§240 自爆
ダイダリ26層のボスはトータルタートルである。
既にトラッサで戦った事があるし対処法は皆解っているはずだ。
解かっていても午前中のマザーリザードのように、
アクシデント1つでパーティがばらけたり戦線が崩壊する事もある。
そういえばトータルタートルは連戦を熟したが、
マザーリザードは一度しか戦った事が無かった。
それがいけなかったのかな。
「不安な事があるなら今言ってくれ」
「大丈夫です」「無いと思います」
「俺は回転攻撃を受けきれないのでお供に行きます」
「アタイはへーきっ!」「わっ、私はどうすれば」
「イルマはいつも通り、手当てを準備して戦況を見て判断だ」
「は、はいっ」
「よし、では行くぞ!」
「「「「「はいっ」」」」」
ラティはパニに催促されて中間部屋へ戻って行った。
自分で気付いて行って欲しいなあ・・・・。
この流れは3回か4回位経験していたはずなんだけど。
ちゃんと指示しないと駄目なんだろうな、イルマもラティも。
頭脳労働者と単純労働者の違いか。
ボスの待機部屋から中心ラインを越えると認知されて石の扉が開く。
誰も到達していないはずのボス部屋。
全員が駆け出し、そして煙が巻かれる。
お供はタルタートル2匹、左がジャーブで右はナズだ。
どちらも1人で抑えられる。
ジャーブの剣には詠唱中断を付けていないのが残念だ。
あの剣にはもうスキルを付けられない。
サブで詠唱中断のナイフでも持たせるか?
どうせスキルを使用する際は魔物も一旦停止するのだから、
武器を持ち替える時間はあるだろう。
オーバードライブを掛けてダートストームを2連射、
続いてガンマ線バーストを唱える前に弓でトータルタートルを狙う。
2本撃ちを2射。
3射狙うとオーバードライブの時間切れになるので、
その前にガンマ線バースト。
できるだけ時間内に3射目を狙うが間に合わない。
2回分の矢4本が飛んで行き、追い掛けるように3射目が放たれる。
ガンマ線バーストの時点でお供が消滅し、トータルタートルだけが残った。
この時点で勝ちが確定した。
やはりボーナス魔法を織り交ぜて戦える事は大きなアドバンテージである。
3対1になりヴィーが正面、左右からアナ、ジャーブが囲う。
ナズは囲いに参加せず、槍の射程3倍の距離を取って様子を窺っている。
また何かやるつもりだ。
どうせ自分はする事が無いのでじっくり見させて貰おう。
トータルタートルの首が持ち上がった。
回転の準備だろう。
ジャーブが回転を受けても当たらない程度まで離れて剣を構え、
尻尾の撃退準備に入った。
アナとヴィーは互いに近付いて盾を構える。
どちらから回転が来ても受け止められるように背を合わせてぴったりだ。
これならアナが直撃を受けてもヴィーの背中で止めて貰える。
──ドタ、ドタ、ドタ、ドタ・・・
来た、回転撃だ。
トータルタートルの足捌きが迷宮の床を打ち付け、鈍い音が響く。
回転の方向は反時計回り、ヴィーが直撃を受ける形だがびくともしない。
尻尾の攻撃はジャーブが計ったタイミングで撫で斬った。
ナズが勢いを付けて駆け寄る。
何やってんだ、今向かったら巻き込まれるぞ!
