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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第七章 旋風
108/394

§107 無言

トリアの商館には小間使いがおらず、

部屋まで通したのは館主その人であった。


それほどまでに人がいないのか、寂れ過ぎて客が来ないのか。

応接間はかつての繁栄ぶりを残しているものの、

商館と言えどもこの町の変遷からは逃れようがないのだろう。


館主から直接用件を聞かれた。


「シルクスの商館主から紹介状を預かっているんだ」


預かっていた紹介状を手渡す。


「ほう・・・僧侶の奴隷ですか。残念ながら当館には居ませんな」


耳の尖ったやる気の無さそうな館主が答えた。

この奴隷商はエルフなのだ。

エルフは人間族を見下すと聞いている。


全員が全員そうでは無いと思うが、

この男からは何かと鼻につきそうな、嫌な感じがする。


 ・ラゴラ エルフ  ♂ 53歳 奴隷商 Lv12


鑑定してみたが、Lvが低い。

そして意外と高齢だ。30代前半かと思った。


多くの館主は所持する奴隷を鍛えるために、

日々迷宮へ連れて行っているだろう。

その方が商品価値は上がるのだし、彼らの食い扶持も必要だ。


ここにはそれらの戦闘員がいない。

いや、迷宮が無い。

従って奴隷商のLvも上がらない、と推測できる。


とはいえ迷宮が倒されたのは10年前だと言うのだから、

それにしたってLvが低すぎる。

元々迷宮は積極的にやらない主義だったのだろう。


それならば僧侶どころか、戦闘用の奴隷すら怪しいものだ。

商品にできる人材がいないのではないだろうか。


「いや、僧侶はもういい。

 できるだけ安く、家の事を任せられる奴隷が欲しい」


「それは家事全般ですかな?」

「そうだな、炊事洗濯掃除、滞りなく熟せて安い者はいないか?」


「それなら現在3名いるので見てって下さい」


暫く待っていると、3人の女奴隷を連れて来た。


1人はエマーロのおばちゃん、

エマーロは鼻が特徴的なのですぐ判る。


もう1人は人間のおばちゃん、

この2人は売れ残っていて、ずっとここにいるのだろうか。

この町では買い手が付く事も難しいだろう。

少し同情する。


家事全般ともなると、それなり年配になるのは仕方がないか。


最後の1人は狼人族の・・・若い娘だった。


 ・エマレット ♀ 19歳 狼人族 村人 Lv1


狼人族なのにLv1だ。

全く鍛えていないと言う事は、

生まれながらに奴隷だった可能性が高い。


そしてここでも鍛えられていないし、

見捨てられた子なのだろう。


若いし、良いじゃないか。

多少問題があったとしても、やって貰う事は家事だ。

ハーレム要員である必要は無い、自分は2人以上相手にできないし。


「この若い娘はどういった経緯でここに?」

「あー。この子は大きな屋敷で従事していたのだが、

 まあちょっとアレな主人でね。

 相当ひどく折檻したようで、喋れなくなったらしい」


「ええっ?喋れないんじゃあ仕事にならんだろう」

「家事全般は一通りできる。話も分かる、ただし返事をしない」


相当に曰く付きのようだ。


失語に至るまでには、余程酷い目に遭ったのだと思われる。

折檻だけでなく虐待や強姦なども含めて。

やや情が湧いた。


「他に問題点はあるか?」

「おっと、やはりそうだな、言っとかないとまずいからな」


まだあるようだ。

喋らない位では、こんな辺鄙・・・といったら失礼だが、

売れない奴隷になっていない。


「実はその娘、病気持ちだ。女としての価値は無い」

「ええっ?」


眺めてみたが、顔色は良さそうに見える。

ボサボサの髪で小汚こぎたならしくなっているが、

磨けばそれなりに可愛げがあるタイプだ。


では何の病気だ。

女としての価値が無い、つまり性病と言う事だ。


この年でか・・・可哀想に。

そういう目的で無いから、別にそれでも十分だ。

同じ狼人族のジャーブには注意して貰わないといけない。


「だそうなので、お前は手を出すなよ?」

「えっ、しませんから!

