§288 悪化
今朝もしっとり重たい空気に包まれ、涼を求めて体位を変える。
もぞもぞと動かした足は直ぐ横で寝ているナズの足に当たり、
汗ばんで気化熱で冷やされた、
か細くそれでいて筋肉質で弾力のある可愛い脚は、
絡み付くと冷んやりして心地が良かった。
抱き寄せて撫でながら、朝のキスを誘う。
「あっ・・・んむ・・・ちゅ・・・んっ・・・(えへ)」
撫でながら解放し、続きはアナの番だ。
アナの足は獣人だけあってやや毛深い。
人間の体毛のように縮れてはおらず、
細くて滑らかな産毛のように生えているだけであるが、
こちらと言えば冷んやり感こそ無いがサラッとしていた。
ええっと、そういう毛が多い方が体表面積を増やすのに貢献して、
より体温を下げる機能を増すとか何とか。
猫は南国の生き物だと言うし、アナはこの熱帯湿潤に合っているのだ。
「アナ、おはっ・・・うっ・・・んむ・・・ぷはっ」
「おはようございます、今日も少し蒸すような天気ですね」
今日もアナに敗北する。
それでいてこの娘は気にもせずシレっと日常に戻して来るので性質が悪い。
今日と言う今日は許さん。
どちらが主人か判らせてやる。
「アナ、お前はいつもいつも!」
強引に抱き寄せて口を塞ぎ、口の中を這い回る。
抵抗や防衛があるかと思ったが、アナは大人しく応じて素直に従った。
自分の良いように散々動き回った後口を放す。
「ご馳走様でした、ご主人様」
くっ・・・このっ・・・。
単純に2回目のキスを喜んでいるだけにも見える。
余裕綽々だ・・・。
これではどちらが勝ったのか判らんぞ。
しかしアナに2回なので、ナズを蔑ろにする訳にも行かない。
「し、失礼しますっ」
振り返ると今度はナズが強引に迫って来た。
「うっ・・・あ・・・んふっ・・・」
本日はナズまで強引に迫られ、散々引っ掻き回された後釈放された。
1勝2敗1引き分け、ユウキの負けである。
彼女らに勝つ日はもう来ない。
い、イルマには勝ちたい。
3対1で完敗となると、もう主人のヒエラルキーは存在しない。
重苦しい空気の室内に、ほろ苦い気分になってしまった。
但し下半身の勢いだけは軽い。
ナズとアナが見詰め合って何かを目で伝え合った。
「ご主人様?」「こちらにもご挨拶させて頂きますね」
***
今日も朝からする事が無いと思っていたが、
する事はしたので何かをする時間が無くなってしまった。
い、いやっ!まだ朝食前だよ!
すっかり毒牙を抜かれた相棒は自分の身に萎だれ掛かり、
斯く言う本人も疲れ果てベッドに俯せとなっていた。
ナズとアナは急そ急そと朝の準備を整える。
暫くぼぅっとしていたら扉をノックされた。
「お休みの所を申し訳ありません。お手紙が届いておりますので、
後程受付にお越しになるようお願いします」
ええっと、大丈夫。
儀式は厳かに行われた。
特段声など上げていないし、大暴れするような事も無かったはずだ。
セーフだ、聞かれていない。
そういえば他の部屋の住人はどうなんだろうか。
時折食器がカランカラン鳴っている音は聞こえるものの、
話し声などはあまり聞いた事が無い。
ましてやコトを致している音なんて聞こえた試しが無い。
そういう事はここではしないのか、
真隣に誰もいないか、或いは元々静かに宿泊しているのか。
流石に防音壁と言う線は無いと思うが、
2人部屋はそういったケースも踏まえて、
多少は防音対策を取ってあるのかもしれない。
娼館などが大っぴらにある世界なのだし、
音が出ても気にしない文化なのかもしれない。
異世界の性風俗に関しては良く解らんな。
面と向かって聞くような事でも無いし、
この疑問の答えに辿り着く日は遠そうである。
突然のドアノックにびっくりして色々考察をしてしまったが、
自分に何か用があるとすればガラス製品の許可が下りた件か、
或いは競売関係で準備が整ったか、いずれかであろう。
結構な量のモンスターカードをお願いしたのだし、
中3日で全て揃ったとは思えない。
とするとやはりガラス製品だ。
シャーレが増える事になるので、また培養用に粥を作らねばなるまい。
ハァー・・・また迷宮で煮炊きか。
とんでも無い探索者だな、全く。
ナズとアナを先にプタンノラに送り、
自分は受付で手紙を受け取って部屋に戻った。
ガラスシャーレの中を確認すると青カビのコロニーは元気に広がりを見せ、
豆粒大であった斑点はコイン大位にはなっていた。
満足してプタンノラの宿に向かう。
──ヴォンッ。
「ご主人様、エミーちゃんがっ!」
フィールドウォークのゲートをくぐると、
ナズが血相を変えて飛び込んで来た。
「お、どうした?」
「朝から調子悪そうにしているとイルマが言っておりましたので、
額に手を当ててみた所かなりの熱が出ているようなのです。
今イルマは水を汲みに向かっております」
「ご主人様、エミーちゃんの病気が悪化したのでは無いでしょうか?
