§323 恋話
新築の自宅で目覚める朝は新鮮だ。
天井が、ベッドの感触が、向こうの壁までの距離が、
いつもと違って違和感を感じる。
部屋自体は2人部屋だったシュメールの旅亭よりは少し広い。
にも拘らず若干圧迫感を覚えるのは、
大きすぎるベッドに追加のベッド、そして書斎机があるせいだ。
絨毯も敷いたので、床が剥き出しになっている部分も少ないのだ。
微睡み加減でいると、右から手が伸びてきて左の人物を起こし、
左の人物は自分に体を寄せて覆い被さって来た。
勿論両手でキャッチして抱き寄せる。
その後同じように右の人物とも、似ているが非なる抱擁をするのだった。
蒸し暑いどころか少し冷んやりしたホドワの朝は快適だ。
マットレスの上に敷いた通気性の良い麻布も貢献していた。
伸びをして体を起こすと、同室付けのメイドが袂でお辞儀をした。
「おはようございます、ご主人様」
***
欠伸をしながら階段を下りると、
台所では既にウチの料理番が火を入れ始めていた。
ご苦労様と労って、
昨日既に用意されていたハーブティーを自分のコップに注ぎ、
夜に乾いた喉を癒す。
もう1人の料理番と合わせて2人の侵入者に対して、
高くか細い声で少女は挨拶をするのであった。
「おはようございます、ご主人様、奥様」
「そっ、そんな風に言われると困っちゃいますので、
いっ、今までの呼び方で構いませんよ?」
自分が行うべき朝の仕事は、この後に必要となる水を出す事だ。
風呂場に向かい既に並んでいる桶と盥に向けて、
アクアウォールを出して今日の分を確保する。
こうして置けば後は勝手に使用したい者が各場所へ持って行くのだ。
流石にもう盥5つ分では水が足りないと思う。
何せ11人家族であるため、
追加で並べて置いたお風呂用の小さい桶では焼け石に水だろう。
水だけに。
最低でも後3つは盥を足すべきかと首を捻った。
そういう細かい仕事も、全て誰かに丸投げしてしまっても良いのだ。
理想と言える、自堕落な生活。
いや、ちゃんと自分に与えられた仕事はするさ。
お願いするのは雑用だけである。
粗方の水が用意できたので再び自室に戻ろうかとした時、
勢いよく少女が階段を降りて来て、弾丸のように家から出て行った。
擦れ違ったんだし挨拶位しろよと悪態を吐くも、
彼女には朝のパンを買うと言う大事な仕事がある訳で、
頭の中はただそれだけしかなかったのだろう。
どうせ帰ってきて朝食時には皆一斉に顔を合わせるのだし、
細かい事は言いっこ無しか。
そういえばわざわざ朝の挨拶をしてから仕事に向かっていた男もいたっけ。
それはしなくて良いと、自分から断ったのだよな。
(ふふっ)
初々しい姿を思い出して懐かしんだが、
その仕事先である畑も手入れする作物が無いので、
彼の仕事としては無くなってしまっている。
新たに何を育てるのか、それが問題だ。
通路を隔てて食堂の反対は使用人達の部屋になる。
横を通り過ぎようとした時、扉が開いた。
シャキッとした自分の2番目のメイドが元気良く朝の挨拶をする。
「おはようございます、ご主人様」
「おぉ・・・おはよぉ・・・ごっ、ごぁいますぅぅ・・・」
その後ろにいる人物はいつも朝が辛そうだ。
髪はボサボサで、目には隈。
たった今叩き起こされましたと言う雰囲気を醸し出しているいる。
更にその後ろには目を擦りながら半欠伸の状態で、
自分に気が付くと彼女は馴れ馴れしく口を開いた。
「おはよ、ユウキ。
ちょとネムいけど、ワタシきょうはショカン、イかなきゃだモノね」
「ああ、3人ともおはよう。特に朝から任せるような仕事は無いので、
お茶でも飲んでゆっくりしてくれ」
「かしこまりました、厨房を手伝って参ります」
「はっ、は、はいぃぃ・・・」
「そ、そうね、ちょとネムいから、ワタシそこでヤスむね?」
新しい使用人は真面目であった。
お屋敷のメイドはそのように訓練されている。
扱い易いが硬すぎると言う欠点もあると思う。
その位の使用人がいた方が、全体にピリッとして良いかも知れない。
