§247 仕事
「おはようございますっ!ご主人様!」
元気なナズの声で目が覚める。
今日は優しく揺さぶったりキスでは起こしてくれないらしい。
「ああ、おはよう」
目を擦り伸びをして体を起こすと、
ナズからのタックルで再びベッドに伏した。
押し倒す位なら起きるまで待つなよ・・・。
このところ主従の序列が仕事をしない。
美少女に朝から突撃されるのは嬉しいが、
主人としての立場は悲しい物がある。
キスの猛攻を受けながら横目でアナを見ると、
彼女もまた雀を睨む猫の目であった。
ナズの舌を押し返して顔を退かせると、次はアナの番だ。
ずっと彼女たちのターン。
ナズには勝ったので同じ手法でアナの舌を追いやるが、
彼女は隙を見て侵入をして来る。
彼女の方が戦闘では上手であった。
ナズは一度覚えたら次回同じ手に掛からないし、
明日は自分の2敗が確定する。
ちゅぽんと漫画のような音を立てて解放され、
アナとも言葉の挨拶を交わした。
「お、おはよう・・・」
「はい、おはようございます」
シュメールの旅亭は部屋を取っただけで、湯桶も食事も取っていない。
部屋を取った際に鴨居へ掛けておいた麦穂の壁掛けから、
プタンノラの旅亭に飛んだ。
そういえばこの部屋は女性陣の部屋にしたのだった。
ヴィーが口を開けて腹を出して寝ており、
エミーとイルマは2台をくっ付けたベッドに身を寄せ合って寝ていた。
ラティは・・・この布団で蓑虫になっている塊だろう。
「おーい、朝だぞー。起きろー」
起きても起きなくてもどっちでも良いような、
やる気の無い掛け声で朝の号令を出す。
その声を聴いてエミーが体を起こし、揺さぶってイルマを起こした。
エミーは元々起きていたようだ。
「隣を起こして参ります」
アナが男性陣を起こしに向かう。
ナズは持って来た盥をワゴンに戻し、
散らかっていた荷物を片付け始めた。
これから暫くは毎朝こんな感じか。
よくよく考えてみれば彼らは全員奴隷なのだよな。
懐が広いと言うか緩過ぎと言うか、
我ながら良くこの状況を許したものかと感心する。
せめてラティだけでも起こすか。
布団を捲りあげてラティを叩き起こした。
*
*
*
朝はパンと少量の魚の煮付け。
と言っても和食の味では無くて塩と酢、胡椒での味付けであり、
アクアパッツァのようでもある。
大皿で運ばれ、1人1切れを取り分けた。
サンドラッドで宿泊した旅亭の肉々しい食事より、
こちらの食事の方が断然胃に優しい。
やはりこの旅亭で良かった。
食事が終わり、パニを自室に呼ぶ。
他の連中には版画の木彫りの続きをお願いした。
ヴィーとエミーはその雑用だ。
「パニ、これからサンドラッドの商人ギルドに向かう。
それからアレクスムに立ち寄り、
ジャミルと言う仲買人をこちらの商人ギルドに飛ばす」
「はい、かしこまりました」
「待て待て、話はまだ途中だ」
「はい?」
「お前の移動魔法ではアレクスムから此方へゲートを出せないので、
移動魔法は自分が使用する。
ただしお前が呪文を詠唱して、お前が使った事にするのだ」
「は、はい?そ、それはどういう事でしょう?」
「自分は表向き商人と言う事になっている」
「え・・・?ええと・・・はい」
「商人は移動魔法を出せない」
「そ、そうでございますね」
「だが、お前では2国間を跨ぐような長距離の移動魔法を使用できない」
「そのようです」
「なので、お前が移動魔法を使用したかのように振舞い、
実際には自分が移動魔法を使用する。
そのように偽れ」
「は・・・はい。理解致しました」
「アナも来てくれ。競売所の掲示板を読んで欲しい」
「かしこまりました」
「ナズは買取カウンターで石綿があれば買って来てくれ。
そしてもし石綿が手に入ったら鉄の矢を作成してみて欲しい。
ダメならダメで良い。金と鉄を置いて行くので、宜しく頼む」
「は、はいっ。頑張ります」
アイテムボックスから鉄と金貨を取り出して机に置いた。
「それじゃ行って来る」
「行ってらっしゃいませ」
パニとアナを連れて、サンドラッドの商人ギルドに向かう。
朝ご飯を食べたばかりであるこの位の時間では、
本日の競売品を掲示板に貼り出す前らしい。
人集りも全く無いようだ。
