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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第卅章 外国
246/394

§233 コツ

中間部屋に辿り着いた時点でナズから夕食の時間を告げられる。

流石に20層と21層の梯子ハシゴはもう無理か。

考えてみれば1層半埋まったので十分と思わなければならない。


第1パーティの全員をワープで旅亭に送り、

パニとラティは2段階の移動を経て戻って来た。


「おかえ・・・さい・・・ませ」


エミーが出迎える。

段々とエミーもはっきりとした声が出るように成って来た。

このキュートで可愛い声がジャーブの物となるのか。


「な、何でしょうかッ。また俺何かやらかしましたかね?」


ジャーブをジト目で見詰めると、申し訳なさそうな反応をした。


「い、いや何でも無いぞ。エミーは可愛いな?」

「えっ、そんな事は無いです、あっ!いえ、あの、その・・・」


やらかしてなかったジャーブがやらかした。

エミーがジャーブを凝視する。

完全に自分の所為なので申し訳無い。


各自が装備品を纏めて床に置いて行く。

ラティはそれを回収してアイテムボックスへしまっていった。

自分もパニから今日の戦利品を回収する。


これまでの探索では魔物を倒す事を優先していた。

従って迷宮から帰って来ると戦利品はもっとごちゃっとしていたが、

今日に限って言えばこんな物かと思えるようなあっさりした量である。

当然、この宿に泊まれるだけの収入は得ていない。


しかし「倒す」と言う意味でなら実りは少なかったが、目的は地図なのだ。

80層まで記載される羊皮紙の製本が金貨1枚であるならば、

33層までの本であれば4000ナール取っても良いかもしれない。


ミチオ君達が買ったクーラタルの地図は、

1層分のパピルス1枚で10ナールだったのだっけ?


パピルスの冊子であれば33層で330ナール。

あれは騎士団が作成した、言わば公共事業的な物だったのだし、

商売として成り立たせるにはもう少し高くしても良いんじゃないだろうか?

1部20ナール?


あまり高くし過ぎるとコピーされてしまうと言う事も起こり得る。

コピーするよりは買った方が早い、そういう価格帯でなければならない。


唸りながら頭の中のそろばんを弾く。

やはり作ってみてから考えた方が良いだろう。

完成した20層の地図を他の地図と一緒に纏めた。


そろそろ保存する箱が必要になるかもしれない。


トラッサは11層と27層の2枚、ホドワは1~4層までの4枚。

ここダイダリでは20枚が保管されている。

分けないと混ざる。

ラティに管理させると絶対混ざる、間違い無い。


麻袋では乱暴に扱うと擦れてパピルスが傷むと思うので、

絹の袋か木の箱に入れるべきだろう。

となると作成するのは・・・やはりウッツだ。

明日行って頼めば良いか。

もう土台もできた頃だし、現場にいるだろう。


その後、今日も豪華なフルコースと豪華な粥料理が運ばれて来た。

今日は分厚く焼かれたステーキ・・・いやもう肉塊だ。

カットする専用の台が運ばれて来て各自の皿に寄り分けられる。


自分達の食事が終わるまで、

この給仕はずっと欲しい分だけカットしてくれるらしい。

ミルク粥には合わないがステーキは食べたいので大目に取って貰った。


大体この世界にはまだフォークが無いので、

この手の肉は自分でカットができないのだ。

一般市民なら包丁でひと口ふた口分にカットした状態で調理するだろうし、

ブロック肉を焼いて食べると言う行為はもうそれだけで贅沢なのだろう。


ステーキ肉は程々に柔らかくソースも上品で、

結局自分も3回を取りに立ってしまった。

始めは漬物石程度の大きさであった巨大な肉の塊は、

蓋を開けてみれば全員で食べ尽してしまったのであった。


食事が片付けられ、旅亭員達が湯桶を運んで来る。


「明日は大雨が降りますので、

 もし外出した際にお召し物を汚してしまった場合は、

 1階にあります更衣室をご利用下さい」


「うん?そこで着替えて良いのか?」

「はい、部屋着の貸し出しと湯桶もご用意しておりますので、

 是非ご利用下さい。

 外套がいとうも受付にて販売させて頂いております」


雨の日サービスか、行き届いているな。


天気予報・・・と言うのは流石にまだ在り得ないだろうから、

本当に降る直前でないと判らないのだと思う。

或いはラティのような気圧変化に聡い者がいるのか?


