§226 模写
翌朝、幾ばくかマシになった朝食のメニューへ安堵しながら、
今日の予定を皆に伝えた。
「今日はシュメールと言う町に行く、パニは一緒に来てくれ。
行きは自分が送るが、お前に送って貰ったと言う形が必要なのだ。
帰りを頼む」
「かしこまりました」
「その間に、他の者は版画を作って貰いたい」
「ハヌバ?とは何でしょう?」
「私達にも作れる物なのでしょうか?」
「ここにラティが描いた地図がある」
荷物置き場に束ねられたパピルスの束から1番上の物、
(──恐らく1番構造が狭いので1層なのだと思う)
を取り出し、その一部を木の板にペンで写した。
「こんな感じに木の板に写してくれ」
「やはりご主人様は何をなさってもお上手です」
「ラティの地図をこちらへ描き写すのですか」
「難しそうですね・・・」「ふーん?」
「あ、あの、これからこの仕事を私たちが行う事になるのでしょうか」
(ふるふる。)
「今日は皆がどの位適性があるかを見たいだけなので、
本番では無いから安心してくれ」
「適性・・・と言いますと?」
「練習と言う事ですか」
「なる・・・ほど」
「失敗したらインクを手拭いで拭き取ってくれ。
失敗した箇所だけ消すと言うのも練習だ。
それから、写す際はひっくり返して裏側から見て描く事。
表面の複製では意味が無いので注意してくれ」
「「かしこまりました」」「分かりました」
「えーできるかな?」
「エマレット、頑張りますよ?」(こくこく。)
「こっ、これがバンバなのですか」
「ハンガだ、ハ、ン、ガ。これはただ写すだけなのでちょっと違う。
版画を作るための練習だ」
「あゎゎ・・・きっ、木の板に描くなんて初めてですぅ・・・」
「ラティはまず1層の地図を5枚分パピルスに描き写してくれ。
1人1枚地図が無いと作業はできないからな。
それが終わったら大きな地図を小さく纏める作業をして欲しい。
複数枚に跨る地図だと木の板では収まり切らなくなる」
「わ、わかりましたっ」
「それだと1人分足りなくないですか?」
ジャーブはやはり思慮が足りない。そういう男だ、この男は。
「ヴィーは流石に無理だろ?文字が写せん」
「それもそうですね」
「なんでッ!アタイがいちばんジョーズかもしれないじゃん!」
「お前は描き損じた木の板を洗ったり拭いたり、手拭いを濯いだりしろ」
「エー・・・」
自宅から持って来たタライを3つ並べ、
ウォーターウォールで水を注いで洗い桶を作った。
インクの壷は2つあるし、各机1個ずつあれば十分だろう。
「ナズ、追加のペンとインクやパピルスが足りなくなったらこれで」
「はい、お預かり致します」
朝食が片付けられた机にパピルスを並べ、
ラティはせっせと1層を裏返しに写し始めた。
「ラティ、複写と原本が混ざらないように、複写は複写と書けよ」
「は、はいぃっ!」
言わないと混ざる、そう確信した。
コピーのコピーのコピーでは、どんどん劣化して段々とおかしくなる。
原本は絶対に死守した方が良い。
ただでさえパピルスは破れ易いのだから、保管は慎重に行う必要がある。
木の板を6枚積んでパニと部屋を後にした。
──ヴォン。
向かう先はホドワにあるウッツの工房だ。
木の板への模写が終われば、次は彫る作業が必要である。
彫る道具が必要なのだ。
「こんちゃー、ウッツさんはいるかなー?」
「ダンナなら暫く現場だよー」
中から女性の声がした。
ウッツの奥さんだろう。
現場・・・そうか。
既に自分の家へ向かっているのか、朝早くご苦労な事だ。
