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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第廾章 機転
225/394

§212 頂点

そろそろ皆が帰って来る頃かと思い、風呂に張った水を温め始める。


水壁にファイヤーウォールを重ねる事とは違って、

既に水槽へ張ってある純粋な水を熱で温めるには、

結構な回数のファイヤーボールが必要である事は相変わらずだ。


但し今はファイヤーボール2連射にバーンボール2連射、

合計4連射が可能である。


   ・

   ・

   ・


ターン数で言うならば14回で済んだ。


確か以前の魔法連射が行えなかった時の湯沸かしファイヤーボールは、

合計で60回が必要だったはずだ。

1ターン当たり約4.5回分の熱量を加えている事になる。


ファイヤーボールとバーンボール、それぞれ1発を入れると計数2.25。

恐らくバーンボールはファイヤーボールの1.25倍程度の熱量を持つ。

Lvでの増強を考えなければ、本来はその位のダメージ差があるのだろう。


MP消費の効率は悪くなっていると思う。

1.25倍分のMPを使った感じはしなかった。

もっと沢山・・・、そう。

補給に使った強壮剤の量からも、大体倍位は消費しているはずだ。


細かく計算した訳では無いが、

何と無しに使って来た中級魔法の消耗や威力が大体掴めたと思う。

Lv1の時では成長補正が無いので仕方無い。

寧ろ今位のLvでなければハッキリしないと言う事でもある。


しかし、もう風呂を入れるのは何の苦でも無くなった。

明らかに早い。

それだけ遊び人や道化師は凄かった。

最早、生活必需ジョブだ。


金に聡い人ならばもっと上手い組み合わせで儲け話へ繋げるのだろうが、

自分では生活をちょっと便利にする程度で精一杯である。

そこまでシステマチックに頭が回らない。


風呂の準備を終えて居間に戻ると、

遠征組が今日の仕事を終えて帰って来た。


「ご主人様、只今帰りました」「たっだいまー」


「おかえり、丁度風呂が沸いているので、夕飯前に入ろう。

 今日は最後だからゆっくり入ろうか」

「かしこまりました。では装備品を置いて参ります」


「いや、装備は全員納屋に置かなくて良い。

 居間のテーブルにそれぞれ纏めて置け」

「えっ?そうなのですか?それでは・・・」


ナズを先頭に、全員居間に向かう。

ガチャガチャと音を立てて、

装備品を各自の椅子やテーブルの上に置いた。


棚は明日回収されてしまう。

従って空っぽにして置く必要がある。

装備品は自分のアイテムボックスに収納だ。

・・・いや、ラティかな?


「ラティ、今日の取得品を含め、

 アイテムボックスに入っている物を全て出せ。

 代わりに全員の装備をお前が預かってくれ」


「かっ、かしこまりましたぁっ。み、みなさん、どうぞこちらへー」


ラティが順番に装備を回収し、自身のアイテムボックスへ収めて行く。

靴やブーツはそのまま履き続けるので、

全員分の装備がラティのボックス内に収まった。


「ではナズとアナは先に風呂だ。後の者は自由に休んでいてくれ」

「「かしこまりました」」「分かりました」「はーい」


「や、休みとはっ?」

(あ、あの、こっ、この家では食事やお風呂の前後の待ち時間では、

 わ、私達は自由にして良いらしいですよ)

(そ、そうなのですか。色々慣れませんね・・・)


イルマが休みに対して驚き、ラティが補足をする。

そういう事なので、2人とも居間でお茶でも飲んでゆっくりしてくれ。


風呂には例の椅子がある。

今日が終われば暫く風呂には入れない。

勿論堪能させて頂く。


ナズもアナも、今は自分だけのお風呂のお姫様だ。

泡だらけの。

ハーレムって素晴らしいっ!


