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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第卅章 外国
231/394

§218 多面体

かなりの量の誤字報告を頂き土曜日の夕方頃に纏めて本文の再校正を行ったのですが、

どうやらコピペした内容が過去回だった模様です、申し訳ありませんでした。

(先の展開を誤ってコピペしなくて良かった)

グルシア公国、首都サンドラッド。

穀倉地帯の農園に囲まれた港町である。


暖かく湿潤な地域なのだろう、

ホドワの街と比べると町のあちこちに木が生えており、

雑草も生い茂った所が多々ある。


街の中心部にある大型施設の脇には花が植えられたプランターもあり、

水には不自由していなさそうである。


先程は船から降りた直後に冒険者ギルドへ向かったが、

今度は冒険者ギルドから改めての出発だ。


まずは報酬として受け取った旅亭の場所を、冒険者ギルドの受付で聞く。


「済まないが、旅立ちの暁亭と言うのはどこにあるかな?」

「それでしたら当ギルドの裏手の橋を渡った先になります。

 そちらへお泊りですか?」


「ああ、そうだが」

「旅立ちの暁亭では冒険者を用立てる利用券を配布しておりますので、

 忘れずにお申し付け下さいね」


利用券?

用立てると言った。


その旅亭ではこの冒険者ギルドと提携していて、

宿泊者に送迎サービスを行っているのだろう。

現代で言う所の送迎バスだ。

迎は無いと思うので送だけだと思うが。


と言う事は結構な旅亭、

大商人や貴族などの迎賓クラスの宿だと言える。


大丈夫か?

無料タダだしラッキーとか思ったが、

自分達は7人分を追加して貰わないといけない。

あまり高額過ぎないと良いのだが。


この国、いやこの町の事に付いてはあまり良く知らない。

冒険者ギルドであれこれ聞くより、

旅人が多い旅亭で聞くべきだろう。


他の街やここ以外の国と交易が盛んであるはずなので、

そういった情報を集めるのだとしたら、旅人の集まる宿屋か酒場が定番だ。

しかし自分は人間語が解らないので、酒場の線は消える。


確実にブラヒム語で会話できるであろう旅亭が安牌だ。

田舎者だと思われて吹っ掛けられたり騙されたり、

金持ちだと思われて襲われても困る。


受付に礼を言って裏手の橋を渡り、件の旅亭へと向かった。


おおっ・・・・・・。


確かに、気後れしそうな佇まいである。

4階建てで大きくゆったりした空間が広がり、

受付を含めてロビーには絨毯が敷かれている。


入口の軒には吊るし鉢に手入れされた花が咲いており、

門構えも左右に整えられた低木、その横には鉢植えが並ぶ。

どう見ても高級感が溢れている。


外から窺える旅亭のフロントには、

ピリッと背筋を伸ばした受付が外を見詰めていた。

いや、自分を待っているのだろうか?


最低でも今日、2人組の客が来ると判っているのだ。

あの男か?と様子を窺っていてもおかしくは無い。

万全の状態で待っていると言う事は、やはり格式高く高級なのだろう。


高級旅館やホテルなんて入った事が無い。

飲み会の帰りに終電を逃して転がり込んだビジネスホテルとは訳が違う。

お持て成しをされる事に慣れていない小心者だ。

ギクシャクしながら中へ入った。


「いらっしゃいませ、本日はお泊りでしょうか」


泊まる以外に何があるのだろう。


ホールを借りて宴会とか?

いや、こういう場合は晩餐と言えば良いのかな?

