§193 戦場
ジャーブとヴィーが帰って来た。
風呂に入ってパニの様子を見たのだから、もうだいぶ掛かっている。
それだけ丁寧に運んで来たのだろう。
主人の買った物を落として壊したらとんでも無い事になる。
普通なら。
自分ならばちょっとイラっとはするだろうが、
そこまで怒るような事じゃないと思う。
別に地面へ置いて休憩しても良かったのよ?
そんなもの後で拭けば良いのだし。
マットレスと椅子はベッドに括り付けてあった。
家具屋からは結構な距離があるが、
体力自慢の2人でもやっとだったのだろう。
以前運んで貰った際はロバの荷車に積まれていた。
あの時は一度にベッド2つとか、椅子6個とテーブルだとか、
そういえば収納箪笥も買ったっけ。
兎に角、色々だったので流石に人力では無理であった。
ベッドはジャーブ達の部屋に、ヴィーとエミーの真ん中に運ばせた。
運び終えた2人は台所に水を求めて走って行った。
お、おう、疲れたよな、飲め飲め。
これまでこの部屋では4人で使用していた。
そこに今回1人加えて5人となる。
入口から時計回りで、角にエミー、壁にラティ、奥の角にヴィー。
そして衣装ダンスを挟んでジャーブ、入り口右の角にパニだ。
机と4人分の椅子は真ん中に置かれている。
これでは1人分の椅子が足りないが、
そもそもエミーはいつも台所にいるため、
5人同時に使う事は無いのだろう。
余分に買った椅子はイルマの分にしても良いが、
取り敢えず机の角へ1つを置いて無理やり5人座れるようにした。
イルマを迎えられたら家の建て替えを考えた方が良いかも知れない。
流石に6人部屋では狭いだろう。
イルマを自室に呼ぶ?
それはアリだな。
──2人もお妾がいるのに私までっ!
これではボルドレック様の方がまだマシでしたっ!
最初から私の体が目的だったのですねっ!
悔しいっ、でも・・・ビクンビクン†
ち、違っ!
ホントに、最初はエミーのためを思ってだな・・・。
ゴホンゴホン。
全員が揃ったのでジャーブとヴィーの風呂は後にさせ、先に夕食とした。
と言うか、ヴィーが匂いに気付いて騒いだのだ。
焼けたチーズの匂い。
部屋に残るチリの焦げた匂い。
そして風味深い蟹・・・いやハサミの匂いだ。
3種の神器を前に、腹ペコなヴィーが大人しくできる訳が無い。
全員が夕食のテーブルを囲む。
エミーが石窯からピザを取り出すと、6人が歓喜を上げた。
結局ドレス姿で仕事をさせてしまい申し訳無く思うが、
焼けたピザは最高の状態で取り出された。
「わぁっ」「良い匂いです」「前回とはまた違いますね」「辛いのはー?」
「な、何だか良い匂いですぅ・・・。
ここ、これが・・・、ごっ、ご主人様のおお、お料理なのですね!?」
すかさずナズがメザルーナでカットする。
エミーはヴィーの前に瓶を置くと、
小皿に赤いソースを取ってヴィー専用とした。
「おっ、おぉぉぉぉ!やったぁ!」
後は少しだけ取ってピザの表面にスプーンで塗して行った。
事前に味見をしているため、どの位の辛さがあるかをエミーは知っている。
そしてナズはスープを装い、皆の前に配った。
「それでは、「「「「いただきます」」」ーす!」」
「えっ?あっ、あの、・・・ありがとうございま・・・?す?」
1人取り残されたラティを放置して、皆思い思いにピザへ手を伸ばす。
奴隷の身分で勝手に取ると言う事は本来許されないはずだと思うが、
ウチではもうこのありさまだ。
初めの頃は恐縮していたアナでさえ、我先にと大皿のピザを取りに行く。
「ご主人様、どうぞ」
「お、済まないな」
違った、自分の分を取ってくれただけであった。
気が利く。
ラティの位置からだとヴィーがライバルだ。
早くしないとお前に近い方のピザが取られるぞ、
と思いながら事の成り行きを見守った。
「たべないのー?」
「えっ、は、はい、では頂きます・・・」
ヴィー、偉い。
一応は新顔に対して配慮があるようだ。
同じく初対面であったパニの時とはえらい違いである。
ラティがピザを口にして何か喚いているが、この光景はもう見飽きた。
新しい仲間が加入する度にこれでは、いい加減構ってられない。
