§145 根回し
いつものようにノッカーを叩く。
そしてヨシフの出迎えを受け、応接室に通された。
今日は奴隷や商談の予定では無いと入口で告げたが、
快く通してくれたあたり、何度もここに足を運んだ甲斐が有ったのだろう。
程無くして館主のシラーが現れた。
「どうも、先日は席を外しておりまして、申し訳無い」
「いえいえ、ヨシフ殿も順調に経験を積まれている様子で、
不在を任せられる日も近いですね」
「そうでございましょうか、ユウキ殿のおかげですな。
して今日はどういったご用件で?」
「はい、実は──」
大金持ちとの決闘が、今後ありそうだと伝える。
どこの誰とは敢えて口に出さなかった。
「その場合はどのような事に気を付けるべきか、
ある程度財力がある方の意見をお聞かせいただければと思いまして」
「ふむ。なるほど、そうですなあ・・・。
ユウキ殿にはこれまで何度も当館より奴隷を買って頂いておりますので、
無碍にする訳にも行きません。
相手次第だと思うのですが、そのお相手とはどの位の金持ちですかな?」
さぐりだ。
金持ち喧嘩せずとは良く言った物で、
普通はお互いの商敵とならないように牽制し合う。
そうでもなければ悪名が広まり、何かとトラブルを引き起こすからだ。
金持ち相手の喧嘩に肩入れするなど以ての外だろう。
「ええ、まあ。地元では実力者としても有名らしいですが」
シラーは首を傾げていた。
「私どもに相談を持ち掛けられる位ですので、
お相手は非道な手段を用いる可能性が高い訳ですね?」
「そうですね。その可能性があるので、
どんな手段があって、どう防げば良いかをお聞きしたくて」
「例えばですが・・・安い奴隷を見繕って、
決闘中に自爆玉を使わせたり、
強力なスキル武具で身を固めたりする事はあるかも知れません。
それから決闘の決まりを曲げたり、
約束を果たさない事も考えられますな」
「やはりそうですよね。
約束事を果たさせるには、どうしたら宜しいですかね」
「なるべく多くの民衆の前でやる公開試合に持ち込むか、
実力者の面前で行うかでしょう。
特に政務官や騎士団長などが面前でご覧なれば、
大金持ちと言えども取り決めを捻じ曲げる事は困難です」
「公開試合を拒む事もありますよね?」
「そうですな、やはり実力者に立ち会って貰えれば一番だと思いますが、
こちらもなかなか難しいでしょう」
「ルスラーン騎士団長殿やルイジーナのザイード氏は?」
「なんと、団長殿とはお知合いですかな?」
「ええ、まあちょっとだけ顔が利きます」
「ザイード氏はともかく、
騎士団長様に立会をお願いできるのであれば、
これは本当に心強い事でしょう」
「相手が別の騎士団の管轄でも大丈夫なのですか?」
「騎士団長同士の繋がりがありましょう。
ルスラーン様が決闘を見物するともなれば、
他の騎士団長殿もご覧になられると思います。
より多くの実力者に見られては、
幾ら有力者でも約束を違える事は難しくなるでしょう」
なるほど騎士団の管轄など関係無く、実力者は実力者だと言う事だ。
「それから決闘の内容として、奴隷が賭けられる事になるのですが」
「奴隷を巡った委細巨細ですか・・・、良くある事ですな」
「何か気を付ける事は無いでしょうかね?」
「奴隷を賭けた決闘は、その奴隷を対戦者の相続にする事が一般的です」
と言う事は奴隷商人の力が必要になる。
自分もジョブは持っているが、自分でやったら不味い事になるだろう。
その場合はやはりシラー殿にお願いしようか。
「ただし、戦闘奴隷を用いる場合はその限りではありませんので、
その場合は注意が必要ですな。
相手が実力者ならば、当然本人は戦わずに戦闘奴隷を用います。
奴隷に奴隷は譲与できませんので、この方法が適用できません」
「つまり、無効試合にされる可能性が高いと?」
「勝てば再戦を申し込めますので、延々と繰り返す他は無さそうです」
「その間に報酬の奴隷を売られたり殺されたりされませんかね?」
「そういった事も有り得ますので、
どの奴隷を条件にするか悟られないよう立ち振る舞う事も1つの手です。
実力者ならば奴隷など幾らでも持っているでしょうから」
「なるほど、いろいろ為になりました。感謝致します」
「しかし、本当にその・・・有力者と決闘なさるのですか?
