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ブラックオリオン  作者: 波島祐一
第一章:警護編
17/45

Operation17:新宿で

改訂しました。

 功一たちのハンヴィーが暴走するトラックを捉えた直後、ペイヴホークに狙撃命令が下された。

 バレットM82から放たれた十二・七ミリ弾をタイヤに受けたトラックが、コントロールを失って白線からはみ出す。隣のレーンを走行していた乗用車を突き飛ばしながら、トラックは蛇行して道路を突き進んだ。

 そのまま、赤信号で停車していた飲料輸送車の赤い車体を突き破ると、大量のコーラ缶が周辺に撒き散らされた。ガードレールに乗り上げて横転したトラックは、新宿の交差点の中心でその動きを止めた。

 複数のクラクションが交錯し、横転したトラックにさらに一般車が激突する。すでに大規模な玉突き事故になっていた。日曜の夜だけあって通行人が多く、交差点の周囲は瞬く間に野次馬で埋め尽くされた。


「やっちまった……!」 関内が呟き、交差点でハンヴィーを停めた。功一は他のメンバーたちと共にハンヴィーから降りた。近くにSATの車輌とパトカーも停止して、警官たちが現れた。

 功一はG36Kを構え、トラックに向かった。


「尾滝と関内は運転席、織田はおれと荷台を確認」 松崎がHK416のドットサイトを覗いたまま指示し、功一は運転席に近づく。


 運転席に近づいてドライバーの様子を確認しようとしていた数人の一般人は、アサルトライフルを構えて近づく功一たちを見るや、慌てて引き下がって野次馬に紛れた。

 功一はフロントガラス越しにドライバーを確認した。横転して垂直になった運転席で、ドライバーはエアバッグに片手を掛け、ぐったりと顔を俯けている。

 死んでいるように見えるが、もしかしたら息があるかもしれない。





「何あれ、交通事故?」

「でも装甲車が停まってるぞ」

「すっげー、マジの特殊部隊だ」

「映画みたーい! 写真撮っとこ」


 大勢の野次馬が、こぞってスマートフォンのカメラを横転したトラックに向けている。

 野次馬の一人になっていた音無は、横にいる由貴と一葉に声をかけた。


「そろそろ行くか?」 功一が来なかったため、三人だけで映画を観たあと、帰ろうとしたときに交差点の野次馬に気がついたのだった。

「そうだね」 由貴は同意したが、一葉は目を細めてトラックの方を見ていた。

「あれ……」 一葉はトラックのそばにいる特殊部隊の隊員を指差す。「尾滝くんに見えない?」





 荷台の方に行くと、トラックから降ろされた信者たちが地面に伏せさせられていた。合わせて十五人。松崎たちとSAT隊員がその背中にアサルトライフルやサブマシンガンを向けている。容疑者用のオレンジ色の服を着た闇夜喬二もいた。

 功一は辺りを見回してみる。交差点の周りは、身動きが取れなくなった一般車が渋滞を起こし、無数の野次馬の顔が見えた。

 その群衆の中に、見知った長身を見つけ、心臓がばくんと跳ねた。

 音無がいた。その横に由貴と一葉もいる。三人ともこちらを見つめ、一葉は功一を指差して何事か喋っている。

 どこで映画を観るのかは聞いていなかったが、まさか新宿とは。

 功一は三人から顔を反らし、二度とその方向に顔を向けなかった。

 やがてパトカーと救急車が到着し、負傷者の搬送が始まった。闇夜と信者たちは拘束され、一人残らずパトカーに乗せられていった。





 翌朝、テレビを付けると昨日のニュースを放送していた。功一は口に歯ブラシを突っ込んで液晶画面を眺める。


(昨日、成田空港から警視庁に向かっていた、闇夜喬二容疑者の護送車が襲撃されました。襲撃したのは宗教団体・奇神教の信者たちで、警察および、合同で護送にあたっていたブラックオリオン社の車両が銃撃、およびロケット弾による攻撃を受けました。

 犯行グループは大型トラックで闇夜容疑者と共に逃走しましたが、新宿でブラックオリオン社のヘリが銃撃を加え、闇夜容疑者と犯人十五名は逮捕されました。この事件で、警察官二名、ブラックオリオン社の社員五名、犯行グループの二十二人が死亡し、重軽傷者は民間人含め三十名以上に達しています)


 今回の任務で、庄村を含む作戦二課は五人全員が殉職した。全員即死、苦しまずに逝ったのがせめてもの救いか。

 大腿に銃弾の擦過傷を負った碧は、全治一ヶ月で、入院している。

 戦闘で同僚が死ぬのは珍しいことではない。海外勤務のときは、日常茶飯事だった。同時に敵も死ぬし、民間人も巻き添えになる。嫌というほど見てきた。

 だが……。

 母国、それも比較的平和な日本で、これだけの被害が出ることになるとは。

 言いようのない喪失感を覚えながら、功一はテレビを消した。





「おはよう、尾滝くん」


 いつものように講義室に入ると、一葉に真っ先に声を掛けられた。由貴と音無も一緒だ。


「どうだった、昨日の映画は?」 何か言おうと口を開いた一葉が声を発する前に、功一は訊いた。

「面白かったよ」 と、由貴は満足そうな笑顔だ。

「いや、あれは……」 なぜか音無はため息をついた。「純粋な男子大学生の観る映画じゃない。尾滝、来なくて正解だったな」


 いったい何の映画を観たんだ?


「そうかなぁ……。誰が観ても楽しめると思うけど」 由貴は首を傾げる。

「あのさ、なんの映画を――」 功一は映画のタイトルを問おうとしたが、突然口を開いた一葉に遮られてしまった。

「尾滝くん、昨日、新宿にいなかった?」


 やはり見られていたか。功一は心の中で舌打ちする。由貴と音無は例外としても、これまで一葉に正体はバレていないようだったが。


「いや、行ってないよ」

「そう。あたしたち、新宿でトラックがクラッシュしたところに居合わせたんだけど、尾滝くんそっくりの人がいたんだよ。ねぇ、二人とも?」 


 奇妙に鋭くなった一葉の眼光が、由貴と音無を射た。由貴は多少ひきつった笑顔で頷き、音無は 「ああ、そうだったかな……」 と後頭部を掻き、目を逸らしながら言った。

 一葉は身を乗り出して、功一に詰め寄る。


「ホントは、新宿にいたんじゃないの?」

「いや、それはないよ。昨日はバイトだったし」

「バイトってなんの?」

「え、ええと……」 功一はしまったと思った。架空のバイトの設定を考えておこうと思って、結局忘れていた。「一般企業の、お手伝いのバイトだ」

「何それ? ようは何をするバイトなの?」

「割と何でもするよ。便利屋みたいなものだな」

「ふーん」


 確実に疑っている目を一葉に向けられていると、講義が始まった。助かったと思いながら、功一は冷や汗を拭った。

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