§262 試行
午後は皆で買い物に行ったようだ。
と言ってもそれぞれ何か買って来た訳でも無く、
ヴィーが食堂で持ち帰りのおやつを買った位で、
ただ単に観光をして来ただけのようであった。
ここで買い物をして荷物を増やしても、
自宅では無いので邪魔なだけだと言う事は皆解っていたようだ。
生活に必要な物を買えと命令した訳でも無いし、
皆それぞれ特に欲しい物などありはしない。
こんな時代なのだし、そんな身分だ。
3食と衣住揃っていれば満足だろう。
自分でもそう思う。
特に欲しいと思う物は無い。
いや、想像できない。
外に出て買う物と言えば持ち運びが容易な食べ物、
とりわけ旅亭では出て来ない物に限られる。
ヴィーが齧っているあの魚の干物は、
食材としては高い物なのだろう。
この旅亭のメニューには出てきそうも無い。
印刷組に関してはこれ以上技術を求めてもしょうがない。
見た感じ使用上で難は無く、綺麗に刷り上がっている。
従って午後の仕事は無しになった。
それに1層から4層ばかり増えた所で、扱いに困る。
パピルスを捲ると、表裏に印刷されていた。
1枚2層分。
冊子にするにはこれで良いが、
ばら売りとなると片面1枚刷りでなければならない。
裏表合わせて2セットを同じ数だけ刷ったようで、
そこは軍師アナが付いていたお陰なのだろう。
生産管理はアナに任せて良いと思う。
彼女は不器用だが、そういう力はある。
ナズもパニも丁寧な仕事ぶりなので、
彼女たちは作業に向いているのだと思う。
セットに束ねられていない、同じ図ばかりのパピルスの束が気になった。
破れたりインクが滲んだり掠れたりしているのを見る限り、
恐らくエミーがやって失敗した物なのだろう。
あの姉妹は元々与えられていた仕事以外では不器用さを露呈する。
良いよ良いよ、イルマとエミーは掃除当番だ。
インクの補充や汚れた面の拭き掃除で十分だ。
ヴィーも大概なので、床掃除と雑巾搾りだ。
適材適所、うん。コレだな。
隣の部屋の様子を見に行くと、新たに2枚ずつの原版が完成していた。
「どうだ?調子は」
「おかえりなさいませ、ユウキ様。
俺は現在9層と10層の面を彫っております」
「わっ、私は11と12層ですっ」
「おおっ、もうそこまで進んだのか。
では低層部分ならもう冊子に出来そうだな」
「はい、頑張りますっ」
「あわわわ・・・い、急いでやりますっ」
「おっと、別に急がしている訳では無い。丁寧に頼むぞ」
「分かりました」「はっ、はいっ」
「それからジャーブ、お前に駄賃だ。
主人が奴隷に与えた物は主人の物らしいが、気にするな。
今からこれはお前の物だ。
気に入らなければ売っても構わないし捨てても構わない。
どうしようがお前の勝手だ、良いな?」
「は、はい・・・これは・・・装備品ですかね」
「装備品かもしれないし、そうじゃないかもしれない。後はお前に任せる」
「わ、分かりました・・・。ユウキ様、ありがとうございました!」
どうせ数日後にはエミーが着けているのだろう。
それ以上詮索はしない。
後の作業は2人に任せ、自分は部屋を後にした。
木屑が溜まっていたので、ヴィーに仕事をさせないとな。
*
*
*
シュメールの時計亭から直ぐ横のアララビ商会へ赴き、
残りのガラス器具の発注をお願いする。
アルコールランプと下部にコックが付いたビーカー、
そしてフラスコを熱したり固定したりするためのフラスコ台だ。
図面を渡し、出荷の申請をお願いした。
量も少ないと言う事もあって、またここで取り置きしてくれるらしい。
それから手紙が来る事を伝え、
その件も合わせて時計亭へ届けるようお願いした。
これで遠心分離機以外の道具の買い付けが終わった事になる。
そしたら果報は寝て待てだ。
自分はスーパー能力を授かった物語の主人公では無く、
平凡な一介の大学生だ。
それは身に染みて理解している。
よもや薬の作成が一度で成功と言う訳にも行かないだろうし、
そもそもどうやって薬が完成したか判断するのだと言う話になる。
梅毒である判定はスローラビットを用いれば誰にでも調べる事ができた。
作った薬品で直せるかどうかの判定も、同じ手法でできないだろうか?