援護が必要かもしれない。
オーバードライブを掛けて様子を見る。
回転する勢いが衰えないトータルタートルに向かって駆け出したナズは、
攻撃が当たらないラインギリギリで槍を床に突き立てて跳ねた。
高跳びだ。
鋼鉄でできた槍の柄が撓り、
以前ミノの突進を避けた際見せたポールダンサーのように宙を舞った。
その着地先は・・・トータルタートルの甲羅の上である。
着地しながらそのまま下突きをしてダメージも稼ぐ。
振り落とされないよう背中の凹凸にしがみ付いた。
トータルタートルの回転が止まる。
直ぐにジャーブとアナは再び側面に、ヴィーが前を押し込んで行く。
あっけに取られてしまってずっと見ていただけだったが、
自分もさっきのタイミングで魔法を使うべきだったと後悔した。
再びオーバードライブしてダートストームを2回、
弓も入れてガンマ線バースト、苦しくなって来た。
集中せず弓を適当に射って、トータルタートルのどこかしらに当てる。
先程のオーバードライブ無駄撃ち分が尾を引いてしまったようだ。
意外とMP消費量が多い。
ガンマ線バーストと一緒に使う際には要注意である。
ナズは甲羅の上でガンガン突きを入れる。
詠唱キャンセルがどんどん入るので魔法を撃って来る事はもう無いだろう。
それにトータルタートルは背中を気にして長い首を持ち上げるが、
流石に自分の甲羅の上までは届かないようだ。
ナズは無敵の人になった。
振り落とされなければ、の話である。
以前自分がハチノスの上に乗って戦ったような事を、
ナズもやって退けたのだ。
オーバースキル無しで。
そしてやはり・・・と言うか当然の事ながら、
上に乗ったナズを振り払おうとして第2の回転撃の構えを見せる。
首を振り被った所でナズがその首を突いて邪魔をし、
回転撃は不発に終わった。
アレを抑え込んだのだ。
離れていたジャーブ達が再び一斉に駆け寄って攻撃を再開する。
トータルタートルは彼らを薙ぎ払いたかったのか、
首を持ち上げて振ろうとした際にそのまま動かなくなった。
「麻痺ですッ!」
アナから報告が入るとジャーブは構えを解いて縦斬りを乱発、
ヴィーはしっかり構えていた盾を放り投げて滅多打ちを始めた。
ナズは甲羅の上でピョンピョン跳ねている。
文字通り袋叩きだ。
ナズもただ下突きするだけでなく、渾身の力を込めて突く事にしたようだ。
全体重、装備の重量も合わせているのだろう。
そういえば、ダメージは重力加速度も含めて合算されるのだろうか?
接触だけでダメージ判定があると思っていたが、
ある程度は鈍撃ダメージとして考慮されるのかもしれない。
自分も吹き飛ばされて壁に打ち付けられた際は痛みを伴った。
接触時点で基礎ダメージと、追加で本来の威力ダメージが入るのだろうか。
勿論検証ができないので全ては想像の範疇であるが。
ナズに負けてはいられない。
自分もかなり近付いてオーバードライブ、ダートストーム3射、
そしてガンマ線バーストで更に2射。
至近距離なら集中して狙う必要は無く、気持ち良い位に弓の3射目が入る。
そしてする事が無くなって皆の様子を見守った。
まだ後1ターン分はこのままだ、素晴らしい。
・・・まだかな。
イルマも自分の横に駆け寄って来た。
「な、何だか皆さん本当に凄いのですね・・・」
「お前の仲間たちは皆優秀なんだ。自分もびっくりしている」
「そっ、そうなのですか。私も負けぬよう頑張ります」
「何度も言うが、お前は保険なのだ。
お前が頑張らなければならなくなる事態なら撤退する」
「そ、それはそうなのですが・・・。
私も何か攻撃と言いますか、お役に立ちたいのです」
「うーん、しかしお前に剣は不向きだろう?元々の筋肉量が足りない。
近接となると重たい鎧も必要だ」
「ご主人様のように魔法を使う事はできないのでしょうか?」
「魔法は生後直ぐに洗礼を受ける必要があるのだ」
「洗礼ですか・・・」
そういえば自爆玉をどうやって入手したら良いか判らなかったが、
ボルドレックが決闘の際に持ち出して来て、所持奴隷たちに飲ませていた。
その1つはイルマが飲まされそうになって、正常な状態で回収ができた。
1つが今手元にある訳だ。
話に拠れば過去の決闘に於いて突然死した対戦相手はいたものの、
ボルドレック側の人間が死んだような事は無かったのだとか。
ロクサーヌがドリルお嬢様に因縁を付けられた際にも、
彼女は身代わりのミサンガを巻かれた上で予め自爆玉を飲まされていた。
どうやら身代わりのミサンガを用いれば自爆でも死なないようだし、
イルマにやらせてみるのはどうだ?
幸いな事に、その1つをイルマが持ち込んで来た。
「このような方法で魔法使いを得る事は無理なのでは?」
と原作者が述べていたが、あの物語の中でハッキリ否定された訳では無い。
ミチオ君が実際に試した訳でも無い。
4万ナールもする身代わりのミサンガと、
入手困難な自爆玉を用いなければ実験ができない上に、
万が一使用を迫られるとするならばそれは一般人か盗賊相手だ。
戦えば普通に勝てる魔物相手にそんな無駄遣いなど、普通なら有り得無い。
対人では取得が無理、そう言う意味だったのかもしれない。
人を殺した場合、そもそも盗賊チェックが先に入るだろう。
対象が殺害しても良い対象でなければ、
魔法使いを取れる判定が無いと解釈できる。
それに殺したい程憎たらしい相手が居たとして、
自爆玉を入手できるような貴族が自ら手を汚すかと言う話だ。
常識的に考えれば、やるのは使用人や奴隷だ。
仕事をさせた後、その使用人や奴隷を魔法使いギルドに連れて行くか?
