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序
——あれから如何程の時が経ったのか。否、実は思ったほど時間が経った訳ではないのかもしれない。
私の、いや私たちの感じる時間と、「彼ら」の感じる時間は違うのだという。又聞の知識、風の噂、一切確証もなければ根拠もない、ただの御伽噺。私はそれを体感したことはない。私は永い間日を浴びていない。最後にこの狭い世界から足を踏み出したのは、経過した年月も分からないほど昔のことだ。天から降り注ぐ陽光、足裏を擽る砂礫、鼻腔に染渡る大気。そして掌が確かに包み込む刀剣の柄、額を、顎を、頸を、胸を、腹を、脚を伝う、誰の物とも知れぬ血液。私を私たらしめていた鉄の香り——あれを失ってから私は永い眠りに就いていた。
しかし目覚めた。私を呼ぶ声がした。知らない声だ、だが何処か懐かしさすら覚える。その理由を掴み切れぬまま呼びかけに応じる。応じなければならない気さえする。この呼び声の主である「彼ら」——「人間」に、手を差し伸べるのが私の使命であると、遠い昔の私自身が私に語り掛けてくる。