自宅が無くなってしまっているので近くに飛べそうな目印は無い。
仕方無く徒歩で自宅まで歩いた。
「パニ、現在自宅は取り壊して建て直しをしている。
どうなったか気になるな?」
「そうですね。建て替えをなさっているのだと、船の上でお聞きました」
「そうだな、それからラティとイルマの他に、
クルアチと言う女性の奴隷も加わった、兎人族の若い娘だ。
家が完成したらまた賑やかになるな」
「そ、そうですね。僕には今も十分賑やかですが、
毎日十分なお食事を頂けて、先輩方もお優しく僕は幸せです」
パニも元が悲惨なだけあって、今の生活で相当満足しているようだ。
全ての奴隷が酷い扱いを受けている訳では無いと思うが、
うちに来る子はみんな幸せの閾値が低過ぎる。
ヴィーも一見我儘に思えてその実食以外にはてんで無頓着だし、
ラティも性格からしてこれまで良い目には合っていないように見える。
ジャーブも苦労人だし、エミーの境遇は考えるだけでも悲惨だ。
「ここを曲がって、おおっ」
自宅付近の交差点を曲がるとそれまであった自宅は全て消えて無くなり、
土台部分が掘られてコンクリートで固められていた。
風呂のタライ部分と・・・元はトイレだろうか、
穴が2つできており増設された状態を確認できた。
そして石窯と竈門、石作りの作業台がそのまま残っている。
大工達は数名が土台部分に何かを塗り込んでいた。
補強のための追加セメントだろう。
「やあ、どうかな?作業の方は」
「おお、御主人ですね。見ての通り、土台は今日の朝中に終わりますね。
これが乾いたら木を組んで棟上げ、その後は壁を作って行きます」
「そうか、宜しく頼む。完成したらまた宴会をやろう」
「おおっ!やはり期待しても宜しいのでっ!」
「任せて置いてくれ。ウッツさんは?」
「さあ?土台の準備ができるまではここには来ないんじゃないですかね。
こういうのは親方のする仕事じゃないんで」
「うーんそうか。彫刻刀を借りたいと思ったんだが」
「こーこくこう?」
「家具を綺麗に細工彫りしたりしないか?」
「高級箪笥や高級椅子などにはしますね」
「そういうのを彫るためのナイフを買いたいんだ」
「買う・・・んですか。さーどうでしょ、そういうのは親方に聞かないと」
「どこで売っているとかは?」
「道具鍛冶はこの街に居ませんので何とも。
親方しか注文先は知りませんね」
それもそうだ。
鉄を溶かして形成するには大量の木材が必要になる。
雨が少なく木材に恵まれないこの地域で鉄を加工するのは大変だ。
森林地帯であったバムオならばあるのかもしれない。
ウッツは木材の買い付けにその街を指定したので、
恐らく金属工房もそこにあるのだと思う。
家を建てるに当たっては釘や蝶番、鍵等に金属部品が必要だ。
暫くここには来ないと言うのは、
それらを注文或いは取りに向かっているのかもしれない。
「ではウッツさんがいないと話にならんな」
「あっでも、暫くは木材を装飾する仕事は無いんで、
俺のならお貸しする事はできますよ」
「おお、本当か、それは助かる」
「ちょっと待ってて下さいね、取って来ます」
買うつもりで来たが、貸して貰えるならそれでも良いや。
どうせやる事は試し彫りなのだ。
ウッツにはちゃんとした彫刻刀を注文して作って貰おう。
どこにお願いするのかも知らないし、
2度3度手間になる位なら全部ウッツへお任せだ。
顔見知りからの注文の方が無理を言って貰えるかもしれないし。
「お待たせしやした、これですね」
