§305 崩落
ドラッハ鉱山の袂にある食堂にて、ドワーフ名物とやらを頂いた。
勿論朝食後なのでそんな大層な料理は食べられない。
腸詰肉の中に山羊のミルクを入れ、
同時に発酵させた強烈な匂いがするソーセージ料理のチーズブリュンケ。
焼いたチーズの上にマッシュした芋、
中には香ばしいナッツと刻んだベーコンが入っていて、
まるで鉱石を掘り当てるようにして食べるジュエルナッツ。
その他にも変わった料理を紹介されたがこの2品で取り敢えずは十分だ。
匂いに難色を示していたパニも、
1口を齧って気に入ったようだ。
アナは・・・こういった強烈な匂いのする食べ物は好物なのだろうか?
以前酒場で焙った干物を頼んだ際も美味しそうだと言っていた気がする。
濃い味付けの一品料理は少量と言う事もあって即座に消えた。
2口でお預けを食らったヴィーは非常に残念がっていたが、
後でナズにも食べさせて作り方を聞いて置くぞと伝えると、
直ぐにいつもの調子を取り戻してナイフを置いた。
横取りしようにもパニだって少量であったし、
その位には自制ができるらしい。
やはりナズやエミーには色々食べさせて置かねば。
自分も気に行ったので、また来ても良いし買えるなら買えば良い。
濃い味付けでガッツリ食べられそうなドワーフ料理は酒にも合うし、
プタンノラの港で食べた猫人族の料理と思しき魚料理は胃に優しい。
フローダル中の全ての幸が一同に盛られたエルフ料理も気に入った。
我々の暮らすトルキナと違って、
こちらは様々な文化が入れ混じる食の宝庫だった。
もうそれだけでもこちらに来た甲斐があったと言う物だ。
金を払って店を出ようとした所、
山の麓の小さな町にしては大き過ぎる鐘の音が鳴り響いた。
何かの作業時刻なのだろうか。
「店主、あれは何の合図だ?」
この店の店員は人間族であったが、
ブラヒム語とドワーフ語の話者であった。
その位でなければここで商売は難しいから当然だ。
「あー、この所多いんですわ。中の方で落盤があったのでしょう。
最近新たな坑道を作ってるらしくってね?
前は・・・確か30日も前だったかな」
落盤だと?
やっぱりおっかないな、鉱山は。
死人がゴロゴロじゃないか。
「こういう事は頻繁にあるのか?」
「ここ1年の中では多いですが、普段は滅多に無いですぜ。
新たな鉱脈が見付かるとそこから掘ってく事になるらしいんですがね、
できたばかりの道は狭いし乱暴に掘るから崩れ易いみたいで」
そっ、そうなのか。
確かにそう頻繁に事故が起きていては成り手も少なくなる事だろう。
と言う事はこれから救助活動があったりするのだろうか。
先程の鐘はそのためのサイレンと言う訳だ。
「あーっ旦那、旦那。そこの竜人族、使用人なんだろう?
2人もいるなら1人位救助に出してやっては?
報奨金も出ますぜ」
そうなのか?
しかし落盤事故だろう?
そんな危ない所にやってヴィー達の命が危ぶまれるような事はしたく無い。
怪我人の手当て位なら自分が行うのだが、
そういう需要があるとすれば多分教会の手の者を呼ぶだろう。
「ま、ちょっと何ができるか判らないが様子は見て来よう」
「へい、緊急時は騎士団が鉱具を貸し出ししてますんでね。
そのまま行けば中にも入れて貰えますぜ」
鉱具?
つるはし的な奴か?