敢えて楽にやれと迫る必要は無いのだ。
自室に戻ると、外から木を打ち合う音が聞こえて来た。
この音は・・・自分が抱える剛腕剣士と見習い冒険者の2人が、
自己鍛錬のために木刀で稽古をしているのだろう。
この2人も真面目であった。
彼らにはアイデンティティを自覚する大きな出来事があった訳で、
各々新たに与えられた「大事な物」に対する責任感が湧いた事だろう。
不真面目で自堕落なのは主人ばかり・・・。
いやいやそんな事は無いぞと甘めの自己採点をして、
広くて豪華になったベッドに突っ伏すと再び微睡んだ。
***
結局2度寝をしてしまい、イルマが起こしに来て食事となった。
食事後にイシャルメダと2人でホドワの街を歩きながら、
曲がるべき角の説明をしつつ商館へ向かう。
帰って来たら調理の仕事を手伝って貰うぞとお願いをして、
途中でパンを買って学びの杜へ送り届けた。
ナズはエミーとパニを連れ、今日の宴会用の食材を買い出しだ。
15人分ともなると、相当の仕込が必要となる。
自分達の分を合わせて25・・・いや26人分だ。
自分で了承して置きながらこれは酷い。
前回振舞ったタコスやラップサンド、
クレープなんかは当然期待されているだろうし、
うちの子らに好評だったピザも作る事になるのだと思う。
自分が昨日用意した和スイーツは受けが悪かったので没になった。
小麦粉を練るのは・・・今日はパニになるのだろうか?
頑張って欲しい。
あっ、クルアチも手伝えるじゃないか。
自ら進んで手伝うのだと言っていたので、
彼女にも頑張って貰おう。
自分はこの後に迷宮に向かい、地図を完成させたいと思っていた。
どうせクルアチの装備は無いのだし、Lv1では足手纏いだ。
育成はこちらの迷宮でゆっくりやれば良いのだし、
今はダイダリの33層の地図を終わらせる事が最優先である。
メンバーはジャーブ、アナ、ラティ、ヴィー、イルマだ。
この5人をパーティに入れ、半分ずつダイダリの迷宮の傍らに飛ばした。
「それじゃ残り半分位だったと思うので、頑張って行こうか」
「「「はいっ」」」「ほーい」「あっ、はっ、はいぃぃ!」
中間部屋にはギリギリ到達していなかったので、
それよりは少し手前の通路の風景を思い出してワープで移動する。
迷宮内ワープは殆どMPを消費しないのでありがたい。
早速ラティとアナが先行を始め、ジャーブとヴィーはそれを追った。
後衛の自分とイルマは更にその後ろだ。
「あ、あの、今日は宴席をご用意なさるのだと伺いましたが」
イルマが今日の予定に付いて尋ねて来た。
朝食時に大工達を呼んで家の完成を祝って、
打ち上げを行うのだと説明した。
打ち上げと言う概念が無かったので、宴会だとも付け足した。
「イルマは宴会を知らないのか?」
「いえ、知ってはおりますが、
実際に客人をお招きするのは初めてでございます」
「ボルドレックの屋敷では人を呼ばなかったのか?」
「以前の主人は招かれるばかりで、
私達がどなたかを持て成した事はありませんでした」
あー、あいつ程の地位まで行けば招くより招かれる側か。
ではイルマも宴会で必要になる物事は知らないのだろう。
経験者は・・・窯を作った時に呼んで以来なので、
ジャーブ、ヴィー、エミーまでと言う事になる。
「まあ相手は一般市民なのだ。
作法なんて必要無いし要求された料理を運べば良いだけなので、
何も難しい事は無い」
「さ、左様でございますか」
イルマにとっては初めての事になるので心配なのだろう。
主人を前にして失敗しないかとか、失礼が無いかだとか。
宴会をするに当たって、皆には余計な負荷を掛けている事は理解している。
お高く生きて行けばそうは成らないかも知れないが、
自分はあくまでも庶民の域だ。
気の合う友人を作ってのんびりワイワイ生きて行きたい。
ボルドレックのような所謂金持ちの生活には全く憧れないし、
何より窮屈そうだ。
大体食事からして不健康である。
そんな事を話しているうちに、早速アナがブラックフロッグを感じ取った。