相当の富豪ならば、自前の奴隷では無く決闘用奴隷を借り受けて来ます。
実力者同士の決闘では、
そういう筋の者から屈強な戦士を借りて来る事が普通ですので、
普通ではお目に掛かれない名のある者が出て来るかと思いますよ?」
「そういう戦士は、借りると・・・やっぱり高いのですか?」
「ええ、まあそれなりに高額ですが、
1日借りるだけなら大した事は無いでしょう。50万ナールもあれば」
ご、ごじゅ・・・。
普通に綺麗処の奴隷1人を買うのと変わらない値段だ。
それを1日レンタルで飛ばすのだ。
そんな戦士ならば相当な強さを持つ者なのだろうし、
それをポイッと出せるような財力があっての手段だろう。
「その借り受けた奴隷を殺してしまったら?」
「勿論、賠償金は高く設定されておりますので、
たとえ富豪であっても高級戦闘奴隷を3~4人も殺されては、
首が回らなくなりますな。
実力者同士が決闘で争う場合は、財と財の戦いとなる訳です。
ただ、そんな相手に対してユウキ殿が1人で挑むとなると・・・。
私からは、無謀な事は止めて頂きたいと思う次第でございます」
「それが、そうも行きません。相手から吹っ掛けられますので」
「なんと!何か相手を怒らせるような事でもなさったのですかな?」
「なさったも何も、ナジャリをここで購入したじゃないですか」
「ええっ?」
相手はナジャリに殺された子息の親だと説明した。
もう相手は特定された事だろう。
シラーは困り顔で返答に詰まっている様子だった。
「そ、そのような事情でしたか。
事前にご説明しなかった事は、こちらの不手際になります。
誠に申し訳ございません」
「いや、彼女はとても良く働いてくれているし、可愛く利口です。
購入して本当に良かったと思っていますので、逆に感謝していますよ」
「そう言って頂けまして恐縮です」
「では決闘の際、奴隷譲与に必要な手続きはシラー殿へお任せしても?」
「・・・かしこまりました。お客様がお望みでしたら」
まるで死地への旅立ちを見送るかの如くだ。
大金持ちが金に物を言わせて集めた屈強な戦闘奴隷を相手に、
普通ならば勝てないと思うだろう。
一応、こちらにはオーバーホエルミングがあるので、
まともな決闘ならば有利に動ける。
こちらには魔法もある。
魔法と弓、接近されたら剣で攻撃し、騎士の防御で固めれば、
何とかギリギリ、だ。
ロクサーヌが出て来たら攻撃を当てるには苦労するかもしれない。
ミチオ君や自分がこの世界に来た正確な日付は判らないので、
知らぬ間にロクサーヌがレンタル戦士へと登録していないとも限らない。
その場合は、確実にあちらが勝つ。
主人公には勝てない、謎の力が働くからだ。
ロクサーヌには会ってみたいが、ロクサーヌが出てきませんように!