 ユウキ様の奴隷に手を付けるなんて、とんでもないです!」


「で、この娘はいくらだ?」

「えっ、今の話で本当に買うのかっ?」


売るつもりが無いなら持って来ないで欲しい。

と言うか、お前に売る奴隷は無いと言う嫌がらせだったのか?

曰く付きなら安いだろうから、こちらは欲しいのだが。


いや、紹介状を持参した客を無碍むげに扱ったら、

紹介した館主に迷惑が掛かる。

本当にこれだけの奴隷しかいないのだろう。


「で、では1万ナールも貰えれば」


「やけに安いな」

「引き取り手がいないのでウチに押し付けられた感じですかな」


「と言うか、ここでは商売にならんだろう?」

「そのうち新しい町ができたら、すぐにでも引っ越しますよ。

 この町は辛気臭くていけない」


この奴隷商もそれなりの苦労があるのか。

出費がかさむばかりだろう。

町人たちがトリアの息子に恨み節なのも判る気がする。


「一応、念のために言っときますが、

 この娘に手を付けると鼻が落ちますからね。

 義務として忠告しましたからね?」


鼻が落ちる性病・・・と言う事は梅毒か、厄介だな。


地球の性病の歴史を見ても、梅毒は恐ろしい病気の1つだった。

19世紀後半まで猛威を振るったのではなかったっけ。


梅毒は末期症状として鼻の周囲に感染が広がり、やがて腐って落ちる。

日本では遊女の事を花落ちだとか鼻曲りと言って揶揄やゆされた。


それならば、こちらの文明発達度合いからして薬には期待できない。


「治療法は無いのか?」

「あれば大金持ちが放っとかないでしょう?」


「と言うと?」

「治せるなら娼婦だろうが中古の女だろうが、

 値段が落ちないって事ですよ」


そ、そうだな、確かに。


病気の心配がなくなれば、美人の奴隷は等しく高価のままだ。

処女だからと言うアドバンテージは無くなり、

経験豊富な奴隷の方が優位になる。


「エリクシールでも?」

「はい」


「万能薬でも?」

「迷宮のアイテムは迷宮で負った毒しか治せませんよ」


万能薬は万能では無かった。

いや、病気は別の扱いなのか。

梅毒と毒が付くとはいえ、実態は菌だ。

生物相手には効かないと言う事なのだろう。


「まあ、病気とはいえ5年位は働けるでしょう。

 手さえ出さなければ十分元は取れるかと」


割とあっさり寿命を口にする。


全く気配りと言うか、いたわりなんてものが無い。

人間の自分相手だからだろうか、全ての種族に対してそうなのだろうか、

元々「こう」なのだろうか。


ともかく、エマレットを1万ナールで得た。


奴隷商は憑き物が落ちたようにヘラヘラと笑顔を見せ、

ヒラヒラ手を振って見送られた。


そういえば、お決まりの定型文が無かった。

インテリジェンスカードの操作をして、金を払ったらそのままだ。

捨てたいならどうぞって事だ。

余りにも不憫だった。


エマレットを連れて商館を出る。


靴、そうだ。

奴隷は基本的に靴を履いていない。

エマレットは裸足だった。


まさか即断すると思っていなかったので、全く準備をしていなかった。

それに病気持ちの娘を買うとも思っていなかったので、

今度は家にある物品には注意が必要だ。

自分達の持ち物と混ざらないようにしなければ。


確か梅毒・・・と言うか性病は、粘膜及び傷口からの感染だ。

それ以上の知識は無いので、風呂は一番最後、

タオルは分けると言う事で徹底しよう。


「ジャーブ、病気持ちの娘と同じ部屋になるが、

 手を出さなければ染らないから安心してくれ」

「えっ、ですので、手は出しません!」


「いや、そうじゃなくて心配かと思ってな」

「一緒にいるだけで染らない事は知っています」


そうか、まあそれなりに予防に対する知識位はあるか。

そうで無ければ商館でも売っていないだろうしな。


性病は風呂でも染ると聞いているが、一般市民は風呂に入らない。