では履歴の方を見ておくか。
落札履歴の貼り出しは2階のオークション会場では無く、
1階の受付の隣に貼り出されている。
と言っても今は受付の人も居らず、来るのが早過ぎた。
「アナ、イマールと言う奴の買い付けを探してくれ」
「かしこまりました」
アナとパニは掲示板に貼り出された大判のパピルスを捲り覗き込む。
「あっ、ありました。前回はビロードの杯、13万ナールですね」
「こちらもありました、金とルビーのネックレス、9万ナールです」
「モンスターカードは無いか?」
「今の所見当たりませんね」
パラパラとパピルスをめくり、23枚目で何かを見付けたようだ。
「ありました、芋虫のモンスターカード、8200ナールです」
8200ナールだとちょっと高過ぎやしないか?
ジャミルは4000ナール程度で落札していた。
国が違えば人気の階層も違うとしたって、
グリーンキャタピラーは雑魚だし、
産出量だって自国と対して変わらないはずだ。
この地域だけが高いのか?
「他の芋虫のカードが幾らで取引されているか見てくれ」
「それでしたら、一昨日のこれでしょうか。4200ナールです」
「その前は?」
「4800ナールですかね。その1日前になります」
「明らかに高値ですね」
「そうだな、イマールが買い取る前の出品はあるか?」
「2日前ですが、3800ナールで・・・あっ」
「どうした?パニ」
「3800ナールの落札者が、
イマールさんが落札した際の出品者になっています」
「えっ?」
「ここなのですが、同じ名前です」
ここ、と言われても読めないが、同じ記号の羅列である事は理解できた。
3800ナールで落札した者が高値で出品して、
それをイマールが落札したのか。
完全に談合じゃないか。
「ウサギとコボルトのカードの直近の出品はあるか?」
「はい、お調べします」
一旦パピルスの束を戻し、直近の取引から2人が調べて行く。
「ありました。5日前ですが、ウサギのカードが5400ナールです」
「コボルトはほぼ毎日出品があるようです。
最後の出品は昨日の10時20分ですね」
ええと異世界時計では1.5倍するから15時半頃か。
要するに昨日の夕方だな。
セットで寄越せとは注文を付けていないので、
10日経ってもコボルトすら落札していないのはやはりおかしい。
金額も指定していないので、
付けようと思えば青天井で値を付けれるはずなのに、だ。
「あっ!」
またパニが何かに気が付いたようだ。
「本当ですね」
本当なのかどうなのか、アナと2人で納得しないで頂きたい。
主人に話を共有して欲しい。
「何が本当なのか説明してくれないと困るのだが」
「もっ、申し訳ありません。
ウサギのカードの落札者と、
先日10時20分に落札されたコボルトのカードの落札者が、
前回高値でイマールが落札した際の出品者と同じです」
もうどう考えたってグルじゃないか。
自分が手を引こうとしたため、慌ててコボルトを買い付けたのだろう。
本来ならもっと安い時を狙って、最大限吹っ掛けて出す予定だった訳だ。
イマールと言う奴を完全に理解した。
そうこうしていると、数名が2階のオークション会場に上がって行った。
紙を持っていたので今日の貼り出しだろう。
早速見させて貰おうか。
今の所イマールらしき人影は見ていない。
こちらが偵察に来ている事は知られたくないのでさっと見たら帰ろう。
「アナ、今日の出品情報の中からウサギとコボルトを探して来てくれ」
「かしこまりました」
自分達は目立たない位置でアナの帰りを待った。
パーティを組んでいるので、どこで待っていようが直ぐに発見できる。
こういう所はパーティを組むと便利だ。
パーティチャット機能の未実装が本当に惜しまれる。
そして直ぐにアナは戻って来た。
この場で長話も何なのでイマールがいない事を確認し、
商人ギルドの壁掛けからアレクスムの商人ギルドへ飛んだ。
大丈夫、ワープでなければこの距離の3人はギリギリ平気だ。
MP回復速度20倍をセットした。
「やはり、出品者は前回と同様に初値を高値で出品している者でした」
「イマールと共謀している奴だろうな」
「そのようです」
「何故そんな事をするのでしょうか?
