§281 身バレ
夕食前、全員に集まって貰うよう声を掛ける。
既に皆仕事を終えて片付けまでも終わっていた。
今日の成果を報告して貰う。
彫る方は18層まで終えたらしい。
刷る方は言い付け通り11層までで区切りを付け、
12層から13層を終わらせたようだ。
インクが乾くまで時間も掛かるからな・・・。
自宅が完成したら廊下はパピルスだらけになるんじゃないだろうか。
困るな・・・迷宮から帰ったら足元に気を遣うのは。
あっ!
・・・棚だ!
パピルスを乾かす棚を作って貰おう。
そうすれば一カ所で大量に干せる。
丁度1階の2部屋が潰れて縦長になってしまっていた。
あの部屋の手前側を作業場にして、パピルスを干す棚を置かせて貰おう。
良いよね?その位。
元々ラティとクルアチの部屋にする予定だったし、職場まで徒歩0分だ。
隣の部屋で掃除を終えたナズ、ジャーブ、ラティがやって来た。
4人部屋に9人が押し込まれる。
「ご主人様、お待たせしました・・・?」
「何か迷宮に関して進展があったのでしょうか」
アナの目が戦いの目付きだ。
い、いや、単にシルクスまで遊びに行かないかと言うお誘いなのだが、
アナの一言を皮切りに皆から真剣な眼差しで見詰められると心苦しい。
「い、いや、そっちは当分後になるから、きっ、気楽にしてくれ」
「そうなのですか?」「そうなのですね」「分かりました」
「まだずっとアレ作る・・・りますか」
いつに無くヴィーまで真剣だ。正直済まんかった。†
「ええと、今日はシルクスの港町で踊り子たちの舞踊があるらしい。
興味がある者は一緒に見に行かないか?
と言うか、それだけなのだ・・・何か、済まんな?」
「以前私がお伝えしました酒場での舞いですか?」
「何だか、自分が聞いた所では酒場では無くって劇場があるらしい。
妖艶な女性たちが華麗に踊るのだそうだ。
なあ?ジャーブ、興味があるよな?」
「えっ?あ、ハイ。そうです・・・ね?」
チラッチラッとエミーを見ながら、
彼女のご機嫌を取りつつ返事に苦悩するジャーブが見ていて滑稽だ。
そんなジャーブにエミーはコクコクと頷いたようで、彼は許された。
愉快なカップルだ。
上司に飲みに誘われて、妻のご機嫌と了承を取ってから参加する恐妻家だ。
明らかにジャーブの方が屈強なのに、
もう既にこのカップルのヒエラルキーは決まってしまっている。
そんなにビビらなくてもエミーは優しい子だよ、多分。
「と言う訳で、ジャーブと他には?
ああ、ナズとアナとイルマは強制参加だ。
言わなくても解っていると思うが」
「はいっ、楽しみですね!」「承知しております」
「えっ!?そ、そうなのですか」
「アタイも見てみたい!・・・です」
ヴィーは乗り気だ。
ラティは興味が無さそうだ。
まあ主に船乗り達を慰安する目的の催しなので、
女性のラティがそこに興味を持つ方が変だろう。
「僕も遠り「パニも行こうよ!」」
断るなと命令している手前、
興味津々のヴィーに押されてパニも行かざるを得なくなった。
後はエミーだが、見詰めると首を振って返事をした。
「エミー、声。声で返事」
「はっ、はい・・・留守・・・致します」
「では食事の後に呼びに来るので、それまで解散!」
「「「かしこまりました」」」「分かりました!」「はっ、はいぃ」
「分かった!・・・ます?」(かしこまりました、で良いのですよ?)
それから暫くするとナズが配食ワゴンを取りに行った。
ナズは隣の部屋まで配りに行くので、
戻って来るまで食べる訳には行かない。
い、いや、別に構わないと思うが、
これまでずっと一緒に手を合わせて来たのだから、
今日だけ先に食べ始めると言うのも変だ、怪しまれる。
ナズが帰って来た、早く席に着け、さあ食べよう。
ほら、「「「いただきます」」」。
食事中からずっと、ワクワクソワソワしながら味も確かめずに掻き込む。
自分1人早くっても結局みんな揃ってから行かなければならないので、
先に食べ終わってしまうとやる事も無く暇である。
何故だろうなあ。
自分の傍らには、
既に美人を2人も侍らせているにも関わらず、
隣の芝の青さを確認しに行ってしまう。
おやつは別腹とは良く言った物で、
腹一杯食べてもまだ欲求が溢れてしまうのだ。
人間である故の煩悩は罪深い。
だ、大丈夫、手を出さなければセーフ!見るだけ、見るだけなので!