落盤であれば岩を退かす背負子や籠等だろうな。
不安な目を向けるパニを大丈夫だと言って落ち着かせ、
自分達は鉱山の方へと歩いて行った。
土埃が舞うドヤ街の通リを、
救援の為なのかドワーフや竜人族たちが忙しなく駆け出していた。
***
鉱山の入り口は騎士団が守衛を務める入場ゲートが設けられ、
鉱夫たちは首に掛けられたプレートを見せて中へと消えて行く。
自分達にはそんな物などあるはずも無い訳で、
横で警護する騎士に直接問い掛けてみた。
「落盤事故があったようなのだが」
「ん?お前は部外者か?そうだ。
今は緊急事態なので、部外者でも立ち入りは許可する。奥の男か?」
「入れるのはドワーフと竜人族だけなのか?」
「巨岩に挟まれてもドワーフと竜人族であれば、半日程度なら耐えられる。
お前のような人間族やそこの猫人族の娘は論外だ。潰されたら死ぬぞ」
「そ、そうなのか、2種族は頑丈なんだな」
「と言うより、ブレストプレートとミシルギアを装備できるのは、
その2種族だけだからな」
あっ・・・そうなの、種族限定装備。へー・・・。
ブレストプレートは既にパニが持っている。
と言うより、ナズかパニかヴィーしか着れないんじゃないか。
適当に作らせてみたが、もう最初からパニ専用装備だった。
ミシルギアと言うのは知らない。
よく見れば鉱夫たちが中に入る前に、
用意された籠から鎧と頭装備を抜き取って中に入って行く。
あの3Lバケツのような被り物がミシルギアとかいう奴か。
語感的にミスリル製っぽい気はする。
ブレストプレートがそうであったようにやはり頑丈なのだ、ミスリルは。
ナズが貰った隻眼用の製作手帳一覧には書かれて無かったと言う事は、
迷宮ではあまり役に立たない代物なのだろう。
重た過ぎるとか、前が見難いとか、そういった理由で。
ここでは頑丈さ故に重宝されている。
鉱夫にとっては命を守る生命線なのだろう。
「ではそれ程死人は出ないのか?」
「バカ言え、この鉱山は200年間死人など出した事は無い。
大体、そんな所で働く者がいるかッ」
逆に怒られてしまった。
体と頭さえ守る事ができれば、後は救出を待つ事で生存できる、
それが先程の装備2つなのか。
安全が担保されるのであれば派遣してみようか。
こういうのは初動が大事で、人手はいくらでも欲しいだろう。
どうせこの所暇だったのだし、
ヴィーもパピルスを乾かすだけの作業には飽き飽きしていたと思う。
その作業ですらできる所まで進んでしまい、停滞してしまっている。
結局スキル装備が揃うまでは、何もさせる事が無かったので丁度良かった。
「ヴィー、パニ、人助けだ。
少なくとも埋まって死ぬような事は無いらしいので行って来い」
「か、かしこまりました」
「オォーッ!・・・でナニすればいーの?・・・ですかっ」
(岩を退けたり、埋まっている人がいないか探すのだと思いますよ)
「この通り、この娘も竜人族だ。自分からは使用人2人を派遣しよう」
「おお、2人も出して貰えるのか、それは助かるぞ。
では仮の通行証を渡すので首から掛け、
そこの籠から装備を身に着けて行って来い。中で案内があるはずだ」
「で、では行って参りますね?」
「ああ。この町にいるので、目途が付いたら体を振って合図しろ」
「かしこまりました、それでは頑張って参ります」
「イクゾー!」
(ヴィー様っ、戦闘はありませんからね?岩を運ぶ仕事だけです)
勇ましく吠えるヴィーをパニが宥め、
2人は別の竜人族の男が引率して中に入って行った。
「所でお前、見た所多数の奴隷を抱える金持ちのようであるが」
「うん?・・・まあそういう事になるのかな?」
「もし僧侶の奴隷がいるなら協力をしてくれんか?
