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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第廾章 機転
228/394

§215 沈没船

朝、先日忘れていたパニの様子を見に行くと、

船内は海水に浸かっており、

ベッドシーツや枕、個人の荷物であろう袋が水に浮かんでいた。


そして物凄い揺れだ。

立っているだけでやっとである。

この部屋にいるだけで、傾く拍子に水流と一緒に壁へ打ち付けられる。

入り口や通路に吊るされたランタンは、

壁にぶつかってガチャガチャと音を鳴らしていた。


これはどういう事だ。

焦りで背中がゾワゾワする。


左右だけでは無く前後も含めてありとあらゆる角度に床が動いて、

これではまともに立っていられない。

何とか壁を伝って扉に手を掛ける。


扉を開けると通路に溜まっていた海水がどっと入ってきた。

先程の船室では海水は脹脛ふくらはぎの辺りであったが、

通路は膝の高さまで溜まっていたようだ。


部屋に流れ出て行った海水は均一化して、

再び脹脛ふくらはぎの辺りで統一される。

ただし、船内はあっちこっちに揺れ動くので通路の壁で体を打ちまくった。


海水で掻き回され揉み苦茶にされているのに、汗と恐怖で体が熱い。

船外へ出ると揺れ動いた衝撃で体が浮いた。

これは危険だ、何かに掴まっていないと。


船は嵐の中にいた。


ハッ!


パニは無事だろうか。

船室にはいなかった。

そりゃそうだ、あの状態で寝ていたらどれだけ鈍感な奴だろうか。


パニをパーティから外すんじゃなかった。

パーティを組んでいたら直ぐに場所が判っただろう。


シルクスから朝早くに移動した訳で、

こちらではまだ未明から夜明け前であり当然外海は暗い。

そして船外のランタンは激しい揺れのせいか殆ど消えてしまっていた。


僅かに消え残っていたランタンの灯かりを頼りに、

船夫たちは皆一生懸命に手桶で水を掻い出しているようだ。

それに海へ投げ出されないよう皆ロープで体を結んでいる。

薄暗い中でも目が慣れて来た。


船室の壁を伝いながらぐるっと1周してパニを探す。


見付けた!

パニは前の方でやはり手桶で水を掻い出していた。

船内に溜まっている水の量からするに、

彼らが全力で頑張っても入って来てしまったのだろう。


このままでは危険だ。

この船は荷を積んでいる。

荷がある部屋は押し込められた休憩室と違い、

その奥、或いはその下である。


居住区が浸水しているのだから、

船倉はもっと海水が入っている事だろう。

しかしこの揺れでは船底から水を掻い出す事は難しい。

これ以上海水が入って来ないようにするしかやれる事は無いのだ。


パニもしっかりとロープで結ばれているようで安心した。


では自分はどうするか。

先程船室にゲートを出した時、

海水はその向こう側へ移動して行かなかったと思う。


しかし桶で汲んで掻い出したら?


当然向こう側へ持って行ける。

それしかない。

パニを救い、この沈み掛かった船を目的地へ導くには。


パーティを組み、海水を風呂桶に汲んであちら側へ捨てる。

場所は・・・目立つ場所ではいけないし、

まさか町中に捨てる訳にも行くまい。


かと言って人工物があるような場所でなければ移動用のゲートは出せない。

何てったって我が国は行けども行けども荒野なので。

・・・考えろ、どこが安全なのか。


そうだ、浸食洞だ。


以前神官の修練をした、海水が引いているあの場所へ。

船室に戻って宿へ帰り、急いでナズ、アナ、ジャーブ、イルマを加える。

ヴィーにはランタンに火を付けさせて、そのまま待機させた。


そして4人には桶を持たせて浸食洞へ移動した。

桶は4つしかない。

作って貰った3つと昔買った1つだけなのだ。


「パニの船が危ない。かなりの海水が船に侵入している。

 全員で水を掻い出すぞ」

「ええ!?」

「かしこまりました」

「ど、どうやってするんですか?」

「ええと、仰っておられる事が良く分からないのですが・・・」


「良いから行け!水を汲んだら直ぐゲートをくぐって戻って来い!

