§203 英雄
「xxxxxxxxxイェーラ!xxxx!」
現在、自分はボルドレックの座る席の付近に散らばった矢を拾っていた。
ボルドレックが横にいた奴隷の女を急かす。
来る!
来ると判っているのでオーバーホエルミングだ。
引き延ばして得られた僅かな時間に、
体力のありそうな戦士を魔道士と交換して全体手当てを10回使用した。
来い!
再び体中に激しい痛みが迫り、のたうち回る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛が゛あ゛あ゛あぶあああぐ
ああああああふぐおおぉぉんぎぎぎぎ、がはっ」
全体手当てを一生懸命に使用する。
使う度に痛みが引いて行くのでこれで正解だ。
ミサンガは千切れた感じがしなかった。
再び自爆攻撃を耐えたのだ。
やられる度にこれでは、なんて言うかある意味拷問だ。
のたうち回って転げ回る。
コロシテ・・・コロシテ・・・。†
ル、ルスラーンは・・・。
止めには入らない。
何故だ。
対戦相手も苦しんでいるからか。
これは何が発動してどうなっているのか、
ルスラーンには判断が付かないのだろう。
「や、止めっ!」
ほっ、止まったか。
自分はまだ痛みでゴロゴロしている。
ゴロゴロしながら全体手当だ、回復量的に全然足りない。
戦闘は終わったのだからこのままゆっくり回復したい。
ルスラーンがウルファンの下へ、別の騎士が自分の下にやって来た。
「立てるか?立てないのであれば引き分けで次の対戦者と交代になる」
「た、立てます」
「お、おい、無理をするなよ?」
ルスラーンがこちらにやって来た。
「あれはお前が何かしたのか?」
力尽きていたウルファンを指さして聞いて来た。
「ええと、はい。毒ですね。この弓は毒の弓です」
「ど、・・・い、いや、スキル武器の使用は禁止では無いな。
ではこちらはどういう事だ?」
反対側、自分を隔ててボルドレック側を指さして同じように尋ねられた。
こちらも何も、そちらは何も・・・、
指された所にいた女性が1人消え、
その足元に広がる血溜まりを、
血飛沫を被ったボルドレックが呆然と見詰めていた。
もう1人の女はボルドレックの背中を擦っている。
自爆攻撃をした者の末路だ。
自爆だけでは無く反射分も当たっているはずだが、
どうせ使用者はHPが尽きて死ぬのだから関係無さそうだ。
「い、いえ、多分、最後の痛みからすると自爆玉でしょうか?」
でしょうかでは無く、自爆玉そのものだ。
先程のバラブダと同様に使用者は血の固まりへ変わり、
自分は痛みで藻掻き苦しんだ。
誰の目にも同じ事が起こった事は明らかである。
しかし先程とは大きく異なる事がある。
対戦者以外が使用したと言う紛れも無い事実だ。
「ボルドレック、申し開きをしてみよ」
「は、はい、止めたのですがこの女が勝手に。
私の知らぬ事にございます。
お、恐らくウルファンとは良い仲だったのでしょう。
この女の身を挺してでも守りたい一心が、
そうさせてしまったのです。おっ、お許し下さい」
「だそうだが、どうだ?」
どうだって、こちらに振らないで頂きたい。
あくまでも自分は戦闘奴隷。
裁量に文句を言える立場では無い。
そこをジャッジするのが見届人の役目だろう。
「私の勝利で宜しいでしょうか」
「ば、バカを言え!私の決闘代理人はもう1人おる!