一度スローラビットを毒化させ、解毒丸が効くかどうかを試す。
効かないのであれば、毒では無く感染した状態である事が判るだろう。
その際に薬を打ち込んだ場合、毒を中和できるのだろうか。
いや、梅毒菌を滅菌する事ができるのだろうか。
物は試しだ。
まずスローラビットが解毒丸で回復させられるかどうか試さねばならない。
まさか未完成の薬品をエミーで試す訳には行かない。
適当な安い奴隷を買って来て打ち込んでみると言うのはあるだろうが、
そんな非道な手段で殺してしまっては後ろめたさに苛まれる。
根が日本人なので・・・。
いや、違うな。
旧時代では、そのような事は普通に行われていた。
日本人でも何でも無い、自分はただの博愛主義者なのだ。
事無かれ主義と言っても良い。
自分で悪行に手を染めたく無いだけだ。
それもただ自分で勝手に判断した所の善悪だ。
盗賊や決闘相手に対しては容赦無く葬って来た。
相手が悪人や決闘相手とは言え、既にこの手は血で染まっているのだ。
今更である。
ミチオ君だって彼に害を及ぼさない盗賊までをも積極的に殺害したし、
そもそもこの世界はそうやって成り立っている。
そう言い聞かせなければやるせない気持ちが晴れないだけで、
ただの言い訳に過ぎない事も理解しているつもりだ。
・・・でも。
だからと言って何の罪も無い者を実験台にするのは違う気がした。
良いんだよ。
まずは試してみて、駄目なら次の手を考えようじゃないか。
「ナズ、アナ、イルマも迷宮に付き合ってくれ」
「今からですね?かしこまりました」
「かしこまりました、ラティに装備を貰って参ります」
「今回は私はどのように戦えば宜しいでしょうか」
「イルマは回復だな。僧侶にして置く」
「はっ。それでは一旦失礼致します」
「パニはどうする?戦いに行く訳では無いが暇ならで良い」
「そうですね。僕もここに居ても仕事が無いようですので、
何かお手伝いする事があればお供させて頂きます」
「エミーは隣の部屋の掃除を手伝ってやってくれ。
ヴィー1人ではちょっと不安だ」
「かし・・・りました」
最近エミーの声量が上がって来た気もする。
騒がしいヴィーやラティと一緒にいる事で、
やや大きめに返事をしなければ声が届かないと言う事が、
却って良い方向に働いているのだろうか。
或いは姉との会話が増えた事による声帯筋の回復だろうか。
どちらでも良いが、ちゃんと声が届いた事に満足して頭を撫でた。
そしてイルマのように耳を弄ぶのは自制して置く。
エミーも耳が何かしらのポイントだったら、
ジャーブに与えると言った手前申し訳無い。
・・・根が真面目だからな。
病気持ちなのだからとエミーへなるべく触れずにいたのは、
今思えば良かったのかもしれない。
装備を身に着け戻って来た3人に、
ダイダリのスローラビットの階層を聞く。
「それでしたら9層です。私がご案内致します」
「そうか。では先にアナを探索者にするので、飛んだら頼むぞ」
「かしこまりました」
ダイダリの迷宮は1層の次だと15層以降にしか行った事が無い。
15層はサラセニアで、こちらへ来た直後に強壮剤確保のため立ち寄った。
それ以前の階層は、ラティに地図を描かせるためナズたちへ任せた。
「ではご案内致します。入り組み惑う迷宮の、勇士導く糸玉の、
ダンジョンウォーク!」
──ヴォンッ
アナの開いたダンジョンウォークに全員が突入する。
出た先は9層だと言う事らしいので、
これでダイダリは1,9,15-30が飛べる先となった。
「ではジョブを戻す。済まないな」
「いえ、久しぶりに呪文を唱えた気が致します。
3年は探索者であったはずですが、何か懐かしい感じが致しました」
「そういえばアナさんは最初から探索者でしたね。
初めて会った時から上手に魔物を抑えておられましたし、
昔からお強かったのですね?」
「い、いえ、私は至って普通でした。
ご主人様にお仕えしてからです、
このような動きができるようになったのは」
「そうなのですか、やはりご主人様は──」
「ハイハイ、おしまい、おしまい。続きは夜やれ。
アナ、スローラビットを探せ」
「かしこまりました。通路真っ直ぐに2匹居ります」
「よし、では行こう」
道なりに進むとスローラビット2匹と出遭った。
今更敵でも無いし、1匹は遠距離からバーンボールで消し飛ばした。
「ナズ、1匹を羽交い絞めにして生け捕りにしてくれ」
「えっ、あっ、はいっ!」
駆け出して行く2人のうち、ナズだけに指示をする。
それでアナは察する。
盾を構えてスローラビットの突進を受け止め、
ナズにシールドバッシュで押し出した。
ナズは槍先で足を絡め取って浮かせると、
そのまま壁に叩き付けて槍柄で首元を押さえる。
あっと言う間に固定されたスローラビットが完成した。
矢を1本取り出し、イルマに渡す。
「腕に刺せ。傷口は自分で直せるな?」
「あっ、はい、かしこまりました」
イルマは思いっきり矢を腕に突き入れ、
先端を血まみれにした矢を渡して来た。
いや・・・そんな派手に刺さなくても。
ちょっと血が付いていれば事足りるのに。
若干引き気味に矢を受け取り、スローラビットへ突き立てる。
直ぐさま体は白から緑色に、スローラビットは毒化した。
イルマの自分自身への手当てが完了したようで、手が空いたようだ。
「イルマ、この魔物に対して手当てを使ってみろ。
可能であれば何度も頼む、このまま殺さないようにしたい」
「えっ?あっ、はいっ、かしこまりました。
心安らまば平癒の素、心和まば治癒の糧──」
「アナ、スローラビットの口をこじ開けられるか?」
「はい、やってみます」
壁へ押さえ込まれて窮屈そうに藻掻いているスローラビットの口を、
アナは強引に掴んで広げた。
草食動物?の筈なので、牙は無い。
げっ歯類とか言うのだっけ?
