§283 誠意
シルクスの領主であるシルクス公。
その家に招かれてどういう訳か酒盛りを始める事となってしまった。
自分とシルクス公、そしてイルハンは大きな食事テーブルで。
他の者は奴隷の身分であったため、
背の低いテーブルに料理が置かれ、床に座って食べるよう命じられた。
それでも彼らに取って見れば贅沢なのだ、本来ならば。
自分の家とは違う待遇に、
ヴィー辺りが何か言いださないかと冷や冷やしていたが、
結局の所奴隷たちのテーブルでは静かに、そして丁寧に食事が進み、
心配したような事態は起こらなかった。
イルハンはナズに向かって迷宮の事やジョブ、
歌の仕事について何度か質問を投げ掛けていた。
やはりイルハンの興味の対象は、彼より強いかどうかなのだ。
自分はシルクス公からシュメールへ赴いた際の話を聞かれ、
サンドラッドで料理を振舞って商館主から信頼を得た事や、
シュメールのガラス細工の研究棟に向かい調理道具を作らせた事、
その先の3国を回った事や、そこでこの酒を得た事などを話した。
シュメールの旅亭の大時計や、フローダルの中央島の事など、
見聞録のような話には興味を引いたようで、
自分の話は十分に楽しんで頂けた様子であった。
そして、かの地で迷宮の地図を作製し、
それを売りに出す商売をする予定である事、
こちらの国でも迷宮の地図を描いて売って見たいのだと言う話をした。
「ふむ・・・この国の迷宮の地図であるか・・・」
「どうでしょう、何か問題がございますでしょうか?」
「いや、特に問題は無いが、
果たして33層から先の地図を作れるのかと言う疑問が沸く。
お主のように考え、結局帰って来なかった者は多い。
我々もそういった者達に金銭を供与し、
作らせようと考えた事も過去にはあったのだ」
「そうなのですか・・・やはり迷宮の地図は難しいのですね」
「ふむ?お主の話は資金を寄越せと言う話では無いのかね?」
「いいえ?そのような物を頂いて作っては自分の利になりません。
全て自力で作成したならば、儲けも全て自分の物です」
「ふは・・・はっはっは!天晴じゃの!
身を切る覚悟があるのは素晴らしい」
「既にグルシア公国の迷宮の1つは、30層までの地図を取りました。
後もう3層を足したら複写して販売しようかと考えております」
「ほう、30層とな。そこから先は一筋縄ではいかんからの。
十分注意されよ」
「そうですね、魔法使いでもいれば楽にはなると思うのですが・・・」
「魔法使いじゃと?」
「御貴族様の間では、出生時に自爆玉を送られる風習がおありですよね?」
「ふむ、まあそうじゃの?良く知っておるの」
「先日決闘の際に、私の対戦相手が沢山の自爆玉を用いてきました。
ああ言った物は貴族で無くても手に入れる事が可能なのでしょうか?」
「ふむ・・・ボルドレックじゃな?」
「おう、あいつは何故か2つも持っていたようだな。
それ以前に行った決闘試合でも使ったそうだから、
3つは持っていたようだなァ?」
イルマに与えた分も合わせて4つだ。
そんな量を一介の商人が手に入れられる物なのだろうか?
そうであれば、多少金が掛かったとしても手に入れたい。
クルアチに与えれば魔法使いは2人だ。
詠唱共鳴があるんだっけ?
魔法使いと魔道士、ジョブが2面であれば共鳴は起きないだろう。
裏を掻いた魔法使いのジョブ取得方法があると知った今では、
後天的に与えると言った戦術を自分は取る事ができるのだ。
聞いて置きたい、その入手方法を。
「基本的にそれは無理じゃの。
我々貴族に於いても、出生した者の確認と薬学ギルド員が立会いの下、
目の前で作成し直接赤子の口に入れる事で契約を行う。
自爆玉を譲り渡す事も、それ自体を持ち運ぶ事などは言語道断じゃ」
「やはり・・・そうなのですか。
であっても、何故あの男は自爆玉を手に入れる事が出来たのでしょう?」
「貴族の中でも3男までは後継ぎとして大事に育てられる。
じゃが4男5男、或いは婚外子や妾の子、女子などは重きを置かれない」
「と言う事は・・・」
「それらの子に出生祝いとして送らせ、後で吐き出させたのであろう。
本来あっては成らない事であるが、
どの家がそのような悪事を働いたのかまでは、
問うても口を割らんじゃろうな」
「一応、お前さんの申し出があった後は王宮に進言し、
トルキナ一帯の薬学ギルドに対して触れを出させて貰った。
今は実際の儀式を行う迷宮まで薬学ギルド員が付いて行って、
そこで最後まで見届ける事になったからもう横流しは無理だぜ」
さ、流石である。
と言う事ならば、
追加の自爆玉が手に入らなかったボルドレックはさぞかし焦った事だろう。
いや、そう都合良く出生者がいる訳も無い。
出生した事に見せ掛けて、
町民や奴隷の子を連れて来ると言った強引な手もあるかもしれないが、
少なくとも追加の裏取引は防いだ形だ。
それでか。
ウルファンやタロスと言った、
超有名人を借り受けられると知った時に歓喜していたのだな?