 こちらで水を捨てたらまた移動だ」

「わ、解りましたっ」「ええと水を汲んで戻るのですね?」

「ええと、申し訳ありません。私には理解が・・・」


「イルマはナズかアナの真似をすれば良い!」

「は、はいっ」


自分はアイテムボックスにある遠志オンジ陳皮チンピから、

生薬生成をしてゲートの維持に努める。

4人が往復を繰り返すのだ、慎重に管理しないとMPは厳しいだろう。


「自分はここでゲートの維持に努める。

 相当のMPを消耗する距離なのだ、頼むぞ!」

「「「はい」」」「えっ、あの、かしこまりました」


ゲートを開き4人が移動して待つ事20秒、

最初にジャーブが戻って来た。

ぐっとMPを持って行かれたのだと感じる。


ボーナススキルを調整してMP回復速度を最大に、

遊び人と道化師のジョブ効果をMP大上昇2つと中上昇にセットした。

英雄と魔法使いのジョブも合わせてセットする。


生薬生成をしながら強壮丸をクラっと来る度に飲んで行く。

2回分の移動で1粒を口に入れ、人が通る度にこれを続ける。

イルマが最後にやって来て2巡目だ。


「急いでくれ、このままでは船がまずい」

「はいっ、がんばります!」「あの、私は良い事を思い付きましたが」

「俺は先に行きますねっ!」「あ、はい、では私も!」


3人がゲートをくぐって船に戻って行った。

アナが残り「思い付いた良い事」を告げる。


「このまま私達が移動をすると、

 ご主人様はかなりの消耗をなさるようです。

 そこで桶を少しだけゲートに突入させたら投げ込んで、

 こちらで受け取って水を捨て、また投げ込むのは如何でしょうか」


「投げたら多分ゲートから弾かれるだろう?」

「ですので持って少しだけ入れたら、そこから投げ入れるのです」


「ん?」

「試しにやってみても宜しいでしょうか」


「良く解らんが、やれるだけやってみてくれ」

「かしこまりました」



アナは再びゲートをくぐって行った。

強壮丸をまた1つ口に放り込む。

ジャーブ、ナズが帰って来てまた1つを放り込む。

イルマも帰って来たのでまた1つを放り込めるように準備をした。


その次はアナが・・・、

ゲートからは桶の先端だけ見えたが、そのまま投げ捨てられた。


ん?


桶はそのまま引っ繰り返って海水がばら撒かれ、浸食洞の奥へ転がる。

ナズがそれを取りに向かった。

アナは戻って来ない。

そしてあまり消耗した感じは無い。

桶1杯分の海水は大した物量では無く、消耗も少なかった。


そういう事か。


「ナズ、桶を少しだけゲートに突き込んだら、

 そのまま向こうに向かって押し投げろ」

「え?はい、こうですかね?」


ナズは言われた通り桶を体の前に突き出し、

ゲートにちょこっとだけ侵入するとそのまま手を離した。

ナズの体だけはこちらにあり、桶だけが消える。


やはり殆ど消耗は無い。

再び桶が付き出され、そこから放り投げられる。


──カコンッ!

   「あうっ」


桶はゲートの前に立っていたナズの顔面へ当たり、

近くに落ちて転がりながら海水を振り撒いた。


「ちょ、ちょっと投げる角度や向きを考えた方が良いな。

 ジャーブとイルマはそこで練習してみろ」

「えっ、わ、分かりました」「あれをやる・・・のですか」


ナズは転がった桶を拾って再びゲートに突き返す。

やはりMPの消耗はかなり少ない。

ここまで桶だけ2回を往復した感じ、強壮丸は1つも消費せず済みそうだ。


そして再び桶がゲートから突き出され、

ナズは投げ当てられるのを嫌って手を出して受け取った。


「ぐぉぉぉぉぉっ!」


急激にMPが消耗する。

物凄い吐き気と寒気、嫌悪感と虚無感。

ただでさえ薄暗い浸食洞で視界がボヤけて闇に閉ざされ、

ただただ苦痛にのたうち回る。


絶望だ。


この世は闇に満ちている。

あの船は助からない。


パニは死んだ。

自分も一緒に死のう。


さようなら、異世界。

さようなら、2度目の自分の人生。


父さん、今行くよ・・・。


誰かが口を合わせて気持ちの悪い塊りを押し込んで来た。

強烈な吐き気を催す。

ただ呼吸を塞がれてむせた事で飲み込んでしまった。


「ゲホッゲホッ」


く、苦しい。


苦しい。


苦しい。


吐き気と寒気と眩暈と共に、

呼吸の苦しさと焼けるような喉の痛みが加わった。


「ごほっ・・・ゼェゼェ・・・ゴホッ・・・ン゛ン゛ン・・・ゲホッ」


その人物は更に口を合わせてもう1つ絶望の固まりを押し込んで来た。

全力で拒否だ。


「ンブッ・・・ぐっ・・・」


舌で押し返そうとするが、相手も舌を這い廻せて押し込んで来る。


「ゴホッ・・・ゴクッ・・・ゴホッ・・・ゲホツ」


結局押し込まれて咳が出てしまい、再び歪な塊を飲み込んでしまった。

少しだけ気分が・・・あれ?


