§325 焙煎
昨夜からイルマはエミーとイシャルメダの看病を続けた。
イシャルメダと同室のラティは版画の作業に疲れたのか、
夜は早々に寝入ってしまったようで、
イルマが時折入って来ても気にはならなかったようだ。
起き掛けに調子が悪そうなのは元々のようである。
にしてはちゃんと起きて来るあたり、偉い。
いや、奴隷だし寝たままは許されないか。
そもそもこの世界では朝から活動しなければ、
探索者として生活して行く事は厳しいのだし。
6つになった盥に水を張って、自分の朝の仕事は終了だ。
台所では既にナズが火を入れている。
昨日の宴会で残ったパピルスサンドや、
余った肉を使って簡単に朝食を用意するらしい。
こうしてみると、やはりナズは家事向きなのかなと言う一面が見えて来る。
食堂再開・・・手際よく包丁を振るうナズを見てチラッと頭を横切ったが、
本当にナズが望むのであれはそのうち言って来るだろう。
自分としては今のままであれば朝から晩まであくせく働く必要は無いし、
ナズばかりに負担を集中させたくは無いと思う。
やるとしたら全員で当たるとして、
それが迷宮に行くよりも儲かって楽ならば考えようかといった所。
そんな事よりも、多分地図の方が売れると思うんだが。
一回作っちゃえば後は楽なのだし。
テーブルの拭き掃除を終えたクルアチに椅子へ座るように言って、
彼女の事を聞いてみた。
言葉が通じるようになったのだし、ようやくこれで込み入った話ができる。
同じく手の空いていたアナと一緒に、改めてクルアチの面談を行った。
「クルアチ、幾つか質問するから答えてくれ」
「はい?かしこまりました」
「まず・・・その、何故ボルドレックに買われていたのだ?
奴隷になった経緯から教えて欲しい」
「え、ええっと・・・」
アナの方へ目を泳がせ、クルアチは返答を渋っているようだ。
アナは黙って頷き、正直に返答をする事を促した。
「あ、あの、私は、兎人族が暮らす村で狩猟をして生活していました。
父も、兄も、同じく狩猟者でした」
「森の動物を狩っていた?」
「この辺り・・・に森は無いので、荒野ですね」
「ああ、そうか、それで?」
「ある時盗賊団に出くわしまして、
多勢に無勢だった私達は捕まってしまいました」
「え?」
「その時一緒だった兄も捕らえられたか殺されたかしたのだと思います。
兄は盗賊団と戦って手負いでしたし、
私は戦える武器を持っていませんでしたので」
「そ、壮絶だな・・・」
「そのまま私は売られて金持ちの屋敷で働く事になりました」
「な、なるほど・・・そういう経緯でボルドレックの屋敷にいた訳だ」
「余りに可哀想ですね」
「屋敷では食うに困る事も無かったですし、
掃除と調理を手伝えば後は何も無かったので、
それまでの生活よりは楽でした。
先輩奴隷のイェーラ様からは良く仕事を押し付けられましたが、
それ以外に困るような事もありませんでした」
「狩猟生活は厳しかったのか?」
「そう・・・ですね。何も採れなくて食べ物が無い日もありましたし、
仮に獲ったとしても村で共有しますので皆貧しくはありました」
「ではちゃんと食べられるだけ屋敷での生活の方がマシだったと言う訳か」
「そう・・・ですね。
私がいなくなった事で父や母が困っていないかと心配になりましたが、
そもそも村では全てを共有して生活していますので、
恐らく今は近所の方と組んで生活を続けているのではないかと」
「兄の行方は気にならないのか?」
「気にはなりますが、そもそもどうやって追えば良いのでしょう」
「それもそうだな、生き別れか・・・」
「元々私たち狩猟者は、
狩りに向かってそのまま帰って来ない事は多いのです。
盗賊たちに殺されてしまったとしても、驚くような事はありません」
「そもそもなぜ狩猟生活なんだ?