たまたまうちの奴隷が粗相をしただけで、私が負けた訳では無い!」
まあそうだよな。
ここまで来たのだし、もう1人と戦う必要がある。
これで終わってもこいつが納得しないだろう。
その際にずっと付け狙われても困る。
「私は戦闘奴隷ですので、判断は主人に任せます」
「ではあちら側に聞いて来る。
それから、お前は2度も自爆攻撃を用いた。
他に自爆玉を持っている者は居らぬな?」
「おっ、居りませんが」
「その横にいる女奴隷も怪しいので、兵舎の別の部屋で預からせて貰う」
「は、はあ。それはまあ構いませんがね」
ボルドレックは血で汚れた上着を脱ぐと顔を拭い、
それを預けられた女奴隷は別の騎士に連れられて兵舎へ入って行った。
そうこうしている間にも、
騎士たちは血だまりを掻き取り桶に入れ、
土を掘り返して綺麗にしていた。
そういう事がままあるのだろうか、慣れた手付きで軽くビビる。
自分の陣営に戻る振りをして、作業を終えた騎士に聞いてみた。
「このように自爆玉を使用する者は多いのですか?」
「バカ言えっ、多い訳あるか!」
「いえ、手慣れたようでしたので」
「ここでは決闘が普通に行われるからな、流血は多い。
我々は盗賊どもを血祭りに上げたりもするのでこの位ではビビらん」
「左様ですか、ご苦労様でございます」
「うむ、お前もちょっと休憩させて貰ってはどうだ?暫くは戦えんだろう」
「そうさせて頂けると助かるのですが・・・」
チラッと自分の陣営を見た。
自分の身代わりになったジトミールは、
しっかりと自分を演じてくれているようだった。
代弁するアナと話し終えたルスラーンが戻って来た。
「試合は続行だそうだ、お前の所の女奴隷は容赦無いな。
本当にやれるのか?」
「やりますよ、自分には自爆玉が効きません。
それはしっかり示せた事でしょう」
「恐ろしいな・・・、しかし次はそうは行かないだろう。用心せよ」
ルスラーンが中央へ戻って行った。
また何かの口上を述べる。
直ぐに次の出番なのか。
大変だな。
ゆっくりと自分の陣営に戻って弓を返した。
ボルドレックの用意した戦闘奴隷は次で最後。
先程ボルドレックはそう言っていた。
奴は全ての駒を出し切った。
勝敗の行方は翌日以降へ縺れ込みそうに見えない。
勝てば自分の勝利だ。
今度こそMP全解放を使わせて貰う。
ボルドレックは2人分も自爆玉を使用したのだ。
今更3人目が爆ぜた所で、またかと思われるだけだ。
その際には再び痛がる演技をさせて貰おう。
なにせ2回も練習する機会を得られたのだ。
お陰様だよ、まったく。
ルスラーンの口上に、再び観衆が沸・・・、
沸かなかった。
流石に2回も自爆玉を見た彼らは恐怖を感じたのだろう。
大衆はボルドレックを見る目を変えたのだと言える。
恐怖政治はいつか終わりが来る。
大勢の反目者相手には、
権力者といえども頭を垂れるしか無いのだ。
そうでなければ首を落とされる。
と言うよりも様子がおかしい。
先程までは口上を受けた男どもは武器を振り回し、
その力を示すように威張った。
紹介を受けた最後の対戦相手は、
やる気が見られずボケっと立っているだけである。
観衆の様子を見てもボルドレックに対して押し黙った訳では無く、
この男自体に沈黙をした様子だ。
どういう訳だろうか。
もう少し人間語が判ればその理由も解かったのかもしれない。
どうせやる事は1つだ。
もう勝った。
とっとと始めてとっとと終わりたい。
早く自分の名前を読んで欲しい。
「xxxxxxxxxxxxミノ!」
よし、これで終わりだ。
自分の陣営から中央に向かって歩く。
観衆たちは騒めくが、どちらにも声援は無かった。
最後の決闘の場に向かいながら、ついでに対戦相手を鑑定する。
・タロス 人間 男 36歳 英雄 Lv42
聖剣 聖銀の盾
マジカルアーマー アームロング ビットローファー
おっ、ちょ、待てよ。†
タロスだよ、あの有名人の。
え、何?本物?