MPだ。

多分ゼロになったのだ。


急いで手持ちの強壮丸を10粒呑み込んだ。

視界がクリアになり、気分も急速に回復する。

喉の痛みは治らないが。


しかし間違い無く死の狭間を見た。

アナの案はとても危険だった。


1人が移動して結構な消費なのに、

それが継続して移動状態になる状況を作ってしまったのだ。

ナズが受け取ったために。


あちらとこちら、2つの物体が同時にゲートを占有する時に、

MPの消費係数は極限に達し無限大となる。

以前荷役の時にも材木を運んだ時にも経験した。


その時はまだ近距離だったが、

遠い異国の地とここからでは危険度が計り知れない。

アイデアは素晴らしいが、やるなら注意して欲しい。


「ナ、ナズ、受け取るのは駄目だ。

 投げられた桶を上手く捕らえてくれ。

 受け取ったらまたこうなる」

「そ、そうですよね、申し訳ありませんでした。

 もう具合は宜しいでしょうか?」

「お、恐ろしいですね、お互いに桶同士を掴むとこうなるのですか」

「ジャ、ジャーブ様、も、も、もうちょっと練習しましょう」


ゲートは既に閉じている。

MPが尽きたために移動魔法自体も消滅したのだ。

初めての経験である。

恐らく移動魔法で極限まで消費をしたのは初めてでは無いだろうか。


自然回復速度を上げるためMPを盛った事に加え、

MP回復速度20倍と言うボーナススキルが、

一瞬ゼロとなってしまったMPを僅かに回復させ、

昏睡に至るまでの事態は避けられたようだ。


おかげで何とか助かった。


再びゲートを開き、ナズに桶を突き入れて投げ返すよう指示をした。


ナズに依って投げられた桶は手から消え、

今度はゲートから距離を取って身構えた。

ちゃんと考えたようだ。


「ジャーブ、イルマ。

 向こうで桶を拾う係、桶に水を汲む係、桶を戻す係に分かれよう。

 こちらはナズが受け取って返却する」

「なるほど、流石はユウキ様。

 あちらでは受け取るのも水を汲むのも大変です。

 俺は水を汲んだ方が良いでしょう」

「そ、そうですね。かなりの揺れでしたし、私は船に慣れておりません。

 私ではあの場に立って上手く桶だけ投げ返すのは難しいでしょう。

 桶を拾う係にさせて頂けると」


「では向かってくれ。

 ナズは投げられた桶を受け止めたら水を捨てて突き返せ」

「かしこまりました」「はいっ!」「行って参ります」


その後は流れるような桶のリレーが始まり、

稀に遠くへ転がってしまった桶を拾ってナズへ渡す作業を繰り返した。

そして桶6つが移動するごとに強壮丸を飲んだ。


暫くしてアナが戻って来る。


「ご主人様、船内の水はあらかた汲み取りました」


「いや、多分まだ船底には大量の海水が入ってしまっているはずだ。

 荷物は下の階に積んでいるのだろうから、そこを探しに行く」

「かしこまりました」


アナは自然とゲートを使って戻って行ったが、

それだけでググっとMPを消費したのが解る。

1回の移動でどの位消耗しているのか、他の者には解って貰えない。


再び強壮丸を3つ飲み込んで自分が移動し、更に3つを飲み込んだ。


相変わらず揺れる船内であったが、

先程まで脹脛ふくらはぎに迫る勢いであった水面は消え、

船体が傾いた時、僅かに端へ溜まる位には無くなっていた。


船室から通路に出て船倉への扉を探る。


甲板に出る方向とは逆に、一度も入った事の無い扉があった。

その扉を開けると船倉へと続く小部屋に階段が続いており、

その下はやはり海水で埋まっていた。


「ここだ。ここにゲートを繋げるので宜しく頼むぞ」

「かしこまりました」

「任せて下さい!」

「こ、これでは確かに沈没の危険が・・・」


これだけの量の海水が入ってしまっているのだ。

この船は本当にもうギリギリだったに違いない。

海水が侵入すれば船はその分だけ沈む。

沈んだ分だけ水面に近付き、更に海水が入って来る危険は増す。


この状況でも未だ転覆していない辺り、

船体に穴が開いて浸水した訳でも、

全ての船底室に水が入ってしまった訳でも無さそうだ。

唯一救いがあるのはそれだけだ。


だが猶予は少ない。

強壮剤を1つ飲み込んで先程の態勢を準備した。


ゲートを開き、自分は浸食洞へ移動する。

1つ目の桶が投げ飛ばされた。

ナズは急いで桶を取りに行く。

その間にも2つ目が飛んで行く。


ナズが小柄であった事はここで大いに役立った。

