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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第囲章 新生
335/394

§322 不評

各位の紹介を済ませた所で夕食になる。


今日はナズが提案した謎の料理が並ぶ。

何時ものように味付けした野菜炒めや肉料理では無く、

明らかに手の込んだ料理が並んでいた。


こんなに張り切って大丈夫だろうか。


「ええっと、ナズ、今日の夕食は何と言う名前なのだ?」

「はい、ご主人様は異国の出だと伺っていますので、

 こちらの郷土料理をご用意してみました」


あー、郷土料理。

日本に絶対無いヤツだ。

或いは地球にも無いかもしれない、有るかもしれない。

日本語訳が無いから訳せなかった、そういう事だ。


「こちらはパンの替わりによく食べられます、ファラフルになります。

 潰した豆を素揚げした物になりますね。

 こちらのリャーフリットに付けてお食べ下さい」


赤く油っぽいソースが各々別の皿に用意されている。

見た感じ赤いので辛そうに見えるがトマトソースの線も考えられる。

あ、いや、こちらの世界のトマトは緑なのだっけ?

ではやっぱりこれは辛い奴だ。


ファラ?何トカをナイフで刺して先っちょをソースに付けて口に入れる。

ピリ辛だが辛過ぎる事も無く、これはこれで美味しい。

やるじゃないか郷土料理。


唐辛子レッドスパイスは高級品だった筈なので、

それと似たある程度辛みのあるハーブなのだろう。

これがそこら辺に生えている訳だ。

でなければ郷土料理に納まらないのでな。


「こっちのこれは?」


もうひと皿、煮込み料理が各自のテーブルに置かれていた。

少量だが食べ応えがありそうな色合いをしている。

上にはチーズが掛かっているので、焼き目が付いて美味しそうだ。


恐らく窯を使用したに違いない。

夕方エミーが一生懸命掃除をしていたようだし。


「そちらはターパスになります」

 同じく豆を使いますが、スパイスと大蒜で味付けしまして、

 中には野菜の炒め物が入っています。

 本当はそれだけで終わりなのですが、

 エミーちゃんの提案でハムとチーズを乗せて窯で焼いて見ました」

(コクッ)