ウサギやネズミは前歯が発達しており、
これで齧られると結構痛い。
恐らく、齧って来るような攻撃方法も持っているのだろう。
受けた事が無いだけで。
しかし前歯だけに気を付ければ、横から丸薬を放り込むのは簡単そうだ。
アイテムボックスから解毒丸を摘まみ上げ、
開いた口に放り込む。
入れただけでは呑み込まないと思うので、
強引に指を突っ込んで喉奥へ通した。
──キシーッ!ブモッ!ブモッ!
変な物を入れるなと怒っているのか、スローラビットは鼻息を荒らげた。
音を出せるのであれば、ちゃんと呑み込んだのだと思う。
体の色は・・・・・・変化が無い。
毒の状態から回復できないのだろう。
やはり梅毒菌に依る毒の状態は、
体内に持続する毒のステータスを与え続けるのであって、
迷宮由来であるアイテムから精製された解毒丸では解除できないようだ。
体の中に梅毒菌を持っている状態だとすれば、
このまま噛み付かれたり引っ掛れたらこちらが梅毒に感染する恐れもある。
良く解らないので矢が突き刺さったままバーンボールで燃やした。
至近距離で唱え、目の前で炎上していたはずなのに全く熱くなかった。
これならば混戦中に撃ち込んでも同士討ちとはならず安心である。
ターゲットを決める前、頭上で浮いている状態では普通に熱いのに。
「解毒丸で解毒できるかの実験、と言う事でしょうか」
「そうだ。結果は見ての通りだ。
状態異常としての毒であるにも拘わらず、解毒できないらしい」
「そうなのですね・・・魔物も病気になるのでしょうか」
「その前に毒が回って死ぬからな、長期に生かして置く事は困難だろう」
「あの・・・やはり、私は・・・」
「イルマ、これはお前の病気を治すために必要な実験だ。
落ち込む必要は無い。
今後薬を作成した後にも何度か同じ実験をするだろうから、
その時はまた付き合ってくれ」
「か、かしこまりました」
「お前もそうだが、エミーにも助かって欲しいだろう?」
「そ・・・それは勿論、そう思います・・・。
ですが、本当に治るものなのでしょうか。
多くの娼婦や奴隷が、この病で亡くなって行くと聞いております。
ご主人様もその時が来ましたら、
どうか醜く穢れた私をひと思いに葬って下さい」
「そんな事を決意させるために連れて来たのでは無い。
お前の病は治す、エミーもだ。実験は治るまで続ける。良いな?」
「は、はい・・・、あの・・・」
「イルマ、ご主人様はこれまでできない事を口になさった事はありません。
信じて待ちなさい、貴方はご主人様に選ばれたのです」
「そうですよ?ご主人様は神様ですので、何でも願いを叶えて下さいます。
イルマさんも全てをご主人様に委ねましょう?」
くっ・・・。
ナズが諭そうとすると胡散臭い宗教の勧誘みたいに聞こえる。
その心酔具合もどうかと思う。
違うんだよ、今日こそ言わせて貰おう。
「ナズ、何度も言うが、自分は神様では無い。
ちょっとだけ知識を持っているだけの平民に過ぎないのだ。
できる事とできない事があるからな?」
「はい、勿論心得ております。それでも私達に取っては神様です。
何もできないと思っていた私を、
ご主人様は見出し、育み、見守って下さいます。
それだけでもう十分満足しております」
諭すどころか、ますます心酔させてしまった。
もうどうにでもなれ。
「ア、アナ、ナズが暴走したら頼むぞ」
「いえ、私もご主人様は神に近しい方だと考えております。
ご主人様の全てが、この世に生を持って誕生された方だとは思えません」
おい、コラ。
益々追い詰めるような事を言うんじゃ無い。
一番良識があると思っていたのに、もうダメだこれは。
イルマの病気を治し終えたら、彼女までそっち側の人間になりそうだ。
