表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第囲章 新生
345/394

§332 渓谷

アナとの約束の時間までは自宅で過ごす事にする。

彼女1人で行かせる事には申し訳無く思いながらも、

アナでなければ気配は追えないし、

見付からないようにするためには仕方が無い。


人を拒むと言う村なのだから、

当然見張りをしている者だっているかもしれない。

外部の人間はそれだけ脅威なのだ。


その間自分はウッツに水槽を頼みに行き、

酒場に立ち寄ってカモーツやラーメンの評判を聞いたりした。

ラーメンを客に出したのは半分量を38食分だったので、

サンプルとしてはやや少なめだったとは思う。


どちらも手間さえなければ直ぐにでも始めたいとの事だったが、

残念ながらどちらも手間なのだ。

仕込み方を教えようと思っているイシャルメダの語学力は、

まだまだ十分に備わっているとは言えない。

材料だって、カモーツの実の安定供給には程遠い。


これからクルアチがいなくなる事が解っているのに、

現時点でこれ以上ナズやエミーに負担は掛けられない。

前回沢山用意できたのは、

パーティのための1回分だったから頑張れたのだ。


これが毎日となると、ヴィーは発狂しそうだしパニは倒れかねない。

ラティが手伝うと結果にマイナスの補正が掛かりそうだ。

数が減るとか、味が落ちるとか。


わざわざ不得手な事をさせるつもりは無い。

それぞれ自己の能力だけを奮ってもらえれば自分はそれで。

ヴィーは戦闘、パニは補佐、ラティは探索だ。

逆にエミーやイシャルメダは戦闘に向かないだろう?

そういう事だ。


まだまだ時間があったのでダイダリの迷宮に飛んでみた。

地図の売れ行き具合を確かめるためである。


フィールドウォークでゲートを・・・。


 ──ヴォ・・・・。


開かないな。

どうした?

バグったか?


縦に黒い線が入っているものの、人が通れる位には広がっていない。

映像が途中で止められたかのように、

ゲートの黒い空間が縦線の状態のまま固定されている。


 ──ォォォン!


とか何とか思っているうちに開いた。

初めての経験にドキドキする。

このような事はこれまで一度も無かった。


以前迷宮内でダンジョンウォークとワープを重ねた時のように、

明らかにおかしな挙動であるが、一応これで固定はされたようだ。

流石に2つ移動ゲートを出した訳では無いので、

体が2つになって千切れたりはしないだろう。


それでも変な所に繋がりそうで怖い。

まあ、理論上フィールドウォークで行ける距離にしか飛べないのだし、

仮に未知の場所に繋がったとしても戻って来れるだろう。


恐る恐るゲートを潜って見たが・・・、

そこはダイダリの迷宮傍の大木であった。

結局何だったんだ?

そして迷宮周りには人が溢れていた。


現在はアナとパーティを組んでいるので、

自分1人だけ移動してもゲートは開きっぱなしである。

ゲートを見詰めて閉じるように念じると勝手に消え・・・、

消えた瞬間再びゲートが開く。


いや、消えたような素振りすらない。

一瞬チカっと後ろの木が見えたかどうなのか程度。

変だなと思いながらもう一度消そうと念じたが、

ゲートは消えてくれなかった。


・・・そして、知らない人物がそこから出て来た。


「あ、あれ?」


他人のゲート?

もしかして消えた瞬間に出て来たのか?

と言うかもしかしてこれ、ゲートの開閉待ち・・・。


移動ゲートからは2人組のパーティが現れ、

直ぐにゲートは消え再び別のゲートが開く。


先に来た1人はダイダリの町までの客を取り、

重ならないように別の場所へゲートを開けて帰って行った。

そして次々と同じ場所にゲートが開き、

同じような行動を取る者達で溢れ返ってゆく。


あー、なんだか今日は人気ね?