やはりか。


ナズでは窯を用いると言う案は浮かばないはずだ。

郷土料理であるならば一般家庭に窯など無いのでこれは作れない。

エミーがひと工夫加える事で、1つ料理のランクが上がった。

これは金持ち用の贅沢料理と言う事になる。


以前シルクスの港で豆を見かけた時に、

潰して煮たり焼いたりして食べるのだとか言っていた。

その時はもっと簡素な物を想像して愕然としたが、

その実態がこんな物だったとは驚きだ。


意外と食文化は凝っている。

この世界の文化設定は「小」ではあるが、

個々の地域にはその特色が反映されている。


国同士の交流が余り無い、或いはかなり制限があるため、

文化が交じり合わなくって「小」なのだ。

この世界全ての地域を回って文化を凝縮すれば、

きっと文化は色取り取りで華やかになるのだろう。


そういえばこの世界は大掛かりな戦争が無い。

異国が強制的に入り交わらない事で、

お互いの文化圏を刺激しないようになっている。


敗戦国の民が強制移住させられたり、

技術者が簡単に移転できないようになっているため、

文化の交雑が行われないのだろう。

だから文化「小」なのだ。


既にヴィーが物凄い勢いで辛めのスープを消費している。

パニの皿があまり減っていない所を見ると、

アレの行き先はヴィーだろう。

パニは辛いのが苦手だし、ヴィーは大好物なので。


「ターパスなんて久しぶりです。実家を思い出します」


「ジャーブの暮らしていた地域でも食べていたのか?」

「そうですね?トルキナの中央部では広く食べられていると思いますが」


「へ・・・へぇ・・・。

 イシャルメダはどうだ?トルキナの名物料理らしいが」

「うん、ワるくナいヨ?チョとこのスープはカラいケど、

 こチのころけはおイシね」


コロッケか。


そう言われればそう見えなくも無いが、

中身が豆なので果たしてコロッケなのだろうか。

コロッケの専門家では無いので、

豆の素揚げがコロッケなのかどうか判定に困る。


衣が付いていない時点でコロッケでは無いと思う。

ジャッジの結果コロッケでは無くなった。


「コロッケでは無くってファラ?何だっけ」

「ファラフルです」

「そ、そう。ファラフルてイうのね?おイシよ?」


アナが補助をしてくれた。

イシャルメダとの会話に割って来られるのはアナとジャーブだけだ。

でも会話できる相手がいるならば困る事は無いな、うん。


やはりヴィーの側からどんどん消えて行くので、

あちらの皿は戦場になっている。

こちらは自分とナズ、アナ、イルマとエミーがつつくので、

食事の風景は大人しい物だ。


今後はヴィーの周辺に座るラティやクルアチ、イシャルメダが、

食うか食われるかの食卓バトルを繰り広げる事になるのだ。

いや、食えるか食いっぱぐれるかだな。


クルアチはちゃっかり自分の皿の中にファラフルを3つ確保した。

偉い。

流石戦闘もできると豪語しただけある。

ジャーブはイシャルメダの皿の中に2つ放り込んでやったようだ。


優しいな。

エミーはジャーブのそういう所に気が付いたのだろう。

それで完解した訳だ。


リャフリット?と言うスープはアヒージョに近かった。

本来はこれに色々な具を漬けて食べるのだろう。

オリーブオイルは体に良いらしいので、

こういった料理は具よりも旨みが抽出されたオイルの方がメインだ。


飲み会ではお洒落料理として女子受けするので大体頼む奴がいたが、

芋やソーセージだけを食べて残った油は邪魔者扱いであった。

そこで薀蓄うんちくが披露されて女子共がキャイキャイする。

それならばと、ノリが良い奴が鉄皿ごと抱えて飲み干すまでがセットだ。


(・・・ふふっ)

昔を懐かしんで、ひとり静かに笑みを浮かべた。


あらかたメイン料理が消えた所で、自分の料理の品評が始まる。

澄まし汁とみたらし団子である。


辛いオイルスープの後に薄味の澄まし汁は舌に優しいだろう。

甘しょっぱいみたらし団子も絶対受ける。

そんな風に考えていたのだが・・・。


「ご主人様、この・・・スープは殆ど味がしなくって・・・」

「モチ?と言われましたこの塊も、

 以前頂いたオーレズの触感には及びませんね」

「もっとアタイ辛い方が良いなー」

「ぼ、僕はこの位の味でも十分ですので」


パニがお世辞で評価の意を示したが、

明らかに餅だけ食べて残りの汁は不用品扱いである。


お、おかしいな。

味的にはちゃんと出汁を取ったし、キノコ香る風味があるはずなのに。


餅もダメか。

薄味過ぎて、先程食べた辛めのオイルソースに完全敗北してしまっている。

確かにスパイスが効く焼きチーズ料理の後にほんのり塩味の餅では、

その味に気が付かなくなってしまうかもしれない。


「な、ならばこちらはどうだ?

 ちゃんと甘いし、ちゃんとしょっぱいと思うが」


各々がみたらし団子をナイフに取ってひと口を頬張る。


「ええっと、確かに味はあるのですが・・・」

「頭が混乱致しますね。甘いのか、しょっぱいのか・・・」

「す、済みません。俺にはどうも、この異国料理は合いそうもありません。

 折角作って頂いたのですが、この通りお許し下さい」


えっ、ええーっ。


主人が振舞った料理を奴隷が残すなんて本来在り得ない事だと思うが、

それを押してまでジャーブが断って来た。

きっと皆を代表したのだろう。


イシャルメダだけは黙々と食べていた。


「い、イシャルメダはどうかな?」

「ん?このオレズまるめたの?ワルくナいよ?