ミチオ君もお風呂でお楽しみを・・・しているんだろうな、多分。

それが無ければ5人×2回って事か。

何だ、毎日じゃないか。

恐ろしいな。


ナズとアナにたっぷり奉仕をして貰った後は、

お礼に2人の髪を洗ってやって湯船へ浸かる。


2人をはべらせてまったりするのも今日が最後。

明日からは宿屋で体を拭いて貰うだけになる。

初めて2人と一夜を共にした夜、

アナはどこまでも事務的で、ナズは初々しく可愛かった。


そんな光景を思い出して2人を抱き寄せて撫でた。


「ナズ、明日は朝から仕事を与える」

「何でしょうか?」


「修練を進めるための材料を買って来たので、

 装備品を作って行って欲しい。明日中に本の内容を終わらせよう」

「かしこまりました、頑張ります」


「アナ、お前が次へ進んで行くにはまだ何か1つ足りないようだ。

 明日の午前中、それを探しに行く」

「かしこまりました、私も何が至らないのかを考えてみます」


「では次が待っているだろうし出ようか」

「はい、今日もありがとうございます」

「お風呂も暫くはお休みですね」


ナズの髪を拭いてやって、自分はアナから体を拭かれた。

適当に服を着て次はジャーブの番だ。

ヴィーとラティでは時間が掛かるだろう。


「ジャーブ、次に入って良いぞ。

 暫くは風呂へ入れないから綺麗にして置け」

「分かりましたっ!行って参ります!」


風呂から出た後、ナズはエミーを手伝いに台所へ立ち、

自分とアナは自室に戻った。

先程の話の続きだ。


「アナ。暗殺者として戦って来て、どう思った?」

「ご主人様が仰った通り、恐ろしいジョブだと言う事は判りました。

 私はいつの間にか迷宮攻略の要となっていて、

 ご主人様に貢献できていると今は自信を持って言えると思っております」


「アナの事はこれでも理解しているつもりだ。

 迷宮で役に立ち、出世して可愛がられたい、

 そういう思いがあるのだろう?