出て来た者達はそのまま探索者ギルドの天幕に集まって行く。

そこは人だかり・・・いや列のような物ができていた。

・・・地図買いの客だ。

そして・・・そうか、この人の多さは。


完全に理解した。

地図を買って迷宮に挑もうとする者達が押し寄せているのだ。

探索者達は噂が早い。

より楽に、安全に迷宮を攻略できる情報があれば飛び付くのだ。


たった数日でこれか。


こうしてはいられない。

迷宮に入り、迷宮内からワープでアルバブールの迷宮へ。

そこから外に出て移動用のシンボルツリーから自宅に帰る。

こちらは以前と変わらず閑散としていた。

勿論人が全くいない訳では無い。


地図を作成中のジャーブやラティに現状を話し、

大急ぎで追加分を作成するように頼んだ。


バラ売りも視野に入れなければならなさそうだ。

いずれにしても、今日このまま徹夜で作成させたとして、

用意できるのは明日である。


30部なんてあの様子ではあっと言う間で、

恐らく既に在庫が無くなっている階層もあると思われる。

いや、全部かな?


ラティにあの光景を見せてやりたかったが、

今は一刻も早く製本して貰う方を優先した。

あの状態を見せるのはまたで良い。


黒く染まった桶の水を交換する際に新しい水を出してやり、

ハニービスケットの差し入れをする。

これは残業代なのだ。


残業代がおやつのビスケット・・・どこのブラック企業だよ、全く。

一応この世界での甘味は高級品だし、

奴隷への報酬は食事を豪華にする事が正解であるので、

残業代としての体裁は通用するのであった。


その後は自分も団扇でパピルスを乾かす作業を手伝ったりして時間を潰す。

皆この作業にはかなり慣れたようで、以前よりも手際が良くなり、

乾かす専用の棚もある事から高効率となっていた。

夕方までには12-22層の冊子が完成し、

続きは夕食後と言う事になった。


この後自分が出掛ける事を察して、

ナズは自分とアナの分の食事はパピルスサンドに纏めてくれていた。

家の事はナズに託し再び最初にアナと別れた荒野まで飛んで、

そこで日の入りを待った。



   ***



──ヴォン


以前にも使用した傾斜にワープを念じると、移動用のゲートが開いた。

アナも受け入れ態勢が整っていたようだ。

それにしても自分が移動魔法を使用するまでずっと、

アナは壁掛け布をかざしていた事になる。

いつやって来るかも判らないし、さぞかし大変だった事だろう。


「アナ、ありがとう、お疲れ様だ。

 ずっとそれを掲げているのは大変だっただろう?」

「いえ、たった今持ち上げたばかりです。

 寧ろ、私が掲げた事を旦那様はお判りになったかと驚いたのですが」


と言う事は偶然か。

まあ、そう大した距離は離れていないだろうから、

目に見える日の入りの瞬間はほぼ同じ。

お互いに良いタイミングだったと言える。


「それでクルアチは?」

「はい、この先は渓谷になっておりまして、

 恐らくその傾斜を利用して住居が作られ、

 そこでひっそりと暮らしているようです。

 クルアチはまだあの辺りに居ます」


目を凝らしてみると、

渓谷へ行く手前に黒っぽく動く影を見付ける事ができた。

その先は・・・地続きに亀裂が入っており、

そこからずっと下は川が流れているのだろう。


その向こう側はこちらと完全に切り離された高台となっているようで、

