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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第廾章 機転
209/394

§197 疵痕

続いての魔物の部屋は15層にある。


以前初めてメテオクラッシュを発動させ、その時にヴィーは恐れ慄いた。

それから暫くヴィーはしおらしくなったが、

最近ではまた調子を取り戻しつつある。


・・・いや、それ以上かな?

以前にも増して砕けて来たような気がしないでも無い。

自分やナズ、アナ、ジャーブだけには、

一応失礼が無いようにしているのは見受けられるが。


下っ端、と言うか子分が2人もできたのだから仕方無いのか?

強権を利用して圧政を敷いている訳では無いので止める必要は無いのか。

寧ろラティには奴隷と言う事実に対して錘しとして働いているようなので、

それはそれで良い事なのかもしれない。


ラティはヴィーのように罪人を屈服させ服従させた訳でも無いし、

奴隷としての教育を全く受けていないので、

砕けていると言うよりは若干失礼な面もある。


・・・そうか、それで枷か。

ラティには着けさせても良いんじゃないだろうか。


首は・・・流石にそういう趣味も無いし、

知り合いに会ったら恥ずかしいかもしれない。

それならば腕位には着けて置こうか?


そう言って置きながらも面倒臭がって結局しないのがこの自分だ。

解ってるさ。

そもそもどこで売っているのだ、と言う話だ。


前回15層はメテオクラッシュ1回だった。


今回も1回で済むだろう。

武器は強くなったし、魔法使いから魔道士になった。

何なら道化師により装着できる知力上昇効果は2つとなった。

・・・低Lvという事がネックなのだが。


知力が足りなくて2回目も必要だったら困るな。

メテオクラッシュに属性魔法1回、

或いはサンダーストームにして置くか?

つい先程道化師のスキルを設定したばかりだから、

まだ再セットができないかな?


不安は尽きない。


「ラティ、次は大型の魔法を使う。また腰が抜けないようにな」

「へっ!?は・・・はいぃぃ」


15層のメインの魔物はフライトラップ。

この階層では下級魔法4回、つまり2ターンで倒していた。

オーバードライブして中級魔法なら1回で済むかもしれない。

メテオクラッシュ程の威力は必要でない可能性がある。


止めとくか。

MPの無駄遣いだし。


ラティには大型魔法を使用すると宣言したが、

節約のため通常魔法を使用する事にした。


壁にタッチすると切れ込みが入り、

畝って部屋の中へとおびき寄せられる。


オーバードライブ!アクアストーム!


フライトラップだらけの部屋にビッチバタフライが数十匹。

それから足場のようにクラムシェルが転がっている。

完全に討伐しても20余日でこの状態へ戻ってしまうのか。


ミチオ君たちが初期に攻略していたベイルの迷宮では、

魔物の部屋を全部討伐したら安全宣言とやらが出るとか言っていた。

この国ではそんな話は聞いていない。


寧ろ実体験として、安全でも何でも無いのだという事は思い知った。


恐らくガイウス帝国は迷宮を討伐する施策を執っているため、

騎士団が定期的に既知である魔物の部屋を潰しに向かうのだろう。

初心者探索者がうっかり入り込んで命を落としていては、

迷宮の台頭を許す事に繋がるからだ。


低階層ならば、と言うのもセリーの談だ。

危険な階層はやっぱり騎士たちにも荷が重過ぎるので、

33層以後の魔物の部屋は湧き潰しに行かないのだと推測される。


つまり、安全になった魔物の部屋なんてどこにも無い訳だ。


地図を作成する際にこういった魔物の部屋をしっかりと明記しないと、

迂闊に入り込んで死亡する探索者が後を絶たなくなるだろう。

そこは配慮する必要がある。


余白に書き込んで置くか?