桶を移動させる位置がお互いに干渉しなくなったのだ。

アナはゲートの上方へ投げ返すようになったため、

ナズからしたら丁度頭の上。


多分あちらでジャーブかイルマが先程の件を説明したのだと思われる。

そしてナズが送り返す位置は低めになった。

恐らく向こうではアナの膝下辺りだ。


先程よりも効率が良くなった桶リレーに、

自分はただひたすらに強壮剤を作って飲み込む。


遠志オンジはもう全て使い果たし、無くなってしまっていた。

今は陳皮チンピから強壮剤を作っている。

人が移動して海水を掻い出していたのなら、既にゲームオーバーであった。

アナの機転に感謝する。


強壮剤の回復効率はかなり良く、13,4回位まで持つ事が判った。

いやMPの自動回復分もそれなりに有効なのだろう。

回復アイテムの使用が遅くなればなるほど、自然回復の効果も高まる。


回転効率もMP効率も良くなった作業を無心になって続けた。


遠志オンジ陳皮チンピも、

元はアイテムボックス3枠を占領していたが、

そろそろ陳皮チンピもアイテムボックス2枠を使い切りそうである。



   ***



3枠目が半分程度になった陳皮チンピを摘まみ出した所で、

アナとジャーブ、そしてイルマが同時に戻って来た。


「くっ・・・ぐぐぐ」


また急激にMPを消耗し、3人に対し憎悪の念が込み上げて来た。

慌てて強壮剤3粒を飲み込む。


そして再び急速に気分が晴れ、ここで悪いのは自分だと再確認する。

もうMPで苦労するのは嫌だ。

精神が参ってしまうぞ、これは。


「お、おかえり。同時に戻って来られるとかなり厳しいのだ。

 あの船は相当遠くにいるからな」

「そう・・・なのですか。申し訳ございませんでした」

「そこまで気が回りませんでした!済みませんッ!」

「あの船はどの位遠くにおられるのでしょう?」


「冒険者ギルドで飛ばして貰える距離でざっくり言うと、

 銀貨100枚分位だろう」

「ひゃっ」

「100枚ですか・・・」

「ええっと?」


「ユーアロナとホドワの往復、50回以上だ」

「え、ええっ!?」


身近な距離に置き換わった事で、ようやくイルマの理解が追い付いた。


「私には想像ができませんが、とても遠いのですね?」

「そんな距離を先程から移動していたのですね・・・」

「いえ、それよりも、

 そんな距離の移動魔法をお使いになられるユウキ様が・・・」

「やはりご主人様は並のお方では無いのですね・・・」


「いやそれよりもどうなった?」

「はい。船倉に溜まる水はまだ少し残っておりますが、

 靴に少し被る程度まで減らしました。

 それ以上は荷箱の中から染み出て来るのでキリがありません。

 しかしながら船の方はこれで概ね大丈夫かと思われます」


「そうか、中々良い仕事ぶりだった。

 特にアナの考えた方法は良かった。

 持って移動していたらとうの昔にMPが尽きていた」

「ありがとうございます」


「ナズもジャーブもイルマも、ありがとう。

 これで多分船は救われたし、パニも無事でいられるだろう。

 風呂が無いのは残念だが、その桶に湯を張るので洗い流してから帰ろう」

「はいっ!」「助かります」「おお、流石ユウキ様ですね」

「あの・・・?ありがとうございます?」


アクアウォールとファイヤーウォールで丁度良い湯加減のお湯を作り出し、

各自が持って来た桶で掬って体に掛け合った。


適度に流した後は宿へ向けてゲートを出して全員を帰らせる。

自分はこの後船に戻り、パニと船の様子を再度確認する事にした。


侵入した海水を汲み出したとは言え、あの船は未だ嵐の中にいる。

直下の沈没は回避できたが、危機は去っていないのだ。


船外へ出て振り落とされないように掴まって移動する。


自分達の掻い出し作業も、結構長い事掛かった。

外はまだ暗いが日は出たようで、既に闇では無い。

けれども海面はまだ暗くてはっきりと見えず、

明け方の光を遮る程に厚い雲がまだ広がっているようだ。

幸いにも雨は既に止んでおり、

打ち上げられた波飛沫以外に水が侵入して来る事はもう無いのだろう。


流石にこの海中へ落ちたらワープだって出せないと思う。

この海の底は奈落・・・いや迷宮よりも恐ろしいのだ。


「パニッ、パニ!」

「ユっ、ユウキ様っ!」


パニの掻い出す作業を見ながら、

近くの船縁ふなべりに掴まって声を掛けた。


「大丈夫かっ?」

「はい、何とかっ!

