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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第卅章 外国
252/394

§239 慢心

この国についてから早10日が過ぎた。

この旅亭は明日の朝まで。

明日までには次の旅亭を探しておかなければならない。


いきなり9人が行って大部屋を確保する事は難しいかも知れない。

シルクスの例がある。

今日契約して先に部屋を確保し、

明日以降20日分の備えを万全にした方が良いだろう。


余りグレードを下げ過ぎると不満が出るかもしれないし、

かといって高いのも困る。


トラッサの旅亭位が丁度良いのだが、

この旅亭の受付でもっと安い所はどこだと聞くのも野暮だ。

そんな恥ずかしい真似はできないので、

こういうのは冒険者ギルドとか探索者ギルドで尋ねた方が良いと思う。


今日も豪華な朝の食事と胃に優しそうなミルク粥が運ばれて来て、

それぞれが朝の食卓に着いた。

ヴィーやジャーブ、イルマはもう10日ずっと重めな食事をしている。

君たち胃が丈夫だね・・・。



   ***



朝食後に迷宮組は暫く待機して貰い、まずは冒険者ギルドに出掛ける。


この国でそこそこの値段の旅亭・・・、

4人部屋で1000ナール以下の予算で納まりそうな宿の場所を聞いた。


やはり首都で安宿と言うのは厳しいようだ。

そしてシュメルディハナイも安い宿は無いのだと言う。

シュメールとの物流拠点であるからだ。

人の往来が多ければその分宿も高くなるのは当然であろう。


各町ごとに迷宮のあるトルキナ王国とは宿事情が異なっているようだ。

駆け出し探索者を受け入れる安宿は大都市に無く、

それらは迷宮のかたわらに建てられた仮設店舗となる訳で。


結局内陸部にあるアルバブールの町を紹介され、そちらに向かった。

首都サンドラッドへ流れる大河の上流部に位置し、

そして近くに迷宮があるらしい事は既に知っている。


アルバブールの冒険者ギルドに尋ね、

程々の値段だと言う旅亭を紹介されて向かった。

ところがである。


現在は迷宮が出現しているので満室に近く、

4人用の1部屋なら用意できるが9人は厳しいとの事だった。

と言う事は、ダイダリも似たような状況なのだろう。


確かに。仮設の宿へ泊まるようなのは本当に駆け出し探索者で、

ある程度迷宮を攻略できるような探索者は冒険者を入れるはずだ。

この国では迷宮が討伐されるため、その度に拠点を移す必要がある。

冒険者は稼ぐパーティに必須となるわけで。


冒険者をパーティに入れるとは言ってもMPの問題がある。

全員が全員6人を長距離運べる位に育っている訳も無いのだから、

拠点はなるべく近い方が良い。

半分もMPが減れば暫く戦力外になってしまう訳で、

その都度高い薬を使用する訳にも行くまい。


結局大きな都市のうち4つは難しいのだと言う事が判り、

残っているのはプタンノラと言う町のみであった。

プタンノラには一度行ったきりで、

海が近くにある港街だったと記憶している。


冒険者ギルドは小高い丘にあって、

そこから見えた港は規模も小さく停泊している船も小さかった。

恐らくは漁業の街なのだろう。


プタンノラの冒険者ギルドに、この町の宿事情に付いて尋ねた。


そもそも迷宮がいつどこに湧くか判らないし、

この町にも物資の運搬拠点として商人が行き交うので宿は充実らしい。

特産はやはり魚介類。


魚介の介は貝類の貝では無い。

そもそもこの世界の天然貝は食べられないらしいので。


ギルドから続く緩やかな坂を下りながら紹介された宿に向かう。

4人部屋で1部屋1000ナール以下と言うのが目安だ。

紹介された旅亭は4人部屋で1部屋650ナールと、トラッサより安かった。


安宿と言うのは大体食事がケチられる。

パンとハムとサラダで十分の自分には丁度良いかも知れない。


中央大通りの下り坂を真っ直ぐ港に向かって降りて行き、

街のシンボルであるだろう石像に突き当たった。

恐らくはここが町の中心部だ。


そのまま海岸まで道は続くが、

目的の旅亭はそこから右に曲がり更に枝道を右へ入った所らしい。


1等旅亭であるならば、恐らく先程の広場の近くなのだろう。

そこから離れるだけ宿の質は落ちて行く。


大交差路を右に折れて暫く進み、最初の十字路を更に右に曲がると、