試合を吹っ掛けてしまった後に十分な準備ができないと知って焦り、
その後絶対に勝てると踏んだ強者達を迎え入れられて、
大喜びであったに違い無い。
それをイルマが報告して来た。
中々どうして、その光景が目に浮かぶようで滑稽だ。
「我々町民が魔法使いになるのは難しいですか・・・」
「まあ、一応、無い訳では無いな。
我々が良く知る商人相手に出生祝いを送る事もある訳なので、
そういう事ならば融通する事もあるだろう。
お主に子が生まれそうなのか?」
「い、いえ、自分・・・」
は子を儲ける予定が無い、と断ろうとしてハッとした。
子が生まれそうな・・・ジャミルだ。
彼は第2子が生まれそうなのだと言っていた。
そして自爆玉を欲しそうではあった。
自分の裏に貴族が付いているのだと勘違いしての与太話であったが、
仮に入手できるとしたら彼は喜びそうだ。
どうだろう、友人が求めているので譲って欲しいと。
「自分は当分その予定がありませんが、
良くして頂いている取引相手の子がもうじき誕生するようで、
何かお祝いを送れないかと思っておりました。
その子が魔法使いに成れれば、地図作製の手伝いを頼めそうです」
「ほう・・・?」
「おい、マジかよ・・・」
「シルクス公様。
どうかひとつ、私に迷宮の地図作成の支援をして頂けませんでしょうか。
その・・・この通りしがない商人でありまして、
何ひとつお約束するような事はできませんが、
魔法使いの卵を用意して頂ければ、それは現実のものとなりましょう」
「ふむ・・・。以前に頼んで来よった商人は、
金で戦闘奴隷を掻き集めて数の力で作らせると言っておった。
お主は自分で迷宮を回るために力のある仲間が欲しいのだと、
そういう事じゃな?」
「概ね、その通りでございます」
「魔法使いとして才を得たとしても、
実際に使えるように成るに10年は掛かるぞよ?」
「我々は迷宮の55層をも突破しております。
育成には慣れております」
「おう、親父、こいつの言う事は本当だ。
56層の魔物の部屋を、そこにいる奴等で突破したんだ。
こんな若い戦闘奴隷を56層でも使える位に育てた奴を俺は知らねえ。
そこのドワーフの奴隷も無茶苦茶強いみてェでな?
今日は酒が入っちまったが、今度手合わせをするんだ」
「何と、お前がそういうなら・・・そうなんじゃろうな」
おぅ?好感触ぅ?
期待して良い奴?
やったよ?ジャミル。
自爆玉、工面できそうだよ?
「よっし、解った!お主の話に乗って見よう。
迷宮で消えて亡くなる者が減れば治安も良くなるじゃろうし、
ワシらに拒む理由も無い。旨い酒の礼じゃな」
「良かったな、ええト・・・お前ェ、名前何だったっけ」
「ユウキです、ユ・ウ・キ」
「おっ、おう、ユウキな。ちゃんと覚えたぞ。
じゃあそのお前の知人だっけか?子が生まれたら知らせろ。
正式に自爆玉の儀式を用意してやらァ」
「ありがとうござます、イルハン様、シルクス公様」
「いやなに、礼には及ばんよ?」
「この酒は旨かった。今はまだたくさん残ってるが、
その日までには空になりそうだよなあ?親父」
くっ・・・足元見やがって。
次の酒樽2つ分はジャミルに負担させよう。
「このシルクス領には、他にアブタールとトルメラと言う大きな街がある。
いずれも探索者の集う迷宮都市があるでの?
この2つの街にある迷宮地図が取れるのであれば、
もっとシルクスも賑わう事じゃろうな」
「そうだな、騎士団の育成も楽になるだろうなぁ」
・・・つまり、見返りにそこの2つの街の地図を取って来いと。
どの道やるからには国内全ての迷宮の地図を取るつもりだったので、
単純に優先度の問題だ、あちらさんもそれは解っているはずだ。
要するに優先してやってくれと、そういう事だろう。
しかしまあ思っていたよりは気楽に話せる気さくな方であったし、
イルハンも酒が入ったせいかナズへ無茶振りをしなかったので安心した。
歌わせろと言われたらお披露目させる位はしたが、
それより強いかどうかの方が重要なようだ。
血の気の多い奴はこれだから・・・。
ヴィーも大人しく追加の食事を満足そうに食べていたし、
他の面々だって何も問題は無かったので安心した。
自分は肉料理を食べ尽くした辺りで帰らせて頂く事にした。
「では、自分はそろそろお暇させて頂きます。
今日はお招き頂きまして誠にありがとうございました」
「うむ、そもそもがラピッドシルキスを捕えた褒美であったしの。
逆にワシらが酒を馳走になってしまった」
「街も静かになるし、旨い酒も飲めたしで問題無ぇな。
次も楽しみにしているからな!
