§256 珍客
午後イチにする事は錬金工房がどうなったかの確認と、
宿屋に届けられたはずの荷物の回収だ。
まずはシュメールの旅亭から注文品が入った木箱を自室に運び込んだ。
持てば結構なサイズだが、重さの殆どは木の箱である。
プタンノラの旅亭で箱を開けて机に並べ、出来栄えを確認した。
ピペットは注文通り持ち手の部分に膨らみができており、
多少の液体をここに溜める事ができそうだ。
問題なのはこの道具を使う際に必要な吸引動作を、
直接口を付けて吸い込まなければならない事か。
相手はカビなのだから、
液体に溶かし込むとはいえ、胞子を吸い込んだら拙いだろう。
──ちょっと肺に入っちゃったかナ。†
それは面倒な事に成りそうだ。
革細工か何かでゴムの部分を何とかして作れないだろうか。 (※)
それは今後考えるとして、本体に関しては十分な出来栄えであった。
ビーカーとフラスコは、もうまんまの形状である。
シリンダーケージにシリンダーを並べて立て、
遠心分離機も取り出してみた。
始めて見る様々な道具に、3人は食い入るように眺めていた。
遠心分離機は使えるかどうかのテストも必要だ。
T字状に伸びる腕の先へシリンダーを入れる丸いリングがあって、
そこにシリンダーがピッタリと嵌まり込んだ。
注文通りの仕様だが、何故だか違和感を感じざるを得ない。
そして発注の段階で下部に付けて貰おうと思った回転ハンドルは、
何故か上部に付けられていて、fの字になっている。
さて、今ここには分離できそうな物体として酪を所持している。
早速酪の1つを割って、シリンダー2つに入れてみた。
上部のハンドルをクルクルと回し回転させてみるが、
思ったより回し辛いし、回転スピードも速くは無い。
それよりも重大な欠点が判明した。
シリンダーが縦向きに固定されており、
幾ら回転させても広がってくれないのだ。
違和感の正体はこれであった。
おかしいな、図面にはベアリング機構を描いたつもりなのだが。
・・・帰って来た図面を良く見て見ると、
ベアリングの部分はインクが滲んで伸びており、
これでは機構物がどうなっているのか良く解らない。
それでか、このリングが固定されてしまっていた理由は。
遠心力に拠ってリングへ装着したシリンダーが外側へ広がって貰わなければ、
幾ら回転させても効果を得られそうに無い。
そもそも図面を見せた段階で、
この機構物自体が何をするための物か理解できない様子であった。
だからなのか、どうなのか。
図面が悪いと言えばそうなのだが、
使い方を考えられなかった制作側にも問題があるのでは?
回転力自体もいまいちなので、これは駄目だ。
やはりギアの部分まで細部に至って図面へ起こし、
回転部分のベアリング機構もズームアップで描く必要がある。
インクが滲んだのは海水に漬かったせいだろうな。
その他の図面も多少は滲んでいたが、
まあまあ見える範囲内だったので油断した。
それはともかくとして、やはり精密なギアがいる。
いきなり図面に起こすと言うのは無理だ、せめて模型が無ければ。
と言っても自分には金属加工の知識なんて無いし、やるとしたら木ギアだ。
幸いな事に彫刻刀は既にある。
木ギアっぽい物をウッツに作って貰って、
細かい調整は自分で行い最後に図面へ起こせば良いだろう。
その為には、ウッツに頼むためのサンプルのギアを描く必要がある。
遠心分離機のサイズから推測して図面を引く。
回転する土台と軸も含めて、原寸大で描いた。
・・・いや、大きく作って大きく描いて、
注文するサイズは小さくすれば良い。
いきなり超精密部品なんて作れっこない。
失敗した図面はクシャクシャに丸めて捨てた。
こんな物を残してはいけないと思うので。
準備が出来たので改装中の自宅へ飛んだ。
ウッツたちは家の建て替え中のはずである。
もう昼の休憩も済んだ頃だろう。
既に壁はできていたはずなので、飛ぶ先は自宅の壁である。
「おう、ユウキの旦那か。アンタいつも神出鬼没だな」
早速ウッツに見付かった。
ウッツの前では魔法使いと言う設定だったはずだが、
フィールドウォークの現場を見られてしまった。
次に説明する際には冒険者としなければならないのか?