この後暫くすると、怪我人が大勢運び出される。
勿論既に我々騎士団から街の教会へ派遣をお願いしているが、
招集やら準備やらと、緊急といえども直ぐには到着しない。
何せまだ事故の規模も怪我人の数も不明なのだ。
どの位の治療師を呼べば良いかも分かっておらん」
「あー、良いだろう。ではちょっと連れて来る」
「かたじけない。勿論報酬は出るので宜しく頼む」
「だそうなのでアナ、イルマを連れに戻るぞ」
「かしこまりました。その際、エミーの看病は如何しましょうか」
「あっ、それもそうだな。どうしよう・・・」
「でしたら私が交代を致します。
ご主人様はここでヴィー達をお願い致します」
「そうか、では一旦あちらに向かうので頼むぞ」
「かしこまりました」
鉱山からやや離れた所にあった大木から、
フィールドウォークでトラッサの旅亭へ。
ゲートの開音に気付いたイルマが立ち上がってお辞儀のまま待っていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「・・・れ様でした、ご主人様」
エミーもベッドに腰掛けながら続けて挨拶する。
イシャルメダは眠っていた。
例によって彼女は寝る時間なのだから仕方あるまい。
「イルマ、ちょっと旅先で事故があった。
怪我人がいるらしいが、事故の規模すら判らないらしい。
お前も向かって手当てを頼む」
「えっ、は、はい。あの、それではこちらの方は・・・」
「私が代わります」
「そ、そうですか、それでは宜しくお願い致します」
シュメールの旅亭でダウンしているナズをパーティから外し、
イルマを加えてフィールドウォークを使用した。
イルマがゲートをくぐって3通り目、
ここで自分が追ったら膝を折るので先に強壮剤だ。
トラッサからプタンノラでは無く、更にもっと遠くの距離なのだから。
その位には用心できるようになったぞ?
「では頼んだぞ」
「2人の面倒は私にお任せ下さい」
「行って・・・・・・いませ」
エミーも送迎の言葉を述べられる程度には回復できたようだ。
看病と言う名目でアナを立たせたが、
実際に何かするような事は無いだろう。
安心してその場を任せ、自分もドラッハ鉱山へ戻った。
「ここは・・・どこなのでしょう?」
「ドラッハと言う国の首都にある鉱山だ、この先で事故があったらしい。
ヴィーとパニが救援に向かっているが、
この後怪我人が運ばれて来る可能性があるので手当てを要請された。
イルマは怪我人が居れば回復魔法を施してやってくれ」
「かっ、かしこまりました」
鉱山入り口にある入場ゲートまでは、
移動先に指定できた大木からはやや距離がある。
移動用の目印となるような物がこの付近に無いのは、
中から盗み出した宝石を持って直ぐ飛べないようにするためなのだろう。
入場門を超えて二歩三歩でフィールドウォークができてしまえば、
ここを警護する意味が全く無くなってしまう。
従って移動用として使えそうな建造物は街の端にしかなかった。
「さっきの者だが」
「おお、先程入って行った奴隷の主人だな?その者が?僧侶か?」
「ああ、そうだ。
ブラヒム語と人間語なら判るので指示はどちらかでお願いしたい」
「大丈夫だ。我々はブラヒム語もドワーフ族語も竜人族語も話せるのでな」
流石エリートは違う。
ここで働くのは主にドワーフと竜人族。
最低この2種族の言葉が理解できないと、
ここでの仕事は回って来ないだろう。
「ヘイッ、ドゥ?ヴィェ、ハイスト?」
「ジャッ。ヴィッチヴェン、エィラマ。
イェネナーベラスユウキイェストマヴィ、イェストノヴダヴェヌーカ」
「ナーゲンヘ、チッシトゥスジェータ、
ナァデンハヮシテン、マージナハァン、ウィ!」
門衛がイルマを呼ぶと良く判らない何かを話し、
イルマも何かしらの返答をすると、
プレートを首から下げさせられて中に入って行った。
門衛はイルマ相手に気を使ってくれたのかゆっくり喋っていたようで、
何と無く単語の切れ目は理解できたのだが・・・。
今の所サリニク語はさっぱり理解不能である。
それよりもパーティ機能の影で動きを見るに、
鉱山の中へは入らず敷地内にある詰め所へ向かったようだ。
そこが医務室なのだろうか?
