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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第丗章 道筋
263/394

§250 火種

ナズがゴソゴソと動くので目が覚めた。

意識ははっきりと戻ったが、怠いので体は動かさない。

何をしているのだろうと神経だけは集中する。


しかし意識が戻った事は直ちにアナに悟られ、

布団共同体である右側の隣人はガバっと体を起こした。


当然掛布団が剥がされる訳で、付随して体温が急激に冷やされる。

そうなると狸寝入りしていても辛くなり、頭は覚醒してしまった。


くそう。

気配で察する事ができるなら、

もう少し寝たいと言う気持ちもついでに察してくれ。


今日の日の光はやや暗い。

外は曇っているのだろう。

ぼんやり見える視界を助長するように瞳には涙が溜まり、

硬くつむるとそれは目尻から零れ落ちて完全に目が覚めた。


両手を挙げて伸びをして、そこで初めて口を開く。


「ナズ、おはよう」

「おはようございます、ご主人様。

 ちゅっ・・・んむ・・・はむ・・・」


ナズと交代で、即アナの顔が迫る。


「ちゅ・・・ちゅ・・・」


「アナもおはよう。アナには隠し事ができないな」

「申し訳ありません。

 余り遅く起きましても困るかと思い、お手伝いさせて頂きました」


ふむ。

何が困るのか知らないが、早く起きて仕事をしろと言う事なのか。

と言うか、自分の仕事となるのは迷宮に行くだけでは無いのか?