だよね、装備がまずおかしいし。
で、何だ、英雄って。
英雄タロスは本当に英雄じゃないか。
恐らく最初に盗賊を討伐したのだろう。
そしてこの国のどこかにあるエレーヌの神殿へ行ったのだ。
いや、このタロスも元は外国人だと言う可能性もある。
どういう理由かは知らないが、
ここに流れ着いて、そして流れ去った。
そして再び舞い戻って来た。
そりゃ観衆も押し黙る。
「隊長殿、少しだけ宜しいですか?彼に伝えたい事が」
「む、手短にせよ」
「タロス、お前は有名人だそうじゃないか」
「・・・」
「カリムと言う男は憶えているか?」
「・・・」
「あの男は実家が無くなった後盗賊に落ちた」
「・・・」
「その後は自分が奴隷として手に入れ、今は商館で教育を受けている。
今後は魔法使いとしてどこかの主人に仕える事となるはずだ」
「・・・」
「お前はどうだ?やり直すつもりは無いか?」
「・・・」
「お前の身分、買ってやっても良いのだぞ」
「・・・無理だ」
「もう一度聞く、自分に不可能は無い。
カリムには機会を与え、彼は盗賊から立ち直った。
お前にもその機会を与えられる。わざと負けろとは言わない。
この試合が終わったら考えてみないか?」
「・・・俺にできる事はお前を倒す事だけだ」
「そうか、残念だ」
「・・・・・・・・・・・・カリムは俺に何か言っていたか?」
「いや、何も。特に恨み節のような事は聞いていない。
それまで遊んで暮らして来た自分自身の方を責めていた」
「・・・」
駄目だ、これは。
捻曲がってしまっている。
タロスには更生のチャンスが無い。
そもそも手加減して倒せるような相手では無い。
申し訳無いが、その気が無ければ全力で行かせて貰う。
あちらから向かって来た盗賊とは違って、
自分から倒そうと思ったのはタロス、お前で2人目だよ。
「もう良いか?背を向けろ」
ルスラーンが開始を急かした。
もう話は終わっている。
自分のしたかった話の決着は付いたのだ。
タロスの方も、何かしらの決着を得たのだと思う。
自分よりやや背の高いタロスと背を合わせる。
これは英雄対勇者の戦いだ。
その勇者は勇者に非ずな攻撃手段を用いる予定であるが。
大衆はタロスを葬った自分に何を思うだろうか。
非難?称賛?恐怖?驚愕?
マスクをし、身分を隠して闘っている事に安堵した。
ユウキ本人が戦ったと知られたらこれは大変な事だろう。
かつての英雄タロスを殺したとなっては生活がままならない。
良い方に転んでも悪い方に転んでもだ。
仮面を作って本当に良かった。
借りて来た謎の仮面戦士が恐ろしく強かったのだ、そう言い訳ができる。
決闘の前にはボルドレックに勝ってしまう事を心配したが、
今はタロスを仕留めてしまう事に恐怖している。
銅鑼が鳴る。
20回目の銅鑼の後、彼は倒れる事になる。
英雄の最後、彼は何と言うだろうか。
さっき自分がのたうち回ったように、痛みで何も話せず終わるのだろうか。
それが彼の望んだ最期だ、仕方あるまい。
15,16,17,・・・。
1歩踏みしめるごとに足取りが重くなる。
観衆たちは黙ってこの戦いを見届けている。
タロスが勝っても自分が勝っても、
これまで見せて来た恐ろしい戦いをする2人の勝利を、
素直に喜べないでいるのだ。
観衆の誰もが喜ばない決闘。
いや賭け札が当たれば嬉しいだろうが、その後味は悪い物となる。
せめて自分が悪者になる事で、その全ての鎖を断ち切ろう。
幸いな事にこの戦闘奴隷は顔を隠し、名前も偽っている。
元はと言えば、タロス。
お前が酔っ払って、酒場のチンピラと賭け事をしたのが悪いのだぞ。
ギャンブルで身を滅ぼすと言う話は常套じゃないか。
──ゴゴゴゴゴゴゴァァァァァァァァン!
お互いが振り返る。
タロスは既に剣を構えている。
口元は動いているので、開始と同時にスキルが来る。
奴の使用するスキル・・・。
オーバーホエルミングだ。
──ガァァァァァン!
その音と共に、タロスは超高速に動いて来た。
こちらも直ぐにオーバーホエルミングを使用させて貰う。
一瞬のうちに見失ったが、直ぐに彼の姿を捉えた。
タロスが視界に収まったその時には、もう半分の距離を詰めて来ている。
これが真の英雄に依るオーバーホエルミングか。
あっと言う間に詰められた事への恐怖、
切先が向けられた、聖剣とか言う恐ろしい名前の武器への恐怖。
そして何より、怠そうだった彼の目が、
餓えた狼の如く狂暴になっている事へ恐怖した。
──英雄とは恐ろしくさもありなん。
今からオーバーホエルミング同士がぶつかり合う。
相手よりもこちらの方が後に使用したのだ。
若干こちらの方が効果時間に利はある。
タロス目掛けて駆け寄った。
「タロス、お前だけが英雄では無いのだ!」
「なっ!!」
タロスは剣を大振って自分を斬って来た。
剣技自体が素晴らしく上手い。
振ったと思ったら既に振り切っていた。
走りながらだぞ?
