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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第卅章 外国
244/394

§231 発注

「パニ、お待たせ」

「はい、宿へお戻りになられますか?」


「いや、このままフローダルだ。酒を探したい」

「かしこまりました」


パニのゲートでシュメール冒険者ギルドからフローダルの冒険者ギルドへ。

冷えた体に温かな風が吹くフローダルの街は、この世の楽園かとも思えた。

転移初期地がここであったら快適だったろうに。


何故あんな悪徳商人が幅を利かすような田舎町だったのだろうか。

いや、転移したのはその更に辺境だったな。

どんな冒険物語も辺境のド田舎からと言うのは定番なのだろうか?


かつて自分がよく読んでいた日本のファンタジー小説では、

王族スタートとか貴族スタートなんてのも王道であった。

両極端過ぎる。


以前フローダルの冒険者ギルドで聞いた酒蔵を目指して歩くと、

右手に王城が見えて来た。

更にこの倍歩けば酒蔵なのだろう。


それにしたって中央の湖は大き過ぎる。


「パニ、右にあるのが王城らしい。デカいな」

「そうですね、サンドラッドにある王宮もそうですが、大きいです。

 それに・・・」


「それに?」

「この国のお城は何だか温かみがある気がします」


温かみか。


それは自分も初めて見た時に感じていた。

農業国家だし周囲の国とは争いも無く安定している。

要するに平和なのだ。


そうは言っても城門はやはり物々しい。

門は固く閉ざされているし、騎士も門を挟んで左右に2人ずつ立っている。


シュメールの王宮はギルド施設も兼ねているのか、

宮殿自体は警備も無く開放されており、

普通の服を着た一般市民がチラホラと出入りをしていた。


シュメールの王宮が無警備だった理由は、

あのエリアにいる者達が皆王国直属の技術者であったためだろう。

その前には二重のチェックを受けたのだし。


王宮を後に送り、暫く歩くと大きな建屋が現れた。

建物の規模からして、ギルドハウスや商館のように見えなくも無い。

これが言っていた酒蔵だろうか?

しかしながら門は閉じられているし、入り口は店構えの面では無い。

ここは製造元であって、誰でもウェルカムなようには見えなかった。


こういった所ではアンテナショップのような店が近くにあると思うのだが、

現地の人々はどこで酒を買うのだろうか。


しまったなぁ。

直接製造元に押し掛けるのでは無く、

まずは酒場や食堂でどこから仕入れるのかを聞いてからにすれば良かった。

全く、いつも無計画過ぎて自分に呆れる。


近くにある食堂を訪ねたが、店の者は人間語なのだろうか。

言葉が通じなかった。

他の商店を探そうと、もう少し歩き進んだ所で冒険者ギルドを発見した。


これだけ広い街・・・いや首都なのだ。


上陸不能な島のある湖が中心部にある事で、

対岸へは直線的に行く事ができない。

少なくとも、もう3か所位は移動できるポイントがありそうだ。

そうでなければこの都市は不便過ぎる。


「パニ、ここを覚えて置いてくれ。

 恐らく今後はこちらへ飛ばして貰う事になると思う」

「かしこまりました。一旦お帰りになられますか?