正確に言うとラティは奴隷としての教育を受けていなくて、
100%純粋な一般市民だ。
19層での稼ぎでは良宿が精いっぱい、贅沢するには厳しいのだろう。
ヴィーもパニも残念な家庭環境だったのでそこには配慮した所もあるが、
良い年した女性が美食へ興じていても絵にならない。
あまりにも口に合わず、吐き出してしまうようでなければ気にも留めない。
「このスープもご主人様でしょうか?」
ナズが蟹の身を解しながら聞いて来た。
「ん?ああ、そうだな。今ある物を適当に入れてみただけだ。
エミーに味見して貰って合格を得たのだがどうかな?」
「とても美味しいです。いろいろな味が混ざり合って複雑です」
「俺には料理の事など判りませんが、旨いとしか・・・」
「オイシー!前のもオイシかったけど、きょうのカラいのもオイシー!」
「お前は辛ければ何でも良いだけだろ・・・」
「えへへ・・・」
ヴィーの周りのピザだけみるみる減って行く。
流石にラティへ配慮してやらなければ駄目か。
「おいヴィー。ラティの分まで食うなよ」
「だ、だいじょうぶだし、分かってるし!」
解ってるのか、ならば良し。
「そういう訳だから、ラティ。
早くお前の分を確保しないと、その席は危険だ。アバドンが傍にいる」
「は、はいぃ・・・」
「あばどんて、なにー?」
「何でも呑み込む底無し穴の事だ」
「へー?こわいね」
「ヴィーちゃん・・・」「解っていませんね」「底無しですか、確かに」
(ふるふる。)「えっと・・・」
今回はパニがいなかったので何とかなったが、
これでもう1人、いやここにもう2人増える事になる。
そうなったら食費が大変だ。
その分ラティには稼いで貰わねば。
食事を済ませた後はナズがラティと共に後片付けをした。
エミーがドレスのままであったので、今日は休みを命じたのだ。
たまにはエミーにも休息を与えてやらないと。
そうは言ってもハーブティを煎れたり炭の片付けなどをして、
結局は何かしら急そ急そと動いていた。
酒場へはもうこれ以上変な奴が来ないと判っているので、
安心してナズを送り出した。
ただしパニがいないので全員自粛だ。
送りと迎えだけにして、今日は何も飲食をしなかった。
ヴィーも辛いピザを十分に食べたのでタコスへの渇望は無いようだ。
ラティも加わった事だし、ぞろぞろ連れて行くと飲食代もバカにならない。
タコス高いし・・・。
三十路の女性が飲んだくれる姿はちょっと見たくない。
*
*
*
朝。
いつもと同じようにナズが優しく揺さぶって起こし、キスをして来る。
その後はアナとも交わす。
1人増えた事も気にせず、昨日の夜も2人と励んだ。
もう今更だ。
自分もわりかしこの世界の慣習に順応して来た気がする。
横柄になったと言うか、肝が据わって来たと言うか。
いや、そうじゃないな。
28歳にもなる女性にいちいち配慮なんてしないよと言う事だ。
別に年齢差別では無いと思う。
ジャーブが加入した時は、聞かれては嫌かもしれないと言う配慮があった。
その配慮が実際は逆効果だと知ったし、
その後にヴィーやパニが加わった時は全く配慮なんてしなかったのだから、
ある意味平等とも言える。
そうは言っても、ラティも大事なうちの子だ。
困った事があれば最大限対応するつもりでいる。
朝一でパニの様子を見に行ったが、皆就寝中でパニも眠っていた。
ペットボトルは・・・もう残り僅かであった。
リュックから抜き取って一旦家に戻る。
台所の桶に溜めてあった水で軽く濯ぎ、
エミーが昨晩作り置きしていたハーブティーを入れて、再び船上に戻った。
──クラッ・・・・。
眩暈が・・・。
船の上まで3回分の移動は厳しい距離になったと言う事だ。
勇者に魔道士、さらには神官のMP増加分を以てしても、
自分1人の移動で枯渇すると言う事は相当消費している事になる。
これでは冒険者のフィールドウォークなんて到底無理だろう。
MPを増強する別のジョブを併せ持たない限り、
シルクスからサンドラッドまでは飛べないと言う事になる。
いや、英雄か魔道士或いは神官の次のジョブを取得して、
冒険者を育て切った道化師なら可能か?