兎人族は共同生活をしてあまり人里に降りて来ないと聞いたが、
町で暮らした方が仕事もあるだろうし安心だろう?」
「私達は街から離れて生活する事で、税金を逃れて生活しています。
勿論、他種族が暮らす街との交易もありますので、
外と交渉する者は税金を払っています。
それでも多くの者は税金逃れをしていますから、
元々盗賊や奴隷となっている者は多かったです」
「ああ、それで。
他種族に見付かったり捕らえられたりしたら後が無い訳だ」
「そう・・・ですね。そのように生活しているので仕方ありません」
「何だか聞いているだけで凄い方々なのですね、兎人族は」
そうだな。
少数民族と言うか特定先住民と言うか、
法の下に及ばない暮らしを集団でしている、そんなイメージだ。
それじゃあ一般市民が目にするのも稀だと言う事も頷ける。
「ところでどうやって人間語を学んだのだ?」
「私達だけでは生活ができませんので、
集落の外にいる商人と交易する必要があります。
私達の村でも少数ですが人間族語を話せる者が居ました。
おかげで私は金持ちの屋敷で働けたのですが・・・。
それよりも、ご主人様は人間族でいらっしゃいますのに、
何故サリニク語が話せないのでしょうか?」
「なるほど・・・。
いやな、自分は人間族だが人間族の街で暮らしていた訳では無いので、
残念ながら他の言語しか知らないのだ」
と言う事に、表向きにはしている。
だがこの世界を知れば知る程、
この説明ではどうにもおかしいと言う事に最近気が付いた。
種族として生まれたら元々持っているスキルのような物で、
どんなに種族が混雑した街であっても言葉までは交わっていないのだ。
普通外国に生まれたら、その土着の言語がベース言語に成るはずである。
だがホドワだってサンドラッドだってシュメールだって、
種族が混雑しているにも拘らず、個人間では種族語で話していた。
大体ヴィーなんかは、貴族に仕える奴隷として生まれ、
その後もずっと人間に育てられたのに基本は竜人族の言葉だ。
恐らく、他種族の言語は教わらなくては習得できないのだ。
反対に・・・そう。
種族語は基本理解、スキルのような物と言って良い。
やはり賢い者が居ればこの説明は破綻していると悟られる。
早いうちに人間語を理解するべきだ。
教師はイルマしか考えられないだろう。
このように説明した手前、クルアチから教わる事も難しい。
「旦那様は生まれが特殊なのです」
「そう・・・ですか」
アナがフォロ―を入れてくれた。
いつも助けて貰ってばかりである。
「クルアチは生まれの土地を覚えているか?」
「え?はい。覚えてはいますが・・・」
「その盗賊団に復讐をしたくはないか?
もしまだいるのであれば兄の行方を問えるかもしれないし」
「そ、そんな事できるのでしょうか、相手は大勢でした。
仮に私が武具を頂いて向かって行っても勝てるとは思えません」
「旦那様は既に盗賊団を2つ壊滅させております。
クルアチがやりたいか、やりたくないかだけで答えなさい」
「そっ・・・それでは・・・い、いえ、やっぱり難しいと思います」
クルアチは自分の加速スキルや魔法を知らない。
常識で考えれば無理だと、
無謀な事をする主人を止めたいと言う気持ちは解らないでも無い。
基本的に主人が死ねば奴隷も死ぬのだから、
すなわち自身の死に繋がる訳でもある。
「そういえばクルアチは処女なのだったよな?」
「ええと?はい、そうですね。男性との経験はございません」
「イルマやエミーはボルドレックに手を付けられていたが、
何故クルアチだけ何もしなかったのだ?」
「ええと、それは私が性奉仕する事を了承しなかったからだと・・・」
ああ、そうか。
奴隷側に認められた権利だったな、そういえば。
性的奉仕をするかどうか、売られる前に自分で決定できる。
そういえばベイルの奴隷商アランも、
性的交渉を持ち掛ける事で地位向上を狙ったり、
思わせぶりな態度で主人を手玉に取る奴隷もいるのだとか言っていた。
