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ブラックオリオン  作者: 波島祐一
第一章:警護編
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Operation02:チームメイト

改訂しました。

 四月九日、午前七時三十分。

 功一はいつも通りの時間に出社した。デスクに座り、今日片付けなければならないデスクワークの一覧に目を通す。

 ブラックオリオンは東京に本社があり、世界中に支社を有している。日本に存在する主な拠点は東京本社と大阪支社だ。

 功一が所属する作戦七課は実働部隊であり、東京本社の作戦部には一課から八課までの作戦課が置かれている。各課、課長以下五〜八名程度のPOで構成される。


「よぉ、尾滝」 同じ課の先輩社員であり、主任の織田敏彦(おだとしひこ)が、功一のデスク脇に立った。二十九歳で、功一の四歳上であり、比較的親しみのあるメンバーだった。

「おはようございます。今日は早いですね?」


 織田は普段、始業時間の八時三十分ギリギリに出社する。今日は早い。


「今日の昼までに提出せにゃならん資料があるからな」

「最近、提出資料が多くて参りますよね」

「まったくだ。外に出て警備や護衛ばっかりなのもキツいが、デスクワークばかりというのも考えものだな。今日の資料も間に合うかどうか……」


 織田はそこで言葉を止め、尾滝のデスクを見た。「未処理」に区分けされた書類は、それほど多くない。


「……余裕があれば手伝うんで、声かけて下さい」 仕方ない、という顔で功一は答えた。

「恩にきる! じゃあ早速……」

「自分でやりなさい」 やりとりを聞いていた碧が、ファイルの角で織田の頭を殴った。





 昼休み。功一は早めに社員食堂に向かった。社員数の割に座席数が少なく、毎日混雑するからだ。会社の外にも飲食店はあるのだが、社員食堂は安い割に味がそこそこ良い。

 醤油ラーメンの食券を買い、窓際の席につく。食堂は十階にあり、見晴らしは良い。青空とビル群が、視界を五分五分で占めていた。

 数分経つと、ラーメンが運ばれてきた。食堂は混み始める。食べ始めてから十分後には、八割の席が埋まった。

 まだ空いていた功一の向かい側に、誰かが座る。トレイには、大盛りのカツ丼が載っていた。功一はラーメンをすすりながら、ちらと正面の人物を見た。意外にも、正面にいたのはチームメイトの一人だった。 


「あら、偶然ね」 正面に座った夏樹碧は、カツ丼に箸をつけ始めた。今年で確か二十七歳、整った目鼻と白い肌は、間違いなく美人の部類に入るだろう。ハイペースでカツ丼を口にかきこむ様子は、その容姿に少々そぐわない気がした。

「ああ」 と適当に答えて、功一はメンマを口に放り込む。作戦七課の中では、彼女は功一にとって最も歳の近いメンバーだ。女性でPOというのは珍しいが、どういった経緯でブラックオリオンで働いているのか、聞いたことはなかった。普段は、自作の弁当をオフィスで食べている。「今日は弁当じゃないんだな」

「ええ。ちょっと、寝坊しちゃって」 碧は苦笑して視線を逸らした。

「……あのさ」

「なに?」

「ファイブセブン、使いやすい?」


 碧の愛銃――FNファブリック・ナショナル社のファイブセブンは、比較的新しい拳銃で珍しい。未来的な、奇抜とも言えるデザインと、ボディアーマーを貫通する五・七ミリ弾を使用することが特徴だ。


「……グリップがちょっと大きいけど、あたしはメインがP90だから。何かと便利なのよ」


 碧が使うFN P90短機関銃は、ファイブセブンと共通の弾薬を使用する。


「尾滝のはどうなのよ?」

「え?」

「ベレッタPx4。きみの評価は?」

「ああ……。使いやすいし、弾詰まり(ジャム)も少ない。いい銃だ」

「そう」


 そこで会話は終わった。いくつか雑談のネタを考えてみたが、黙々とカツ丼を頬張る碧を見て、話しかけることをやめた。

 もともと、功一はよく喋るタイプの性格ではない。


 数分後、ラーメンを食べ終えた。「意外と大食いなんだな、夏樹」


「う、うるさい!」 


 出来心でからかってみたが、怒鳴られてしまった。功一はトレイを持って席を立つ。「じゃ、お先に」 

 耳まで赤くなっている碧を一瞥(いちべつ)して席を離れる。カウンターにトレイを返却し、功一は食堂を後にした。





「昨日の誘拐事件だが、実行犯は二名とも死亡、身元は調査中だ。ダークスネークと関係があるかは不明」


 松崎は七課のメンバーを会議室に集めていた。

 ダークスネーク株式会社は、ブラックオリオンと競合するPMCで、規模は若干小さいものの人員・装備の質では同等か、ブラックオリオンを上回ると言われている。ブラックオリオンとは対立関係にあり、たびたび両社の間で戦闘が起こっていることは、世間にはあまり知られていない。


「うちの人事課長をたった二人で誘拐とは、ナメられたものだが」

「まったくですな」 関内康史(せきうちやすし)が苦笑する。彼は元海上自衛隊のSBU(特別警備隊)で、松崎と同じく妻帯者だ。中学生の娘がいる。

「首都高を通行止にしちまったもんで、処理班は大変だったみたいですよ」 と織田。

「うちに対する批判も噴出してるな。いつものことだが……」

「今回はヘリまで使いましたからね」 

「まあな」

「尾滝、ちょっと残ってくれ。あとは解散」


 他のメンバーが会議室から退出してから、松崎は手元の書類に視線を落とした。


「何でしょうか?」 功一は松崎の正面に立った。

「おまえに、新しい単独任務があってな……。大学には、行ってたんだよな」

「二年間だけですが……。そのあと、この会社に就職しました」

「なら、ちょうどいいな」


 松崎はニヤリと笑った。何かを企んでいる笑みに見えた。功一は心胆寒からしめられた思いで聞き返す。「ちょうどいい、とは?」


風間修二郎(かざましゅうじろう)、知ってるよな」

「ええ。うちが保安契約してる、全日本電力の社長」

「そうだ。その孫娘の、身辺警護の依頼が来てるんだ。諸事情で、暴力団関係者に命を狙われてるんだと」

「孫、ですか」

「ああ。翔条大学三年」


 都内の私立大学だった。功一はため息をついた。これまで身辺警護というのは、面倒な仕事が多かったからだ。


「これが、詳細だ。よく目を通しておくように」


 松崎は、書類の束を功一に渡した。そこに記された任務開始日を見た功一は、思わず目を疑った。


「明日からって、急すぎじゃ……!」


 顔を上げると、すでに松崎の姿はなかった。

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