 僕ではお役に立てそうもありませんし、

 ラティさんかイルマさんを連れて来るべきかと」


それもそうだ。

ラティなら旅亭にいるし、2人を休憩させてやっても良いだろう。

冒険者ギルドからパニのフィールドウォークで帰って来た。


「ただいま」

「お帰りなさいませ、ユウキ様」

「おっ、お帰りなさいませっ!ご主人様っ」


「どうだラティ、順調か?」

「は、はい、い今の所大きく失敗をしたような事はありませんっ」


初めてナイフを扱ったにしてはミスが無いとは中々の健闘だ。

失敗を恐れて、とても丁寧にやったのかもしれない。

そういえばラティは極端にミスを恐れる性格だった気がした。


「ジャーブはどうだ?」

「俺の方はあまりかんばしくありませんね・・・。

 所々彫り過ぎてしまったり、

 線を汚してしまってよく解らなくなってしまったりした所が何ヵ所か」


「初めてなのだからそれが普通だ。ちょっとどうやっているか見せろ」

「は、はい。こうですかね・・・」


ジャーブは片手で木の板を押さえ、フリーハンドでスラっとナイフを入れた。


「あー、なるほど」

「えっ、どこかダメでしたか?」


「魔物じゃないんだから、そんなに一遍に切り込みを入れる必要は無い。

 先に切りたい所の手前をこうやって軽く彫ってだな、

 手が滑って行き過ぎてもこれならここで止まるだろう?」

「おおっ、確かにこれなら削り過ぎる事はありませんね」


「それでも今までの方法でここまで彫ったのは流石だ。筋は良いと思うぞ」

「はいっ、ありがとう御座います!」


「ラティの方を見せてみろ」

「はっ、はいぃぃ・・・」


ラティはちょこちょこと彫り進め、

彫り難い所は木の板をクルクル回転させてナイフを入れていた。


ジャーブがスパスパ行くのに対して、

ラティはザクザク、プチっと言う感じだ。

確かにこれならば大きく失敗する事は無いだろう。

唯一の欠点は遅い事か。


「ラティも、長く切れ込みを入れても良い所は、

 先程ジャーブに説明した通り溝を作って置けばスパッと行ける。

 臨機応変にな。作業自体は丁寧で良い仕事だ」

「あっ、ありがとう御座いますぅぅ」


「それからラティ、ちょっとこちらへ」

「へっ?・・・あ、あの・・・はい」


ラティを立たせて自分のたもとに呼び、

横から抱き寄せて頭を撫でた。


「頑張ったな。

 ラティはある程度の年齢なのだからと、

 これまで粗雑ぞんざいに扱ってしまっていたかもしれない。


 決してラティを軽んじていた訳では無いが、

 対応を他の者に任せてしまっていたのは良くなかった。

 ちゃんとラティの得手不得手は理解しているので、

 心配しなくても良いからな?」

「あっ、あの・・・は、は・・ぐすっ・・・うえぇぇぇぇ・・・」


おっと、このまま抱き寄せていたら鼻水だらけにされる。

退避だ、退避。


パニが泣きじゃくるラティに手拭いを渡した。

落ち着いた所でポンポンと頭を叩き、次の仕事を指示する。


「ラティ、自分は買い物をしようと思うのだが話が通じなくて困っていた。

 一緒に付いて来てくれ」

「ふぁ、はい゛ぃぃっ・・・(ズビビッ)」

「行ってらっしゃいませ、ユウキ様」


「あー、ジャーブも来い。息抜きだ」

「え、いやでも、まだ作業の途中ですが」


「それは練習だと何度も言っている。

 暫くは他にする事が無いのだし、少しずつ練習して上達すれば良い」

「分かりました」


ジャーブとラティを連れて先程の食堂へ。

中で酒を頼んでどこから仕入れているのかを聞いた。

やはりと言うか、当然目の前の酒蔵から直接だそうだ。


自分も酒を頼みたいのだと言うと、商店を案内された。


商店とは言っても一般客に向けて戸を開いている店では無く、

こういった食堂や商館に卸すための大口取引をする店であり、

現代で言う所の問屋のような所らしい。

酒蔵の真正面にある家の戸を叩けば良いと言う事までを教わった。


ラティのしどろもどろな通訳で若干不安が残るが、

つい先程自信を持てと言った手前もあって全面的に信用してやるしかない。


フローダルで見付けた2つ目の冒険者ギルドから、

酒蔵の方面に向かって4人で歩く。


相変わらずラティが遅めなので、

手招きして呼んでパニの後ろを行くように命令した。

隊列的には自分、パニ、ラティ、ジャーブである。


「この状態で行くぞ?後ろに離れ過ぎて迷子になったら困るからな。

 ラティはもっと自信を持って歩いてくれ」

「はっ、は、はい・・・」


  「ニィちゃん早くー」

  「まてよ、走ったら転ぶぞ」


そんなやり取りをした横を汚れた服装の狼人族の子共が駆けて行き、

直ぐ横の食堂に入ったようだ。

先程の食堂よりは狭めだが客もチラホラいる。


身なりは悪いが子供2人で食堂に入る位なんだから、

そこそこに金を持っている家の子供なのだろう。

こういった時代背景に於ける子供の遊びと言えば、

外で泥だらけになってしまうのは仕方無い。


  「xxxxxxxxxxxxx?」


  「まさるてぇーに、えるでぃ、いーぐら、どばしゅ、うーぎあ」

  「xxxxxx」


なっ・・・!?