・・・何言ってんだ、よく考えてみろ。
そんなの現実的には不可能って事だよ。
獲得経験値上昇×20を解除して、MP回復速度上昇を最大まで上げた。
強壮剤を使用してまで帰るのは流石に勿体無さ過ぎる。
差し迫る危機も何も無いのだし回復するまで待てば良いのだ。
船室を出てみたが、船内通路にも光は入らず薄暗くなっていた。
勿論ランタンの明かりはある。
その位にはまだ外が暗いのだ。
甲板に出てみた。
船の後方では水平線がうっすらオレンジ色に染まってはいるものの、
進行方向の海は完全に真っ暗であった。
船上にはランタンが幾つか灯されており、
船が波で揺さぶられるたびに灯りも動く。
この状態では星がよく見えた。
小さかった頃に旅行先の田舎で見た星空とはまるで異なる星の海が、
360°全ての方向に広がっていたのだ。
プラネタリウムで見たような辺り一面の星々。
この世界の住民たちも、
あの星々に名前や絵図を付けて楽しんだりするのだろうか。
航海をする者達に取って星の位置は重要だ。
聞けば教えてくれるかもしれないが、何せ言葉が解らない。
それに仕事中だろうし邪魔はいけない。
教えて貰った所でどうせ昼には忘れてしまうのだ。
そっとその場を後にして、船内の通路から自宅に帰った。
「まぶしっ」
急な光に目が眩む。
暗い所から一気に明るい場所へ来たのだ。
大きな欠伸が出て目からは涙も滲んだ。
今日もホドワは良い天気であった。
***
朝食後、戦闘メンバーは再び台所に集まるのがこの家の約束である。
ヴィーがアナに手伝って貰って、
重そうなプレートメイルを着込んで最後にやって来る。
ラティはずっと台所に立ち尽くしたままであった。
納屋に装備を置いてあった訳では無いので当然だ。
「ラティ、以前使用していた装備はどうした?」
「は、はいっ!ええと、まっ、まだアイテムボックスに残っています」
普通奴隷になった時点で商館が回収すると思うのだが、
本当に契約直後だったのだろう。
奴隷となる決断をしてその部屋で待つように言われ、
そのまま自分たちの前に通されたのだ。
無教育であったが面談の結果失礼な事は無い物と判断したのか、
或いは自分であれば多少の粗相を許すだろうと思って紹介したのか。
シラーの思惑は解らないが、概ねそれで正解ではある。
ナズやアナとのやり取りを見て、
自分の所では主従関係が緩そうだと判断されたに違い無い。
「装備以外に入っている物は?」
「あっ、ありません、売れる物は全部売りましたっ」
まあそうだよな、売れるような物があればもう少し生活できたはずだ。
「じゃあちょっと見せてみろ」
「はい、あ、あのっ、い、今から迷宮ですよね?すっ、直ぐ身に着けます」
ラティがアイテムボックスの呪文を詠唱して、
空間から装備品を摘まみ出して行く。
カトラス、木の盾、銅の鎧、皮の帽子、革の小手、革のブーツ。
待て待て、10歩譲って銅の鎧は良いとして、その他はどうなのだ。
ダメージ軽減の全てを銅の鎧の性能だけに任せてしまっている気がする。
「一般的な19層を攻略する者の装備はそういう感じなのか?」
「はっ、はいっ?ええと?み、皆このような感じかと思います・・・が」
ハァーーー。(クソデカため息、通算2回目)
売ろうと思っていた装備品を納屋から持って来た。
各自の装備はそれぞれに言い付けた棚に並べてあるが、
自分の、いや主人の物は無造作に床へ置かれているのが暗黙の了解である。
ついこの前ナズが修練用に装備品を作ってくれたおかげで、
そこそこの性能の装備が売却用として残されていた。
・ラティ 人間 女 28歳 探索者 Lv20
