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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第曲章 結末
320/394

§307 既知

──ウォンッ!


「お疲れ様です、ご主人様」「・・・えりな・・・ませ」


静かなトラッサの一室に、フィールドウォークの起動音が鳴る。


後で戻ると言って置いたのだから、

そろそろ来ても良い時間かな?と、そう考えていたのだろう。

エミーは移動用の壁掛けの横に立っており、お辞儀をして出迎えた。


「ああ、エミーはもう良いのか?」

「はい、問題・・・ありません」


「イシャルメダも元気そうだな?」

「え?あ、うん。ありがと。このコとちょトおハナシしてたんだ」


イシャルメダは横に顔を向けると、

その方向にいたアナはコクッと相槌を打った。


もう面倒なのでみんなプタンノラの宿屋で面倒見て良い?

イシャルメダも自分の奴隷になるって言ってるんだしさ。

奴隷契約したら逃亡は無いでしょ、流石に。


ここに連れて来たのは逃亡防止の為であったので、

彼女の腹が決まった今であればその意味は全く無くなっていた。


「イシャルメダ、もう一度確認させて貰うが、

 お前は自分の奴隷になると言う事で本当に良いのだな?」

「え?あ、・・・う・・・ん。ほかにドしよもナいし。

 またオキャクとろうおもってもビョきじゃムリだものね。

 シゴトさせてくれるとこ、さがすのも・・・たぶんムツカし」


「では契約を行おう。腕を出せ」

「えっ・・・ま、またイタい?」


「いや、痛くない痛くないっ、インテリジェンスカードを書き換える」

「ええっ?ユウキってキシさま?アレ?ボウケンシャだよね?・・・ん?」


混乱しているようだが、他にどうしようも無かろう。

自分は騎士であり冒険者であり商人なのだから。

一応後で他言無用だと話して置く必要はあるが。


無理せず奴隷商まで連れて行くか?