何時に行こうが休日にしようが自分の裁量で何とかなるのだから、

ゆっくりのんびりしたい時にも叩き起こさないで頂きたい。


「では向こうの宿に戻ろうか」

「はい」

「お待ち下さい、ご主人様。

 受付に手紙が来ていないか確認して参ります」


おっと、そういえばそうだ。

ガラス製品の許可証の件だ。

遅くとも2日後には届けると言っていた。


早ければ昨日の昼には来ているだろうし、

遅くとも今日には届いているだろう。

その為に早く起こしたのか。

しかし、早くに受け取っても何もできないのだが。


「戻りました、こちらをどうぞ。

 ガラス製品と細工品の出荷許可証になります。

 代金は5点で1万ナール、申請料が3000ナールのようです」


アナが許可証自体を渡し、ついでに内容を報告した。

読めないと解っている手前、ちゃんと考えてくれている。


「と言う事は1万3千ナールか」

「道具だけでもかなりの高額なのですね・・・」


ナズが落胆した様子を見せる。

確かに高額だが、払って生活が苦しくなる程では無い。

蓄えはあるので安心して欲しい。


「そうだな、だがこれでもまだほんの数点なのだ。

 まだまだ頼んでいる物が別にある」

「そ、そうなのですか・・・」

「そのような高価な物を用いないと、2人の病気は治せないのですね?」


「治せるかどうかも含めて不明だ。だが、できるだけやって見る」

「私達にも何か手伝いができますでしょうか」

「そうです。私にも手伝える事があればお手伝いします」


「うーん、難しいんじゃないかな・・・」

「そうですか・・・」「残念ですね・・・」


「いずれにせよ、この許可証を持って行くにはまだ時間が早過ぎる。

 食事後に向かうとして、まずはあちらの旅亭に戻ろう」

「「かしこまりました」」



   ***



「おは・・・「おはようございます、ご主人様」・・・ます」

「姉ちゃんっ、ご主人サマ来たヨ」


プタンノラの旅亭に戻ると、既にエミーとイルマは起きていた。

ヴィーもベッドに腰掛けて座っており、

自分の顔を見るなりラティの塊を揺さぶった。


モコモコを払い除け慌てて跳び起きたラティが、

ベッドから落下して再びモコモコになる。

そういう所だよ。


「ラティ、落ち着け。おはよう」

「・・・ふっ、ふひはへん、ほはほうほはいはふ」


モコモコがうごめき、うめき声のような挨拶が返される。

ナズと目が合い、苦笑された。

モコモコはエミーが正して無事ラティが釈放された。


  *

  *

  *


「・・・と言う訳で今日は27層のボスに行こうと思っているが、

 その前にちょっと買い付けたい物があってその手続きをしたいので、

 自分が戻って来るまでは部屋でゆっくりしていてくれ」

「「「かしこまりました」」」


「あ、そうだ、アナ。

 パピルスに0から9までの数字と、コボルト、と書いて置いてくれ。

 パピルスの束は隣の部屋にたくさんあると思う」

「はい・・・?かしこまりました。ブラヒム語で宜しいですね?」


「ああ、頼んだ」

「「「行ってらっしゃいませ」」」


金貨と銀貨を小銭袋に入れ、許可証も合わせてポーチにしまう。

アララビ商会の事務所に向かった。


──ドンドン。


「ごめん下さい」

「はいはい、どちら様で」


「先日許可証の発行をお願いしたユウキと言う。

 代金を持って来たので宜しくお願いしたい」

「あー、ハイハイ。今開けますね」


──ガコッ


扉が開かれ、先日会った商人の男が出て来た。


「お早いですな」


「もう少し遅めの時間の方が良かったか?」

「いえ、時間の話では無く、許可証を出してからの期間の話です」


「そもそも送った先が隣だろう?」

「一般的な商人様ですと送った後3日か4日、

 長ければ5日程経ってもお見えに成らないお方もおられますのでな。

 ユウキ様でしたか、送った翌日に来られるお客様は珍しいのですよ」


「そうなのか?まあ大量に買い付けとなると、

 荷役の冒険者を雇ったりと大変なのだろうな」

「そうかもしれませんな、ええとそれで・・・。

 ああ、あの何だか分からないガラクタですか。

 少量の商品でしたのでこちらに届いています。

 ・・・そこの木箱ですな。代金は・・・ええと、1万3千ナールですか」


「ではこれで」

「はい、確かに。木箱、ちょっと大きめですが大丈夫ですかな?