流石にそこまでの知識は無いだろう。

一番最後に入らせ、浴槽はちゃんと洗う事を徹底させれば大丈夫だ。


「じゃあ安心だな。ただしケガをした場合、血は触るなよ」

「分かりました」


血・・・とすると、今裸足で歩いていることは危険だ。

すぐに家へゲートを出して、風呂場に連れて行く。

そしてアナを呼んで、まずはエマレットの体を洗うように頼んだ。


「アナ、この娘は病気持ちらしい。

 けがをしている箇所には気を付けて、あったら報告してくれ。

 大事な場所は自分で洗わせろ、そこは触れないように」

「かしこまりました」


アナが石鹸を泡立てている間に、

自分は水汲み用のタライにお湯を用意する。


いきなり無詠唱で魔法を使ったが、喋らない娘で良かった。

外に漏れる心配はない。


そういえばパーティ編成もワープも無詠唱だったな。

それに対して特に動じた様子はなかった。

感情そのものが消失しているのか?

どれほど虐待を受けたらそうなるのか、可哀想になった。


「この娘は酷く虐待を受けて話せないそうだから、

 なるべく優しくしてやってくれ」

「大丈夫です。お任せ下さい」


うん?


何が大丈夫か判らなかったが、アナは相手の感情まで分かるのだろうか?

大体気配が読めるのだから、何かを察するのは元々得意そうだ。


そしてナズには、1人分の食事が増える事を報告する。


「ナズ、新しい奴隷がやって来た。今はアナに洗って貰っている」

「はい?ええと・・・先ほど仰っていた件ですね、かしこまりました」


「今後掃除や洗濯、朝の調理は彼女に手伝って貰う事にする。

 2、3日で良いから勝手を教えてやってくれ。但し彼女は返事をしない」

「えっ、お返事できないのですか?」


「何だかそうらしい。話は解かるようだ」

「か、かしこまりました」


後はヴィーだな。

病気の事とかはちゃんと説明して置かないと、

ヴィーに染っても困る。


この世界で何とか梅毒の治療ができればいいのだが・・・。

医者・・・はケガ専門の教会だからスキル頼みだ。

スキルで治るならさげすまされたりしない。


治療法なんて知らないぞ・・・。

抗生物質とか言うのを打つんだっけ?

たとえ存在したとしても、注射針すらない。


そういえば、準備として持ってきたのは生活用品だけで、

医薬品や医療書も持ち込むべきであった。

自分や仲間が病気になると言う考えがすっぽり抜けていた。


また自分の浅はかな行動に後悔する。


治療法については今後ゆっくり考えていく事にして、

まずは彼女の分の服と下着、

靴とタオルを用意しなければならない。


前回大工達が風呂を利用した際にタオルが沢山余っていた。

ベッドは6人パーティを見越して1つ余っている。

靴はナズに頼めばいい。


エマレットは今アナに洗われているので裸だ。

着ていた服を拝借して商店へ向かった。


同じ大きさの服を3着買い、下着も併せて揃える。

手拭いも、替えを含めて2つ買って置いた。

混ざらないように、ジャーブにお願いして刺繍を付けさせた。

赤いラインが入っている物がエマレット専用品だ。


以前着ていた薄汚れたボロ服はファイヤーボールの餌食となった。

汚物は燃やして消毒なのだ。†


手の空いたジャーブと一緒にエマレットのベッドを用意し、

マットレスの上には余ったタオル生地を巻いた。


これは良いな。

皆のもそうした方が良いかも知れない。

マットレスは洗えないが、シーツなら洗える。


結局余っていた5枚の布は、全員分のベッドシーツに変貌した。


キッチンに行くと綺麗になったエマレットが椅子に座り、

アナに髪を梳かされていた。


「おっ、綺麗になったじゃないか」

「そうですね、後は髪の毛に少々手を入れたほうが宜しいかと」


そうだ、この世界に来てそろそろ1ヵ月。

髪が伸びてきたら切らねばならない。

ハサミはあるのだろうか?