あの狼人族の子供は自分の理解できない言葉を喋っている。

少なくとも狼人族の言葉では無いし、食堂の給仕は人間の女性だ。

とすると、人間族語を喋っている事になる。


あんな小さい子でも第2言語を習得しているのだ。

きっと育ちが良いに違いない。

浮浪児や奴隷であれば本来なら入店お断りだろう。

泥にまみれた格好では他の客が困る。


「な、なんて言ったのだ?」

「えっ?・・・えっと、うっ、うーぎあと言う物をふっ、2つ、

 頼んだみたいです」


人間族語が唯一解るラティに振ると、やはり答えが返って来た。

あの2人組の兄弟は遊び疲れておやつを買いに来たのだろうか。

そんな金を持たせている事はやはり良いトコ出の子供なのだ。


給仕の女性もニコニコして何かを手渡した。


  「おいしいね」

  「うん!おいしい。食べたらまた川に行こう!」

  「いいよ、さっきのカエルで遊ぼう」


兄弟は1口よりは大きめ硬パンをチビチビと食べて腹を満たしていた。

他人が旨そうに食べていると、自分も気になるのはサガだ。

それに大きくは無いのでおやつにピッタリである。


「ラティ、アレを4つ買って来い」

「ヘっ?あ、あの、は・・・はい」


先程の兄弟は、銅貨で25枚を渡していた。

では4つなら50ナールだ。

1個12.5ナールと言った半端は有り得無いし、

そもそも1つが小さいので、恐らくは2つで25ナールなのだろう。


ラティに銅貨で50ナールを渡し、注文を任せた。


「あのっ、xxxxxxxxxxxxxxxウギア」

「xxxxxxxxシューギア?xxxxxxxxxxxx」


直ぐに4つのシューギア?を受け取って、ラティは帰って来た。


「おっ、お待たせしましたっ。

 こっこれは、ドーバシューギアと言う物らしいですっ」


硬く焼いたパンに、風味付けに乾燥したハーブを振り掛けてあるようだ。

皆に1つずつ渡し、その場で食べてみた。


「これは中々!甘くてしっとりとして、美味しいですね!」

「あわわ、こ、こんな甘くて美味しい物を、あっ、ありがとうございます」


蜂蜜の風味が強く脳は混乱したが、これはビスケットだ。


と言っても日本で言う所のビスケットでは無く、イギリス流に言った所の。

発酵させずに硬く焼いた小麦粉の歯応えは、

本来ボロボロでパサパサしているはずであるが、

蜂蜜がまぶされている事でしっとりとしていた。


「これは飲み物が無くても食べ易いですね。

 半分ヴィー様に持って行っても宜しいでしょうか?」


「いや、それはパニが食べて良い。

 他の者達にもお土産で買って行こう。

 おーい、済まないがこれを後16個くれ」

「xxxxxxxxxxxxxxxxx?」


自分の声に反応した店員がやって来たが、やはり通じないのであった。


「あー・・・ちょ、ちょっと待ってくれ、ラティ、頼む。16個だ」

「あっ、ハイ。xxxxxxxxxxxxドーバシューギアxxxxxx」


ラティが注文を取り次ぎ、店員は返事をして戻って行った。


「ユウキ様、16個では数が合わないと思うのですが」


「ああ、別の所で何か持って来てくれと頼まれていたのだ。

 本当はタコスを買って持って行こうと思ったのだが、

 こういうのがここで手に入るならこれで良い」

「そういえば、ホドワの酒場はあれから行っておられませんね?」


「タコスが恋しくなったか?」

「えっ、い、いえ、あの、はい、そうです・・・」


「家が完成するまでは我慢してくれ。

 ラティやイルマだってまだ食べた事が無いのだ」

「そ、それもそうですね」

「はい?わっ、私が何か・・・?」


ジャーブが慌てて何でも無いんだと取り繕ったが、

その挙動はますます怪しいぞ。

隠すような事でも無いだろうし、何やってるんだか。


「では用件も済んだので行くぞ」

