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ブラックオリオン  作者: 波島祐一
第一章:警護編
10/45

Operation10:崩壊阻止

改訂しました。

 午後十時三十分。スカイウイングホテル二十八階にある食堂 『スカイビュー』。


「いるんだろう、西町(にしまち)」 食堂に入った澤谷は、そこにいるはずの男の名を呼んだ。

「来たか」


 食堂は照明が落とされ、月明かりだけが差し込んでいる。カウンターの前に立っている西町のシルエットは分かるが、その背後に窓ガラスがあるため、逆光で表情は読めなかった。


「西町、おまえがすべてやったのか?」

「そうさ。綿密に計画を立てプラスチック爆弾を入手し、設置もおれがやった。おまえを苦しめ、そして殺すためにな」


 その時、澤谷の背後にある非常口のドアが開いた。


「誰だ」 西町が低い声で言った。 


 食堂に澤谷以外の人物を見つけた功一は、西町に向けてグロック26を構えた。


「あんたが犯人か」

「その通り。今宵の爆弾パーティーは楽しんでいただけたかな?」 


 西町は功一が一人なのを確かめると、余裕を取り戻した声で言った。しわがれた声だ。澤谷と同じ、六十代といったところか。


「ふざけるな……!」

「昔話をしようか。もう二十年も前の話だ。私の妻と娘が乗った飛行機が、日本アルプスに墜落した。スカイウイング航空の大型旅客機だった。墜落原因は、台風の接近による視界不良に伴う操縦ミス」


 功一は西町にグロックの銃口を向けたまま、わずかに目を細めた。


「それで、スカイウイング航空に復讐を……?」

「違う」 西町はあっさり否定した。「いや、それも全くないと言えば、嘘になる。だが、私は会社という組織に恨みを持っているのではない。事故の原因となった人間だよ。始めは操縦ミスを侵したパイロットを恨んだが、彼らは事故と同時に死んだからね。死人に復讐は出来ない。

 そして、私は事故機の飛行計画フライトプランを作成した飛行管理人ディスパッチャーに恨みを持った。当然だろう? ディスパッチャーが台風が来ると判断してフライトプランを変更していれば、事故は起こらなかったのだからな。そのディスパッチャーが、この澤谷という男だ。それを知ったときは随分驚いた。親友じゃないか。それも、高校時代からの」


 それが動機か。だか、功一は納得出来なかった。


「不可抗力だ、西町。当時の気象予測は現在ほど正確じゃなかったし、墜落時にはウインドシアという、下降気流ダウンバーストを伴う突風が吹いたんだ。あれは自然が引き起こした事故で……」 澤谷が説得するように言う。

「自然が引き起こした不幸な事故か!? 澤谷、貴様は自分のミスをそうやって誤魔化し続ける気か!」


 銃声が響き、西町の背後にあったガラスに蜘蛛の巣状のヒビが入った。空薬莢が一つ、床に転がった。

 功一はグロックを構え直した。「ふざけるな」


「そのふざけた復讐のために、無関係な人を何人巻き込んだと思ってるんだ!」


 功一の脳裏には、由貴の不安そうな顔が浮かんでいた。 


「黙れ若造。貴様に私の何が分かる。最愛の妻と娘を失った、私の何が分かるというんだ!」 西町はスラックスのポケットから携帯を取り出した。「この食堂と宴会ホールに、爆弾を仕掛けてある。私がこのボタンを押せば、私たちとこの建物は跡形もなく吹き飛ぶ」

「なんだと……!」 澤谷は呻いた。

「最大規模の爆発だ。この建物は完全に崩壊する。私の人生のラストを飾る、火と血の大花火だ!」 西町は大声を出して笑った。「若造、貴様も道連れだ!」


 功一は舌打ちした。グロックの照準を西町に合わせるが、手が震えて撃てない。即死させなければ、もしボタンを押す余力を残させたら、その時点でゲーム・オーバーだ。


「馬鹿な真似はよせ! 分かった、公式に謝罪もするし、いくらでも賠償金を払う!」 恐怖のせいか、床に尻餅をついた澤谷が叫んだ。

「冗談を言うな、澤谷。もう、何もかも破綻しちまったんだ。終わりなんだ! ……ではそろそろ、お別れの時間にしよう。十」


 トリガーに掛けた人差し指が震える。銃口のブレが止まらない。


「九……八……七……六……」


 汗が目に入り、グロックの照準器(サイト)に入れられたホワイト・ドットが(にじ)む。


「五……四……」


 早く撃たなければ。だが、照準が……!


「三……」


 西町の指が携帯のボタンに添えられる。功一はトリガーに触れる人差し指に力を入れた。


「二……」

「尾滝っ!」


 知った声が背後で弾けた。

 銃声。

 正確に額を撃ち抜かれ、のけぞる西町。

 西町が倒れる。

 携帯が落ちる音。

 空薬莢の金属音。

 残響。


「夏樹……」


 功一の背後で、碧はファイブセブン自動拳銃を両手保持で構えていた。五・七ミリ弾を射出した細いバレルから、白煙が立ち昇っている。


「大丈夫、尾滝!?」

「夏樹、宇城はどうしたんだ」

「関内さんに任せたわよ。いきなりチームメイトが行方を眩まして、ほっとける訳ないでしょ!」


 真剣な顔で言われて、功一は返す言葉が見つからなかった。


「でも……本当に良かった。無事で」

「……おかげで助かったよ」





 午後十一時二十五分。功一、碧、澤谷の三人は、無事に建物から脱出した。


「尾滝さん! 碧さん!」 由貴は碧に抱きついた。その様子を少し離れて見ていると、いきなり首の後ろに誰かの手が回された。


「この野郎、心配かけやがって!」 織田は笑いながらそう言って、功一の頭をばんばん叩く。

「織田さん、痛い! 痛いですって」

「まったく……」

 

 その後、警察で事情聴取を受け、会社で報告書を提出して、マンションに帰り着く頃には、空が明るくなっていた。

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