3階建てで広い間口を持つ建物が見えた。

恐らくこれだ。


「ごめん下さい、ここは旅亭かな?」

「ええ?はい。お泊りですかね」


「ああ。明日から9人お願いしたいんだが、空いているかな?」

「9人ですか。

 ええと、今日からではなく明日から・・・、はい大丈夫ですね。

 そうしますと4人部屋が2つと1人部屋が1つになりますが」


「それで頼む」

「4人部屋が650ナール、1人部屋が200ナールとなりますが」


4:4:1か、1人あぶれてしまう。

奴隷に1部屋と言うのはどうなんだろう。

何か言われても困るし4人部屋2つで良いと思う。

誰か2人は同じベッドで寝て貰えれば良い。


自分が個室と言う発想は最初から無かった。


「あ、いや、やっぱり4人部屋2つで良い。1人は子供だ、一緒に寝かす」

「かしこまりました、お食事お湯、明かりはどうされますか?」


「昼の食事は弁当かな?」

「そうですね、こちらで昼の受け取りになりますよ」


「では9人分、明かり以外を頼む。カンテラは持っている」

「かしこまりました、それでは1泊辺り2065ナール、

 20日ですと4万と1300ナールですが、

 長期のご利用になりますので2万と8910ナールにさせて頂きます」


驚いた。


安めの旅亭を探したつもりだったが、

たかだか20泊で1年家を借りるのとほぼ変わらない位に請求される。

6人パーティで30日宿泊するならば家を借りた方が断然安い。

もっと安い宿もあるのだろうが、これでは探索者は厳しいだろう。


探索者が迷宮へ通い安い家を借りたがる気持ちを理解した。

それでか、リアナさんは半年半額からの貸し出しを行っていた。

随分・・・いや、かなり良心的だ。

リアナさんの商売は人柄を表していた。


宿の代金は先払いし、インテリジェンスカードをチェックされた。

鍵の受け渡しの前にもう一度チェックするそうだ。

明日向かった所で、誰だお前と言う事にはならないと思う。


続いて一旦旅亭に帰り、次は錬金術の研究棟に顔を見せる。

パニとラティをパーティに加え、フローダルの奥にある冒険者ギルドへ。

そこから酒蔵まで徒歩で向かい、

正面の商店に見えない店からかめに入った酒を1つ購入した。


言葉が判らないので買い付けにはラティは必須、

パニはシュメールに行くために必須なのだ。

通訳だけならイルマでも良かったが、

この後迷宮に行くのでこの組み合わせで丁度良い。


「ラティ、以前買った酒を注文したい。15年の小さい奴だ」

「は、はいっ。ええっと、ガッ、ガラスの?物でしょうか」


「いや、陶器の壷に入ってた方だ。

 手土産として持って行くので大した物でなくて良い」

「は、はいっ。xxxxxxxxx」


注文したのは15年物で一番容器が小さい奴だ。

それでも高い酒だと思う。

酒蔵の女性店員から木箱に入ったかめ1つを手渡された。


以前ウッツ達をパーティに呼んだ際は、

エールの樽で1500ナールだった。

これはその1/5も入らないサイズで2000ナール。

値段的には約10倍の酒だ。


例えるならワンカップとミニチュアボトルのウイスキー位に違う。

ならばきっと、30年物の樽はルスラーンにも喜んで貰えるに違いない。


かめの酒は麻紐で縛られており、

手首で引っ掛けて持ち歩けるようになっていた。

徳利とっくりのようでもある。

こちらはそれよりもう少しビンらしいが。


そして蓋は木で作られており、

油?を染み込ませたパピルスで封じられていた。

コルクが無い訳だ。

封の仕方もかなり原始的である。


乱暴に扱って割ったら大変なので、それでも一応抱えて持つ。

ラティに渡すのは不安であった。

パニではどうせ城門の入り口で止められてしまう。


シュメールに向かい、パニと外城門横の小屋で別れて町の中に入った。

こちらは酒を抱えている。

ラティは空気。

城壁内にいる商人と商談をするのでは無く、

作業員への差し入れだと言って詰め寄る騎士に納得して頂いた。


大体、1瓶だけ持って来て何をどう商売するのだろうか。

プレゼントなら商売に当たらないのだから許されて良いはずだ。

そして中城門でも同じ事を詰められる。


ポーチやポケットの中身を全部引っ繰り返され、

持っている小銭袋の中の枚数まで数えられた。

残念、金貨や銀貨はアイテムボックスの中である。

探索者だしな。


探索者が中でこっそり商売したらバレないんじゃないのか?