あまり突っ込んで来るような気配を見せないので、
言われない限り黙って置けば良いとは思うが。
・・・そういえば前回、木材を運んだ際に目の前で使用していた気がする。
もう今更だ。
何か言われたら全部パニがやった事にしよう。
「今日はこれをお願いしようと思ってな」
「おう、良いぜ。・・・何だこれは?」
「実物サイズでそれを作って欲しい」
「これをこの大きさか・・・結構な代物じゃねえか。
コイツはちょっと大変だな」
「2つの構造物が激しく擦れ合うので、
できるだけ硬めの木で作って欲しいんだが、できそうか?」
「硬い木か・・・タームウェルちゅう木材がある。
コイツはアレクスムって言う最東端の街から買い付けるんだが、
ちょっと高いぜ。1本で言うと9千ナールだな」
「ちょっと高過ぎるな。他には無いのか?」
「黒くて仕上がりが汚くなるが、ゴルフェルっちゅう木材もある。
そっちなら5千ナールだがこっちもアレクスムだ」
「ああ、前回のように飛ばして運ばせるので現地で切って来る」
「そいつは無理だ。バムオならギリギリ冒険者でも飛べる距離だが、
ゴルフェルやタームウェルの原産地はこの国じゃなく隣の国だ。
流石にアンタでも無理だろ、荷馬車で4,50日は掛かる距離なんだぜ」
別に中継地へ飛ばしてそこから更に飛ばせば良いんじゃないか?
複数回に分けてやれば何とでもなるはずだ。
この世界の一般常識に左右されてはいけない。
「じゃあちょっと行って来る。アレクスムの何と言う店から買うんだ?」
「えっ、おい、正気かよ・・・まったく、お前さんは訳判らんな。
アレクスムで木材を扱ってるのはスルタンだ。街の北側だな」
「判った、ではまた後で」
アレクスムに飛んで木材の商人を探す。
タームウェル・・・タムエルの事では無いだろうか?
確かタムエルと言えばハルツ公爵領の特産品だった。
同じ木材が手に入るとするならば、ハルツ公の領地なのか?
それ程近いとは思えない。
ガイウス帝国はカッシームの更にもっと向こう側のはずだ。
とすると、同じ樹木が生えている別の国と言う事になる。
或いはガイウス帝国からの輸入品なのか。
・・・そんな遠方から買い付けているような値段でも無かったよな。
冒険者ギルドの受付に聞いて、それっぽい建屋にやって来た。
看板は読めないが合っているはずだ。
目の前に木材を積んだ荷馬車が有ったので間違い無いと思う。
運び出している荷役夫に聞いてみた。
「ここはスルタンの店で合っているか?」
「xxxxx?」
しまった、通じない者達か。
格好からして相手は奴隷じゃ無い。
冒険者でも無い、ただの雇われ荷役夫だ。
慌てて両腕でバッテンを作って、店舗に入る。
店舗と言っても事務所で、倉庫はこの裏だろう。
木材を扱っているとは言え、店先に材木が並んでいる訳では無かろう。
「xxxxxxxxx?」
「ええと、ブラヒム語は判るか?」
「はい、ブラヒム語ですね。どうなさいました?うちの作業員が何か?」
振り返ると先程の荷役夫が後ろに付いていた。
彼自身に何か用があるのかと勘違いしたようだ、申し訳無かった。
「いや、彼に用があった訳では無くってだな。
ここがスルタンの店で合っているかどうかを聞こうと思ったのだが、
生憎言葉が通じなくてな」
「左様でございますか。
xxxxxxxx、xxxx」
対応してくれた者が何かを言うと、荷役夫は去って行った。
「して、こちらに何か御用ですか?」
「ええと、タムエルやゴルフェルとか言う硬い木を探している。
ここで買い付けができると聞いたのだが」
「はい、扱っておりますね。何本程ご用意しましょうか。
1ガロット10本単位で扱っております」
ガ・・・ガロット?