あちら側へ渡る事は困難かと思える。


普通、国境であればその向こうの国と交易路のような物があるはずだ。

それがこの峡谷によって完全に隔たれてしまっている。

あちらも中々に不毛な大地だし、

こちらも所々岩陰に草が生えている位で、

人が住むには大変過酷な環境だ。


大体移動はフィールドウォークで行う物だし、

この峡谷に橋を掛けるとしたら相当な技術力が無ければ不可能である。

そんな所で隠れるように生活をしていたのか、クルアチ達は。


かなり乾燥している荒れ地なので、この辺りは小さな動物がいる位だろう。

後は川から魚や鳥なんかを仕留める以外に食料は無さそうである。

農業にだって向きそうに無い。

川があるとはいえ、水を汲んでも相当崖を登らねばならないからだ。


普通これだけ荒野ならば飲み水にも困るだろうと思っていたが、

水の確保さえ何とかなればギリギリ生活はできそうだ。

住居も峡谷内に作ってしまえば外からは見えない。

完全に隠れ里だな。


「凄い所に住んでいたのだな、クルアチは」

「こんな所で生活をしていたのであれば、

 中々兎人族を見掛けないのも頷けます」


「どの位の者がここに住んでいるのだろう?見張りは?」

「この辺りには確認できません。集落の規模も、もう少し近付きませんと」


「では急いで向かおう。

 完全に暗くなる前にあの峡谷の入り口までは行って置かないと厳しい。

 それから、移動しながらで構わないのでこれを」

「ありがとうございます?・・・わぁっ。

 これはナズさんでしょうか?エミーでしょうか?」


「どっちだろうな?自分達用を別に作ってくれたようだ」


アナと2人で、パピルスサンドを頬張りながら、

急ぎ足でクルアチの村の入り口まで急いだ。



   ***



「はぁ、はぁ・・・アナは足は大丈夫か?」

「はい、この位でしたら」


「そうか、疲れているなら一旦休んでも」

「まだ大丈夫です。旦那様の方が息が荒くなっておられますが」


「あ、いや、はぁ、はぁ、・・・暫くすれば大丈夫」

「そうですか」


以前、奴隷は基本立っているものだとアナから聞いた。

迷宮内でもずっと歩き通しで戦闘もこなすのだから、

なんて言うか此方の世界の住人は足腰が強い。

いや、そう鍛えているからなのか?

パニはあんな華奢な体なのに、13歳で既に隣り町まで歩いたのだとか。


その辺りは良く判らないが、

ひとまず目の前のアナは大丈夫だと言うので、

そこは気にしなくても良いのだろう。


クルアチが渓谷に入って行った場所には、

険しいが降りられる位の足場が連なっていた。


「アナ、どうだ?見張りや集落の人間の数は」

「見張りは・・・ここもありませんね。

 集落の規模は・・・10人前後でしょうか」


10人と言うと大分少ない。

このような所で集団生活をするのであれば、

10~15家族は無いと厳しいのではないだろうか。

1家族の子供が1.5人だとして、

全体で40~50人はいないと生活自体が成り立たないはずだ。


「少な過ぎるな」

「そう・・・ですね。

 住居と思われる場所も点々としていますし、

 居住者は皆1人です」


それでは流石におかしい。

子供がいない集落?

原始的な生活となれば逆に若者の方が多く、

1人暮らしのジジババばかりには成らないだろう。


盗賊に蹴散らされて女子供は連れ去られた?