渡されたのは刃先が斜めにカットされた切り出しナイフであった。
それが2本、砥石もある。
確かにこれでも十分な作業はできると思うが、効率は悪いだろう。
彫刻刀は他の形があってこそだ。
「パニ、ゲートを開くので、ラティから画板を借りて来い」
「はい、行って参ります」
──ヴォンッ。
向かいの家の壁にゲートを開き、パニを送り出した。
「あーでは、これをちょっと借りるので、
ウッツさんが来たら似たような物を注文したい。
その形を指定したいので、ちょっと今から描くので待っててくれ」
「えっ?俺に?勝手に注文受けちゃって大丈夫かなあ」
「大丈夫大丈夫、金はウッツさんにお任せで良いし、期間もお任せだ。
今直ぐに必要としないのでじっくり作って欲しい」
「そういう事なら」
「お待たせ致しました。ラティさんの絵板とペン、パピルス、インクです」
パニから画板と筆記具一式を受け取り、彫刻刀の姿を思い出しながら描く。
V字型、U型、I型、∠型の4点だ。
∠型は今借りた2本がそれに当たる。
多分VやU字型のナイフはまだ無いのだと思う、完全に特注だ。
果たして作成できるのだろうか。
「こんな感じの物を2組欲しい。後は砥石も付けてくれ。
ついでにこんな感じの木箱へ入れてくれると尚良い」
「へ、へー。流石ご主人ですね。
以前注文された石窯や桶なんかもかなり精密な図でしたが、
これまた只のナイフをこんな綺麗に描かれたんじゃあ、
もうやるしかねえや。多分親方もそう言います」
「じゃあ頼む。
作った物が気に入ったら、そっちの工房で使ってくれて構わないから」
「はいさー、そんじゃ作業に戻らせて貰いやすね」
弟子の男は注文のパピルスを道具置き場まで持って行き、
追加のセメントを桶に汲んで戻ると、そのまま塗り込む作業を続けた。
「ユウキ様は道具にも精通なさっておられるのですね?」
「い、いや、別に精通している訳では無いぞ?昔触った事があるだけだ」
「そうなのですか、失礼しました」
そう、美術の時間でちょろっと彫った事がある位だ。
当時は余った木切れに謎の彫刻をしたり、
机を削って怒られたりと碌な使い方をしなかった彫刻刀だが、
今になってまたもう一度使う機会があった事へ自分でも驚いている。
日本の義務教育って凄いな。
文明が崩壊しても、
ちゃんと生活できる最低限の知識が詰め込まれている。
いやそれが目的では無いんだろうけどさ。
こうしてちゃんと役立って、それが生活の糧に使える位は生きているんだ。
再びゲートを出して、今度はシュメールへ飛んだ。
ゲートから出るとやはり怪しく笑う男が近寄って来る。
また鴨が来たな、そう思われているに違いない。
「送り返して貰う必要は無いぞ、シッ、シッ」
「何だぁ?冒険者かよ、チッ・・・」
「パニ、ここはシュメールと言う街だ。
この国の者以外はこの街に入れないらしいので送り返される」
「は、はあ・・・」
「と言う事で、旅亭に一旦帰るぞ。ゲートを出せ」
「はい、回顧に巡る行程を・・・」
旅亭の掛け布に出てラティの画板を返す。
以前パニに渡してあったガラス器具の設計図が描かれたパピルスと、
先日頂いた許可証を手に持ち、ポーチにしまった。
ついでに皆の模写の様子を見たが、
やはりナズだけは飛び抜けて上手であり、次いでほぼ同点のラティ、
ジャーブ、イルマに続き、エミーとアナはミミズが這っていた。
「アナ、エミー、お前はもうしなくて良い」
「え、いや、あの、が、頑張りますので」(ふるふる。)
「適性を試すと言っただろう?