 初日からずっとアナには頼りっぱなしだった。

 今後も変わらずお願いしたい」

「め、滅相もありません。まだまだ至らない事もありますが、

 ご主人様に見初めて頂きました恩を、今後もお返しして行くつもりです」


相変わらず忠義が重い。


良い事ではあるのだがその思いを裏切ってはならないと言う、

主人である事へのプレッシャーを感じる。

勿論、無碍むげに扱うなどと考えた事は一度も無いし、

逆にそのプレシャーが心地良く自分を引き締める。


アナはいつでも自分を初心に還らせてくれている。


「そ、そうか。それで、次のジョブに付いてだ」

「私を別のジョブにされると言う事でしょうか?」


「いや、ええと、うーん、そうなのか?な?・・・そういう事だな。

 アナは暗殺者として十分経験を積んだので、

 更に上位のジョブへ就けそうなのだ」

「暗殺者に上位のジョブがあるのですか!」


「い、いや、それに付いては自分も知らないのだ。

 ここまでは自分が師と仰ぐ人の模倣だった」

「以前仰っておられた、遥か遠くの国のお方ですね?」


「そうだ。これまでは彼の伝記に沿って行動をして来たに過ぎない。

 しかし彼の伝記は途中で途絶え、自分はその後この国にやって来た。

 もう彼について書かれた書物を見る事ができないのだ」

「では直接お会いに向かわれるのでしょうか?」


「それも難しい。彼が何処に住んでいるのかは判らない。

 調べるすべも無い。

 遠くの国に住んでいる事位しか知らないのだ」


同じ世界であるとも限らない。


この世界は1人1世界、コピーに自分がいると言う可能性も無くはない。

仮に多くの自殺願望者をこの世界へと導いているのであれば、

他の地球人に出会っていてもおかしくは無い。

皆、素性を隠して生きている可能性もあるが。


タロスに付いてはそうでは無いかと疑った事もあったが、

彼はこの世界で生まれた、本物の英雄であった。

時代が時代、国が違えば彼は国を興していたかもしれないのだろう。

この国で育ち、身分も自由人であった事が彼を不幸にした。


「そうですか・・・」


「ここからは彼の追従では無く、自分で道を切り開かなければならない。

 云わば、創始者としてこの道を歩んで行く事になる」

「も、申し訳ございません。

 私ではご主人様の壮大なお考えには到底及びません」


「別に硬くならなくても良い、

 今から何か新しい事を始めようと言う話では無いのだ。

 ここからはジョブや迷宮に付いて未知な事が多くなるので、

 色々と模索しながら行こうと言う話だ」

「そうなのですか。かしこまりました」


「アナの今就いている暗殺者と言うジョブに付いて、

 一晩考えてみて明日思った事を教えてくれ。

 それが突破口になるかも知れない」

「かしこまりました」



   ***



夕食は豪華絢爛に料理が並べられ、

だぶついている食材を、余す所無く使った感じであった。


どうせ明日の朝はハムエッグとお浸しになる。

ナズとエミーの料理も暫くお預けだ。

今日の午後は皆迷宮で日が暮れるまで頑張ったので、

沢山有ったように見えた料理もみるみる減って行った。


「イルマ、迷宮はどうだったか?」

「はいっ、ええと、特には何も。

 手当が必要になるような事はありませんでした」


「まあ、皆強いからな。仲間の戦い方を見て学んで、

 危なっかしそうな所があればそれは弱点となるので、

 回復の機会を勉強するのが良いだろう。

 手当の試し撃ちも良いと思う」

「はっ、次はそうさせて頂きます」


「ラティはどうだ?3層は描けたか?」

「えっ、ええっと、は、はい。きょっ、今日は4層まで終わりましたっ」


もう4層か、かなり良いペースだ。

鬼門と言われる魔物が出て来ないのであれば楽勝だろう。


それにナズは1層からボスを見て来たのだし、

危なそうなスキルはしっかり止めてくれるはずだ。


「ちなみに魔物は何だった?」

「えっ、ええと、す、スパイスパイダーと、

 こっ、コラーゲンコーラルでしたっ!」


「そうか。できればお前が描いた地図の欄外に記載しておけ」

「は、はいっ」


「ご主人様、言われました通り魔物の部屋には近付きませんでしたが、

 3層には1箇所、魔物の部屋がございました」


アナの補足が入った。

低Lvで戦闘経験の無いイルマもいる手前、

危ない部屋には入るなとも伝えていた。

事前に判って回避できるのであれば素晴らしい事だ。


以前のアナの主人には申し訳無いが、

君の残してくれたアナは以前のような寡黙なアナでは無い。

危機回避を自ら提案できる、優秀な部下になったぞ。


「ええと、3層がスパイスパイダーで、2層は何だっけ?」

「ナイーブオリーブですね」


「と言う事は、オリーブオイルが少なくなったら使えるな」

「ところがそうも行かず、比較的多くの者に知れ渡っているようで、

 中にうごめく魔物の数は少なめでした。

 中堅探索者の恰好の狩場になっているようです」


それもそうか。

3層程度なら脱初心者位でも余裕で制圧できる。

1層はミノだったのでオリーブに皮。

スパイスパイダーだけに気を付ければ後は余裕だ。


「上手くは行かない物だな」

「そのようですね」


ラティがその問題の3層を描いた地図を見せて来た。


ふんふん、なるほど。

こう行ってこう行ってこうか。

確かに見付け易い位置の部屋のようだし、攻略対象になってしまうか。


地図を見るだけでその迷宮へ行った気になってしまう。

ゲーム脳と言う奴だ。

攻略本を見るだけで楽しい。

ステータス一覧を見るだけでワクワクする。


そういったゲームの攻略ページには何度も世話になったし、

サイトを運営する人達には頭が上がらなかった。

それを自分が今、こうして作っているのだと言う事に心が躍った。


「よし、では食事が終わったら自由にして良い。

 明日はナズとアナ以外に暇を出すので何をしたいか考えて置け」

「おおっ!では俺は買い物に」「ヤッター」「お、おやすみですかっ」


(あ、あの、ラティさん、暇とは?)

