§201 試合
自分と、相手方の戦闘奴隷がルスラーンの前に並ぶ。
こういった公開試合はエンターテイメントの側面も兼ねている。
ルスラーンは何かを述べているが、恐らくは闘士の紹介だろうか。
いや、自分は名乗っていない。
自分には紹介できるようなネタなど無いはずだ。
と言う事なら今紹介している内容はボルドレック陣営に付いてだ。
そして自分は無名な商人。
無名どころか商売などした事が無い。
こちらも紹介するようなネタは存在しない。
盗賊の処理をするため56層へ同行した事は流石に言うまいて。
大体それは主人のパーティの事であって、
レンタルして来た戦闘奴隷とは全く関係の無い話だ。
あの時この変なマスクの男はいなかったと、ルスラーンは知っている。
仮面を被り身分を偽って戦うと前以って伝えたので、
中身が掏り替わったユウキだと言う事実もルスラーンは知っているはずだ。
先程、あからさまに怪しいトイレ中断を申請したのだし。
だから中身に付いての言及自体も無いと思う。
無いと信じたい。
っていうか言うな、頼むぞ。
ルスラーンの口上が終わり、相手の男が声を張り上げて何かを述べる。
「xxxxxxxxxxxxxxxx!」
──ゥオオオオーーーー!
観客が沸き立つ。
何かしら威勢の良い事を言ったに違いない。
そしてボルドレックの勝利を信じて賭けた観衆が騒いだのだ。
自分は・・・特に紹介する事も無いし、そもそも喋ったらバレるので嫌だ。
寡黙でクールなレンタル奴隷を演じ切る。
「お前の名は?」
ルスラーンが尋ねて来た。
やはり名を名乗らないと紹介ができないよな。
しかしここでレンタルした奴隷の名を騙ると、
後々彼が有能だと思われてしまい要らぬ軋轢を与えそうだ。
彼の為にも偽名で行こう。
「マスク・ド・ミノタウロスでお願いします」
「馬鹿かッ!長いっ!」
それもそうか、悪乗りし過ぎである。
「ミ、ミノでお願いします」
ルスラーンがミノを含む何かを述べて、再び観衆が沸き立つ。
仮面を着けハンデを背負って戦うのだから、実力はあるのだと思われる。
最終的にボルドレックが勝てば彼らはそれで良い。
それまでは決闘の様子を楽しむのだ。
だから対戦相手が誰であろうと、
凄い戦いを見せて貰えるのであれば嬉しいのだろう。
沸かせてみせよう、期待通り。
前回、冒険者崩れの盗賊とやり合った時のような無双は無しだ。
「隊長殿、アイテムの使用や使用武器などの禁止事項は?」
小声でルスラーンに尋ねる。
「事前に相手方と何も取り決めておらんのなら、自由だ。
それから以前お前が商人と戦った時のような事は誰も喜ばんからな。
あくまでも公開決闘とは相手を屈服させる事が目的なので忘れぬよう」
これは弁えている。
古代ローマのコロセウム。
あの時代に闘技場があった事は周知の事実である。
しかしそこでの決闘を行う闘奴は殺し殺される関係では無かった。
あの時代、決闘は富豪や貴族たちの権威付けのために行われていた。
闘奴は高級品であり、殺害してしまうと相手方に賠償が科せられる。
死闘も無かった訳では無いがそれは私怨や権利を賭けた戦いであって、
一般的な決闘とは死ぬまででは無く相手が動かなくなるまで、
或いは降参をするまでである。
ここでもそのような扱いである事は、戦闘奴隷たちに取っても良い事だ。
晴れの舞台で活躍する高級戦闘奴隷、
それは迷宮に籠り実力を付けた戦闘奴隷の花形である。
勝てば主人から褒美を与えられるし、主人はその名を売れる。
負けてもあの戦いはどうだったのと噂になり、主人も丸損では無い。
高級な戦闘奴隷を失うのであれば大きな損害であるが、
そうでは無いのであればこれはある種ショーのような物だ。
剣に依って1発で致命傷を得ない世界が、それを容易にしている。
そもそも実剣でスパッとやれてしまったら決闘にならないじゃないか。
お互いの体がちょん切れたら両方死んで終わりだ。
残酷なだけで楽しみも糞も無い。
そしてアイテムはやはり自由か。
途中で変えて来る可能性もあるので、最初から無双は良くない。
こちらが自由であるならば、相手も自由だ。
自爆玉の発動には細心の注意を払おう。
・ヴァルドル 竜人族 ♂ 31歳 竜騎士 Lv47
バスタードソード 鋼鉄の盾
鋼鉄の鎧 鋼鉄の籠手 鋼鉄のグリーブ
最初の相手はやはり竜騎士らしい。
ジャーブの持つバスタードソード、それにアナの持つ鋼鉄の盾だ。
全く隙が無いし、全身鋼鉄で固められているので硬そうだ。
身代わりのミサンガを持っていないので、正々堂々と戦う事ができる。
まあ当然か。
初戦からいきなり自爆ってそりゃ無いよな。
ボルドレックだって犠牲は最小限が良いだろう。
と言うか1人目から屈強そうな布陣で来ている。
Lvも47とかなり高く、
こんな場に出て来るのだから迷宮50層は易々と突破しているのだろう。
そもそもこいつはレンタル奴隷なのか?