鉄の剣(++)鉄の鎧(-)鉄の籠手(-)鉄のグリーブ(-)
この位無いと困る。
折角連れて行っても不意の一撃でお亡くなりになっては元も子も無い。
・・・と思ったが、そうか。
これは55層でも通用する装備品であった。
ではやはりラティの所持していた装備品が一般的なのか。
自分達はもうかなりの高級品で身を固めていた事になる。
ナズ様々だ。
ラティは装備品とは別の靴を履いていたので、
これは迷宮用の防御力がある物では無く、町人の履く普通の靴なのだろう。
一般市民は履き替えているのか。
では他の子達にもそうしてやるか。
ずっと同じ靴を履いていたらすり減るのが早いかもしれないし、
何より臭いが・・・。
一応、毎日アナがちゃんと手入れをしてくれているようなので、
今の所悪臭を放っていた事は無い。
それでもお出掛け用に歩き易い靴を買ってやっても良いかもしれない。
「あ、あのっ、この装備はとってもお、お、お高いのではっ・・・」
「ナズが作った。だからタダだ」
「あ、あのっ、つっ、作った・・・とは?
・・・な、ナズ様、ナズさんは鍛冶師様なのでしょうか」
「一応そうみたいです、済みません。使い難かったら御免なさい・・・」
「い、いえっ、けっ、けっ、決してそんな事はありませんっ、
かかか鍛冶師様に会うのは、はっ、初めてですのでっ、緊張しますっ」
「普通で大丈夫ですよ?ラティさん?」
「初めても何も、昨日紹介した時に鍛冶師だと説明したぞ」
「そそそっ、そうでしたっけ、もっもっ申し訳ああありません。
きっ緊張して全然覚えていませんっ!」
不安が残る。
いや、不安そのものだ。
大丈夫なのか、この女探索者は。
余り戦線には出さず、要求は地図だけにして置こう。
そもそも5人で何とかなっているし。
何なら魔物8匹が出る階層でもジャーブとヴィーなら止めてくれそうだ。
大体56層で大丈夫だったのだから、そこまでは自分達だけで行けるのだ。
従って戦力的に言うとラティは不要である。
「それでは、今日は迷宮へ行く前にラティの仕事を説明する」
「は、はい、頑張りますっ」
「ラティは迷宮の地図を描けるのだったよな?」
「えっ?・・・ええと、はっ、はい。
お、覚えていられるのはあまり広くはあああ、ありませんが、
なっ、何トカ・・・」
先程、納屋から装備と一緒に持って来た画板が机の上に置いてあった。
自分の首に掛けてセットし、インク壷のキャップを緩める。
ぶら下がっているペンを手繰り寄せてインク壷に浸し、
デモストレーションにさらさらと絵を描いた。
「こんな感じの物を大工に作らせてみた」
「こ、・・・これはっ、
あっ、歩きながらどこでも絵が描けるど道具でしょうか?」
「そうだな、で、まあこんな感じだ」
「ご主人様の絵はいつもお上手ですね」「これはラティですね」
「なるほど、よく似てますね」
「おぉーっスゲー!こんどはアタイもかいて!」
「こ、これが私ですかね?こっ、こんな顔ですかね、わっ、私は?」
鏡を見た事無いのか、仕方無いな。
水が張ってある所に映せば見えると思うが・・・そうか。
そもそも一般市民の生活に於いて自身が映る綺麗な水面なんて無く、
体を拭くような湯桶では映ったとしても細部まではよく解らないだろう。
綺麗な池も大きな水瓶も無いのだから、顔を見る機会は本当に少ない。
一応自室にはナズとアナが使用できるように鏡を置いてあるが、
わざわざ見せてどうだと言う必要も無いだろう。
「まあそんな訳で、この道具はラティに与える。
これから27層へ向かうのだが、ひとつ27層の地図を描いてみてくれ」
「えええっ!?あ、あ、あ、歩きながら!かっ、描くのですか?