 持てないようでしたら昼までには旅亭に運ばせて置きます」


「あー、ああ、じゃあガラスの皿だけ受け取って、後はお願いしたい」

「皿だけ・・・?あの平皿ですか。

 一体何に使うのですか、良く分かりませんなあ」


「ははは、自分でも何ができるのか良く解らないからな。

 ・・・これと・・・、蓋がこれかな?」


パピルスに包まれたシャーレ5つと、

これまた蓋だけ包まれた塊を見付け、木箱から抜いた。


「では宜しくお願いする」

「はい、ではまたのお越しをお待ちしております」


遠心分離機やフラスコなどはまだ必要無い。

今必要な道具は青カビを選別して培養するためのシャーレだ。

綺麗にり分け事ができて初めて、次の工程に移行できる。


フラスコで混ぜて攪拌させ、遠心分離機で抽出する。

その後はピペットで目的の層を吸い取り、

フラスコを熱して蒸留し、結晶化させる。


あ、熱するための台は作ったが、肝心の熱源が無いぞ。

熱源に炭を置いたらガラスが割れそうだ。

ガスバーナー・・・なんて物は無いので、

やはりアルコールランプか。


アルコールはあるしランタンという機構物もあるが、

あの独特のフォルムのガラス瓶は流石に無いだろう。

市販されているランタンでは傘の部分が長過ぎて熱源には向かない。


あの形状の壷を作成しなければならないのか。

ガラスシャーレを受け取ったその足で、

ジャーブ達の部屋にゲートを繋いだ。


「おっ、お帰りなさいませ?ユウキ様」

「ご主人サマ、お部屋トナリだよ?」

「わっわっ、私何かしちゃいましたかッ!」


「ラティは何もしていないし、この部屋で正しい。

 ちょっとペンとパピルスを出してくれ」

「は、はいぃぃ、今出しますぅ」


ラティから画板ごと一式を渡されたので、

そこに三脚とアルコールランプの図面を描いた。

次回、忘れずにバラさんへ見せよう。


そういえば数字を覚えようと思ってアナに書いて貰う為に、

こちらの部屋から持って行けと言ったのだったな。

素直に自室へ戻れば良かった。


「それじゃもうちょっとしたら装備を身に着けて準備してくれ」

「分かりました」「はーい」「かっ、かしこまりマシタっ!」


迷宮に関係の無いエミーは椅子へ座りながら、

彼女の私物であるコップに入った何かを啜っていた。

・・・また勝手に厨房を借りてハーブティーを淹れたのか。

何気に行動力があり過ぎるな、エミーは。


自室に戻ると机には水差しが置かれており、

自分の分を含めてハーブティーが用意されていた。


「「お帰りなさいませ、ご主人様」」

「あっ、ご主人様。

 先程エミーちゃんがハーブティーを淹れて持って来てくれました。

 お飲みになりますか?」


・・・やっぱり。


「も、貰おうか」


ポーチからシャーレを取り出して机に並べる。

蓋ばかりのパピルスも剥いて、各シャーレに1つずつ乗せた。


「ご主人様、その前に大事なお話が」


「うん?」

「先程旅亭員の方が来られまして、この後長雨が続く事になるので、

 痛み易い食物は気を付けるようにと説明を受けました」


「そうか、この国では長い雨の季節があるのだな」

「そのようです。トラッサや、恐らくホドワでも雨期がありますが、

 長く降り続いたりはせず、強く降っては止みと言う日々を繰り返します」

「その際、生ものは傷み易いので気を付けるようにしております。

 ご安心下さい」


魚醤、アリーチェなどの発酵食品は大丈夫そうだが、

生ハム原木は駄目だろう。

カビの苗床も、冷温桶で保管するのはまずい。


「うーん。それでは、その生ハムはカビたりしてしまうな。

 定期的に手入れが必要だと思う」

「手入れですか?」


「ああ、放って置くと食べられなくなってしまうので、

 定期的に表面を拭く必要がある。エミーにやらせるか」

「お手入れの方法をご存知でしたら、私にも教えて頂けますか?」


「ああ、簡単だ。表面を固く絞った布で拭き取るだけだ。

 湿っていたら乾拭きだな」

「かしこまりました、伝えて置きますね」


シャーレを並べ、部屋の片隅で放置されていた冷温桶を机に乗せる。


「物凄い臭いがするから離れて置け」

「は、はい・・・」「かしこまりました」「え・・・?」


蓋を開けると、黒緑色になった小麦粉の塊が出て来た。

あれから小分けにしたので5つだ。


明らかに緑以外のカビのコロニーがある物は千切ってパピルスの上へ積む。

シャーレの中には大体均等に青カビが収まった。

ハーブティーとは別の水差しから水を足し、

シャーレの蓋を置いて5つを積み上げた。


ここで更に培養だ。

梅雨らしい時期の前に間に合って良かった。

別のカビと混ざりそうな個体もあったため、

冷温桶では限界が来ていたようだ。


排除した別のカビに汚染された小麦粉の生地は、

迷宮へゲートを繋いでファイヤーウォールの餌食にした。

ついでにウォーターウォールを出して桶や手を洗う。


バーンとかアクアを出すと、多分水圧やら熱量やらで大変な事になる。

日用では下級魔法の方が使い易いと言う事もあるだろう。

魔道士ではちょっと火を点けて、と言うのは難しそうだ。


「こちらは一体何なのでしょうか?」


イルマが疑問を口にする。

当然だ。

何やら気持ちの悪い物体なのだから。

自分だってあまり触りたくは無い。


「これはカビだ」

「カビ?」


「花や草にもカビに汚染されると葉が黒くなったり、

 茎が白くなったりしないか?」

「ええと・・・、はい。植物の病気ですね?」


「あれは大体カビの病気だ。それとは種類が違うカビなのだが、

 こちらならば物に依っては食べられる事もあるカビだ」

「たっ、食べられるのですかっ?コレを!?」


「ああ、チーズや魚などをわざとカビさせて食べる事もある」

「「ええっ!?」」

「そ、そうなのですか、これを召し上がるのですか・・・」


「お前たちが知らないだけで、

 実はパンも酒も、美味しそうにたっぷり付けていた魚醤も、

 全てはこのような物から作っているのだぞ?」

「ええっ!?」

「わ、私達は既にパンとして食べていたのですか・・・」

「しかしながら、このような色のパンの生地は見た事が無いのですが」


パンならイースト、酒なら麹、魚醤は・・・?

麹では無いのだと思うが、やっぱり何かしらの菌類だろう。


「種類が違うからな。パンはパン用、チーズはチーズ用、魚は魚用。

 それぞれ違うから味が変わるのだ」

「そ・・・そうなのですね」

「ご主人様は何でもご存知なのですね」

「それでも、これを食せと言われましても中々踏み出せません」


「そんな命令はしないから安心しろ。

 ただし、これからエミーとイルマを治す薬を作る予定だ」

「や、やはりそうなのですね。

 この器具を作るためにシュメールまで来られたのですから、

 その中に入れる物が何であれ、それが材料なのですよね・・・」

「わ、私達は必要無いのですから大丈夫ですよ、アナさん」

「・・・(ごくっ)」


イルマが生唾を飲み込んだ。

飲まされるのかと思ったに違いない。

て言うか抗生物質って飲んで効くの?聞いた事無いよ。


注射だろう。

・・・無いけど。

そこが最大の難関なんだよなあ。


「勿論このままでは無いぞ、ちゃんと加工するからな」

「は、はあ・・・」


「それから、飲むんじゃないから大丈夫だ」

「そ、そうですね。

 ご主人様は飲ませずとも薬を使用できるスキルをお持ちでした」

「ええっ!?」


あー、パーティライゼーションの事か。

アレをこれには使えないだろう。

迷宮産のアイテムでないと効果を及ぼせないのだと思う。


そんな事ができるなら、

焼き肉を指定して使用したら全員に美味しく感じさせたりできると思う。

流石に無理だろう?