 ──注意:魔物の部屋は完全に制しても数十日で危険な状態へ戻ります。


その位はサービスしてやらないとな。

大事なお客様だ。


さて魔法の効果が終了したが、

やはり1ターンで倒せる程柔では無いのだろう。


この階層の魔物は弱点属性の下級魔法で4発。

流石にオーバードライブと魔道士の通常魔法1発では、

1ターンで納まり切るだけのダメージにはならなかったと言う事になる。

倍の倍であわ良くば4倍、と言うのは流石に無理があった。


状況から鑑みるにオーバードライブではダメージが倍とはなっていないし、

魔道士の魔法も初級魔法の威力と比べて2倍とまでは伸びていない。

何ならLv20の知力大上昇×2は、

Lv50の知力中上昇より劣ると言う事だ。


Lvの補正はそれだけ大きいと言う事なのだろう。


クラムシェルたちが一斉に水魔法を詠唱し始める。

奴らの位置からでは水鉄砲を飛ばすにも遠い。

フライトラップを避けてビッチバタフライも集まって来た。


次で倒せないと袋叩きに遭うと思う。

ダメージ的には微々たる物だと思うが、

大型の虫に囲まれるのは流石に気持ち悪い。


アナ、ジャーブ、ヴィーが自分の前に出た。

ナズも3人の後方に立ち、自分を守るように布陣する。


1ターン目のクールタイムが長く感じる。

まだか、まだか、まだか・・・。


ナズが手の届く範囲のビッチバタフライを叩き落とした。

奥の方のフライトラップが両手を上げる。


水のエフェクトが終わった。

最後までずっと自分のターンで終わりにしたい。†

オーバードライブッ!


時間が捻じ曲がりモヤモヤの中に包まれる。

アクアストーム!

発動直後にサラセニアとフライトラップ以外の全ての敵が消滅した。


あっ、あれ?


そうだった、植物系の魔物は水に耐性があるのだった。

以前よりは威力が高まっただろうと言う浅はかな思慮の結果、

属性を鑑みる事を完全に失念していた。


セットするスキルは最初からサンダーストームにして置くべきであった。

フライトラップから一斉にウォーターボールが降り掛かる。

ま、マズい。


オーバードライブッ!


どの位足しになったか知らないが、

全員に向けて反射鏡を急いで掛けた。

反射、と言うかダメージ減衰効果の方もドライブ化して貰えないだろうか?

駄目だろうか。


神様許して・・・。


「キャァッ、アッ、ンクッ、ぷはっ・・・!」


早速食らったのはナズだ。

ナズは盾を持っていない。

槍では受け止められない。

魔法は撃ち返せない。


「ぐっ、ぐぉぉっ、んぶっ、苦しいけどこれならまだ何とかっ」


続いてジャーブも被弾する。

一度に7,8発も飛んで来たら、そりゃ避けられない。

アナとヴィーは何とか盾で受け止めたようだ。

そして漏れなく自分も被弾する。


続いて後発のウォーターボールも飛んで来た。


ナズとジャーブに反射鏡を掛け直す。

反射してダメージゼロなんて事は無く、

やっぱりダメージは普通にあるようだ。


Lvが低いので効果も低い。

恐らく破魔鏡よりは軽減率も高いのだろうが、

効率が倍だったとしても1/5のLvであれば効果は期待できない。


3ターン目はファイヤーストームを発動させる。

勿論オーバードライブ込みである。

そこでようやくウォーターボールの洗礼は終わった。


「す、済まなかった。もう少し考えて魔法を使うべきだった」

「い、いえ・・・苦しかったですが大丈夫です」

「私は凌げました」

「俺なら平気です、でもあの、ちょっと回復を頂けると・・・」

「アタイもへいきー」

「はわわわ・・・・」


自分の後ろに隠れていたラティは知らん。


主人を守れよ、と言いたかったが盾も無いしそれは無理か。

身を挺して庇ってくれても、大怪我したんじゃ誰も得をしない。

ラティに当たるのは可哀そうであった。


ジョブを僧侶と入れ替えてナズとジャーブに手当てを施した。

やはり属性防御の装備品が必要である。

ジャミルはよ、はよ(バンバン)!