ホラ、エミーだってジャーブを許したじゃないか。
その後も、行く予定の全員が食事を取り終えるまでは、
悶々とした時間を潰す事となった。
***
「では行くぞ!」
「ハイッ!」「おーっ!」
1人意気揚々とゲートを潜る。
ジャーブ、ヴィーと続いて、ナズ、アナ、イルマの順だ。
興味のある順だと思う。
いや、解ってるけどさ。
パニは一番最後、1人あぶれるのでイルマを外してパーティを組み直す。
見たい物は見たいじゃない。
異文化に触れるって大事だよ。
まずは何事も経験してからじゃないと。
話のタネの引き出しは多い方が良いだろう?
言い訳ばかりをぐるぐると頭の中で掻き混ぜて、
ジャーブと2人、寡黙に先陣を切って歩いた。
相変わらずヴィーとパニ、それから後ろの3人は位置が固定だ。
お互い何か話しをしているようだが、ここまでは聞こえて来ない。
ジャーブは斜め後ろに歩調を合わせるが、会話は無い。
だって、この先に行く目的はエッチなダンスなので。
そういう所に向かう男性陣はどうしたってダンマリだ。
船夫達の団体は5,6人で集まりワイワイやっているようだが、
あれは酒が入っているな。
あんな感じで仲間同士連るむのも悪くは無いが、
もうそういうのは合コンで散々やった。
どうせ帰りは別々に帰る事となる訳で。
あの中で1人、2人が抜け駆けしてお持ち帰りをするのだ。
賑わい明かりが溢れる劇場に向かい、
船夫は乗船証を見せ、そうで無い自分達は入場料を支払う。
1人100ナール。
7人なので700ナール。
物価的には合計2万円位?
まあそんな物なのだろう、7人だし。
座席へ座る前に売店で飲み物を買う。
そこは当然長い列ができているが、
既に作ってある物を渡すだけで列の捌けは早かった。
飲み物も銀貨1枚。
船夫からはここで金を取る訳だ。
自分もジャーブ達に銀貨を渡す。
酒とジュース、メニューはそれだけ。
手前でどちらかを頼むようで、自分とジャーブ、ナズ、アナは左側へ、
ヴィーとパニ、イルマは右側の列に別けられた。
受け取って直ぐに口を付けて確かめる。
エールだな、これは。
リアナさんの所なら1杯50ナールなので倍だ。
イベント料金、観光地料金、特別価格だ、これは。
良く見ると、入り口から入って来る数名はコップを持参で、
近場の酒場から1杯頼んで持ち込んでいるようだ。
賢い。
結局1400ナール取られたので、日本円換算だと4万円位だ。
と言っても日本でも劇場で催しを見ればその位は掛かるので、
別に高いと言う程でも無いのか。
木の丸太を半分に割って足を付けただけの簡素な椅子へ7人で腰掛ける。
自分達は結構ゆっくり目に来たようで、劇場の中央あたりの席を取った。
こういうのは最前列が一番良い席であるので、
踊り子たちをガン見したい場合は開場と同時に入る必要がある。
労働時間が決まっている船夫はそういう訳にも行かないので、
最前列にいる者達は当然・・・金持ちのボンボンか入れ込んでいる男共だ。
漁師なのかもしれない。
漁の仕事は朝がメイン、夕方以降はする事も無い。
そうしてお目当ての踊り子の前に我先にと並ぶのだろう。
左右にナズとアナがいる手前、自分にそういう気はさらさら無いが。
暫くすると席は一杯になり、明かりは一部を残して消され、
ステージは床と天井からの篝火に照らされて、ひと際に浮き立った。
「ピューピュー!」「おおおおっ」「xxxxx!」
観衆が騒めき、大きめの笛の音が聞こえると皆静かになった。
怪しく低音でピロピロ掻き鳴らす不思議な旋律は、
やはり中央アジアを思い浮かばせる。
イスラムが支配する前のバビロニアはこんな感じだったのだろうか。
左右からはカラフルな色合いのベールを纏った踊り子たちが現れた。
それも次から次へと。
ステージはそれ程大きくも無いが、20・・いや30人はいるだろう。
所狭しと並び、ベールの左右を握りながらクルクルと器用に回し、
曲に合わせて前後を入れ替えたり左右を入れ替えて舞を見せる。
元々こういったダンスは、
男性・・・とりわけ王族や富豪の前で自分の体付きを見せ、
他の女性よりも凄いんですとアピールをするための物であったと思う。
腰を拗ねらせる動きも、
腕を真上に伸ばして腋のラインを見せるのも、
激しく体を揺さぶるのだって、胸の大きさを自慢したり、
夜の行為で満足させますと言った意味合いがある。
そうやって男性の劣情を誘うのだ。
船乗りたちの慰安には確かに良いかもしれないが、
悶々としてしまったら後はどうするのか?