前衛であるジャーブとヴィーが駆け出して前を抜け、
アナとラティは中衛まで下がる。
自分とイルマも駆け出して、対処に向かった。
***
やはりと言うか、当然と言うか。
恐らく午前中いっぱいでボス部屋には到達した。
これを倒さなくとも地図は完成である。
わざわざボス戦まで丁寧にやる必要は無い。
倒すなら何もここでなくとも、トラッサやホドワで幾らでも戦えるのだ。
従って切り上げだ。
連戦に次ぐ連戦でジャーブもヴィーも息が上がっていたし、
引き時としては丁度良かったのかもしれない。
何せブラッグフロッグもグミスライムも属性魔法が有効な雑魚だったので、
一戦当たりの戦闘時間がそもそも短く、
戦闘中に先行するアナやラティに追い付くために、
魔物を片付けたら駆け足になってしまっていたからだ。
「それじゃ一旦外に出て、順番に帰ろうか」
「お疲れ様でした」「分かりました」「はーい」
「こっこれで、ぜ、全部いいい行ったんですか!?私達はッ!」
ラティが33層の地図を見ながらフルフルと震えていた。
そうだよ、お前は前半戦の地図を全て網羅したのだ。
ダイダリではこれで終わりにするが、
次はトラッサ、ホドワ、ルイジーナやマルアド等の迷宮の地図に挑戦し、
ラインナップを増やして行きたい。
そちらは最低でも50層まで潜る必要があるので、ここからが大変だ。
しかしながらそれも一通り全てのボスを経験した事で、
雑魚として出た場合の対処が容易であり、
今後の攻略はより安定感を増す事だろう。
全く未知の魔物と戦う事はもう無いのだから。
迷宮のボスはその階層に出て来る雑魚の特徴を生かした、
発展的な攻撃を仕掛けて来る事になる。
つまり全ての種類の魔物を経験した我々に取ってみれば、
後は応用だけで良いのである。
最後になったラティを自宅に送る前に、
彼女の能力を改めて褒めて、地図の完成を労った。
俺たちの仕事はこれからだッ!
何やら打ち切りエンドの最終回ぽい台詞回しだがそんな事は無いぞ?
地図自体はこれからラティが綺麗な1枚に書き直し、
それを木版に写して彫る作業が必要になる。
32層と33層の地図の写しと彫り作業は、
宴会準備で忙しいナズには手伝って貰えないので、
主にジャーブとラティで行う事になるだろう。
ヴィーは小麦粉を練る作業に増援として追加する。
クレープにピザにタコスに・・・午後は忙しいな。
アナとイルマには掃除や小物の買い出しを頼んだ。
クレープに必要な酪や果物、ピザに必要なチーズ、
追加の食器、足りない分の盥なども諸々お任せだ。
皆が忙しく動き回る中で、自分も追加の品を用意するために汗を流した。
途中で手の空いたアナもイルマも自分の作業の手伝いを行い、
ラーメンモドキは15食分確保ができた。
今回の出汁は干物を用いた。
飛魚出汁ラーメンなる物がある訳なので、
何の魚なのかは不明だが干物から取った魚介のスープは旨いはずだ。
魚醤とスパイスで煮詰めてそれっぽい味付けになったので、十分である。
後は締めが必要になった時点で湯がくだけとなった。
パーティ料理は揚げた芋に揚げたパーンの肉。
パピルスで巻いたラップサンドに山盛りのタコス、そしてピザである。
今回は30食分を用意したので、チリソースは空になってしまった。
そしてデザートは今回もクレープで締め括る。
氷冷庫があるのでクレープはキンキンに冷やしてある。
勿論ジュースも皆で一生懸命絞って、水瓶2本分を用意した。
別に余ったら自分達で飲み食いしたら良いのだ。
前回の宴会からの反省点はそこだ。
用意した量では圧倒的に足りず、
自分たちの夕食が確保できなかったのだ。
これだけあれば流石に余るやろ、の精神である。
途中ナズが用意したラップサンドを頬張り休憩を入れる。
エミーが追加のハーブティを煎れて回して来たので、
皆で昨日の残骸である団子も取り出してお茶で流し込んだ。
既にみたらし餡は洗って流し、
代わりに余った生クリームで盛り付け、
クリーム白玉風へと変貌している。