それより恐ろしいのは自爆玉だ。
金に物を言わせて観衆の中へ紛れ込ませる事だって有り得る。
公開試合は自分の首を絞め兼ねない。
ボルドレックの所持する奴隷以外に立ち合う者が居た場合、
裕福そうに見えない低Lvの者がいたら注意をしなければならない。
或いはお抱えの奴隷達に身代わりのミサンガを付けて、
直接狙って来るかもしれない。
全員鑑定をして身代わりのミサンガは事前に切ってしまおう。
MP全解放を用いればバレずにミサンガを排除できる。
強壮剤の準備は沢山した方が良い。
礼を言って商館を後にした。
次は騎士団だ。
いきなり出向いて立ち合いを求めるなんて不敬には・・・ならないか。
治安維持の騎士団なのだし、町民だって普通に訪れるだろう。
貴族相手では無い。
但し、手ぶらでお願いするのは礼儀として駄目だ。
ここは例のアレだ。
一旦家に帰り、ソレを床下から取り出してポーチに入れた。
トラッサの騎士団寮では門番が2人立っている。
以前も、迷宮から強盗を運んだ際は世話になった。
こちらの顔を見て気付いたようだ。
「よう、どうした今日は」
「ルスラーン隊長殿にお目通り願いたいのですが」
「団長様か、今日はいたっけ?」
「ああ、昼過ぎにはお見掛けしたぞ」
「ではそこで待っていてくれ」
「宜しくお願いします」
門番の1人が屋舎の方に入って行った。
そして暇になったもう1人の門番が話し掛けて来る。
「今日はどうしたんだい?」
「ええ、ちょっと面倒ごとに巻き込まれそうなので、
決闘の際に立ち合いをお願いできないかと思って参りました」
「けっ、決闘?何だ、穏やかじゃあないな」
「穏便に済めば良いのですが、そうも行かない事情がありますので」
「お前が挑まれたのか、何やったんだ?」
「いえ、私では無くてですね、私の所持する奴隷に問題がありまして」
「ははーん、他人様に粗相でもしでかしたか。
たまに血の気の多い奴がいて、謝っても引かない奴がいるんだよなあ。
そういう奴が返り討ちに遭うと、スカっとするね!」
「あ、あはは、そうですね・・・」
何を言い出すんだこの騎士は。
治安維持をする立場なのだから、公平では無いのか。
騎士もまた人間、情には弱いと言う事か。
とすれば、ユーアロナ騎士団の勢力圏で決闘をするとなると分が悪い。
どこぞの田舎者より名の知れた実力者に加担するだろうし、
金でも権力でも簡単に靡きそうだ。
そのために子息を騎士団へ捻じ込もうとしているのだろう?
やはり実力者の立ち合いが欲しい所である。
「入って来て良いってさ、中の階段を上がって左の突き当りだ」
「ありがとうございます」
戻ってきた門番に場所を聞いたので、1人で建屋に入る。
広い庭を挟んで、L字型に立派な建物と宿屋っぽい建屋が繋がっていた。
これから向かうのは立派な方だ。
宿舎では無く執務をする部屋なのだろう。
階段は木製だがそれ以外は絨毯が敷かれ、
立派な建物であると言う事は良く解る。
そもそも騎士達が履いている金属製のグリーブでは、
木の床では磨り減ってしまう。
階段の段鼻部分はだいぶ磨り減って丸くなっていた。
2階も1階と同様に絨毯が敷かれ、
ここだけ切り取れば足元以外は旅亭の通路と大差無い。
左右の扉も、突き当りの扉も大して豪華な造りでは無かった。
一番奥だと言っていたので、ここがルスラーンの執務室だ。
まずはノック。
3回だっけ?