そうであれば自爆玉を飲むように要求したら派遣元が断るだろう。
或いはボルドレックの大事な1番奴隷である可能性。
捨て駒にできない位重要なポジションに置かれているのであれば、
危なくなった時に身を引かせる可能性は高い。
まずは正々堂々決闘をさせて、
余興を楽しませようと言う奴なりの采配なのかどうなのか。
イルマの手紙に依れば、
ボルドレック自身に仕えている戦闘奴隷は2人だとの事だ。
勿論、両方出して来ない可能性だって十分にある。
「ユウ・・ミノ、お互い背を合わせたら鐘に合わせて反対方向へ歩け」
ルスラーンから最後の指令が入る。
こういった場でのルールを知らないので、
立会人が事情を知る人物で非常に助かった。
ヴァルドルと背を合わせると、騎士ギルド建屋の屋上から銅鑼が鳴った。
──バァァァン!バァァァン!バァァァン!バァァァン!・・・
音に合わせ、一歩一歩足を進める。
観衆に合わせた、そういう演出なのだろう。
こういった細かい決まり事を教えてくれないと困るのだが、
ぶっ付け本番でやらせる辺りルスラーンも意地が悪い。
空気の読める日本人でなければ、その場に立ち尽くしていた所だぞ。
──バララララバババババババァァァァァァーン!
20回の銅鑼が成ると、弱めのドラムロール音から強めの音に変わる。
振り向けって事で宜しいか。
仮に公開決闘の経験が無い奴隷をここへ立たせたら、
最初から失態だらけになっていたと思う。
・・・そうはならないか。
それなりに商館などで教育されるのだろうし。
決闘のケの字も知らない一般市民が、
初見でここに立っている事がそもそも間違いなのだ。
観衆が沸いた。
相手と40歩の距離を隔て、騎士団ギルドの庭は再び砂埃が舞った。
──バァァァン!
戦い開始の合図だろう。
相手は我先にと詰め寄って来た。
あんな重たい装備を着ているのに速い。
オーバーホエルミングで準備時間を作らせて頂く。
まずは防御、メッキ、破魔鏡に反射鏡。
相手には状態異常耐性ダウン。
ここでジョブを入れ替える。
細工師と機工師を外して博徒と暗殺者に挿げ替える。
探索者、勇者、騎士、英雄、暗殺者、魔道士、博徒、それから道化師。
準備万端だ。
オーバーホエルミングが切れ、
大振りの剣の一撃が斜めに降り掛かる。
もう一度オーバーホエルミングだ。
どれ、1発は耐えてみよう。
直撃はやっぱり怖くて受けたくないので、
やや体を引きながら胸へ掠らせるように斬られてみた。
掠ろうが直撃しようが結局どこに当たっても一発は一発なので、
ダメージ的には逸らす意味が無い。
左の鎖骨付近から右脇腹の斜めに掛けて、決して軽くない痛みが走る。
防御とメッキを以てしてこの位か。
確かに痛いが、万全ならば10回位は受けても平気そうではある。
直ぐさま全体手当、防御、メッキの順に使用し、
こちらの間合いに入った竜人族の男を突いた。
斬るには間合いが遠過ぎるが、突くにはこちらもリーチ内だ。
腕から肩に掛けて思い切り伸ばし、相手の手元を突く。
胴になんて届く訳が無いし、懐に潜り込んでは危険だ。
当たる場所であれば何でも良い。
こういう場合は手元だ。
篭手に弾かれて金属音が鳴り響く。
しかしたとえそう見えたとしても、ダメージはダメージである。
自分の着るミスリルジャケット越しにもしっかりとダメージが入ったので、