「分かりました」「かしこまりました」

「あっ、あの、まっ、まだ食べ掛け・・・」


大事に食べていたラティを急かすと、

一気に口の中へ押し込んで(むせ)ていた。


大事に食べたいなら持って帰れば良いのに。

少なくともラティは奴隷の教育を受けていないし、

駄目だと言った事も言われた事も無いはずなんだが。


食堂を出て酒蔵の方向にやや歩き、何の変哲も無い民家の前に出る。

ラティが聞いた所に依ると、この家が商店のはずなのだ。

扉を叩いた所で普通のおばちゃんが出て来て、

「あんた誰?」って返されても非常に困る。


「ラティ、本当にここで合ってるよな?」

「え、あ、あの、はい。おっ、お酒は大きな建物で作っていて、

 しょっ、正面の小さい家で買い付けできると聞きましたので、

 ここで間違いないですッ!・・・多分」


──ドンドン。


「ごめん下さーい」


もう信じて当たるしかない。

駄目ならラティが別の場所を聞くだろう。


「xxxxxxxxxxxxx?」


中から女性の声がしたが、やはり不明だ。


「ら、ラティ、頼んだ」

「あ、あの、はいっ。ど、どちら様ですかと聞かれてますっ」


「酒を買いたいのだ、酒。ラティ頼む」

「か、かしこまりましたっ。xxxxxxxxxxxx」


食堂で酒蔵の販売店を聞いてそこに向かったのだから、

お前の主人は当然酒を買いたいはずなのでは?


駄目か?

イルマも多少そういう所があるが、

ラティは完全に説明する必要がある。


「xxxxxxxxx!」


──ガチャッ。


扉が開かれ、女性が出て来た。

やや太めのおばちゃん、人間だ。

商売人っぽい恰好をしていない、

どこにでもいる普通の主婦っぽいダボっとした格好で、一抹の不安が募る。


「xxxxxxxxxxxxx?」

「こっ、ここは大口の取引しかしてないと、

 お、お、お、仰っております・・・が?」


ラティが恐る恐るこちらの様子を窺う。


ああ、そうか。

ラティは自分が買いたい酒の量がビン1つ2つだと思っており、

大量に買いたいと言う意向を知らないのだ。

そこまで気が回らなかった主人のミスだ、済まないな。


「ラティ、自分はさるお方に頼まれて、最高級の酒を買い付けに来た。

 この店で用意できる酒で、それも1番良い物を買いたいと言ってくれ」

「えっ、ええ!?そそそ、そうなのですか・・・」


(すーはー)


「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx」


ラティが呼吸を整えて交渉を始めた。

びっくりし過ぎて呼吸困難にさせてしまったようだ。

これまでラティの前では、

高級品を大量に買い付けるような事はした事が無い。


サンドラッドの旅亭は高額であったが、

その時ラティは部屋の豪華さに驚いてへたり込んでいた。

慣れていないのだ。


一般的な奴隷であれば、ある程度主人の懐具合が判るだろう。

金持ちでなければ奴隷は買えない訳だし。

しかしラティの思考回路はギリギリ平民。

高級旅亭も大量発注も、全てが初体験なのであった。


「ごっ、ご主人様。話ができそうな者に代わるので待って欲しいと・・・」

「そ、そうか。獣人か竜人もしくはドワーフ、

 或いはブラヒム語が解る者で頼むと言ってくれ」


「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxブラヒム」

「xxxxxxxxxxxxxxxx」


女将さんが奥へ引っ込んで行き、若い男性を連れてやって来た。


「こんにちは、沢山のxxxをxxx買いたいですか?」


うん?所々解らない。


「そうだ、この国の最高級の酒が欲しいのだが、ここで手に入るか?」

「ええと?この国の?xxxお酒?」


ん?