桶を運んだ旅亭員が帰った後ラティに聞いてみた。


「ラティ、明日は雨だそうだが体調に変化は無いか?」

「はいっ、ええとっ・・・すっ、少し息苦しいような感じはします、

 あ、アタマもチョット痛いですっ!

 でっ、でも、動けない位では無いので、頑張れます!」


「そういう事はままあるのか?」

「ま・・まま?」


「よくある事か?」

「い、いえ、こんなにハッキリと感じるのは、はっ、初めてです」


「トルキナは雨があまり降らないよな?」

「そっ、そうですね、雨期以外は基本的に、は、晴れています」


だからなのか、ここの国のように大きな気圧変化が一気にやって来て、

体調に影響がある位悪くなるような事は無いのだろう。

やはりラティは気象病の持ち主で正解だった。


「あ、あの・・・その・・・」


まだラティがモジモジしている。

言いたい事があればハッキリ言ってくれて良いのに、

未だにこの遠慮がちな挙動が抜けない。


「どうした?」

「い、いえ、あの、な、何でも無いです・・・」


「何でも無い訳あるか、言いたい事があるならはっきり言え」

「ナ、何でもありませんっ!」


顔が真っ赤になっていた。

そんな恥ずかしい事なのか。

気になるが、当のラティがこれでは聞き出せないだろう。


「アナ、頼んだ」

「かしこまりました、ラティ行きましょうか」

「えっあ、あの・・・はい・・・」


これで解かってくれるのがアナだ。

解からないのがイルマ。

ナズはギリギリ解ってくれる時とくれない時がある。

ただし一度経験したら次は解る。


エミーはマイペースな所があって、

どうせ多くを望まれないのだと言う開き直りからなのか、

こういう時はいつも我関せずでいる。

どこから持ち出したのか今日もハーブティが用意されており、

それを淹れて配っていた。


ま、出来る事だけやってくれれば良いよ。

皆に同じ事を望んでいない。


アナが出て行ってしまったので、体を拭くのはナズに頼んだ。

先に自分だけ拭いて貰って、後は交代制である。


  *

  *

  *


翌朝、ナズに優しくキスされて起こされる。


昨日早起きしてナズをキスで起こしたので多分その仕返しだろう。

その可愛さに嬉しくて攻勢を逆転させた。


「ちゅっ・・・んッ・・・、お、おはようございます」


「おはよう、ナズ。昨日の仕返しか?」

「えっと、・・・はい」


「ははは、ナズは可愛うわっ」


ナズの上へ馬乗りになってその顔を眺めていたら、

引き剥がされていつの間にかアナに押し倒されていた。

そのままアナの猛攻を受ける。


「んふっ・・・あむ・・・あむ・・・」


「ア、アナは毎日激しいな」

「それ程でも」


床にいたナズを手繰り寄せ、

馬乗りになっているアナも抱いて3人の朝を楽しんだ。

この幸せなハーレム時間も、皆が起きる少しの間だけだ。

次の宿は3人と6人部屋にしたい。無理なら3:2:4だ。


「それからご主人様、ラティは生理が始まったようです。

 暫くは激しく動き回れないと思われます」


せっ・・・。


昨日のモジモジはそれか。

確かに中々皆の前では言い出せないかもしれない。

周りは皆女性陣なのだから別に恥ずかしかる事では無いと思うのだが、

ラティだけ動けなくなる事を進言すると言う事が彼女には難しかったか。


「そういえばナズやアナはどうなんだ?」

「私たちドワーフは生理があっても普通に動けます」

「猫人族は冬の終わりに1度だけです。

 人間族のように動けなくなるような事はありません」


「出血は?そういった下着がいるだろう?」

「出血があれば、それは病気です」


「えっ?そうなの?」


そうなの?この世界の人間?