相手の男も手元辺りに不快感を覚えた事だろう。
実際に有効なダメージとなったかどうかは怪しいが、
状態異常の判定は確実に入ったはずだ。
このまま受けつつ、カウンターを当てて行く事にする。
竜人族の男は剣が届く間合いから踏み込みつつ体をスピンさせ、
その遠心力の勢いを生かして薙ぎ斬って来た。
多分これはダメージだけで無く、衝撃も凄いと思う。
高Lvの戦闘経験者ともなると動きが凄い。
こんなトリッキーな動きで翻弄されたら、アナだって厳しいだろう。
オーバードライブを掛けてゆっくりと判断する時間を作る。
切先の位置へ木の盾を置く。
そこにヒットさせる予定でその後の事を考えると、
相手は右足が前、やや胴体を捻り左手足が後ろに来るはずだ。
構えている盾が外れる事になる。
正面に向けて斬ると避けたり盾を用いられそうではあるので、
出て来るであろう右足の位置を予想して斬り上げてみた。
──ガコッ、カィン!
木の盾の位置にバスタードソードがやって来る。
重い一撃に腕ごと持って行かれそうではあるが、
耐えるつもりは無く最初から受けて引く予定だった。
そのまま盾ごと押し込まれて肘を折る。
観衆には押し込まれて盾を弾かれたと思われていると思う。
しかしこちらの攻撃は相手の足へ確実に入った。
素早い動きでも無く、ゆっくり目に振り上げたので、
この動きで剣が当たったとは思われていないと思う。
竜騎士の男は剣先をやや持ち上げると、今度は縦に振り切って来た。
自分の盾は完全に外れた状態で、左で受けたのに右肩にある状態だ。
ここから強引に盾で受けるとなると、
誰の目にも見えない早業となってしまう。
折角斬り上げた状態で振り被った剣があるので、
そのまま右へ払って切線を少しだけ外すように、
相手のバスタードソードを押し退けた。
正中面への攻撃を、何とか右肩に当たる程度まで剣筋を逸らせる。
──カジャッ!
ミスリルジャケットが重たく打たれ、小さな鎖のリングが軋む音を立てた。
先程と同じような痛みが肩に広がる。
木刀で思い切り叩かれた程度の痛みだ。
あまりにも痛いので涙が出て来る。
オーバーホエルミング!
全体手当て!全体手当て!全体手当て!
防御!メッキ!
痛みこそ引いたが涙は目に溜まったままだ。
拭う暇なんて無い。
この一撃で竜騎士の男との間合いはだいぶ近くになった。
間合いを開きながら同時に振り上げたままの剣を引き当てする。
丁度この男の鎧に対し、綺麗な斜めの袈裟斬りが決まる。
本来ならば先程の一撃は致命傷、
たとえ顔面で無くても相手の戦意を失わせるに十分な一撃である。
それを防御とメッキの力で強引に耐えた。
引き撃ちしながらやや距離を空け、
3歩の間合いを取って、そこで打たれた右肩を押さえて痛む振りをした。
観衆が沸き返る。
恐らく勝負あったと思われているのだろう。
正直、かなり痛かったし。
まともに食らったら多分骨まで逝っている。
その位の威力のある重たい剣だ。
普段こんな物をジャーブは振り回して戦っているのか。
盾を持っていない事を除けば、
ジャーブはこいつと同じ位強いと言う事になる。
我ながら初期段階に於いて素晴らしい仲間を得たものだ。
そのままの体勢で待っていると、相手が動いた。
そんなに痛いのになぜ降参しないの?
何ならもう一度やってやろうか?