とても心配です」
梅毒による感染症、それは発疹や発熱を伴う物である。
そういう一般常識はあっても、患者自体を目にした事は無かった。
自分には高度な医療知識がある訳でも無い。
あくまでも一般的人の知りうる範囲が自分の知見の全てである。
悪化すると鼻が落ちる、それは判っている。
しかしまだエミーの顔にはそこまで酷い発疹や潰瘍がある訳では無い。
「エミーの服を全部脱がせ、慎重にな?」
「はっ、はい、かしこまりました・・・」
「エミー、手を上に挙げなさい」
「・・・はい」
見た所、胸回りや腹回りには梅毒の影響だと思しき斑点があるが、
そこまで酷いかと言えばそうでも無さそうだ。
背中を見ると赤く爛れた疣が無数にあるようであった。
アトピーの吹き出物のような感じで、
流石にちょっとこれは直接触れたく無い。
だが、確実にエミーの体を蝕んでいると言う事は良く解った。
「判った、服を着せろ」
「はいっ、エミーちゃん自分で着られますか?」
「・・・い、・・・うぶです」
いつも通り声は小さいが、今日は更に増して辛そうである。
「エミー、今日は1日横になっていろ」
「・・・あの・・・」
「フラフラのまま仕事をされても適わない。
お前の今日の仕事は熱を下げて早く良くなる事だ」
「・・・しこ・・・した」
イルマも戻って来たので別の桶を持って迷宮へ向かい、
氷を出して戻って来た。
ついでにアナの手も洗わせた。
「イルマはこれでエミーの額を冷やして寝かせて置け。
今日はエミーの看病を宜しく頼む」
「か、かしこまりました。
申し訳ありません、妹のためにお手数を取らせてしまいました」
「何度も言うが、お前たちは姉妹だろう?困った時はお互い様だ。
お前が寝込むような事があればエミーに看病して貰えば良い」
「あっ、ありがとうございます」
作業は・・・しても大丈夫だろうか。
高熱があればガチャガチャと音を立てれば響くだろうが、
皆配慮して動いてくれるだろう。
「では他の者は朝食だ。
エミーには粥を持って来てやるのでそのまま待ってろ」
「「かしこまりました」」「妹のために、本当に申し訳ありません」
ナズがワゴンを取りに行く間に、自分は食料品店へ向かい米を買う。
食事前だと言う事もあって、まだ商店の扉を開けて準備中だったようだ。
無理を言ってオーレズを椀6杯分買い付け、持って来た桶に入れた。
旅亭に戻り、鍋、炭、五徳、杓文字を用意して迷宮だ。
都合4回目の飯盒にはもう慣れたもので、
段取りも以前よりは早くなったと思う。
15分後、煮え立った粥をぐるっとひと混ぜして鍋を持ち帰る。
旅亭ではナズたちが食事をせずに待っており、
エミーのために取って置かれたと思われる食器から、
魚の身を崩して粥に混ぜ、コボルトソルトを削って味を調えた。
「イルマ、エミーにこれを」
「これは・・・あの、ご主人様がお作りになられた・・・のですか?」
「良いから早く。妹がお腹を空かせているぞ」
「は、はいっ・・・失礼します」「ご・・・人様・・・がと・・・ます」
「今日は黙ってて良いぞー?