あれ?でもロクサーヌは専用の下着を欲しがっていた気がするし、

その期間はセリーに夜を譲っていた気がする。


ドワーフと猫人族は出血が無い、或いは人間とは異なるのかもしれない。

種族に依って生理の期間や形態が違う、と言うのはあるかもしれない。

そういえば多くの動物は、春の間だけに生殖期間がある。

発情期や生理の期間もまちまちなのか。


エミーやイルマは狼人族。

ではロクサーヌと同じような生理があるはずだ。

今まで何も言って来なかった所を見ると、彼女達だけで対処できる。


ラティはこれまで一般市民として生活しており、

対応はパーティに任せていた。

いやパフォーマンス悪化を申告して、仕事を免除して貰っていたのだろう。


ただ、自分達のパーティに於いてラティは戦闘を行わない。

迷宮の移動と地図作成だけであり、

雑役もさせていないのでこれまでの生活からしたら楽なはずだ。

生理用の下着は必要になるのかもしれない。


そう考えるとパーティに人間女性って厄介だな。

特定の期間休まれるのであれば、前衛の要では成り得ない。

勿論気にも留めない豪快な女性もいるだろうが、

ラティのような中堅探索者や僧侶などの後衛職に追いやられるのも納得だ。


戦えたら戦ってね、と言う奴だ。


「では今日は雨らしいし、屋根のある商店街で買い物をしてくれ」

「買い物ですか?」


「ラティの生理用品だ。

 人間は生理になると出血するので、専用の下着が必要になる。

 ラティは既に持っているかもしれないが、替えも必要だろう」

「そうなのですね?」

「かしこまりました。

 パニに預けているお金はまだ残っているはずですので、

 午前中は他に必要な物が無いか確認して参ります」



   ***



外は雨であった。


ザーッと降るような雨では無く、シトシトと長く降り続くしっかりした雨。

こちらの世界に来てから小雨は経験したが、

このようなちゃんとした長雨は初めてでは無いだろうか。

そもそもトラッサやホドワではこれまで雨が一度も降らなかった。


窓辺に立ち、窓は開けずに外の様子を眺めた。


「おはようございます、ご主人様」


次に起きたイルマが挨拶をして来た。


「ああ、おはよう」


そういえば皆着の身着のまま、昨日の服で寝ている。

パジャマのようなものは無い。


ミチオ君は寝間着としてネグリジェを人数分買い与えていた。

イルマは屋敷から決闘の場に着て来た給仕服が1着、

そしてその後に買った外出用のドレスが1着。

合計2枚しか持っていない。


下着は帰り掛けに買ってやったが、

家でも外でも迷宮でも、ずっとこの服のまま生活をしていた事になる。

と言う事はこれまで洗っていないし、そうであれば可哀そうだ。


「今日は雨らしいが、商店街に行って皆に必要な物を買って来て貰う」

「はい?ありがとう御座います」


「お前の服はその1着だし、寝る時にも外出用の服では困るだろう。

 寝る時用のゆったりした服を人数分と、

 イルマの替えの服3着を買って来い」

「えっ、そのような物を頂いても宜しいのでしょうか」


「少なくとも皆3着は普段着を持っているのだ。

 お前とクルアチの分だけが無い。

 クルアチはまた今度で良いが、

 イルマは迷宮にも行くのだからそのまま寝てはベッドが汚れるだろう?」

「か、かしこまりました」


「それから、お前とエミーは生理用品を持っていなかったが、

 必要なら買っておけ。丁度ラティの分を買う予定なのだ」

「何もかも申し訳ありません」


「今までどうしていたのだ?」

「ええと、こう、お腹にギュッと力を入れておけば、

 転んだりしなければ垂れて来るような事はありません」


ええ・・・、何その力技。

旧時代の人たちってみんなそうやってるの?