しかしもうこんな時間だしなあ。

面倒事を増やすのも何だし、明日にすれば良いか。


「じゃあ明日契約を行うから、それまでゆっくりしていてくれ」

「あ、ソゆコトね?ワかた」


「エミー、イシャルメダの面倒を暫く頼む」

「かしこまり・・・た」

「え?このコもビョきじゃないの?ダイジョブ?」


「そうは言ってもイシャルメダだって同じ事だぞ。

 同じ病気だったが今は普通に動けるだろう?」

「そ、ソウね?たしかに、ヘイキね」

「もんだい・・・ありません」


「また後で戻って来るので、ちょっとアナを借りて行くぞ」

「わたしですか?」

「かしこまり・・・た、いってらっ・・・ませ」

「ウン、キョウはもどテキてくれル?」


「うーん、解った。後で戻って来るので良い子にしていてくれ」

「ワかた。ふふっ・・・ユウキやぱりヤサしい」


「ではアナ、行くぞ?」

「あ、はい」


ゲートを出されるのかと想像したアナは壁掛けの前で待っていたが、

自分がドアから外に出た事で慌てて駆け寄って来た。


移動するにしてもプタンノラではジャーブ達が隣にいるし、

シュメールの旅亭にはナズが居て、彼女の前で話す訳にも行かない。

ナズと共に選択を迫るようなマネはしたくない。


当然トラッサの旅亭で話せるはずもないし、必然的に外だ。

受付でカンテラを借りて外を歩いた。



   ***



──行くぞと言われ、私はシュメールに戻るかプタンノラに戻るか、

  そのどちらかであるかと思った。


  夕方前に淹れたハーブティーはまだ十分にあるので、

  プタンノラに戻る理由は思い浮かばない。

  あるとすればシュメールの旅亭に戻り、今日のお務めをするのだろう。


  お務めと言ってもご奉仕をするだけに留まらず、

  この主人は私とナズさんをとても可愛がって下さる。

  本人ばかりが満足して終わる以前の主人と違って、

  私はこの主人と体を重ね合える事をとても楽しみにしていた。


  食事や寝室に於いては極上の待遇と言って良い。

  迷宮では圧倒的強さで私達を守り、何の不安も心配も無い。

  賢く優しく、皆の意見を良く聞き採用なさる。


  ナズさんの言葉を借りて言えば、神のようなお方だ。

  複数スキルを持っている人物の話は知っている。

  神話に出て来る神がそのような人物であった。


  それに近しいお方、或いはその神話と云うのは、

  主人の出身国から来られた実在の人物を記した話だったのだろうか。

  ミティオ?様と言う主人が神と崇めるお方にも、

  そのようなお力があるそうだ。

  主人が暮らしていた国では、

  そういった方々が普通にいらっしゃるのだろう。


  主人はランタンを受付で借りると、トラッサの夜の路を歩き始めた。

  どうやら夜のお勤めの前に、何か別の用事があったようだ。

  この主人は前触れも無く無茶な仕事を要求するような方では無い。


  であればその内容の相談か、事前の下見なのだろう。

  私はまた新たに重大な事を任されるに違い無い。

  そう思って気を引き締めた。


「アナ・・・」

「何でございましょうか」


  いつも通り何かの仕事であるならば、

  この主人はもっとハッキリとした口調で物を言う。

  今回に限っては何か歯切れが悪そうだ。

  これから私に任せようとする仕事内容は難しい事なのだろうか、

  何かの判断をこまねいている様子だった。


「アナは自由になれたとしたら、何をしたい?」


  突然何を言い始めたかと思ったら、

  私達に取って返答が許されない事をお尋ねになられた。

  この主人はいつもいつも、何か仰る際は突然で奇抜で無茶苦茶だ。


  盗賊になりたいだの、魔法使いになるだの、

  自爆玉で死なない方法だの。

  ・・・しかしそれは全て実際に実行して来られ、

  全ては思い通りになさって来た。


  と言う事は。


  私に自由民になれと迫っておられる。

  私を解放し、自由にさせるおつもりだ。

  多分拒否をしても、いずれ必ずそうなる。

  私は覚悟を決めた。


「ご主人様のお考えがそうなのでしたら、私は従います」

「い、いや、まだ何も言っていないが」


  自由になった後の私に、何があるのだろうか。


  私のジョブは類稀なジョブであると聞いていた。

  ナズさんも隻眼と言う聞いた事も無いジョブに就いている。

  転職の際にギルド会長からは王宮への招待があったのだとか。


  そういった所で生活するのは無理がある、とナズさんは断ったそうだ。

  私もそれには同意する。

  しかし本音はそちらでは無いだろう。

  ナズさんは・・・主人の傍にずっといたいと考えている。


  それにも私は同意する。

  恐らく今後別の主人に仕えたとしても、

  これ程までの待遇で迎え入れてくれる方は存在しないだろう。

  それだけでは無い。


  自由?

  自由になれと、この主人は私に迫った。

  例えば伴侶となる者ができたとして、

  今の主人程に実力と優しさを持ち合わせているだろうか。


  迷宮へ赴くパーティに入ったとして、

  今の主人程お強く安心できるパーティに巡り合えるだろうか。


  思い浮かぶのは以前の主人だ。

  私達は危うく一命を取り留めたが、

  同行していたお仲間のドワーフは倒れ、

  それと同時に配下の奴隷も倒れて消えた。


  例え自由になった所で、

  私には明日の生活の保証も、迷宮での安全担保も何も無い。

  今より待遇が悪くなる道しか存在しないのだ。


  だから答えは決まっている。


「例え解放されて自由の身になったとしても、

 私には1人で生きて行く術がありません。

 お許し頂けるのでしたら、

 その後もお傍でお仕えさせて頂けませんでしょうか」


  先に私の願望は伝えた。

  後は主人がお決めになる事だ。

  誰にでも優しい主人ではあるので、

  今の私の発言から色々考えた挙句、

  手放そうと言うお考えには至らないだろう。


  その位には大事にされているのだと自負しているし、

  大事にされているからこそ解放と言う選択を頂いたのだ。

  もう要らないから去れと仰っている訳では無い。

  それは良く解っている。


「解った。ではアナを解放したら、

 その時は自分と結婚してくれるだろうか?」


  え・・・・・・・・今何と?