こちらは先に頂こう「「いただきます」」」
自分達が取っている食事の傍らでイルマは懸命にエミーの口へ匙で粥を運び、
氷水で絞った手拭いを当て直していた。
発熱があったからエミーはそのまま動けなくなるかと言えば、
実際の所そうでは無いと思う。
もっと末期的症状があるとは聞いているし、
そういう状態でも普通に生活はできるらしい。
今回の発熱はたまたまであって、時間が経てば回復するはずだ。
ただし梅毒の影響は確実に強まっており、エミーの猶予は少ない。
やはり早く薬を完成させねば。
焦りばかりが募るが、
カビの繁殖自体は自然任せなので急いでどうにかなる物では無い。
そもそもあの少量の薬が安全であるかどうかを調べる方が先だ。
では今日の自分の仕事は主にそれをやろう。
ガラス器具を取りに行き、次いであの残った薬の安全性を早急に確かめる。
食事を終わらせ、食器はアナが片付けて隣の部屋に向かった。
今日は手分けしてエミーの仕事を掛け持つのだろう。
順列に拘らず、皆がエミーのために動いている。
皆優しくて良い子達ばかりだ。
特にアナは元々奴隷の子。
一番奴隷が権力を振りかざし下位の奴隷を顎で使うさまを見て来たはずだ。
自分の元ではそういうのを好まないと知った上で、臨機応変に対応できる。
虐げられて来たエミーには最大の慰労では無いだろうか。
エミーやイルマにも何か報労をと考えた事もあるが、
今この時点でこの状態である事が、既に十分な報労なのだろう。
甲斐甲斐しく看病を続けるイルマの顔は、
心配と安堵と優しさが入り混じっていた。
それもそのはずだ。
病気で熱を出して寝込む奴隷・・・普通は払い下げだ。
まともな相手に売られる事は無い。
そもそも売れやしない。
ボルドレックは何故エミーを売ったのだろうか?
そこだけが疑問として残るのだった。
財布を確認して手持ちの金貨を数え、
直ぐに支払える事を確認しアララビ商会の出張所に向かった。
***
「やあ、いつもお早いですな」
「いやいや、実験道具なのでな。早ければ早い方が良い。
今直ぐ使いたいのだ」
「これまで私共から幾つか納品させて頂きましたが、
そちらの方は順調なのですかな?」
「ああ、もうじき結果が見えるかもしれない。
理想とする物ができたかと言えばできた。
実用に向くかどうかを検査しなければならないのだが、
そっちの方が大変だ」
「うーん?作られているのはお料理・・・でしたよね?」
「あっ、いや、そうだな。
食べられないとされていた物を食べられるように調理を、だな?」
「ほう、そのように。
この国やフローダル、グルシア公国などでは食料が豊富でございますので、
無理して食べられない物を食べようとする必要は無いかと思いますが、
トルキナでは穀物が少なく飢える者も多いと聞きます。
研究が進み色々な物が食べられるようになると宜しいですなあ?」
おおっと、そう来たか。
確かにシュメールは農業国家に挟まれた金持ちの国、
食料は多いし無理して変な物を食べる必要は無い。
それでか、あの食べられるが酸っぱい実を放置しているのは。
これがトルキナであれば、
餓い思いをする者ならばどうにかして食べるのだろう。
所変われば調理法も変わって来る訳だな。
都合が良いので、そのまま料理の探求と言う事にした。
「我が国で飢える者がいなくなれば本望だし、
それが商機になるやもしれん」
「確かに、その通りです。
商人たるもの、常に商機を探訪して行くものです。いや、天晴」
皮肉なのか、褒められたのか、良く解らないが、
今回も金を払ってそのままガラス細工を受け取った。
まだまだ自分にはする事が沢山残っている。
これから夕食までの間は忙しいぞ。
***
「よし、っと。これで培養が捗るはずだ」
シュメールの旅亭で1人、
新しく買い付けたシャーレの器に青カビのタネを移植して広げ、
合計15個のシャーレを机に積み上げた。
よくよく考えてみれば布を掛けて置いたのは正解で、
直射日光が入らない方が良いだろうとは思う。
今更過ぎる。
旅亭の客室は2階以上で窓から侵入されると言う想定は無く、
明かりが良く入るように設計されている。
もっと言うとサンドラッドやプタンノラでは、
シュメール産のガラスが比較的安価で手に入る事から、
窓にガラスを用いている家屋が多く、
東側や南側は日差したっぷりである。
日光消毒と言う言葉があるように、
カビを培養するに当たって直射日光は厳禁であるから、
本来ならば日陰に放置すべきだった。
プタンノラに戻り、冷温桶を持ち出してその中へシャーレを納め直した。
湿った布を掛けなければ気化熱の原理は発生せず、
蒸されて保温状態となり、良い塩梅では無いだろうか。
エミーのためにも、このまま更に培養が加速してくれる事を願うのみだ。
他にも、コック付きのフラスコを買い付けている。