おま社ルールで2回だったり3回だったり、
3回叩いて返事が無いのを確認して2回だったり、
更にマナー講師に依って色々らしい。
就活が始まる前、合同講義でレクチャーを受けたが存外いい加減だった。
「ユウキだな、入れ」
ノックの音に気付き、中からルスラーンの声がした。
ユウキが面会に来ると知らされ扉を叩いたのだから、その相手はユウキだ。
騎士団への入隊を説得されないように注意したい。
「失礼します」
扉を開けて入ると執務机に座るルスラーンの他に、
中央テーブルを挟んで対面で置かれたソファに別の騎士が腰を掛けていた。
紹介も何も無く、この騎士は挨拶もしなかった。
背格好は低く屈強そうで、耳が長いのでドワーフだろう。
鎧は物凄く高そうな物を身に着けている。
以前鑑定した時ルスラーンはプレートメイルを着ていたので、
この騎士の鎧からするともっと上位の者なのだろうか。
ルスラーンからその騎士の対面側のソファに座るよう促され、腰を下ろす。
高貴そうな騎士と対面で座ってしまって大丈夫なのだろうか。
小心者なので不安は尽きない。
「今、丁度シルクスの騎士団長殿が見えていてな。ほら、例の件だ」
「はあ、どうも。ユウキです、お初にお目に掛かります」
例の件・・・とは、盗賊ジョブでは無かった盗賊を処刑するために、
迷宮のボス部屋へ護送する件の事だろう。
ここへやって来た理由が、その件の進捗を伺いに来たと思われている。
そしてこの騎士はシルクスの騎士団長だった。
態度からしてやはり偉いのだろうか。
「そういえば、それはどうなったのですかね?」
「うん?それを聞きに来たのでは無いのか?
まあそれは順調だ。お前が2人目の盗賊を捕まえて来ただろう?
上手く行けば56層が解禁されるかもしれないな」
どういう事だろう。
2人目・・・確かにそうだ。
盗賊団の真の首領と、迷宮で見付けた盗賊に加担する探索者の2人を、
生かした状態で捕らえて来た。
「どういう事でしょうか?」
「2人を同時に押し込めば、それだけ検証が確実になる。
1人がお供を抑えれば、もう1人はボスに攻撃を与え易い」
そうだった。
深層階ともなれば、ボス部屋にはお供が湧く。
56層ならば丁度お供が4匹に増えるので、一段難しくなる階層だ。
そこに1人を押し込んでも、お供に狩られて終わる可能性が高い。
2人で押し込めば、ボスに攻撃がヒットする可能性は高くなり、
それだけ判断し易いと言う事か。
ボスは何だったのだっけ。
迷宮のルールをおさらいする。
11層ごとに魔物のグループが変わり、
33層ごとに系列がリセットされ、
低階層のボスが深層階の雑魚となる。
56から33を引くと23。
21層までは行った事があり、魔物はピッグボッグだった。
そうすると22層は2グループ目で戦った事の無い相手、
つまりハットバットだ。
その先である23層は低階層の3グループ目、
まだ戦った事の無い最終グループだ。
つまり、何だか判らない。
「都合良く寝てる奴が出れば完璧なんだがなあ」
「こればっかりは実際に送った後で無いと判らん」
もう1人の騎士が答えた。
寝てる?
最初から寝てる敵なんていたか?
スリープシープ・・・なら起こされて機嫌が悪い羊と言う事らしいので、
寝ているかもしれないが、階層が合わない。
確かチープシープは4層で出たので、33を足すと37層だ。
睡眠、睡眠、レム睡眠、ハッ!・・・レムゴーレムか!