  ダイだい?だいだいだい・・・大丈夫なのだろうか?この主人は。


「え、ええと、も、申し訳ありませんがもう一度」


  聞き間違えだ。

  どなたかと結婚をして欲しいと。

  そういう伴侶を見付けて下さったのだろう。


  ジャーブの件もある。

  エミーの治療が始まっているようであるので、

  この主人は分け隔てなく皆に伴侶をお与えになりたいのだ。


「アナの事が愛おしくてたまらないのだ。

 掛け替えのない仲間、愛すべき相手、

 そして命を懸けて守りたいと思っている。

 自分と・・・その、・・・結婚をして欲しい」


  主人の動きが止まった。

  私の鼓動は早まった。


  聞き間違いではなかった。

  私にどうしろと言うのだ。

  はいと答える以外の選択が無い。


  拒否をした所で・・・待遇は変わらないだろうが、

  そのために主人とは永遠に外せない楔を撃ち込む事になる。

  そして私も。


  かつては自由に憧れた事もあった。

  15で奴隷商に売られそこで教育を受けたが、

  世の中の仕組みを知れば知る程、

  誰かの世話になった方が楽であると言う事は身に沁みた。


  ある程度の実力が無ければ1人で生きる事は難しい。

  だからこそ人々は結婚をしたり、奴隷を持ったりするのだと。


  税金の優遇・・・それが全てだ。

  だから金持ちの子などは地に足が付くまでは親族の奴隷となり、

  仕事を学ぶ事だってあるのだと言う。


  ただ、この主人を夫として愛せるかと言えばどうだろうか。

  主人から告知を受けた今であれば、

  これまで考えないようにしていた言葉を考えても良いかもしれない。


  す・・・い、いえ、何でもありません。


  実際に喋った訳では無いのに、私は誰に、何を断ったのだろう。

  これまで考えて来なかった想いが、感情が溢れ、

  私の胸の鼓動は限界だった。


「わっ、わた、私はそれでも構いませんが、ナッ、ナズさんの事が!」


  ナズさんのせいにして私は言及を遠ざけた。


  良かった、これで私は平常に戻れる。

  主人がナズさんを選ぶならば、それは良く判る。


  ナズさんは可愛いし、酒場の歌姫だ。

  主人の箔にも繋がる事だろう。

  対して私は・・・。


  私と結婚をした所で、主人に一体どんな利点があるのだろうか?

  同族でもなく子を儲けられない私に、妻としての価値など無い。

  精々抜きんでいる事はジョブ位だが、

  それは公言するような物では無いのだと弁えている。


  だから結婚をするお相手はナズさんの方が良いだろう。

  であれば、私はお仕えする1番奴隷で良い。


「ナズには既に伝えたのだ。ナズとアナ、2人と結婚したい」


  ええと?


  ナズさんと?


  一緒に?


  3人で?


「えっ・・・ええと・・・」


  私は返答に詰まった。


  そんな事はできるのだろうか。

  妾奴隷を本妻に据える主人の話は聞いた事が無い訳でも無い。

  ただ・・・2人も同時にそうすると言うか、

  そもそも一般人であってもそんな事はできるのだろうか?