今回はラティもアイテムを拾いに駆けて行った。

ナズが集め終わった収得品をラティに手渡し、

ラティがアイテムボックスへとしまう。


じゃあ次からはそれで。


「では次は19層だな」

「はい、次はお守りする必要がありますか?」

「陣を組んだ方が良いでしょう。

 ラティもりますし、経験をさせて置きましょう」

「では俺が左で、右にヴィー、ラティ殿がその隣、

 ナズ殿、アナ殿でどうでしょう?」


「良いんじゃないか?ちょっと並んでみろ」

「「はい」」「分かりました」「ほーい」「え、え、ええっと?」


「ラティ殿はヴィーとナズ殿の間です」

「はっ、はいっ」


「良いかラティ。魔物の部屋では安全性を高めるためこの状態の陣を組む。

 お前たちの後ろで自分が魔法を使うので、

 魔法を使用する時間を稼ぐために何とかして敵の攻撃を凌いでくれ」

「は、はい・・・」


「19層で戦っていたのだから、

 通常の魔物の動きなら止められるだろう?」

「えっ、ええと、はっ、はい、いっ、一応、

 20層までは行った事が、あ、あ、ありますので・・・」


「それならばケトルマーメイドやマーブリームなら余裕だな?」

「えっ、はい、あ、あの、い、1対1ならば何とか・・・」


「その1対1を作るため、皆が横ぴったりに並ぶのだ。

 自分が魔法を撃ち終わるまで耐えてくれ。

 攻撃を受けたら直ぐに回復するので、

 多少苦しくても怯まず戦って欲しい」

「が、がっ、がんばりますっ」


ラティが奴隷へ転落した原因となった19層の魔物の部屋。

本人にしてみればトラウマの部屋だろう。

仲間1人を失った場所でもある。

疵痕きずあと穿ほじくり返すようなものかもしれない。


だがそこを越えて貰わなくては今後の探索でも使い物にならない。

敢えて千尋の谷に突き落とす事も辞さなくてはラティも成長しないだろう。

いつまでも怖々(おどおど)して貰っていては困る。


「では行くぞ、その体勢を崩すなよ?」

「「「「はい」」」ーい」「あ、あの、はいっ」


19層へとゲートを開き、魔物の部屋の壁に触れる。


壁に亀裂が入り、迷宮は自分達を飲み込もうと口を開けた。

足元の動きを待たずして全員が駆け出し、先に布陣を完成させる。

ジャーブが気を利かせてラティを引っ張り、ナズは槍柄で押し出した。


皆ラティの扱いを理解し始めている。


と言うかラティが足を引っ張ったら陣は崩壊してしまうので皆必死だ。

割を食うのは本人達、そしてそうなったら全滅なのだから。

ラティをフォローしたと言うより、

自己安全性を高めたのだとも言えなくも無い。


オーバードライブッ!ガンマ線バースト!メテオクラッシュ!


3つのスキルを発動させ、直ぐ弓を構えて適当にばら撒いた。

既にメテオクラッシュの隕石が目の前を覆っており、

どこに魔物がいるのか掌握しかねる。


適当にばら撒けば当たるだろ、の精神である。


ラブシュラブは低木なので魔法を発動させると埋もれて見難い。

空中上層部はグラスビーが陣取るため、

マーブリームもケトルマーメイドも中層となり、

隕石のエフェクトど真ん中である。


グラスビーの毒には注意が必要だが、

残念な事にメテオクラッシュを発動させると足元が赤くなって、

詠唱マークが見えないのだ。

誰かが悲鳴でも上げたら毒消しを渡そう。


ボーナス魔法は終了まで時間差がある。

もう一度オーバードライブを使用して、

今度はサンダーストームだ。

属性関係無く均一にダメージを与えられるので、

混合多数の相手であればこちらの方が良い。


再び矢を射って狙いを付けずにばら撒く。


やはりケトルマーメイドとマーブリームが部屋の中を暴れ回る。

虫に雑草、人魚と魚。

この魔物の中でのヒエラルキーは魚類が一番高そうだ。

それも空中にいるため縦横無尽である。


それらが一斉に前衛陣へと襲い掛かって来た。


まずは一番リーチの長いナズが柄で叩き落とす。

床に打ち付けられたマーブリームはそのまま消えた。


あれ?もしや、ギリギリ後一手足りない状態?