(くっ、詳しくは知りませんが、お、お休みだそうです。

 こっ、小遣いも、し、支給されるみたいなんです)


「ええっ!!!?」


全員がイルマに注目する。


ラティと顔を付け合わせているので、何を知って驚いたのか。

もう今更なので自分は関与しない。

先輩奴隷たちに任せてそのまま自室へ戻った。


  *

  *

  *


翌朝。

まだ日が出ておらず、薄暗い刻に目が覚めてしまった。


そっとベッドから抜け出したつもりが、アナを起こしてしまったようだ。

眠りが浅いと言っていた気もする。

そのままベッドで休んで置けと言ってアナを戻した。

ナズは目覚めずにそのまま寝ていた。


早朝のホドワは外を行き交う人もおらず、静まり返っている。

暑い地帯とはいえ、乾燥しているため朝はそこそこに気温が下がる。

日中は暑くなるが、こういった場所では朝晩の気温差が激しい。

いつもの格好ではやや肌寒く感じた。


今日でこの家とは終わりになる。


そもそも自分が建てた家では無いし、

十数年暮らした実家程では無いが愛着はそれなりに有った。

何より初めて手に入れた自分だけの財産である。

名残惜しいと言えば名残惜しい。


現代日本に暮らしているならば、

こういった場合は写真の1枚でも撮ってSNSに投稿をするのだろう。

ここにはカメラもスマホも無いし、ネットも無い。

何だったら見せ付けるような知り合いもいない。


学生時代にやっていたSNSではそれなりの繋がりがあって、

知り合いも大勢いた。

だが年を追うごとに自慢合戦の渦となり、

ある者は幸せ自慢、ある者は不幸自慢と、両極端に分かれていった。


そんな連中と張り合うのが嫌になり、

フォローはするが投稿はしない、隠れキャラに成り下がった。

それでも一応友人ではあるので、コメントだけは返す。


自分もある程度の不幸自慢はできたが、

現実に父親が病気で生死を彷徨う緩和ケア中だったし、

笑っていられない状況だったのだ。


アピールしている時点でまだ余裕があるのだ。

そんな事がやれている間はただの構ってちゃんだ。

それでも自分が不幸であるとは感じた事も無かったし、

単純な話見栄の張り合いに疲れただけなのだろう。


SNSを見る事をめた途端に心が軽くなった。

その頃からだ、合コンに呼ばれても行かなくなり、

大学でも話す仲間が減ったのは。

今思えば、自分も社会からゆっくりフェードアウトしている所だったのか。


だからなのか、自殺を思い留まらせるらしいこの世界へ導かれたのは。

そんな事は考えた事が無く、健全かつ前向きに生きようとしてたのになあ。

システムのミスか?


そもそもミチオ君だって自殺しようとまでは考えていなかったはずだ。

彼は少しひねていただけで、

「そういうのはいかんよなあ」とぼやいていたはずだ。


最底辺を救うのでは無く、

ボーダーより少し上の者を狙ってピックアップしているのかもしれない。


本当に自殺直前の者ならば人生をもう一度だなんて考えられないだろうし、

こちらの世界でもやって行けるとは思えない。

あの画面が表示される者は、

異世界でも生活をして行ける条件を満たした者だけなのだろう。


やはり世界の意思のような物があるのだろうか?