そこが抜け道か?


しかしこっそり持ち込める物はアイテムボックスへ入る物に限られる。

それ以外はこうしてチェックされる訳だから、

と言う事ならばこっそり持ち込める物は日用品だ。


それなら許されるのか、納得の行く理由に辿り着いてしまった。


酒瓶の封を一度開けさせられ、中が酒だと言う事を確認された。

やはりアイテムボックス以外の持ち込みには厳しい。

前回ポーチに入っていた中身は図面やビスケットであった。

それよりはハッキリと「商品」として見出される酒の瓶は脅威なのだろう。


審査の上酒の持ち込みは許可され、ようやく中に入る事ができた。

但しラティは入れさせて貰えないようだ。

許可を得ているのは自分1人、奴隷と言えどもこの先は無理なのだろう。

パニのいる小屋で待たせてやったほうが良かったかもしれないが、

もう既にラティ1人で城外へ出る事も叶わないのだ。


「ここで待っていてくれ、直ぐに戻って来る」

「はっ、はいっ」


整備された庭園を貫通する道を進み、

7番目の建屋である研究所の扉を勝手に開ける。

今日はペイルネッタとバラさん、所長と、

それからもう1人別の男性がいた。


「どうも初めまして?」

「うん?ああ、初めまして、どちら様かな?」

「ああ、彼があの図面を持ち込んだ依頼人だ」


と言う事は「あちら」の研究棟のお偉いさんか研究員か。

ガラス工房だけでは制作できない金属部品を加工するために、

別の研究棟である「あちら」にお願いしている事は解っている。


「君がアレを書いたのかね、ほう・・・人間か。

 もっと年老いた研究者を想像していたのだが、若いな」


「恐縮です」

「あのガラス栓はこの目の前で描き上げたんだ、びっくりしたよ」

「なるほど、そのせいでこうなった訳だ」


こう・・・とは机を見たらよく判る。

コックになりそうな部品の一部が散乱しているのだ。


ガラス管まではできているようだが、

壷状の栓受けを作ろうとして四苦八苦した挙句、

ボコボコになったガラス管が数十本。


栓を作ろうとして歪に穴が開いたり、

溶けたガラスで穴が塞がってしまったり、

斜めに穴が開いている物もある。


ガラスコックは最大の難関なのだろう。

頑張って頂きたい、自分は専門家ではないので何もアドバイスできない。


「今日は様子見と、それから差し入れをお持ち致しました。

 どうぞご賞味下さい」


持って来たかめを机の空いている部分に乗せた。


「おう、おメエぇか!気が利くな、酒だろ?」


「ええ。先程フローダルに行って、

 ワインから作るらしいお高いお酒を買ってきましたよ」

「おお!って事はバンディールか!やったぜ、お前良く分かってるな?」

「わー、本当ですか、私もくださーい」


・・・バンディールって言うの?あの酒。

用意した自分が初めて名を知ったよ。


研究員の2人が作業をしていた手を止めて、

この工房で作ったであろうグラスに注いで喉を潤していた。


潤すと言うか、酒精が強過ぎて逆にもっと焼ける気もするんだが、

そんなのはお構いなしだ、流石ドワーフ。

1人はエルフだが。


「そういえば所長殿。以前頼みまして最初に作って頂いた、

 ガラスの蓋と器を出荷して頂きたいのです。

 既にでき上がっていると思うのですが」

「おお、アレかね。アレは直ぐに使いたいような代物なのかね?

 アレだけで何ができるとも思えないが、一応許可を申請しようか」


「どの位掛りますかね?」

「早ければ明日、明後日には商館に持ち出しが許可されるよ」


「ではアララビ氏の商館にお願いを出した方が良いのですか?