駄目だと言う事が判ったので、ヴィーを手伝ってくれ。
水桶が3つとも真っ黒じゃないか。
取り替えて綺麗な状態を維持するのも仕事だ」
「は、はい、それでは行って参ります」
「あっ、じゃあアタイもー」
「エミーはヴィーに代わって手拭いを綺麗にだな?」
(こく、・・・こくり。)
「お、怒ってないからな?無理な事は要求しない。
エミーは掃除の方が得意じゃないか」
(・・・・・・こく。)
「じゃ、じゃあ、後は頼むぞ。終わったら裏面に2層を追加してみてくれ」
「はい、行ってらっしゃいませ」「頑張ります」
「エマレットの分までやらせて頂きます」
「あ、あ、あ、あのっ、やっぱり2層も写すんですよねぇ・・・?」
「お前の今日の仕事は主にそれだ。終わったら17層分を綺麗に描き直せ」
「はっ、はいぃぃ・・・」
「じゃ、パニ行くぞ。後2国、ドラッハとフローダルに飛ぶ。
この地域にある3国を覚えてくれ。
それからこの国のまだ行っていない3つの街も回る」
「かしこまりました」
パニを連れてサンドラッドでまだ向かった事が無いプタンノラ、
アルバブール、シュメルディハナイの3つの町に飛び、
その後にドラッハとフローダルにも向かった。
「フローダルは農業国家らしくて、食べ物や酒が盛んらしい。
一仕事終えたら、この街で酒を探す」
「お酒でございますか?」
「パニは酒は嫌いか?」
「ええと、飲んだ事がありませんので・・・」
「父が酒に没れていたのだったな、やはり嫌悪感があるか」
「そっ、そうですね。
勿論、父親のようには成りたくないと言うのもあるのですが、
僕はお酒を頂く立場にありませんので・・・」
「アナやジャーブは飲んでいるし、
何だったらナズは客から奢られて勝手に飲んでいるぞ。
タコスにもよく合うし次に機会があれば飲んでみろ」
「でっ、でも、もし酔って暴れたりなどしたら・・・」
「その時はヴィーが止める。気にするな」
「は、はいっ。ありがとうござます」
そしてパニを連れて再びシュメールへ。
今度はパニのフィールドウォークで飛んだ。
冒険者ギルドの立ちんぼは再び現れた自分の顔を見て舌打ちをした。
ええと、冒険者と商人であってはいけないのだったな。
元々探索者がメインジョブになっているし、
冒険者のパニは街の門で待たせて置けば良いだろう。
「パニ、ここから先は冒険者が入れないので門の外で待っていてくれ。
日が暮れるまで戻って来ないようであれば先に旅亭へ戻り、
そのまま皆と休んでいてくれ」
「かっ、かしこまりました」
パニを城門の外で待たせ、自分は門柱で立つ兵士に声を掛ける。
兵士、と言うか騎士だろう。
国同士戦う事が無いのであれば兵力では無い。
「この国の商売人と直接話をしたくやって来た。
この通り許可を得ているので宜しく頼む」
流石に騎士であればブラヒム語は通じるだろう。
羊皮紙では無いがパピルスよりは上等な材質の許可証を門番に見せる。
通路の反対側で警備に当たる騎士もやって来て、互いに許可証を見比べた。
「確かに、この書状は正式な物である。
通って良いが、その前にインテリジェンスカードの確認をさせて貰う。
それからあそこにいるのはお前の冒険者か?」
「そうだが?」
「それならこの横の待機所を使うと良い。
冒険者たちはその小屋で待っても良い事になっている。
パンとハーブティーはお代わり自由だ」
なんと、サービスが良いな。
それだけ国に余力があるのだろう。
流石は細工師を囲う国、資金は潤沢って事だ。
大声を出してパニを手招きで呼び、横の小屋で休むように言い付けた。
「パニ、飲料とパンは食べ放題だってさ。遠慮せず休んでて良いぞ」
「はい、ありがとうございます」
パニを見送り、自分はインテリジェンスカードのチェックを受けた。
「それでは通って良い。この国は初めてか?」
「初めてですね、何かしてはいけない事などがあれば教えて頂けると」
「まず、この国は城壁に囲まれ3区画に分かれている。
外層は外の国の者や冒険者が集まる町、旅亭や商店などはここにある。
多少は細工品を扱う店もあるので、