  聞き間違いでなければ、私とナズさんの2人と結婚をしたいと仰った。


  ・・・この主人の事だ。


  できない事は言わないお方なのだから、やはりできるのだろう。

  であれば、後は私の返答次第と言う訳だ。

  当然・・・ナズさんとは既に合意済みであり、

  私はその為にここに呼び出されたのだ。


  私の答えは簡単だ。

  この状況に於いて愛だの恋だの、そんな事はどうだって良い。

  私は私の全てを活かして頂けるこの主人の元で、

  これからも世話になるべきなのだ。


  勿論、主人の事はす・・・、


「ゴホッゴホッ・・・」


「お、おい、アナ?大丈夫か?」

「い、いえ、大丈夫です。

 このような身でありながらそのように見て頂けた事へ感謝致します。

 よ、宜しくお願い致します」


「アナ、感謝とかお願いとかでは無いんだ。

 奴隷と主人と言う関係では無い立ち位置になって答えて欲しい。

 ただの男と、ただの女の関係だ」

「ええっと・・・」


  私が自由民として主人と出会って結婚を申し込まれたとして、

  その返答がどうであるかと改めて問われた。


  だから答えは決まっている。

  これ以上の伴侶は有り得無い。

  財があり、強く、若く、そしてお優しい。


  私の事を良く理解してくれる妹となったナズさんと2人、

  姉妹供に纏めて面倒を見て貰えるのだから、

  私達は晴れてずっと一緒になる事ができるのだ。


  奴隷のままであるならば、何時かは破綻する時が来るかもしれない。

  私達が老いた際に、新たなお妾を取られないとも限らない。

  大失態を犯した際に、お許しに成られない事だってあるかもしれない。


  それが・・・赦される。

  勿論夫婦となっても離縁と言う選択は残る訳で、

  大逸れた事が許されるようになる訳では無い。

  今まで通り慎ましく主人を支えるだけだ。


  私達は何も変わらない。

  いや、むしろ変わらない事が保障される。

  それだけで十分だ。


「私の考えは変わりありません、願っても無い好機と考えました。

 このような身ですが、お選び頂きました事に感謝致します」


「そうか・・・」


  主人は・・・少しガッカリしたのか、ホッとしたのか、

  そのどちらでもないような、やや気落ちした素振りで再び歩き出した。


  今の返答でおかしな事があったのだろうか。

  私は主人からの求婚を受け入れた。

  それは・・・自由民となり、町娘になると言う事だ。


  元々町娘であったナズさんにも同じ質問をした訳で、

  主人は私にも同じような返答を期待したのだ。

  恐らく、私はナズさんと返答の仕方や考え方が異なっていたのだろう。


  私は間違ってしまったのだろうか。

  そのまま主人は誰の家とも解らない壁に向かって移動魔法を使用した。


「アナ、自宅へ戻る」

「かしこまり・・・ました」


  言われるがままにゲートを抜けると、

  そこは暫く前に暮らしていた主人の家であった。

  今はランタンの灯りだけなのでハッキリと行かないが、

  見覚えのある竈門かまどが目に入ったのだ。


  台所は変わらない様子だったが以前と違って広くなっており、

  あれは家具の作成中なのだろうか?木屑や角材が散乱している。

  まだ作っている最中なのだと言う事は良く判った。


「ちょっと持っていてくれ」


  主人はカンテラを私に渡すと、かつて納屋だった場所に向かう。

  そこへ再びゲートを出すと、今度は納屋の中から出て来られた。

  どうやら新しい家では納屋の中から鍵が掛けられるようだ。


  貴重な品物が増えたのだから、

  こうして荷物を安全に保管するのは大事だ。

  何から何まで綿密であり、

  私ならば到底主人のような考えには及ばない。


  戸が開かれて呼ばれると、

  中から以前にも見た事がある木箱を取り出された。

  確かアムルの町で悪徳商人をさぐった際、

  潜入前に見せられた宝石が入っていると言われていた箱だ。


  あの時得た宝石全てを主人は売ってしまったのだと思っていたが、

  この宝石箱は元々主人が持っていた物。

  それは売らずに取っていたようである。


「それは・・・以前宝石だと仰っていた木箱ですね?」

「ああそうだ。良く覚えていたな?」


  主人の持ち物には大変興味がある。


  火の付く不思議な液体入りの魔法具、

  いつでも光を灯せる熱くならない魔法具。

  お持ちの本も華美な装飾が成されていたし、

  そうで無くたってお作りになった物全てが奇抜だった。


  きっとこの宝石とやらも、私達の知らない驚くべき物なのだろう。


「では戻るぞ?」

「かしこまりました」


  おおよそここに来た理由は、

  単にこれを取りに来ただけのようであった。

  それ程までの物なのだろうか?


  それとも先程の話は何かの作戦の一環で、

  これが必要になる事態が発生したのだろうか。

  私にはこの後の展開が全く想像できなかった。


──ガタ、ガタタッ・・・ヴォンッ!