答えは決まっている、この裏にあった娼館だ。
女性同伴で来ている自分は中々珍しいようで、
入場時にもジロジロ見られたし、
今だって右の席の男がダンスを見ずにアナを見ている。
駄目だぞ、アナとナズは自分の物だし、イルマだって渡さない。
ヴィーは・・・お子ちゃまだから相手にされないか。
年相応以上にチビだし、完全に子供だ。
そこに着目する奴がいたら事案案件だろう。
そもそもそんな奴等ならば妖艶なダンスとは対極にあるので、
この場所には来ないと思う。
やがてステージの踊り子たちのベールは少しずつ開けて行き、
妖艶な姿がさらけ出される事になる。
女性達の衣装は下着なのか衣装なのか、
エッチなビキニアーマーのような姿になった。
飾りっけが多く、篝火の明かりが反射してキラキラと光る。
まああれは全部布のようなので、防御力はゼロだよな。
攻撃力はありそうだが。
対男性だけの。
ナズが自分の腕に手を回して来た。
こういう場でそういう事をされるとドキッとしてしまう。
ギュッと腋を絞って返事をする。
アナは自分の太腿に手を置いてズボンの生地を掴んで来た。
アナもか。
別にあちらの女性達と2人を比べるつもりは無いし、
あんな風に踊ってくれとも言わないので安心して欲しい。
そうじゃない魅力がちゃんと2人にはあるのだから。
ジャーブには少々刺激的だったのか、
ステージに釘付けでポカンと見詰めていた。
後でイルマからエミーに報告が行かない事を祈ろう。
ヴィーもパニも、真剣にステージを見詰めていた。
この2人はきっと見どころが違うのだと思う。
目付きが男性のそれでは無く、
そこから何かを得ようとしている探求者の目であった。
やっぱり?
異文化に触れる事は大事?だよね?ほら。
何かしらヴィーの知識の糧になってくれれば宜しい。
いつの間にか両腕をナズとアナからがっちり固定されて、
飲み物を口へ運べなくなり悶々としている間にステージは終わった。
まだステージは続くが、総入れ替えで全員一旦外に出されるようだ。
船夫は乗船証を見せて2巡目と言う訳だな?