皆が1発与えれば倒せる状態ならば、

このまま大量に倒されてしまうと勿体無さ過ぎるぞ。

おっ、おぅい・・・、どうしよ。


続いてジャーブが2匹相手に袈裟斬った。

スルッと剣が通ってケトルマーメイドは2匹とも2つに裂ける。


「おお、驚くほど柔らかいです!」


そんなのは良いんだよ、奴らが瀕死なだけだ。

どうしよう、どうしよう。

次の魔法の発動までは時間が・・・あ、そうだ。

弓で狙えば良いのだ。


オーバードライブを掛けて近寄る魚と人魚を片っ端から仕留めて行く。

オーバードライブが解けると矢は一斉に飛び出して行き、

次々と魚の魔物は姿を煙に変えた。

自分の弓でも敵を倒せる快感に、ちょっぴり嬉しくなった。


4順目のオーバードライブ射撃を終えると前衛から届く魔物は姿を消し、

残るは後列・・・いや後方に固まる魔物のみとなった。


勿論、殆どが魔法の詠唱を始めている。

だがこちらも次の魔法が使えるのだ。

魔法の詠唱が見えると言う事は、

メテオクラッシュのエフェクトが消えたと言う事に等しい。


それすなわち自分オレのターン。

ドロー!・・・では無くって、(オーバー)ドライブ!


最後の手として使用したサンダーストームに依って、

部屋中の魚は煙となった。

発動直後に魔物は全て消えたが、

時空の捻じ曲がりはもう暫く続いたのだった。


アイテムを集めに全員が駆け出す。


ラティは大魔法を前にして声を上げたりしなかった。

びっくりはしているだろうが、

事前にやるぞと言ったので心の準備はできていたようだ。



   ***



そして22層。

こちらはハットバット、ピッグホッグ、ロートルトロールと言った、

ジャーブやヴィーが初見で翻弄されていた面々の出て来る階層だ。


しかしそれも過去の話。


今では皆しっかりと対処法を理解し、装備だって更新したのだ。

それに騎士団と向かった56層に於いて、我々は戦力を大いに成長させた。

そんな事もあってか、

2回目に挑んだ際は余裕綽々しゃくしゃくで制圧できたのだった。


22層の中間部屋に出た所でアナから報告が。


「ご主人様、この階層の魔物の部屋はつい最近制されてしまったようです」


「え?魔物がいない?」

「そうですね。入口からは直ぐ近く、

 構造的にはボス部屋の少し奥だったと記憶しておりますが、

 思い当たる場所には殆ど魔物の気配がありません」


「残念だな。そこそこ経験が得られる易しい階層だと思ったのだが」

「こればかりは仕方ありません、次の魔物の部屋がある階へ参りましょう」


そうだよな。

こちらが楽だと感じるのであれば、

どこかの誰かもうっかり迷い込んでも制する事ができてしまう。

それはつまり絶好の狩場となり、何度も通う事になるのだ。


では諦めて次だ。

ええっと、確かこの先では魔物の部屋は経験していなかったように思う。

最後の56層を除いて。


勿論この先の階層でも幾つかあるだろうが、

あの時23層以降はすっ飛ばしてしまったのだ。


次は56層か・・・。

ボーナス魔法とサンダーストームで戦わなければならない。

大丈夫だろうか?


経験値効率の400倍を諦めれば、

7thジョブまで解放する事で魔道士と遊び人を取得できる。


前回は色々駆使しても8ターンを要し、そしてギリギリの戦いであった。

今回は・・・前回と比べると1ターン当たりの総合火力が劣る。

せめてもう後1つジョブを足せられれば良いのだが、

16ポイントのコストはどうやっても捻出できない。


では1度通常戦闘を混ぜてみようか?

ラティもレムゴーレムは初めてだろうし、

ちゃんと対処できるかどうかは見て置いた方が良い。


56層入り口に見張りが居るとは言え、

迷宮の奥の方までは見えもしないし声も届かないだろう。


56層へゲートを開ける。

出現位置は魔物の部屋のやや奥だ。

そこら辺で徘徊している魔物のグループがいたら戦って制する。


さて・・・どうだ?