通じない?

ブラヒム語かな?

自分が何語を喋っているのか判断できないのが一番困る。


相手は人間。

鑑定の結果もそう言っている。

ではブラヒム語だろう。


「高級、最高級、1番良い奴」

「ああ、はい。良い奴。1番?」


「そう、1番いい奴。この国の」

「この?ウニの?」


「フローダルで1番の」

「ああ、フローダル。xxxxxxxxxの1番ね」


「ブラヒム語は難しいか?」

「えっ、はい、はい。探索者に成ったばかり。私勉強中です、今」


か、片言過ぎる。


日本語を習いたての外国人のようだ。

簡単な表現で基礎的な文法でなければ、多分理解できないのだろう。

こちらの理解が追い付いたので、もうそれで行く。


「フローダルで、1番、良い、お酒。いっぱい、買いたい」

「はい、それならグゥウェンディです」


「どういう酒なのだ?」

「はい?xxxxx酒?」


「ああっもう。えぇっと、その、お酒は、どのように、作りますか」

「3つの酒からなります。白いカレム、赤いカレム、タパッハの酒です。

 xxxxxxしたものを混ぜてxxxします」


もう解らん。

彼では駄目だ。

専門用語が入り交じっているのだと思う。


「ラティ、おばさんに聞いてくれ。どうやって作っている?」

「あっ、はっ、はい。xxxxxxxxxxxxxx?」

「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx、

 xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx」


かなりの長文が返ってきた。

専門用語が混じると思うし、ラティがちゃんと訳せるか不安である。


「ええと、みっ、3つの果実を発酵させたワインを、

 蒸留・・・?を、くっ、繰り返して混ぜるのだそうです」


「ほう、フレーバーワインだな?」

「ええっと?ぐれーたー?ワイン?」


「ええと、混ぜたワインって事だな?」

「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxx?」

「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxx」


「たっ、ただのワインを混ぜた物とは違って、

 ふふ風味だけを混ぜ合わせた物で、かっ辛くてとても強いそうです」


「ちょっと試飲させて貰っても?」

「あっ、あのっ、し、シーンって何でしょうか?」


「試し飲みだ。ひと口飲みたい」

「xxxxxxxxxxxxxxxxxx」

「xxxxxxxxxxx」

「xxxxx」


女性が若い男に何かを合図すると、若い男は店の奥へと消えた。

通じたのか通じていないのか、ラティからの返事が無いので判り兼ねる。


「ラティ、この女性はなんて?」

「あっ、はい。さっ、先程の男性に一杯入れるように伝えたようです」


試飲はOKね。


はーもう何だか面倒臭い。

イルマだったら多分もう少し纏めて交渉してくれたのでは無いだろうか。

人選を間違えるとこうなのだ。


ラティに当たっても仕方無い。

また自信を無くす原因になっても良くないし、

そもそもが人間語の勉強から逃げて来た自分の問題であった。


若い男性から茶色い液体の入ったグラスを受け取る。

ここでは透明なガラスのグラスであった。

装飾こそは無いが、これは一般的なワイングラスに匹敵する。

流石に足も無ければ持ち手はくびれていないが。


まずは鼻を近付けて風味を味わってみる。


ワインのようなきつめの酸っぱい香りは無く、

純粋なアルコールとはまた違う深みのある香りである。

ほのかに甘酸っぱい感じが残るあたりは、

原材料がワインである事を示しているのだろう。


次にひと口を含む。

ピリッとキツイ辛みが口の中に広がり、口内のあちこちを刺激する。

口に含んだだけなのに鼻の先までアルコールの吐息が抜け、

相当に酒精が強い事は理解できた。


唾液にまぶして薄めて飲み込む。

喉は熱く焼け、鼻の奥にもアルコールが込み上げて来る。

辛みから解放された口の中には僅かな果実の風味が残った。


1口で判る、これは良い酒だ。


高級レストランや雰囲気の良いバーなんかで出て来る、

グラス1杯おいくらの奴だ。


「良い酒ですね」

「はい。この酒は、15年寝ていた1番の品です。

 他にも、20年寝坊したxxxxxや、

 30年永眠した1番上の上もあります」


ええと、15年物がこれで、20年物と30年物があるのだな。


「ラティ、これを購入したいのだが販売単価、あっ・・・うーんと、