「そうですなぁ。ただし、その後は街の外へ持ち出す証明書が必要ですぞ。

 1出荷に付き手数料がそれなりに掛かるので注意してくれたまえ。

 勿論纏めた方が安くなるが、試作品ができ次第欲しいと言う事であれば、

 その都度手数料も掛かる事になるが良いのかね?」


「そうですね、あの器は早めに欲しいと思っております」


あの中でカビを培養しなければならないのだ。

いつまでも桶の中に放り込んだままでは青カビ自体が死滅したり、

他のカビが混入したりして厄介な事になりかねない。


「解かった、ではあの器5個を先行して出荷しよう」


「助かります。どうぞ、所長らも折角買って来たので一杯」

「そうだったね。有り難い話だ、どれ私達も貰おう」

「悪いね、もし良かったらウチにも何か持って来てね」


然り気無く「あちら」の所長からも催促される。

そんな事を言われてもなあ・・・。

結構高い酒だったし余り要求がエスカレートしても困るんだが。


「で、では長居しても悪いので、後はお願いする。

 難しい部品だと思うが宜しく頼む」

「おうよ!」「はーい!次は果物かなぁ?」「我が研究所にも何か!」


ペイルネッタと「あちら」の所長から次の要求を押し付けられて、

逃げるように錬金研究棟を後にした。

そうなる前に退散する予定だったのに。



   ***



中城門でラティを、外城門でパニと合流し旅亭に帰ると、

皆既に迷宮へ行く準備ができているようであった。


「お待たせ、では迷宮に行くぞ。今日は25層の中間からだったな」

「はいっ」「ボス部屋までの道はもう判明しております」

「一度戦った事のある相手ですので余裕でしょう!」


ラティの画版を見せて貰うと、

25層の規模的には残り1/4程度だと言う事が判る。


右端と左端、上端が分かっている状態だ。

後はその正方形内に収まるはずなので、

枝道を潰したら直ぐにもボス戦に行けるだろう。


「ではパニ、ラティを頼んだ」

「かしこまりました、お先に失礼します」


「ではエミー、行って来る。肉を頼んだ」

「(こく。)・・・い、かし・・・した。行って・・・しゃいませ」


返事と頭を下げるのが一緒になっているのでよく聞こえない。

そろそろ頷いて返事をするのは止めさせ、

ハッキリ言葉で返事をさせた方が良いと思う。


「エミー、頭で返事をせず普通に返事をしろ。下を向くと聞こえない」

「はい・・・かりました」


ちゃんと聞こえたので満足して迷宮へワープゲートを繋げた。



   ***



既にアナはボス部屋までのルートを把握していると言っていた。

昨日は待機部屋に人がいたのだろう。

それ以外の枝道はあっと言う間に埋まり、

ボス部屋はタッチの差で別パーティが後ろに付いた。


「済まないな、先に行かせて貰う」

「おう?ああ。わざわざブラヒム語でどうも。周回か?」


「いや、この先に行くんだ。そちらは?」

「俺たちはこの階層での稼ぎだ。手短に頼むぜ」


「自分達はもっと先に潜った事がある。

 ここのボスならば直ぐ抜けられると思う」

「そうかい、26層突破したら報酬が出るぜ、頑張ってな」


「ご丁寧にどうも。

 それじゃあラティ、中間部屋に戻れ」

「はっ、はいぃぃ、それでわぁ失礼しまぁすぅぅぅ」


見知らぬパーティからエールを送られ、全員ボス部屋に駆け出した。


ボスはマザーリザード、イルマは初見だが戦闘に参加しない。

お供はハーフハーブとサイクロプスであった。


風魔法でサイクロプスは止められるとして、

ハーフハーブはジャーブが向かっている。

これは勿体無い。


「ジャーブ、そいつはナズに任せろ!ボスのばら撒くお供を狙え!」

「はいっ!」


右翼へ駆けて行っていたナズが今の会話で左翼に移動し、

ジャーブはそのまま追い越すとマザーリザードの後ろに回り込んだ。


オーバードライブされたウインドストーム、ダートストームが入る。

サイクロプスは出現位置のままへたり込み、

マザーリザード正面はヴィーが、右はアナ、後ろにジャーブが囲んだ。

ナズはハーフハーブを槍で転がして遠ざける。


状態異常耐性ダウンをマザーリザードへ、

矢を撃ちこんでMPを回復させてこのターンは終了だ。

残りの10秒が長く感じる。


──グェェェェェェ!


マザーリザードがお供を呼び寄せ、新たな2匹が出現する。

1匹をジャーブが、もう1匹をアナが取る。


「アナっ!サイクロプスが動くぞ!」

「はいっ!」


アナはシザーリザードの鋏を盾で防いだが、

動き出して暴れたサイクロプスのパンチを受けて蹌踉よろけた。

そこへシザーリザードが鋏で足を挟み、アナは転倒する。


「イルマ!」

「は、はい!手当ッ!」


オーバードライブを掛けてウインドストームを唱えてみたが、

まだダウン判定のクールタイムは回復されていないようだ。

弓でサイクロプスの目を狙い、怯ませた。


──クゥゥェェェェェェ!