「ガロットとは、・・・その、何だ?」
「ああ、はい。1ガロットはこの位の長さに成りますね」
受付の男は建物の柱を指して長さを示した。
丁度外の荷役夫が運んでいた長さと同じ位だ。
木材1本の単位はどこもこれなのだろうか。
ウッツの資材置き場にあった木材も、その位の長さの丸太が並んでいた。
「倍の長さの長ガロットもあります。
そちらは5本単位でございますね。
運ぶのに専用の馬車を用いますので、輸送費は少々嵩む事になりますが」
「ええと、至急で1本欲しいのだが、そういうのは難しいか?」
「バラ売りのお取り扱いは致しておりません。申し訳有りませんが」
「どこから買い付けている?」
「国境の先のマカドレニア王国から買っております。
タームウェルはもっと先の国から輸入しておりますので割高ですね。
どちらも許可無く伐採はできませんので、
こちらで買う以外に方法はありませんよ?」
むむむ、そうなのか。
国策の特産品と言う訳だな。
勝手に売らないよう国として管理している訳だ。
ブランドとしての価値を高め、
貴重な財源としているのだろうから仕方無いのか。
「では仕方無いな、ゴルフェルを10本買う」
「ありがとうございます。
1本4千ナールで、10本ですと4万ナールです。
こちらへ馬車などをお着けになって頂ければ、
当方の荷役夫が積み込む所までをお手伝いさせて頂きます」
1本4千ナールか。
ウッツは1本5千ナールだと言っていたので、
荷馬車で10本運んだ費用が1万ナールと言う事になる。
そして相手は商人のようだが、割引が効かない。
10本単位だと言ったので、発注の最小単価だと言う事なのだろう。
結構な出費だ。
それから、取り敢えず荷馬車を借りなければ話にならない。
「馬車はどこで借りたら良い?」
「商人ギルドで貸し出ししておりますよ?
どこまで運びたいのか存じませんがね、概ね1日千ナールでしょう」
と、言う事はアレクスムからホドワまでは荷馬車で10日か。
或いは20本積んで20日かもしれない。
・・・結構あるなあ。
郊外まで運んでホドワまで飛ばせば1日レンタルで済むだろう。
商人ギルドまで向かい、荷馬車の手配をした。
料金は御者込みで1日1千ナール。
人気の付かない郊外まで運んで降ろして帰って貰うだけだ。
こうしてみると商人は買い付けをするだけで結構な出費が嵩むと解る。
元手は沢山必要だし、荷が来るまでは商売できない。
その間の生活費だって必要な訳で、
どうしたって中間マージンは高く取らざるを得ない。
ガラス製品が末端に行く程高くなるのも頷ける。
変な物を仕入れて売れなければ赤字なのだし、
金持ちが欲しくなりそうな高級品ばかりを扱うのも理解できる。
薄利多売など以ての外だろう。
在庫を抱えて利など得られるはずが無い。
こちらの世界に来て初めて流通の世界を学んだ気がする。
大学の講義なんて机上の空論で、
現代のように様々な文明の利器前提の知識は役に立たないようだ。
需要と供給の考え方は産業革命以後だっけ?
古代文明の時代では全く参考にできそうも無い。
御者に頼んでスルタンの店まで向って貰い、
そこでゴルフェル10本を運び入れて貰った。
「ここから人気の無い方向はどちらだ?」
「え?」
「そこでこのゴルフェルを下ろしたいのだ。
そこからは人に見られたく無い方法で運ぶ」
「ちょ・・・ちょっと、ま、待って下さい。
とと、と、盗賊の、おっ、お仲間でしたかっ」
あー、何かそういう事になってしまったな。
「い、いや、盗賊では無い。盗賊では無いが、
これを買ったと悟られたく無いお方にお渡しするのでな。
街道沿いで良い。なるべく人気が少なくなるような場所で止めてくれ」
「はっ、はいっ。あ、あの、本当にダイジョウブですよね・・・?」
「盗賊なら始末する側だ」
「な、なるほど、賞金稼ぎギルドの方でしたか。それならまあ納得です」
おー、何かそういう事になってしまったぞ。
「では頼むぞ」
「かしこまりました。それではこの西側に小さい村がありますので、
その道中でお停め致します。
農産物の出荷の時間以外は殆ど人通りもありませんので」
*
*
*
「着きましたが、この辺りで宜しいですかね?」
御者は荒野の中の広々とした場所に馬車を停めた。
確かに人目が付かない位には街道の前後を見ても何も無いし、
そもそも誰も通っちゃいない。
しかし残念な事にここには目印となる物が何も無いし、
そうなるとフィールドウォークが使用できない。
流石に丸太ではフィールドウォークのゲートを出せないだろう。
ここに壁掛けを引っ掛ければ何とかなるかも知れないが。