そんな風に思われている。
却って好都合だ。
こちらを手負いと判断しているはず。
そこには油断があると思う。
最初に受けた時と同じような剣捌きで、再び斜めに斬って来た。
再びオーバーホエルミングで少しだけ体を引き、
肩を押さえていた左手にある盾を掠めさせた。
勿論盾ごと持って行かれ、腕は地面まで叩き付けられる。
つまり、自分は左手を地に付け膝を折った。
・・・と言う演技だ。
相手にはあまり手応えが感じられなかったかもしれない。
盾だけを撫で斬ったような感触だろう。
だが、これでもう自分は頭部に関して無防備だ。
上から殴れば勝利を見込める。
そう思わせる。
一旦は地に打ち付けられた剣先がゆっくり持ち上げられ、
「覚悟は良いな?」と言われているような気がした。
だがボディがガラ空きになった。
距離は十分に近い。
オーバーホエルミングとオーバードライブで、
相手の胴へ向けて突けるだけ突く。
1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12、
そろそろオーバースキルが切れる。
もう一度だ。
オーバーホエルミング!オーバードライブ!
1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12!
次っ!
オーバーホエルミング!オーバードライブ!
1,2,3,4,5,6・・・。
持ち上がった剣先が振り下げられており、
自分の頭上5センチの所でそれは停止した。
拳1個分と言う奴だ。
終わった。
連続突きを止めて、「一撃突いた」と言う形で自分の動きを止める。
オーバースキルの効果が切れ、時間が元に戻った。
自分が竜騎士の胸に突き込んだままの形で、
相手の剣の動きが止まり形勢逆転、そういう構図が見える。
剣自体の重量のためか、バスタードソードがゆっくりと頭上に降って来た。
首を捻って肩で受ける。
痛くは無かった。
攻撃では無く、当たっただけ。
それは計算式に依って決定したダメージでは無く、
剣自体の重量分を撞けたダメージなのだろう。
一応全体手当てを施す。
席に座る自称ユウキは、立ち上がって両手を絞っていた。
演技は上々である。
発動した効果が麻痺か石化は解らないが、
対戦相手は動かないので、軽めに押して地面へ倒してやった。
そして首筋に剣先を当てて盾を持つ腕を上げる。
勝利宣言のポーズを盛ってみた。
「「「「おおおおおおおおーっ」」」」
聴衆が沸く。
細身で弱々しい謎の仮面の闘奴は、強靭な肉体の竜騎士に勝ったのだ。
初戦からボルドレックが勝つ展開では面白くも無いだろう。
1戦位は名の知れぬ商人が勝ってもおかしくない、そんな雰囲気だ。
「xxxxxxx!や、やめ!」
ルスラーンが戦いを止める。
その前は人間語で形式的な合図を出したのだ。
止めろ、とは自分へ向けての事だ。
勿論もう止めてはいるが、合図を受けなければ離れる事はできない。
剣を鞘にしまい、肩を痛そうに擦りながら中央へ戻る。
空いた手をルスラーンに掴まれて、持ち上げられると再び観衆が沸いた。
「「「「おおおおおおおおーっ」」」」
再びルスラーンが口上を述べる。
自分はこの場のままで良いのかな?