丸底の物とほぼ形状は一緒だが、こちらは底が平らでそのまま直立できる。
作成過程で丸底のガラス器具は余熱を取るのに苦労した事だろうと思うが、
こちらは形状こそ奇抜であるが作り難いと言う事は無いと思う。
丸く作って底を平らに潰せば良いだけだし、
蓋部分のガラス栓は作り方のアイデアを示した。
恐らく同じ・・・型を用いたのだろう。
コック付きビーカーに嵌められている栓と形状が全く同じだ。
恐らくは栓ありきで、首部分の方を削って大きさを揃えたのだと思う。
栓の嵌り具合は良好で、
ちゃんと密閉できているようなので何の問題も無い。
流石は職人だ。
作らせたガラス器具は偶然の産物では無く、確実に技術が継承されたのだ。
アララビ氏に説明した内容に嘘偽り無い。
良かった。
迷宮で煮沸消毒を済ませた栓付きの平底フラスコに、
僅かに丸底フラスコへ収まっていたペニシリンらしき溶媒を注ぐ。
後はこれをどうやって安全な物かどうか確認したら良いのだろうか。
手っ取り早いのはやはり人体実験だが、
梅毒に罹患している人物に直接実験を施し具合が悪くなった所で、
それは本当に薬の所為なのかと言う疑念が出る。
或いは薬剤がしっかりと有効であって、
体内で病原菌との戦いが始まったための発熱や炎症であった場合、
成功であったのにも拘わらず失敗と判断する事だってあるだろう。
健常者相手でなければ、この液体の有毒性の評価は判断し難い。
しかし人体に有効であるかどうかは罹患者でなければ判別できない。
そういう事になる。
では誰で実験をすべきかと言えば、
何の罪も無い人に使用する訳にも行かない。
従って・・・そうなるよな。
生きたまま捕えて、注入時には暴れられないようにする必要がある。
そんなのは無理だろう。
大体盗賊だなんてどこにいるんだ。
日中町中を放っつき回ってなんて居ないだろう。
夜間のスラム街や治安の悪そうな街端であれば、
潜伏はしているだろうが表立って出て来る事は無いと思う。
ミチオ君の初めての拠点、
ベイルの町では盗賊同士の抗争が行われている位に治安が悪かった。
町が迷宮を基軸として整備されていない、辺鄙な地域だ。
迷宮ができたばかりと言う事もあって、
降って湧いた探索者や冒険者が集まって一時の葛藤を見せ、
それを狙ってガラの悪い連中が集まる地方都市のようではあった。
逆にクーラタルの方は、
ミチオ君が郊外に借家を見出す程に落ち着いていて、
治安もそれなりに良さそうであった。
騎士が町の中にある迷宮を管理しているからだろう。
騎士の目があれば自然とそういう輩は寄り付かないのだ。
勿論小悪党やスリなら多少はいるが、
表立って徒党を組むような組織は必ず騎士団が対応する。
要するに、トルキナの町周辺で盗賊を探す事は難しいのだ。
例えば無防備に街道を彷徨って歩いたとして、
盗賊達がそこをずっと見張っているかと言えばそんな事は皆無だろう。
では何処なら見つけられるのだろうかと言うと、
辺鄙な町や村がそれに当たる。
自分が知っている辺境で言うと、アムルに居た一団は討伐してしまった。
しかし自分が全然知らないような辺鄙な町や村へ赴いたとして、
残念な事にそこでは地の利が無い。
不意打ち位ならば防げるだろうが、
集団相手に無双した所で全員捕らえるのは困難だ。
体力も腕力も無いので、制圧した所で抑え切れない。
全員葬る位しか選択肢が無い。
安い奴隷を買って来る?
うーん・・・。
人体実験のために金で命を買うと言うのは倫理的にどうなんだ?
世界観的にはセーフでも、自分がそういう者には成りたく無い。
主人公補正がある人物ならばもう既に、
ここらで謎のいちゃもんを付けて来る輩の1人や2人が現れたり、
今にも死にそうで幸薄そうな少年少女が現れて、
どんな手段でも良いので助けてくれと親兄弟に懇願されるのだろう。
・・・ねーよ、そんなの。
現実は寂しい。
都合良くそんな相手は転がり込んで来ない。
自分から動かなければ人は動かない。
探しに行かなければクエストは存在しない。
自ら交渉して行かなければ仕事を見付けられないのだ。
冒険者ギルドに行けばランクに応じて依頼を紹介される?
ゲームじゃないんだからさ。
冒険者ギルドの掲示板に掲載されている仕事依頼は、
日用品の収集や荷役、野良仕事ばかりだよ。
現実的に考えて娼館で病気持ちの女性を探し、
協力を仰ぐのが一番手っ取り早い。
と言うか、それしか方法が無い。
その先に何かがあれば儲け物だ。
ぶつくさ言いながら、ここプタンノラにもあると言う娼館街にやって来た。
盗賊やら、性病罹患者やら、怪しい輩やら、
そういう者達が一番居そうな場所はここしかないので。
当然朝一から開いている訳が無く、この一帯は静まり返っていた。
泊まりの客がコソコソと店の入り口から出て行く位だ。
一応聞いてみるか?