「あー、ちょっとここで待っていてくれ」
「ここでお待ち合わせですかい?」
荷馬車には幌がある。
積んだ荷物が落ちないようにするための物だが、
木材ならば崩れたら幌ごと壊れてしまいそうだ。
そうはならないように縄で緊く縛ってあるのだが。
荷台へ乗り込んで幌にゲートを出し、シュメールの宿屋に飛んだ。
一気にMPを持って行かれた気がする。
二日酔いのソレに近い状態で頭がガンガンと痛み、吐き気を催す。
・・・・・・・・・。
何でこんな面倒な事をしなければならないんだ。
急いで強壮剤を2粒呑み込み、状態を立て直した。
可愛いエミーやイルマのためなら、多少の面倒事も喜んでやってやりたい。
麦帆の壁掛けを回収し、宿屋の壁からプタンノラの宿屋へ。
3人は椅子やベッドに腰掛けて歓談しているようであった。
仲良くしてくれているなら嬉しい限りだ。
イルマを加えると言う話で啀み合ってしまったら大変である。
「あっ、ご主人様、お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ。如何でしたか?」
「お帰りなさいませ」
「うん、これからまた木材を運ぶ。
以前のように打ち出して貰うから、
やった事がある者を集めて用意をして置いてくれ」
「か、かしこまりました」
「ジャーブ達を呼んで参ります」
「は・・・はい?」
「イルマも出掛ける準備をして置いてくれ。後で迎えに来る」
「行ってらっしゃいませ」
「かっ、かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
波の壁掛けからアレクスムの冒険者ギルドへフィールドウォーク。
そこからワープで幌に戻って来た。
同じ失敗は繰り返さないぞ。
戻った所で直ぐ目の前に木材の出っ張りがあって、
そのまま脛と胸を打ち付けた。
痛みで縺れて転び、ついでに額まで撞けた。
くっ・・・結構痛いぞ。
踏んだり蹴ったりだ。
「やあ、待たせたな」
「いえ、大丈夫ですが、お連れさんはいつ頃到着するんで?」
「うん、今から呼ぶのでちょっと待っていて欲しい」
「へえ・・・あっ、そういう事ですか。
お客さん冒険者の方だったんですね」
自分が幌に壁掛けを引っ掛けた所で、
御者は自分の事を冒険者だと理解したようだ。
概ね正解だ。
一応フィールドウォークの呪文を唱えないと不審に思われるだろう。
「回顧に巡る行程を、共に目指さん行路の先を、
フィールドウォーク!
・・・仲間を呼んで来るので待っていてくれ」
「はい、お待ちしております」
今ここを旅立った風体で御者をその場で待たせ、
自分は改めてプタンノラの旅亭に戻る。
部屋へ戻ると既にナズ、アナ、ジャーブ、ヴィー、ラティが並んでいた。
アナの段取りは素晴らしい。
ナズは重装備を整えて、ヴィーの大楯を持っている。
パーティ編成をして5人を加入させ、ゲートの向こうに送った。
2人ずつ通る毎にその都度強壮剤で補給をする。
「イルマ、パニに頼んで麦穂の壁掛けに飛ばして貰え」
「か、かしこまりました」
「それじゃ、後は宜しく」
「は、はい。行ってらっしゃいませ」
自分もゲートを通って、先程の荒野に戻って来た。
「それじゃ、皆でその荷馬車から木材を下ろそうか。
ジャーブとヴィーは荷台の上、ナズとアナは自分と一緒に下で持とう」
「「かしこまりました」」「分かりました」「あいっ!」
「なるほどー、考えましたなあ。
ここから奴隷達に持たせて運んで行く訳ですか」
「まあ、ちょっとな。変な事を頼まれると大変なのだ」
「分かります分かります。
私どももこういう商売をやっていますとね、
夜に馬車を出せとか、通れないような細道の先に運べとか、
そりゃあもう無茶な事を言う客が多くって」
「変な客の依頼を受けると大変だな」
「そうですよねぇ」
変な事を頼んだ本人が適当に話を作る。
変な依頼主は自分自身だし、変な荷役をお願いしてるのも自分。
そしてここから変な運び方をするのも自分だ。
木材を下ろし終わり、荷台は空っぽになった。
「いやあ、半日で仕事が済んで私としては嬉しい限り。
こういうご依頼でしたらまたいつでもお申し付け下さい。それでは!」
木材を運ぶ客は長距離運送・長時間の行程になるのだろう。
それが半日どころか数時間だ。
それでいて1日分の料金をしっかりと持って行かれたので、
彼に取っては美味しい仕事だったのと思う。
さて、ここからは自分達で木材を運ぶ必要がある。
前回と同じように木のハンマーで叩いて押し出すだけだ。
その前に土台を組んで発射角度の調節かな?