一般人ならお代わり料金。
辛抱堪らなくなった者たちがステージの裾に集まり、
目当ての踊り子にチップを見せ付けて交渉をしている。
と言う事ならば2ステージ目の踊り子達は別に用意されており、
こうして夜は更けて行くのだ、この街の劇場は。
自分達は1回で十分なのでそのまま劇場を後にした。
「どうだったか?」
帰りも先程のフォーメーションである。
直ぐ斜め後ろにジャーブ。
と言う事でジャーブに問い掛ける。
「は、はい。とてもその、妖艶で・・・すっ、素晴らしい夜を頂きました。
ありがとうございました!」
「エミーはまだ手を出せないからな・・・ジャーブも歯痒いだろう」
「い、いえっ、大丈夫です。そのようには思いません」
「そうか?まあもうじきなのでな。結婚は狼人塚と言う所が良いのか?」
「えっ?い、いえ、その、は、はい。ではそれでお願いします」
「と言う訳なので、今日は悶々としただろうが我慢してくれ」
「はい、あの、いえ、あっ、いや、大丈夫です」
どっちなんだか全然判らんな。
取り敢えずそのまま帰ってもなんだし、
折角皆で集まって出て来たのでついでに酒場へも寄り道する。
この前1度入ったシルクスの酒場だ。
当然後ろからもゾロゾロと一団がやって来る。
入れ替え後と言う事もあり酒場は混雑していた。
何とか6人分の席を確保し、狭々と全員が座る。
「パニ、もちょっとこっち来れるよ?」
「は、はい、失礼しますね」
ヴィーがパニに席を譲っている。
初めてパニが来た日、ヴィーは自分の席をパニに取られた事で威嚇した。
ヴィーの心は確実にパニへ向かっている。
後はパニだな。
パニには面と向かってヴィーとの恋愛を許していない。
ヴィーには逆らうなと命令し、そのヴィーの教育係の任を命じただけだ。
ヴィーと結婚させるつもりでパニを身請けしたと知ったら、
パニは何を思うのか。
できるだけ良好な関係を築いてから、2人を引き合わせたい。
ここ数日緊い酒ばかりだったので、
エールでは物足りなくなっていた。
ミード、カクテル、ギーを2つ、
ジャーブはナズに唆されてビールを頼むらしい。
こちらの世界のビール、思うような物とは違ってきっと美味しく無い。
ゴキュゴキュ、プパーって感じでは無いビールはビールでは無いのだ。
別の飲み物である。
現地人的にはそれで良いのかもしれないが。
前回肉料理を頼んで失敗したので、今回は魚だ。
散々プタンノラで食べてはいるが、
よくよく考えればシルクスも漁港であって、
肉よりは魚の方がメインだったのだ。
忙しそうだったので先程のダンスの話で盛り上がっていた頃に、
酒も料理も纏めて運ばれて来た。
この酒場はナズの歌宜しく、ベリーメリーの日が書き入れ時なのだろう。
料理を運んで来た際に店員へ打診してみた。
2つ返事でOKを貰えたので、
一杯飲み終えたナズを立たせ、酒場の中央で歌わせた。
「アー・・・ルカーラー・・・ダナヴァー」
相変わらず意味不明だが、ナズの力強く透き通る声が店内に響き渡り、
全員が口を止め話を止めてナズに向けて集中する。
「ヴィアー・・・モトーレニア──」
ナズの歌はアカペラだ。
それでいて物凄く力強い声が出る。
その声に、その音色に圧巻されてしまうのだ。
意味が解らなくても、瞬時にその歌の世界へ入り込まされてしまう位には。
突然始まったナズの単独ステージに、
客達は驚き店内が静まり返った。
先程まで騒がしかった酒場はベリーダンス帰りの客が殆どで、
追加のステージに喜ばない訳が無いのだ。
歌を終えたナズの周りには客たちが集まり、お捻りが投げ込まれた。
まてまてまて、チップを見せるな、ナズは娼婦では無い。
分け入ってナズの腕を掴み強引に席へ戻した。
「xxxxxxx!」「xxxxxxx?」
「xxxxxxxxxxxxxxx!」
「おおおおおおおおっー!」
何を言っているのか解らねえが・・・。
ナズが褒められている事だけは解る。
人間語の理解のスキルが欲しい・・・。
そういえばイルマは人間語、解るのだったよな。
「イルマ?」
そのイルマがナズに向けて驚愕の眼差しを見せている。
あれ?そういえばイルマの前で歌わせたのは初めてだったかな?
イルマもクルアチも、ラティだって、
ホドワの酒場でナズの歌を聞いていない。
あ、いや、ラティは一度行ったかな?
いや、行っていないのはクルアチだけだ。
ウッツに木ギアを頼んだ際に、
寂しいから歌ってくれと頼まれたのでその夜全員連れて行った。
と言う事なら一度は聞いていたはずなのだが・・・。
歌か?
内容がイルマの知っている歌だったか?