と言う事は23層にノンレムゴーレムが出て、
そのボスがレムゴーレムだな。
更にその33層先のボスなのだから名前は判らない。
ミチオ君達はそこまで探索を進めていなかった。
「今、最終的な打ち合わせを行っていてな。
トリアのようにならんよう、
シルクスの騎士団長殿とこうして相談している訳だ」
ルスラーンが解説を挟んだ。
なるほど、トリアの領主は不手際で迷宮を討伐してしまった。
恐らく騎士団からは文句も出ただろうが、
領主の一存により正規の工程をスキップされたのだろう。
そうで無ければ領主が粛清されるなんて事態には至らないはずだ。
トリアの騎士団ではノウハウを生かせない。
迷宮が討伐された後も町として生き残ったシルクスは、
その失敗の経験が騎士団にしっかり受け継がれているのだろう。
相談相手としては確かに最適だ。
「まあそんな訳で、近い内に動くからその時は連絡する」
「かしこまりました。
しかし、今回お目通りを願ったのはその件ではありません」
「うん?」
ルスラーンと、もう1人の騎士は自分を見詰める。
それ以外にどんな件があるのかと言った具合だ。
「歌姫の件がありますよね?」
「ああ、ホドワで噂の娘だな?楽しみにしているが」
「その娘が昔とある富豪の息子を殺めてしまった事は、
確かご存じでしたよね?」
「ああ、それでお前が買ったんだったな?」
「実はその遺族からずっと狙われていた事が解りまして、
近い内に決闘となる可能性が高いのです」
「おいおい、どういう事だ。
そもそも、どうやってそれをユウキが知ったのか教えて貰えるか?」
「実はその後に買った奴隷がその富豪の下から払い下げられた奴隷でして、
その者からの話で知ったと言う顛末です」
ちょっと端折った。
結果的には似たようなもんだ。
「なるほど、それは穏やかな話では無いな。しかし、それでなぜここに?」
「相手が相手ですので何かしら決闘の場で仕組んで来るかと思いまして、
その際に立ち合いをお願いしたく」
「それで私か。・・・うーん別にそれは構わないが、相手は誰なのだ?」
「ここだけの話にして頂けると」
「うん、それは大丈夫だ。なあ?イルハン」
「ああ、大丈夫だ。そういった話は俺だけ知っている方が楽しい」
「相変わらずだな」
「情報の優位性を保つ事は、上に立つ者としては当然だ」
このシルクスの騎士団長はイルハンと言う名前らしい。
ついでなので鑑定をして置く。
・イルハン・シルキウス・アイドラッハ ドワーフ ♂
31歳 聖騎士 Lv27
──ブッ!
思わず吹き出してしまった。
「おいどうした突然、汚いな」
「い、いえ、イルハン様はシルクスのお貴族様でしょうか・・・」
「あん?別にそんなんじゃないが、まあ実家は大層なもんだ。
それがどうした」
実家が大層なら絶対シルクスの貴族の子息だ。
名前がそう語っている。
鎧がその財を証明している。
と言うかシルキウスって言う位なんだから、もう執政官の息子だ。
間違い無く。
「い、いえ、何でもありません。相手はボルドレックです」
「ボル・・・」
2人が息を飲んだ。
ホドワでは悪名高いらしい。
商人なのであちこちで取引きしているだろうから、
その噂は別の町にも届くのだろう。
「あいつはユーアロナの騎士団長も手を焼いていると言っていたな」
「そうなのですか?」
「灰汁どいが、法を犯す程の悪さをする訳では無いからな。
罰するに罰せられないと言った所だろう。
そうか、そんな奴とやり合うのか、お前も大変だな」
「そいつの名前は俺も聞いた事があるな。
よく積み荷の件で騒ぎに成ったりするが、大体船主は泣き寝入りだ。
どこかでお灸を添えてやりたいと思っていたから、
どれ。俺も1つ協力しよう」
「ありがたいお言葉です」
「よし、それでは立会人は私とイルハン、
それからユーアロナの騎士団長も立たせよう。連絡をして置く」
「本当ですか、とても心強い限りです」
「それで、もちろん勝ち目があるのだろう?」
ルスラーンはニヤニヤしながら尋ねて来た。
前回の決闘は全て見られている。
