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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第囲章 新生
341/394

§328 揺椅子

リアナさんの意向としては、

今回持ち込んだコーヒーを使った酒の宛てとして、

前回紹介したクレープを出したそうであった。


自分が以前作った物はフライパンで無理やり焼いた物なので、

生地的には分厚く食べ応えがあり過ぎるのが懸念点だ。

恐らくミチオ君もこのように作ったので、

ロクサーヌ達に食べさせた物と言う事ならばアレで合っている。


が、やはりここはユウキ流。

可能であれば本来の物に極限まで近付けたい。

そもそも、宛てとして出すには腹いっぱいでは困るとの事らしいので。

要するに必要なのは平たいクレープ焼き台とクレープ用トンボだ。


通常の竈門かまどへ設置できるように作って貰えば、

あの場で提供する事だってできるはずだ。

ウッツに頼んで作って貰おうか。


イシャルメダに作り方を覚えさせれば、

それこそ屋台か何かを出せるかもしれない。

ミチオ君だって帝都の屋台でカルメ焼きを買っていたのだし、

そういう商売だって有りなのだろう。


ラーメンだって酒場で出せば絶対受ける。

こちらも作り方を覚えて貰って、

麺だけ作って納品すると言う手だってある。


それから焼いたおにぎりやお茶漬けなんかも行けそうだ。

米を得た事で、居酒屋に於ける定番の締めが沢山用意できるようになった。


食堂・・・考えてみれば悪くない選択肢ではある。

自分には異国のレシピがあり、

外国の材料は手数料なしで仕入れられるからだ。


が、やっぱり腰を据えて商売をするにはまだまだ早い。

自分はやはり迷宮へ行きたい。

折角その力を得てこの世界にやって来たのだ。


討伐する事を目標に設定する必要はないが、

せめて自国にある迷宮位は地図を制覇させて置きたいのだ。

その人材が揃っているのに使わないのは宝の持ち腐れである。


その後、ウッツの工房に立ち寄って焙煎用の道具とクレープ台、

それからクレープトンボを図面に書いて注文し、

アクアウォール専用の水槽を外に設置するようにお願いした。


ついでにカモーツを貯めて置くための水瓶を1つ買って帰った。

夜はこれをナズに持たせて出勤して貰う。


家に帰ると昼食の支度を始めたエミーとクルアチが台所に立っていた。

元々はボルドレックの屋敷で料理番をしていた2人だ。

反りが合わない事は無いと思うし、上手くやってくれるに違い無い。


「エミー、もう調子は大丈夫か?」

「・・・はい、大丈夫です」


「クルアチもこれから宜しく頼むぞ?」

「はい、お任せ下さい」


「以前働いていた所のような豪華な感じではなくって、

 庶民的な感じの献立で・・・うーん、詳細はエミーに聞いてくれ」

「そうなのですか?では宜しくお願い致します、エマレット様」

「あ、はい・・・あの・・・」


「これからちょっと作業をするので厨房を少し借りるぞ?