その、やっ、やった事が無いので・・・」
「恐らく、この国でやった事がある者なんて1人もいない。
ラティがその最初の1人だ、迷宮の地図を作って売りに出す。
それがお前の稼ぎになるので、是非とも丁寧な仕事をしてくれ。
ああ、迷宮内では走り書き程度で構わないからな?
綺麗に描くのは家に帰ったらで良いので、描き写して版画にする」
「はっはんが?とは、ナッ何でしょう?」
「それも実際にやる際に説明する。
ともかくラティはその道具を使って、迷宮内を歩きながら地図を取れ」
「は、はいっ、や、やってみます」
「それじゃ行こうか。エミー、後は宜しく頼んだ」
「はい・・・」
「えっ?エミーちゃん、今!」「しましたね」「今何と?」「うん?」
「ほら行くぞ、ただでさえ時間が経っているのだ、急げ!」
「「「「はいっ」」」」「あのー、あっ、は、はいぃぃー」
5人をゲートに押し込む。
ラティはやはりモタモタする。
もうなんて言うか、元々駄目っ子なのだろう。
それでも探索者としてやって来れたのだから、
その仕事さえちゃんとやってくれれば良い。
「この階層は・・・なんだかよく解らない魔物が徘徊しておりますね」
「徘徊?」
「はい、大型なのですがゆっくりと、ウロウロしております」
アナが感じた事の無い気配を頼りに案内をすると、
のそのそと動く爬虫類の魔物が3匹現れた。
1匹はブラックフロッグだ。
その他の2匹は胴回りが太くてアンバランス・・・。
樽といえば樽。
そうか、これがタルタートルなのだろう。
タルタートルの特徴はミチオ君の冒険録に記載が無かった。
ボスは噛み付きが得意だと言うのはセリーの談だ。
と言うか亀なら全般的に餌には噛み付く。
水魔法が得意だとも言っていたはずだ。
ボスより1つランクが低いタルタートルであれば、
その劣化版的な動きをして来るのだろう。
ならば警戒する範囲は概ねそれで十分だ。
「ナズ、魔法を多用する敵だ。
積極的に攻撃せず、魔法を潰す事だけ集中しろ」
「はいっ」
「アナとジャーブは固い甲羅に注意しろ。
動きは遅いが、噛み付く際は多分凄い速さで詰めて来る。
正面は危険だろうから、なるべく手や顔を狙ってくれ」
「「はいっ」」
「ヴィーは・・・まあ頑張れ」
「えーーっ、アタイだけヒドくない?」
「お前は囮となってその盾で身を守るのが仕事だしな」
「それはそうなんだけど、なんかヒドーい」
「酷くない!行け!」
「「「はい」」」「あーい」
「ラティは自分の後ろで地図を描いてろっ!」
「えっ、あ、あの、せっ、戦闘は・・・」
「しなくていいっ、画板の上がお前の戦場だ!」
「はっ、はいぃぃ」
既に全員が駆け出して行った後だ。
初見の魔物だし、今ラティと問答している暇は無い。
アナの対峙するタルタートルに状態異常耐性ダウンを掛けたら、
オーバードライブでガンマ線バーストとダートストームを使用した。
弓を引く事も忘れていない。
しっかりと1つの魔法の度に2本撃ちを決めて行く。
ブラックフロッグは属性的に火に弱く、土魔法では手数が足りない。
多分最後まで残るだろう。
今回はアナが取っているので石化すればワンチャンあるかもしれない。
ワンちゃんでは無くて猫ちゃんと蛙ちゃんなのだが。
ケロっと切って良い?†
ヴィーの大楯にタルタートルが噛み付く。
とは言え大楯の方がでかいし、
噛まれた位で破損するような代物では無いだろう。
衝撃の方が問題だが、これもゴーレム程では無いはずだ。
ヴィーへの指示は適当であったが、
概ねそれで正解なので的確ではあった。
ジャーブは・・・なんて言うか見ているだけで惚れ惚れする動きだ。
首を出して噛み付いて来た所をするりと躱して首をぶった切る。
首を引っ込めて守りの態勢に入ると甲羅を上からぶっ叩く。
逃げようと慌てて手足を出して藻掻くと、そこを切り落とす。
全身が樽を横倒ししたように丸いので、
いわゆる「ひっくり返した亀が動けなくなる作戦」は通用しない。