一先ず自分としてはこれ以上ここに居ても意味が無いので、
守衛に宜しくと言ってその場を後にした。
慌ただしく他の鉱夫と思われる者達が鉱山へ向かう中、
自分は暢気に反対方向へ歩いているのだから、
少し申し訳無い気に成った。
***
もう間も無く昼食の時間だ。
トラッサの旅亭ではもっと前から昼用の弁当を配っているだろう。
しかしながら今日の分の弁当は注文していない。
どうしてこんなにも噛み合わせが悪いのだろうか。
頼んだ時は結局不要、必要となった時は頼んでいない。
恐らく寝ているイシャルメダの分は不要だったとしても、
最低アナとエミーの分は用意してやらなければ。
シュメールに戻りそこで更に気付く。
今日は食事のワゴンを取りに行く者がいない。
そしてこの場にいないヴィーとパニ、そしてイルマ。
更に酔い潰れて寝てしまったナズも昼食は不要だろう。
計4名の分は不要だと申告しなければならない。
今まで何もかもやって貰っていた事が、
急に自分の仕事となると一気に面倒臭さが湧き上がる。
日本であのまま暮らしていたのであれば、本来ならば全て自分で行う事だ。
食事も、掃除も、洗濯も。
従ってナズやアナには感謝をすべき所であり、
悪態を吐くような事では無いはずだ。
勿論理屈では解っているのだが、面倒な事は面倒である。
受け付けで昼の申告と4名分のキャンセルを告げ、
ワゴンを借りて配膳室から運んだ。
その際に気付いたのだが、この宿には配膳用のエレベーターがあった。
調理室のある1階から我々の泊まる3階へ運ぶには、
この配膳エレベーターを使えば一気に運べるようである。
ただ縄で吊り下げて引っ張るだけの簡素な物であるので、
人なんて当然乗せられるような代物では無い。
・・・まあそうだよな。
階段の前で一旦食器を降ろしてワゴンだけ運ぶ姿は想像できない。
当然と言えば当然であった。
──コンコンコン。
根が日本人なのでノックは3回。
「はい?どちら様でしょうか」
中からジャーブの声がした。
2人とも勤勉であるので、これまでずっと木彫り作業だったのだろう。
「ユウキだ。食事を持って来たぞ」
「すっ、済みません。今代わりますっ」
「あわわわ、かっ、片付けますぅ」
ドタドタと音がして扉が開かれる。
ジャーブはワゴンから2つのトレイを両手に抱え、机に持って行った。
「それにしましても、何故ユウキ様が?」
「皆出払ってしまっているのでな」
「そうなんですか?何か用があればいつでも呼んで下さい」
「うん、まあそれより作業の方が大事だ。
そちらは正式なお前たちの仕事だからな」
「はい、分かっております」「はっ、はいぃっ」
「調子はどうだった?」
「ゆっくりですが、彫り進めていた所です。ただその・・・」
ジャーブの歯切れが急に悪くなった。
「その?」
「い、いえ、文面がちょっと俺には・・・」
ラティに文を任せたと思ったが、何か有ったのだろうか。
「何か作業に問題が有ったか?」
「い、いえ、そういう事は無いのですが、はい・・・。何でもありません」
「アハッ、アハハハ・・・」
ジャーブがラティを見詰めると、そのラティはバツが悪そうに顔を背けた。
「そう・・・なの?まあ作業に支障が無いなら良いだろう。
済まないが隣の部屋にワゴンを置いておくので、
食事が終わったらそこまで持って来てくれ」
「わ、分かりましたぁっ」
「俺たちで片付けをしなくとも宜しいので?」
「他の者の分が一度に揃わないのでな。後で自分が集めて片付ける」
「そうなんですか、分かりました。何かあればいつでも呼んで下さい!」
「うん、まあそちらの作業を優先してくれて構わないぞ。
大事なのは木版の方なのでな」
「そ、そうですね」「アハッ、アハッ・・・アハハハ・・・」
乾いた笑い声のラティが気になるが、
自分にはまだまだ仕事が残っているので放置した。
2人の食事を渡した後は自分の部屋にワゴンを運ぶ。
そこから2つのトレイを持ってトラッサへ。