「昨日の甘しょっぱい味よりは全然美味しいですね?」
「そうですね、これならば私達でも食べられそうです」
「俺はもっとしょっぱい方が合うと思うのですが・・・」
「アタイはもっと辛い方が良いなー」
「ぼっ、ボクはこれでも大丈夫ですので・・・」
「あ、あ、あ、甘くってとっても美味しいでぇぇす」
人の味覚はそれぞれである。
結局の所、皆に合わせるのは大変と言う事だ。
異文化の食べ物を全員に満足して貰うのは諦めた。
良いんだよ、腹に溜まれば何でも。
***
全ての用意が終わった頃にようやくイシャルメダが帰って来た。
もう少し早く帰って来たのであれば、
もう少し準備が手間取るようであれば、
何かしら下拵えの仕事をさせようかと思っていたが、
彼女に任せられるような仕事は何も残っていなかった。
仕事はまたの機会である。
陽は既に傾いて、台所の明り取りからはオレンジ色の光が零れていた。
木彫りと複写作業を行っていたジャーブとラティが、
作業が終わったのだろうか、居間にやって来た。
たしか31層までは印刷まで終わっていたはずだが、
どうなったのだろうか。
「ユウキ様、言われました通り32層の木彫り作業を終わらせました。
ラティ殿は33層の写しと、半々分位までは彫ったそうです」
「ほう?半々分・・・1/4か。明日には製本化できそうかな?」
「そうですね、多分行けるかと思います。ねえ?ラティ殿?」
「えっ、あ、は、はい。がっ、がんばりますっ」
「それじゃあ、一服したらそのまま続きを彫って貰おうかな?
他の皆にはこの後で給仕をして貰おうと思っているんだが、
ラティはどっちがいい?
酒や料理を運ぶ係りをするか、そのまま木彫りを進めるか」
「あっ、あっ、あのっ、でっ、では、きっ、木彫りをし、します」
まあそうだろうとは思った。
苦手な事を無理にさせて変に失敗なんかしたら、
折角自信が付いて来たラティのやる気に水を差しかねない。
大体15人の客が来たとして、10人で相手をするには多過ぎる。
「ついでだし、ジャーブも手伝え。
双方から彫る練習をしたはずだからその方が早く終わるだろう?」
「えっ?良いのですか?」
「25人もこの部屋に入りきれないからな。
給仕をするのは3,4人でいい」
「そうですか、分かりました」
それが終わったら、アナかイルマと交代して印刷して貰おう。
そうすれば明日にでも売りに行けるじゃないか。
ナズとエミー、クルアチが居れば何とかなるだろうし、
終わった後はお休みで良い。
「それじゃあヴィーとパニはこれでお終いだ。
先に部屋に戻って休んで良いぞ?」
「宜しいのですか?」「ふーん?」
「特に任せるような仕事が無いからな。
大工達はもう3度目だし勝手も解るだろう。
ナズとアナ、イルマ、エミー、クルアチはここに残って、
客人の対応をお願いしたい。後は自室で休んでくれ」
「「「かしこまりました」」」
暇を出された者達が退出して行く。
おっと、イシャルメダには何だか解らなかっただろうな、済まない。
「イシャルメダも、特にお願いしたい事は無いから、
自室で休むかここで給仕をするか、どっちか好きなようにしてくれ」
「ええト、おキャクさん、クるのよね?」
「そうそう。これも仕事をする練習になるのかな?」
「そ、ソウ?じゃ、やテみる」
やると言い出されたらサポートせざるを得ない。
じゃあアナを付けようか。
「ア──」
「かしこまりました」
アナの方を見て話し掛けようとしたら了承された。
どこまでも物分かりの良い奴、流石は自分の妻。
「じゃあ風呂を用意して置くから、大工達が来たら対応を宜しく」
「はい、私がご案内致しますね」
手際の良さでナズに勝る者はいない。
酒場の連中の扱い方が最も解っているナズにお任せするのが一番である。
何せこの家の夫人でもあるので、勝手知ったるだ。
昨日の夜イルマ達が入った後で綺麗に掃除された風呂場へ向かい、
いつものように湯を足した。
あっ、そうだ。
ランタンを用意して置かないとな?