相手は金持ちなので屈強の戦士を呼ばれる、そこまでは既定路線だ。
その相手に勝てるかと言う事だ。
「いえ、それは判りませんが、全力で行かせて頂く覚悟です」
「行って貰わないと困るな。多分そんな相手なら賭け事になる。
私はユウキに乗らせて貰うからな」
「賭け事は違法では・・・?」
「公開決闘の際は別だ、公認の札師が付く。
近親者がお前の札を買っても良いから、
これは合法的に儲けるチャンスだぞ?商売人なら乗らないとな」
「何だ、この此奴はそんなに強いのか?」
「ああ、この目で一度戦いを見ている。
悪い事は言わんからイルハンもコイツに賭けろ」
「そうか?本当に一泡吹かせられそうだな、楽しみにしているぞ。
えーっと何ツッたっけ」
「ゆ、ユウキです」
「よし、覚えた、ユウキだな。シルクスへ来た時は遊びに来てくれ」
いやいや。
あなたのお屋敷なんておいそれと遊びに行ける訳が無いでしょう。
何を言い出すんだこのお坊ちゃんは。
話題を変えよう。
「お伺い致しました手前、手ぶらでは悪いと思いまして、
酒をお持ちしましたのでどうかご賞味下さい」
「お、気が利くでは無いか。・・・うん、これは以前見た事あるぞ?」
「はい、いつぞや助けて頂いた際に持っていた酒ですね」
「そうかそうか、実はずっと気になっていたのだ。
そのガラス製の瓶、どう考えてもシュメール産だ。
この国ではそんな精巧な物は手に入らん」
「おお、こいつはスゲえ。透き通るように透明なガラスだ。
これは空き瓶だけでも価値があるぜ。
酒だって言ったな?勿論飲んで良いよな?」
イルハンはちらっとルスラーンにお伺いを立てる。
どうやら立場的には上でも下でも無く、対等のようだった。
装備が煌びやかなのはやはり家名の力なのだろう。
「お、おう。じゃあちょっとコップを持って来るか。
ユウキも飲むだろう?」
「いえ、私はこれを売る商人ですからね、客前で頂いてしまっては」
「そうか、では盃は2個だな」
危うくルスラーンとよく素性の知らない騎士団長と一緒に、
酒盛りをさせられる羽目になりそうだった。
酔っぱらって何か失態をするような事態は起こらないと思うが、
長々と小難しい話に付き合う必要は無い。
こちらの要求は通ったのだし、
2人でゆっくり楽しんで貰えればそれで良い。
ルスラーンが木の盃を持って戻って来た。
シラーの出したグラスは装飾されたガラス製のグラスだったが、
やはりガラスの器は高いと言う事なのだろう。
勿論、木製であっても結局は何も変わらない。
気分の問題だ。
ホドワの酒場に至ってはグラスでもジョッキでも無く、
ただの木製のコップでワインが出されるのだし。
イルハンが帯刀していた装飾ナイフを借りて栓を開け、
2人のグラスに注いで味わって貰った。
栓を開ける際、盃を口に運んだ際、
喉越しを感じた際にはどれも喜んで貰えたようだが、
イルハンは量に不満足らしく、
一気に半分を注いでグッと飲み干してしまった。
ドワーフ殺しには至らなかったが、十分旨かったそうだ。
飲み慣れているであろうドワーフがそう言うならそうなのだろう。
地球から持って来た酒は、やはり高級な酒として通用する。
しかし後3つしかない。
もっと持って来れば良かった。
今更取りに行けないし、作り方も知らない。
残り3つは大事な時に使おう。
半分以下となってしまったボトルを前にして、
ルスラーンは悲鳴を上げてイルハンから瓶を取り上げ、
部屋の隅に置かれた棚へ大事そうにしまった。
「そ、それでは私はこれで」
「あ、ああ。では日時が判ったら教えてくれ」
「もっとあれば持って来てくれよ!中々美味かった」
ドワーフの前に酒を置いてはならない、肝に銘じた。
∽今日の戯言(2021/10/23)
動きやすい人と動きにくい人がいるんですよ
身勝手に動いて困る人もいるんですが。
何か言わないと動いてくれなかったり。
結城君が空気を読んで一生懸命動かしてくれます。
助かります。
イルハン、お前の事やぞ。
・異世界37日目(昼過ぎ)
ナズ・アナ32日目、ジャ26日目、ヴィ19日目、エミ12日目
パニ2日目