外から来る商人達は皆ここで仕入れを行っている。
外層の街はこの城門から見て反対側だ。
グルっと回ってずっと向こう側にある。
そこの冒険者ギルドでは案内して居らんので、
直接飛べる冒険者を雇って居らんなら歩いて行くしか無いだろう。
中層はこの国の市民街で、お前達が望む商品は並んでいない。
宿も無いし店も雑貨店や食品店のみだ。
そして内層は職人たちの町だ。
ここから職人を連れ出すと、職人も手引きした者も盗賊として処罰する。
許可無く内層で商売を行った者は誰であろうと罪人となるので注意せよ。
それから布類の持ち込みはできない。
着替えは勿論、大きな外套や傘もだ」
布類の持ち込みを禁止しているのは冒険者を拒むためだろう。
許可を得た者が中で移動用の布を広げたら、
ここでチェックする意味が無くなってしまう。
着替えと称して反物を持ち込んでは、やはり壁掛け布に加工できてしまう。
着膨れした状態で入ろうとしたらそのまま牢屋だろうな、多分。
と言う事は、中から移動するのは拙いと言う事に他ならない。
恐らく街の中の物全てが遮蔽コンクリートで覆われており、
床に敷く絨毯などがあった場合、遮蔽物質を塗られているのだろう。
ワープはできない。
うっかり使わないように封印して置こう。
「その許可証などは?」
「知らん。まず以て国外の者に許可が与えられる事は無かろう」
「商売では無く、共同開発・・・うーん、研究は?」
「研究とはどういう事だ?」
「このような物を作って貰いたいのです」
パピルスの束を見せた。
中で広げて罪人になる位なら、ここでチェックを受けた方が良いだろう。
「なるほど、貴公はどこかの貴族家の者であるかな?
それならば細工師ギルドへ直接持って行かれれば良いであろう」
インテリジェンスカードで確認された折、
苗字があった事に加えて見せた精密な設計図面は、
細工師の手の物だと思われたようだ。
貴族なんて大層な出では無いので普段なら否定するが、
この場では利用させて貰おうか。
「感謝する、それでは」
まずはこの許可証と共に付帯された住所へ行かなければならない。
と言ってもそれがどこであるか、初見の自分では難しい。
中に住まう町人へ聞くしかないだろう。
そしてその町人は・・・。
何も言うまい。
人間に話し掛けなければ良いのだ。
道を行く背の低い耳の尖った男性に声を掛ける。
「済まないが、ここに行きたいのだが」
「xxxxxxxxxxxxx?」
つ、通じねー!
どういう事だよ。
ドワーフ語は理解できるんじゃなかったのか。
「ああ、あの、済まん、人間語は理解できなくてだな?」
「xxxxxxxxxxxxxxx」
やはり何も解らない。
自分が理解できないと言う事は、相手にも理解できていないと言う事で、
恐らくは「コイツなんて言っているんだ?」
と言うようなニュアンスの返事をしているのだと思われる。
そうこうしていると、もう1人耳の尖った大人がやって来た。
ドワーフにあんな長身はいない。
つまりエルフだ。
・・・ん?
「xxxxxxxxxxxxx」
「xxxxxxxxxxxxxxxxxxx」
「xxxxxxxxxxx?」
こ、この人ドワーフのおっさんじゃなくてエルフの子供だったのか。
す、済まなかった。エルフ語は解らないのだ。
「済まない!済まない!」
手をブンブン降って頭を下げてエルフの親子から立ち去った。
こ、これだから種族差とか何とかは厄介なんだ。
はっ、そうだ。鑑定すれば良かった。
鑑定の結果、名前と種族、職業が出て来る。
バカバカバカッ!
これでもう何度目だよ!
自己嫌悪と焦りを振り払って、今度こそ猫人族の町人を見付けて・・・。
止めよう。
そもそも町人では必要な情報を得られない可能性がある。
結局食料品店が見付かったので、そこの店主である女性に声を掛けた。
大丈夫、ジョブは商人であった。
最初からそうすれば良かった。
「済まないが、ここに行きたいのだが解るか?」
「xxxxxxxxxxxxxx」
「ああ、えっとブラヒム語でお願いできないかな」
「人間語解らない人間なんて珍しいね?