用心しながらゲートをくぐってみたが、

通路のずっと向こうまで魔物の姿は無さそうであった。


「アナ、一度だけ通常戦をラティに経験させたい。

 入り口側に行かない方向・・・あっち側に魔物の気配があるだろうか?」

「ええ?はい、ええっと・・・はい、ございますね。

 ここは魔物の部屋から少し行った、行き止まりに向かう通路ですね?」


「そうだ、では案内してくれ」

「かしこまりました。とは言えその魔物の気配だけで後は行き止まりです」


それならば好都合だ。

ラティにレムゴーレムを経験させて置きつつ、

自分の魔法何回で倒せるのかをよく調べておきたい。


「ほぇ~・・・すっ、凄いですね、何で判るんでしょう・・・」


「猫人族が持つ特別な能力なのだ。

 種族に依っては魔物の匂いを感じたり、気配を悟ったり、

 行動を読める者がいるらしい」

「そっ、そうなのですか、すっ凄いのですね、アナさm、さんは・・・」


本当にアナが行動を読んでいるのかは知らないが、

その位熟練していると言うか、魔物の動きを予想するのが上手い。

本人の口からはそのような申告が無かったので、

これは自分の勝手な憶測なのだが。


だが、そういった特殊能力を持つ別の種族が居てもおかしくは無いだろう。

少なくともミチオ君が抱えたミリアはそういう猫人族だったと言うだけだ。

アナがそうでなければうちにはいない、それだけである。


「ノンレムゴーレム3体に、ピッグホッグのようです」


「レムゴーレムとピックホッグだ。お前の言うのは33層下の魔物だ」

「そっ、そうでした、失礼しました。

 まだあまりこの階層に馴染みが無く、申し訳ありません」


馴染みが無いのも当然だ。

この階層はそもそも攻略不可能だ。

探索者の間では話題に上らないと思うし、

そもそも過去のアナの実績では33階層下だって未到達だ。


「それからハットバットも多分いる。アナが認識できない事を忘れるな?」

「確かにその通りです。警戒致します。

 あっ、角を曲がって直ぐにレムゴーレムが待ち構えております」


「ジャーブ、ヴィーはレムゴーレムを。ナズはハットバットが居れば叩け。

 アナはピックホッグ、ラティはコウモリみたいな敵が居ればそれを狙え。

 いなければアナに加勢だ、余裕があればゴーレムの対処法をよく覚えろ」

「「「「はいっ」」」」

「え、え、えっと、こっ、コウモリとゴーレムの対処法!・・・ですねっ」


5人が大周りで駆けだして角を曲がる。

いや、曲がらない。

角を隔てて左側直ぐに魔物がいたのだろう。


この位置からではジャーブ達しか見えない。

左翼のジャーブが大剣を構え、そのやや後ろにナズ、ラティと続く。

ヴィーとアナはジャーブに隠れてしまって見えない。


魔物を認識できなくても魔法は撃てるのだろうか。

試しにオーバードライブしてガンマ線バーストを念じてみた。


・・・うーん?

自分では光っているように見えないので、

イマイチ発動したかどうか判断しかねる。

ついでにメテオクラッシュも念じてみた。


・・・あ、発動している。


ゆっくりと、隕石のエフェクトが壁を貫通して飛んで行くのが確認できた。

そうか。魔法のエフェクトは視覚効果だけで、効果は壁を貫通するのだな。

そういえば実体があるのは単体魔法と壁魔法だけなのだし、

全体魔法ならば仕切りがあっても関係無いのか・・・。


それならば敵の全体魔法は壁魔法では防げない事になる。

完全に飛び道具専用なのだろう。


やや遅れて全員に追い付く。

自分の立ち位置は隊列の最後尾、この場合通路の壁である。

もしレムゴーレムに押されて戦線が後退して来たのであれば、

自分は逃げる場所が無い。


逃げ場が無いと言う事実は若干の恐怖を感じる。

背水の陣どころでは無く背壁で後が無い。

何なら飛び込む水辺すら無い。

立ってみてビックリ、取り返しが付かない状態だ。


然し乍ら以前ここに来た時よりは全員の練度も上がっているし、

ヴィーは大楯、アナは鋼鉄の盾を得たのだ。

前回よりは奮闘して貰わなければ困る。


魔物の構成を確認するため鑑定を行うと、

レムゴーレムの後ろにはハットバットが隠れている事を発見した。


「ナズ、ハットバット1匹が後ろに!警戒を怠るなよ?」

「はいっ、集中します」

「あああ、あの、ででは私はアナさんの囲みを」


ラティが怖々(おどおど)しながらアナの横に回る。


殴るだけならラティは一般探索者と変わらない動きだ。

もうちょっと自信が保てればマシだと思うのになあ。

きっと、咄嗟とっさの判断事に弱いのだろう。


オーバードライブを掛けてサンダーストームと矢を放つ。

さっき使用したボーナス魔法2発分以上にMPを回復しなければならない。

以前は2本撃ち3回、6射でもちょっと足りない感じであったが、

今回のMP消費は魔法1回分少ないはずだ。


それよりも中級魔法って未だに下級魔法1発分程度なのか?

