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ブラックオリオン  作者: 波島祐一
第一章:警護編
19/45

Operation19:騒がしい夜

改訂しました。

 功一に続いて、由貴と良介が玄関に入って来た。「お邪魔しまーす」

 何も考えずにリビングに入った功一は、ヤバいと思い、慌てて廊下に戻ってドアを締めた。廊下できょとんとしている由貴と良介に「ちょっと片付けるから待ってて」 とだけ告げて、足早にリビングに戻った。

 テーブルの上に散らばっている十数発の九ミリ拳銃弾を、手早くケースに戻す。良介に見つかっては堪らない。Px4とグロック26もキーロックつきのアルミケースに隠した。

 よし。

 ドアを開ける。「お待たせ」



 一時間後。


「次、尾滝さん」 由貴に言われて、功一は彼女が持つトランプを一枚引いた。次に、功一の持つトランプを良介が引く。

「上がり!」 良介が叫び、ソファーに飛び乗る。「功一兄ちゃん弱っ!」

「うるさい!」 

 それにしても、と功一は思う。この歳でババ抜きとは。せめて大富豪とかポーカーが良かったのだが、良介はルールを知らなかった。かといって、一からルールを教える根気は、今の功一にはない。

 功一は由貴がトランプを引くのを待った。由貴は少し迷ってから引く。功一の手に、最後のジョーカーが残った。


「やった! あたしの勝ち」


 すでに、一時間ぶっ続けでババ抜きをしている。もう飽きた。時計を見る。午後五時三十三分。


「由貴姉ちゃん、ババ抜き飽きたよ」 良介が言う。

「そうだね……。尾滝さん、他に遊ぶ物ある?」

「ないよ」 もともと、ゲームの類はあまり好みじゃない。趣味らしい趣味と言えば、料理くらいしかない。

 功一はテーブルに頬杖をつく。

「功一兄ちゃん」 良介がソファーに腰掛けたまま言う。「プレステは?」

「ないよ」

「Xboxは?」

「ない」

「Wii?」

「ない」

「Shall we?」

「あ?」 意味分かって言ってんのか?