それはクルアチが手にした最後の武器だったのだ。
正直クルアチは抜群に可愛いと言う訳でも無いので、
無理に迫って反逆を受けたら大損だ。
ボルドレックはもっと美人な妾を2人も抱えていたのだし、
その必要は無かったのだと思われる。
クルアチは珍しさだけで買われた訳だ。
手を付ければ商品価値は下がるだろうし、
希少価値がある物をそのままにして置くと言うのはある意味正しい。
新品未開封のゲームソフトみたいな感じだな。
「そうか、納得した。自分はホラ・・・この通り、
2人も妻がいるのでそういった事は要求しないから安心してくれ」
「は、はぁ・・・」
アナを横目で見ると会釈で返された。
「それよりもクルアチの今後だ。
自分はこの通り迷宮に行って稼ぐ事を生業としている。
表向きには商人として見られているが、特に商売などはしていないのだ」
「そうなのですね?」
「従って、クルアチが戦闘に向くと聞いて内心喜んでいる。
どんな武器が使えるのだ?」
「ええと、私は弓が扱えます。狩猟を行っていたので、投擲の槍なども」
弓か。
やはり狩猟となれば弓が必要だろう。
槍ならばナズがいない時にスイッチできる。
弓ならば後列に控えさせておけば砲台として活躍できそうだ。
本来は迷宮で全く役に立たない弓術師。
矢が無限に生産できるナズがいるからこそ、
矢筒を必要とせずアイテムボックスから取り出せる自分だからこそ、
メインの武器が弓であると言う事が成立した。
自分と共に迷宮に行くのであれば矢の補充は容易だ。
流石に矢筒位は必要になると思うが、
補給と言う意味では無制限に行える。
ではクルアチの武器は弓と槍の二本立で行こうじゃないか。
「ではジョブなのだが・・・」
「ジョブ?ですか」
クルアチが村人しかジョブを得ていないと言う事は、
少なくとも盗賊には落ちていない。
税金を払う必要になる前に捕らえられて売られたか、
外との交易に就けるように税金が工面されていたのか。
人間語を喋れるように教育されている時点で、
買い付けの担当として育てられていたのかもしれない。
村人Lv1か・・・。
待てよ?
「クルアチ、やっぱりお前を襲った盗賊を退治しに行こう」
「えっ、あ、あの、正気でございますか・・・」
「先も言ったように、旦那様ならどんな相手であっても討伐は容易です。
何も心配いりませんよ?怪我などしても、イルマが居ます」
「そっ、そうですか・・・」
「ではクルアチの分の武器を用意して置くので、
準備ができたら一緒にお前の村へ行って見よう。
その時は案内してくれ」
「え・・・いえ・・・」
「心配には及びません、旦那様であればきっと上手く行くでしょう」
丁度ナズの朝食が準備できたようで、
クルアチには皆を呼んで来るように頼んだ。
「その時はアナも宜しく頼む」
「承知しております。私ができうる限りの協力を致します」
心強いパートナーが居てくれて本当に助かる。
皆が集まる前に、ナズとアナの2人を抱き寄せて撫でるのであった。
***
「──と言う訳で、エミーは今日一日ゆっくりさせてやってくれ。
イルマは今日ずっと看病だ。
イシャルメダは平気そうならそのまま商館に行って来い」
「ええと?あ、ウン。ワタシはへいきよ?マエみたいにアタマいたくナい」
エミーはやはり高熱が出続けているらしく、食卓には現れなかった。
ナズはパン粥を作ったようで、エミーの部屋に届けに行った。
主人の立場になっても変わらないナズの行動や態度に癒される。
「俺たちはどうしましょうか」
「ええっと、ジャーブは地図の印刷の続きを。
午前中に完成させて、午後には売りたい」
「分かりました!頑張ります」
「えー、またアレ~?」
「ヴィーはパニとラティと一緒にホドワの迷宮に行って来い。
ラティ、ホドワの迷宮の低層を任せるので地図を取って来てくれ」
「かっ、かしこまりましたぁ」
「ヴィー様、良かったですね、頑張りましょう」
「おおーっ!」
「ラティ達の部屋には細く作った棚があるだろう?
