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ブラックオリオン  作者: 波島祐一
第一章:警護編
9/45

Operation09:救出

改訂しました。

 照明が消えたので、功一はベルトに通したホルスターからフラッシュライトを取り出した。だが、不要だった。非常用発電機のおかげで、すぐに照明が復旧したのだ。功一は小型の骨伝導式ヘッドセットを耳につけた。


(二課より警備本部、瓦礫で非常階段が塞がれている。屋上からの降下しかない)

(ホーク1が三分で離陸する。到着次第、作戦六課を屋上へ降下させる)

(一課より本部、下への非常階段が瓦礫で埋まっている。避難方法の指示を請う)

(現在、状況を確認中。指示あるまで各員は情報の収集に努めよ)


 宴会ホールは料理や飲み物が散乱していたが、来場者たちは軽傷か無傷だ。今のところ、目立ったパニックも見受けられない。功一は由貴を連れ、関内と碧のところに戻った。


「非常階段が塞がったみたいですね」 功一は無線で聞いていたことを言った。

「エレベーターも止まっている。参ったな」 いま非常階段を見て来たらしい、一課の社員が言った。「無線によると、外で待機していたチームが非常階段の瓦礫をどかしているそうだ」

「屋上からヘリで逃げられますか?」 碧が問う。

「この人数では時間がかかりすぎる。非常階段の瓦礫撤去を待った方が早いだろうな」 関内が返す。

(警備本部より各員) 功一たちは骨伝導イヤホンに流れた声に耳を傾ける。(四十七階の発電機室ほか、宴会ホールより上階で火災発生中。上には行くな。繰り返す、上階には行かず、地上からの救助を待て)

「七課、関内より警備本部。了解した」

(松崎より七課各員、状況を知らせ)

「関内、夏樹、尾滝の三名、宴会ホールで待機中です。そちらは?」

(おれと織田は階下の喫煙室にいたんで、すでにホテルから脱出した)

「……ツイてますね」

(まぁな。下で待ってるよ)

「了解」


 複数回の爆発。ただの事故ではないだろう。功一は緊張した面持ちで、周囲を見回した。警備要員以外の来場者は、残らずボディチェックを受けている。銃器や刃物といった、武器の類は持ち込めない。いったい誰が、なんの目的で……。





 午後八時五十五分。最初の二回以降、爆発は起きていなかった。宴会ホールに閉じ込められた来場者たちは思いのほか冷静で、静かに救助を待っていた。


「聞こえたぞ、ドリルの音だ!」


 非常階段の近くにいた若い男が叫んだ。

 数分後、瓦礫をどかしてレスキュー隊員たちが現れた。

 宴会ホールに歓声が上がった。関内がレスキュー隊員のひとりに近く。「警備にあたっていたブラックオリオンの関内といいます」


「重傷者はおりませんが、衰弱してる方が数名います」

「ハイパーレスキューの岡嶋(おかじま)です。では、まず衰弱の激しい方、次に子供と女性、ご年配の方、最後に男性という順番で脱出していただきます」

「分かりました」


 会場に数名のレスキュー隊員と、作戦二課の六名が入ってきた。


「不審な人間はいるか?」 自動小銃で武装した二課の課長が、関内に訊いた。

「いえ、特には」

「分かった。ここの避難が終わり次第、我々も下に戻る」


 衰弱していた数名が担架で運び出され、避難が始まった。


「君、ブラックオリオンの社員だね?」


 功一に唐突に話し掛けてきたのは、スカイウイング航空の澤谷社長だった。功一は少し驚いた。「はい。どうかされましたか?」


「たったいま気がついたんだが、上着のポケットにこれが入っていた」 澤谷は小さなメモ用紙を差し出した。


 功一はそれを読んで、心臓が大きく跳ねるのを知覚した。


『二十年前のこと、覚えているな? 爆弾を仕掛けたのは私だ。まだ私と話す気があるなら、二十一時三十分に二十八階の食堂に来い』


 この爆弾事件の犯人が、このホテル内にいる。しかも、たった三階上に。

 

「……犯人は、あなたに恨みがあるんですね?」

「うむ。だが説明する時間はない。今はわしと来てくれんか」

「それは、ボディガードということでしょうか」

「そうだ。見殺しには、出来んだろう?」


 功一は腕時計を見た。現在、午後九時十五分。紙に書いてある時間まで、あと十五分。


「分かりました。先に行ってて下さい。すぐ追いつきますから」

「頼むぞ」 澤谷は階段の方へ駆け出した。


 功一は碧に近づき、「夏樹」 と声を掛けた。


「宇城さんを頼む」

「え、どうしたのよ」 碧は怪訝な顔で聞き返す。

「急用ができた。任せたからな」 説明している時間はなかった。一歩を踏み出そうとした功一は、「尾滝さん」 と掛けられた声に後ろを振り向いた。由貴が、不安を滲ませた顔でこちらを見ていた。

「また、会えるよね?」

「もちろん」


 功一は今度こそ走り出した。ホールから出て、非常階段を昇ろうとすると、気づいたレスキュー隊員に腕を掴まれた。「どこへ行く気ですか!」


「ブラックオリオンの社員だ。放してくれ」

「上に行っても助かりませんよ!」


 さすがに、ハイパーレスキューの隊員は筋力が尋常でない。掴まれた腕は振り払えそうになかった。

 仕方ない。

 功一はアンクルホルスターからグロック26を引き抜いて、銃口をレスキュー隊員に突き付けた。「緊急事態なんだ!」

 レスキュー隊員はグロックの暗い銃口を見ると、ぎょっと目を見開いて功一の腕を放した。

 呆然とするレスキュー隊員を残し、功一は薄暗い非常階段を上り始めた。


「七課、尾滝より警備本部。二十八回食堂に爆破の被疑者がいる可能性あり。澤谷社長が呼び出された。バックアップ頼みます」


 それだけ吹き込み、階段を一息に駆け上がる。すぐに二十八階に着いた。グロックのスライドを引いて初弾を装填し、食堂への一歩を踏み出した。

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