お供が更に2匹出現する。


1匹はヴィーの後ろに、もう1匹はアナの後ろに回り、

左右の足を挟まれて完全にアナは封じられてしまった。

もうあの状態から1人では抜け出せないだろう。


どちらかのシザーリザードが倒れるまで恐らくあの状態のままだ。

魔法で倒すまでまで待って欲しい。

くそっ・・・何か良い手はないのか。


イルマの手当ての詠唱も口早になる。


えーっと、ガッ、ガンマ線バースト!

グラグラッと眩暈めまいが襲い、強烈な吐き気がする。

MPが回復しきれていないのだ。

強壮丸を手に取って口へ放り込んだ。


幸いな事にボーナス魔法のお陰でサイクロプスは消滅した。

が、相変わらずアナの足元は2匹のシザーリザードに因って封じられ、

ヴィーも後ろから攻撃を受けている。


ナズが走り込んで来て、

ヴィーの後ろで暴れるシザーリザードを突き飛ばした。

ハーフハーブはまだ生き残っている。


弓でマザーリザードを射って当て、気分を回復させる。

背中の寒気は消え気分も落ち着いたが、焦りと汗は引かない。

ダートストームを2連射し、再びMP回復のために矢を放つ。


──ゴワァァァァァァァァァ!


3度目のお供が湧く。


今度はジャーブが2対1、ヴィーの背後にまた1匹が付く。

状況は悪くなる一方だ。


そして体全体がポカポカと温かくなりだした。

暖かく・・・どころかこれは少し熱めの風呂。

おそらく火魔法が発動した。


よく見るとナズが先程突き飛ばしたシザーリザードが、

結構な距離を空けたまま完全にフリーとなっていた。

突き飛ばしてそちらに向かったのかと思ったが、

突いただけで再びハーフハーブと戦っていた。


全体をよく見て置かないとマズい。

全員バラバラになってしまっている。


「イルマはアナの手当てを優先しろ!」

「は、はい!心安らまば平癒へいゆの──」


このままでは埒が明かない。

アイテムボックスから強壮剤を取り出して1つを飲み込み、1つを含む。

オーバードライブしてダートストームの2連射を掛ける。


最初に湧いたシザーリザードは消え、ジャーブは1対1となった。

誘導しながらヴィーの背後に回っていたシザーリザードも巻き取った。

再び2対1だ。


オーバードライブはまだまだ続いている。

マザーリザードに矢を撃ち込んでMPを回復させ、全体を見回した。


ナズはまだハーフハーブに手を焼いている。

そういえばあいつは火以外に耐性があった。

ガンマ線バースト1回分しかまともにダメージが入っていないのだ。


アナは両足を挟んでいた2匹のうちの1匹が消えたが、

もう1匹に苦労しているようだ。

そこへフリーになっていたシザーリザードがアナへ駆け寄り、

開いているもう一方の足を挟み込んだ。


アナは再び両足を拘束されてしまった。


その状態からでもアナは必死に剣を振って、

シザーリザードにダメージを与えていた。

い、一応あれで安定はしているようだ。

イルマが手当てを掛け続けているお陰だろう。


自分も神官スキルの全体手当てを織り交ぜてイルマの回復を援護する。


そろそろヴィーも回復してやらないとまずい。

イルマは自分のようにスキルを無詠唱で連発できないので、

パーティ全体のHP管理をイルマの手当だけに任せるのは難しいだろう。


再びガンマ線バーストが使用できるようになった。


──ゴゥェェェェェェ!


まだ湧くんかい!