金持ちが泊まるなら十分に有り得る。


「あ、ああ。先程到着した船の船長から、

 ここの宿を提供して貰ったのでやって来た。

 一番良い部屋を取ったと聞いたのだが」

「かしこまりました。ええと・・・」


受付の男がパラパラと帳面をめくる。

めくる程に客がいるのだ、この高級旅亭には。

それだけ大勢の金持ちがこの町へ商売をしに来ており、

それだけ豊かな国なのだと窺える。


そういえばシルクスの宿も、

前日に行ったら4名部屋は1つを残して埋まっていた。

流石は港町、流石は人が行き交う大都市。


「2名でいらっしゃいました商人の方でお間違い無いでしょうか。

 お名前を頂戴しておりませんが、

 1人は竜人族の男性で宜しいでしょうか?」


「ああ、そうだ。それだ」

「ではインテリジェンスカードのチェックを」


腕を差し出して名前の照会を受ける。

照会と言っても伝えられていないので、

ここで初めて判明する訳なのだが。


その間に7人増えても大丈夫かを聞いた。


「はい?更に7名ですか。別のお部屋をお取りしますか?」


「と言うと、別の部屋にしなくても大丈夫なのか?」

「はい、今日お客様に提供させて頂きますお部屋は、

 10人が宿泊できる部屋となっておりますので、

 1部屋でも問題ありません。

 追加でお食事等が必要であればその分は頂く事になりますが」


「ええと、船長が何を頼んだか判らないので、

 合計9人で10日分、朝昼晩と湯をお願いしたい」


「はい、少々お待ち下さい。ええと、ユウキ・フジモト様ですね。

 ご貴族様でいらっしゃいましたか。

 既に頂いた代金を差し引きしますのでお待ち下さい」


受付の男がパラパラと帳面をめくり、

パピルスよりは上等な紙に何かを書くと、

ひっくり返してこちらに見せながら説明して来た。


や、やるな。逆筆は難しいんだぞ。


「お部屋代は人数では変わりませんので、合計9日分。

 それから、お食事代は朝も晩も150ナール、

 昼のお食事が100ナールでございます。

 追加のお湯が50ナールとなりますので、

 既に頂いている朝晩のお食事とお湯2名分を差し引きまして、

 合計で5万と3300ナールとなります。

 夜はランタンを貸出ししておりますのでこちらまでお申し付け下さい。

 お代は頂きません」


あら、ランタン無料なのね。

でも借りて混ざっても困るし、自前の物があるから不要いいや。


「それからほぼ定員までご使用頂けますし、

 長期のご利用でいらっしゃいますので、

 3万と7310ナールへとお値引きさせて頂きます」


け・・・結構するんだな。


10日で3万7千ならば、1日3700ナール。

9人で割れば1人当たり400ナール超だ。

初めて泊まったトラッサの旅亭が1人300ナールだった。

それより1つ格式高い事になる。


いっ、いや違うぞっ、3割引後の価格でこれだ。

先程9日で5万超えだと言われた。

部屋代が幾らだか解らないが、9人9日で割れば600ナールを超える。


やばっ、超高級旅亭だった。

少なくとも迷宮深部の報酬でだって泊まれるような宿じゃない。


「わ、解かった」


金貨4枚と銅貨10枚で支払い、釣銭として銀貨を受け取る。


ここだけ切り取ればモンスターカードを買うよりも高いし、

何だったらもうちょっと出して家を1軒借りた方が安いまである。

しかしここは最終目的地では無く、行くべきはシュメールなのだ。


10日以内にそこへの足掛かりを見付けて、

拠点を移したら残りの20日以内に目的を達したい。


この地での農産物も気になるし、

4,5日掛けて特産品や食材の買い付けなどをしてみよう。

何たって自分は商人なのだし。


それには、そういった物がどこで買えるのかを知らなければ話にならない。


アムルにあったような集荷場がこの国のどこかにもあるのだろう。

小売店から買ったのでは当然高くなる。

手が出せる元売りまで辿るべきだ。


受付で鍵を受け取って部屋まで移動する。

最上階の1室らしいので、10人も泊まれるような部屋なら直ぐ判る。


階段を上って最上階へ、

正面と左右突き当りに3部屋があるだけのフロアのようだ。

鍵には番号のような記号が無く、

太陽の模様が描かれていた。


部屋の扉を確認すると、正面が太陽、

左奥が炎、右奥には水のマークが描かれていた。

では、正面の部屋の鍵なのだろう。


・・・RPGか何かに良く在るような属性マークである。

この中に無いのは土と風の記号かな?