これほどまで解かり易い方法で値段を釣り上げて来るのは、
客を裏切る行為です」
「ジャミルから聞いた話で受け売りなのだが、
モンスターカードの注文は大体が1回限りで次に繋がらないらしい。
カードを欲する者は貧乏探索者上がりで、金がある者は完成品を買う。
或いはカードを何度も購入するのは、
背後に鍛冶師のドワーフを抱える有力者だ。
モンスターカードを単体で買い付ける者は両極端なのだ」
「そうなのですね?」
「自分のように若くて値段も決めずに注文した客は、
2度目の注文は無いので大事にしてもしょうがない、
毟れるだけ毟ろうと言う事なのだろう」
「ひ、酷過ぎます!」
「いや、自分が無警戒に信用し切って注文してしまった事も悪いのだ。
相手に付け入る隙を与えてしまったのでな。
それでアナ、出品時刻は見て来たか?」
「はい、2つのモンスターカードが続けざまに7時半と7時45分ですね」
ん・・・、未だに慣れない。
半だとこの世界の場合40分か。
いや待て、7.5時だから1.5倍して11時半よりは前か。
変換表が欲しい。
いや、時刻計算も含めてブラヒム語に翻訳して欲しい。
gも自動的に変換して貰えないだろうか。
とまあ、そんな事をグダグダ言ってもしょうがない。
文化の違いまでは翻訳できないのだ。
このままジャミルへ報告しに行こう。
イマールのやり口に付いては杜撰過ぎて解明できてしまったし、
わざわざジャミルに来て貰わなくても良いかもしれない。
既に紅のナンタラ亭は引き払ってしまっているのだし、
吹っ掛けようにもホドワまで来たりしないだろう。
プタンノラにいると言う情報は誰にも明かしていないのだし、放置で良い。
精々高値で買った2枚のカードを在庫として抱えてくれ。
まだ日も低く朝日も眩しい中、アレクスムの商人ギルド建屋に向かった。
トルキナとは時差に依って1時間以上ずれている。
サンドラッドよりは遅めの時刻になるはずだが、
こちらの商人ギルドでは受付もまだいないし、
今日の出品情報の貼り出しも無いようだ。
規模の大きさからだろうか?
目に入るのは床を箒で履き、開場前の準備をしている清掃員の姿であった。
早過ぎたんだッ!†
「アナはジャミルと会った事があったっけ?」
「はい、覚えております」
「パニは・・・無いよな」
「はい、お会いした事はございませんね」
「じゃあ、アナとパニはここでジャミルを待っていてくれ」
「かしこまりました、ご主人様はどちらへ」
「ちょっと家を見て来る」
「では、お待ちしております」
見て来ると言っても、それは本当にチラッと見て来るだけだ。
まだ大工だって集まっていない位早い時間だろうし、
どうなっているのか聞いたりはできない。
ゲートを隣家の壁に出して移動した。
フィールドウォークで移動できたので、
隣家の壁はただの壁であった。
これまで何度かワープで利用させて貰った事はあったが、
ここに出しても何も問題が無いのであれば有効活用させて頂こう。
・・・まあ、そりゃ一般民家だしな。
内部で外から見える位置には遮蔽セメントが施工されているだろうが、
外壁や窓などが無い室内には施工しないだろう。
金の無駄だし。
3日前は2階部分と外壁の一部が出来上がっていたが、
今日見た自宅は天井までが組み上げられていた。
未だに庭からは内部の様子が全て筒抜けで見える。
この状態を覚えられていたら、
いつでもフィールドウォークで入って来られてしまうのでは無いか?