そもそも人間族では無いが。
「た、頼む。自分は人間なのだ。人間族の人間だ。
お前達と同じように病気にもなるし、腹も減るし、多分直ぐ死ぬ」
懇願するように2人を見詰めた・・・ユルシテ。
「ご主人様は、不死身でいらっしゃいます・・・。
致命傷を受けても手当て無しで回復なさっていました」
「不治の病とされる病気を治す技術を知っておいでです。
それ以外にもこの世に無い技術や知識、
魔法のような効果を持つ道具をたくさんお持ちのようです」
「そう・・・ですね。
ご主人様は、以前の主人と比べて四半分も召し上がりません。
必要な量のお食事をちゃんとお摂りなのかと、
これまでずっと心配しておりました。
しかし今お2人方のお話を聞き、納得が行きました」
ああ、もうこれは・・・言い訳ができない。
話す時が来たのか?
後ろを見ると、パニがオロオロしていた。
そうだよ、パニがいる手前ダメだよ。
例え話すとしたって、イルマを治療して部屋に呼んでからだ。
「パ、パニ、どう見ても自分は普通に人間だよなぁ?」
「は、はい。申し訳ありません。そのように・・・、
(ええっと、嘘を吐いても怒られませんか?)」(大丈夫だと思います)
こら、そこ!
ナズとコソコソ会話しないように!
聞こえてるよっ!
「ハァー、もうガッカリだよ、君達には」
「もっ、申し訳ありません」「失礼致しました」
「あ、あの、申し訳ございません、私の所為で・・・」
「ユ、ユウキ様は人間でいらっしゃいます」
取って付けたようなパニのフォローが胸に突き刺さる。
「じゃあ、もう今日の予定は終わりだ。帰れ帰れ」
ゲートに押し込んで全員を帰還させた。
ナズとアナには、罰としてこれからご奉仕して頂こう。
どうせ夕食までする事は無いのだし、部屋に居てもモヤモヤするだけだ。
今日の憂いは明日まで持ち越さない!
パーっと幸せな気分になって忘れさせて頂こう。
「ナズ、アナ、あっちに行くぞ」
「はい、準備致しますね」
「かしこまりました。鎧を置いて参ります」
・・・はて、準備とは?
暫く待つとナズは湯桶と手拭いを持って来た。
自分の分だけを旅亭の受付に頼んだようだ。
自分の求めていたモノが何であるか解ってるあたり素晴らしい。
折角の奉仕の申し出を無碍にする訳にも行くまい。
自分で言い出した事は棚に上げた。
湯桶を抱えたナズをゲートに送り、
装備を解き軽く汗ばむアナの尻尾を握り締めて、
シュメールの旅亭へと向かった。
*
*
*
「あー、何度も言うが自分は神様では無いので」
「はい、心得ております」
「私達に取って見れば、神のようなお方で間違いありませんので、
ご主人様が実際神であるかどうかに就いては問題で無いのです」
何だろう、このやり込められた感。
現人神?
陛下じゃないんだからさ。
「あまりそう言われると、何か失態を犯した時に落胆されそうでなぁ」
「ご主人様はご主人様です。
例え間違った判断をされましても、私達はご主人様をお慕い致します」
「神でも間違う事があります。
神話などにも、多くの神々が些細な事で争ったと聞いております」
「神話・・・アナはどんな神話を知っているのだ?
そういった話は奴隷に教えられていない物だと思っていたが」
「そうですね、例えば奴隷が生まれた理由になった神などの話は」
「アストアリマのお話ですね?」
「うん?どんな話だ?」
「ええと・・・」
「有名な神話ですが、ご存じ無いのでしょうか?」
「あ、ああ、そうだな。そっ、そういった話は興味が無かったのでな。
アナが知っている位なんだから、聞いて置くか」
有名だと言う事は、誰しもが知っている訳だ。
自分が知らないのは怪しまれるか?