確かにそれでは直感的に判り難そうだ。


カギ穴へ差し込んで回すと軽快な音と共に戸が開いた。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


凄い。


広い。


詰めれば4人は寝られそうな大きなベッドが正面に2つ。

右には対面ソファが、左は暖炉が設置されている。

暖炉があると言う事は、寒くなる季節があるのだろうか。


今日は暑い位の日差しが降り注ぎ、

ホドワよりは湿った感じで蒸し苦しかった。


ソファベッドはテーブルを挟んで2台、2人はそこで眠れるだろう。

そして広い机、こちらは4人掛けだ。

ソファと合わせて10人同時に食事ができそうだ。

床だって切れ目の無い絨毯が敷き詰められ、華美に装飾が成されている。


正にエグゼクティブ。ラクジュアリー。プレミアム。

ここがこの旅亭のスイートルームである事は間違い無い。

早速シルクスから全員を移動させよう。


ワー・・・プじゃなかった、それは自分の首を絞める。

多分持ったとしてギリギリ1人、2人目で自分が倒れる。

フィールドウォークで飛ぶべきだ。


・・・待て、この部屋にフィールドウォークってできるのか?


ああ、そうだよ。

この部屋に直接飛んでくるなんて事はできやしないだろう。

そうであれば他の客が寝ている間に幾らでも泥棒できてしまう。

つまりフィールドウォークで移動するなら壁掛け絨毯が必要だ。

あちらの宿にも、こちらの宿にも。


この国の冒険者ギルドには、

それよりも更に持ち運び易そうな麻布の壁掛けが設置されていた。

あの布を2つ買って、宿同士を繋げば移動は容易たやすい。

持ち運びも楽そうなので、あれがあれば今後はどこにでも展開できそうだ。


ではまず壁掛け布の店からスタートだ。


その後市場や酒屋など食材を扱っている問屋の場所を聞き、

更にシュメールへの行き方も聞く。

ガラス製品を扱う業者がもし居れば、

オーダーメイドの仲介をお願いしても良いだろう。


他のメンバーは迷宮の場所を聞いたら稼いで来て貰おうか。

パニは冒険者、ラティは探索者だ。


どうせ最初は低層階からなのだし、

この国の迷宮でも地図を作成させながら、

情報を仕入れて来て貰えれば尚良い。


この国の迷宮の法とやらも気になる。

自分たちの暮らしている国では、

迷宮を討伐してはならないと言う法律があった。


こちらは別の国だ。

討伐褒賞があれば狙ってみるのも良いかも知れない。

まだそんな奥地に入った事は無いが、1つの目標には成るはずだ。


部屋の鍵を掛けて受付に向かい、

壁掛けの布を売っている店を聞いた。

この街では商店の集まる通りに長い屋根が設置されており、

その一角にあるのだと言う。


・・・長い屋根か。


冒険者ギルドを出て教えられた方に歩いて行くと、

建物と建物の間の道には後から建て付けられた、

細長い倉庫のような屋根の構造物があった。


どこからみてもアーケードだ。


店の軒部分を拡張してアーケードとして設置された訳では無く、

後から強引に作られた物ではあるが、何故こんなものが。

いやまあ存在するからには理由があるのだろうな。


例えば雨が多いとか。

雨期程度ならともかく、1年中高温多雨ならば買い物客も困るだろう。

そういう気候であるならばこの構造物も不思議では無い。

或いは冬に雪が降り積もるとか。


そういえばここは水も豊富で、この暑さの中で乾燥と言うよりは蒸し暑い。

どちらかと言うと・・・日本の梅雨。

ジメジメしているのだ。

やはり雨は多いのかもしれない。

暖炉が設置されていたのだし、雪の線も大いに有り得る。


左右の店が何屋であるかを確認しながら歩いて行くと、

織物の店を見付けた。


店の中では木の棒が天井から吊るされており、

そこに何重にも染められた布が掛けられている。

反物?布自体を売っているような気もする。

どれもシルクのような木目細かに織られている訳では無い。

木綿、或いは麻と言った雑布であるが、丈夫そうに織られていた。


「ごめんくださーい」

「はいはーい」


「冒険者ギルドに掲げられているような、移動用の布が欲しいのだが」

「そういう用途でしたら、どれを買って頂いても大丈夫ですよ」


「これは本来は何に使うのだ?」

「普通は床に敷いて上で寝たり、寒い時などは体に羽織ったりしますね。

 畳んで椅子の上に敷いたりしても良いですし、何にだって使用できます」


うーん、アバウトだがこれは敷布団にも掛布団にもクッションにもなる、

文字通り何に使っても良い布なのだろう。

でも何故なにゆえに布。


「この国では布団では無くこういう物を使うのか?」

「お客様は国外の方ですかね?