 もうチョとアマいとイイかモ?」


そ、そうなのか。

甘い方が。

豆を甘く煮て、お汁粉のようにしたら皆食べてくれるのだろうか。


披露すれば何でも喜んで食べてくれる・・・そんな甘い考えがあったが、

そこには食文化の違いが大きく横たわっていた。


日本人のように繊細な出汁を味わう文化が無い。

そもそも出汁なんて庶民では取らない。

以前出したうどんに合格が出たのは、塩味が効いてしょっぱかったからだ。

出汁その物の味わいがどうのこうのした訳では無かった。


みたらし団子もそうだ。


甘いか、辛いか、しょっぱいか。

基本的な味付けが望まれるのであって、

甘しょっぱいと言う中途半端な品物は、

彼らに取っては未知の味付けで評価をし難いのだ。


庶民の食文化・・・。

そういえばヨーロッパでは、

旨みの概念が20世紀になっても知られていなかったと言う。

その成分であるグルタミン酸が広く世界に伝えられたのは、

日本人の功績に依るものだ。


ここは中世ヨーロッパよりも古い世界観。

当然・・・旨みの文化も無い。

貴族上層にはあるかもしれないが、庶民に至っての話だ。


従って味覚が発達していなくって感じられないと言う事だろう。

仕方無い。


日本の伝統料理を伝える事は諦めた。

ピザやらクレープやらサンドイッチやらタコスやら。

欧米で発展した料理に関しては大絶賛だったので、

やはりそういう事なのだろう。


じゃあ次は洋風の何かだろうなあ。


不評のみたらし団子は回収して、

イシャルメダと2人で食べる事にした。



  ***



食事が終われば当然風呂だ。


今回は事前にお湯張りをしていない。

道化師のジョブを得て以来、

湯を作りだす事は何の苦労にもならなくなっていた。


MP回復速度20倍を取得し、

探索者、魔法使い、遊び人、魔道士、道化師、勇者をセットする。


 初級水壁魔法ウォーターウォール

 初級火壁魔法ファイヤーウォールを重ね、


 中級水壁魔法アクアウォール2枚と、

 中級火壁魔法バーンウォールを重ねるのだ。


あっと言う間に3センチ程の湯が溜まる。

膝上60センチまで20セット。

理論上5分もあれば満水にできるが、

そんな厳密に時間ピッタリ魔法が使用できる訳では無い。


連続使用ではMPだって枯渇するので、

5セットごとにサラセニアを叩きに向かった。

元々人が少なく人気の無い階層な上、夕方以降は探索者もガクッと減る。


中間部屋からボス部屋までのんびり歩き、

ボスをボコボコ叩いて帰るだけだ。

道中の雑魚?

無視だよ、無視。

オーバードライブで駆け抜けながら一発当ててMPを回復するだけである。


さて、風呂用の椅子は3つ。

イルマは感染症があるので未だここに呼べないが、

ナズとアナは既に自分の妻である。

3つ並べて背中を流し合おうでは無いか。


期待する所の期待を大きく膨らませて2人を呼んだ。



  ***



久しぶりの風呂に癒されて、癒されたい所も大いに癒された。


新たにできた風呂用の通路のお陰で、動線が確保されている。

以前は入り口横に置かれていた着替えやタオルを入れるラタンの籠は、

部屋の隅に置かれた机に綺麗に収まり、濡れる心配も無くって最高だ。


満足げに風呂から出て、次のジャーブにバトンタッチした。

そういえば皆食堂にいる。

部屋を割り振り忘れた。


「あー、ジャーブは2階の奥の部屋だ、エミーもな。

 パニは小さい方の部屋。ヴィーもだぞ」

「よっ、宜しいのですか!?」「おおおっ?」


「但しジャーブは暫くベッド禁止だ。床で寝てくれ」

「ええっ!?」


「まだエミーの病気は治っていないので、もう少しだけ待ってくれ。

 床で寝る為の柔らかい敷き布があるので暫くはそれで」

「そっ、そうですか・・・。

 い、いえ、エミー殿と同室にして頂けただけでも十分です。

 ありがとうございます!」

「あの、ボ、僕もヴィー様と同室にして頂き、ありがとうございました」


「残りは1階の部屋を使って、ベッドの場所は自由に決めてくれ」

「ありがとうございます」「はっ、はいぃっ」


「風呂はジャーブが出た後はヴィー、ラティ、クルアチが入って、

 最後にエミー、イルマ、イシャルメダで頼む」

「イシャルメダさん、このあとでゆあみをしますので、

 よばれたらきがえをもってイルマのあとをついていってください。

 わたしがはいりかたをせつめいしますので、おぼえてください」

「え?あ、うん、ありがと?やーみ?やーみってナニ?」


「お風呂の事だな」

「オフロ?オフロって?」


「ええっと、お湯に入って体を綺麗にする。

 まあここで言っても理解できないと思うから、

 取り敢えずアナの言われた通りにして来い。気持ちが良いぞ?」

「え、そ、ソウ?ワかた」


・・・・・・・・・。


その後、恐らくアナが彼女を洗ってやったのだろうと思われる、

イシャルメダの黄色い声が風呂から響き渡り、

様子を見に行くと恍惚とした表情で彼女はフラフラと自室に戻って行った。


一体ナニをしたんだ、アナは。


全員が風呂から出た後、既に出掛けたナズを追って皆で酒場に向かった。

酒の運搬費用の替わりに自分達の飲食代はタダと言う事で了解を得ている。


や↑ったぜ、タダ酒だ。


用意された裏口から入る特別席に入り、

10人の集団で飲み食いをさせて頂いた。

テーブルには既に10人分のタコスが詰み上がっており、

今日は完全に自分達専用の席として用意してくれた事を理解した。


久しぶりのタコスに、ジャーブは感激し、ヴィーは吠え、

パニは涙目になり、イシャルメダはその辛さに驚いた。

∽今日のステータス(2022/05/29)


 ※作中名称


 ・ファラフェル:イスラエル料理

  ひよこ豆を潰して揚げた物

  香辛料として辛パセリ(コリアンダー)などを用いる


 ・タパス:スペイン料理

  ひよこ豆を潰してニンニクとスパイスで味付けをして煮た物

  葉物野菜を入れる事が多い


 ・レフリート:スペイン料理

  オリーブオイルをニンニク、唐辛子で味付けした物



 ・異世界91日目(16時半頃)

   ナズ・アナ86日目、ジャ80日目、ヴィ73日目、エミ66日目

   パニ59日目、ラテ38日目、イル・クル35日目、イシャ9日目

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