 ・・・おーい、ジャーブ」

「はっ、はい、俺ですか?」


水瓶を持たせたままになっていたジャーブに声を掛ける。

呼ばれたので慌てて水瓶を床に置いて近付いて来たが、

それを今から使うのだ。


「朝見せたように豆を煎って黒く焦がし、

 砕いて机にある装置で濾してくれ。

 一杯ごとに豆の粕を取り除いて捨て、それらはええっと・・・」


コーヒーの粕は肥料にできると聞いた事がある。

防虫効果防臭効果があるそうだ。


日本で暮らしていた頃、

近所のコーヒーショップでもコーヒー粕を袋に入れて、

自由にお持ち帰りしても良い事になっていた。


しかしそのまま撒いてはいけないらしく、

一旦発酵させる必要があるのだとか。


「堆肥の作り方って解るかな?」

「落ち葉や残飯を混ぜて肥料を作る事なら知っていますが」


「そうか、それにこの粕を混ぜると良い肥料になるらしいので、

 果樹畑に再利用してやってくれ」

「分かりました、苦い汁を出した後は肥料を作れば宜しいのですかね?」


「そうだ。

 装置のこの辺りまで豆を入れ、溢れないように水を少しずつ足してくれ。

 出来上がった液体はさっきそこに置いた水瓶に貯めて、

 カモーツの液体で半分まで満たしたら納屋にある樽の酒を注ぎ、

 首まで1杯分を用意してみてくれ、後で酒場に持って行くのでな。

 それからどの位の量の豆を使ったかも知りたい」

「分かりました、合わせて調べて置きます」


台所をエミーとクルアチに任せ、

自分はイルマと共にアルバブールまで足を運んだ。


昼食ができるまではカモーツの実を収穫するのだ。

移植の際に落とした実の量では直ぐ足りなくなるだろうし、

持ち込んで直ぐに収穫できるような物では無い。


それに距離が距離だけに一度にたくさんの人数も運べないので、

結局は自分ともう1人と言う事になる。

庭に定着して実を結ぶまで暫くはこの作業が必要になるのだろう。


それにしても流石は現地人が見向きもしない実だけある。

落ちてしまって虫が付いている実だって利用できるので、

収穫し放題であった。


あっと言う間に持ち込んだ桶一杯分の実が集まり、満足して家に帰った。



  ***



午後はまるまる全てを掛けてクレープとラーメン用の麺と出汁を準備する。

今回麺をねるのはクルアチとイルマ、それからヴィーだ。


スープは責任を持って自分がこしらえる。

未だちゃんとしたレシピが確定できていないので、

教える程に至らなくナズ達に任せる訳には行かないからだ。


その他のメンバー、ジャーブ、パニ、ラティは製本をさせる。


ダイダリの迷宮の地図はギルドで委託販売をする事になった訳で、

それがたった30部では全然足りないと思う。

探索者ギルドから無くなったら追加の注文をしたいとアナが承ったらしい。

従って次は一気に50部を卸すつもりだ。


多く見積もって100部を用意しておけば、

次の注文まで在庫として置いて置けるだろう。

要するに33層分を100部。

表紙も併せて3400枚の版画作業が始まる事になる。

これはかなり大変な作業だ。


完成した際の収入は銀貨3+7+15枚×100で2500枚分、

ギルドには金貨25枚で売る事になる。

そう説明するとラティは目を丸くして驚いていた。


お前の手柄だよ、やっと実感できたようで何よりだ。

これをこちらの迷宮分だけ作れば、

その制覇した迷宮分の倍々ゲームが始まる訳だ。


知っている限りでも、トラッサ、ホドワ、ルイジーナ、アレクスム。

行った事のないマルアドや王都なんかも迷宮があるはずなので、

知っているだけでも単純に6倍だ。

勿論作成する労力も掛かるだろうが、

そんなのは向こう1年もあれば余裕を持って制覇できるだろう。


たった20日そこらの海外遠征中にこれだけ用意できたのだから、

それが国内となればもっと楽なのである。

もっと言うと33層までの魔物は既に制したのだ。

消化試合と言っても良い。


33層以降の迷宮はもっと高値を付ける予定なので、

全てが終わった場合は単純計算でもっと稼ぐ事ができるだろう。

ほら、やっぱり食堂なんて無かったんや。


十分に気合が入ったラティに製本作業の指揮を任せ、

自分は材料となるパピルスとケナフを買いに向かった。

丈夫で分厚い、本の表紙にするケナフ紙はトルキナでは売っていない。

産地であるフローダルか、近隣の街でなければ手に入らないからだ。


それにしても100部か・・・。

3つの部構成となるので、冊子数全体で言えば300部。

単純に必要となるケナフは300枚、そんなに売っているだろうか。

無かった場合は発注と言う事になるだろうし、

今後製本を続けて行くに当たってはもっと大量に必要となる。


「すいませーん」

「はいはーい」


「前に厚紙を頼んだ者なんだが、同じ物を沢山欲しくなったんだ。

 今ある在庫は全部でいくつあるかな?」

「えーっと、あっ、ケナフ沢山買ったお客さん!