内装をする前に壁を閉じるのかな?
しかし、それでは資材を家の中に居れるのは面倒だしな・・・。
その辺りは考えているはずだ。
相手はプロだし、口は挟まず任せておこう。
ざっと見た感じ、外壁と天井が出来上がっただけで、
中は骨組みがまだ剥き出しであるし、これでは間取りは掴めない。
やっぱり早過ぎたんだ。
もう5日位経たなければ全貌は測れないだろう。
残念だが今日はこれで撤収だ。
とは言え自宅の建築具合を見ただけで大した時間も経っていない。
アレクスムに戻ってもまだ誰もいないだろう。
まだ後1時間位は時間を潰す必要がある。
迷宮へ向かうのは準備もあるし、ぴったり1時間を知る事は難しい。
ではラティ達がどうなったかを見に行くか。
木彫りを進めているはずだ。
隣家の壁にゲートを出して旅亭へ戻った。
──ヴォン
「おかえりなさいませ」
自分が移動すると同時にイルマが駆け寄って来てお辞儀をする。
律儀な奴だなあ。
本来はこれで正しいと思うが、ラティやヴィーなんか大概である。
「みんなは?」
「隣のお部屋でしょうか」
「まだナズは帰ってないか」
「そうですね、探索者ギルドに向かわれたのだと思いますが、
まだ戻られておりません」
そういえば食事後直ぐだし、まだ開いていなかったかな?
と言うか、そもそもこの街の探索者ギルドの場所すら知らなかった。
聞いて回ってから行くのだとするとそりゃ時間掛かるか。
「そうか。まあイルマはする事が無いだろうし、ゆっくりしてくれ」
「あ、あの・・・私も何か仕事をしなくて宜しいのでしょうか」
「うーん・・・仕事熱心なのは良い事だが、
この場でイルマは何ができると思う?」
「ええと、掃除とか・・・」
「旅亭だし、する必要は無いだろう。自分達が散らかしたゴミを拾う位だ」
「お買い物があれば承ります」
「この場で欲しい物なんて無いな。食材も今買ったら悪くなるだろうし」
「私にも図面の写しや木彫りをさせて下さいませんでしょうか」
「精巧な図面を写すにはある程度の器用さが必要になる。
あれはラティでなければ無理だ。
木彫りも、専用のナイフが2組しか無くってな。
木屑はエミーに掃除させるように言ったし、
木版を拭き取る布が汚れたらヴィーに洗うように言ってしまった」
「私は・・・私ではご主人様のお役に立つ事ができませんか・・・」
イルマにもイルマの矜持がある。
迷宮でも僧侶と言う安全なポジションに就けた。
イルマが僧侶の仕事を全うしたと感じるような経験は、
マザーリザードで戦線が崩壊した時だけだっただろう。
あんな事は本来起きてはならないのだ。
イルマはバックアップであり、彼女が沢山働く状態になるべきでは無い。
つまり、イルマはずっと迷宮では暇を持て余す事になる。
迷宮を知る物であれば、それがどれだけ心強いかは理解できるはずだ。
しかしイルマは迷宮の条理に疎く、
僧侶と言う立ち位置を理解できずにいる。
魔法使いは取らせてみたものの、
やってもやらなくても大差無い事をさせるには抵抗がある。
イルマの性格上意味の無い事を持て囃して褒めたりしたら、
彼女との信頼関係は回復不可能な状態に陥るだろう。
イルマにイルマらしい仕事をさせるには、
やはり家が完成しないとどうにもならない。
畑の手入れはジャーブがやっていたが、
イルマとジャーブでやってくれれば良いとは思っていた。
少し育てるのが難しい野菜などにも挑戦したい。
折角水が自由なので、沢山水が必要になる野菜や果物だって行けるはずだ。
「イルマ、我々は今自宅の改修中だ」
「はい・・・存じております」
「あの家には畑があったが、折角なので次は野菜や果物を育ててみたい」
「野菜ですか」
「ジャーブは元々果樹園の出身らしくてな。