***
波々に湯を注ぎ、やや熱めに調節した所で客人たちはやって来たようだ。
廊下を団体が歩いて行く足音がする。
「おう、ナージャ。済まねえな、邪魔するぜ」
「来たよー、いつもナージャちゃん可愛いなぁ」
「ありがとうございます、皆さんこちらへどうぞ」
「世話になるぜぇっ」「俺、今日のために昼は抜いて来た」
「俺は朝からだ!」「えっ、お前朝まで抜いてたのか?」
「へっーここが例のお坊ちゃんの家かい、結構な感じじゃないか」
おっと、聞いた事が無い感じの野太い声だ。
彼が例の鍛冶職人なのだろうか?
今扉を開けて出て行くと邪魔になってしまうだろうから、
一通り全員が居間に入りきるのを待つしかない。
その後を、奥様方、或いは弟子の彼女だろうか?黄色い声が聞こえる。
「ねえ、また洗って貰う?」
「えーっヤダァ。恥ずかしいンだもん、あれ」
「良いじゃないのよ、他人様の奴隷相手に今更恥ずかしい事なんて」
おおっと、もうアナは奴隷じゃ無いので洗ってやれないな。
残念ですが、各自でやって頂きたい。
デモンストレーションは終わったのだ。
それにしても風呂場は蒸して熱いんだよ。
早くしておくれ。
・・・もう良いだろうか?
廊下が静かになったので、これでようやく外に出られる。
こういった場合家主は遅れて挨拶に来ても問題は無いのだろうが、
それが汗だくって言うのはちょっとどうなのだろう。
パタパタと手で顔を扇ぎ、客人が待つ居間へ入った。
「おおっ、ユウキか。来たぜ、この通り15人だ」
「いよっ、大将!今日もゴチになりますっ」
「お願いしまーっす!」
威勢の良い弟子たちが次々と挨拶をしてくれたが、
女性陣たちは会釈のみである。
そういう物なのかな?
「あー、では今日はこの家を建ててくれた皆に心ばかりの礼を。
酒も料理も、前回の倍は用意したのでたらふく楽しんで行ってくれ。
ナズの唄が聞きたかったら遠慮せずに彼女に声を」
「いよーっ、待ってました!」
「ねえ、またウサギのお肉はあるのかしら?」
「あー、残念ながらウサギは用意していないが、
その代わり干した魚を用意してみたので是非食べて行って欲しい。
酒も今ホドワの酒場で話題になっているアラと、
それからまだお披露目していないバンデイールと言う強い酒を用意した。
干し魚に良く合うはずなので是非一緒に楽しんでくれると」
「まあ、新しいお酒っ?」「楽しみね?」「おっしゃー!」
「おい、勝負のカンパイだ」「いいぜ、勝ったら1枚だ」
「またぁ?ちょっとアンタいい加減止めてよ・・・もぅ」
既に盛り上がり始めている。
これ以上尺を伸ばすのは危険だ。
アナとエミー、クルアチが各自に酒を配り、
イシャルメダも見よう見真似でコップを渡して行った。
「あー、ちょっと乾杯の前に聞いて貰いたい事がある」
「何だぁ?早くしてくれー!」「おっ、俺ちょっと飲んじまったよ・・・」
「自分はこの度、ナズとアナと結婚する事になった。
これからこの2人は自由民に戻る事になったので宜しくお願いしたい。
勿論酒場での歌も続けさせて貰う事になっているが、
自分達の門出も合わせて祝って頂きたい」
「「「「えええええええええ?」」」」「「「おおおおっー!」」」」
「えっ、2人!?できンの?そんな事?」
大工の連中たちはこれまでで一番騒がしくなった。
もちろん想定内である。
ナズの事をずっと見守ってくれていた彼らなのだから、
当然祝ってくれるに違い無い。
「コホン、あー、それでは皆、お疲れだった。カンパーイ」
「「「「「「カンパーイ!」」」」」「うぉぉぉぉ・・・」
「・・・どうだ、俺が一番だ!」「チックショォォォ!」
コップを空にした者達が手を挙げ、アナが、エミーが器を満たして回った。
イシャルメダも何度かその様子を見た後は、
言葉が解らないながらも率先して動き始めた。
「ねぇ、アナタ、ちょっと」
女性陣の1人から声を掛けられた。
と思ったら3人に囲まれた。
「な、何かな?」
「どうやって2人と一緒に結婚したのよ!」