手は放たれたので、もう一度肩を押さえて痛みのある振りを続けた。
続いてやって来たのは全身高そうな装備を身に着けた、
これまた身なりの良さそうな男だった。
・クゥトゥメル 人間 男 43歳 魔法使い Lv46
祭殿のミスリルケーン 抗縮のイヤリング
白銀の鎧 アームロング 白銀のグリーブ
この男、闘奴では無い。
あまりにも装備の下に見えている服が良過ぎる。
アームロングから肩に掛けて見えるシャツの袖にはレースが組み込まれ、
鎧の襟元からは押し込まれたリボンネクタイが食み出て見える。
兜を付けていないので顔が良く判るが、
装備品のイヤリングとは別の耳飾りをしているように見えた。
鑑定した結果に出て来ないので、多分あれは高級な装飾品だ。
そして自分も身に着けている白銀製品で全てが賄われている。
装備品が高級品だと言う事からも、
教育係だとか主人の右腕に収まるような実務者だ。
更に職業が魔法使いと言う事であれば、
これはもうちょっとした人物である事は間違い無い。
使役されているのでは無く自ら進んで配下になっているような、
そんな感じなのだろう。
彼の主人は余程の金持ち・・・、或いは有力者の家の者だ。
ボルドレックの配下にいる者では無く、借り受けて来た人物なのだと思う。
これがイルマの言っていた物凄い人物なのだろうか。
大衆娯楽である決闘の場に於いて、
魔法が飛び交うさまは大迫力で絵面も良さそうだ。
ルスラーンが何か口上を述べ、再び中庭中央へ。
この魔法使いの男と背中を合わせる。
銅鑼が鳴り響き、20歩目の所でロール音が鳴り響く。
再び観衆が沸き、戦いが始まった。
相手は動かない。
当然だ。
魔法使いなのだからその方が都合は良い。
彼を倒すにはこちらから駆け出していく必要がある。
その間に一撃でも大魔法が炸裂したら、この戦いは苦しい物に成るだろう。
ファイヤーボールが放たれれば、
それはピッチングマシンの剛速球さながら、
普通の人間では避ける事も困難だ。
一撃でも当たったならば、当然食らった相手は怯む。
アナがパーンのファイヤーストームで転げ回ったように、
Lv46のベテラン魔法使いの魔法なんて食らったら一堪りも無い。
・・・はずだ。本来は。
自分も距離を空けたまま動かなかった。
観衆が沸く。
ざわざわと聞こえるのが判る。
何を言っているかも大体想像は付く。
深手を負っているはずなのになぜ倒しに行かないのだ、負けるつもりか。
或いは深手過ぎて動けないのか。
観衆にはそう見える。
何故なら自分は肩を押さえたまま痛みを堪える格好で動かないからだ。
魔法が発動した。
彼は詠唱が早い。
自分が唱えてもちょっと掛かりそうな詠唱文を、
戦いが始まってあっと言う間に完成させた。
早打ちのクゥトゥメル、そう呼ばせて貰おう。
でもクゥトゥメルが多分言い難い。
頭の中でそう思うだけなら良いが、
実際に彼の名前を発音すると舌が縺れると思う。
魔法を全身で受けた。
こうしてみると直線的にやって来たファイヤーボールは、
自分にはどうあっても避けられないと諦めが付く。
アッと思った瞬間に当たるのだ。
見てからオーバードライブでは遅い。
オーバードライブ中にも魔弾は進んで行く。
詠唱完成ギリギリで既に使って置かないと、
運動音痴である自分には当たるしか術が無いのだ。
ロクサーヌ・・・凄いな。
彼女は見てから魔法の弾道を回避していた。
炎は・・・熱い。
結構な熱量でギリギリと顔面を掻かれるように痛い。
かなりの軽減をしてこれだ。
少なくともパーンLv8等とは比べ物にならない威力である。
魔法使いLv46の魔法はかなりのダメージであった。
彼の持つミスリルケーンも相当に魔力を高めているのだろう。
祭殿とか言う知らない効果も付いている。
魔法武器へ付けそうな効果的に考えたら知力上昇かな?
だとすれば相当ヤバイはずだ、本来ならば。
顔の痛みが消えるまで、何度も全体手当てを施した。
次の詠唱までは間がある。
流石に連射と言う訳には行かないだろう。
そして反射ダメージが入っているはずだ。
現在絶賛炎上中の自分からは、
目の前に炎や陽炎が邪魔して相手の様子を覗い知れない。
ファイヤーボールの炎は実際に燃える物理炎だと思っていたが、
人体へ当たった時点でただのエフェクトに切り替わった。
全く以て謎技術、謎の事象、謎の物理法則だ。
何かへ燃え移って火事にでもならない限り、
ファイヤーボールだけで焼け死ぬ事は無いのだろう。
ファイヤーウォールはやばそうではあるが。
クゥトゥメルがケーンをつっかえ棒にして、
何とか立っているのが見て取れる。
72%お返ししたのだから彼も相当熱かったはずだ。
彼には何が起きたか判るまい。
こちらは肩を擦ったまま動いていない。
仮面の男も実は魔法使いだったから動かないでいた。
だから、同時に魔法が当たったと考えるしか思い当たらないだろう。
彼の詠唱待機時間の間にジョブを交換して破魔鏡と反射鏡を使用し直した。
再びクゥトゥメルが体を起こして魔法の詠唱に入る。
魔法の直撃を食らったのだし、怯んだ恰好位はしようか。
肩を押さえる手を離してクゥトゥメルに向け、
もう止めてと懇願する振りをする。
ついでにこちらも何か魔法を使ってやろう。
エート何が良いかな。
目立たないブリーズウォールにしようか。
魔道士と魔法使いのジョブを交換した。
これならば彼には無数の風の刃が当たっているように感じるが、
観衆の位置からは何が起きているか判るまい。
魔法を使ったと言う事実から逸らす事もできる。
魔物と違い、人間には詠唱中の魔法陣が出ない。
その代わり発動直後、手にした武器の先端へ魔法陣が一瞬表示される。
帯刀する武器は地に付けているので、
このままであれば地へ表示される事となる。
たとえ詠唱マークが出たとしても、観衆からは遠くってまず見えない。
小さいし。
彼の持つミスリルケーンからはウォーターボールが放たれた。
──バシャァ!