とてもじゃないが自分にそんな芸当はできない。
胸が熱い。
多分大ダメージを受けた。
一閃と言う奴だ。
目にも止まらぬ速さで真横に斬る。
では真似てやろう。
オーバードライブ!
タロスの目の前で横に撫で斬ってやる。
横に振りながら、顔をそっと掠めて撫で斬った。
先にタロスのオーバーホエルミングが切れる。
間合いを開きつつ、自分のオーバーホエルミングも切れた。
彼にMP全解放は必要無い。
英雄として終わらせてやると決めた。
タロスが再び詠唱を口にする。
「受け渡されし英霊の、英知集くむ礎の、
秀つ手自に呼び覚ませ、
オーバーホエルミング!」
再びタロスが視界から消える。
タロスの詠唱に合わせてこちらも念じたのだ。
ほぼ同時に発動したかと思ったが、タロスの方が若干早かった。
詠唱が終わると同時に視界から消えたタロスが、
こちらのスキル発動直後に目の前へ現れて、
自分の目がやっとその動きを捕える。
大分前に自分が瞬間移動したのだとナズは喚いていたが、
今回そのスキルを目の当たりにしてみて良く判った。
これは相当に動体視力が良くなければ見えない。
タロスの次の一手は縦斬りだった。
勿論木の盾で止めさせて頂く。
しかし速い。
オーバードライブを用いてやっとだ。
英雄のスキルだけに自惚れるのでは無く、
その剣技はやはり英雄と言わしめるだけの物であった。
では、さらばだ。
MP回復速度×20を消してデュランダルを取り出し、
そのまま胸を突いた。
「ごはっ・・・」
豪華で硬そうなタロスの鎧を、
デュランダルはいとも簡単に貫通した。
タロスの力が急速に衰え、自分の左肩に全体重を伸し掛けて来た。
タロスの肩に手を置いてやる。
「お疲れさん、ゆっくり休めよ」
「・・・・・・これでやっと眠れるな」
タロスは最後に少し微笑んだような気がした。
そのまま奴は動かなくなった。
まだオーバーホエルミングは続いている。
デュランダルを消した。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
観衆は静まり返っていた。
自分とタロスだけしかその場に存在しないかの如く、
決闘を行なったこの場は静寂に包まれた。
そのタロスも、息を引き取ったか昏睡をしている。
自分の足取りで砂を蹴る音だけが聞こえた。
タロスを肩に抱えたまま騎士団のギルド建屋まで引き摺って運ぶ。
入り口の柱に凭れ掛けさせ、拳を額に当てて労った。
そして自分1人で庭の中心に戻り、拳を上げた。
(おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーー!)
観衆が沸いた。
沸いたが直ぐ悲鳴に変わった。
「ああああああああ!金!俺の金がああああ」「何でだよおおお!」
「あたし今年の税金払えないよおおおお」
「誰か、5000ナールで良いから貸してくれ!倍にして返す!」
「め、迷宮に行ける方いませんかー!
30レベル以上の探索者の方ー!パーティの空きはありませんかー」
阿鼻叫喚である。
「ルスラーン様、これで勝ちと言う事で宜しいですね?」
「ん?まあそうであるかな。
いやそれにしても流石だな、英雄を倒すとは。
今日からお前が英雄だ」
「いえ、英雄はこの謎の仮面の男、ミノです。
ユウキとはただの商人。
酒や歌姫を手配する出入りの業者ユウキですので」
「は・・・はっはっはっ。お前は欲が無いな」
自分の陣営に戻り、ユウキ擬きに跪いて、
勝利の報告を行う振りをした。
「今まで自分の振りをしてご苦労だったな。トイレに行こう、交代だ」
「は、はい・・・」
***
直ぐにマスクと装備、服を交換して元の場所に戻って来た。
余り自分の事を見られ過ぎても違和感に気付かれてしまう。
自分の所持奴隷がボルドレックを降した。
そこで初めて自分への注目が高まるのだ。
ジロジロ見られる前に本物へ戻る事で、違和感を最小にする。
さて。
ユウキがユウキ足り得るので、ボルドレック陣営へ殴り込みに行こうか。
ズカズカと歩き、ボルドレックの前で止まる。
右にはアナ、左には謎の仮面戦士ミノを従える。
「と言う訳で、うちの奴隷には今後手を出さないで頂きたい。
それから2人の奴隷を頂いて行くので宜しく」
「ひぃぁっ!イェーラッ!バラブダッ!