ジャーブが切り捨てた時、
コロコロ転がって正常位置へ戻っているのを確認した。
タルタートルには隙が無いが、残念ながらジャーブと云う相手が悪かった。
2ターン目のガンマ線バーストとダートストームの砂煙が舞う。
タルタートルには矢が刺さらなかった。
当たっても弾かれてしまってダメージになったかどうか不安である。
アナがヴィーの受け持つタルタートルの裏手に回り、
手足が出る度に突く。
ヴィーが2対1の構図になったので、
ナズはジャーブの方へと加勢に加わった。
これでもう魔法の心配は無いだろう。
2人とも詠唱中断を持っている。
一応石化したであろうブラックフロッグに射ってみたが、
石化したにも係わらず矢は突き刺さった。
やはり元の強度が計算されるのだろうか。
石化しても装甲までが硬くなる訳では無いようだ。
と言う事は逆に防御力を下げるスキルがあったとしても、
刺さらなかった魔物が刺さるようになると言った事は起こらないのだろう。
スキルは計算式に影響を及ぼし、効果は数値のみの話だと言う事になる。
どうにかして鉄の矢で試してみたい。
3ターン目の詠唱に入る。
矢はMP回復のために欠かせないが、
当たっても弾かれる相手に対して射るのは心情的に気に入らない。
対象はどうしてもブラックフロッグになる。
動かないし刺さっても邪魔にならないし丁度良い。
4ターン目でタルタートルが消滅した。
キッチリ4ターン目を必要とするあたり、26層とは強度が違う。
そして残ったブラックフロッグ相手に火魔法を使おうとして我に返った。
心情を優先した結果、無数の矢が突き刺さっている。
これに火魔法を使うと全部燃える。
勿体無い。
なんて事をしてしまったのだろうか。
バカバカッ!ユウキのバカッ!
ヴィーに剣を借りて後は斬撃で倒した。
ブラックフロッグがカルバミに変わる。
タルタートルの方はドロップアイテムも未知である。
何かの破片らしき物が確認できるが、
気になったので鑑定してみた。
・鼈甲
・鼈甲
・カルバミ
うん、読めんぞ。どうした文系。
取り敢えず聞く。
「このアイテムは何に使うのだ?」
「鼈甲ですか。
張り合わせて高級なお皿や瓶にしたり、
櫛や匙、蝋印にも使いますがどれも高価ですね。
鼈甲の櫛なんかは女性への贈り物として人気です」
ジャーブが答えた。
べっこうか、こんな字を書くんだな。
そういえばミチオ君も冒険者ギルドに赴いた際に、
クリア鼈甲の買い取りを見付けていた。
「ジャーブ、クリア鼈甲と言うのは?」
「そちらはレアアイテムかと思います。
用途や強度などは普通の鼈甲と同じですが、
色が入っておらず透明ですので人気がありますね。
買取カウンターでの値段も変わらないのですが、
特定注文はクリア鼈甲の方が多いです」
日本にも古からその文化はあったはずだが、
プラスチックに取って代わられてその姿を消した。
読めないのは仕方無いな、日常で使わないのだし。
感触が殆どプラスチックのようだが、それよりも軽い。
曲げ伸ばしには強そうだが、
落としたら割れてしまいそうでもあった。
ただしこれは欠片であって手の平へ十分収まる位に小さい。
1匹丸ごとの大きさならともかく、
これだけでは何の役にも立てなさそうだ。
張り合わせるとか言ったな。
第一加工方法なんて知らないし、
自分たちの生活の中では高級な皿など不用品だ。
集まったら売っぱらおう。
「よし。ではアナ、続きをお願い」
「はい、それでは──」
「あのっ!」
ラティが口を挟む。
「どうした?」
「こっ、こちらはた、多分行き止まりで、さっ先に何もありません。
ちゅっ、中間部屋はさ、先程の通路左に曲がった方・・・です」
「うん?よく判るな?」
「えっ?えええっと、あ、あの、はい。いっ、息苦しいと言いますか、
こっ、この先の・・・空気が重いので、
おお奥行きが、せっ、狭そうなんです」
えーと、これがラティの持つ能力なのかな?