オーバードライブしてガンマ線バースト、

ついでにアナに纏わり付くシザーリザードを弓で狙う。

まだダートストームは再使用できない。

予備の強壮剤も飲み込んだ。


アナを挟み込んでいた2匹のうちの1匹が消え、

ジャーブも相手をしていた1匹が消える。


ハーフハーブも消えてナズがフリーとなり、アナの援護に回ったようだ。

オーバードライブが解ける。


ジャーブが新たに湧いた1匹を取り再び2対1、

ヴィーも新たに湧いたシザーリザードを左に取った。

背後から狙われる状況はジャーブが位置取りに依って防いだ形だ。

流石、よく見ている。


アナの足を挟み込んでいたシザーリザードの鋏を、

ナズは槍を突き入れて梃子てこの原理でこじ開ける。

ようやくアナが解放された。


アナを捕らえていたシザーリザードはそのままナズが転がして行った。


オーバードライブして全体手当てを2回、

アナはそのまま駆け出して行ったので、足へのダメージは大丈夫そうだ。

その様子にほっと一安心した。


そして弓を引いてマザーリザードに当てる。


アナはヴィーの左にいたシザーリザードをシールドバッシュで弾き、

それを相手取りに行った。

うーん、マザーの方を沈黙化して欲しかったが贅沢は言ってられない。


再びオーバードライブしてダートストームを掛けると、

マザーリザードとお供2匹が消滅した。

これでお供が増える心配は無くなったが、

まだ最後に湧いた2匹が残っているのでもうひと頑張りだ。


後は2対1の2つの組み合わせができ上がり、各自に仕留めて貰った。


結構な乱戦だったような気がする。

火魔法の耐性が無ければ、途中かなり危ない状況になっていた事だろう。

マザーリザードはどうあっても最初にアナが沈黙させるべきだった。


メンバーがばらけてしまった際の統制も難しい。

各自のセンスに頼る事となるが、

アナやジャーブはともかく、ナズやヴィーにはそれが難しいのだろう。

技能だけでは戦場を生き残れないのだ。


「お疲れ、大変だったな?」

「申し訳ありませんでした。

 私は突き飛ばした魔物の相手をするべきでした」


「まあ、何とか立て直せたので次はその経験を生かしてくれ」

「はい・・・」


「私は最初にマザーリザードを沈黙させるべきでした。

 見誤ったのは私の責任です、申し訳ありません」


「脅威度を考えてみてくれ。どの敵を抑えれば後が楽になるのか、

 倒し易い魔物は最後で良いんだ、やり難い方を優先してくれ」

「はい・・・」


「お、俺は・・・」


「ジャーブはなかなか良かった、助かったぞ。次もそんな感じで頼む」

「えっ、いや、あの、そうですかね?」


「アタイは―?」


「おお、そうだな。後ろから殴られていたようだが痛くなかったか?」

「うーん、ちょっと?でもそのままデカいのおさえなきゃって思って」


「良く堪えて頑張ったな、偉いぞ。

 まだ痛みが残っていたらイルマに手当てして貰ってくれ」

「うんわかった、おねーちゃん!」

「あっ、はい。心安らまば──」


「・・・イルマも助かったぞ、大活躍だった。

 お前は本来活躍しない事が望まれる。

 だから役に立っていないと考えなくて良い。

 今回のように沢山手当てが必要な状況は、本来起きてはならないのだ」

「は、はい。かしこまりました」


散在しているアイテムは自分とジャーブが拾って、

後続が待っているので急いで26層へ移動した。

結構ピンチな展開が続いたと思うが、

それでも戦闘時間は5分と経っていない。


普通のパーティはもっと掛かるらしいので、

こんなのがまだまだ4倍も5倍も続いたら息が詰まってしまう。

・・・みんなタフだなあ。


その後はパニ達を迎えて26層の探索を進めた。


そうそう問題なんてある訳が無い・・・と思っていたが、

どうやらこの階層には魔物の部屋があるようだ。

いや、正確にはあった。


アナは感知できなかったが、通路に不自然な空間ができてしまったのだ。

気配が無いと言う事は最近制圧されたばかりであり、

魔物はもう残っていないと言う事を意味する。


今回の自分達は迷宮の地図を作る事が目的であるので、

入り口がどこにあるかを知らなければ地図は描けない。

ぐるっと1周壁を触って歩いた。


ボーナスタイムも全くない部屋を探し当てる事は面倒臭い。

それを言ったら枝道を隈なく調べるのも面倒なのだが、

そう言っていては地図など完成しない。


これも仕事だと割り切った。


  *

  *

  *


この階層に出る敵はタルタートルだ。

その前がシザーリザードだし、

いずれもトラッサで戦った事がある相手ばかり。


シザーリザードと弱点属性も同じであり、

魔法使用ターン数もオーバードライブがあれば2ターン、

無ければ3ターンと全く変わらない。


稀に出るサイクロプスは風魔法で大人しくなるので、

全く脅威にはならなかった。

近接パーティは大変なのだろうが。

・・・あっ、槍で目を突くのだっけ?