イルマも植物の世話には一家言ありそうだから、
2人で畑を盛り上げてくれれば良いなと思っている」
「は、はい・・・」
「それまではお前に頼めそうな事が無いんだ。
あの通りお屋敷と言う広さでも無いから、
掃除もエミー1人で何とかなってしまう。
クルアチも加わる事だしな」
「は・・・はい」
「お前の仕事は僧侶として迷宮で活躍する事、
自宅の畑の世話を手伝う事、この2つだ」
「はい・・・」
「このうち、僧侶は活躍しない事が望まれる。
迷宮で沢山ダメージを受けると言う事は、命が危ういと言う事だ。
イルマの回復動作が遅れたり、魔力が尽きたらそこで全員死ぬのだ。
そんな事をさせる訳には行かない。
何度も言ったと思うが、お前は活躍しない事が望まれる。
ただし、もしもと言う時の為に僧侶がいる事はとても大事だ」
「そ、それは・・・そうなのですが」
「ヴィーなんて最初は皿洗いと朝の水汲みだけだったぞ」
「はぁ・・・」
「そうだ、ここに居ても暇だと言うのであれば、修行してみるか?」
「修行・・・でございますか?」
「ああ、僧侶の手当てよりも優れた全体手当てと言うスキルがある。
これは神官と言うジョブで使えるようになるが、
それには精神修行が必要だ」
「ええっと、教会の神官様でしょうか」
「そうだ、お前も修行してみるか?」
「話に依りますと、神官の修行は10日間の断食だと聞いた事があります。
頑張らせて頂きます」
「いやいや、10日も掛けさせる訳には行かない。
もっと手っ取り早く行える方法がある」
「えっ?そっ、そうなのですかっ?」
「では一緒に来い」
「かしこまりました」
ランタンを手に、隣の部屋でヴィーに火を点けさせ浸食洞へ向かう。
台座にランタンをセットし、イルマを石台に正座させた。
「ここは以前船から海水を捨てられた際に来られた洞窟ですね」
「そうだ、覚えていたか。ここは神官の修行を行うための禅道場だった。
今は使われていないが、昔はここで修行を行っていたらしい」
「そうなのですか・・・ここで」
「波の音が反響して奇妙な音を立てているのが判るだろう?」
「はい、とても・・・不快な音です」
「この中で精神を集中し、波の喧騒や心の窮地を抜け出して、
この洞窟と、波と、海と、石の台と、全てと1つになれ」
「ええと、仰っておられる事が私では理解できません」
「波の音や肌寒さに負けず、気持ちを落ち着かせて集中してみろ」
「は、はい・・・」
「ではこのままお前を置いて行く。
昼には迎えに来るので、色々考えながらやってみろ。
何も考えないよう心を無にする事も正解だし、
考えた結果結論を見付ける事も正解だ」
「か・・・かしこまりました。難しそうですが、やってみます」
「ではな」
ゲートを開き、再び旅亭に戻る。
磯の香りは相変わらずで、そういえばこの町は浜辺にあるのだった。
先程ランタンへ火をお願いした際にチラッとは見たが、
ジャーブもラティも真剣に木版を進めているようであった。
「どうだ?」
「はい、俺の方は何とか失敗をせずに1枚彫れました。
今はダイダリの3層を彫っています」
「わっ、私はダイダリの5層を彫っていますっ。
ジャーブさんと相談してっ、1層と2層、3層と4層を、
うっ、裏表にしょうと言う事にな、なりましてっ」
「おお、それは考えたな。偉いぞラティ」
椅子に座るラティの背後へ回り、ラティを何度か撫でた。
「あっあっ、あっ、ありがとう、ございますぅ・・・」
と言う事は1層と2層の板ができている訳だ。
早速版画にしてみたいが、
そういえばローラーもバランもインク伸ばしも無い訳だ。
作らせるしかない。
仕方無い、またウッツだ。
粘着テープで巻かれた掃除道具、通称コロコロを思い出しながら描く。