ふっふっ・・・うぐぐ、ぐぉぉぉーー」
恐怖と配下を失った悲しみ、そして有り得ない事が次々と起こった事実が、
ボルドレックを混乱させ男泣きさせてしまったらしい。
そもそもの話、死なれて悲しむ位なら自爆玉なんて飲ますなよ・・・。
金と権力を振るって好き放題して来た男がこれなのだ。
ふんぞり返って威張り散らしながら帰って行くかと思ったのに。
みっともない。
と言うか、身代わりのミサンガを切られる事は想定外だったようだ。
テンプレ通りの捨て台詞を期待していたのだが、
そこにあったのは惨めで情けない男の姿だ。
もうこいつとは金輪際関わりたくない。
「では、もう2度と自分の前に現れないで頂きたい。それでは」
未だ崩れて喚くボルドレックを後にして、
ルスラーン隊長の下へ向かい、奴隷の引き渡しを求める。
「お、おお!そうであったな。
お前の奴隷を預かっていた事をすっかり忘れていた。
いや、お前の戦いは伝説になるぞ。英雄殺しの英雄だ。
それから自爆玉を食らっても死ななかった不死身の英雄、
さらに魔法を弾き返して無効化した英雄、他にも・・・」
「ちょ、ちょっと待って下さい。待った、待ぁったー!
それはミノと言う男で、私は借りただけです。宜しくお願いします」
手をクイクイやって酒の合図をした。
ルスラーンとシラーと共に、自分達の控室に戻る。
暫くして兵舎に連れて行かれたナズ達が呼び戻され、部屋に入って来た。
「ナズ!」
「ご主人様!」
自分が手を広げて迎え入れると、ナズはそこに飛び込んで来た。
ナズは自分の体を緊く縛り、それに応えて優しく頭を撫でた。
「それでは奴隷の所有権の移動を行いますので、
ルスラーン様は腕の拝借をお願い致します」
シラーがルスラーンの横に立ち、契約の手続きの準備をした。
ナズ、アナ、イルマ、クルアチの4人の奴隷に、
インテリジェンスカードの操作を完了させて行く。
自分のインテリジェンスカードには4人の名前が書き込まれた。
「これでこの4人の奴隷はユウキ殿の物です。
主人には奴隷に食事と住まいを与える義務がございます。
これらが守られなかった場合には、
その権利を停止される事もありますのでお気を付け下さい。
・・・以上で契約は終了となります」
「有難う御座います、シラー殿。報酬をお支払いしますね」
「はい、毎度ありがとうございます。
この度は出張での契約手続き6回を行いましたので、
1万2千ナールを別途頂戴致します。
合計で2万2千ナールとなりますね」
「あれーっ!?出張料の1万ナールとは別かぁ」
「別でございますね」
「ところでシラー殿は札を?」
「勿論、ユウキ殿に500万ナールでございます」
「あははははー」
「ほっほっほ」
「負けてよ・・・」
「負かりませんなあ」
「あはははは」
「ほっほっほ」
戦闘スキルに全て絞った結果、
3割引きを発動させずして値段が決まってしまった。
∽今日のステータス(2021/12/12)
・タロス 人間 男 36歳 英雄 Lv42
かつてトリアの街の迷宮を退治してしまい、
地位と名誉を追われて旅に出た。
名を隠して用心棒や決闘代行で日銭を稼ぐ日々を送っていた。
まともな宿に泊まれずに徘徊する事も多く、疲弊が続く毎日であった。
かつて自分が救った人からも疎まれるようになった事に、
理不尽さを感じながらも、
自分のやってしまった事に対する自責の念に苦しめられており、
もはや自分の人生に何の望みも残っていなかった。
・繰越金額
金貨 6枚 銀貨 77枚 銅貨 49枚
奴隷商依頼料 (22000й)
出張費 10000
契約代行料 ×6 12000
金貨- 2枚 銀貨-20枚
------------------------
計 金貨 4枚 銀貨 57枚 銅貨 49枚
・異世界57日目(11時半頃)
ナズ・アナ52日目、ジャ46日目、ヴィ39日目、エミ32日目
パニ22日目、ラテ4日目
サンドラッド到着まで4日、決闘の日