「で、コレどーやって撃つの?」
「うん?前と同じようにハンマーをだな」
「ご主人サマ、ハンマーなんて持ってたっけ」
あ!
衝撃の事実である。
そうだ、あの時は確かウッツから木のハンマーを借りた。
ここは荒野だ。
何も無い。
組むべき土台の材料も無い。
何ならゲートを出すための壁すら無い。
おいコレどーすんの。
「ご主人様、木のハンマーでしたら多分私が作れますので」
「お、おう。そうだな。ではお願いする」
ナズに木の板20枚を渡し、木のハンマーを作って貰った。
しっかりとナズの手には木のハンマーが残り、木の板は4枚余った。
使用材料は16枚か、結構な量だ。
追加で12枚を渡し、木のハンマー2つが作成できた。
既に1つはヴィーが持って行った後で、
振り心地を確かめるべくブンブンと音を鳴らしている。
アレに当たったら地の果てまで吹っ飛びそうだ。
次は台座をどうするかだ。
発射した先のゲートもどうしようか。
そういえばパニに頼んでイルマも来いと言って置いた。
既に荷馬車は行ってしまった後で、遠くの点になっている。
引っ掛ける幌が無くなってはこの壁掛けも役に立たない。
せめて引っ掛ける物があれば・・・あるじゃない。
壁に掛けなければならないと誰が言った。
何かに吊らなければならないと誰が言った。
無いなら持てよ、持てばできるさ。†
「ジャーブ、ちょっと持っていてくれ」
「分かりました」
広げて長身のジャーブに持たせる。
──ヴォンッ!
ちゃんと開いたようだ。
パニを呼ぶために自分だけがゲートをくぐる。
「あっ、ご主人様。お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
「遅くなったが準備はできている。こちらに来てくれ」
「あ、あの、何度か試したのですが、
どうやら僕では飛べない距離のようです・・・」
おおっと!そうだった。
ここはプタンノラ、サンドラッド国内だ。
対してあちらはトルキナの最北端。・・・の荒野だ。
パニのMPで飛べるはずが無かった。
パーティを解除し、パニとイルマを加えた。
「それじゃ行くぞ」
「かしこまりました」
「はい、お手数を掛けてしまい申し訳ありません」
──クラクラッ。
再びMPとの戦いだな。
MP回復速度を盛って20倍とした。
全員が揃った後、ナズはウッツの工房裏の資材置き場に飛ばす。
そこで大楯を構えて貰うのだ。
その前に資材置き場から、
撃ち出し台座用に使えそうな手頃な木材の切れ端を、
幾つか持って来るようにお願いした。
ナズの手が見えて木切れを放り投げられたが、本人は戻って来なかった。
ナズなりに自分のMPを節約してくれたのだろう。
以前行った、海水を汲み出した時の経験が生かされている。
ここからホドワ位ならば全然余裕なのだが。
送り込まれた木材の切れ端を組み上げて角度を作り、
ジャーブ達がゴルフェルを台に乗せて準備完了である。
これで前回のような体制が整った訳だ。
アナとラティがカウントを始める。
木材の撃ち出し準備が整った。
今回は10本、余裕だろう。
──カコーン!・・・・・・カコーン!・・・・・・カコーン!