以前魔物の部屋のマーブリームから受けた時よりも、
相当強い水球が顔面に当たる。
そしてやや息苦しい。
手当てを施しながら考える。
どうする?膝でも折っとくか。
頭を両手で覆いながら片膝を土に突け、
そのままの体勢で目だけはクゥトゥメルを注目した。
クゥトゥメルはそのまま前に倒れ込み、動かなくなった。
これは自滅だろう。
あれ?
クゥトゥメル自身が発した魔法2発で倒れてしまわれた?
自分の発動したブリーズウォールは?
しまった、死体蹴りかもしれない。
やり過ぎた。
しかし、魔法を止める方法を知らない。
って言うかあるの?
・・・いや、いや、殺すつもりは無かったよ?事故って事で良いよね?
多分もう助けられない。
まさか反射2回で倒れてしまうとは思わなかった。
Lv46の魔法2発で戦闘不能になるHPであるならば、
Lv50の魔法で、勇者と英雄の知力を合算したダメージはやり過ぎだ。
魔法が収まるまではじっと見守った。
しかしここで駆け寄るのも変過ぎる。
あくまでも自分はやられた側であり、それに2発も顔面で受けたのだ。
ピンピンしていられるはずが無い、本来なら。
「や、やめっ!」
ルスラーンが止めに入った。
止められるものなら止めて欲しい。
騎士3名がクゥトゥメルの周りに集まり、何かを言い合っている。
その後ルスラーンへ報告をしに戻って行った。
血だらけになってしまっていたクゥトゥメルは担がれて退場した。
「xxxxxxxxxx!」
ルスラーンの宣言により観衆は騒めく。
何が起きたのか理解できていない。
魔法は確かに仮面の男、・・・自分が受けた。
しかし倒れたのは魔法を撃った者・・・クゥトゥメルの方だ。
ルスラーンが近付いて来た。
「あの男は事切れていたが、何かやったのか?」
「まっ、魔法を・・・反射しました」
「なっ!・・・お前、そんな事ができるのか・・・こっ、怖いな」
「いえ・・・まあその、どうしましょうね?何か罰せられちゃいますかね」
「そんな事は無いが、相手方は大変だろうな。
あの男は多分貴族の手の者だから、相当絞られる事になるだろう。
お前の方は大丈夫なのか?苦しければ降参して次の奴隷に回せ」
「い、いえ、これ全て演技で、本当はどこも痛くありません」
「お、お前・・・」
ルスラーンは呆れたように中央へ戻って行き、大きな声で何か話し始めた。
先程起こった事を観衆に向け説明するのだろう。
∽今日のステータス(2021/12/11)
・ヴァルドル 竜人族 ♂ 31歳 竜騎士 Lv47
ボルドレックに仕える戦闘用奴隷
普段は商会のある倉庫で警備の仕事
麻痺で倒れた。
・クゥトゥメル 人間 男 43歳 魔法使い Lv46
さるお屋敷の執事、奴隷では無い。
日ごろの取引で便宜を図って貰っていたので決闘を引き受ける。
派遣依頼料は50万ナール
危なくなれば降参をする前提で決闘への参加を承諾したので
死んでしまった際の賠償金などは話し合われていなかった。
・異世界57日目(10時半頃)
ナズ・アナ52日目、ジャ46日目、ヴィ39日目、エミ32日目
パニ22日目、ラテ4日目
サンドラッド到着まで4日、決闘の日