 どの位の量で、どういった容器に入って、それが幾らか聞いてくれ」

「は、はいっ。

 xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx」

「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx」


女性が陶器のカメを取り出して見せる。


「xxxxxx」

「にっ、2000ナールだそうです」


次にそれより沢山入っていそうなガラスビンに入った物を見せる。


「xxxxxxxxxxxxxxx」

「ガガガ、ガラスビンのごっ、500ナールを含めて、

 さんっ、3500ナール!だっ・・・そうです」


最後に店の壁面へ積まれていた木の樽を指さして答えた。


「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx」

「ああああの樽に入った物は、なななっ7000ナール!!

 ・・・だそうです」


「ええと、15年の物が?」

「xxxxxxxxxxxxxxxx」

「xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx」


「じゅっ、15年寝かせた酒がその価格で、

 20年はばばばっ、倍!!!

 さ、30年はぁっ、ぁっ、ぁっ、さん、3ばぁい!!

 ・・・・・・だそうです」


樽1つが7000ナールで3倍だと2万1千ナールか。

ルスラーン、マリク、イルハンに1つずつ買ったら家が借りられるぞ。

流石最高級だけはある。


日本の物価に換算して考えると、物価の比率は30倍だと仮定して、

ガラスビンに入った奴で1本約30万円だ。

樽だと63万円。


ヒィィ。


を、3つだ。

約200万円。

うへぇ・・・。


金持ちの道楽は解らん物だな。

ラティが価格を説明する際に、

挙動がどんどんおかしくなって行くのも頷ける。


「ではその樽3つ・・・いや4つ頼んでくれ」

「はっ、はい、ええと15年の樽を4つ、ですよね?」


「バカ言え、30年の物だ」

「は、はい。さ、30ですね、えええええええっ!?」

「こんな高級な物を4つもお買い求めになるのですね・・・」

「そこはやはり、ユウキ様ですから」


「呑気な事を言っているようだが、担いで持って帰るのはお前達だからな」

「はい、それは勿論分かっています」「えっ?」「はいぃっ?」


え、じゃないよ全く。

なぜ自分が持って行かねばならんのだ。

それが君たちの仕事だろうが。


ラティがビクビクしながら注文を伝えると、

おばさんと男性が奥の方からコロコロと樽を転がして持って来た。

確かに樽であれば転ばして運ぶのは正しい。

外でやったら栓が抜けそうだからちゃんと持って行くべきなのだろうけど。


ポーチから壁掛け絵布を取り出してゲートを出し、

ジャーブが2つを、パニとラティが1つを持って旅亭に運ばせた。


くして目標であったガラス器具の発注は滞りなく済んだし、

ルスラーン達に頼まれた酒の用意もできたし、

細工師の2人に頼まれた差し入れも見つかったしで、

満足の行く行程であった。

∽今日のステータス(2022/01/06)


 ・繰越金額 (白金貨30枚・利用券2枚)

     金貨 26枚 銀貨  3枚 銅貨 65枚


   食堂1              (250й)

    ハニービスケット   ×20   250


   食堂2              (200й)

    エール        × 1    80

    ジュース       × 3   120


   酒問屋            (84000й)

    バンディール(30年)× 4 84000


     金貨- 9枚 銀貨+56枚 銅貨-50枚

  ------------------------

  計  金貨 17枚 銀貨 59枚 銅貨 15枚



 ・異世界66日目(11時半頃)

   ナズ・アナ61日目、ジャ55日目、ヴィ48日目、エミ41日目

   パニ31日目、ラテ13日目、イル・クル10日目

   サンドラの旅亭宿泊6/10日目 シュメルの旅亭宿泊2/2日目



 ・作中名詞注訳

  蜂蜜     → ドゥバシュ(ヘブライ語)

  ビッスケット → ウギア(ヘブライ語)

  林檎     → タプァッハ(ヘブライ語)

  葡萄     → カレム(ヘブライ語)

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