仲間の子が出生したら直ぐ知らせに来い」
「はい、ありがとうございました。
お前たちも、挨拶を」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
ヴィー以外は深々と頭を下げて挨拶をする。
慌ててヴィーも同じ位に頭を下げた。
空気が読める子だ、ヴィーは良い子である。
「ではこれにて」
そういうと、女中が扉を開けて退出を促した。
何から何まで素晴らしいな。
ジャーブやヴィーはこれを見て学んで頂きたいが、
流石にそこまでを求めるのは難しいか。
屋敷から出るまで女中は先に立って案内役を努め、
自分たちが屋敷から見えなくなるまで頭を下げていた。
うーん、うちの子にはそこまでは求めていない。
失礼が無いようにすれば良いよ?
ユウキ・フジモトはただの商人だし。
「ふぅー、疲れた。あまり人助けはするもんじゃ無いな」
「ええっ!?」
「申し訳ありませんでした、つい体が動いてしまいました」
「ええって何だよ、面倒事はもう沢山なんだよ」
「い、いえ、ご主人様は御貴族様と対等にお話なさっておられましたので、
私はてっきり慣れていらっしゃるものなのかと・・・」
「あー、あのね?自分は平民です。
神様じゃ無くて、商人のユウキ。良いね?」
「あ・・・いえ、か、かしこまりました・・・」
「ご主人様、やはり御無理があります」
「無理ってなんだよ、もう・・・」
ジャーブ以下4名は黙ってその後を付いて来た。
冒険者ギルドはベリーメリーを見終わった者たちの帰りの便でごった返し、
壁掛けの空きを待つ者達で列ができているようだ。
自分は・・・酔いも回っている事だし早く帰りたい。
そこら辺の木で良いじゃないか。
フィールドウォークでゲートを出して5人をプタンノラへ送り、
最後に残ったナズを加えてもう一度ゲートを開こうとしたところで・・・、
倒れた。
あかん・・・MP切れ・・・。
酔いでクラクラしていた訳では無かった・・・。
*
*
*
目が覚める。
ベッドだ。
と言う事は旅亭だ。
いつの間に戻ったのか。
パニでは国を跨いでのフィールドウォークを出せない。
どうやって旅亭に戻ったのか覚えていない。
確か5人を回復無しで送ってしまい、MPが切れて倒れた。
その後は?
ナズをパーティに入れたのだっけ、入れていないのだっけ?
パーティ編成を念じるとナズの名前は無かった。
と言う事は加えていない。
しまった!
シルクスの冒険者ギルドに置き去りか?
ゲートを潜って倒れたのだとしたら、
ナズは1人シルクスへ置き去りにした事になる。
体をガバっと起こして現状を把握する。
ナズに金を持たせていたっけ?
多少は持っていたはずだ、だがそれで宿代が足りるのか?
汗がダラダラ出て来たが、直ぐにそれは杞憂だと解かった。
「お目覚めですか?おはようございます。
昨夜は突然お倒れになられたので、勝手ながら宿を取らせて頂きました」
「う・・・ん?ナ・・・ズか。
良かった、シルクスへ置き去りにしてしまったかと思った」
「はい、ここはシルクスです。
まだ朝食の時間ではありませんので、
このままあちらの宿へお戻りになれば食事は間に合うはずです」
「そうか、ナズが宿を取ってくれたのか。代金は?」
「も、申し訳ありません、ご主人様のお鞄の中から支払わせて頂きました」
「そ、そうなの、ありがとう。いや、助かった。ここは?」
「ええと、ご主人様が国外に向けて移動される前にお泊まりになった、
シルクスの旅亭です」
ふーん、となると4人部屋で2400ナールだった旅亭か。
意外と高いんだよな。流石に食事まで取っていないと思うが。
そもそもポーチに幾ら入れていたのか覚えていないので、
この部屋を取るのにどの位掛かったのか判らない。
「ええと、幾らだったかな?」
「はい、お1人部屋で800ナールでございました。
お食事もお湯も取っておりませんので、
まずはあちらでお体を綺麗に致しましょう」
なるほど。
ナズと自分、2人で泊まるのであれば1人部屋で良いと言う事か。
あれ?自分1人で寝ていたのだからナズは床で寝たのか?