あれはインクを乾かすための専用に作った棚なので、
刷ったらそこに並べて干すようにしてくれ。
そうすれば床が埋まる事も無いと思うから」
「なるほど!流石はユウキ様です」
「あの棚はそのための棚だったのですね?」
「そういう事だから、ナズとジャーブは頑張ってくれ」
「ええと、では私はどうしたら?」
何も仕事を命じられていないアナが尋ねて来た。
もう奴隷ではないのだから、
立場的には踏ん反り返って休んでいても良いはずだ。
自分だけ休む訳には行かないと考えるこの忠猫はどこまでも愛らしい。
しかしアナには難しい作業を任せられないし、
どちらかと言うと迷宮向きだ。
かと言ってナズとジャーブ2人だけで作業すると言うのも大変だ。
版画板を拭くために手拭いを絞ったり、
水桶の交換やパピルスを乾かすだけでも助かると言えば助かる。
「どっちでも良い」
「はい?」
「いや、どっちでも良い。好きな方を手伝ってくれれば」
「・・・かしこ、いえ、はい。では私はナズさんを手伝わせて頂きます」
ラティ達であれば低層だし3人でも十分やって行ける実力はある。
そう判断したのだろう。
或いは単純に仕事が楽な方を選んだのか、まあどちらでも良いな。
食事を終えた所で解散した。
ヴィーに急かされてラティは装備を並べ始め、
イルマは直ぐにエミーの元へ向かう。
イシャルメダは食費をパニから受け取り、1人で出て行った。
印刷組はゆっくりである。
自分は・・・そうだな、あの木の実の謎にでも迫ろうか。
アルバブール周辺に生っていた、誰もが食べなかった酸っぱく苦い実。
現地人であるイシャルメダはカモーツと言っていた。
そんな名前の果実は聞いた事が無いので、恐らく現地語なのだろう。
トマトっぽい物もあるし、レモンもある。
ニンジンや大根も色こそ違えどあるにはある。
しかしオレンジはタプスだしパイナップルはアナナスだった。
食べ物や道具名には微妙に現地語が混じる。
恐らく・・・。
本来の主人公であるミチオ君の周辺だけが日本語に完全に対応しており、
それ以外を構成する部品でしかないこちらの国々は、
独自の文化を形成するために個々で発展しているのだと窺える。
ミチオ君自体はこちらの世界に於いて、
何のヒントも無いハードモードであったのだ。
後追いの自分にはイージーモードでのスタート、
この位のハンデがあっても致し方無いのだろう。
寧ろ今では逆にどんな言葉になっているのかを知る事に、
若干の楽しみさえ覚えている。
初めは斜め上だのなんだのと文句を言ったような気もするが、
そもそも異世界に於いて全てが日本語で通用する方が、
逆におかしいと考えるべきなのだ。
カモーツの実は少量だが氷冷庫に取って置いた。
実は更に熟して黒くなり、
甘酸っぱい匂いを放つが全く甘く無いと言う事は身をもって知った。
流し台で果実を外して濯ぎ、豆だけの状態にする。
5粒程を綺麗に剥いた所でフライパンの上で焙ってみた。
シュワシュワと水分が蒸発して、焼けた豆の香りが部屋に・・・あ。
これ・・・コーヒーだ。
間違い無い、焦げ付いた豆からはコーヒーの香りがする。
・・・しかし、コーヒーの実そのものは元々可食では無かったっけ?
豆自体も元から苦いなんて事は無かったはずだ。
コーヒーの専門家ではないので詳しくは知らないが、
焙煎をしないグリーンコーヒーなる物が流行っていると聞いた事がある。
要するにそのまま抽出しても飲めるはずだ、本当にコーヒーならば。
カカオ豆?