暫く物陰で待機して、客が出て行く娼館を狙って待った。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
丁度身なりの良さそうな男が1人、3つ奥の家の入り口から出て行った。
直ぐに館の玄関を叩く。
──ドンドン
「・・・xx?xxxxxxx?」
「ちょっと話を聞いて欲しいのだが」
「xxxxxブラヒム?」
「ブラヒム語が解れば有難い」
「ムツカシ。ハナシムリ」
「バーナ、バルド、ドワーフ語」
「バーナ?わかるよ。おキャクさん?」
「ええと、客だ。客」
「もうアサだよ、うちのコがおメアテならヨルきとくれ」
「ええと、そうだな、客と言っても、あなたに用があるのだ。
ちょっと幾つか話を聞いて欲しい」
「はぁ?わたしか?」
扉が開かれ、犬耳の女が出て来た。
なるほど、バーナ語が通じる訳だ。
相手を意識せずに発言すると自動的にブラヒム語なのだ。
脳内翻訳機はかなり目視に頼っているのだと言う事になる。
「なんだね?」
「ちょっと聞きたい事があって訪ねさせて貰ったのだ。
病に掛かった娼婦はどうしているのか教えて欲しい」
「ヤマイ?ビョーキのことか」
「そうそう。そうなると商売にならんだろう?」
「それでもイイってキャクはいるんだよ。
おキにイりのコならウってやったりするね」
なるほど、死ねば諸共一蓮托生だ。
お気に入りの最期を看取りつつも、自分も最後まで添い遂げる。
その後苦しもうが何だろうが、今が楽しければ良い。
いや、その後の苦しみを知らなければできる愚行だ。
毎日検査する訳でも無いのだから、
お気に入りの娘が病に罹っていたと知った時はもう手遅れかもしれない。
それならいっそ最後まで、そういう気持ちも解らなくも無い。
「そうでない娘は?」
「そういうコアツまるショカン、あるよ。そこにウル」
最後の最後まで搾り取られる訳か、可愛そうに。
お気に入りで最後まで一緒に、と身請けられる方が珍しいのだろう。
たっぷりサービスをして相当気に入られないと、
病気の者と知って身請けする訳が無い。
「どこだろうか?教えて貰っても?」
「ニィさんなんだね?キシのひと?」
「い、いや、そういう娘が1人欲しくてな?」
「ふぅん?ニィさんワカいのにビョキか。カワイソ」
あー、まともな店で相手にされないからそういう子を探してると。
そう思われてしまった訳である。
い、いやだなあ、アナは非処女だが病気では無かったし、
エミーにもイルマにも手を出していない。
自分は病気では無いぞ、大丈夫。
「ま、まあ、そういう訳で頼めるか?」
「・・・あまりイうもんじゃナいけどね・・・マチのソト。
オオドオリをニシに、ずっとイくと3ボンオきなキある。
セモタれてマッテるとシキってるオトコ、クルよ」
「そうか、ありがとう」
「ムリすんじゃナイよ?ソンだけワカいならまだまだジンセイナガいさ」
完全に病気持ちで生い先短いと考えていると思われている。
今後ここを利用しようとしても顔を覚えられていて出禁となるのだろう。
別に用は無いし困らないけどさ。
それにしても。
病気を患ったとしてもまだまだ女としての価値がある事を知った。
それがエミーを売却した背景なのだろうか。
そういった曰く付きの娼館に送れば売れるのだから、
多少なりとも金を回収しようとしたのだ。
うん?
ボルドレック、意外とみみっちい?
エミーは1万ナールで買ったのだから、
売却益も大した額では無かったと思うんだが。
今度ホドワの商館に経緯を聞いてみるか。
∽今日のステータス(2022/04/24)
・繰越金額 (白金貨29枚・利用券2枚)
金貨 68枚 銀貨 36枚 銅貨 12枚
食糧購入 (36й)
オーレズ × 6 36
ガラス器具購入 (10000й)
手続き手数料 3000
栓付き平底フラスコ × 1 1000
長シリンダー × 8 2000
ガラスシャーレ ×10 4000
金貨- 1枚 銀貨- 1枚 銅貨+64枚
------------------------
計 金貨 67枚 銀貨 35枚 銅貨 76枚
・異世界83日目(朝)
ナズ・アナ78日目、ジャ72日目、ヴィ65日目、エミ58日目
パニ51日目、ラテ30日目、イル・クル27日目
プタン旅亭宿泊13/20日目 シュメ旅亭宿泊13/20日目