アララビさんのお屋敷ならぐるっと回ってあっち側だよ。
あんたこの国の者じゃないでしょ、良く入れたわねえ」
この記載された住所と言うのはアララビと言う人の家であり、
お屋敷と言うのだから大きな家なのだろう。
ぐるっと回って向こう側ならば、また向こう側で聞くしか無い。
人間語、やっぱり覚えていないと不便だ。
特にこういった不自由な町では尚更だ。
相手は商人らしいのでブラヒム語を理解できると思うが、
村人を紹介されていた場合は詰んでいた。
またしても縛りプレイだ。
技能を持つ仲間が9人もいるのに、
この国では全て自分1人で行えと、無理を言いなさる。
便利なスマホの翻訳機能なんて無い。
OKデバイス?地図を見せてっ!目的地までのルートを教えてっ?
文明に慣れ過ぎるのも大概である。
***
さて、この国の特徴が解って来た。
城壁はコの字状であるが、互いに逆向き状態で設置されている。
一直線で中から外へは抜けられないようになっているようだ。
職人の逃走防止なのだろう。
入って来た入り口から見て反対側と言う事は、
より内層への入り口から近い場所の屋敷だと言う事になる。
中央は宮殿がそびえ立っているので、
あれが細工師ギルド兼城主の屋敷なのだと思われる。
城主と言うか国王だよな、王都なんだから。
そしてこの国のヒエラルキーは内層へ向かう程に上、
つまり紹介された商人は王宮近くに屋敷を構えている訳で、
大物商人である事が覗える。
これまで交渉事は自分1人の力で行って来たのだが、
流石に今回ばかりは格が違い過ぎる。
誰でもウェルカムな商館では無く、今度は大商人が相手だ。
ボルドレックはあちらから一方的に吹っ掛けて来ただけであったが、
まともな交渉事なんてどうしたものか。
ウジウジしていても仕方無い。
ここまで来たのだし覚悟を決めろ。
城壁伝いにぐるっと回り、切れ目にはやはり騎士が立っていた。
取り敢えず中の職人街にはまだ用が無いので、
城門前から目立つ屋敷をざっと見渡す。
門から直線状に延びる道の1区画目は、左右合わせて屋敷が4軒。
そのどれもが大物の商人の家なのだろう。
その先の区画にも大きな屋敷が続いている。
勿論アララビ邸がどれなのかは解らない。
ここには話を聞けるような商店はおろか、通行人すらいない。
結局門番の騎士に聞いてみるしかないだろう。
「済みませんが、アララビ様のお屋敷と言うのは?」
「うん?外国の者か、珍しいな。直ぐそこの右側の屋敷だ。
商人か?中では商売は許されないから注意されよ。
この中に入っても構わないが、その際は許可証を見せるように」
頂いた許可証で内層まで入っても良いらしい。
しかし許可証をいちいち見せるのは面倒だな。
この国の人はどうしているのだろうか。
外とのやり取りだって必要だろうし、
専用のタグのような物があるのかもしれない。
「ありがとうございました」
騎士に礼を言って目と鼻の先、大きな佇まいである屋敷の前に立った。
緊張はするさ。
相手は身分が異なる大商人。
就職したい会社の面接に行くのとは訳が違う。
大企業の社長の家へ直談判しに行くのだ。
許可を頂いた時点で話が通っているはずなので、
流石に門前払いって事は無いだろう。
しかし自分の話を理解して貰えるかどうかは不安になる。
大きく深呼吸をして、ノッカーを叩いた。
∽今日のステータス(2022/01/02)
・繰越金額 (白金貨30枚・利用券3枚)
金貨 30枚 銀貨 42枚 銅貨 85枚
雑貨購入費 銀貨4枚
(インク・パピルス代)
銀貨- 4枚
------------------------
計 金貨 30枚 銀貨 38枚 銅貨 85枚
・異世界65日目(朝)
ナズ・アナ60日目、ジャ54日目、ヴィ47日目、エミ40日目
パニ30日目、ラテ12日目、イル・クル9日目
サンドラの旅亭宿泊5/10日目