 海水を掻い出さないと沈没すると言われて、手伝っておりますっ!」


「その事ならひとまずは安心だ。

 先程皆で船内に溜まっていた海水を全て掻い出した」

「ええっ?本当っ、うわっ!・・・ですか?」


パニとの会話中にも容赦無く船が揺れる。


船縁ふなべりに掴まっているだけだと、

衝撃に因って放り投げられたら海へ落ちかねない。

パニへ繋がるロープを腕に3回巻き付けて用心した。


「ああ、先程船内に出たら水浸しだったので大慌てで掻い出した。

 船底に溜まっていた海水も含めて全て出したので、もう暫くは大丈夫だ」

「よ、良かった~」


パニはヘナヘナと力を失って座り込んだ。


「そういえば鞄はどうした?」

「はいっ!ベッドに括り付けておきましたっ!

 もしかして流されてしまっていたでしょうかっ!?」


「いや、そこまでは見ていなかった。無事なら良い。水はどうだ?」

「まだ残っていたように思いますが、

 できましたらパンも合わせて新しい物に換えて頂けると」


「そうか、あの状態ではパンも海水に浸かってしまって食べられないな」

「他の方々はどうされるのでしょうね?」


「多分海水に浸ってしまってもそのまま食べるのだろう。

 過酷な仕事だ、仕方無い」

「そうですか、大変ですね」


「では一度戻って、パ、うぉっ!・・・パンと水を入れ替えて来る」


再び船が揺れて体も浮いた。

ロープのマージンがあっても恐ろし過ぎる。

と言うかパニも危険だ、下げさせよう。


「パニも船室に戻れ!」

「は、はいっ!」


揺れる甲板を何とか伝って船室に向かい、

パニはロープを外して部屋に戻った。


「本当ですね、殆ど水が無くなっています」


「ああ、ここまで相当に苦労した。リュックは・・・あれか」

「はい、今外します」


パニから濡れたリュックを受け取り、帰る前に船倉を覗く。

先程見た時は完全に海水で埋まっていた船底は、

靴で侵入すると濡れてしまう位には減っていた。

これでもまだ結構な量が残っていると思うが、

流石に沈没が差し迫るような量では無いと思う。


この船は助かったとハッキリ解る。


とは言え、このまま旅亭へ戻っても海水に漬かってしまってズブ濡れだ。

桶を持ち帰らせてしまったし、もう体を綺麗にする事ができない。

リュックだってどこかで洗いたい。

うーん、ひとまずそっと戻ってアナに桶を持って来させよう。



   ***



旅亭の外で湯を作って自分の体を拭いて貰い、

そしてリュックも洗濯をして貰った。


パピルスにしたためてあった図面は取り出して干した。

多少濡れてしまってはいるものの、

大きくにじんだり破れては無かったので安心だ。


それからナズを走らせてパンを買うように頼み、

エミーにはペットボトルへ水を入れて貰い、

自分は絞って少しだけ乾かしたリュックにそれらを詰め込んだ。


こちらではもうだいぶ日が昇っている。

パン屋が既に開いている位には。

濡れた服だって直ぐに乾きそうな勢いだ。


朝一でパニの下へ向かったため、

掻い出し組は朝食を取っていない。

自分も漏れずにその1人だ。


自室のテーブルにはちゃんと4人分の食事が残されており、

急いで食べて船に戻った。


今後どうなるかがまだ見えない。

少なくとも危機が遠退くまでは船内に待機して置くべきだろう。


アナとナズには暫く船で過ごすと言い残し、パニの下へ戻った。

∽今日の戯言(2021/12/23)


新しいベッドを購入して、マットレスを運んでいる最中に腰をやる。

結果、新しいベッドが目の前にあるのに床で寝る。

マットレスは床に放置。

ビニールラップを剥がすことすらできない。



 ・異世界60日目(朝)

   ナズ・アナ55日目、ジャ49日目、ヴィ42日目、エミ35日目

   パニ25日目、ラテ7日目、イル・クル4日目

   サンドラッド到着まで1日、シルクスの旅亭2/2泊目

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