玄関の枠になっている木をポンポンと叩いて別れを惜しみ、室内に戻った。

廊下と風呂場のカンテラを外し納屋に入れる。

風呂にある湯桶と椅子も回収して納屋へしまった。


家が取り壊された後の風呂桶は野晒しとなって汚れるだろうが、

それでもエミーは最後に掃除をして出て行ってくれたようだ。

新しく来たイルマに掃除の仕方を教えたのかもしれない。


イルマは風呂を楽しめただろうか。

エミーと風呂に浸かりながら会話はできただろうか。


部屋に戻るとナズは目覚めており、キスを要求された。

ベッドに座って目を閉じて口をすぼめ、顔を上げて待っている。


・・・うーん。

これではどちらに主導権があるのか判った物では無い。

悪い気はしないのでそのまま口付けをして抱き締めた。


男って単純。

ナズとは軽めのキスにとどめたのに、アナからは特濃で迫られた。

悪かったよ、朝一で抜け出して。



   ***



朝食の席で小銭を積み、各自に自由時間を与えた。

エミーには誰と休日を過ごすのかを聞いたが、

姉と一緒に過ごすと声で返事をした。


ジャーブが1人あぶれるかと思ったが、

ヴィーとラティの3人でホドワにある美味しい食堂へ行くらしい。


そういうの知ってるならもっと早く言ってよ。

皆で行けば良いのに・・・。


皆奴隷ではあるが枷はラティだけ、

それも目立たない足首にしか着けていない。

元々はパニが付けていた物を外した際に取って置いた物だ。

イルマの枷は風呂へ入った際に外した後、着けられていないようだ。

恐らくはエミーから外しても良いのだと教えられたのだろう。


それならば食堂へ行かせても、買い物へ行かせても安心だ。


普通に主人のお使いがあるだろうから、買い物に関しては心配が無いが、

奴隷だけで食堂ってどうなんだ?


・・・多分常識的にはダメなんだろうが、

行くと言い出したのは恐らく無教育のラティだ。

一番奴隷のアナから指摘させると強い訓戒になってしまうので、

ジャーブからその辺りを説明させて置こう。


行かせたくない訳では無いが、主人が恥を掻かないように振舞って欲しい。

トラブルを起こした結果奴隷でした、では申し開きができない。


「ジャーブ、ちょっと」

「は、はい。何でしょうか」


「食堂に行くと言い出したのはラティだな?」

「え、ええ。そうですね、良くお分かりで」


「奴隷が食堂で食べるのはどうなんだ?」

「やはりまずいですよね・・・」


「だろうな。

 止めはしないが、ラティが何かやらかさないように注意しろ。

 何か有ってからでは遅い。

 それから、そういった事は普通許されない事を伝えて置け」

「か、かしこまりました。気を付けます・・・」


最初の頃のジャーブにはイマイチ信用が置けなかったが、

最近になって随分しっかりして来たと思う。


正しく恐れる事を覚え、その上で自分の緩さを理解し、

エミーと言う守りたい対象を見出したのだ。

ジャーブも成長したのだな。


危なっかしい2人の監視を任せ、

休日を与える5人に銀貨を配った。

どうせ2人ないし3人で行動するのだから、何か買うなら合算だろう。


「では解散。ナズは修練をしてくれ。家具の引き取りが来たら対応も頼む」

「解りました」


「アナは迷宮へ行くぞ」

「かしこまりました」

「行ってらっしゃいませ」

「あ、はい。行ってらっしゃいませ」(ぺこり。)

「い、い、行ってらっしゃいませ?