「い、いやあ、多分無理なんじゃないかな、これは。

 いずれにしても、まだ作り始めたばかりなのだ。

 完成品はもっと別の物になるから安心しろ。

 イルマも不安になる事は無いからな」

「かっ、かしこまりました」


「よ、良かったですね、イルマさん?これでもう安心です」

「え・・・えぇ・・・」


イルマを追い詰めてどうする。

ナズは天然な所があるかと思っていたが、それ以上はいけない。

アナに目配せして、それ以上言うならナズの口を塞げと訴え掛けた。


  *

  *

  *


「ではボス組だけ迷宮だ。一先ずパニとラティは留守番で良い。

 倒したら呼ぶので、そのまま部屋でゆっくりしていてくれ」

「かしこまりました」

「わっ、わっ、分かりましたぁ」


ラティから装備を受け取り、着替えが終わった者からゲートに消えて行く。

移動先は27層の中間部屋だ。

朝イチで人の出入りは少ないだろうが、一応はワンクッション置く。

最後に自分が侵入した。


「アナ、どうだ?」

「大丈夫です。入り口近くに数名いますが、先には居ません。

 昨日様子を見た限りボスに挑戦する者は居りませんでしたので、

 この部屋に直接飛んで来る探索者もいないのでしょう」


「ではボス部屋に飛ぶぞ」

「「「はい」」」


ボス部屋の扉の前でもう一度ブリーフィングを行う。


「ここのボスはファイヤーバードと言って、見た目が燃えているらしい。

 火魔法を使って来るので怪しい動きには注意してくれ。

 それとは別に火の玉も吐き出して来るようだ。

 お供はナズが良いだろう。この階層の魔物であれば対処できるだろ?」

「はいっ、頑張ります」


「燃えていると言う事は、熱くは無いのでしょうか?」

「アタイ、熱いのヤだよぅ」

「とすると、俺が一番近寄らないで戦えますので俺が正面でしょうか」


「熱くは無いらしいとは聞いているので、

 正面は盾持ちのアナかヴィーが良いだろう。

 ロックバードを見る限り、ボスも動きが素早いと思うので、

 ジャーブは援護に回って見てくれ」

「かしこまりました」「では私が正面を」「あいっ!」


ファイヤーバードに関して言えば、ミチオ君達はあっさりと戦っていた。

言及が無い分だけ自分の知識も無い訳で。

ラティがいたら良かったかな?