「そんな事ってできるの?」
「事実婚ならわざわざみんなに言わないわよねぇ?」
「ええっと、そういう事ができるギルド神殿があるのだ」
「そうなんだ!ドコドコ?」
「えーっ、ヤダ、あいつに聞かれて別の女連れて来られたら最悪よ」
「あーでも、逆に言うと私達も2人の男と結婚できるって事じゃなくて?」
「鋭いな、多分そうだろう」
「「「キャーッ!」」」
きゃーじゃないよ、真面目に恋愛してくれ。
こちらは遊びじゃないんだ。
真剣に吟味した上で2人同時と言う事になったのだから、
逆ハーレムで酒池肉林なんかを想像しないで頂きたい。
「それでそれで?」
「2人とも前は奴隷だったのよね?」
「どんなトコが良かったの?」
えっ、えー・・・それを聞くか?
何だかコイバナ大会になってしまっている。
あっちではナズが既に歌のリクエストを順番に聞いているし、
ウッツは初めて見る顔であるイルマとクルアチを呼んで、
知人の道具鍛冶の男と共に質問攻めにしているようだ。
多分ボルドレックの事を聞きたいのだろう。
ウッツ達は決闘を観に来ていたようだし、
そうまでして奴から奪った奴隷なのだからそりゃ気にはなるか。
「あー、ああ。まあ、ナズは可愛いし」
「うんうん」「悔しいけどそうね」「若さよねぇ・・・」
「料理も出来て」
「そうね」「分かる」「元々エメラダさんの店の子でしょう?」
「おまけに優しい」
「あーっ!」「そういうのに弱いのよねえ、男って」
「アンタも優しくしてあげればいいのに」
「いや、それは無い、アタシの柄じゃない」
「えーっ、余りキツく当たってばかりだと逃げられちゃうぞー?」
どの弟子の恋人なのかは知らないが、
できれば恋人相手には優しくしてやって欲しい。
だって自分たち男は単純なのだから。
「それでそれで?」「ナージャちゃんは判るのよ」
「気になるのはもう1人の方なのよね」
全員がアナを注目した。
イシャルメダに指示を出し、自らも給仕に勤しんでいる。
働き者でしっかり者、それでいて表情は硬いが優しい。
「アナは・・・自分の事を何でも理解してくれるのだ。
全て解かった上で対応してくれる。
今も、あの横にいる猫人族の娘は実はブラヒム語が喋れなくって、
ずっと通訳しながら助けてやってくれているのだ」
「へーっ、お澄ましさんだと思ったけど、優しいんだ」
「アタシ、ああいうツンとした子はちょっと苦手なのよねえ・・・」
「分かるーっ。何考えてるか理解不能って言うか?」
「と、君たちが考えている事は多分お見通しで、
解かった上で対応してくれるのだ。そこが凄い」
「えー、ヤバッ」
「わ、悪口じゃないのよ?」
「そうそう、お友達付き合いは難しいかなって思うだけでーっ」
普通の町娘はこんな感じなんだろうな。
優等生タイプを敬遠するギャルタイプみたいな。
そういった意味で言うと、アナは割を食うタイプなのだろう。
「生まれも育ちも奴隷だから表情が硬いのはしょうがない。
そこは許してやってくれ。ともかく、気配りが凄いんだ。
心を預けるナズと、命を預けるアナっていう感じだな」
「え・・・あ、はい」「ふ、ふーーーん」「御馳走様でした・・・」
自分が如何にアナを信頼しているかを伝えると、
3人の姦し娘は押し黙った。
い、いや、テンションを下げさせたい訳じゃないのよ。
「まあ、あれだ、きっ、君たちも美人で魅力的ではあるので、
いやぁ、弟子たちが羨ましいなあ」
「えーっホントぉ?」「またまたー、口が上手いなぁ」
「どうせナージャちゃんには敵いませんよっと」
呆れられて彼女たちはそれぞれのパートナーの元に戻っていった。
ほっ、これで解放されたか。
弟子の1人、猫人族の男がイシャルメダに絡んでいた。
彼女にはブラヒム語が通じないと悟ったのだろう。
同じ猫人族の言葉、バーナ語で話し掛けているのだと思う。
大工の弟子たちの中でも3人は特定の相手がいないようだ。
1人は狼人族の男性、1人は人間族の男性、