「了」の字の金属製の構造物に、中心がくり抜かれた丸い木の棒。
それに木綿をぐるっと巻いてニカワで圧着して貰う。
これを2つ程作って貰おうか。
それからインクを伸ばすトレイだ。
これも2つ。
パピルスを板と固定する伸ばし台と、馬簾も描いた。
確か図画工作の時間で使った馬簾は笹の葉で巻かれていたが、
そんな物は存在しない、いやこちらの国では自生していなさそうだ。
ここは革製品で発注すべきだろう。
木の板を丸く平べったい状態にした物を、
鞣した皮で包んで取っ手を付けた物を描いてみた。
文字はエミーに頼んで入れて貰う。
一番暇そうであったので。
うん、どう見ても版画セットだ。
「おー、何だコレ。スゲー!」
「・・・やはりユウキ様は絵がとてもお上手ですね」
「うん?そうか?まあ、昔から描いていたからな。
しかし絵が上手いよりもラティのように空間を認識して、
道具も無く綺麗な線を引ける方がもっと凄いと思うぞ、自分は」
ジャーブと2人でラティを見る。
「えっ、わ私ですかッ、私なんて全然、ぜんっぜんっ、凄くないですっ!」
「ラティ、立て」
「は、はいぃぃ・・・」
作業中の手を止めて、ラティを強制的に立たせた。
叱られるのかと、ビクビクしながら挙動不審になっている。
ラティを正面から抱き締め、そして頭を撫でた。
「お前は凄い。良くやってくれている。これからも頼むぞ」
「えっ、あ、あ、あ、あ、あのっ・・・ズビッ」
また鼻水だらけにされても敵わないので、
ラティの涙腺が崩壊する前に退避した。
「じゃあどんどん進めてくれ」
「かしこまりました」
「がじご・・まぢ・・・まじだぁぁ・・・うぇぇぇぇ・・・」
エミーが絞った手拭いを差し出す。
ヴィーも手拭いを差し出そうとしていたが、
それは拭ったインクで真っ黒だ。
ラティの顔が煤だらけになってしまうぞ。
一旦自宅へ立ち寄りウッツに渡せれば良いかと思ったが、
まだ彼らは集まって来ていないようであった。
仕方無く新築の壁の隙間にパピルスを挟んで置いた。
目に付く場所へ道具が描かれたパピルスが挟んであったのならば、
自分からの依頼だと解ってくれる事だろう。
アレクスムの商人ギルドに向かい、アナとパニを探した。
∽今日の戯言(2022/02/26)
散々指摘されて来た空きスロット3の皮の鎧を空きスロット2へ修正。
それにしても大分初期の頃のお話なので整合性が取れておりませんでした。
これでも原作の初期設定の中であれば、
皮の鎧の空きスロット2は在り得ない事になりますが、
激レアでもう1つ付く事もあるって事で、お願いします。
結城君が悩んで残す事にした希少性が必要です。
元々盗賊たちは革の鎧で統一されるはずでしので、
その名残が色々残っており、その後のステータス欄では、
ユウキ君が装備している皮の鎧が革の鎧に所々なっていました。
一応見た感じ修正したのですが、
革の鎧或いは空きスロット3になっていたらご指摘いただけると有難いです。
もっとも60話前後で装備を更新しているので、
もうこの付近では登場しませんが。
では、何故そうなったかと言うと、三角形です。
あの話はかなり重要な世界観の説明がある上に、
ユウキ君が新たな目標を持つ大事な話であるため、重傷を負う必要がありました。
が、革の鎧でミノごときに大ダメージ・・・と言う事で遡って皮になりました。
他にも整合性が取れていない箇所があるかもしれませんが、
見付け次第指摘いただければと思います。
・異世界72日目(朝)
ナズ・アナ67日目、ジャ61日目、ヴィ54日目、エミ47日目
パニ40日目、ラテ19日目、イル・クル16日目
プタン旅亭宿泊2/20日目 シュメ旅亭宿泊2/20日目