 えーっとそうねえ、束が・・1,2,3・・・90枚かねえ」


今のうちに今後も大量に買いに来る事を説明しておいて、

顔を繋いでおいた方が良いだろう。

何だ、自分はちゃんと商人をしているじゃないか。

そういう事ならばやはり食堂は不要だ。


「300枚欲しいんだが、注文はできるかな?」

「さっ・・・!そ、そんな沢山は流石に一度じゃ入って来ないよ。

 頼んでみても良くって3,40枚だね」


「大量に作れる物では無いのか?」

「普通は家の壁とかに使うんだ。

 封じ材として使うのはあまり無いから、どうしても少なくなっちゃうよ」


やはり急に300枚となると在庫が無いらしい。

元々それ程使われる事も無いからなのだとか。

注文して置くも難しいとなると、別の商店を回るしかあるまい。


「他に扱ってる商店などは無いかな?」

「えっと、そうねえ・・・ウチと同じような雑貨屋なら、

 坂を下りて行った港の方に一軒あるけど、

 後は別の町に行けばあるかも知れないねえ」


「解った、ありがとう。取り敢えず全部頂こう」

「あいよ、ケナフ90枚ね、450ナール」


その後、別の商店や他の町の商店を巡って、

何とかケナフ紙300枚を掻き集めた。


そもそも大量生産大量消費の時代では無い。

大体相手は植物だ。

原料が無かったり運ぶ手間だったり、加工するにも人がいる。


平時で大して売れない物であるならば、

何かの片手間に作っている事が殆どだろう。

在庫切れで製本できないといった事態は避けたいので、

別の手段で表紙を用意する事も考えておかねばならないかもしれない。


厚紙の束をラティに預け自室に戻った。


「お疲れ様です、旦那様」


「お、アナか。何だか珍しいな、部屋で待っているなんて」

「そう・・・ですかね?他に私がすべき事もありませんので」


確かに。


ナズは器用なので地図の作成をお願いしたが、

何かと不器用なアナにはさせるべき仕事が無い。

と言うより、夫人であるので仕事をお願いする理由も無い。


ともすればここで自分の帰りを待つのが目下彼女の使命か。

どこまでも忠実な子なんだなあと感心しながら頭を撫でた。

それに合わせてアナの尻尾もクイクイと動く。


「みんな真面目だし、働き者で助かるよ」

「そうですか」


早速作って貰ったロッキングチェアに腰掛けて揺れながら、

手を伸ばしてアナを誘う。

2人の体重が掛かると椅子は更に大きく揺れ動いた。


「こっ、この椅子は何だか不安定で・・・あのっ・・・あっ・・・」


アナがバランスを取ろうとあれこれしているのが面白くて、

つい笑ってしまった。


「ははは。こういうのは成り行きに任せて力を抜けば良いんだ」

「は、はぁ・・・、きゃっ・・・」


アナは自分の対面で跨るように座っている。

確かに自分は背凭せもたれがあるので落ち着けるが、

アナの方に傾いたら後が無い。

それでは落ちそうになってこらえたくなるのも納得だ。


アナの背中に回した腕をきつく絞って体重を支えた。


「あっ・・・あの、ありがとう・・・ございます」


時折アナの尻尾が腕に絡みついたり、

バランスを取るためか空中でLの字や¬の字に動くのが可愛らしかった。

そのままアナと2人でゆらゆらと揺れ、

キスしたり頭を撫でたりしてゆっくりと過ごしたのであった。



***



「・・・さま、旦那様、そろそろ起きられませんと」


アナから腕をこすられて目が覚めた。

どうやら気持ち良くってそのまま寝入ってしまったらしい。

既に窓から入り込む日差しは殆ど無くなり、

部屋は黄昏に包まれていた。


「ふぁ・・・。寝てしまったか、どのくらい経ったかな?」

「そうですね、もう2時間程でしょうか。

 既に夕食の準備ができているようです。

 今日は酒場でお約束があるのだとか。

 遅くなってはいけませんので急ぎませんと」


「そ、そうだった。直ぐに食事にしよう。

 申し訳無いが風呂は今日は無しだ、

 食材を持って行かなければならないので」

「存じております」


「結婚の報告会を兼ねているらしいのでアナも一緒に来てくれ」

「それも存じております」


「ああ、そう・・・ナズから聞いたのか」

「はい、概ね伺っております」


いつの間に話をしたのだろうか。

自分は寝ていたとはいえ、ナズは製本作業を手伝っていたはずだ。

ナズが一旦様子を見に戻って来たか、

アナが報告をしに行ったのかそのどちらかなのだろう。


2人が話し込んだりしている様子はこれまで余り見掛けた事が無いが、

どういう訳かちゃんと情報の共有ができている。

それだけ仲が良いんだろうな。


それにしてもシーツを丸めてクッションにしたロッキングチェアは、

思いのほか心地良かった。

これは人を駄目にする何かだ。

恐ろしい・・・いや素晴らしい。


いつの間にか机に置かれていたハーブティーを1口啜ると、

頭から爪先まで目が覚めた気がした。

これもアナが気を回して置いたのだろうか。

それともナズだろうか。

そんな事を考えながら居間に向かった。


「あっ、ご主人様。お目覚めですね?

