブーストされている上に倍位の階層のボスである。
やはり上がりが早い。
自分の勇者の職などは未だにLv38である。
今後同じ道を辿らせる予定であるクルアチも、
高みに至るためには苦労しそうだ。
その後もボスも雑魚も関係無く突っ込んで行くクルアチに、
どこかヴィーのような面影を感じながらもボス戦を繰り返していった。
特にボスであるバッドバットはフラフラと上空を飛び交うので、
カウンター待ちを続けるジャーブや、そもそもが届かないヴィーに比べ、
クルアチの弓は一方的に攻撃ができる唯一の手段となる。
勿論自分も弓を入れるのだが、遠距離からだ。
真下から手が出るクルアチを嫌ってか、
バッドバットはそこに攻撃を仕掛ける事が多く、
そこを何とかジャーブが薙ぎ払っているので今の所事故は起きていない。
それでも見ていてハラハラする事は間違い無い。
当のクルアチも、
ジャーブに助けられてばかりで危険性を認識しておらず、
これは今後の課題点となろう。
魔物と戦う事は動物を追うのとは違う。
これは狩りではないのだから。
***
今回もアイテムボックスの1枠を埋めた所で撤収する。
現在の探索者Lvは71。
もう大分ここで狩りを続けているが、
探索者Lvは微動だにしなくなっていた。
恐らくこの階層ではその辺りが限界なのだろう。
半日で35回ボスを周回した事になる。
この階層では一度に2匹出るし、お供も2匹なので。
目薬ばかり溜まっても困るし、そろそろ売りに行かなければ。
家に帰り、印刷組にも今日の業務終了を伝えた。
ナズも本日の納品分の仕込みは済んだようで、印刷を手伝っていた。
エミーは・・・多分1人で厨房だ。
みんな頑張っている。
ずっと机に齧り付きだったラティやパニが大きく背伸びをし、
イルマは片付けに入った。
ナズとアナは自分に飛び込んで来る。
「お疲れさま、2人とも。今日はどのくらい進められたのかな?」
「ご、旦那様もお疲れさまでした。
ええと、私は片面しかやっていませんので良く分かりませんが、
写していたのは25層になりますね」
「おかえりなさいませ、旦那様。
まずは半面を写して乾かして行こうかと思いまして、
1層から初めて現在27層に取り掛かっておりました
29層まで写し終えましたら後半面をやって行く手筈になっております」
「そうか、色々と考えてやっているんだな。
と言う事は大体半分位終わっているのか」
「そう・・・ですね。30層以降の部分は2枚で1組になりますので、
まだ半分には及ばないかと思いますが、概ね順調です」
「そうかそうか、アナが面倒を見てくれて非常に助かった。ありがとう」
アナとナズをそのまま抱き寄せて撫でた。
2人を解放した後にパニを労い、ラティも撫でて置く。
イルマはインクで真っ黒になった盥を運んでいたので後回しだ。
汚れても困るし邪魔は良くない。
作業を終えた全員が居間に集まったが、
まだ少し夕食には早かったようで、
エミーが忙しく動く中クルアチも手伝いに入った。
ナズも味見のために台所に立つ。
「それじゃ、解っていると思が今日は酒場の日だ」
「また今日もタコスが!」「ヤッター!辛いのー!」
「細く切った生地と薄焼きパンは・・・こちらに用意してあります」
エミーが窯の横に置かれたバスケット2つを示す。
その横には水差しが1つ、恐らくラーメンのスープだろう。
あ、カモーツの汁が無いな。
「おいジャーブ、急いでカモーツの実の砕いて濾せ。あれが無いと困る」
「ご主人様。その件なのですが、勝手に持ち出して良いのか分からず、
お部屋に置かれたままの状態で作成しておりましたので、
ガラスの器も水差しも、ご主人様のお部屋でございます」
イルマから補足が入った。
確かに濾過器もコック付きフラスコもそれ専用の道具ではない。
何だったらその前に薬を作成した訳で、ずっと部屋に置いたままであった。
あ・・・洗ったよね?
大丈夫かな。
部屋に向かうと確かに濾過器はちゃんとサイフォンになっていて、
今こうしている間にもポタリポタリと流れ落ちていた。
イルマがこれをセットしたのだろうか?