身代わりのミサンガすら巻かせないだろう、普通。
借金等をさせ家族を人質に取って追い込み、無理やり使用させるだけだ。
逆にドリルお嬢様のような者が決闘人として立った場合、
幼少期に洗礼は済ませてあるのが一般的だ。
試してみるまでも無く、取得出来ている。
守りたい程重要な使用人ならば、もう既に要職で働いている。
わざわざ魔法使いにして1から育て直しなんて面倒な真似はしない。
行ける可能性は高い。
駄目であっても自分の損害は自爆玉と身代わりのミサンガ1つだけで、
イルマを失う事は無い。
そもそも論自爆玉だって自分の物では無かったのだし。
「イルマ、眼帯を外せ」
「は、はい」
イルマから眼帯を受け取り、替わりにミサンガを巻いた。
「このミサンガは一撃死の状態を一度だけ防いでくれる」
「はい、え・・・?あの、ええっと、以前にも巻いて頂けましたが、
そのような貴重な物を頂いても宜しいのでしょうか?」
「今からお前には死んで貰う」
「えっ、あの、ちょっとそれは──」
「大丈夫、防ぐらしいから。
お前の先輩奴隷たちは自爆玉を使って自分を殺そうとして来た。
しかし、自爆しても身代わりのミサンガがあれば死なずに済む」
のかどうなのかハッキリと確証はできないが、
ロクサーヌと決闘をしたドリルも、
バラブダも、ボルドレックの妾だった女も、
自爆玉を持つ者は皆身代わりのミサンガを巻かされていた。
そういう運用法があるのだ、大金持ちの間では。
「イルマ、以前お前から預かった自爆玉だ。飲み込んで自爆攻撃と唱えろ。
そうしたらお前は魔法使いとして働ける」
「え、ええと・・・」
イルマが焦る。
気持ちはよく解る。
イルマが捨て駒とされないよう散々飲むなと注意を促した自爆玉を、
今ここで飲めと言うのだ。
「身代わりのミサンガのお陰で死ぬ事は無いはずだ。
お前は助かり相手が死ぬ、それだけだ」
「は、はい・・・あの・・・」
「心配な気持ちは解かる。
大人が魔法使いになるにはこれしかないのだ、自分もそうした」
正確にはちょっと違うが、似たようなものだ。
MP全部とHPを少し削って自己犠牲を天秤に掛けた。
対処法としてアイテムを消費しなければならない所だけが似ている。
「苦労して手に入れたイルマを、
簡単に倒せるボス相手で使い捨てる意味は無い。
自分を信じてやってみてくれ」
「は・・・はい、あの、、や、やはりこっ、怖いので・・・その・・・」
「遠慮せず言ってみろ」
「あ、あの、わっ、私をさ、支えて頂けませんでしょうかっ、
もっ、申し訳ありません」
イルマも女の子だ。
不安な気持ちを抑えるために傍に居て欲しいと言う事だろう。
耳の付け根あたりを乱暴に撫でてやって自爆玉を飲み込ませ、
イルマを後ろから抱いた。
「やれ」
「じっ、自爆攻撃っ!」
──プッ
イルマの腕に巻いたミサンガから派手に千切れる音がして、
それはハラリと床に落ちた。
ただでさえ巨大なトータルタートルが、
ポコポコと沸騰したように表面は歪な浮腫で盛り上がり、
異変を感じたナズが飛び降りた。
トータルタートルの硬い甲羅に浮腫が集まり、それが爆ぜる。
腕から顔から尻尾から、最後には腹の底からはじけ飛び、
最後にボゴッと大きな音がして、その破片は四方八方へ飛び散って煙に消えた。
人が爆ぜれば血が残ったが、魔物は煙に巻かれて消えてしまう。
破片も途中で煙になったので、撞かって来る事は無かった。
そしてイルマの取得ジョブ欄には・・・、