そういえばエミーは・・・。
そうか、今歌った歌はイルマの知っていた歌だ。
エミーに歌って聞かせた、思い出の歌だ、多分。
ナズは照れ臭そうに、
それでも集まって来る客たちにペコペコと頭を下げていた。
酒場の入り口にも人が集まっており、
席は埋まっているので順番待ちの状態になっていた。
「あーーーーーーーっ!」
アナが走る。
ヴィーも口へ付けていたコップを乱暴に机へ戻し駆け出した。
出た、何時ぞやのスリだ。
ナズの歌で外に集まっていた聴衆の隙を突いたのだろう。
そりゃそういう輩に取っては絶好の鴨だ。
「イルマ、ジャーブ、ナズを頼んだ」
娼館へ連れて行かれないように頼んだ・・・。
店を出て直ぐにオーバードライブ、
駆け足ながらジョブを入れ替えて英雄を足す。
オーバーホエルミング!
これで時間はほぼ自分の物だ。
まずはアナの影を追う。
パーティを組んでいるのだ、現在入っていないのはパニだけ。
追うのは簡単である。
オーバースキルを連打しながら強壮剤を取り出して、MP切れに備える。
ステータスも弄ってMP回復速度20倍へ盛った。
アナに追い付いた。
続いてヴィーを追う。
アナより先にヴィーが抜け出していた。
ヴィーの方が足は速い。
ヴィーは目の前の角を曲がろうと、体を左へ傾けて遠心力に備えている。
つまり盗賊は左に曲がった。
オーバースキルを切らさないように維持しつつ、
ヴィーを追い越すと盗賊の背中が見えた。
その盗賊は次の角を右に曲がろうとしている。
ヴィーが角を曲がった段階では恐らくもう見えなくなっていただろう。
つまり撒かれそうな状態にある訳だ。
そうはさせない。
オーバースキルを重ね、時間停止状態を利用させて貰う。
流石にMP消費が緊いので強壮剤を一粒頂く。
前を行く男は角を曲がり切って見えなくなったが直ぐに追い付き、
そのままこの男は角にあった木箱へ足を掛けて、
上に向けて跳躍をしようとしていた所であった。
つまり、ヴィーがここを曲がった際には視界から消えてしまっていた訳だ。
どこへ?
屋根だ。
そこには行かせない。
裾を掴んで思いっきり引っ張り、地面へ打ち付けた。
この男にしてみれば、
暗闇の中からいきなり手が伸びて来て豪快に叩き付けられた訳で、
彼の身に何が起こったか理解はできないだろう。
オーバースキルの2つが同時に切れる。
まだまだ安心では無い。
直ぐさまオーバーホエルミングだ。
こちらの方が若干消費MPは緩いので、
積極的に使うのであればオーバーホエルミングの方が宜しい。
ボーナス武器1のマサムネを取り出して服とズボンを割き、
何時ぞやカリムを捕えた時のように手と足を縛り上げた。
これで安心だ。
「xxxxx!?xxxxxxxxxxxx!ウガァァァァァァッ!」
オーバーホエルミングが切れ、
男は突然の痛みと拘束された事に大声を上げた。
煩いな。
黙って貰おう。
オーバーホエルミングで更にシャツの裾を切って、
猿轡にして男の声を塞ぐ。
「ンフー!ンフー!ぅぅぅ・・・」
再びオーバーホエルミングが切れると、
男の声は小さくなり、呼吸音と低い唸り声だけとなった。
布の切れ端を丸めて口の中に押し込んだので、もう口呼吸は無理だろう。
「あれっ!?ご主人サマだ・・・ソイツ?」
ヴィーが追い付き、直ぐにアナもやって来た。
「ああ、コイツだ。お疲れさん。
ヴィーが追い掛けてくれたお陰で捕らえられた。
もうちょっと遅かったら自分にも解らなかったかもしれない」
「えっ?アタイ役に立った?・・・ですか」
「立った、立った。上出来だぞ?ヴィーのお陰だ」
「はぁっ、はぁっ、お待たせしました。
ご主人様が動かれていたのは判りましたが、恐ろしくお早いですね」
「う、うん、まあな。アナもありがとう。
アナの初動が無ければヴィーも動けなかったし、お手柄だ。
酔いが冷めてしまったからもう一杯だな?」