 今日はこの後皆で酒場に向かわれる予定だと思うので、

 野菜を中心に甘辛く焼いてみました」


「そうか、ありがとう。この後みんなタコスだもんな」

「そうですね、私が歌う日は少し安めなので沢山売れるそうです。

 今日は多分大張り切りで作っているのだと思いますよ」


そ・・・そうか。

今日は深夜まで帰れそうも無いので、

せめて胃の負担を軽くしようと言うナズの配慮であったか。

本当に済まないな。

ナズには感謝しかない。


「それじゃ、今日は食事が終わったら皆で直ぐに向かおう。

 卸したい食材もあるのでな」

「先程用意した薄焼きパンと細く切った生地ですね?」


クレープ(の生地)とラーメンの麺なのだが、いまいち浸透していない。

と言うか浸透する程食べさせていないのだから仕方無いか。


クレープは既にエミーも作れると思うが、

ラーメンはスープの管理が難しくって手軽に用意できる代物では無い。

少なくとも4,5時間は煮込まないといけないのだし。


今回は鍋の管理をエミーとクルアチに任せたが、

リアナさんから今後も出したいと言われたら、

レシピを共有して毎日一定量を作って貰うと言う手も考えられる。


いずれにせよまずはお試しからだ。

カルーアコーヒー、付け合せのクレープ、そして締めのラーメン。

直ぐには用意できない異国の料理3品は、

果たしてこちらの国の者に受け入れられるのだろうか。


カモーツの原液とスープの原液を水瓶に注ぎ、

それから魚醤も併せて混ぜて置く。

こうしておけば温めさえすればいつでもラーメンスープになる。


大量に焼いたクレープ生地はエミーのバスケットへ、

半日放置して生クリームだらけになった酪は風呂用の桶に移し変えた。

勿論入れる前に洗ったさ、大丈夫大丈夫。


フルーツは適当に買って貰ってあるし、

それらはぶつ切りに切って貰った。

酒場に向かう準備は万端である。


自分の結婚披露宴なのだが、

祝われるどころかこちらが持て成しているような気もする。

日本での結婚式だって結婚する側が何百万とお金を掛けて人を呼ぶ訳で、

それはそれで合ってはいるのか?


・・・い、いや、そうじゃないな。

これは披露宴の料理と言うよりは新メニューの準備なのだから、

結婚の報告会とはまた別だ。


と言うよりもナズはあそこの歌姫だった。

愚痴のひとつでもありそうな気がしないでもないが、

奴隷として身請けした時点でそうはならなかったのだから、

変に身構えなくっても良いのだろうか。

少なくとも現状の常連客たちからは逆に感謝されていたし。


どんな反応があるのか判らない所に乗り込むのは、

・・・ちょっと気が乗らないなあ。

そんな愚痴をぼやきながら家を出るのであった。

∽今日のステータス(2022/06/22)


 ・繰越金額 (白金貨29枚)

     金貨 34枚 銀貨140枚 銅貨  3枚


  雑貨購入              (200й)

   水瓶  × 2           200


  雑貨購入             (1500й)

   ケナフ × 300        1500


  食材購入1             (360й)

   果物  ×15            60

   小麦粉 × 2           300


  食材購入2       (4000→2800й)

   酪   ×10          4000


            銀貨-49枚 銅貨+40枚

  ------------------------

  計  金貨 34枚 銀貨 91枚 銅貨 43枚



 ・異世界94日目(10時頃)

   ナズ・アナ89日目、ジャ83日目、ヴィ76日目、エミ69日目

   パニ62日目、ラテ41日目、イル・クル38日目、イシャ12日目

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