今はもう上に残っている液体も少なくなっている。
受け皿に置いたビーカーにもう少し溜まったら、
後は水瓶に移してバンディールを混ぜて持って行くだけだ。
流石に使用する前に洗ったと信じているが、
セットしたであろうイルマが続いてやって来たので、一応聞いてみる。
「その、イルマ。一応聞くが、使用する前に洗ったよな?」
「はい。ええと、片付けられる前はお薬を作られていたかと思いますので、
一度水で濯がせて頂きました」
セーーーーッフ。
「そ、そうか、良かった。薬と混ぜてしまうと色々拙いからな。
そうかそうか。言わなくてもちゃんとやった所は偉い」
改めてイルマを抱き寄せ、片手で耳をパフパフしながら撫でる。
ピクピクと尻尾が揺れ動くが、あまりこれをやってはいけないのだ。
ううん、じれったい。
早く治してやりたい。
イルマを褒め撫でてから居間に戻る。
一応彼女達だけで納品物が用意できた訳だ。
クレープの生地はエミーが焼いて用意してくれたようだ。
ラーメンの方は麺を捏ねたのはナズで、
麺を切ったのはエミーらしく、綺麗に切り揃っていた。
エミーは時折不器用さを見せる割に、こと料理に関しては呑み込みが早い。
やりたい事に関しては学習が早い、そういう事なのだと思う。
それでも麺を用意するのはやはり大変なようだ。
イシャルメダの言語学習が終わるまでは、
ナズやエミーに余計な負担が掛かる事になる。
ただでさえ食事の支度もあると言うのに。
それでもナズやアナ曰く、一般人が普通に働く量よりは少ないのだとか。
こちらの世界の労働環境にまるで慣れなくって、未だ困惑してしまう。
***
食事後、各自の部屋に皆が散って行くが、
台所の片付けを行うエミーとクルアチが台所に残った。
自分はナズ、アナ、イルマと共に部屋に戻ったが、
そこには芳醇に立ち込めるコーヒーの香りが広がっていた。
まったりしてしまって、これでは何かをしたい雰囲気では無い。
自室でコーヒーを淹れるもんじゃないよ、本当に。
既に滴り落ちる液体も無くなった濾過器からビーカーを外し、
イルマは水瓶に移し換えるとそれを下へ運んで行った。
残されたナズとアナには申し訳無いが、もう今はコーヒーの気分だ。
2人を愛でる気分には到底成らなかった。
──トントン。
「ユウキ、いる?」
外からイシャルメダの声がした。
「ああ、どうした?」
「ワタシ、さきにイくね?カモゥツのおサケ、
じゅんびデキたみたいだから」
「ああ、解った。気を付けて、今日も頑張ってこい」
「ええと?キョうもナニ?もうイっかい」
「ん?頑張って手伝って来るんだぞ」
「ええと、うん?ガバって?イってくるね」
あれ?
微妙に通じてない?
イシャルメダとは普通に意思疎通ができていたと思ったが、
一部のニュアンスが通じていなかったようだ。
「あ、待って下さい、イシャルメダさん。
それでしたら私も行きますので一緒に行きましょう?」
「ええと、ナズさん?ハイ。ジャあ、下でマてるね?」
「それでは、旦那様。一緒に行って参りますね?」
「ああ、ナズも気を付けて」
「はい、ありがとうございます。カンテラをお借りして行きます」
ナズが扉を開けて出て行った。
入れ替わりでイルマが戻って来る。
「イシャルメダさんも少々ブラヒム語が解って来たようで何よりです」
「そのようですね」
「え?今のブラヒム語だったの?」
「はい?」
「あ、いや、何でも無い。気にしないでくれ」
「・・・かしこまりました」
アナが神妙な視線で見詰めて来た。
かしこまりましたと返事をしたが、視線がそうは言っていない。
駄目だこれは。
何ですか今の問答はと、火の玉ストレートを浴びせて来る。
イルマもベッドには戻らず、立ったまま硬直している。
と言うよりも、今の自分とアナの遣り取りで緊迫した空気を読んだ。
・・・・・・・・・。
沈黙に耐え兼ねて自分が先に根を上げてしまった。
「い、イルマ・・・」
「は、はい、何でございましょう」
「これから聞く話は誰にも言ってはならないし、ここだけの話にしてくれ。
聞いても忘れてくれればそれで良い」
「え・・・あ、あの・・・・か、かしこまりました」
神妙なトーンで話し始めると、アナはベッドに正座してこちらを見詰めた。
そこでイルマもようやく彼女のベッドに腰を下ろす。
「アナ、自分は3つの種族言葉が解るのだ」
「ええと、私たちの知っているバーナ語と、ヴィーの話す竜人族の言葉、
それからナズさんの話すスラク語でしょうか」
「ドワーフの言葉はスラク語と言うのか・・・」
「はい、ナズさんからそう聞きました」
「まあそんな具合で3つの言葉と、それからブラヒム語が理解できるのだ」
「はい、それは存じております。その代わり人間語が解らないのだとも」
「実を言うとな、自分が話している最中それが何の言葉であるか、
特に意識する事無く相手が解る言葉に置き換わっているようなのだ。
自分としてはブラヒム語を話しているのと何ら変わりない」
「ええと?・・・ちょ、ちょっとお待ち下さい。理解が・・・」