ラティは情報収集に関して言うと十分働いてくれている。

ボス戦なら必要無いかと思っていたが、

ブリーフィングに参加させて置けば、

自分の知らないボスの情報を聞き出せたかもしれない。

今更だ、今更。


扉は先程から開いている。

後は自分が合図をするだけだ。

初めてのボス相手に、皆の表情は真剣だった。


「行くぞっ」

「「「「はい」」」」「あいっ」


中央は空中に大きな煙。

右側に小さい煙が空中に。

と言う事はロックバードだ。

ナズが駆け出しお供のロックバードを取りに行った。


左には地を行く魔物。

煙のサイズが大きくは無いのでサイクロプスでは無い。

そちらはヴィーが取りに向かった。

そしてヴィーと向き合った時点でタルタートルが出現する。


そして中央には27層のボス、ファイヤーバードが姿を現した。

全身が燃えている(ように見える)火の鳥だ。

実体はダチョウらしいが、火の鳥だ。


江戸時代にオランダ人が珍鳥を持ち込んでダチョウだと説明したらしいが、

当時を描いた資料に依るとそれは火食鳥だったと言う記録がある。


だからなのか。

ファイヤーバードがダチョウの皮であるオストリッチを落とすのは。

この世界の創造主は中々に洒落が利いておられる。


盾役の1人であるヴィーがタルタートルの相手をしに行ってしまったので、

ファイヤーバードにはアナが当たったのだが、

見る限り警戒して近寄らないようだ。


取り敢えず状態異常耐性ダウンをばら蒔いた後は、

オーバードライブとサンダーストームで2連射する。

弓は木の矢を選択、タルタートルに当てた。

動きの遅い君が居てくれて助かるよ。


それにしても、アナの動きがおかしい。

いつもであれば盾を外して誘い込もうとするが、

盾をずっと構えたままファイヤーバードが近付くと自ら逸れている。


ミチオ君は「どうやら熱くはないらしい」と言っていたが、

いや、どう考えてもあれは熱そうだ。

少なくともアナは、発せられた熱から身を引いている。


アナは熱いのを特に苦手としていたし、

見た目にビビって大げさに動いているのかもしれない。

く言う自分は距離があるので、特に熱いとは感じていない。


あれだけの炎があれば普通こちらまで熱感も届くと思うので、

そこまで熱いかと言われると、

「見た目程熱くは無い」と言うのが正解では無いだろうか。


ミチオ君達はどうしていたのか。


ロクサーヌが釣って距離を稼げば後は延々避けるだけだろう。

そういえばミチオ君は戦線を維持するロクサーヌに対して、

「いつもより余計にかわしております」と言っていた。


ロクサーヌがそこまで近寄らなかった、と言う事だろう。

あれはほんの小噺では無く、本当に十分な距離を取って躱していたのだ。


うちのメンバーと言えば回避では無く直接受けるアナかヴィー、

カウンターするジャーブしかない。


ナズなら恐らく熱源の外から攻撃できるが、

アナが手を出せないとなると麻痺や石化は難しい。


ミリアはファイヤーバードを麻痺や石化させていた。

と言う事は近接戦闘を行った訳だ。

彼らが熱さにはそこそこ強かったと言う事に他ならない。


熱感から逃すために、アナの傍にアイスウォールを出してやった。

壁としての効果が終われば、後は周りを冷やす冷温材に成り得る。


「ありがとうございますっ、少し涼しくなりましたっ!」


魔法でさっさと終わらす事も考えたが、

やはり魔物の動きは知って置く必要がある。

特にボスは33層後、再びお目に掛かる事となるのだから。

それも通路一杯に、だ。


サンダーストームの2連射だけに留めて、

ボーナス魔法は使用せずに温存した。

アナが盾で往なせないので、弓で狙うタイミングも難しい。


今は一応タルタートルがいるが、

33層後の運用を考えるとアレから補給せねばならない。


となるとジャーブのカウンターが頼みである。

ジャーブの剣が振るわれたその時だけが、

ファイヤーバードに矢を当てられるチャンスだ。


ある程度の距離までは間違い無く吹っ飛ぶので、そこを狙わせて貰う。

良くて2本か3本が限度だ。

そして、刺さった矢が折られてしまう事は諦めざるを得ない。


幸い木の矢はファイヤーバードに刺さり、

本体から発せられる熱で燃えたりはしなかった。

良かった、鉄の矢は使わなくて済みそうだ。


燃えているが実炎ではない。

熱く感じるが魔法ではない。

現に炎耐性の装備なのに減算されている気配が無い。

精神的な物なのだろう。


「毒ですっ」


赤とオレンジ色の炎が、青と緑のヤバイ感じの炎に変わった。

こんなもの見れば誰だって判る。


より火力が増したか、凶悪になったかのようなカラーリングだが、

実際にはバッドステータスを与えたらしい。

弱体化させたはずなのにより一層凶悪に見える所までがコイツの特徴か。


──カァァァァッ!


口から石ではなく炎を吐き出して来た。

魔法では無いので詠唱は無く、剛速球であり不意の一撃だ。

それも1球では無く同時に3,4つ。


ヴィーはタルタートルを相手しながら盾で弾いたが、

正面のアナは身を屈めて避けていた。

よっぽど火が嫌いなのだろうな。


ジャーブはそれを撃ち返した。

ジャーさんのホームランダービーだ。†


流石カウンター型、敵の砲弾までもちゃんとカウンターする。

ピッチャー返しとまでは行かなかったが、

デッドボールしなければ大勝利だ。


3ターン目のサンダーストーム連射でようやくナズが解放された。

まだヴィーはタルタートルを相手にしている。

攻防の差だろう。

ナズは一方的に攻撃できるが、

ヴィーには防御すると言う守りの時間が存在する。


ファイヤーバードがジャーブに強襲するタイミングを狙って、

通過点にアクアウォールを被せてやった。


焼けたフライパンへ水を掛けた時のようなジュワァッと音がして、

それでも怯まずにロックバードはジャーブへ向けて突撃した。


「うぉっ、わ、分かりました!」


何が判ったか知らないが、

ジャーブは突然の戦況の変化を物ともせずにしっかりと受け止め、

ファイヤーバードを弾いた。


オーバードライブを合わせて矢の追撃を・・・。

あれ?奥に飛ばさないの?