もう1食分あるのでもう一度往復する必要がある。
どこぞの酒場の娘のように食器トレイは3つも持てない。
──ヴォンッ。
「あっ、ご主人様ですか。お疲れ様です」
「お・・・様です、ご主・・・様」
「おや?エミー。調子が悪くなったのか?」
「い、いえ・・・大・・・夫です」
「そうか、少しでも気になる事があればいつでも言ってくれ」
「・・・丈夫です」
先程は多少元気な声が出るようになった気がしたエミーの声が、
再び弱々しく小さい物となっていた。
病み上がりで力が出ないのか、ズルをしているのか判断に迷う所だが
余り病人を責める訳にも行かないので指摘はしないでおく。
「じゃあ食事にしよう。自分の分を取って来るので机を──」
「はい、では私がやって置きます」
ゲートを出して自分の分の食器を取りに行く間、
アナとエミーは机を移動させてベッドの袂に移動させていた。
何だ、机の移動を手伝える位には元気そうじゃないか。
***
「ヴィーたちは大丈夫でしょうか」
食事をしながらアナが心情を零した。
「これまで死人が出た事は無いそうだから、大丈夫なんだろう。
それよりも食事は抜きになるかもしれないから、そっちの方が可哀想だ」
「そうですね。
流石にある程度の作業を行ったら交代があるのだと思いますが、
私達のようには食べられないかも知れません」
「終わったら残念がっていたあの肉料理でも食わせてやれば良いかな」
「それが宜しいでしょう」
「そういえばエミーは何の事だか判らないよな。
実は先程──
・・・
・・・
・・・
──と言う事があったのだ」
「そう・・・ですか。お姉ちゃん・・・」
「お前の姉は治療師として外での作業だから問題無いぞ。
・・・やっぱり食事は抜きだと思うが」
「そう・・・ですか」
「それよりお前の体の方だ。
今日はもう1日休んで貰って、動けるならば明日からはまた頼むぞ?」
「はい、・・・丈夫です」
エミーはチラッとイシャルメダの方を見て頷いた。
「そういえば、ご主人様。こちらの女性は?」
そしてアナからの追及が開始される。
主人がどんな女性を侍らせようが奴隷には関係無いはずだ。
現に以前、アナ自身がそう自分に申告した。
しかし彼女の目付きはそう言っていない。
この女誰?あなたの何?って事だ。
だ、大丈夫。
浮気の女性じゃないんだ。
堂々と行こうじゃないか。
「い、以前少し説明した、エミーと同じ病気を患っている女性だ。
エミーに薬を試す前に2度試させて貰った」
「同じ病気を患っている訳ですね?」
「ああ、娼館・・・といっても、
そういった病気を患ってしまった女性だけを集めた、
とても怪しい娼館から身請けして来た」
「そうですか」
「こう言っては何だが・・・自分が初めて作った怪しい薬を、
そのままエミーに使用する訳にも行かなかったのでな」
「それは理解しております。
それよりも、この女性はその後どうなさるおつもりでしょうか」
「アナが思うような心配は無いので安心して欲しい」
「そうなのですか?」
「ああ、イルマも同じ事を考えて身構えしていたのでな。
アナの気持ちは理解できる。ナズが働いていた酒場があるだろう?」
「ホドワの、いつもお世話になっている所でございますね?」
「新商品に新しい酒、この所客が増えて大変なのだと言っていたので、
そこで働いて貰おうかと思ってな」
「この方をそこで・・・でございますか?」
「彼女は以前、下拵えの仕事をした事があったそうだ。
この通り容姿もそれなりだし、彼女は夜型で夜の仕事に向いている」
「なるほど・・・確かにその通りかもしれません。
余計な詮索をしてしまいました、申し訳ございません」
「いや良い。それよりも、幾つか問題もある」
「と、仰いますと?」
「彼女は片言の人間族語と、かなり訛ったバーナ語を話すそうだ。
人間族語は少しだけ理解できるそうだが、これでは仕事に成らない」
「・・・そうですね。せめてブラヒム語だけでも多少なり話せなければ、