 ・・・あ、あれ?わっ、私も出掛けるのでは?」



   ***



休暇組を置いてトラッサの迷宮1層にやって来た。

暗殺者の次なるジョブを目指すため、

解放条件の考察と実験をするのである。


強力な魔物で条件を満たす必要は無い。

1層か2層の弱い敵で何度も試行錯誤を繰り返した方が良いはずだ。


「ふう、やっと静かになったな。8人もいると騒がしい」

「ご苦労様です。お食事の時間を変えても良いかと思います。

 そもそも主人は、奴隷と一緒の食卓に上がる事はなさいませんので」


「そうは言っても今更変えられないしなあ・・・。

 それより、どうだ?昨日の件は」

「ええと、暗殺者の件ですね。私なりに考えたのですが、

 これまで私は知りうる全ての状態異常を掛けたのだと思います」


「ふんふん。それで?」

「それでも条件に添わないのであれば、

 例えば最初の1撃目で状態異常を与えるだとか、

 1匹の魔物に全ての状態異常を与えるだとか、

 1回で同時に2匹へ状態異常変化を起こさせる事を考えました」


うーん。


1回で同時2匹は多分違う。

スパッと行かない通常の剣で2匹同時に打撃を加える事はかなり難しい。

それはドワーフならではの馬鹿力を伴ってこそだ。

その上で2匹同時に状態異常へ掛ける事はもっと無理がある。


それから、全ての状態異常を1匹に集中させるのも違う気がする。

石化したらそれ以上の状態変化は起こっていないように見えた。


仮にレアジョブである暗殺者へパーティメンバーの誰かを就けたとして、

更にレアな博徒とセットで運用するパーティは皆無だろう。

ともなれば眠り毒麻痺石化全てを入れる事は難しい。

大体眠った魔物を攻撃したら起きてしまうので、

石化させた後で眠りが入らなければならない。


では1撃目で状態変化を起こす、と言うのはどうだろうか。


対峙して1発で仕留める。

殺した訳では無いが、生かすも殺すもこちら次第の状態にはある。

まさに一撃必殺である暗殺と言う名にも相応しいだろう。


アナに必要なのはこれかもしれない。


「よし、では1撃で状態異常にすると言う事を考えてやってみよう。

 1発与えて状態異常へ陥らなかったら直ぐに魔法で倒すので、

 アナはどんどん探して斬り付けて行け」

「かしこまりました、ええとここは?」


「トラッサの1層だ。2層の方が良いか?」

「そうですね、1層よりは魔物の数も多いですし、人も来ないでしょう」


ダンジョンウォークで2層へ移動する。

僧侶と博徒を入れ替え、出て来た魔物は即座に状態異常耐性ダウンだ。


「では行くぞ」

「はいっ」


アナは駆け足で探し始めた。

この階層で困るようなLvでは無い。

見付け次第スキルを使い、アナが切り裂き、魔法で仕留める。


使用魔法はサンダーストームだ。

チカっと一瞬光るだけで派手なエフェクトも無く、即座に魔物が消える。

糸とコーラルゼラチンはみるみる貯まって行くのが解る。

危なっかしいラティを食堂へ送らず、荷物拾いでもさせるべきだった。


今更である。


「あっ」


3枠目のコーラルゼラチンがそろそろ一杯になろうかとした時、

アナは声を上げた。

しかし流れ作業でやって来たのだから今更魔法は止められない。


状態異常が発動したかどうか確認できないまま自分は魔法を発動させ、

グリーンキャタピラーは煙に変わった。


「しまった、確認する前に魔法を撃ってしまった」

「い、いえ、気のせいだったかもしれませんのでもう一度」


「いやちょっと待て。

 仮に成功しているならば、アナのジョブを調べれば解る事だ」


 ・アナンタ     猫人族  ♀ 20歳 暗殺者 Lv51

  取得:村人(6)探索者(7)戦士(30)剣士(1)騎士(1)

     薬草採取士(1)忍(1)


アナの取得ジョブに見慣れない文字があった。

忍者では無くしのびか。

そういえばこの世界は基本的にジョブやスキルの形態が古語であった。

それならば忍術を使うような忍者では無く、

暗殺者よりも更に闇に溶け込むしのびの者であるのだろう。


 ・忍

   ジョブ効果  知力小上昇 精神中上昇 移動速度大上昇

   ジョブスキル 状態異常確率アップ 状態異常耐性アップ

          クリティカル発生 暗殺撃


設定をしてみようとターゲットを合わせると、

ジョブについての補足事項が表示される。


移動速度が上がるのか。

これはアナだけでは無く全員に有効だ。

しかも「大」なので、とんでも無いな。

忍者集団と言う事か。


で、クリティカルが発生して暗殺撃って言うのは何だ?


「アナ、暗殺撃と言ってみろ」

「暗殺撃ですか?それは何でしょうか?