昼食の時間を挟んで再び攻略を再開し、

夕食にはまだ十分時間がある段階でボス部屋までやって来られた。


この階層は現在攻略が進められている最終層だったようで、

道中で多くのパーティとすれ違った。

なにせもう26層、そこそこに広い。


同じパーティと数回出会ったりしたので、

彼らも道に迷っていたのだろうか。

或いはドロップ品目当ての徘徊だ。


こちらは枝道を埋めるために戻っただけなので彼らとは異なるが、

本来はそう簡単に攻略を進めて行ける物では無いようだ。

通常戦闘も時間が掛かるしね。


くしてボス部屋に一番乗りした我々は、

誰もまだ入った事のない部屋に足を踏み入れた。


・・・大げさな。


初登頂と言う事で多少はドキドキするが、相手はゾウガメだ。

対処法も解っている。

27層で倒した実績があるのだから今更困る事は無いのだ。

∽今日のステータス(2022/01/15)


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳 探索者 Lv62

  設定:探索者(62)魔道士(37)勇者(26)目利き(26)

     道化師:中土魔法・荒野移動/知力中・知力大(34)


 ・ナジャリ     ドワーフ ♀ 16歳 隻眼  Lv17 1st

 ・アナンタ     猫人族  ♀ 20歳 忍   Lv17 1st

 ・ジャーブ     狼人族  ♂ 28歳 聖騎士 Lv16 1st

 ・ヴィクトラ    竜人族  ♀ 12歳 竜騎士 Lv48 1st

 ・エマレット    狼人族  ♀ 19歳 料理人 Lv39 OFF

 ・パニ       竜人族  ♂ 15歳 冒険者 Lv14 2nd

 ・ラティ      人間   女 28歳 探索者 Lv43 2nd

 ・イルマ      狼人族  ♀ 21歳 僧侶  Lv31 1st

 ・クルアチ     兎人族  ♀ 18歳 村人  Lv1  OFF


  ↓


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳 探索者 Lv63

  設定:探索者(63)魔道士(37)勇者(26)神官(37)

     道化師:中土魔法・荒野移動/知力中・知力大(34)


 ・ナジャリ     ドワーフ ♀ 16歳 隻眼  Lv19 1st

 ・アナンタ     猫人族  ♀ 20歳 忍   Lv18 1st

 ・ジャーブ     狼人族  ♂ 28歳 聖騎士 Lv18 1st

 ・ヴィクトラ    竜人族  ♀ 12歳 竜騎士 Lv48 1st

 ・エマレット    狼人族  ♀ 19歳 料理人 Lv39 OFF

 ・パニ       竜人族  ♂ 15歳 冒険者 Lv14 2nd

 ・ラティ      人間   女 28歳 探索者 Lv43 2nd

 ・イルマ      狼人族  ♀ 21歳 僧侶  Lv32 1st

 ・クルアチ     兎人族  ♀ 18歳 村人  Lv1  OFF



 ・繰越金額 (白金貨30枚・利用券2枚)

     金貨 15枚 銀貨 56枚 銅貨 15枚


  宿代プタンノラ (41300→28910й)

   4人部屋 ×2 ×20     26000

   夕食   ×9 ×20      540030

   朝食   ×9 ×20      450025

   弁当   ×9 ×20      360020

   湯桶   ×9 ×20      180010


  酒代               (2000й)

   瓶(15年)           2000


     金貨- 3枚 銀貨- 9枚 銅貨-10枚

  ------------------------

  計  金貨 12枚 銀貨 47枚 銅貨  5枚



 ・収得品

   コウモリの羽   ×  2   麻黄       ×  8

   銅        × 24   ハサミ      × 56

   革        ×  9   ビアワック    ×  1

   鼈甲       × 42



 ・異世界70日目(朝)

   ナズ・アナ65日目、ジャ59日目、ヴィ52日目、エミ45日目

   パニ38日目、ラテ17日目、イル・クル14日目

   サンドラの旅亭宿泊10/10日目



 ・ダイダリの迷宮

  22 ハットバット     /  パットバット

  23 ハーフハーブ     /  ハートハーブ

  24 サイクロプス     /  シルバーサイクロプス

  25 シザーリザード    /  マザーリザード

  26 タルタートル     /  トータルタートル



 ・作中名詞注訳

  ブランデー → バンディ(ヘブライ語)

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