  主人は内側から納戸の鍵を架け、

  いつものように詠唱も無く移動魔法を唱えると中に消えて行った。

  私も直ぐに後を追う。


「お帰りなさいませ、ご主人様・・・とアナさんですね?」


「ああ、ただいま。食事は取ったか?」

「ええと、はい。お食事は既に頂きました」


「ナズさんはもう大丈夫なのでしょうか?」

「アナさんにもご心配をお掛けしまして申し訳ありません。

 もうこの通り、大丈夫です」


「そうか。では2人とも、こちらに来てくれ」

「「かしこまりました」」


  私たち2人は主人の下に駆け寄ったが、

  抱き着こうとしたナズさんの腕を主人は払って遠ざけた。


「待て待て、まずは腕を出して欲しい」


  直ぐに理解した。

  この後何をされるかを。


  私達の・・・奴隷の枷が解かれるのだ。

  ナズさんもそれを理解して、チラッと私の方を見詰めて来る。

  私は頷いて返事をし、2人で袖を捲った。


  主人はうつむいて何かをブツブツと仰ると、

  相変わらず無詠唱で私達のインテリジェンスカードを出現させ、

  次の瞬間には<奴隷>の文字が消えていた。


  私達2人は今、この場で自由民となったのだった。


  かつて憧れたはずの自由民。

  何の枷も無く全てが許される上級民。

  こうして実際に得られて解った事は、

  とても不安定な崖の上に立っている心境であった。


  誰かに保護をして貰わなくては、直ぐにでも転落してしまう。

  その先はまた奴隷の人生だ。

  自由民として生きて行くのは大変なのだと理解した。

  だからこそ、私はこの主人からの解放を恐れた。


「ナズ、これからは妻として宜しく頼む」

「はっ、はい。あ、あの、も、もう結婚した事になったのでしょうか?」


「いや、どこでも良いからギルド神殿で登録するらしい。

 2人で手をかざせば良いのだと聞いた」

「そっ、そうですか、でででは、また明日ですかね?」


  ナズさんが狼狽うろたえている。


  私の前がナズさんで良かった。

  2番目の私は心の準備ができる。

  ゆっくりと考えられる猶予がある。

  ただそれだけの事に感謝した。


「アナ、これからは妻として自分を助けて欲しい」

「勿論です。私達は今までと何も変わる事がありません」


「アナらしいな。これからはもう少し緩くで良い」

「そうは仰いましても、私はこのようにしかできませんので・・・」

「わっ、私も同じですっ!」


  返答に戸惑っていると、主人は私の首に何かを掛けた。

  良く見れば既にナズさんにも掛かっており、

  その首飾りを手に取って眺めていた。


「これ・・・は?何でございましょうか?」


  ナズさんが先に口を開いた。

  私はこれがどこにあった物なのかを知っている。

  そして、とても大事そうにしまわれていた事も。


「自分が国を出た際に、持っていた全財産で買って来た宝石だ。

 その・・・気に入って貰えれば良いんだが」

「そっ、そんな貴重な物を頂いても宜しかったのでしょうか!」


「自分の国では結婚相手に宝石を送る風習があるのだ。

 いつか・・・2人が許してくれるのであれば渡そうと考えていた」


  ・・・と言う事は最初から?

  長い間大事にしまわれていたのはそういう事だったのだ。


  私は迷宮探索に向く者として選ばれたに過ぎなかったはずだ。

  ずっと・・・ずっとそう思っていた。

  私達はあの日から、既に主人の夫人候補として選ばれていたのだ。


  なんて幸運な事だったのだろう。

  そしてなんて奇抜な選び方だったのだろう。

  あの時私が自ら申告をしなかったのであれば、

  今この場にいるのはナズさんだけだったのだ。


「あっ、ありがとうございます!大切に致します!」

「ああ、喜んでくれて何よりだ。奮発して買っただけあった」


  ナズさんははしゃいだ。

  私も初めての宝石に心踊らない訳が無かった。

  それが主人から頂いた物であるからと言うだけでは無い。


  主人が私の首に掛けた宝石は、

  透き通っているが色もあり、

  飴色の物や暗い色、

  透明に近い物も含めて、

  無数の宝石が繋がっている首飾りだった。


  ランタンからの揺らめく光に踊らされて、

  宝石自体もキラキラゆらゆらとうごめいて見え、

  これが非常に高価な物であると言う事は良く判った。


  装備品では無いので自動的に収縮はしない。

  元々同じ大きさだったと思われる2つの首飾りは、

  ナズさんには胸の方まで垂れ下がって優雅に見え、

  私には首の下に収まって上品に思えた。


「アナも喜んでくれて嬉しい」


  いつからだろうか、主人は私の心を読むようになっていた。

  何も言っていないし顔すら動かした覚えが無いのに、

  思考が見抜かれてしまっている。


  私にはそれが不思議でならなかった。


「ありがとうございました。

 ナズさんと2人、今日の事は忘れません。

 宝石は大切に致します。これからも精一杯、ご主人様をお支え致します」

「あっ、わ、私も、大事にします!宜しくお願いします!」


  その後主人は私達を両手で抱え込むと、

  何度も何度も私達の頭を撫でられた。

  いつも心地良く感じてはいたのだが、

  今日はそれにも増して夢でも見ているような感覚に包まれた。


  願わくば、夢ではありませんように。

∽今日の戯言(2022/05/12)


お、おいこら、何勝手な事しとんじゃ!


ハーレム要素は?

イルマは?

どうすんのさ、コレ。



 ・異世界87日目(20時頃)

   ナズ・アナ82日目、ジャ76日目、ヴィ69日目、エミ62日目

   パニ55日目、ラテ34日目、イル・クル31日目

   プタン旅亭宿泊17/20日目 シュメ旅亭宿泊17/20日目

   トラッサ旅亭宿泊5/6日目

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