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ブラックオリオン  作者: 波島祐一
第一章:警護編
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Operation04:誘拐未遂

改訂しました。

 シートベルトを締め、シリンダーに差し込んだキーを捻る。エンジンが始動したパジェロの運転席で、功一はふうと息を吐いた。午後四時。警護任務二日目、無事終了。

 昨日、功一は大学での顛末を松崎に報告したが、その後規定のルートに従って担当部長、部長、執行役員と報告が上がっていき、逆のルートで戻ってきたのは『任務継続』 の指示だった。由貴が言っていた『顔見知りのほうが護衛しやすい』 という言葉と同じ判断なのかもしれない。

 下っ端社員が文句を言ったところで、その指示が撤回される見込みはなかった。この日も功一は午前中から翔条大で講義を受け、警護対象に危険が及ばないよう見張り続けた。駐車場から出て、正門近くの赤信号で停止した。正門前に黒塗りのクラウンが停まっているのが見える。由貴の迎えの車だろうと思ったが、功一は違和感を感じた。ナンバープレートの数字が違う……? 

 ちょうど、校舎の方から由貴が歩いて来た。だが由貴がクラウンに近づいたとき、後部座席から一人のスーツ姿の男が降り、由貴の腕を掴んで強引にクラウンに押し込もうとした。


「ちょっと、放してよ!」 由貴が抵抗しながら叫ぶ。


 功一は慌ててパジェロを路肩に寄せ、ドアを開けて飛び出した。由貴に掴みかかっているスーツ姿の男の手首を掴み、捻り上げる。三十代と見える男は激痛に呻いて由貴を離した。

 そのまま足を払い、男をうつ伏せにアスファルトに叩きつける。手首を捻ったまま、背中に乗せた膝に体重をかけて動きを封じる。

 クラウンが後部座席のドアを開けたまま急発進した。功一は開いた左手でアンクルホルスターのグロック26を抜き、そのまま片手で照準してトリガーを引いた。クラウンのリアフェンダーに着弾の火花が散るが、タイヤに直撃させることができなかった。クラウンはすぐに見えなくなった。

 功一は舌打ちしてグロックをホルスターに戻し、男の動きを封じたまま携帯を取り出した。(そら)んじている番号を押して耳に当てる。


「緊急連絡。IDは一五一〇七」

(こちら作戦指揮課。どうぞ) 本社の作戦指揮室にいる、オペレーターの女性社員が答えた。

「警護対象を誘拐しようとした男一名を翔条大正門で確保。もう一名は自動車で逃走しました」 功一はクラウンの特徴とナンバー、走り去った方向を携帯に吹き込んだ。

(了解。追跡します)


 功一は携帯をポケットに戻し、スーツ姿の男を武装解除した。腰に挟んでいたベレッタM92を奪い、そのまま男に突きつけつつ、尻もちをついている由貴を見遣った。「大丈夫ですか?」


「え、ええ」 由貴は多少引きつった笑みを見せた。「腰、抜けちゃった」


 見たところ、由貴は外傷もなさそうだ。安堵のため息をついた功一は、近づいてくるサイレンの音を聞きながら、ベレッタのグリップを握り直した。

 




 全体が黒く塗装されたヘリが、ガラス張りの高層ビルに映り込む。卵のような形をした機体の側面には、オリオン座を象ったマーキングがされていた。

 コクピットに座る二名のパイロットは、ブラックオリオンの作戦部航空課に所属する社員だ。十分ほど前にMH-6リトルバードで緊急離陸し、逃走した黒色のクラウンを探していた。機長は操縦を副操縦士に任せ、逃走車両の捜索に集中する。ナンバーとリアフェンダーの弾痕が目印だが、空から見つけ出すのは至難の技だ。

 林立する高層ビルの間を縫うようにして、四台目のクラウンに近づく。目を凝らし、機長はナンバープレートを読み取る。……またハズレ。おおよその逃走方向が分かっているとはいえ、黒色のクラウンなんざ腐るほど走っている。口中に舌打ちして「次だ」 と告げると、副操縦士はコレクティブレバーを引き上げて、リトルバードを上昇させた。


「これじゃあキリがないぞ。せめて、クラウンの型式くらい分からんのか?」 機長は作戦指揮課のオペレーターに問いかけた。

(型式? いえ、そのような情報はありません。現在、作戦二課が車両でそちらに……)


 お話にならない。機長は「あー、わかった」 とオペレーターの声を遮った。最近の小娘にクルマの話をしても通じない。


「直接、誘拐未遂の現場に遭遇したPOに繋いでくれ」

(え、直接ですか) 

「大至急だ」

(少々お待ち下さい) 多少ぶすっとしたオペレーターの声は消え、数秒の沈黙がコクピットに降りた。続いて聞こえたのは、まだ若そうな男の声だった。(代わりました)


(作戦七課の尾滝です)

「航空課の(みなみ)だ。逃走したクラウンの型式を教えて欲しい」

(先代200系のロイヤルサルーンです)

「了解だ。助かる」

(よろしくお願いします)


 これで、ある程度は絞り込める。機長は再び捜索の視線を飛ばし始めた。


 二、三分ほど経っただろうか。車の多い夕方の幹線道路に、黒いクラウンを見つけた。


「こちらバード03。逃走車と思われるクラウンを発見。左のリアフェンダーに弾痕が確認できる」 機長はクラウンの位置とナンバーを報告した。

(作戦指揮課よりバード03、車輌間違いなし。作戦二課の車両を誘導します。現着まで約五分)


 あとは、地上のPOがうまくやってくれるだろう。機長は「了解、監視を継続する」 とマイクに吹き込んで、通信を終えた。


「アイ・ハブ」 副操縦士に操縦の移行を宣言し、機長は自ら操縦桿とコレクティブレバーを握った。「ユー・ハブ」 と答えた副操縦士は操縦を機長に任せ、クラウンの位置報告にあたる。

 

 コレクティブを引き、エンジン回転数を上げて機体を上昇させる。クラウンのドライバーに監視を悟られないよう、距離を取った。

 午後四時五十六分の時刻を確かめた機長は、帰投と着陸、退社と通勤の時間を概算し、今日は夕食までに帰宅できそうだと思った。事案によっては、数日間帰宅できないこともある。そうでなくとも、航空課の操縦士というのは危険な仕事だ。だた機体を飛ばせばいいのではなく、敵の攻撃という危険を抱えながら飛ばさなければならない。

 クラウンに乗っているのは一人。作戦二課は六人。武装解除のあと軽く尋問して、警察に引き渡す。いつもの流れだ。

 すぐにカタがつくだろうが、お手並み拝見と行こう。 

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