軽快な音が荒野に響き、最後の木材を飛ばし終えた。
「それじゃ皆で向かおう。飛ばした木材を綺麗に積んで置かなければな」
「かしこまりました」「分かりましたっ!」「ハーイ」
木材を飛ばしている間、イルマにはずっと壁掛けを持たせていた。
ゲートが開いているので撃ち出される木材を直視していた訳では無いが、
実際問題、木材が自分に飛んで来ると思うと怖いだろう。
結構な危険を伴う作業ではあった。
「イルマ、もう良いぞ、お疲れ様」
「はい、この位は何でもありません」
「それじゃあ帰・・・」
ワープを出すのは自分しかできない。
パニではウッツの家の壁にも、プタンノラの宿にも飛べないのだ。
それに、最後は誰がこの壁掛けを持つのだ。
駄目だろう、帰りの手段が無くては。
2人だけで歩かせ、道中強盗に襲われても敵わない。
2人とも武器は持って来ていないし、非力な枠だ。
送った所で結局自分は最後まで歩く必要がある。
それならもう3人で行った方が良い。寂しいし。
3人で馬車が来た道を歩き、
アレクスムへ戻った頃には夕方になってしまっていた。
ああ・・・工房へ顔を出す予定がパァだよ、トホホ・・・。
冒険者ギルドからパニとイルマを旅亭に戻し、
自分はウッツの作業場に飛ぶ。
先に送り出していた5人は積まれた木材へ腰を下ろし、
ナズはウッツと何かを話していた。
「おう!遅かったな、んで良く持って来られたな。
こんなに必要ねぇと思うんだがよぉ、
持って来ちまった物は仕方無ぇな。
流石にこの木材を使用する注文は中々来る事が無くってな。
買い取ってやれないのが残念だ」
「それじゃ、これを使った家具を作ってくれ。
前に幾つかお願いしたと思うが」
「おう、そりゃ良いな。じゃあベッドと椅子はこれだな?」
「ああ、頼んだ。それで渡した図面の方の道具だが、
どの位で作れそうだ?」
「こんな物は1日もあればできらぁ。
ただちょっと面倒臭そうだから、その分は取らせて貰うぞ。
明後日の昼にでも取りに来てくれ」
「判った、宜しく頼んだ」
「それよりナージャのよう、歌が恋しいんだがよ」
「うん?」
「この家を完成するまではユウキの旦那は戻れねぇんだろ?
毎日ガンガン働いて癒しの一杯を浴びに行くがナージャは居ねぇ。
家が完成したら暫くは大きな仕事も無ぇ。ハァー、どうしたら良い?」
知るかっ!
・・・と思ったがナズを贔屓にしている客だったのだし、
その縁で今日まで色々無理を聞いて貰ったり、家の件でも世話になった。
無下に放置する訳にも行くまい。
「変な事を言うな。じゃあ今日はナズ、ついでに酒場に行って歌って来い」
「ええっ?は、はい。かしこまりましたっ」
「おおおお!本当かぁ!ちょっと待っとけ、弟子にも伝えて来らぁ」
「それじゃ、ひとまず皆は帰ろう。
酒場は夜に連れて行くから、ナズも一旦旅亭に戻って食事だ」
「お疲れ様でした」「ご苦労様です」「分かりました」「ハーイ」
「こっ、これでおお、お仕事は終わりですかねっ?」
資材置き場の壁にゲートを開け、全員を戻す。
ウッツが戻って来たが、手を振って別れた。
∽今日のステータス(2022/03/08)
・繰越金額 (白金貨30枚・利用券2枚)
金貨 33枚 銀貨 77枚 銅貨278枚
木材購入 (40000й)
ゴルフェル ×10 40000й
荷馬車レンタル (1000й)
普通荷馬車 ×1日 1000й
金貨- 4枚 銀貨-10枚
------------------------
計 金貨 29枚 銀貨 67枚 銅貨278枚
・異世界73日目(昼過ぎ)
ナズ・アナ68日目、ジャ62日目、ヴィ55日目、エミ48日目
パニ41日目、ラテ20日目、イル・クル17日目
プタン旅亭宿泊3/20日目 シュメ旅亭宿泊3/20日目
・作中名詞注訳
ゴルフェル → ゴフェル (ヘブライ語)
・解説
(※ ピペッターと言うそうです)