「あ、あの、やはりご主人様はサリニク語を話せないのですか・・・?」
「先程イシャルメダから出掛けると聞いた時は、
確かにバーナ語だったような気はする」
「ええ、そうですね。私たちの言葉でした。
それに対して旦那様はブラヒム語でお返事をされていたので、
私はどれだけ言葉の理解が進んでいるかどうか、
試しておられたのかと思っておりました」
「先程言ったように、
自分が喋る言葉は選んでその言語で発している訳では無いのだ。
自分としてはブラヒム語を話す感覚で変わらない。
相手が理解できる言葉へ勝手に置き換わっている」
「やはり・・・旦那様はこちらのお方では無いのですね?」
「えええ!?どっ、どっ、どういう・・・事・・・な(のですか)」
「そ・・・そうだな。もう今更だとは思うが。
ナズも既に知っているのだろう?」
「はい、そうですね。私からお伝えしてあります」
「えええええええ!?」
イルマが今知った事実に驚きの声を上げる。
良いから君は黙って聞いてなさい。
「イルマ、この事は・・・エミーには言うなよ。余計な心配を掛ける」
「かっ、かっ、かしこまりました。ひっ、秘密に致します」
「そんな訳でイシャルメダに対して普通に返事をしたつもりだったんだが、
多分壁越しで相手を認識できなかったから、
勝手にブラヒム語になったのだと思う」
「つまり・・・旦那様はお相手に応じて、
話す言葉を変えられるお力をお持ちなのですね?」
「そうなのだが、不便な事もあってな。
自分がどの言語で話しているか、自分にも解らない」
「なるほど・・・そういう事だったのですね」
「今後もそういった事があると思うから、
せめてブラヒム語の文字位は読めるように、
それから人間語だけは話せるようになって置きたいとは思っている」
「かしこまりました。今後は注意するように致します」
「サ、サリニク語でしたら私がある程度お教えする事ができますが・・・」
「ああ、イルマもその時は頼む。
もう少し落ち着いたら暇ができるだろうから、その時に」
「イルマ、宜しくお願します」
「かしこまりました」
「そういう事なのでな。
イシャルメダに話したのがブラヒム語だったとして、
彼女はある程度理解できるようになったと言う事で良いのかな?」
「は、はい。『頑張って』が伝わらなかったようですが、
概ね旦那様が仰った事は理解できていた様子でした」
そうか、それなら満足だ。
ついでにアナとはある程度の秘密を共有する事になった。
彼女が知りたかった事なのだし、それを明らかにするとは言っていた。
イルマにまで聞かせてしまったが、もうこの際一蓮托生だ。
死ぬまで付き合ってもらうぞ、イルマ。
「ナズにも後で頼む」
「かしこまりました。イルマも、良いですね?
この事を知ったからには、もう旦那様の下でしか生きられません。
お互いが死ぬまで、この家に仕えるのです。解りますね?」
「し、しぬっ、(ごくっ)は、はい・・・」
***
今回はハンダールの見張りを解除して全員で酒場へ行く事になった。
解除とは言っても、もうだいぶ前から見張りは緩くなっている。
丸1日ずっと見張りを付けていたのは最初の2日3日、
後は緩めに、誰かの目があれば良いやと言った状態だ。
従って今日は全員で行く事になるが、
流石にハンダールを1人残して出掛けると言うのは無しだろう。
つまりこの男も連れて行く事になる。
「イルマ、今日はハンダールも酒場に連れて行くので通訳を頼む」
「よ、宜しいのでしょうか・・・」
「イルマ?旦那様がそうしなさいとのご命令です」
「かっ、かしこまりました」
「ハンダール、我々は世話になっている酒場で飲食をしに行く」
「xxxxxxxxxxxxxxx、ハンダール」
「今日はお前も連れて行こうと思う」
「xxxxxxxxxxxxxx」
「xxxxxxxxx?」
「私が行っても良いのか、と言っています」
「お前を預かっているのはもうそろそろ終わりになる。
商館へ売却する前に、大人しくしていたお前には酒を許そう」
「え・・・あ、はい。
xxxxxxxxxxxxxxx。xxxxxxxx──」
「xxx!xxxxxxxxxxxxxx」
「よ、喜んでいるようです」
ハンダールの面倒を見始めてもう6日。
その間、特に手も掛からず大人しくしていてくれたご褒美でもある。
迷宮にも黙って付いて来たし、後ろから斬り付けてくる真似もしなかった。
彼もまた、生きられる術があればそれに従っただけなのだ。
生い立ちが若干ヴィーと被って見えた。
だからと言って12人目の枠に入れたいかと言えば、そうでも無い。
戦闘メンバー以外はもう間に合っている。
彼に頼みたい仕事も思い付かないのだ。
冒険者は既にパニがいる。
頭目を含めて全員始末した恐ろしい主人の元にいるよりは、
全然知らない別の誰かの元で仕えた方が彼にとっても気が休まるだろう。
農園を興そうとは思うが、それはもっと先の話だ。
冒険者にしたのに農作業では申し訳無いと言うのもある。
何より、折角の才能を開花させたのだから、
もっと有意義にその能力を使うべきだ。