人間の女性は気圧の変化をとても敏感に感じ取れる人がいる。
大抵は良くない意味だ。
嵐や雨の前なんかに、気分が悪くなったり眩暈がしたり、
酷いと寝込んでしまう人もいるのだとか。
そう、気象病だ。
自分の周りの知り合いにもそういう女性は何名か居たが、
「今日頭痛いから明日は雨だわー」と言うと、
天気予報に係わらず的中させる精度を誇っていた。
これはラティにもその能力がある、と言う事で良いだろうか?
病弱っぽくは見えないので、単純に敏感なだけだろう。
良い能力じゃないか。
ただ、地図を作る際は細部まで描く必要がある。
歯抜けの地図なんて誰も必要としない。
行き止まりまでしっかりと網羅してこそだ。
「ラティ、行き止まりを含めて正確に描け。
今後は先に正解の道が判るのなら、それを最劣後にする。
解かった時点でアナに伝えてくれ」
「は、はいっ」
「宜しくお願いします。都度、分岐路で聞いた方が良さそうですね」
ラティの言う通りに進むと、しっかりと行き止まりであった。
ラティの画板を途中で見せて貰ったが、
迷宮の通路が綺麗に網羅されており、
吻合する通路はピタッと正確に合致した。
よく見ると通った通路だけで無く、見た通路が全て描き込まれている。
視界内に収まった、或いは奥行きを感じられた通路全てが記載されており、
これなら分岐の先が袋小路である事や、
通路はその先へ続いて行く可能性のある事がよく解った。
いい。
実にいい。
素晴らしいよ?
生活面では全く頼りなさそうではあったが、この能力は本物だ。
自分のパーティはマッパーとソナー、両方の力を得た。
アナのレーダーと合わせると、3種の神器である。
今後は迷宮内を彷徨う事が少なくなりそうだ。
∽今日のステータス(2021/12/03)
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv57
設定:探索者(57)魔道士(33)勇者(10)目利き(20)
道化師:中土魔法・破魔鏡/知力中・知力大(16)
神官(22)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv50
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 暗殺者 Lv49
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 騎士 Lv49
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜騎士 Lv45
・エマレット 狼人族 ♀ 19歳 料理人 Lv32 OFF
・パニ 竜人族 ♂ 15歳 探索者 Lv50 OFF
・ラティ 人間 女 28歳 探索者 Lv20
カトラス(-)木の盾(-)銅の鎧(-)皮の帽子(-)
革の小手(-)革のブーツ(-)
↓
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv57
設定:探索者(57)魔道士(34)勇者(11)目利き(22)
道化師:中土魔法・破魔鏡/知力中・知力大(18)
神官(24)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv50
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 暗殺者 Lv49
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 騎士 Lv49
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜騎士 Lv45
・エマレット 狼人族 ♀ 19歳 料理人 Lv32 OFF
・パニ 竜人族 ♂ 15歳 探索者 Lv50 OFF
・ラティ 人間 女 28歳 探索者 Lv24
鉄の剣(++)鉄の鎧(-)鉄の籠手(-)鉄のグリーブ(-)
・収得品
麻黄 × 2 カルバミ ×7
ハサミ ×21 革 ×6
鼈甲 ×53
・異世界54日目(夜)
ナズ・アナ49日目、ジャ43日目、ヴィ36日目、エミ29日目
パニ19日目、ラテ1日目
サンドラッド到着まで7日、決闘まで3日、仮面完成まで1日
・トラッサの迷宮
Lv 魔物 / ボス
24 ハーフハーブ / ハートハーブ
25 ブラックフロッグ / フロックフロッグ
26 シザーリザード / マザーリザード
27 タルタートル / トータルタートル