そういえば江戸時代になっても、

女性が下着・・・ふんどしを締めるような事は無かった。


ナプキンに相当するような物はあったと思うが、

やはり貧しい人々はそういった物を買う事すら困難か。

奴隷なら尚更、と言う事は力業以外では対処できないのだろう。

イルマが物理で戦わなければならない場合は必要になる、そういう事だ。


古代の女性、意外と逞しいな。


「では着替えと生理用の下着を。迷宮で勇ましく戦うなら必要になる。

 かしこまらず必要な物は買っておけ。エミーの分もな」

「ありがとうございます」


イルマとの会話中にエミーも起きて挨拶をして来た。

しっかりと発音したので撫でておいた。


解放してやるとそのままジャーブを起こしに行き、

ジャーブがパニを、パニがヴィーを起こした。

ラティは・・・放置されている。

担当が決まっていない、と言うか1番下っ端だからだろうか。


どうせ食事が来たら起きるのだ。

朝からやらせるような仕事も無いし別にこのままでも良いか。

序列的には駄目なんだろうけどさ、みんな放置してるんだから知らない。



   ***



朝食を終え自分以外は買い物に向かう。


商店街に設置されていた移動用の掛け布へ向けて、

パニのフィールドウォークで飛んで行った。

帰りもそのまま任せられるのでパニ様々である。


自分は1人、昨日買ったビスケットをポーチに入れ、

砂時計亭(で合ってたっけ?)の借りていた室内に出た。


そこから徒歩でぐるっと城壁を半周し城門まで向かう。

インテリジェンスカードと通行許可証をチェックされて中層へ入り、

そこから更にぐるっと城壁を半周して内層への門へ向かう。

それだけで1時間近くは歩いたような気がした。


こちらが雨では無くて良かった。

天気は快晴とは行かないものの、程良く晴れて良い日和だ。

雨であれば雨具が必要になるし、

ポーチが濡れるようではビスケットを持って行けない。


大体お願いしておいて1日で出来上がるなんて事は有り得無いので、

わざわざ毎日行く必要があるかと言ったら無いだろう。


ただ発注者は自分だし、注文品は精密品である。

細かな部分を毎回調整する必要はあると思う。

その為の顔出しである。


城門右の入って7軒目、アララビ第3研究所の扉を叩いた。


──ドンドン。


「はーい、どちら様でしょう?」


「昨日伺ったユウキだ、ユウキ=フジモト。様子を見に来た」

「はーい、どうぞー?」


今日は扉が開かれなかった。

勝手に入って来いと言う事だろう。

それでは失礼して、っと。


「おう、お前さんかい。

 許可を受けてンならイチイチ確認せずとも勝手に入って来いよ。

 手が空かねえ時もあんだから、ちったぁ考えてくれ」


バラさんからお叱りを受ける。


確かに忙しい最中を邪魔をしてしまうと言う事は面目無いと思うが、

自分の注文品を作っているのであれば、

作業の中断も発注者の意向通りなのでは?

職人的には駄目なのか?