 この地域では夏場に暑くなりますので毛皮や毛布では寝苦しいですし、

 通気性が良くありませんとカビたりもしますからね。

 毎日洗うのも大変でしょう?」


布団にカビが生えるのか。

やはり湿潤な地方なのだな。


「では2枚頂こう。どれでも大丈夫なんだよな?」

「吊るされている物ならば大丈夫ですが、

 そちらの薄手の物ですと向こう側が透いてしまうので、

 移動魔法には使用できませんね。

 床に敷いて寝るには適度な柔らかさで、

 通気性もあり丁度良いかと思います」


要するに雑魚寝用の茣蓙ござだ。

寝袋替わりなのだろう。

街道で野宿する際に使うのか?


アムル周辺の荒野は危険だったが、この地方ではどうなのだろう。

良く解らないな。


「ではその吊るされた布を貰おう」

「はい、かしこまりました。

 2枚で2000ナールですが、この国の事は初めてのご様子。

 今後もご贔屓にして頂きたく勉強させて頂きまして、

 1400ナールと致しましょう。

 お気に召しましたら沢山お持ちになって、自国でも紹介して下さい」


そうか、そうだよな。


この国に外国人が来るとなると、何かを買い付けに来た商人だ。

冒険者や探索者の旅行者では無い。

そういう者は自国で十分暮らしていけるのだから、

わざわざ他国まで遠征するはずが無い。


試供品として安くするから自国で販売してくれと言う事なのだろう。

残念な事に自分で使用する用途でしか無い。


でも絨毯よりは安いし軽そうなので、

これは多分自国(と、言っても良いのか?)でも人気が出るかもしれない。


「吊るし具はあるか?」

「はい、大丈夫でございますよ。

 そちらは1つ50ナールですので2つで100ナールになります。

 合計で1470ナール頂きます」


追加で買ってもちゃんと割引が適用された。

当たり前か。

別々で買ったとしても2つ買えば同じ額になるのだ。


銀貨15枚を払って釣銭を受け取った。


その足で一旦旅亭に戻り、

鴨居かもいに吊るし具を引っ掛けて麻布1枚を垂らした。

適当に選んだ割には中々センスが良い。

鮮やかで落ち着いた波の模様が下面に広がり、

その上には漂う船の様子が描かれている。


もう1枚を広げてみると、

こちらは垂れ下がった穂が一面に広がる麦畑の様子であった。

こちらもこれで味がある。


軽めに畳んで脇へ挟み、船の掛け布からシルクスの冒険者ギルドへ飛んだ。

そこから旅亭には歩いて直ぐだ。

早速借りた部屋の壁に・・・。


こちら(シルクス)の部屋には鴨居かもいが無い!