チョコレートの原料であるカカオ豆であるならば元から苦い。
これは・・・その両方を足して悪い方だけ残した感じである。
カカオの果実部分は食べられるかどうかなんて知らない。
そんな専門家では無いのでな。
一介の大学生がチョコの原料やコーヒーの原料に詳しくある訳が無い。
ともかく、これはコーヒーの香りがした。
地球産とはまた別の、そういう品種なのだと理解すべきだろう。
煎って抽出して液体を絞れば、朝の一杯にできるかもしれない。
いや、そもそも抽出ってどうするんだ?
専用のミルでガリガリ削って、フィルター越しにお湯を掛けて・・・。
どっちもこの世界には多分無いぞ。
布を何枚か重ねればフィルターにはなるだろう。
コボルトミルに突っ込めば荒く削る位はできるかもしれない。
そうやって代用するしかない。
大体焙煎だって、フライパンで焙っては駄目だと思う。
本来ならば釜みたいな焙煎機で蒸らしていた写真を見た事がある。
無理だろ、そんな事は。
格好は解っていも内部構造までは判らない。
誰も使用した事が無い機械なんてどうやって作らせれば良いのか。
発注者である自分が知らないんじゃあ、もうどうにも成らない。
今は・・・そう。
このフライパンで均等に「焦がす」以外の方法しか無いのだ。
こんなので本当に大丈夫なのだろうか。
でも、確かに匂いはコーヒーなのだ。
一粒取り出して前歯で齧って半分に割ってみた。
・・・・・・苦ッ!
苦いよ、ちょっと流石に。
エスプレッソもびっくりな苦さだ。
そもそも自分は砂糖ミルク大目派だ。
ブラックなんて高尚な飲み方はしない。
ええっと、そうだ。
昨日パーティで使った酪の残りがあったじゃないか。
冷温桶から余った酪を取り出し、
既に再発生していた生クリームを取り除いてコボルトスクロースを足し、
包丁の腹で粉砕したカモーツの実の種を混ぜてみた。
色合いが白から焦茶色、いわゆるコーヒー色に染まって行く。
豆自体はシュウ酸が多くって体に良くないんだっけ?
確か痛風の元だ。
異世界に来てまで痛風で苦しみたくは無い。
浮き上がっていた豆滓をスプーンで掬い、
ミルクコーヒー色になった液体を口に運んだ。
・・・ン~、んまい。
紛う事無いコーヒー牛乳だ。
この・・・この喜びを・・・。
「ナズー!アナー!」
大声で隣の部屋で作業をする2人を呼んだ。
まず自分の妻たちに、この感動を分かち合いたかった。
一緒に喜んで貰いたかった。
「はーーい」
「お呼びでしょうか」
扉の音が2回して部屋に入るなり、2人は顔を歪めた。
「ご、ご主人様、焦げていらっしゃいますよ!」
「あ、あの、何か火傷などなさっていないでしょうか!
イルマを呼んで参ります!」
あー・・・。
調理に失敗して自分が怪我をしたから助けて欲しいと、
そう勘違いされてしまっている。
「ま、待て待てっ、まてっ、アナッ、火傷は無い。
火事でも無い、焦げてもいない!」
ドアから飛び出そうとしていたアナを止め、
ナズをフライパンまで呼んで豆の状態を見せた。
「こ・・・れは?ええと、もしかして、
以前頂いたあの酸っぱくて苦いらしい実の種でしょうか?」
「あの・・・実ですか。
確かに焦げた匂いとは少し違う、苦みを伴う香りが致しますね」
「そ、そうなのだが、ほら、これ。
酪で割ってみたんだが飲んでみて貰えないだろうか」
「そ・・・そうですか、ではひと口」
明らかに嫌そうである。
夫が飲めと迫ったのだから拒否できない、そんな感じだ。
ち、ちがうのだよ、美味しさを分かち合って欲しくてだな・・・。
「あっ、これはっ!アナさん、美味しいですよ?」
「えっ?ほ、本当でしょうか、・・・(ズズっ)」
2人はコーヒー?牛乳?を代わる代わる口に運び、
初めての1杯は3往復で全て無くなってしまった。
「ご主人様、とても良いお味でした」
「どうしてこのようにすれば飲めるとご存知だったのですか?」
そ・・・それを言われると返答に困る。
「じっ、自分の国ではな・・・、
この豆をこのようにして飲む文化があったのだ」
「旦那様はこの豆をご存じありませんでしたよね?」
「えっ・・・ええっとだな・・・。
果実自体は知らなかったのだが、匂いで思い出してな?