それでも知らないんだから仕方無い。
取り繕っても襤褸が出るだけなので、折角だし教えて貰おう。
「太古の昔、神の国に於いて嘘ばかりを吐き、
他の神の持ち物を奪っては自分の物にしていた神がおられました。
ある時、神々の王が彼に怒りの雷を落とし、
光と翼と神の地位を奪いました」
神の雷・・・と言う事は大神ゼウスみたいな?
ギリシャ神話にそんな嘘ばかり吐く泥棒の神がいたっけ?
いたようないないような。
ここは異世界だし、また違った感じなのだろう。
そもそもギリシャ神話にすら詳しく無い。
これが何かしらの小説の主人公であったら、
うんちくの1つでも披露する所なのだろう。
何度も言うが、一介の大学生がそんな豊富な知識を持っていて堪るか。
「ほう、よくある話だ」
「アストアリマは神の国を追われ人間として暮らす事になりましたが、
人間の世界でも罪を犯し、地の果てに追われ、やがて命を奪われました」
「人間になった後も反省せず悪さをしたのか。とんでも無い奴だな」
「その後、冥府に落ちたアストアリマは、冥府の世界でも悪行を重ね、
ついには冥府の神からも怒りを買い、
命に背けないような呪いを掛けられました」
「それがこの世で初めての奴隷だそうです」
「奴隷商のジョブは彼を従えるために出来たそうですよ。
以後、罪を犯した者や税を逃れようとした者は、
奴隷として生きる事を余儀無くされたのだとか」
「お前達は悪い事などしていないだろう?」
「事故とはいえ、私は人を殺めてしまいましたので・・・」
「私の場合、恐らく先祖がお金に困ったか借金をしたのだと思います」
「そうか・・・一度奴隷になると、末代までその責任を負うのは悲しいな」
「だからこそ、私は正しく生きなければなりません」
「私達が勤労に励む事で、先祖の罪が祓われるのです」
な、なるほど・・・そういう考え方なのか。
奴隷教育の中で、そういった刷り込みが行われるのだろう。
金持ちが金を積んで、嵌めようと思えば幾らでも嵌められる世界だ。
奴隷たちが反抗心を燃やさないようにするためにも、
そうやって教育しているのだと言う事が窺えた。
闇が見え隠れする。
ただナズとアナが、奴隷としていてくれたおかげで今の自分がある。
ナズ無しではこうも簡単に迷宮の深部へと駒を進められなかったし、
アナ無しではこれまでの数々の困難に、
自分の浅知恵では立ち向かえなかったはずだ。
「こう言ってしまっては何なのだが・・・」
「はい?」「何でしょうか」
「お前達がトラッサの商館にいてくれたおかげで、今の自分がある。
その事にはとても感謝している。
何と言って良いのか判らないが、お前達が自分を神だと呼ぶのであれば、
自分に取ってお前たちは女神のような存在だ。
そんな2人が傍に居てくれて自分は幸せだ」
「そ、そんな、滅相もありません。私はご主人様にお仕えできて幸せです。
寧ろ奴隷となった今の方が、遥かに良い暮らしをさせて頂いております」
「ご主人様に買って頂いた私達は、
何不自由する事無く満ち足りた生活を送らせて頂いております。
これからも、精一杯お仕えさせて頂きます」
結局はそこに戻って来るのかよっ!
2人の意識改革はもう諦めた。
幸せな気分でまったりするピロートークタイムのはずが、
微妙な気分のまま夕食を迎える事になってしまった。
∽今日の戯言(2022/03/22)
13日の夜に大腸から大出血し、怖くなって病院へ。
物凄い腹痛もあって、そのまま入院となりました。
4日間点滴のみの生活でようやく食事が出て来たと思えば液体。
これが1週間続くのだとか。
寝すぎて腰は痛いし、頭も痛いし。
但し、痛み止めのお代わりは自由だそうですよ?
気が利いていますね。
ここはシュメールの待機所でしょうか。
幸い、執筆する余裕は十分ありそうなので、
パソコンを持ち込んで続きは院内で書きます。
暇ですし。
公開予定が6か月先までしか設定できないんですよね・・・。
出来上がった所までは一気に上げる事にして、
公開予定日の調整はどうしましょうか。
他人に任せるのは規約違反になりそうなので、なかなか難しいですね?
・異世界76日目(15時頃)
ナズ・アナ71日目、ジャ65日目、ヴィ58日目、エミ51日目
パニ44日目、ラテ23日目、イル・クル20日目
プタン旅亭宿泊6/20日目 シュメ旅亭宿泊6/20日目