どうやって吊るそうか。

勝手に釘を打ったら怒られるだろうし、

そもそもそんな物持ってないし売ってもない。


あちらはあって、こちらには無い。

やはり文化なのだろう。

大体、石造りの建物に鴨居かもいなんてある訳が無い。

木造住宅ならではである。


仕方無いので設置されている箪笥の扉を少し開いて、

扉の先に引っ掛ける形で設置した。

多分ちょっと動いたら落ちるな。


「済まないが、イルマ。もし落ちたらこの状態に戻してくれ」

「はい、ええと、このまま移動なさるのでしょうか?」


「そうだが、やはり移動したら落ちるかな?」

「そうですね、それでしたらそのまま扉を閉めて挟んでは?」


ナイスアイデアだ。

引っ掛けるよりは挟んで固定した方が遥かに良い。


「ではこれから向こうの宿に移動するので、荷物を持って往復してくれ」

「え、あ、はい。この荷物を?どこかに移すのですね?」


瓶やら桶やらリュックやら、

これまで家で使っていた道具が並ぶ。

これらが無ければ色々困る事になるので持って移動する他は無い。

この宿は今日までしか取っていないのだ。


もう暫くしたら昼ご飯を受け取ってチェックメイト。

・・・いや、チェックアウトだ。

片付けて出て行かなければならない。


ナズは鍛冶師ギルドの会長と話があるらしく、

製作手帳の購入資金を渡して送り出した。

パニも一旦は戻って来たが、講習があるらしくてそれに参加させた。


従って宿には自分1人で戻って来た。

流石に昼食を過ぎても帰して貰えないなんて事は無いと思うので、

ここを出た辺りでもう一度迎えに行けば良いと思う。


「隣の部屋の者も呼んで、一気に運ぼう」

「はっ、では声を掛けて参ります」


イルマの行動や言動は、時折アナと被って見える。


生まれながらの奴隷出と言う境遇が近い所もあるが、

主人に対して従順な所を以てしてそう思えるので、

これは恐らく厳しく躾けられた純粋な奴隷であれば皆こうなのだろう。


但しイルマの方は察して動けている訳では無い。

ナズやアナと接するように話をすると、彼女はいつも困惑しているようだ。

自分達の常識が通じない、本当の意味で彼女は奴隷なのだろう。


しっかり命令するとしっかりと返事をするが、

曖昧な表現で頼み事をすると、

前後関係を想像できないのかしどろもどろになる。

イルマの扱い方が何と無く解った。


ちゃんと説明しないと駄目なのだ。

或いは考える余地を与えるまでも無く、

これをやれと命令した方が彼女も動き易いのだろう。


イルマに連れられて、ジャーブ、ヴィー、エミー、ラティが集まる。


「ではこれから新しい拠点に移動するので、

 各自荷物を持って1人ずつ順番に移動してくれ。

 一気に移動すると自分のMPが持たないので、

 ゲートをくぐる間隔はこちらで指示する」


「分かりました」「はーい」(ぺこ。)