居間で待っていると、準備を終えた皆が集まって来た。
今日は大所帯となるので移動魔法を使用せず徒歩で酒場に向かう。
いつものように裏口から入って、1つしかないお隠れ席を陣取った。
まだ薄明るいので、本当にこの席が必要な客はまだまだ来ないらしい。
自分達が早い時間から使用していた事は逆に有難かったそうだ。
しかし現在は酒の荷役と引き換えにタダ酒となっている。
勿論全額無料って事は無い。
いつも頼む定番のタコスと1杯目が無料で、追加分からは料金が発生する。
今日はハンダールも加わって10人だ。
門出の祝いに奢った1杯は最初から追加分である。
ナズとイシャルメダは給仕する側なので客では無い。
皆で乾杯をした後、ハンダールにジョッキを渡す。
通訳はイルマにお願いした。
クルアチだとどうしてもニュアンスに違いが出て来てしまうので。
「xxxxxxxxxxxxxx!」
「あの、ありがとうございます、と言っています」
「xxxxxxxxxxxxxxxxxxx。
xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx・・・」
「ええと・・・ちょっと、ウェップ、アダット!ウェップ!
アブトアダット、アダッド!ええと、
俺は?盗賊になる?前は?・・・──」
盗賊になる前は酒を口にする事などできなかったそうだ。
とは言え、盗賊と成った後の方が食べ物に困る事は多かったのだとか。
追加で頼んだ鳥の丸焼きの切れ端を肴に、
ハンダールは最後になるだろう1杯を味わって飲んでいた。
いや、お代わりして良いよ?
そう伝えると、ハンダールは更に喜んだようだった。
盗賊同士でもヒエラルキーはあっただろう。
思うままに酒を飲めるかと言ったら・・・。
Lv3の新米盗賊じゃあ無理だろうな。
現在は探索者Lv48。
Lv40台になってからは1日+2Lv程度だったが、
明日頑張ればLv50になるはずだ。
その後にもう1日最奥層で経験を積めば、
初期ブーストして冒険者Lv20まであっと言う間、その後は売却だ。
明日も頑張ろう。
∽今日のステータス(2022/08/07)
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv71
設定:探索者(71)魔道士(48)勇者(38)
道化師:下雷魔法・荒野移動/知力中・知力大(45)
僧侶(41)目利き(41)薬草採取士(41)
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 聖騎士 Lv30
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜王 Lv26
・クルアチ 兎人族 ♀ 18歳 探索者 Lv26
・イシャルメダ 猫人族 ♀ 29歳 料理人 Lv23
・ハンダール 人間族 男 23歳 探索者 Lv48
↓
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv71
設定:探索者(71)魔道士(48)勇者(38)
道化師:下雷魔法・荒野移動/知力中・知力大(45)
僧侶(42)目利き(42)薬草採取士(42)
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 聖騎士 Lv30
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜王 Lv26
・クルアチ 兎人族 ♀ 18歳 探索者 Lv28
・イシャルメダ 猫人族 ♀ 29歳 料理人 Lv27
・ハンダール 人間族 男 23歳 探索者 Lv48
・繰越金額 (白金貨29枚)
金貨 73枚 銀貨118枚 銅貨123枚
アイテム購入
(218800→153160й)
白銀 ×120 208800
ブランチ ×250 10000
アイテム購入
(273180→191226й)
白銀 ×157 273180
酒場代 ( 570й)
エール ×2 100
ミード ×1 100
カクテル ×1 50
カルーア ×1 80
ジュース ×1 30
ラム肉のチーズ焼き 120
鳥の丸焼き ×1 180
金貨-34枚 銀貨-49枚 銅貨-56枚
------------------------
計 金貨 39枚 銀貨 69枚 銅貨 67枚
・収得品
赤身 × 6 削り掛け × 10
鉄 × 16 鋼鉄 × 9
ロース × 25 コウモリの牙 × 54
コウモリの目 × 72
・異世界103日目(昼前)
ナズ・アナ97日目、ジャ91日目、ヴィ84日目、エミ77日目
パニ70日目、ラテ49日目、イル・クル46日目、イシャ20日目
・トラッサの迷宮
51 ブラックダイヤツナ / ※
52 ラフシュラブ / ※
53 ロールトロール / ※
54 ピックホッグ / ※
55 パットバット / ※バッドバット