 もしや、条件を満たしたのでしょうか」


詠唱スキルであれば字幕が出るだろう。

アナが何も気付かないのであれば、

これはパッシブであり自動的に発動するスキルなのだ。


暗殺、と言うならば生死不問に近いかもしれない。

詠唱無しの攻撃を当てるだけで発動するならば、これは恐ろしい事になる。

今後アナは1撃で魔物を仕留めてしまう事になるのか。


流石に発生率は低かろうが、経験値効率が悪くなるのは否めない。

だがそれと同時に戦闘が楽になる事は間違いない。

頑張って貰おう、うちの誇る影の諜報員に。


「アナ、お前は今日からしのびだ。

 より状態異常に落とす確率が上昇し、

 おまけにヴィーのような重たい1撃を放つ事があるようだ。

 更には稀に1撃で魔物を葬る事ができるらしい。

 これは恐ろしい事だぞ?」

「1撃・・・ですか。以前ご主人様がなさったような?」


「あれはまた別のジョブで、あちらは詠唱が必要だ。

 それに少なくないMPも消費するし、連続的には使えん。

 お前のジョブでは斬り付ける度に使用できるようだ」

「そ・・・それは」


「多分だが、お前はこの国でただ1人のしのびだ。

 代々そういう者を輩出する名家があるのかもしれないが、

 恐らく情報は隠匿されているだろうから、公には出て来ない。

 従ってアナは唯一無二の存在になった。良かったな」

「そ・・・そう・・・なのですか・・・わた・・・私が・・・」


アナは自身が頂点を極めた事に震え、感極まって涙を零した。

ポーチから自分のタオルを取り出し、アナの涙を拭って抱き締めた。

∽今日のステータス(2021/12/21)


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳 探索者 Lv62

  設定:探索者(62)魔道士(34)勇者(20)神官(26)

     道化師:下雷魔法・破魔鏡/知力中・知力大(29)


 ・BP160

   鑑定          1pt   結晶化促進×4     3pt

   キャラクター再設定   1pt   5thジョブ     15pt

   パーティー項目解除   1pt   MP回復速度×3    7pt

   パーティージョブ設定  1pt   詠唱省略        3pt

   獲得経験値上昇×20 63pt   メテオクラッシュ    1pt

   必要経験値減少/20 63pt   ガンマ線バースト    1pt


 ・アナンタ     猫人族  ♀ 20歳 暗殺者 Lv51


  ↓


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳 探索者 Lv62

  設定:探索者(62)魔道士(34)勇者(20)博徒(35)

     道化師:下雷魔法・破魔鏡/知力中・知力大(29)


 ・アナンタ     猫人族  ♀ 20歳 忍   Lv1



 ・繰越金額 (白金貨30枚)

     金貨 37枚 銀貨 78枚 銅貨 59枚


   小遣い             (2400й)


            銀貨-24枚

  ------------------------

  計  金貨 37枚 銀貨 54枚 銅貨 59枚



 ・異世界58日目(夕方)

   ナズ・アナ53日目、ジャ47日目、ヴィ40日目、エミ33日目

   パニ23日目、ラテ5日目、イル・クル2日目

   サンドラッド到着まで3日

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今日のステータス) ・ホドワの迷宮  Lv 魔物 / ボス  3 スパイスパイダー / スパイススパイダー  4 コラーゲンコーラル / コラージュコーラル ・トラッサの迷宮 …
[良い点] 身代わり作りたいから、糸が集まるのは都合がイイね。 ホドワ巡回ではまだ階層未達で、全員でまた低階層回るのは効率悪いので構成がお見事。 [気になる点] 本文) >危なっかしい2人の監視を任…
[良い点] 新ジョブやっとキター! 忍者でもくのいちでもなく忍なのか、ニンニン。 [気になる点] 本文) >・忍 > ジョブ効果 知力大小昇 精神中上昇 移動速度大上昇 > ジョブスキル 状態異常…
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