「えっ?いいい移動?やっ、宿が変わるのですかっ?」


ポンコツが一番不安なので最初だ。


「ラティ、最初に行け」

「えっ、わ、私からですかっ?は、はいぃ、行って参りますぅ!」


「参って来なくて良い、行ったらそこに居ろ」

「すすすすみませぇぇ──」


何か言い掛けながらゲートに消えたので、最後は良く解らなかった。

MPは・・・まだまだ大丈夫。

5人分は大丈夫だったはずなので、

荷物を抱えたのならば3人までは確実だろう。


続いてエミー、ヴィーが荷物を運んで行った。

特にヴィーは持てるだけ持つと大量に持ててしまうので、

ここで一気にMPが減ったと感じた。


強壮剤を飲み込み、ジャーブとイルマを送り出した。

残りの荷物はナズとパニの着替え位だ。

結構何とかなるもんだ。

あれだけの荷物を一息で持ち運べた。


では最後の2人の着替えは自分が持とう。

2人分6セットの服を抱えてゲートをくぐった。

MPはかなり減ったが、また直ぐ移動が必要になる訳では無い。


このまま自然回復を待ってから向こうへ戻り、

掛け布を回収して昼食を受け取れば良いだろう。


「ふう・・・。

 これから10日間は皆この部屋で過ごす。

 ベッドの割り当ては後で決めるので、ひとまず休んでいてくれ。

 食事も湯も持って来てくれると思うので、

 何かあれば・・・イルマ、対応してくれ」

「はっ。かしこまりました」


「今日はする事も無いので食事後に街を散策しようと思うが、

 一緒に出たい者は言ってくれ。明日は迷宮も行くからな?」

「分かりました」「はーい」「わっわかっ、分かりました!」


既にヴィーが大きなベッドで飛び跳ねて暴れた形跡が見えるが、

もうそこはお前のベッドとなった。

従って自分とナズとアナは右隣。

ジャーブとパニ、ラティはヴィーの所だ。

イルマとエミーはソファで良いだろう。


「ではナズとパニを迎えに行って来る」

「「いってらっしゃいませ」」「いってらっしゃいー」

「い・・・らっ・・・せ」

「ひぃぃぃ!こここのお部屋もももしかしていいい1番高いお部屋・・・」


最初にこの部屋へやって来たはずのラティであったが、

部屋の豪華さに呆然としていたのだろう。


他の者がゾロゾロ入って来たために移動を促され、

荷物を部屋の壁へ寄せた際に窓から外の町並みを見下ろして悲鳴を上げた。

そのままペタンと腰を落とす。


1人放心しているポンコツはもう放って置くしか無い。



   ***



アレクスムの冒険者ギルドの外でパニを待つ。

現在はパーティに入れていないので、

パニもナズも、その動向は窺い知る事ができない。


もう直ぐ終わりそうなのか、

終わってどこかで待っているのか、

まだまだ講習とやらが続くのか。


そりゃあまあ人生の一大イベントである上級職への転職で、

それも実力がある者だと認められるジョブなのだ。

転職してハイ終り、と言う訳にも行かないだろう。


パニは結局の所探索者の転職を経験させていなかった。

時刻合わせの試験をパスしていないので、

それを問われたらまずい事になるかもしれない。


日時計は時を読む。

秒を数える事より高度な技術だ。

ベースの知識が無ければ、

その延長の試験があったとして失敗する事は目に見えている。


それはヴィーの戦闘技能を見ても身に沁みて解っていたつもりだ。

しかし冒険者自体への転職は済んでいたようなので、

日時計が扱えないから取り消し、と言う事にはならないと思う。


そもそもアナからの特訓を受け、

合格できると太鼓判を押されていた気もする。

大体、取り消した所でどのジョブに就けさせるのさ。


不安な気持ちを掻き消すべくあれこれ否定の言い訳を考えていると、

冒険者ギルドから4,5人の団体が出て来た。

どこかのパーティが移動して来たのかと思ったら、その中にパニがいた。


講習とやらも無事済んだようだ。

最初に出て来た4名も同じ講習を受けた転職組なのだろう。


「パニ、こっちだ」

「はいっ、お迎え頂きましてありがとうございます」


「どうだったか?」

「はい。携帯用の小さな日時計を頂きまして、使用法を教えて頂きました。

 今は春の刻ですので、ここに紐を引っ掛けて吊るすのだそうです。

 こちらが夏で、こちらが冬、秋の際は春と同じで良いのだとか」


パニが歪な形の複面体をクルクル回して説明した。

自分の知っている日時計とはまるで違う。


もっとこう平べったくて床や机に置いて、

小さなでっぱりの影から時間を探る物かと思っていたが、

この携帯日時計は3つのフックのいずれかを紐で吊るして、

影の見える形で判断するのだとか。

磁気を帯びているようで、いつも決まった角度に収まるのだそうだ。


何角形に見えたら何時。

判り易いと言えばそうなのかもしれない。

ただ自分の知識ではこれを扱えない、それは良く解った。


い、意外と高度な事をやってよる、古代ローマ・・・。


「そ、そうか、説明されても全く解らないので、

 今後は時間が知りたくなったらパニに尋ねるので宜しく頼む。

 使い方を忘れないように日々使用して修練を怠らないように」

「かしこまりました。これで少しはユウキ様のお役に立てそうです」


パニもパニで、役に立つかどうかをヤキモキしていたのか。

奴隷の矜持、大事にしてやらないといけないのだな。

ただ迷宮に連れて行ってパーティ番や荷物番をさせるだけでは、

確かに役立っているとは言い辛い。


今後は冒険者として皆を引率でき、

今までの仕事に加えて時刻と言うパニしかできない技能を身に付けた事で、

パニ自身の価値が上がり役に立てると認識したのだろう。


日々()どしているだけかと思ったが、

パニはパニなりに一生懸命頑張っているのだと言う姿を垣間見た。

気付いてやれなくて済まなかった。


「よし、これでパニはまごう事無く1人前だ。これからも頼むぞ。

 それではナズを迎えに行きたいので、

 早速ゲートを開いて鍛冶師ギルドの受付に行ってみようか」

「はい。・・・・・・あ、えっと、・・・あの」


「ん?どうした?」

「僕は一度も鍛冶師ギルドと言う所に行った事が無いのですが」


そうだったーーーー!


最低でも一度は連れて行って置かないと駄目じゃないか。

自分が行った場所全てに移動できると思ったら大間違いだった。

一度パニ自身をその場所に連れて行かなくてはならない。


もうどこに連れて行ったかなんて覚えていない。

その都度行けるかどうかを聞かなければならないのか。

暫くは面倒だな・・・。


「そ、そうだったな。では歩きだ、行くぞ」

「はっ、はい・・・。申し訳ありません」


パニを早速落ち込ませてしまった。

そうじゃないのだよ、これは事故なのだ、いいね?