あれから暫く戦って魔導師のLvは大幅に伸びていたはずだ。

しまった、その辺りの検証も行っていない。

威力と消費、どちらも何となくで使用して来てしまった。


やって置けば良かったと今更後悔だ。

ともあれ1射分多く矢を放った。


全てがレムゴーレムに当たり、弾かれた矢が床にばら撒かれる。


ジャーブもヴィーも今回は綺麗にレムゴーレムの攻撃を止めた。

踏み込みをさせないようにジャーブは左右へ振り、

ヴィーは正面に構えて盾で押し返しているようだ。

レムゴーレムの重量と、ヴィーの装備重量及び竜人族のパワーが拮抗した。


押し戻されたレムゴーレムの後ろから、

居心地の悪くなったハットバットが顔を見せる。

すかさずナズが槍の先で絡めて叩き落としたのだった。


ピックホッグの攻撃はいつの間にかラティが受けており、

それをしっかりかわせているようだ。

ラティの戦闘能力自体は信用できそうで何よりだ。

Lv19までは独自に鍛えて来たはずなのだし、

その位はやって貰わなければ困るが。


手の空いたアナはピックホッグへ向けて滅多刺しを始めた。

状態異常耐性ダウンを掛けていないが、

時間の問題で石化か麻痺を発動させてくれるだろう。


自分の2ターン目がやって来た。


魔法を発動して弓での射撃に切り替える。

1回・・・2回・・・3回目の集中で時間が戻る。

未だオーバースキル中の3回射撃は集中し過ぎると上手く回せない。

もっと早く狙えるようになりたい。


回復のためだけに、オーバードライブ無しで追撃の3射を加える。


よくよく考えると1ターン当たり2本撃ち6射で12本使用している。

4ターンで48本、そりゃ足りなくなる訳だ。

前回挑んだ際には矢が枯渇してしまったので、

今後そうはならないように対策を考える必要がある。


アナはナズの叩き落としたハットバットに対して斬撃を加え始めた。


以前使用していたエストックとは違い、

現在使用しているサーベルは斬る事にも優れた長剣である。

地に落ちたハットバットは突くより斬った方が攻撃し易い。

どちらの動きにもアナは対応してみせた。


ラティもナズが踏ん付けているパットバットの羽の逆側を、

逃げられまいと踏ん捕えている。

流石に2人で叩き斬るのは難しいか。

剣同士が当たって刃毀はこぼれしてしまっては元も子も無いからな。


3ターン目の魔法を準備する。


オーバードライブを掛けて狙いながらガンマ線バースト、

射出後再び狙いを付けてメテオクラッシュ、

狙いを付けながらサンダーストームを念じて最後は集中を少し手抜いた。

何とか3射が間に合う。


今のうちに矢を拾うべきだろう。

ヴィーよりこちら側に落ちていた矢を掻き集めて、何とか8本を回収した。


戦闘中に戦場を這い回ってみみっちく使用後の矢を集める主人・・・。

サマにならない。

ハッキリ言ってカッコ悪過ぎる。

これが終わったらもっと矢を作って貰おう。


MP回復のために更に3回射出して、

再び魔法を唱えられる状態となった。


オーバードライブを掛ける。

アナたちはパットバットの無力化にも成功したようだ。

ナズとアナ、2人がゴーレムの裏手に回る。

ラティはヴィーの横に張り付いたようだ。


ガンマ線バースト!射出っ、メテオクラッシュ!射出っ、

サンダーストーム!・・・射出っ。


これで4ターン目の魔法だ。

やはり魔物は煙にならない。

魔道士になったから、勇者になったからと言って、

攻撃力が倍増している訳では無いとハッキリと示されてしまった。


魔道士となったため、Lvは魔法使いの半分である。

道化師になった結果、Lvは遊び人の半分以下である。

勇者となった現在、Lvは英雄50に比べて1/3以下である。


たとえオーバードライブでダメージが加算したとしても、

魔法の威力が半分程度に落ちてしまっている事で総ダメージは減ったのだ。


要するに以前のジョブ構成の方が圧倒的に強い。

それを補うためのLv上げに来たのに、

弱過ぎて殲滅に対して足枷となっている。


もう少し時間があれば。

せめて後5日。

決闘の日時を指定したのは自分であった。


またなんて間抜けな事を・・・。

自分の計画性の無さには本当に参る。

いつだって行き当たりばったり、その場のノリだ。


思慮深くあれこれ考えているようで、