魔法使いが書き込まれていた。
「ごごごご、ご主人様!今のは!」
ナズが慌てて駆け寄って来る。
アナは冷静だ。
自分達が何をしようとしていたか、先程チラチラとこちらを見ていた。
ジャーブは尻もちをついていた。
腰が抜けているようだ。
ヴィーは盾を構えて恐る恐る煙となって消えた向こうを覗き込んでいた。
「みんな集まってくれ」
「はい」「かしこまりました」
「お、俺はあの・・・」「はーい」
ジャーブは這って来た。
「今のはイルマが使用した自爆玉だ」
「自ばっ・・・!」「やはりそうでしたか」
「えええ!?ぶ、無事なんでしょうか」「おぉっ、スゲー!」
「本来は使用者が死ぬ事になるが、それを身代わりのミサンガで防いだ。
お前たちも一応持ってるからな?1撃で死ぬ事は無いだろう。
イルマは・・・魔法使いの資格を得た」
「先程の攻撃は魔法なのですか?」
「いや、あれは魔法使いになる為の儀式だ。
本来は幼少期に行うものだが、大人がすると使用者は死んでしまう。
今回、それを強引に回避した」
「そ、そうなのですね・・・」
「以前ご主人様もなさいましたよね?」
「ええっ?そうだったんですか!?」「おー、スゲー!」
ま、まあ使用したのはジャーブが瀕死だった時だからな。
まともに戦闘に参加して目撃したのはアナだけだったし。
ナズは人質に取られたり探索者を押さえ付けたりして、
それどころじゃない状態だったはずだ。
「ともかく、イルマは魔法使いになる条件を満たした。
だが魔法使いとして戦うのはもう少し後だ」
「そうなのですか」「そうなのですね」「どうしてですか?」「スゲー!」
ヴィーはさっきからスゲーしか言ってない。
今の話の何が凄いのか意味が解らない。
・・・まあ良いや。
「イルマは何度も皆の窮地を救っている。
何かあった時の為に回復は必要だ。
いつでも魔法使いとして戦えるよう準備をしたに過ぎない」
「はい」「そうですね、回復をして頂いた方が現状では助かります」
「なるほど、そういう事ですか」「姉ねーちゃんいつもアリガトー!」
「今後自分がいない状態で、
地図を作成するために低階層での探索を頼む事があると思うから、
その際は魔法を使って貰っても良いと思う」
「そうですね」「それは適任でしょう」
「あ、あの、宜しくお願いします。
これでようやくお役に立てそうで嬉しいです」
「今でも十分役に立っていますよ、イルマさん」
「イルマには助けられています。これからもお願いします」
「さあ、27層に行こう。ジャーブは落ち着いたか?」
「は、はい。もう大丈夫です」
***
27層へ進み、エントランスから見える光景をラティに描かせる。
その間、アナへ気になっていた事を尋ねてみた。
「アナ、この階層では人の気配はするか?」
「ええと、何かが素早く動いている様子は判るのですが、
人間では無く魔物のようです。
お互いに擦れ違ってもそのまま通り抜けて行きますね」
素早くか。
飛行系の魔物ならばそうなのだろう。
可能性があるのはドライブドラゴン、ケープカープ、ロックバード。
低層最強らしいドライブドラゴンがもっと後ろに出て来るのは嫌なので、
できればドライブドラゴンが良い。
ロックバードなら羽毛が出るはずだ。
ミチオ君達は集めて布団にしていた。
自分が知るミチオ君の冒険譚ではそこで終わっていた。
今頃は羽毛布団の1つができただろうか。
作っていたのは枕だったかな?