ホラ、食べられないと判った時に焚き火で焼いたじゃないか。
その時に気付いたのだ」
「そう・・・ですか。
確かに、あの時もこれに近い匂いはありましたが・・・」
「そこからこれを思い出されたのですね!凄いですっ!」
「だっ、だろう?ハハハッ・・・」
アナが納得しかねる表情で迫って来たが、何とか抑え込んだ。
ナズの天然さに便乗して逃げる。
「それよりも、これを沢山作ったら売れたりしないかな?」
「こっ、これを・・・お売りに?・・・なられるのですか!?」
「値段にも依るかと思います。
ご主人様しか製法を知らないのであれば、
貴族や有力者向けに高く売れるかもしれませんね」
おお、おおお、おおおおっ!
そうかっ!富裕層向けか!
幸い、製法は誰も知らないようだ。
食べられない実として打ち捨てられて放置されていた。
アルバブールの地元住民には雑木扱いと言う酷い物である。
ではあのあたりの木を全部こちらに移植して、
ジャーブとイルマに育てさせ、焙煎して売ってみようか。
初めは少量だが、軌道に乗れば何処か土地を借りて農園を作っても良い。
えっと、そういう場合は土地は借りるのか?買うのか?
許可がいるのだろうか、良く解らないな。
その辺りに詳しいだろう元農園の息子ジャーブに今度聞くとして、
今は残りの豆を完全に煎って見て、
ちゃんと潰してコーヒーとして全て煎じて見なければ。
期待が膨らみ、心臓が張り裂けんばかりに音を立てる。
焙煎に向かう熱量だけではない熱量を感じるに、体も熱くなった。
もしかしたらこれは一財を成すかもしれない、
そんな淡い期待の上、2杯目を用意してみた。
今度はバンディールを足す。
「ナズ、どうだ?カモーツの実で作るカクテルだ」
「わぁっ、美味しいですよ?どうぞ、アナさん」
「ありがとうございます、・・・本当ですね、
酒精が殆ど感じられませんので、
これならどんどん飲めてしまいそうです」
「じゃ、じゃあこれは後でリアナさんの所だな」
「そうですね!それが宜しいかと思いますっ!」
「あのような食べられないと思われた物がこのようになるとは・・・。
やはり・・・」(ですかね)(はい)
ナズとアナは2人で見詰め合い、お互いに頷き合っていた。
この飲料は売れると、彼女たちもそう確信してくれたのだろうか。
ナズが後押ししてくれるのであれば、
こちらの味覚にも合う物なのだろう。
では空いた畑ではあの果実を育てると言う事にして、
午後は例の木を庭へ移植する作業を行う事にしよう。
アナとラティにはその間に地図を売って回って貰うと言う事で。
∽今日の戯言(2022/06/01)
調べたらコーヒーの実ってフルーティーで美味しい品種もあるそうですね。
強烈に酸っぱい品種もあるらしいですが。
そして煎る前の種は無味無臭だそうです。
皆さんはコーヒー、どのようにして飲みますか?
私は砂糖2倍、ミルク多めでないと飲めませんね。
あ、ダークモカフラペチーノノンパウダーエキストラシロップエキストラホイップアドチョコチップグランテ、マイボトルで。
・異世界93日目(朝)
ナズ・アナ88日目、ジャ82日目、ヴィ75日目、エミ68日目
パニ61日目、ラテ40日目、イル・クル37日目、イシャ11日目