或いは。


「アナ、クルアチが危険だ」

「はい、急いで後を追います」


アナは斜面を何段も飛ばして駆け下りて行った。

オイオイ・・・、自分にそんな事はできないぞ。

精々崩れそうもない岩に掴まりながらプルプルして降りる位しか。


せめての努力を見せるためにオーバードライブを使用する。

アナの5倍の時間を掛けて降りるが、

スキルによって1/3しか時間が経っていないので、

これならばトータル2倍の遅さで済む。


悲しい現実である。


アナは既にクルアチが入って行ったであろう家の扉にへばり付いて、

中の様子に聞き耳を立てていた。

自分も遅ればせながら後に倣う。


アナがこのような大胆な行動を取るのであれば、

外にはこの辺りを警戒する者がおらず、安全だと言う事である。


「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx?」

「xxxxxxxxxxxxxx」


「xxxxxx!・・・xxxxxxx?」

「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx」


聞き耳を立てるが、会話の内容はまるで判らなかった。


「普通に会話しているようであれば親族や近しい者の家なのだろう。

 一先ずは安全なようだな?」

「そのようですね」


「明日約束の場所で待つにしても、

 どの位待つ事になるかは判らないし、長時間そこにいるのも大変だ。

 ここまで集落に限界が来ているのであれば、

 いっそ全員自分が引き取ると言う選択肢も無いではない。

 明日の朝、改めてこの家の者に話を持ち掛けてみても良いと思う。

 他の家なんかはどうだ?空き家があればそこに身を隠しても良いだろう」

「そうですね、この様子ではここで生活をする事も難しいでしょう。

 クルアチを含めてこの谷にはもう11人しか残っていないようです」


11人か・・・。


残ったのは全て男性なのだと思う。

女性がいたら家族になっているはずだ。

点々と1人で住んでいるとなると、

そこに女性であるクルアチを1人にするのは可哀想だ。


彼女が沢山子孫を生まなければこの谷はいずれ崩壊する。

いや、もう現在進行形で崩壊している。

しかしそれでは余りにも・・・。

部族に1人残された少女と言う運命は、彼女にむご過ぎる。


「では人が住んでいなさそうな、

 比較的安全な場所を探してそこで一晩過ごさせて貰おう」

「かしこまりました。

 あちら側ですと他に近くで生活している者もいなさそうです」


アナが案内した方に足を運ぶ。

もう薄暗いのでアナの目だけが頼りである。

光彩がどうのこうの、猫の輝板ターペタムは暗闇で役に立つのだ。

ミリアもその力を発揮し、迷宮内で魔結晶を見付けていた。


自分の魔結晶はどうなったかと言うと、未だ緑色のままである。

もう長い事結晶化促進には振っていない。

それ以外の収入が得られ、無理に育てる必要が無くなったからだ。

なるべく経験値に振って、育成を優先する方針は間違っていなかった。


この世界では弱肉強食、強い者が儲かるようにできている。

無理して魔結晶を育てなくったって・・・──モガッ。


暢気に構えていたらアナに口元を抑えられ、

岩が出っ張って影になっている部分に連れ込まれた。


おいコラ、口を覆わなくったって最初から何も喋っていなかったぞ。


腕を軽くポンポンと叩き解放して貰う。

アナがこのような行動を取るのは、

何かしら動きがあったのだろう。

岩陰で息を潜め、じっと耐える。


暗闇なので何も見えない、・・・事は無い。

自分には鑑定があるじゃないか。

久しぶりに鑑定を使用し、辺りの様子を窺った。


 ・バイオル  ♂  34歳  兎人族  海賊  Lv3


クルアチの家からは親族と思われる男が飛び出して行き、

渓谷の荒道を駆け登って行く。

こんな暗いのに、よくもまあ器用に移動できる辺り流石現地民は凄い。


ん・・・?Lv3?


少なくともこの辺りに迷宮は無いし、魔物だって徘徊していなかった。

いたらアナが気付くだろう?

仮に魔物が出現する地域であるならば、

クルアチだって村人Lvが上がっていたはずだ。


と言う事は、あの男は魔物以外を狩ったのでは無いだろうか?

大体・・・税金逃れをした場合は奴隷に落ちるのではなかったっけ?


34歳と言うのも、クルアチの親の年齢にしては若過ぎる気がする。

クルアチは18歳だったので、16の時の子供と言う事になる。

アレ?そう考えれば普通なのか?


(アナ、税金が払えなくなった者は最終的にどうなるんだ?)

(さ、さあ、どうなのでしょう。奴隷に落ちるのではないでしょうか)


(盗賊には成らない?)

(税金逃れをした者が罰せられている所は目にした事がありますが、

 だからと言って処刑されるような事には成らないはずです)


(と言う事は盗賊には落ちないのだな?)

(済みません、ハッキリとは申し上げられません)


(あの男は盗賊だったぞ。1人だったし、親かどうかも怪しい)

(・・・良くお判りになられましたね?

 あっ、ご主人様、その男が入った家から別の者が出てきました)


   ・ヴィエダ  男  34歳  人間族  盗賊  Lv14

  ・バイオル  ♂  34歳  兎人族  海賊  Lv3


(人間だ。それも盗賊だ)

(もしや、この谷は既に!)


(クルアチが危ない、行くぞ!)

(はい!)

∽今日のステータス(2022/07/05)


 ・繰越金額 (白金貨29枚)

     金貨 34枚 銀貨 78枚 銅貨 43枚


  手土産               (250й)

   ハニービスケット × 20     250


            銀貨- 3枚 銅貨+50枚

  ------------------------

  計  金貨 34枚 銀貨 75枚 銅貨 93枚



 ・異世界96日目(昼過ぎ)

   ナズ・アナ91日目、ジャ85日目、ヴィ78日目、エミ71日目

   パニ64日目、ラテ43日目、イル・クル40日目、イシャ14日目

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