相当数倒してもまだまだ足りなかったようなので、
超大金持ちでなければ購入は難しいのだろう。
自分は・・・羽毛を矢に変えた。
それもそろそろ、在庫が減って来た。
ここで補充ができるなら狙っても良い。
ここまで潜らなければ補充ができないのだから、
弓が迷宮で使われない理由も頷ける。
迷宮で補充するには鍛冶師のドワーフが必須であるし、
そもそも鍛冶師のドワーフと言うのがもうレアな存在だ。
この世界の創造神は絶対設定を間違えた。
しかし、こちらの国でなら石綿とやらが手に入るかもしれない。
鉄の矢を作ってみようか。
「ちょっと早いが切り上げよう。
ラティは外に出たら26層の攻略報告をして金を受け取れ」
「えっ、あっ、は、はいっ。こっ、攻略報告なんて初めてですっ」
見える範囲を描き終えたラティがワタワタしながら返事をした。
自分だって初めてだ。
だがそういう面倒臭そうなのはラティに任せる。
そういう雑用をするのが君たちの役目じゃないか。
「じゃ、自分たちは先に帰ろう」
「「はいっ」」「お疲れ様でした!」「パニまた後でねー」
「かしこまりました、ヴィー様」
部屋に戻ると、テーブルの上には巨大な布に覆われた何かが鎮座していた。
「おかえりなさいませ」
そしてエミーがお辞儀して出迎える。
「おお、今日ははっきり聞こえる。良い子だ」
エミーを撫でてやって、ついでにこの謎の物体に付いて聞いた。
「それで、これは何だ?」
「はい、たの・・・した、シン・・・ゼィルです」
「え?もう一回」
「シ・・・ンハゼィルです」
肝心な所がやっぱりよく聞こえないが、
エミーが買って来た物で間違いないようだ。
その布の包みを開いてみるとそれは生ハム原木であった。
「おお、買って来たのか。幾らだった?」
「ななせ・・・・・・ひや・・・でした」
「聞こえないんだ、もう少し大きく言ってくれ」
「7200ナールでした」
「ななせっ!」
おおお、結構するな。
「これが7000ナールですか!」「物凄い物を私達は頂いたのですね」
「まともな武器が1つ買えますね・・・」
そうは言っても、これ1つで大分食べられる。
9人が散々お代わりをしても5センチ位しか減らなかった。
これは優に70センチ位の厚みがあるので、
不可食部分を除いたとしても、
最低20回位は満足できる程食べられるのでは無いだろうか。
7200÷20、それを更に9人分で割れば、1食あたり約50ナールだ。
満足するだけ食べてそれなのだから、無茶苦茶高いと言う程では無い。
・・・10ナールのパン1つで食事が終わる世界なのだから、
5倍も出せば高いのだろうが、そこは考えない事としよう。
生ハムサラダ程度の量であれば10ナール程度だ、多分。
「そ、そうか。
それにしても良くこんな大きい物を1人で運んで来たな、偉いぞ」
エミーを褒めてやって部屋の片隅に片付けさせた。
流石に今日買って今直ぐ食べる訳では無い。
こういう燻製肉は日持ちがするし、
明日以降安い旅亭に行くのだからそこで物足りなかったら食べれば良い。
今日はこの高級旅亭で最後の夕食になる。
昼食には元の食事に戻してと伝えていた。
どんな料理で締め括るのかは楽しみであった。
遅れてラティ達が戻って来て銀貨27枚を受け取った。
エミーから受け取った釣銭も合わせてパニに渡した。
「パニ、今後は皆の小遣いを管理してくれ。
休日、買い物がしたい場合はそこから皆に配るように」
「かしこまりました」
全員の装備をラティが預かった辺りで、給仕が夕食を持って来た。
各テーブルにはソースが掛かったステーキが並べられ、
温かなシチューが配られた。
テーブルの真ん中にはサラダの大きなボウルが置かれて、
自由に取るスタイルらしい。
その皿には生ハムが、花のように綺麗に添えられていた。
向こうのテーブルに運ばれた際にはヴィーが「おおっ」と声を上げる。
今日は切り分けスタイルでは無いらしく、給仕たちは退出して行った。
頂きますの前に言っておかなければならない事を告知する。
「今日でこの宿は最後になる。
明日からは少し宿の質が落ちる事になるが、
ダイダリの迷宮の攻略は続けるので宜しく頼む」
「はいっ」
「かしこまりました」
「このような料理も食べ納めですかね」「えー!?」
「いずれ自宅が完成したらナズやエミーに食べたい物を注文してくれ。
なあ?ナズ、エミー?」
「そ、そうですね。一応できなくもありませんので頑張ってみます」
「が・・・ります」
「だそうだ」
「おお、本当ですか!宜しくお願いします、ナズ殿!」
「なず姉ちゃん、おねがいします!」
「エミーもだろう?」
「エッ、エミー殿、お願いします!」
「いも姉ちゃんもおねがいします!」
(こくっ。)
そして各自思い思いに豪華な夕食を口へと運んだ。
最後の晩餐であった。
∽今日のステータス(2022/01/16)
・収得品
鼈甲 × 2 ソフトシェル × 1
・異世界70日目(15時頃)
ナズ・アナ65日目、ジャ59日目、ヴィ52日目、エミ45日目
パニ38日目、ラテ17日目、イル・クル14日目
サンドラの旅亭宿泊10/10日目 プタンの旅亭宿泊0/20日目
・ダイダリの迷宮
26 タルタートル / トータルタートル