「……なんにもないんだね」 良介はぼそりと呟く。


 余計なお世話だ。功一は口に出さずに毒づいた。


「由貴姉ちゃん」

「ん?」

「ファンタ飲みたい」 


 良介に問われて、由貴は困ったような顔で功一を見た。代わりに功一が答える。  「水かお茶しかない」


「ファンタ、飲みたい」 

「分かったよ」 功一は立ち上がった。「ちょっと買って来る。ご希望は?」

「ファンタオレンジ!」

「OK。宇城は?」

「あたしはいいよ」 そう言って、由貴は続ける。「尾滝さん、あたしが行こうか?」

「いや、いいよ。コンビニの場所、分からないだろ?」

「うん」



 しばらく経って、レジ袋を引っ提げて功一が近くのコンビニから帰ると、マンションの来客用駐車場に見覚えのある車を見つけた。

 フェラーリ550マラネロ。国産の乗用車やワゴンばかりの駐車場で、その紅のボディーと跳ね馬のエンブレムがひときわ異彩を放っていた。


「まさか……!」


 功一はエントランスに急いだ。ちょうど一階に降りてきたエレベーターに予想通りの顔を見つけ、功一は愕然とした。


「よう」 エレベーターから出てきた織田は、片手を挙げてみせた。「久しぶりに来てみたが、いや、驚いたよ。まさか妻帯者になってるとは」


 織田は、カーマニアとして社内では有名で、愛車はマラネロだ。


「違います! あれには事情が……」


 織田は両手を広げた。「隠さなくていい」


「恋愛は自由だ。それが例え警護対象であったとしても……」

「だから違いますって!」

「おれに遠慮はいらん。じゃあな、尾滝パパよ」

「織田さん……!」


 完璧に誤解している織田はマラネロに乗ると、甲高いエンジン音を残して走り去った。

 功一は肩を垂れ、とぼとぼと自室に戻った。


「お帰りなさい。ついさっき、織田さんって人が来たんだけど、すぐ戻るって言ったのに帰っちゃった」 由貴が言った。良介はテレビを見ている。

「やっぱり……」

「これから夕食作るね」

「手伝おうか?」

「いいからいいから。良介くんと遊んてあげて」 由貴はエプロンをつけ、調理に取りかかった。



 三十分後。


「……うまい。これ、なんて料理?」 功一は、思わず由貴に訊いた。

「ブカティーニ・アッラマトリチャーナ」

「……何語?」

「イタリア語。ブカティーニのアマトリーチェ風。ブカティーニってのは孔あきパスタで、ベーコンと唐辛子入りのトマトソースで和えてあるの」

「母ちゃんより料理うまいよ、由貴姉ちゃん」 良介は口元がソースで赤くなっている。

「そう?」 由貴は照れ笑いを浮かべた。



 夕食後は、テレビをつけた。良介の希望で、《名探偵コナン》の劇場版を観た。功一は、子供のときに観たことがある内容だった。由貴は真剣な眼差しで、液晶画面に釘付けになっていた。

 その後、良介がシャワーに行き、続いて功一もシャワーを浴びた。

 バスルームから出てリビングに戻ると、すでに午後九時半を回っていた。良介は、功一のベッドで眠っている。


「どうぞ、尾滝さん」 由貴は缶ビールを差し出した。

「ありがとう」


 功一は冷えた缶ビールを受け取り、机の椅子に座ってプルタブを起こした。そこで、あることに気づく。


「宇城、帰りはどうする?」

「運転手さんに迎えに来てもらうよ。でもここって、あたしの家から自転車でも十分くらいなんだ」


 由貴はソファに腰掛けた。彼女の家は、功一が住むマンションが建つ地区に隣接する高級住宅街にある。確かに近い。


「突然なんだけど……。宇城、どうして誘拐されそうになってる?」


 それは、この警護任務の原因であり、作戦従事者である功一にも”ヤクザ関係”としか知らされていない事柄で、功一はずっと気になっていた。


「言い方を変えると、だれが、ダークスネークに君の誘拐を依頼している?」

「それは……」 由貴は功一から目を逸らし、ビールの缶を両手で握った。「あたしにも、詳しいことは分からないんだけど」


 由貴は知っていることを語り出した。数ヶ月前、関東のある場所に、新しい原子力発電所を建設することが決定した。しかし、建設予定地の近隣住民は猛反発し、交渉は難航。痺れをきらした住民の一部が、あるヤクザに依頼して全日本電力の社長である由貴の祖父を脅し、建設を止めさせようとした。だが失敗し、ヤクザの幹部は社長の家族を人質に取ろうと考えた。その計画に社長が気づき、大学生という、人質に取るには都合のいい状況にある孫の由貴を守るために、友人であるブラックオリオンの社長に警護を依頼した。

 結局、ダークスネークは依頼を依頼されて動いているということだった。

 その話が終わったころ、迎えの車が到着した。


「ありがとう。話が聞けてよかった」

「いえいえ」

 

 由貴が帰ると、午後十時十二分だった。功一は歯を磨き、電気を消してソファに寝そべる。

 さっきの話が本当なら、由貴が追われないようにするためには、原発の建設を中止させるか、ヤクザを潰すしかない。そこまでしなくても、ダークスネークに払う依頼料がなくなれば、ダークスネークという脅威は関係なくなる。

 疲れていたのか、功一はすぐに眠りについた。



 翌朝。


「本当に、ありがとうございました。大変だったでしょう?」 功一の部屋の玄関で、良介の母親が言った。

「いえ、大丈夫です」

「これ、お礼です」 そう言って、母親は某ドーナツ店の紙箱を功一に渡した。

「あ、どうも……」

「またね、功一兄ちゃん」 良介はそう言って、母親と玄関から出て行った。


 時計を見ると、午前七時三分だった。リビングで紙箱を開くと、数種類のドーナツが六個も入っていた。


「なぜ六個?」 そう独りごちてから、由貴の存在を思い出す。


 そうか、二人で六個ってことか。功一は納得した。そのとき、チャイムが鳴った。良介が忘れ物でもしたのかと思ってドアを開けると、由貴が立っていた。「おはよう、尾滝さん」


「な、何しに来た? こんな早い時間に」 功一は驚いた顔で問う。

「だって、昨日のお礼、あたしも食べる権利あるでしょ?」


 そういえば昨日、良介の母親は”美味しい物を買って来る”という主旨のことを言っていた。


「そのために、わざわざ?」

「昨日言ったけど、ここって自転車ですぐ来れるんだよ」 由貴はリビングに入った。「あ、ドーナツだー」


 そのあと、朝食としてドーナツを食べ、またいつも通り大学に向かった。

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