そしてもう1人が今イシャルメダに絡んでいるアイツだ。
ここからでは話の内容は判らないが、
イシャルメダは楽しそうに話していたので放置して置いた。
話し相手がな・・・。
真面に会話できる相手がアナだけと言うのは厳しいだろう。
なんていうか、アナは固い。
ああやって砕けた場で話せる事が、
イシャルメダにとっても良い方向になるのだろうと見守った。
∽今日のステータス(2022/05/30)
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv66
設定:探索者(66)魔道士(43)勇者(33)
道化師:下雷魔法・荒野移動/知力中・知力大(39)
神官(45)博徒(40)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 隻眼 Lv28 OFF
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 忍 Lv28 1st
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 聖騎士 Lv25 1st
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜王 Lv16 1st
・エマレット 狼人族 ♀ 19歳 料理人 Lv40 OFF
・パニ 竜人族 ♂ 15歳 冒険者 Lv23 OFF
・ラティ 人間 女 28歳 探索者 Lv43 1st
・イルマ 狼人族 ♀ 21歳 巫女 Lv12 1st
・クルアチ 兎人族 ♀ 18歳 村人 Lv1 OFF
・イシャルメダ 猫人族 ♀ 29歳 探索者 Lv3 OFF
↓
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv66
設定:探索者(66)魔道士(43)勇者(33)
道化師:下雷魔法・荒野移動/知力中・知力大(39)
神官(45)博徒(40)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 隻眼 Lv28 OFF
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 忍 Lv29 1st
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 聖騎士 Lv26 1st
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜王 Lv19 1st
・エマレット 狼人族 ♀ 19歳 料理人 Lv40 OFF
・パニ 竜人族 ♂ 15歳 冒険者 Lv23 OFF
・ラティ 人間 女 28歳 探索者 Lv44 1st
・イルマ 狼人族 ♀ 21歳 巫女 Lv18 1st
・クルアチ 兎人族 ♀ 18歳 村人 Lv1 OFF
・イシャルメダ 猫人族 ♀ 29歳 探索者 Lv3 OFF
・繰越金額 (白金貨29枚・利用券2枚)
金貨 27枚 銀貨 99枚 銅貨 11枚
パン屋 (8й)
パン代(イシャルメダ昼食) 8
銅貨- 8枚
------------------------
計 金貨 27枚 銀貨 99枚 銅貨 3枚
・収得品
バラ × 1 岩 × 1
寄生ワーム × 3 肝 × 4
竜皮 × 11 スライムスターチ × 25
カルバミ × 58
・異世界92日目(朝)
ナズ・アナ87日目、ジャ81日目、ヴィ74日目、エミ67日目
パニ60日目、ラテ39日目、イル・クル36日目、イシャ10日目
・ダイダリの迷宮
28 モロクタウルス / ボスタウルス
30 ケープカープ / カーブカープ
31 ドライブドラゴン / ランドドラゴン
32 グミスライム / ゼリースライム
33 ブラックフロッグ / フロックフロッグ