思慮不足である主人の残念な一面なので、パニは胸を張って欲しい。


「パニ、謝らなくて良い、全て自分の浅はかな所が悪いのだ・・・」

「い、いえ、そのような事は・・・」


鍛冶師ギルドの前に付くと、既にナズは待っていた。


「おお、ナズ。話はどうだったか?」

「はい。ご主人様にもお話ししなければならない事だと思いますので、

 どこか静かな所でお願いします」


ナズから静かな所でこっそり話をしたいのだと言われた。

今更ながらドキドキする。


い、いや、これはそういう話では無く、

ナズの就いたジョブに付いて、

気を付けなければ行けない注意点があると言う話だろう。


可愛い女の子から「お話があります、どこか静かな所で」、

なんて言われたら誰だって挙動不審になる。


告白された事は有ったけど1度きりだよ!


大学時代にあった合コン帰りの際どい駆け引きは知らん。

自分が傷つかないようにするために、そして優位に立てるように、

相手を雰囲気で誘って言質げんちを得ようとする。

合コンで出会う女性達からはそれが透けて見えて、嫌悪感を覚えていた。


ナズのお誘いは真摯な態度が垣間見え、

真面目な表情には可愛げがある。


ナズをパーティに加えて冒険者ギルドへ向かい、

壁絵から麦畑の絵を指定してフィールドウィークを唱えた。

シルクスの宿に掲げた掛け布だ。


──ヴォン。


パニとナズを送り、自分も入る。

くぐり抜けるとゲートは消え、掛け布の絵が顕わになった。


「パニ、この掛け布の絵を覚えてくれ。

 今後はこの絵と、もう1つ波と船の絵を覚えてくれれば、

 いつでもその2つの間を移動できる」

「かしこまりました」


「パニちゃんも転職ができたのですね?おめでとうございますっ!」

「はっ、はい!ありがとうございます、ナズ様」


成功組の気持ちは軽い。


2人とも今日からは晴れて上位ジョブなのだ。

自分がチョイチョイと弄ったインチキジョブでは無く、

ギルドが公認する身分の保証されたジョブだ。


「はい、今日から君は冒険者ね、君は鍛冶師」

等と言われるより重みが違うだろう。


ジョブを勝手に変えると言う行為は、

本人の意思や都合をまるで考慮していない押し付けであった。

それがたとえ善意を以て行なった結果だったとしても、

ただこちらに取って都合が良いだけの強制だったのだ。


しかし鍛冶師は貴重なジョブだったし、

就いて貰えるように求めても本人は納得できないだろう。

最初から無理だと思われている職に同意を得て就かせる事は難しい。


自分だって理系では無いので、

就職先で明日から宇宙船の設計をするぞとか言われても納得しかねる。

才能を見出せる凄い人から無理やり斡旋されたら納得するかもしれない。


・・・と言う事ならば、

ある程度はナズもアナもパニも納得して貰えているのだと思う。

現に自分がそのような説明をしてしまった手前もあるし。

そうであれば嬉しいと言う願望だ。


そんな事で信頼関係が、等とよくも言えたものだ。

ナズなんかは初対面でその日のうちに就かせてしまった。

それで良く今まで付いて来てくれたものだと感心した。


今後はこの奴隷たちと共に生きて、死ぬ。

隠し事は無しだ。

全部説明して行こう。


あっ、ジョブの事だけな?

∽今日のステータス(2021/12/25)


 ・繰越金額 (白金貨30枚)

     金貨 35枚 銀貨 41枚 銅貨 67枚


   宿代サンドラ (53300→37310й)

    部屋代 1500 ×  10 15000

    食費   400 ×9×10 36000

    お湯    50 ×9×10  4500

   2人分先払い分値引き

    部屋代 1500        1500

    食費   300 ×2      600

    お湯    50 ×2      100


   寝具店        (2100→1470й)

    移動用麻布    ×2     2000

    吊るし具     ×2      100


   転職諸経費(冒険者)      (5000й)

    日時計             1000

    講習              4000


     金貨- 4枚 銀貨-38枚 銅貨+20枚

  ------------------------

  計  金貨 31枚 銀貨  3枚 銅貨 87枚



 ・異世界61日目(昼前)

   ナズ・アナ56日目、ジャ50日目、ヴィ43日目、エミ36日目

   パニ26日目、ラテ8日目、イル・クル5日目

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