「す、済まなかった、次は勝手に入るようにしよう」


バラさんの返事は無い。

何かに一生懸命で、相手をする余裕は無いと言う事だろう。


と言うか一心不乱に何かへ息を吹き込んでいる。

確かにこれでは手も口も空く訳が無い。

す、済まなかった、本当に反省している。


ペイルネッタの方は固定された大型のレンズを覗き込んで、

ガラス製品に細かな作業をしている。

一段落が付くまでは恐らくこのままだ。


使用していない椅子があったので勝手に腰掛けさせて貰った。

ペイルネッタが作業をしていたのはガラスのシリンダーだ。

形状からして遠心分離器に嵌める物だろう。


リング状に加工された鉄の輪へ何度も通そうとしては引っ掛かり、

その部分を金鑢かなやすりで削っていた。


確かに、シリンダー部分は取り外しができるように指定した。

リングの固定具に嵌めるためには、

注水口に縁どられた枠までは全体がすっぽりと収まらなければならない。

それを8つ分だ。


バラさんも、以前作っていた手に持つような普通のグラスでは無く、

親指1本程度のシリンダーには苦労をしているようだ。


吹いては破裂させ、吹いては歪な形状になり、

まともにシリンダーとして完成したのは既に置かれた1本と、

現在ペイルネッタが加工している1本の合計2本なのだろう。

薄手のガラスシリンダーはこの時代の技術段階では作成が難しそうである。


「おっしゃ、これでどうだっ」


バラさんがシリンダーの作成に成功したようで、声を上げた。

壊さないように注意しながら焼け焦げた木の枠へ収めて、

その状態のまま3番目の冷却窯へ丁寧に納めた。


確かに、シリンダーはその形状から床に立てて置く事ができない。

自立しないので逆さまに置くか枠に入れるしか無いだろう。

木枠であれば、冷却用の1番目の窯では熱過ぎて焦げてしまう。


「わー、凄いです、バラさん!3つ目ですね」

「おうよ、段々コツが解かって来た気がするぞ」


それは有り難い。

その調子で残り5つを頑張って欲しい。


「おう、んで今日はどうした?」


「あ、ああ。これだ、頼まれていた物を持って来た」


バラさんが椅子に掛けられた手拭いで顔を拭き、

一杯の水(・・・真水では無いと思う)を口に入れる。

自分は昨日買ったビスケットを4つを机に並べた。


「先日甘い物が欲しいと言っていたのでな、

 フローダルの食堂で見付けた菓子を持って来た」

「わぁ、ビスクですよ、バラさん!」

「おお、良いな。水に合う、1つ貰うぞ」


「どうぞ、ご遠慮無く」


ペイルネッタは端っこをちょっと齧って味を楽しみ、

バラさんは豪快にひと口でかぶり付くと、グラスに残った水を流し込んだ。

グラスが空になり、水を補給する。

樽から。


やっぱ酒じゃねーか!