ジャーブはウォーターウォールの足元に叩き付けたようだ。

そこへアナとヴィーが駆け寄って、

水壁の中に閉じ込めるべく盾で押さえ付ける。

タルタートルはいなくなっていた。


そしてナズは上昇して逃れようとするファイヤーバードを、

頭の上から槍柄で叩き付けた。


あ、なるほど。

水攻めか。

ようやく自分が解った。


この状態ならばアナは熱く無いらしい。

アクアウォールの中に閉じ込められたファイヤーバードは、

コポコポと水の中で泡を吐き、アナに依ってその動きを停止させた。


緑と青の炎の揺れ動きがゆっくりになる。

ウォール魔法の効果が切れ、ファイヤーバードがあらわになった。

更なる色の変化は無いので麻痺かな?


アナはまだ怒涛の突きを食らわしていた。

麻痺中は熱源化しないようだ。

と言う事なら熱を発すると言うスキルはパッシブであるが、

麻痺したらその動きも止まるのか。


感心しながら眺めていると、

ファイヤーバードの炎は緑と灰色に変わった。


い、嫌な色だなあ。

毒と麻痺、そして石化した状態のファイヤーバードは、

火の鳥と言う威厳は損なわれ、

ただの気持ち悪い2Pカラーに堕ちた。


そもそも中身がダチョウなのだ。

人魚と魚もインチキ同士だったし、この世界の魔物は偽りに溢れている。

駆け寄ってヴィーから剣を借りた。


その前に矢の回収だ。

回収できる矢は1本だけで、

後は根元で折れてしまって抜く事も困難であった。


「お疲れ様でしたっ!」

「申し訳ありません。少し熱く感じたので近寄れませんでした。

 我慢をすれば行けない事もありませんでしたので、

 次はもう少し頑張って見ます」

「ユウキ様の氷と水の魔法はこのボスと相性が良いですね!」

「次はアタイがやってみたぁい」


「あっ、アナ様はどこか火傷をしていませんか?

 お辛いようでしたら手当致します」

「い、いえ、大丈夫のようです。我慢できる熱さだったので」


ナズからオストリッチを手渡された。

これは鍛冶の材料にならないのだとセリーが言っていたっけ。

ならば売って明日の糧へと変える。


ロックバード程には俊敏に動く事も無く、

ちょっと熱い事を我慢すれば普通に戦えそうな魔物であった。

火球に注意と言う事だろう。


アレは本当に燃えていたようなので、食らったら布の服なら燃えそうだ。

ロックバードの石礫にちゃんと対処できる事が要求される。

そういう布石であったのだ。


盾持ちのアナやヴィーには余り関係が無いし、

ジャーブも打ち返せるならば何も問題が無い。

心配なのはナズの方だ。

細身の槍1本で打ち返すのは難しいと思うので、

次回もナズはお供に回って貰おう。


28層へタッチして、もう一戦行うために中間部屋へと戻った。

∽今日のステータス(2022/03/02)


 ・繰越金額 (白金貨30枚・利用券2枚)

     金貨 33枚 銀貨107枚 銅貨248枚


  ガラス器具購入         (13000й)

   手続き手数料           3000


   ガラスシャーレ ×5       2000

   シリンダー、ケージ        4000

   遠心分離機            2000

   丸底フラスコ           1000

   ビーカー    ×2       1000


     金貨- 1枚 銀貨-30枚

  ------------------------

  計  金貨 33枚 銀貨 77枚 銅貨278枚



 ・収得品

   羽毛       ×  1   オストリッチ   ×  1

   鼈甲       ×  1



 ・異世界73日目(朝)

   ナズ・アナ68日目、ジャ62日目、ヴィ55日目、エミ48日目

   パニ41日目、ラテ20日目、イル・クル17日目

   プタン旅亭宿泊3/20日目 シュメ旅亭宿泊3/20日目



 ・ダイダリの迷宮

  26 タルタートル     /  トータルタートル

  27 ロックバード     /  ファイヤーバード

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