仕事内容も理解できないでしょう」
「彼女は自分の奴隷になる事を願った。
暫くは自分の奴隷として商館に通わせ、
言葉を覚えながら酒場の手伝いをさせたいと思う」
「そうなるのでは無いかと考えておりました。では、やはり・・・」
「彼女は元々町民だ。
奴隷へ落とすのは戦略に依る物なので、お前達も平民として接してくれ。
仕事を覚え生活ができ、
相手が見付かればいつでも自由民に戻すと伝えてある」
「そうですか、了解致しました」
「ああそうだ。ウチの中では、多分自分以外に唯一話が通じるのがアナだ。
彼女を支えてやって欲しい」
「かしこまりました」
「エミーも、宜しく頼むぞ?」
「はい、・・・丈夫です」
「まだ一度や二度の投与で病気が治ったりしないだろうから、
風呂や洗濯などもイルマと一緒にする。
家が完成したら一緒に住む事になるが、その時は手伝ってやってくれ。
エミーは簡単な調理を教えてやれると良いな」
「やって・・・みます」
アナは話の最中ずっとスプーンを机に置き、
真剣な眼差しでこちらを見詰めていた。
彼女の待遇やヒエラルキーが新しい風に依ってどう変わるのか、
アナに取ってみれば大事な事だからだ。
これまでずっと自分を支えて来て貰ったアナを安心させるためにも、
彼女は自室へ呼ばない枠であると言う事を明確にしてやるべきだろう。
エミーの治療にはまだまだ彼女の協力が必要だし、
彼女の自立には皆が必要なのだ。
蟠りを作って貰いたくは無い。
「アナ、安心してくれ。1番の座はナズとアナだけだ」
「えっ?あ、はい。ええとそれで、イルマはどうされるのでしょう?」
「イルマは3番だ。これからもな」
「そう・・・ですか」
「お姉ちゃん・・・」
「エミーはジャーブと共に4番だ。もう解っているな?」
「・・・りがとうございます」
「ではこちらの方は・・・?」
再び、アナは寝ているイシャルメダに目を向けた。
「最下位だが待遇は平民だ。彼女に制限を設けるつもりは無い。
自由に寝起きして、自由に振舞って貰う。
迷宮にも呼ばないし、家では何も仕事を申し付けない。
その代わり言葉を学び酒場の手伝いをして貰う、それだけだ」
「そうですか、それは宜しかったですね」
ようやくアナはスプーンを手に取って食事の続きを始めた。
今の所イシャルメダと話せるのは唯一アナだけであるので、
暫くは負担を掛けそうである。
その負荷が最小限に成るように、
アナの心が休まるような環境を用意してやらなければならない。
どうせこのまま夕刻まではドラッハ鉱山の救出活動が続くだろう。
仮に早めに切り上がったとしてもパニがある程度のお金を持っているし、
飲食に困る事は無いはずだ。
自分は・・・このまま食器をプタンノラのワゴンに戻したら、
暫くここで3人の様子を見て置こう。
相変わらず強い日差しが降り注ぐトラッサの旅亭であったが、
格子状の窓は落としてあるので零れる日の光は最小限であり、
石造りの冷んやりとした建物は昼寝をするに最高の心地良さであった。
ついウトウトしてしまう所を堪え、まずは食器を下げないと。
アナと共に一度プタンノラへ戻り、ついでにハーブティーを準備して貰う。
その後は夕方までトラッサの旅亭で、
机に伏して時間を潰したのであった。
∽今日のステータス(2022/05/10)
・繰越金額 (白金貨29枚・利用券2枚)
金貨 46枚 銀貨 19枚 銅貨 5枚
食堂 (78й)
ジュエルナッツ × 1 36
チーズブリュンケ × 1 42
(ケーゼヴルスト)
銀貨- 1枚 銅貨+22枚
------------------------
計 金貨 46枚 銀貨 18枚 銅貨 27枚
・異世界87日目(11時頃)
ナズ・アナ82日目、ジャ76日目、ヴィ69日目、エミ62日目
パニ55日目、ラテ34日目、イル・クル31日目、イシャ5日目
プタン旅亭宿泊17/20日目 シュメ旅亭宿泊17/20日目
トラッサ旅亭宿泊5/6日目