「調子はどんな感じかな?」


「まあ、俺達はできる事から、だな

 細いガラスの管みたいなのを作るにはあちらさん待ちだ。

 今はこの・・・なんだ、細長いコップを作ってる」


「シリンダーだな」

「しりんだぁって言うのですか、これは」

「アン?夢で見た割にはもうそれっぽい名前が付いてるのか」


し、しまった、そうだよ。

よくよく考えたら名称未設定のはずだよな。

おかしな事を言ってしまったと後から気付いて汗が出る。

部屋の熱さと相まってドバドバだ。


「ま、まあ良いじゃないか。カッコ良い名前で広まって欲しい」


「そんで、これだ。平たいガラスの器。

 ぴたっとガラスの蓋が収まるようにだろう?」


次にバラさんはシャーレと蓋を見せて来た。

奥の棚には同じ大きさの物が4つ並んでおり、

キチンと5個が作られているようだ。


「ああ、設計通りだ。素晴らしい」

「次はこの入れ物を作ろうと思うんだが、こりゃ何に使うんだ?」


バラさんが見せて来たのはビーカーの図面。


作るだけなら簡単に見えるが、

注ぎ口や目盛りを入れて貰わなければならない。


1ポットを計る計量カップとして、或いは液体同士を混ぜるため、

熱するため、用途は色々だ。


「実験に使うのだ、色々な事をするのでこれと言った用途は無い」

「ふーん、そんじゃあこれは?」


ピペットの図面を見せる。


通常はゴムの部品が付けられると思うが、この世界でゴムは厳しい。

直接口を付けて吸い込むしかなさそうだ。

液体を出す際には親指で蓋をしてちょこっとずつ放出する。

その為には多少吸い込んでも口まで入って来ない位の長さが必要である。


「液体を1滴単位で取り出す器具だな、

 片方に口を付けて吸い込み指で栓をする。

 後は指のコントロールで少量の液体を取り出せる」


図面に口や手を当てて仕草で説明する。

賢い職人たちなのだ、それで解ってくれると思う。


「なるほど、じゃあ多分次はこれを作ると思う。

 先っぽは細くって良いんだろう?」


「そうだな、細ければ細いほど良いと思う」

「ああ、解った。んじゃちょっと休憩したらまたこれ作っから」


「宜しく頼んだ」

「次もまた宜しく~」

「次は酒もな~」


次もビスケットで宜しいのか。

ペイルネッタは1つを食べ終えて満足そうに手を振った。

バラさんは酒らしい。



   ***



工房を後にして、再び徒歩で城壁を回る。


刻む時計亭に戻った時には既に昼前になっていた。

旅亭内は慌ただしく旅亭員が動き回り、

昼食の弁当が支給されているのだろう。


ここが利用できるのは今日の昼までである。

この後はパニに城門前の冒険者ギルドへ連れて来て貰うしかない。

名残惜しみつつも時計亭に鍵を返し、

外の冒険者ギルドからホドワにあった旧自宅の隣に出た。


大工達がせわしなく木の柱を抱えて動き回る。

直ぐにウッツに見つかって声を掛けられた。


「よぉ、いつの間にそこにいたんだ?」


「たった今来た所だ。調子はどうかな?」

「調子ったって見ての通りよ。

 これから柱を立てて枠を組んで棟上げだ。2階ができたら壁を入れてく」


「以前頼んだナイフは?」

「おう、アレよ。もう頼んでおいたが、お前さんはアレだな。

 どうして次から次へと、便利そうな物を考え出せるんだ?」


どうしてもこうしてもない。

過去に使った事があるだけだ。

言ってみれば自分には2000年の歴史の果ての知識がある。

有史以前の歴史も含めれば途方も無い。


単純に進んだ時代からやって来たのだからその位当たり前なのだ。


恐らくは12000年後の世界から、

自分がかつて暮らしていた日本と同じような世界に転移して来た所で、

そんな技術どこから考え出せるんだと疑問を持たれる事だろう。


デジタル化が進み過ぎると人間の考えられる範疇を突き抜けるので、

逆に文化知識は退化するかもしれない。

そういう事は1万年後の世界に暮らしてみなければ判らない。

文系の思考能力の限界である。


「今日は更に違う物をお願いしたくってだな」

「また何かあるのかよ」


「い、いや、今回のはそういう物では無くってだな、

 パピルスの束を保管する蓋付きのしょかんを作成して欲しいのだ。

 木の箱で、豪華でなくて良いので50枚程度入れられれば。

 それを、とりあえず3つか4つ」

「ほー?まあ、アンタ図面を引くみたいだからな、そういった物の保管か」


「まあそんな所だ。お願いしても?」

「そんくれえなら1つ100ナールで4つ?面倒くせえ5個作らせろ。

 5つで500ナール。弟子にやらせとくから、明日取りに来てくれ」


「解った、感謝する」

「おう、そんじゃな」


ついでに久しぶりのホドワの街並みを見ながら歩き、

冒険者ギルドの壁掛けからサンドラッドに帰った。


やはり・・・と言うか全員が既に着席しており、

自分の到着を待っていたようだ。

直ぐさま頂きますの合図を取り、

席に着くまで動かず頭を差し出して待機していたエミーを撫でた。


エミーが撫でられたのを見てイルマも頭を差し出し、

最後にナズとアナを両腕で抱え込んで撫でた。


撫でられるの好きね?君たち。

∽今日のステータス(2022/01/09)


 ・繰越金額 (白金貨30枚・利用券2枚)

     金貨 17枚 銀貨 59枚 銅貨 15枚


  作成依頼              (500й)

   書簡 × 5            500


            銀貨- 5枚

  ------------------------

  計  金貨 17枚 銀貨 54枚 銅貨 15枚



 ・異世界66日目(夕方)

   ナズ・アナ61日目、ジャ55日目、ヴィ48日目、エミ41日目

   パニ31日目、ラテ13日目、イル・クル10日目

   サンドラの旅亭宿泊6/10日目 シュメルの旅亭宿泊2/2日目

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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリー後半展開予想でワクワク。 [気になる点] 誰も言及してくれないから書くか。 本文) >しかし「倒す」と言う意味でなら実りは少なかったが、目的は地図なのだ。 >80層まで記載さ…
[良い点] 原作の雰囲気を残しつつ別の地域の話なので原作を知らなくても楽しめるところが良いですね [気になる点] 遊び人のスキル効果にセットした魔法は遊び人のレベルに依存するのは商業小説版でもなろう…
感想一覧
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