あったっけ?この世界。


「ハサミはあるのか?」

「雑貨屋に行けばあるかと思いますが」


良かった、ハサミはあった。

そういえばミチオ君はロクサーヌに切って貰ったんだっけ。


「アナは髪を切れるか?」

「問題ありません」


良かった、ハサミを扱える者もいた。

これで誰も切れないとなると、髪結の店に頼むしかなかった。


「ではいくらか知らないが、後で買って来てくれ」

「かしこまりました」


流石に1万ナールはしないだろうが、

こういう道具は高いと言うのが定番だ。

ちょっと多めに渡して置けばいい。


金貨1枚をアナに握らせた。

アナは躊躇ためらったが、値段を知らないのだからしょうがない。


「エマレット、今日からここがお前の家だ。

 あちらにいるナズから台所の事を教えて貰ってくれ。

 食事を作る事がお前の一番の仕事だ」

(こく・・・こくり。)


エマレットは黙って頷く。

返事はしないが、応答はできた。

問題ないだろう。


「それから、家の掃除と畑の手入──」

「それを取られたら俺の仕事がなくなります!」


「らしいので、掃除と・・・後は洗濯を頼む」

(こくり。)


「何日かに一度は風呂にれる。

 さっきアナに洗って貰ったように、

 お前1人で体を洗い清潔にしてくれ。やり方は覚えたな?」


エマレットがアワアワし始めた。

言いたくても言葉が出ないのだ。

何かを訴え掛けているが、それが何かは理解できない。


「エマレット、この家では奴隷でもお風呂に入れて貰えます。

 ご主人様はとてもお優しいお方です。何も心配いりません」

(こく・・・こくり。)


アナがエマレットの気持ちを察したのか、

説明すると納得したようだ。


「良く解ったな?」

「ええと、普通そう思うだろうと思いまして」


気配りの達人スゲー。


と言うか彼女自身が最初に感じて恐れた事を、

そのままエマレットに伝えただけなのだろう。

しかしそういう事を自然とできる人物は中々存在しない。


彼女たちは今それが普通になってしまっている。

いつでも初心に立ち戻れると言うのは、素晴らしい事であり才能でもある。


「では、朝食、掃除、洗濯を宜しく。

 お前の事は今日からエミーと呼ぼう」

(こくり。)


新しい女中が加わった。


これで、戦闘メンバーは家に帰ってから仕事をする必要は無くなった。

その分、目いっぱい戦闘をこなせるだろう。

探索時間を少しだけ延ばしても良さそうだ。


ジャーブが畑に拘ったのは・・・。

以前に畑作業が好きになったとか言っていたっけ。

あのハーブたちはジャーブの子供のような物で、

愛情を持って育てているのだな、と感心した。

∽今日のステータス(2021/09/21)


 ・繰越金額 (白金貨2枚)

     金貨 22枚 銀貨 55枚 銅貨 78枚


  エミー身請              (1万й)


  雑貨購入             (1370й)

   中古服  ×3           450

   下着   ×3           150

   手拭い  ×2            20

   ハサミ               750


     金貨- 1枚 銀貨-13枚 銅貨-70枚

  ------------------------

  計  金貨 21枚 銀貨 42枚 銅貨  8枚



 ・異世界26日目(昼過ぎ)

   ナズ・アナ21日目、ジャーブ15日目、ヴィー8日目、エミ1日目

   聖槍出品まであと1日

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