本当に大事な部分までの思考が足りていない。

正解へ続くアプローチ以外の努力は全て無駄なのである。


・・・MP不足だろう。

やはり射撃6回12本では少し足りないのだ。

矢を射出してヒットする度に気分が良くなって来る。


やはり弓で十分回復するには7回が必要・・・。

MP回復射撃にもオーバードライブを掛けて行くのであれば8回は必要だ。

魔法のターン数×8射×2本分の矢が必要なのだ。

オーバードライブのMP消費も馬鹿にならないのだろう。


続いて5ターン目の魔法を発動させる。

それでもレムゴーレムはびくともしなかった。


一体どれだけダメージが減少しているのか。

強いのか弱いのかイマイチ判らない。

倒してみればハッキリする。


そろそろ矢が厳しく成って来た。

かと言って撃ち込みをケチるとMPが枯渇する。

矢はもうそこら中に散らばってしまっている。


ジャーブやヴィーより前に転がっている矢を回収するには、

オーバードライブ中に前線へ出て掻き集めるしかないようだ。

背に腹は代えられない。


ナズはレムゴーレムの向こう側に行ってしまって、

追加の矢を作成するよう頼める状態に無い。


オーバードライブ!


発動と同時に駆け出し、這いつくばって矢を集める。

ヴィー辺りから「何してんの?」とか絶対言われる事だろう。

流石に高速移動中では聞こえないが。


何とか強引に28本の矢を回収できた。

攻撃を伴わないオーバードライブは本当に勿体無いの一言だ。

全く何してんだ。


6ターン目の魔法を発動させる。

オーバードライブ射撃もそろそろ勘を取り戻した。

一時はかなり上達したが、

勇者と魔道士、道化師習得後は適当になってしまっていた。


以前は前衛陣の攻撃を含めて7ターンを要した。

無しなら恐らく8ターンが必要だったのだろう。


それとほぼ同水準と言うか、

魔道士になった恩恵は今の所全く感じていない。

いや、もっと掛かる可能性だってある。


魔法威力が半分程度になるだけでこんなにも差があるものなのか。

全体的にLvも落ちているし、全てが悪手に回っている。


7ターン目、もういい加減倒れてくれないか?

それ程までに魔法威力の上昇割合はLv依存が強かったのか。

もうちょっと構成を考えるべきか?


・・・Lvさえ上がれば計画通りの効果が期待できるのだ。

現在のジョブの組み合わせが悪いだけで、

本来は「俺様の考えた最強の俺様」のはずなのだ。


焦りが手元をぐらつかせる。

こんなに長く戦ったと感じるのは久しぶりだ。


8ターン目の魔法に入る。

18秒×8回=144秒≒約2分半。

3分も集中できない軟弱者、それがユウキだ。

笑うが良い、世の勇者が聞いて呆れる。


これまでずっと戦闘はズルみたいなものだった。

雑魚戦に於いて5ターンも掛かれば長いと感じたのだ。

この世界の一般的な探索者は、平気で1戦闘に20分も掛けるのだと言う。

強靭な心の持ち主だ、とても真似できない。


前回も55層、56層で戦った時はしんどさを感じていた。

それでも順当にLvが上がり、ジョブが揃えば楽になると思っていた。

希望が苦労に打ち勝てていたのだが、今回は完全に縛りプレイだ。


知力半分、通常魔法の使用は1つまで、サポートジョブは非魔法職。

異世界に来てまで縛りプレイを強要されるとは思わなかった。

できればバグ技利用で全ステータス999とかの方が良い。

これはゲームなどでは無く現実なのだから。


9ターン目のサンダーストームを唱え終わると、

とうとうレムゴーレムは煙になった。


・・・疲れた。

結局また矢が足りなくなってオーバードライ回収を行なった。

矢の枯渇に相当焦っていたので手はウェットだったが。


前回は7ターンと少しであった。

今回はきっちり9ターン、いや9ターンと+αだ。

ジャーブ達の囲った通常攻撃分が加算されていない。


うーん、以前の構成よりほんの少し劣る位か。

とするとそれ程まで弱体化していた訳では無さそうだ。

本領発揮の構成をした場合はもっと短縮が期待できると言う事実に、

安堵の溜め息が出た。


しかし現在は縛りプレイの最中。

魔物の部屋では10ターン掛かると思って挑まなければならない。


「ご主人サマ、さっき2回くらいまえを通ったのナンで?」


ほら来た!