「かしこまりました。この男は私が背負いますので、酒場に戻りましょう」
「アタイ、あの魚美味しかった」
「判った判った、お代わりだな?」
「ヤッター!あ・・・やりましたー?」
「普通で良いぞ」
「そ、そっか、え、そう・・・ですか?」
今更だ、今更。
逆に畏まられると違和感しかない。
ヴィーは普通の町民位で良い。
アナに担がれた盗賊は身を捩ったりして何とか逃げ出そうと試みていたが、
その度にヴィーから蹴りを入れられてビクビクと跳ねていた。
い、痛いんだろうなあ。
竜騎士Lv49のキックだからな・・・。
手加減はしなさそうだし。
酒場に戻ると先程よりは若干喧騒は落ち着いていたが、
縛られた男をアナが酒場の前に放り投げると、
野次馬が集まって来てまた大騒ぎになった。
酒場の中ではナズが2曲目を歌っており、
アンコールに応えざるを得なくなったのだろう。
「いやあ、どうも。先程財布を掏られてしまった者なのだが、
お主が捕まえてくれたのかね?」
身なりの良い男性が近寄って来た。
背が低いのでドワーフだ。
耳も尖がっているので、割と高齢だ。
「ええと、はい。自分と、この猫人族の娘、竜人族の娘の3人ですね」
「ほう?まだまだ子供に見えるが・・・この娘は幾つかね?」
ヴィーを紹介すると、ペコっとお辞儀をした。
ベラベラ喋り出さないだけ偉い。
実年齢より幼い子供かと思っていたが、ちゃんと弁えらえる。
「この子は12歳ですね。竜騎士です」
「なんと!それは凄いな、その年でか」
「いやまあ・・・才能ですかね?元々すばしっこい奴でして」
「ふむ。何か礼をしたいのだが、貴殿の名前は?」
貴殿と来たもんだ。
お前はと聞かれないだけ、このドワーフは良い所の人なんだろう。
大体酒場やベリーダンスを見物できる位に裕福で無くっちゃあ、
こんな所には来ないだろうよ。
鍛冶師なのか?
鍛冶師なら金持ちと言う線もある。
どれ・・・。
・サイフリック・シルキウス・アイドラッハ
ドワーフ ♂ 58歳 聖騎士 Lv35
やっ・・・ヤベーの来たァァァァ!
アカン、逃げよう。
礼など要らない。
「い、いえ、自分は大層な者ではありませんのでこれにて・・・」
「いやいや、そうもいかん。
一応盗賊を捕らえた者は騎士団にて報告をしなければ。
既に騎士を呼んでいるのでちょっと待たれよ」
いやいやいやいや!
騎士を呼んだらお宅の息子が来るだろう!
あーもう、これ・・・ダメだな。
ナズは歌っている。
止めさせて逃げる訳にも行かない。
焦りでドキドキする。汗はダラダラだ。酔いも回ってクラクラする。
で?
イルハンが来たらナズと決闘だよ。
違うか、手合わせだ。
「いや、君のような若者がこの街にもいるのだから、私も鼻が高い。
えーっと、それで名前は?」
「ユ・・・ユウ(キです)」
「アン?何だって?聞こえなかったが」
「ユウキです」
「ほー、ユウキと言うのか。
そういえば以前そのような名前を聞いた事が・・・」
「隊長!こちらです」
「おう、いつもの酒場だな」
ガチャガチャと金属鎧の音を鳴らして、
隊長とやらがお供の騎士を連れてやって来た。
もうダメだ・・・覚悟を決めよう。
∽今日のステータス(2022/04/17)
・繰越金額 (白金貨29枚・利用券2枚)
金貨 73枚 銀貨 66枚 銅貨 22枚
劇場代 (1400й)
入場料 ×7 700
飲み物代 ×7 700
酒場代 (500й)
魚料理 120
ミード ×1 50
カクテル ×1 50
ビア ×2 140
ジュース ×2 140
銀貨-19枚
------------------------
計 金貨 73枚 銀貨 47枚 銅貨 22枚
・異世界81日目(夕方)
ナズ・アナ76日目、ジャ70日目、ヴィ63日目、エミ56日目
パニ49日目、ラテ28日目、イル・クル25日目
プタン旅亭宿泊11/20日目 シュメ旅亭宿泊11/20日目