「ナズ、昨晩はその・・・どこで寝たんだ?」
「は、はい、あの、ご、ご主人様の隣で寝させて頂きました」
「ナズ、本当は?」
「はい、本当です」
「何故そんなに挙動がおかしいのか」
「い、いえ、あの・・・申し訳ありません」
「ナズを床で寝かせたくない。
こういう時であっても、ナズは一緒のベッドを使ってくれ。良いな?」
「あの、はい、ベッドはその・・・使わせて頂きましたので、大丈夫です」
では何だろうか、この挙動不審なナズは。
まるでらしくない。
・・・そう、初めてナズを迎えた日のように、
自分に対して緊張の様子を見せている。
「それなら良いんだが、今日は変だぞ?」
「そ、そうでしょうか?ふ、普通でございますよ?」
「ともかく酷い事にならずに済んで良かった。ありがとう、ナズ」
「あっ・・・・・・(えへ)」
ナズを抱き寄せて撫でた。
今はアナがいない。
朝のキスはナズから。
いっぱい撫でて、いっぱいキスをして、緊く絞った。
ナズの背丈では長時間キスをすると苦しいだろうと思い、
キスのままベッドに向かい、縦膝で立たせて延長戦だ。
口の中をチロチロと泳ぐナズの甲斐甲斐しさにキュンと来て、
そのまま押し倒して美味しく頂いてしまった。
***
服を着直して改めて宿を出る。
パーティを組み直し、プタンノラの宿に戻った。
延長戦後の再延長であったが、
プタンノラでは1時間以上時差があるのでまだ食事は運ばれていなかった。
自分とナズの到着に気付いたアナが直ぐ出迎える。
イルマもベッドから起きて駆け寄って来た。
「「お帰りなさいませ、ご主人様」」
「あ、ああ、済まなかった。
5人一気に送ったあたりでMPが切れたらしく、
そのまま倒れてしまったようだ。
ナズがシルクスの宿を取ってくれたみたいで、気付いたら朝だった。
心配を掛けたな」
「概ね想定内です。私達はそのまま休ませて頂きました」
「うん、ベッドは足りただろうか?」
「はい、私が隣の部屋のベッドを借りましたので問題ございません」
「そうか、昨日はだいぶ酔っていた。
MPが切れそうになってもあれだけ酔っていると全然判らんものだな?」
「そうでございますか、昨日はだいぶ嗜まれたご様子でしたので、
次回以降そのような事があった場合は注意致します」
「い、いや、自分の不注意だからな?そこまでしなくっても大──」
「ご主人様の健康の管理をするのも、私たちの役目ですので」
ああ、そう。
なんだかもう、アナは自分の全てを掌握し始めている。
駄目だよ?人間楽を覚えるとそこからズルズルだ。
「アナ、その気遣いはとても嬉しいが、
人間族は堕落をするとどこまでも落ちて行ってしまう。
自分の健康管理位は自分でしたい。
その代わり、朝の挨拶だな」
「そ、それは失礼致しました。宜しくお願い致します」
アナはエミーやイルマが見ている前で、
堂々と口を窄めて受け身の体勢を取った。
今日に限っては怒涛の攻めをしないらしい。
どうしたんだ?2人とも。
今日は全然らしくない。
あ、ナズはこちらへ戻って来たらいつもの感じに戻っているようだ。
ニコニコしながら自分とアナのキスの様子を眺めていた。
「まだ食事には早いかな?」
「そうですね、もう20分程後になるでしょうか?」
「ちょっとまだ酔いが抜けていないのだ。
自分はもう少し休みたいのでシュメールの宿で寝て来る」
「かしこまりました」
「!・・・ではお供致します」
一旦パーティを解除し、アナだけを入れた事に気が付き、
そして彼女は察した。
シュメールの旅亭の一室は朝だと言うのに結構な温度で、
蒸されて不快感が漂っている。
その代わりに今日はそこそこ良い天気であったので、
窓を少し開けて空気を入れ替えた。
机に被せた布を捲ると、
そこには少しだけ陣地を広げたカビ達が元気に成長していた。
粥で満たされたシャーレは、確実にカビ達の苗床となっていた。
満足して再び布を被せ、横で見ていたアナの尻尾を掴んだ。
「あっ・・・ご主人様・・・」
昨日の憂いは今ここで。
∽今日のステータス(2022/04/18)
・繰越金額 (白金貨29枚・利用券2枚)
金貨 73枚 銀貨 47枚 銅貨 22枚
宿代 (800й)
一人部屋 800
銀貨- 8枚
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計 金貨 73枚 銀貨 39枚 銅貨 22枚
・異世界81日目(夜)
ナズ・アナ76日目、ジャ70日目、ヴィ63日目、エミ56日目
パニ49日目、ラテ28日目、イル・クル25日目
プタン旅亭宿泊11/20日目 シュメ旅亭宿泊11/20日目