「や、矢が足りなくなってな。

 ああ、そうだ。ナズ、矢を40本位作ってくれ」

「はい?かしこまりました。天の真神の・・・」


ナズから40本の矢を受け取った。


と言うか9ターン程度掛かるのであれば、矢は最低120本必要になる。

それに魔物の詠唱を潰す事を考えると、

1ターン当たり5射しても追加で40本・・・。


いやいや、全然足りないじゃないか。


ロールトロールがいるんだぞ?

雷魔法を1回でも撃たれたら厳しい展開になる事は避けられない。

何としても止めなければならないので、矢切れなんて起こせる訳が無い。


「ナズ、悪い。更に60本作ってくれ」


持っている羽毛全てを渡し、追加でナズに矢を作って貰った。

次に補充するのは鉄の矢が良い。

鍛冶師ギルドの会長に聞くべきだろうか。


それはまた次回に聞くとして、

作って貰った矢100本をアイテムボックスへしまった。

∽今日のステータス(2021/12/06)


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳 探索者 Lv58

  設定:探索者(58)勇者(12)機工師(9)錬金術師(15)

     道化師:初火魔法・中水魔法/知力中・知力大(21)


 ・ナジャリ     ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv50

 ・アナンタ     猫人族  ♀ 20歳 暗殺者 Lv49

 ・ジャーブ     狼人族  ♂ 28歳 騎士  Lv50

 ・ヴィクトラ    竜人族  ♀ 12歳 竜騎士 Lv45

 ・エマレット    狼人族  ♀ 19歳 料理人 Lv32 OFF

 ・パニ       竜人族  ♂ 15歳 探索者 Lv50 OFF

 ・ラティ      人間   女 28歳 探索者 Lv29


  ↓


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳 探索者 Lv58

  設定:探索者(58)勇者(15)機工師(13)錬金術師(21)

     道化師:初火魔法・中水魔法/知力中・知力大(24)


 ・ナジャリ     ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv50

 ・アナンタ     猫人族  ♀ 20歳 暗殺者 Lv49

 ・ジャーブ     狼人族  ♂ 28歳 騎士  Lv50

 ・ヴィクトラ    竜人族  ♀ 12歳 竜騎士 Lv45

 ・エマレット    狼人族  ♀ 19歳 料理人 Lv32 OFF

 ・パニ       竜人族  ♂ 15歳 探索者 Lv50 OFF

 ・ラティ      人間   女 28歳 探索者 Lv32



 ・収得品

   オリーブオイル ×4    附子      ×5

   シェルパウダー ×14   膠灰      ×33

   遠志      ×62


   蜜蝋      ×4    銅    ×2

   白身      ×26   尾頭付き ×6

   木の板     ×60


   ヒレ      × 1   コウモリの牙 ×1

   岩       × 2



 ・異世界56日目(10時頃)

   ナズ・アナ51日目、ジャ45日目、ヴィ38日目、エミ31日目

   パニ21日目、ラテ3日目

   サンドラッド到着まで5日、決闘まで1日



 ・トラッサの迷宮

  Lv   魔物       /    ボス

  11 ナイーブオリーブ   /  パームバウム

  12 サラセニア      /  ネペンテス

  13 クラムシェル     /  オイスターシェル

  14 ビッチバタフライ   /  マダムバタフライ

  15 フライトラップ    /  アニマルトラップ

  16 グラスビー      /  キラービー

  17 ケトルマーメイド   /  ボトルマーメイド

  18 マーブリーム     /  ブラックダイヤツナ

  19 ラブシュラブ     /  ラフシュラブ


  54 ピックホッグ     / ※

  55 パットバット     / ※バッドバット

  56 レムゴーレム     / ※ハーレムゴーレム

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